Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

グエムル 漢江の怪物

2020-04-22 | 外国映画(か行)
再見。本作の白眉はダメ家族一人ひとりが極限状態で腹をくくった時のカット。ポンジュノはそこに命賭けてると断言したいくらい。ペドゥナの弓を引くカットも痺れるけど私はピョン・ヒボン演じるダメ親父が最期を悟りお前らは逃げろとするあのカットが最高に好き。

いわゆる負け組と言われる人たちが最後に見せる尊い精神性。その瞬間をこれでもかとカッコよく見せる。そこにポンジュノの映画作家としての気概が現れていると思う。それにしてもコンテイジョン同様コロナ禍に見ると感慨深い。前者は感染拡大の恐怖に迫る1本ならこちらは徹底的な政治風刺として傑作。

本作は在韓米軍を下敷きにしているが(しかもウィルスは●●だったというオチ)、今の日本政府の施策を見れば、本作に匹敵するブラックコメディを日本でも作れるはずだ。アフターコロナ時代に日本人監督にこういう骨身にしみるエンタメを作って欲しいと切に願う。

コンテイジョン

2020-04-18 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2011年/アメリカ 監督/スティーブン・ソダーバーグ

本当に怖かった。予見していたと言われるのも納得。発生からパンデミックに至るまで悉く現状と一致。ウィルスの発生源が「コウモリ〜」と出た時には鳥肌立った。DAY2に始まりDAY1で終わる構成も見事。コロナ禍の今見るとリアルホラーなので、腹くくって見た方がいい。

なにせ潜伏期間や感性経路の話がわかりすぎて悲しい。公開時に見たら今ほど理解できなかっただろう。前半部があまりに今をなぞらえているので、ワクチン開発以降の世界の混沌とした状況も「きっとこうなるんだろう」と思えてしまう。情報を持っている人間がむき出しにするエゴに寒気がした。

豪華俳優陣、誰一人突出せず見事なアンサンブル。一人ひとりの出演時間は決して長くないが、パンデミック下のそれぞれの立場の代表として、どの人物にも気持ちを重ねられる。一人のクズを除いて、みんな助かって…と思うがそうは問屋がおろさない。。まあそのクズの発言にも一理あるのがまた恐ろしい。



サーミの血

2020-04-15 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2016年/スウェーデン・デンマーク・ノルウェー 監督/アマンダ・ケンネル

少数民族の言われなき差別の話だが鑑賞後落ち込むよりむしろ勇気をもらえる秀作。その理由は主人公エレを演じるレーネ=セシリア・スパルロクの強い意志を伝える「目」だ。反抗でもなく、諦めでもなく自身の存在を肯定的に捉え、前を向いて生きる。無言の目の力に魅了された。

家族との生活から逃れてきた彼女を都会の若い男の子が助けるが、彼が彼女の人生に深入りしないのがいい。説教臭さや差別する側とされる側の対立軸に作品自体があまり踏み込まないことで、エレの生き方が際立っているように思う。

ババドック 暗闇の魔物

2020-04-13 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 2014年/オーストラリア 監督/ジェニファー・ケント

我が子を愛したいのに愛せない、シングルマザーの孤独と哀しみに魔物が喰らいつく。子供の問題行動に手を焼く母親の焦燥感に観賞者の心ものっとられる。これは劇薬。トラウマ必至の怪作。子育て奮闘中に方には正直オススメしない。それほど強烈な1本。

主演女優の演技がすばらしい。介護の仕事をしながら一人で子育てする彼女は映画が始まったときから、すでに疲れてやさぐれているのだけど、だんだん狂っていくその様は数あるホラー映画の中でも出色。「子供さえいなければ…」ほんの1ミリでも思ったことのある人は作品の存在そのものが恐怖だ。

AKIRA

2020-04-11 | 日本映画(あ行)
★★★★★ 1988年/日本 監督/大友克洋

感動の映画鑑賞の必須条件はタイミングと同時代性。 オリンピック延期、コロナウィルス蔓延の2020年のこの時に見たことは一生の思い出になるだろう。 とめどない破壊描写に脳天ぐわんぐわんされ、 爆音&超クリアの音楽に酔いしれた。

昨今IMAXの楽しみは映像よりも音響。なので新規で録音されたという今作、本当にすばらしい音響体験だった。冒頭の太鼓のドーン!って音からしてシャキーン!社会状況はさまざまに符合するところがあり感慨深いが今の飼いならされた日本人にこれだけの熱量はないよな…と別の意味で思いを巡らせた。

鉄雄がモンスター化するくだりで今敏監督の「パプリカ」を思い出したが、今敏さんはアシスタントで入っていたのですね。映像へのこだわりが凄まじく、なるほど多くの熱狂者やフォロワーを生んだ作品と納得させられた。破壊が続く映画は退屈になってしまうタチですが、これはもう終始前のめり。圧倒な作品だった。


ウォッチメン

2020-04-09 | 外国映画(あ行)
★★★★☆ 2009年/アメリカ 監督/ザック・スナイダー

アメコミというのを忘れるほどに政治風刺劇として一級品。ニクソンが再選しベトナム戦争にアメリカが勝利した世界で起きる米ソの攻防。パラレルワールドを忘れるほどにスリリング。ニクソンの会議シーンはキューブリックの「博士の異常な愛情」へのオマージュだろう。

冒頭のウォッチメンたちが紛れ込んだアメリカ史を追うシークエンスですぐにテンション上がった。アクションシーンも切れ味最高だし、映像がいちいちかっこいい。
ヒーローメンバーはみんな地味なのだが、だからこそ核戦争一歩手前の世界の危機的状況がリアルにあぶりだされているように感じる。
ただ、オチには不満。アメコミ苦手なのは無駄死にが多いので。でもこのセンスなら今話題のドラマシリーズも見てみたいと思わされた。







ボーダーライン ソルジャーズ・デイ

2020-04-03 | 外国映画(は行)
★★★★★ 2018年/アメリカ 監督/ステファノ・ソッリマ

背筋凍る殺戮場面と嫌な予兆がひたすら繰り返される。 凄まじい緊張感を強いているのに痺れるような面白さが最後の最後まで持続。 支配する者とされる者が逆転していく脚本も秀逸。ヨハンソンを受け継いだ重低音劇伴も最高。前作より断然好き。傑作。

いやあもう痺れた痺れた。夜明け前、荒野に立つベニチオの姿。なんなのあれ。人間の形ですけど、あれ野生の狼ですよね?ラストの仰天展開もベニチオだからこそ成り立っていると思う。ジョシュブローリンもあんなに悪どくて最低なのにかっこいい。砂漠のヘリ音でこれだけ興奮したのは地獄の黙示録以来。

前作はエミリー演じるFBI同様、置いてけぼり感が否めなかった。でも本作は冒頭の自爆テロ、誘拐、追走劇がとてつもないテンポで進み、中盤自爆犯の身元判明から物語は別の方向へ、ラストは全てが繋がった爽快感。いやあもうテイラーシェリダンの脚本も完璧。お手上げ。なんで映画館で観なかったんだ!

2人のローマ教皇

2020-04-02 | 外国映画(は行)
★★★★ 2019年/イギリス・イタリア・アルゼンチン・アメリカ 監督/フェルナンド・メイレレス

観賞前は価値観の異なる教皇が対話を通じて和解することが肝かと思ったが、それ以上にアルゼンチンの軍事政権下を生き抜いてきた信仰者としてのベルゴリオの生き様に打たれた。原寸大のシスティーナ礼拝堂はじめ絢爛豪華なセットもさすがネトフリ資金力。見応えありました。

ベルゴリオを演じたジョナサン・プライスすごい良かったなあ。「天才作家の妻」ではクズを演じてたけど、こちらは人徳のある神父役。青年時の苦境を経て現在の境地にたどり着いた聖職者。親しみと高潔が共存する佇まいの表現がすばらしい。アカデミーノミニーも納得の演技でした。