Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

おらおらでひとりいぐも

2022-02-02 | 日本映画(あ行)
★★★★  2020年/日本 監督/沖田修一

夫に先立たれた老女の変わらない孤独な毎日を描く秀作。淡々とした筆致に挟まれるおかしみたっぷりの演出がいかにも沖田修一らしく、日常の愛おしさをひしひしと感じさせる。大きな家を捉えるロングショット、里山の美しさ。撮影がいいと思ったら流石の近藤龍人であった。

我が母も無くなった父のことを「クソ●●」などと呼び、替え歌まで作ってしまう。あまりの一致ぶりに苦笑い。思い出を反芻し、妄想し、付け足し、そうして残りの人生を生きていく。老いるとはそういうことか。ラストシーンに込められた希望に安堵した。

いとみち

2022-01-25 | 日本映画(あ行)
★★★☆  2021年/日本 監督/横浜聡子

津軽三味線のグルーブ感が好きだ。主演の駒井蓮。ずいぶん練習したんだろうねえ。様になってるしちゃんと聴かせる。豊川悦司もステキだが、祖母役の三味線奏者の西川洋子がいい。この人の存在なくして成り立たない作品。津軽弁全くわからないがそれもいい。青春映画の佳作。

星の子

2022-01-10 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2020年/日本 監督/大森立嗣

未熟児だった自分のために両親は新興宗教に入った。それでも私は両親の側から離れない。思春期の女の子の繊細な感情を丁寧に掬い取る秀作。エキセントリックになりがちな題材を淡々とした筆致で描く演出がいい。主演の芦田愛菜が親思いの中学生を好演。頭にタオルは笑っちゃったよ。

新興宗教の家族たちの日常。その滑稽さも含めて淡々と見せるところが作品の独特の味わいになっている。彼らの行動が滑稽であればあるほど、切なさ倍増。また、立ってるだけで十分に胡散臭い教団側の黒木華と高良健吾やイケメン教師の岡田将生といいキャスティングが抜群。

浅草キッド

2022-01-09 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2021年/日本 監督/劇団ひとり

芸に人生を賭けた師弟の物語が実に抑制的に描かれていて驚いた。カットバックを用いた時制の行き来やラストの長回しなど、映画的演出も上品でスムーズ。時代を掴む者と取り残される者という普遍的物語とあのビートたけしの売れない時代という個の物語としての魅力が見事に両立する秀作。

とにかく柳楽優弥がすばらしい。モノマネ感が前傾に来ると、とてもじゃないけど見れなかったと思う。シャイだけど内には秘めるものがあって、毒もあるひとりの芸人としての実在感。クランクイン前に真似るのは一旦やめようと提言した劇団ひとりの判断は正しい。

音楽

2022-01-09 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2019年/日本 監督/岩井澤健治

声優坂本慎太郎に惹かれ、原作漫画はまるで知らずに鑑賞。ただただベースとドラムが鳴ってるだけでグルーブが生まれる。そのプリミティブな高揚感が独特のタッチと合間って、不思議な魅力を放つ。アニメ化には多大な時間と努力があったようだが、それを前面に出さない抜け具合もクールでいい。

悪い種子

2021-09-30 | 日本映画(あ行)
★★★★☆  1956年/アメリカ 監督/マービン・ルロイ

伝説のトラウマ映画ようやく鑑賞。NHKBSありがとう。 庭師を焼き殺した後、嬉々としてピアノを弾くローダ。その甲高い音色が部屋から聞こえて戦慄。周囲の大人にはウケのいい立ち居振る舞いはサイコパスそのもの。恐怖を緩和させるためのカーテンコールも今見ると不気味極まりない。

何の躊躇もなく人殺しする少女の描写は確かに恐ろしいが、私は母の恐怖に共鳴してしまう。子を産んだ女性なら大なり小なり思うのではないか。「この子がこんなに○○なのは自分のせい」と。もちろん、優性思想は否定されるべきものだが、母子の血の繋がりという点では普遍的な恐怖物語だと思う。

あの頃。

2021-09-04 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2021年/日本 監督/今泉力哉

これは青春ノスタルジック物語というより、“あの頃”は大目に見られていた男たちの集団行動の否定(終焉)を描いた作品ではないのか。男性監督と男性脚本家が真摯に考え表現した内省的な作品と感じられて仕方ない。それらを一番体現していた彼が悲しい末路をたどるという点においても。

もちろん、ノスタルジーにばかり浸るなというクレしんオトナ帝国のテーマも垣間見える。しかしラストに劔が引用する、あるモー娘。メンバーの言葉が象徴的なのだ。2021年の今見ると目を覆いたくなる一連の内輪ノリ・悪ノリ行動。本作をMe tooの流れの中にある1本と見る見方は間違っているのだろうか。

また、恋愛研究会の地下イベントの悪ノリ・悪ふざけは昨今問題になっていた松江監督の一連の騒動を思い出してしまった。好きなもの同士なら何やっても許される感じ、それを観衆と共有し、共犯関係を作ってしまうノリ。

それにしても今泉監督は街の切り取り方がうまい。ロケ地は関東のようだが大阪の下町と言われてもわからない。橋のシーンも南港あたりかと思った。そしてどの俳優も人間らしさが光る。松坂桃李の映画と思っていたら仲野太賀の映画だった。そこも含めて何もかも思っていたのと違う映画だった。いい意味で。

悪の教典

2021-08-24 | 日本映画(あ行)
★★★ 2012年/日本 監督/三池崇史

美青年期の林遣都目当てに鑑賞。やっぱ大人が子供を皆殺しにするのは見ていて気持ちのいいものではないね。一人ずつターゲットを絞り殺しにかかる前半部はサイコパスものとしての面白みがあったが後半の大量殺人は全くノレず。今見ると、松岡茉優など生徒たちがすごい豪華キャストで驚き。
あと、このミス1位って言うけど、この話のどこがミステリーなの?原作からだいぶ変わってるのかなあ。

朝が来る

2021-08-22 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 2020年/日本 監督/河瀬直美

我が子を手放さなければなかった少女の悲劇的な運命と養子に迎えた我が子を慈しむ夫婦の生き様。ドキュメンタリーとフィクションの境目がない演出が効果的で直球の感動をもたらしてくれる。この演出によって全ての出演者が私たちのすぐそばにいるようなリアリティを持って迫ってきた。

なぜ父親である少年の人生には何事も起きず、少女だけが全ての苦を背負うのかと怒りにも似た悲しみを感じずにはいられない。それだけ、蒔田彩珠がすばらしかったのだが。彼女を筆頭に全ての役者の佇まいがいいが、中でも浅田美代子が出色。養子縁組のセミナーシーンは本職の人ではないかと疑うほど。

おとぎ話みたい

2021-07-13 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2014年/日本 監督/山戸結希

ピナバウシュを知っててメルロ=ポンティをお勧めしてくれる先生に恋する女子高生。中高年の私からしたらもう、むず痒いのなんの。お尻がこそばくなってくる。物語も映像もいろんなものがギリギリの境界線だが、その危うさが魅力。いや、魔力。主演の趣里がすばらしい。

監督と作品を切り離して見られるものもあるが、本作はそうはいかない。撮影は山戸監督が大学在学中とのことで当事者に限りなく近いからこそ、撮れる作品だろう。思春期の女子高生の溢れ出る自意識をここまで、てらいもなく切り取れる人はそういない。



Arc アーク

2021-06-26 | 日本映画(あ行)
★★★ 2021年/日本 監督/石川慶

遺体を美しいまま保存するプラスティネーション技術とそれをアートのように仕上げるボディワークスの独創的な表現には惹きつけられた。しかし、この独創性が仇となったか、前半と後半で断絶されたような感。説明を排除した静かな佇まいは理解できるが、もう少し感情的に揺さぶられたかった

近未来のアーティスティックな表現は監督の感性が存分に活かされ非常に面白い一方、残念なのは記者会見のシーン。どうして邦画は会見シーンがこうもチープになってしまうのだろうか。世界観を維持するディテールの大切さを感じる。様々な役割を演じ分ける芳根京子の魅力は堪能。

ただ、人間の苦悩を台詞ではなく演技で納得させるという点においては、蜜蜂と遠雷における松岡茉優のすごさを改めて思い知らされた。

AWAKE

2021-06-06 | 日本映画(あ行)
★★★☆ 2019年/日本 監督/山田篤宏

天才の苦悩とか人間とAIの対決!のようなカタルシスを作れるのに敢えて外すのが粋ではないか。主演以外のキャスティングもいい意味で地味。ゆえにライバル2人が自然にクローズアップされる。暗い性格の猫背な棋士。そのやりすぎない吉沢亮の役作りがすばらしい。受けて立つ若葉竜也も。

人間とAIが勝負することの意義は何か?まで足を突っ込むと、おそらく物語はぶれてしまう。いろんな引き算がうまくいっている作品ではないだろうか。対決物のアゲアゲ気分を味わいたい人には物足りないかもしれないが、夢破れた青年がごくごく普通の日常を生きるという着地も実に好ましい。

映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ

2021-04-29 | 日本映画(あ行)
★★★☆ 2017年/日本 監督/石井裕也

劣悪な環境での人間の生きづらさ、そのリアルな表現には惹きつけられる。ズボンのチャックをいつも開けているようなダメ人間を田中哲司始め、全ての役者陣が好演。が、しかし自分はハマれなかった。わざわざめんどくさい生き方を選んでいるよう。

めんどくさいダメ人間の話は好物だけど、そこに手を差し伸べたくなったり、一緒に泣いたりしたいような人物たちへの入り込みがあまり持てない。これは私がいつも石井裕也作品に感じていること。うまく言語化できないけどきれいにまとまり過ぎているような感じ。作品のムードがこざっぱりしている。

あのこは貴族

2021-04-09 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 2021年/日本 監督/岨手由貴子

都合のいい恋人と都合のいい婚約者。ひと昔前ならこの2人は取っ組み合いの喧嘩をし罵りあいそれを我々も面白がって見ていた。なんてアタシ達はバカだったんだろう。誰かの期待に応える生き方にNOと言おう。日本映画がこれまで見せてきた女性像に静かに、しなやかに楔が打ち込まれた。

他を知る事で人は閉じ込められていた世界から出ることができる。タクシーと自転車。橋の向こうとこちら側。様々な対比を巧みに用いた演出が見事。モデルオーラを完全に消した水原希子はもちろんだが、身のこなし一つから世間を知らない無垢なお嬢様を表現しきった門脇麦がすばらしかった。

恋人の浮気相手ではなく1人の人間として華子は美紀と繋がれた。それが彼女の扉を開いた。小さな一歩を踏み出す作風は邦画の十八番。それが新たなシスターフッド物というのが実に2020年代的ではないか。また閉じた側も本作は断罪しない。決められた道を歩く幸一郎の諦念が染みる。彼には彼の孤独がある。

さらば愛しきアウトロー

2021-02-18 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2018年/アメリカ 監督/デビッド・ロウリー

何とも心地いい、肩の力の抜け具合。フォレストタッカーの振る舞いと同様に映画も紳士的でやさしい語り口。まさにレッドフォードのフィナーレにふさわしいエレガンスを纏った作品。力みゼロ、80%程度の出力の演技でレッドフォードに合わせるケイシーアフレックもナイス。