Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

L'amant ラマン

2011-09-23 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★☆ 2004年/日本 監督/廣木隆一

「何を撮ってもそこに広がる廣木ワールド」


17歳の誕生日を迎えた少女は、年老いていくことに不安を抱いた。そして、古い洋館を訪れると、そこにいたずっと年の離れた3人の男性と1年間の愛人契約を結んだ。生活感のない部屋で少女は、本名も、何をしているかも知らない男たちに身体を委ねてゆく。いつも優しいA、物静かでミステリアスなB、少し乱暴なC。身体だけの繋がりのはずが、彼らとの奇妙な関係は、少しずつ少女の心を満たしていった…。 


ちょっぴり自意識過剰な女子高生。
10代の女子特有のアンニュイなムード、そしてセックスにまつわるあれこれ。
ワタシはみんなとは違う。誰かワタシを特別に扱って…。

鑑賞後、なーんかどこかで見たことのある余韻だなと感じていたら、
これ漫画が原作なんですよ。
やまだないと。
ああ、やまだないと。さもありなん。いっとき、よく読んでました。
我が家の本棚には「フレンチドレッシング」と「しましまのぶちぶち」ってのが並んでます。
この時代のカリスマ岡崎京子にぞっこんでしたので、その系譜で読んでた。

この手の漫画独特の世界観を崩さないようにしながら、
やっぱりここで繰り広げられているのは紛れもない廣木ワールド。
それが、ワタシには心地いい。
ゆるやかに流れる時間。
少し引いて、人物たちを追いかけるカメラ。
温かく包み込むような視線。

人物たちの懐にぐいぐい食い込むようなことはせずに
少し離れたところで見守っている。

変態を撮る時も、凡人を撮る時も、奇抜な話でも、ありきたりな話でも、
廣木監督はいつも同じ視点で登場人物を追いかけている。
このぶれのなさがいい。

果たして少女は中年男たちとの交わりで何かを悟ったのだろうか。
大人になった少女と子どものようにはしゃぐ男たちを対比させる
ラストシーンはやや狙いすぎに感じるけれども、
アンニュイ漫画をここまで自分の世界に引き込める廣木監督はさすがだと思う。

エクソシスト

2011-09-22 | 外国映画(あ行)
★★★★ 1973年/アメリカ 監督/ウィリアム・フリードキン

「悪魔はなぜリーガンに取り憑いたのか」

あまりにも有名な古典オカルトを再見。

12歳のいたいけな少女が悪魔に取り憑かれる。
そのことに、どうして悪魔は彼女を選んだのかという疑問を持って見てしまう。
リーガンの母親はシングルマザーである。父親のいない家庭を築いた母親への罰なんだろうか?
それとも、この一家が住んでいる場所に関係があるんだろうか。
ところが、映画も半ばを過ぎ、いやいや
こうした発想そのものが、もしかして日本人的なのかも知れない、と思い始める。
私たち日本人おなじみの幽霊ってやつは、理由があるから取り憑く。
捨てられた男に、名誉を傷つけられた相手に、思い出の染みついた家に、幽霊はやってくる。
でも、こっちは悪魔だ。悪魔は突然、理由もなく、誰かの体を乗っ取る。
だから、怖いのだ。

それにしても、この悪魔はなんとお下品なことでしょう。
12歳の少女に卑猥な言葉を言わせ、卑猥な言動をさせ、
あげくの果てに首を回したり、吐瀉物を吐かせたり。
今見てもかなりショッキング。

リーガンと対峙するカラス神父ってのは、神学者でありながら、
精神学者でもありますよね。ここんところが、すごく引っかかる。
精神病とは呼べない、それは確かな悪魔の存在と認めさせるための設定なのかも知れないんだけど、
精神病を研究しているからこその葛藤をもう少しちゃんと描いて欲しかったな。
ただ、とんでもない不気味さに圧倒される作品なのは間違いないです。


劇場版 ルパン三世 ルパンVS複製人間

2011-09-21 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 1978年/日本 監督/吉川惣司


「ワルな西村晃の声」


ラストに出現するアレがあまりにインパクト大で、子どもの時に見たのにずっと覚えていた作品。
偶然テレビで久しぶりに見たんだけど、あまりに面白くて大コーフン。
「カリオストロの城」ももちろん見ているけど、私はこっちの方が断然好きだな。

1978年作、ルパンシリーズの劇場第1弾ってことだけど、とても大人向けよね。
ラスト、マモーは宇宙に飛び出し、「新たな精神」となって宇宙の神たらんとする。
ひょー。これは「2001年宇宙の旅」じゃあないですか。
クローン人間が複製を繰り返しているうちに、そのDNAが100%継承されなくなったり、
完全クローンできなかった欠陥人間が生まれたり。
マモーが崩壊するそのプロセスもがっつりSFモード入ってて
ハリウッドでこのまま実写化できるんじゃないのかとすら思える。
で、何だかやたらと深遠なラストの後でルパンと銭形のとっつぁんが肩組んで逃げ回るお決まりの展開。
このギャップがいい。

何より本作に惹きつけられたのはマモーの声を担当する西村晃の「声の演技力」。
彼だったからこそ、本作は傑作になっていると思う。
私は西村晃と言えば「赤い殺意」や「絞殺」など、妻をないがしろにしていたぶるような最低男が頭に浮かぶ。
「華麗なる一族」などの企業物にもよく出演していた。大抵上司を裏切るような卑怯な役どころばかりで。
晩年でこそ水戸黄門だけど、当時は悪役をやらせれば右に出る者なしだったなあ。
そういう彼のダークな面がマモーにそのまま乗り移っていて、すばらしかった。
いくら複製してもいずれは朽ち果ててゆく肉体とは決別し、精神として存在し続けること。
その孤独と哀しみが彼の声色に込められている。
子ども心にマモーは可哀想な存在だと思ったんだけど、それは西村晃の声のせいだった。
もう一回ちゃんと見よう。

ゼロの焦点

2011-09-20 | 日本映画(さ行)
★★★ 2009年/日本 監督/犬童一心


「女優競演の裏に隠されたもの」


同じ白いパンタロンでも、こうも違うものでしょうか。
「サンダカン八番娼館」においてサキさんを侮蔑するように見えたあの白いパンタロン。

本作では中谷美紀がスクリーンに初めて登場するその時です。
幅広のひらひらした白いパンタロンを履いた佐知子が広末涼子演じる妻・禎子の前に颯爽と現れる。
その白さは目の前でおどおどする新妻を威嚇すると同時に、
己の過去の闇を消し去りたいという決意を身にまとっているように見える。
宣伝ポスターでもどっかと中心に居座る広末涼子の斜め後ろから、私が主役よ!のオーラを飛ばす中谷美紀。
いいですねえ。女優はこれくらい気概がないと。ドラマ「仁」の花魁役、野風の演技でも彼女を見直しました。

そして、犯人がまとう真っ赤なビロードのコートと美しい対比。
時代がかった演出で確かに2時間サスペンス的ですが、こういうのがないと松本清張作品は盛り上がりません。

と、少しばかり褒めてはみたものの、この中谷美紀の存在感あってこその作品。
松本清張と言えば、誰しも野村芳太郎監督を思い浮かべると思うのだけど、
社会的弱者である犯人が抱える苦悩とか、生への執着とか、そういう清張作品の根幹的な部分が弱い。
戦後体を売ることでしか生きていけなかった女性たちの悲しい人生が浮かび上がらないといけないんだけど、
ともかく三人の女優競演を際立たせないといけない事情があるんでしょう。
特に広末が絡むと、そういう作品事情が前面に感じられるのは私だけかしら。
こういうところも、彼女が女性映画ファンから嫌われる大きな理由の1つだと思います。

そして、女優共演にスポットを当ててしまったから、すっぽり抜け落ちてしまったものがもう一つ。
それは、3人の女を天秤にかけていた男の心理。
西島秀俊演じる憲一は、禎子と結婚することですべてを精算して新しい人生を始めたかったって言うんだけど。
あのさ。
じゃあ、なんですかい?
佐知子や久子と付き合っている自分は穢れているとでも?
憲一のやり直したいという思いは、戦後のそういう生き方しかできなかった女性に対する侮辱なんですよね。
だから、この男は途方もなくずるいし、狭量。そのずるさをえぐれば、もっと違った展開が生まれたはずで残念です。

カンフーパンダ2

2011-09-19 | 外国映画(か行)
★★★★★ 2011年/アメリカ 監督/ジェニファー・ユー・ネルソン

「文句の付け所ナシ」


続編ものって駄作になりがちなんだけど、これは違いました。
アクションのバリエーション、スピーディさ、おもしろさには磨きがかかっていてほんとすばらしい。
3Dの醍醐味も存分に活かされていて申し分なし。
タイトルロールやエンドロール、そして回想シーンに使われるレトロなアニメ、
切り絵風アニメといった手触りの感じられるアニメーションもいい。

最初は、孔雀が悪役?と思ったけれども、その違和感もすぐに吹っ飛ぶ。
父との確執、征服者の孤独、鋭いカンフー。孔雀という、お高くとまった雰囲気と見事に調和。

自らのルーツを探しながら、成長するという王道ストーリーなれど、
ガチョウ父さんに拾われたいきさつのシークエンスで思わず涙が…。

そして、そこかしこでかまされるジョークとギャグ。
私はこのシリーズのギャグが自分の笑いのツボととてもしっくり来るんだなあ。
ラストの登場シーンでポーの声が届かない、というあまりにベタなギャグにも爆笑してしまったぞ。
これが、ジャックブラックの声だったら、絶対もっと面白いんだけど!
できることなら、字幕版で見たかった。
新宿1館のみとは、どうかしてるぜ。
DVD買えってことなんだね。悔しいけど、買うことになりそうです。
本当なら、もう一度映画館で見たいくらい。