Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

マイレージ、マイライフ

2013-09-30 | 外国映画(ま行)
★★★★☆ 2009年/アメリカ 監督/ジェイソン・ライトマン
(DVDにて鑑賞)

「ひとりぼっちから抜け出すには」

なんてことない話なんだけど、これは好きだなあ。
ジェイソン・ライトマンの作風が私に合うのかも。
冒頭の世界各地を空から撮影した導入部がオシャレで一気に作品に引き込まれた。
リストラ宣告人で各地を飛行機で飛び回る仕事、という設定が象徴的。
人間関係の希薄さとか、企業にとって社員なんてコマなんだとか、
仕事のストレスを癒やせるひとときのランデブーとか。
とても軽妙にさらりと描かれているけど、
刹那的に生きる現代人をいろんな視点から丁寧に描いている。
出張先で知り合った女性(ベラ・ファーミガがいい!)との顛末もそりゃそうだろ、
首をぶんぶんさせて頷いてしまったよ。
ジェイソン・ライトマンが醸し出すビターなムードがとても好みです。

少年は残酷な弓を射る

2013-09-29 | 外国映画(さ行)
★★★ 2011年/イギリス 監督/リン・ラムジー
(WOWOWにて鑑賞)

「産んだオマエの責任」

幼い頃から母親に対して全くなつかず、凶暴な面を見せ続ける息子ケヴィン。
母への愛など全く見られず、際立つのは悪意。
息子がこんな風なのは、私のせいなの?母親なら誰しもそう思わずにはいられない。

ベビーカーでぎゃんぎゃん泣き続ける息子に苛立ちを隠せないティルダ・スィントンのシーンなど、
アンタがそうやってイライラして子育てしたから、ケヴィンはこんな風になっちゃったんじゃないの?
という製作側の故意の悪意のシーンもあって、
子育て経験のある女性ならイラつく映画であることは間違いない。

子育てに教科書はなく、みんな手探りだ。
これでいいの?という不安を持ちながら、母は子を育てる。
そんな不安をあおり立て、あざ笑うかのような露悪的な作品。
ほんとに子育てに悩んでいる人には絶対オススメしません。

息子が起こした事件によって、悪辣な嫌がらせを受ける母の姿。
しかし、逃げることなく、生きる母。私にはあんな強さはないかもなあ。

マドモアゼル

2013-09-27 | 外国映画(ま行)
★★★★☆ 1966年/イギリス・フランス 監督/トニー・リチャードソン
(DVDにて鑑賞)

「魔性の女」


パリから片田舎に越してきた美人教師。
村人は彼女を「マドモワゼル」と呼ぶ。
本来、マドモワゼルって、比較的若い女の子に対して言うものじゃないかしら?
なので、以降の展開でも田舎の人たちの屈折した感現が一つの大きな鍵になっている。

放火や洪水など、不吉な出来事が起きる。
それらの元凶はマドモワゼル。しかし、村人はよそ者を犯人と決めつけ、追い詰めてゆく。
マドモワゼルの妖しい美しさと屈折した性格、そして映像的にあちこちで暗喩のごとく出てくる性的渇望。
悪い女と気づく者もいるが、その魔力には抗えない。
ジャンヌ・モローの魅力が炸裂する1本。

凶悪

2013-09-26 | 日本映画(か行)
★★★★☆ 2013年/日本 監督/白石和彌
(映画館にて鑑賞)

「伝染する凶悪」

監督は若松組なんですね。
まず主演3人、演技がすばらしい。
後半にいくに連れ、山田孝之のやつれ様と言ったら凄い。
ピエール瀧とリリー・フランキーも、元々好きな役者なんですが、
この作品でさらに一皮むけた感じです。
「動」の凶悪がピエールで、「静」の凶悪がリリー。
演出は抑えめであまり語らないので(特に記者の心情について)、
物足りない人もいるかも知れませんが、殺人事件そのものがあまりに凄惨なので、
人物の心情まで語ると映画全体がくどくなると思います。
公判中のリリーフランキーのアップの表情は凄い。怪演です。
ラストカットもATGみたいでカッコイイです。
裁判の行方も意外な結末でした。

日本の悲劇

2013-09-25 | 日本映画(な行)
★★★★ 2013年/日本 監督/小林政広
(映画館にて鑑賞)

「希望のない国」


いつもはクドい仲代達矢の演技ですが
こちらでは希望を失った老人の哀しみを切々に演じておりました。
固定カメラが延々と食卓を映し続け、仲代の背中を撮り続けます。
ほぼ全編モノクロ映画で、しかもモノクロのトーンがくすんでいるんですね。
もちろん、そのくすみは監督の意図だろうと思うのですが、
いかんせん第七芸術劇場のハコがまっ暗闇ではなく、微妙に明るい。
ので、スクリーンがぼやけた感じに見えて、残念でした。
淡々としているので睡魔にも襲われること数度。
それでも、鬱病で仕事も家庭も失った息子と妻に先立たれ自分も余命幾ばくもない父。
ふたりの家庭の有りようがあまりにもリアルで、本当に身につまされました。

唯一カラーになるのが、息子が結婚してから孫を連れて帰る一連のシークエンス。
孫の誕生を頂点に下り坂を転げ落ちる。老年期ってそういうものなんでしょうか。
頭をうなだれるばかりです。

サイド・エフェクト

2013-09-24 | 外国映画(さ行)
★★★☆ 2013年/アメリカ 監督/スティーブン・ソダーバーグ
(映画館にて鑑賞)

「ほんとにこれで最後なの?」


どんでん返しと聞いていたから、どんなどんでん返しが!と期待していたものの、
ほぼ予想通りの結末で肩すかし。
この手の映画は前情報を入れるのも考え物ですね。
まあ、ジュードやキャサリンなど、俳優陣の演技派さすがと言うべきでしょうか。
中でもルーニー・マーラが光ってました。
映画館が満員だったのが一番の衝撃(笑)。
前から2列目きつかった。

ソダーバーグはこれで映画から引退するとか言ってるみたいだけど、
これがラスト作ってのは納得いかないなあ。

ウルヴァリン SAMURAI

2013-09-23 | 外国映画(あ行)
★★☆ 2013年/アメリカ 監督/ジェームス・マンゴールド
(映画館にて鑑賞)

「ハリウッド映画に日本語は合わない」

漫画チックなジャパネスクムードをゲラゲラ笑って楽しむ映画でしょうか。
日本人の主演女優2人が英語でしゃべっているシーンは堂々としていてそれなりに見えるのに
日本語の会話になるといきなりド素人の悲惨な芝居になってしまうという摩訶不思議。
真田広之にも期待したのに、見せ場があんまりなかったなあ。
日本の各ロケ地はさすがハリウッドだけに、舞台装置としてしっかり撮影されていましたね。

愛と希望の街

2013-09-22 | 日本映画(あ行)
★★★☆ 1959年/日本 監督/大島渚
(DVDにて鑑賞)

「貧困と裕福の溝。今も変わらぬテーマ」

大島監督デビュー作。
大島渚の作品を最初から見直してみるというのを少し前からやっている。
病気がちな母親のいる貧しい家庭に育つ少年は鳩の帰巣本能を利用して、
同じ鳩を何度も売って生活費に充てていた。
ある日、取りすがりの大企業の娘が鳩を買い、彼と親しくなる。
彼女は身分を超えて親愛の情を抱き、彼の就職探しに奮闘するのだが…。

金持ちと貧乏人は永遠にわかり合えないという話です。
鳩が一つのモチーフになっていて、ラスト、
金持ち息子が鳩を撃とういうカットなども、絵としてカッコイイです。
古い映画って、テーマは汗臭いんですけど、おっと思わせるカッコイイカットがあります。

今よりも身分差別や貧困があからさまな社会テーマとなっていた時代。
あれから、解決しているかというと、全くそういうこともなく。
ブラック企業だの、派遣切りだの、ニートだの、貧しさは今の日本にも巣くっている。
原発問題も含め。
こうした、硬派な映画をもっと作っていくべきだよね。

パーマネント野ばら

2013-09-11 | 日本映画(は行)
★★★★☆ 2010年/日本 監督/吉田大八
(DVDにて鑑賞)

「切なく、エロく、逞しく」

ものすごく良かった。早く見るんだったと後悔。
西原理恵子&吉田大八で好物なのはわかっていたのに、
カンノちゃんのDVDジャケットを見て、どうもかもめ食堂とか、食堂カタツムリとか、
あっちの癒やし系かと敬遠してた。そしたら、これがえらい毒のある話で。
これまたどんでん返しにすっかりやられました。
それぞれのオンナの人生が生き生きと描かれていて、吉田大八らしい作風にも満足。
エロいワードがバンバン出てくるのだが、これがちゃんと意味を成しているのもよいです。



終の信託

2013-09-10 | 日本映画(た行)
★★★★ 2012年/日本 監督/周防正行
(WOWOWにて鑑賞)

「死に際は自分で選べるのか」

期待せずに見たせいか、それなりに満足感。
相変わらず草刈民代は下手ですが、下手なりに監督が一生懸命カバーして撮ってるのがわかりました。妻なので当たり前だけど。
医者と患者の関係を超えて信頼しあえるのは悪いことではないけど、
やはり自分の意思次第で人の命を終わらせることができる立場として、
彼女のやったことは正しかったのかどうか、考えさせられますね。
呼び出されて、受け答えしているうちに逮捕されちゃうもんなんだ…という
検察の恐ろしさも伝わりました。力作。 しかし、尺が長すぎる。

セイビング・フェイス 魂の救済

2013-09-09 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2012年/アメリカ・パキスタン 監督/シャーミーン・オベイド=チノイ ダニエル・ユンゲ
(WOWOWにて鑑賞)

「怒りを超えて」

夫や求婚を断った男性から硫酸をかけられた女性に焦点をあてたパキスタン人女性映画監督のドキュメンタリー。
とにかく次々と画面に表れる女性たちの無残な顔に息を呑みます。
硫酸をかけられ、皮膚はただれ、まぶたもつぶれ、顔のパーツがなくなったあまりにも酷い顔の女性たち。
正視に耐えない顔を世間にさらす彼女たちの勇気を称えたいです。
もちろんどうして、こんなことになるのか、怒りを抑えられません。
映画では、彼女たちの整形手術を請け負うイギリス在住のパキスタン人医師や
女性弁護士たちが被害者をバックアップするため奮闘します。
被害者女性のひとりが夫を相手に訴訟を起こすのですが、周囲の反応はあまりにも厳しい。
夫の証言や裁判の行方を追いながら、顕わになるのは、どこまでいっても、
女は家畜以下の扱いで良いという現実と社会通念です。
物扱いなどと言いますが、物なら物で愛着が湧くでしょう。
男にとって女は「自ら進んで毀損するための生物」としか考えられません。
他の男を見つめていただの、デートを誘ったら断ったと、硫酸をかける。
夫に取材に行くと、ろうそくが倒れたとしらを切る。
整形手術を申し込んでいたのに、図らずも暴力夫の子どもを妊娠していたことが発覚する女性。
整形手術を回避して出産を選択する彼女はこう言います。
「女の子ではなく、男の子だったらいい。なぜなら、女の子には悲惨な人生しか待っていないから」。
彼女の気持ちはよくわかります。
しかし、一方そういう男たちを育てるのも女性ではないのかという考えも、私の頭から離れません。
また、被害者の中には夫の家族である女性、義母や義理の妹からも硫酸をかけられたというケースも少なくないのです。
この問題は単純な構造ではないのです。
見終わって、これが2000年を過ぎた近代の話だとは、とても思えず、うなだれるばかりです。
インドでは今なお悲惨なレイプ事件は後を絶ちません。
アフリカでは少女の性器切除が行われ、キルギスでは誘拐した女性を無理矢理犯して妻とする誘拐婚が今なお続いています。
私たちにできることは何なのか、考えずにはいられません。



イップ・マン 葉問

2013-09-08 | 外国映画(あ行)
★★★★☆ 2010年/香港 監督/ウィルソン・イップ
(DVDにて鑑賞)

「静かで強いイップ・マン」

クンンフーの見せ場がめちゃめちゃ豊富で大満足。
次々と師匠たちと机の上で戦うシーンなんか、よく考えつくよな~と感心しきり。
相変わらずドニー・イェンの佇まいがステキなのだが、
冒頭嫁はんのふくらはぎを揉んでるシーンがたまりません。
いいダンナ過ぎる。
ラストがボクサーとの戦いとは見る前から知っていて、
「ボクシング対クンフー」って盛り上がるのか?!という疑念があったけど、何のその。
めっちゃ盛り上がるやんかー。
とにかく観客を飽きさせないアクションの見せ方、演出に脱帽。
あまりに中国人万歳が続くのはちょっと萎えるんだけど、それをも凌駕するアクションのすばらしさです。

武士の家計簿

2013-09-07 | 日本映画(は行)
★★★★ 2010年/日本 監督/森田芳光
(DVDにて鑑賞)

「今だからこそやらねばならない普通の映画作り」


晩年の森田監督は、ごく普通の映画を普通に撮ることに腐心してきたように思う。
変化球を挟むことなく、全休ストレート勝負。そんな感じだ。
本作にしても、そろばんバカと言われた侍の一代記だが、
やりようによってはもっとコメディに振ったり、
そろばんに命をかける侍のペーソスを出したりできそうなんだけど、敢えてそれはしない。

老若男女を問わず、全ての人が同じ視点から感じられる哀しみや笑い。
清貧に生きたひとりの男の慎ましい、しかしぶれない人生の手応えを全ての人が同じ温度で共有できる。
そういう作品作りを目指していたのではないか。

僕たち急行」でも森繁の「社長シリーズ」を意識していたということなので、
良き時代の日本映画を取り戻したいという気持ちが森田監督には強かったんではなかろうかと思うのです。
そこが「アーティスト」に感じられるただの懐古趣味とは違う。
あるべき物、やって当たり前のことがなくなってしまった現代の映画作りに
普通の映画を作って警鐘を鳴らしているような気がしてならない。

大脱走

2013-09-06 | 外国映画(た行)
★★★★★ 1963年/アメリカ 監督/ジョン・スタージェス
(映画館にて鑑賞)

「大満腹」

午前十時の映画祭にて鑑賞。


午前10時の映画祭でかかる作品は、
とにかく聞き慣れたテーマ曲が館内に響き渡るだけでウキウキするんだよね。
燃えよドラゴンでも心拍数上がったけど。映画音楽の力を感じます。
今日改めて見て、物語の細部を結構覚えていることに驚いた。
やっぱ小さい頃テレビで見た記憶が鮮烈なんだなあ。
3時間あったけど、全然退屈しなかった。
チャールズ・ブロンソンもマックイーンも若々しくてステキ。
人間誰もが「エスケープしたい」という欲望を持っている。
逃亡のための一つ一つの作戦にワクワクする。
帰ってから内田樹の「映画の構造分析」を読み、
この映画は産道を抜けてからの母性の奪還なのか、とふむふむ。
振り返って再び映画を反芻するのでした。

アーティスト

2013-09-05 | 外国映画(あ行)
★★★ 2011年/フランス 監督/ミシェル・アザナヴィシウス
(WOWOWにて鑑賞)

「映画が映画を語る時」

アカデミー賞作品賞を獲った作品。
かなり期待して見たのですが、正直なんじゃこりゃ。
前年度の「英国王のスピーチ」同様、大して心も揺さぶられぬ普通の映画でした。
がっかりポイントは2つあって、まずフランス映画なのに全然シニカルじゃないってこと。
2つめは「映画が映画自身を語る」という設定の場合、
そこにはやはりきちんとした批評が必要ということ。
ただ昔は良かったとか、時代の移り変わりって寂しいよね、と言った甘ちゃんな作りではいけない、と思う。
懐古趣味に浸るだけなら、わざわざ無声映画からトーキーへの変遷を背景に選ぶ必要なんてないんだけど、
時代に取り残された中年男と若い女のラブストーリーであるに過ぎない。
もちろん、全編通じてセリフが出てこないという構成そのものが現代映画へのアンチテーゼとも取れなくはないけど、
そうだとしたら内容があまりにもラブストーリーに寄りすぎている。
こんなハリウッドアゲアゲ映画がフランス制作ってのが、なんかヤだなあ。