Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ドライブ・マイ・カー

2022-01-20 | 日本映画(た行)
生きること。赦すこと。愛すること。伝えること。演じること。1つの作品に多彩なテーマが存在し、呼応し合う。鑑賞者はさらに村上春樹やチェーホフへと世界を深める。どこまでも広がる知のスケール感。かつ、多様性と男らしさの放棄という現代のテーマが融合する。参りました。

家福の再生をチェーホフのワーニャ伯父さんに重ね、繰り返しテープでセリフを流し、自らの演出法までさらけ出しセリフを染み込ませる。言葉に対する並並ならぬこだわり。それは言葉を疎かにしている現代人への痛烈な警鐘にも感じられる。我々はもっと言葉を大事にせねば。

知的で物静かな人物が多い中、ただ1人世俗的で底知れぬ狂気を感じさせる岡田将生の存在が効いている。後部座席で家福が知らない、あの物語の続きを唐突に語り出すシーンは背筋がゾクゾクした。

懲戒免職

2021-10-13 | 日本映画(た行)
★★★★   2006年/日本 監督/渡邉あや

もし高校に気だるいオダギリ先生がいたら、確実に自分の男性観は狂っていただろう。峰不二子を黒板に描くオダジョーの危うさよ。彼を見つめる吉高由里子の瑞々しさよ。15分と言わず120分で観たかった。両者メゾンドヒミコ、紀子の食卓時代。美しさと儚さ全盛期の逸品。

Wの悲劇

2021-09-10 | 日本映画(た行)
★★★★  1984年/日本 監督/澤井信一郎

先輩女優のスキャンダルの身代わりを引き受ける薬師丸の陶酔した目。役に飢えていた彼女は千載一遇の汚れ役を演じきる。演技したいという欲望が彼女自身を覆い尽くす。演じることはそんなにも底なし沼の魅力があるのか。演技についての映画だ。

薬師丸ひろ子の魅力を引き出しているのは間違いなく三田佳子。作品内での彼女の挑戦的な態度は、薬師丸ひろ子本人に向けたもののようにも感じられる。アイドル女優が大人の女優として成長することのように、本作は様々なメタ構造を持っている。それも面白さの一つだろう。

翔んだカップル

2021-01-13 | 日本映画(た行)
★★★☆ 1980年/日本 監督/相米慎二

相米慎二デビュー作。同じくデビューしたての薬師丸・鶴見コンビの素人くさい台詞まわしが、図らずも同居してしまった高校生の浮き足立った日常とうまく呼応している。対して尾美としのり・石原真理子の芝居上手なこと。この2人のうまさあっての、4人のバランスの妙なんだなあ。

お引越しや台風クラブに比べると個人的な好みは低めなのだが、薬師丸ひろ子のみずみずしい輝きは今も色褪せない。つっけんどんで、無防備で、おしゃまで。何と言ってもオーバーオール姿が可愛い。しかし、自転車での坂道くだりからの壁激突は今見ても冷や冷やする。

旅のおわり世界のはじまり

2021-01-08 | 日本映画(た行)
★★★☆ 2019年/日本 監督/黒沢清

遠く離れたウズベキスタンという全く見慣れぬ風景の連続。それがさらに葉子の孤独を際立たせている。撮影クルーの度重なる無茶ぶり、現地の人の好奇の目、警察にまで追われて、まるで受難の旅。その旅の最後で自由を手にした彼女の朗々と歌い上げる姿に女優魂を感じた。

葉子が追い込まれる様子はAKB時代を彷彿とさせるし、異国で黒沢組と撮影するプレッシャーをも想像させる。これが二階堂ふみや小松菜奈ならここまでの痛々しさはない。部屋で寝転ぶシーンは一番ギョッとしたシーンで無防備な姿で殺された少女のよう。しかしカメラが回った時のあの笑顔。この人、想像以上に芯が強いんだな。


罪の声

2020-11-05 | 日本映画(た行)
★★★☆ 2020年/日本 監督/土井裕泰

あれだけの長編小説をまとめ上げた脚本が見事。もつれた糸が解けるように真相が明らかになるサスペンスの醍醐味。日本とロンドン、重要人物の告白をカットバックで繋ぎ、クライマックスを盛り上げる。さすが野木亜紀子、エンタメをわかってる。原作既読ゆえいろいろ心配したが大満足です。

役者陣がみんないい。宮下順子、塩見三省、若葉竜也、阿部純子、奥野瑛太…。数カットの出演でもキャスティングに並並ならぬこだわり。中でも宇野祥平、水澤紳吾両氏の役づくりは賞賛に値する。ネタバレゆえ事前に取り上げられていないのが実にもったいない。観客の心に爪痕残す演技。

思春期に大阪でグリコ事件を見聞きとした身としては「キツネ目の男」がスクリーンに映し出される事はかなりの衝撃なんです。それは小説でいくら描写されても脳内再生でしかない。キツネ目のアイツがいる。肉体を伴った人間として。背筋がゾワッ。本作の映像化はそれを体感することでもある。

東京流れ者 

2020-08-01 | 日本映画(た行)
★★★ 1966年/日本 監督/鈴木清順

スタイリッシな映像美とヤクザの流れ者、歌謡曲という取り合わせが唯一無二の世界観。冒頭モノクロームで始まり、ピンポイントの赤。その後も奇抜な色彩感覚で見る者を惑わせる。アクションあり、ミュージカルあり、枠にとらわれない自由奔放さ。1966鈴木清順。ノリに乗った1本だが、このテイストが自分の好みにどハマりかというとそうでもなく。

ドロステのはてで僕ら

2020-07-27 | 日本映画(た行)
★★★★ 2020年/日本 監督/上田誠

2Fの部屋と1Fのカフェが2分後の世界で繋がるSF喜劇。これ2分という長さが絶妙! タイムTVで遊ぶうちに現在が未来に操られているような錯覚に。今を生きる自分の自由意志は?そこもちゃんと答を提示してくれる。ワンシチュエーションの長回しも見事。やられた!を楽しむべし。

タゴール・ソングス

2020-05-22 | 日本映画(た行)
★★★★ 2019年/日本 監督/佐々木美佳

いいもの教えてもらった!という気持ちでいっぱい。タゴールの歌は初めて聞いたがとりわけ人間の尊厳を歌ったものがすばらしい。街行く人々がタゴールを歌うときのその表情の豊かなこと。人々に生きる勇気を与える詩の凄みをこれほど感じたことはない。

タゴールの詩に導かれ、自立するため模索する若いベンガル人女性を追う後半もいい。そして意外にも舞台は日本へ。歌舞伎町のネオンを見つめる彼女は何を思うのか。帰国後、きっと彼女は自身の人生を力強く歩くに違いない。タゴールの歌を胸に。



チワワちゃん

2020-03-25 | 日本映画(た行)
★★ 2019年/日本 監督/二宮健

(NETFLIX)
いやあ、さぶい。なぜ岡崎作品を現代で映画化するとこうも上滑りな作品ばかりになってしまうのだろう。 ラスト海にみんなが集まり「おいおい嘘だろまさかみんなでビデオ撮るとかそんなダサいことしないよな?」と思ったらその通りで呆れて再生やめた。あと数分だったけど。

ヨシダを演じる成田凌は良かった。チワワちゃんより本作のテーマである「不在」を感じさせる。後味残る不気味さだ。あと、門脇麦を安易にセックスシーンに晒すことにモヤるのは私だけだろうか。彼女だからこういうシーンが撮れるというそっちありきな気がしてしょうがない。愛の渦でも思ったのだけど。

それにしても岡崎作品の映画化はどれもこれも自分に取っては爆死案件ですわ。友人に本作はまだマシかも、と言われてみたけど…。行き場のない若者がクラブに集っては虚無ゲーム。中身なんもなくてどんよりです。こういうのがウケると思ってる人が「FOLLOWERS」とか作るんやろな…久々の毒吐き案件。

止められるか、俺たちを

2018-10-31 | 日本映画(た行)
★★★★☆ 2018年/日本 監督/白石和彌

若松作品が好きなので、とても楽しめたし2時間があっという間だった。若手俳優も門脇麦も魅力的。ただ、若松プロの群像劇なのか、めぐみの物語なのか、少し中途半端に感じられた。女を捨てて野郎どもに混じり、撮りたいものは何かを模索し続けためぐみの最期を見ると、彼女は女という縛りに負けたようにも思えて辛い。

パンフレットを読むと(読み応え満点)めぐみさんは赤バスに乗りたがっていたということ。あの時代に若松プロで生きた女の物語としてもう少し深堀りしてほしかった。新さんの「パレッチナ」最高。とてもチャーミングな若松さんだった。

太陽を盗んだ男

2018-03-30 | 日本映画(た行)
★★★★★ 1979年/日本 監督/長谷川和彦

みなみ会館閉館興行にて

最高じゃーーー!!とにかく最高としか言いようがない。東海村原発突入シーンのコミカルさや池上季実子のお馬鹿キャラがテレビ画面で見ると滑稽なのだが、スクリーンで見ると全く気にならない。スクリーンからはみ出るパッションにただただ圧倒される至福のとき。

ジュリーのエロさとシニカルさとクールさが全部投入されてて、全邦画の最優秀主演男優賞を授けたい(勝手に)。もはや原爆を作るという娯楽作品に今の日本の配給がOKしないだろうし、数々のゲリラ撮影、常軌を逸したスタント(トラックをジャーーンプするRX-7すげえ!)など、全てが今の日本では無理!の規格外作品。

DVDでは何度も見ているのだが、スクリーンは初体験。よく、こんなもん作れたよなあと、感激で胸いっぱい。こんな凄いの作ったら、そりゃ次の作品作れないよなあ。補助椅子が出るほど、みなみ会館は大盛況。終映後に拍手がわき起こった。

帝一の國

2018-02-28 | 日本映画(た行)
★★★★ 2017年/日本 監督/永井聡

(WOWOW)

もう笑った笑った!若手だけでなく中堅俳優陣のくどい演技も最高。
とにかく編集のテンポがいい。そして、意外とエキストラに手抜きしないなど、ディテールにこだわってるがすばらしい。
学祭とか会長選挙にまつわる小物ね、ポスターとか、旗とか。すごくちゃんと作られてます。
あと、数秒拍手してピタッと止まるみたいな、細かい演出。
作り手の気合いがありますね。こういうのが大事だとつくづく思う。

泥の河

2017-12-01 | 日本映画(た行)
★★★★★ 1981年/日本 監督/小栗康平

(Netflix)

戦後の闇を引きずりながら必至に生きる土佐堀川沿いの人々。
他人だからこそ踏み込めない境界線がありつつも、
相手を気づかうい思いやることがいかに尊いことか思い知らされる。
わが境遇を心得つつ慎ましく生きる子どもたちの姿に泣かされる。そして、加賀まりこの美しさに感動。
原作の力も大きいが、素晴らしい作品であった。

写真にある子どもたちに何度も何度も手品をして見せるシーンは涙が止まらなかった。
私は宮本輝氏の「流転の海」シリーズが大好きで、
本作は設定等かなり似ている部分もありどうしてもっと早く観なかったのかと大後悔。
改めて、宮本輝氏の川三部作を読みたいと思う 。

天国と地獄

2017-11-28 | 日本映画(た行)
★★★★ 1963年/日本 監督/黒澤明

(CS)

徹底して計算しつくされたカメラワークが光る前半の舞台劇で閉塞感を表現し、
後半は一転して新幹線こだま貸切の身代金受け渡しシーンなど
ダイナミックに物語が動く見事な構成でサスペンス超大作としての見応えも抜群。
シネスコだし、パートカラーだし、こだまの一発取りとか映像表現の最先端をいってるのはすごいです。
がしかし。
犯人は極刑に値すると断罪する展開は納得できない
死刑にするために犯人を泳がせるってのはどうなの。
あいつは極刑に値するって仲代、おまえ何様なのさ。と心でつぶやく。
弱き者に容赦ない黒澤目線には共感できない なあ。