Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

まともじゃないのは君も一緒

2021-09-30 | 日本映画(ま行)
★★★★ 2021年/日本 監督/前田弘二

女子高生と塾講師のバディムービーというありそでなかった新ジャンル。しかも成田凌がモテない理系男子をこんなにうまく演じるとは。彼の引き出しの多さに感服。一方、小泉孝太郎の中身うっすーい男の安定感よ。最小限登場人物のアンサンブルがとても居心地よかった。

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実

2021-08-08 | 日本映画(ま行)
★★★★ 2020年/日本 監督/豊島圭介

本作を見たからといって右翼左翼の融和の道筋が見えるわけではない。1969年という時代の断片を垣間見るに過ぎない。しかしこの断片の切っ先は鋭い。結果的に平行線でも「言葉を尽くす」ことを今の我々は完全に手放してしまったのだという現実に打ちひしがれる。

大学生時代。中核派ヘルメットの学生が毎日校門に立っていたし、彼らの演説で授業はよく中止になっていた。良くも悪くも彼らの行為が私に政治思想について考えることを促していたのは間違いない。彼らの演説に対して意見を言う教官もいて、あれはあれで貴重な体験だったんだと今にして思う。

宮本から君へ

2021-06-03 | 日本映画(ま行)
★★★★ 2019年/日本 監督/真利子哲也

終始殴られている感覚で見続けるが、最後に残るのは爽快感。猪木の気合の平手打ちかよ。「渾身の」という言葉すら軽々しく聞こえる池松壮亮・蒼井優両名の演技に圧倒されっぱなし。物事の正しさを問うなんてカッコつけないからこそ、強烈な正しさを感じるんだ。宮本、お前は正しい!

宮本を見ながら、なぜか「愛のコリーダ」のきっつぁんを思い浮かべていた。徹底して受け身なきっつぁんと攻撃し続ける宮本。方向性は真逆だが、これほど好きな女との愛に全身全霊を傾けられる男は滅多にお目にかかれない。こんな男に愛されてみたい。そんな思いもまた同じ。

MOTHER マザー

2021-02-23 | 日本映画(ま行)
★★★★☆ 2020年/日本 監督/大森立嗣

救いようのない物語はファーストカットが大事だ。息子の膝を舐め、母子で自転車で坂道を下るショットで確信。ロングショット、手持ちカメラ、クロースアップ。全てが爽快なほどに決まっている。映画の教科書のようなカメラ使いが閉じた親子の世界と愛憎を見事に映し出す。

大森立嗣監督は決して褒められることはない人間のエゴや業を描き出すのが本当にうまい。「さよなら渓谷」の真木よう子のように、誰も触れることができない女の奥底に秘めた闇を長澤まさみに見る。寂しい親子のロングショットと対照的に、彼女のクロースアップのカットはどれもすばらしすぎた。

メランコリック

2021-02-03 | 日本映画(ま行)
★★★★ 2018年/日本 監督/田中征爾

バイト先の銭湯は、闇の死体処理場だった。 平凡な男が裏社会に出くわし、物語はどう転ぶのか。予測をことごとく裏切る展開がうまい。「自分の知らない世界に触れて一皮剥ける話」ではあるが今まで見たことのない語り口。銭湯主人や同僚松本くんのキャラも実にユニークで魅了された。

岬の兄妹

2021-01-15 | 日本映画(ま行)
★★★☆ 2018年/日本 監督/片山慎三

自閉症の妹に売春をさせ生計を立てる兄。今日を生き延びるための毎日。貧困の底、どん詰まりに見えるのは観賞者の第三者的視点。彼らは必死に生きている。食らいつくように。その姿は滑稽だが愛おしい。生きるって辛いし、家族はほっとけない。生きるって面倒だな、ほんと。



ミッドナイトスワン

2020-11-13 | 日本映画(ま行)
★★★★☆ 2020年/日本 監督/内田英治

社会の泥沼で邂逅した美しい白鳥。神からの啓示を受けたような草彅剛の目がすばらしい。一生手に入るまいと諦めていた物が目の前に現れ、凪沙は前に進もうと決意した。凪沙の魂は少女に引き継がれたのだからこの物語は悲劇ではない。凪沙は成すべきことをして生ききったのだ。

天才芸術家が開眼するまでの物語としても堪能。人間の醜さや汚さにまみれたからこそ、対極にある美の頂点に立てる。その表現者としての凄みを映像として納得させるラストのバレエシーンが圧巻だ。山岸涼子の舞姫テレプシコーラを思い浮かべた人も多いのではないだろうか。

見えない目撃者

2020-05-17 | 日本映画(ま行)
★★★★ 2019年/日本 監督/森淳一

セブンや羊たちの沈黙など名作スリラーを引用しつつ、現代社会の闇を背景にアップデートした力作。次々と繰り出される(邦画に絶対的に足りない)容赦のない演出が恐ろしくも爽快。物語の突っ込みどころはあるが熱量で押し切る力がある。なにぶん、韓国映画にありがちな「おい!警察何してる!」な脚本が気にはなるが、ヒロインが圧倒的不利な状況で追い込まれていくハラハラ感が勝る。目が開いた状態で盲目を演じるという難易度の高い演技に吉岡里帆が見事に応えている。

マチネの終わりに

2019-11-09 | 日本映画(ま行)

★★★★☆ 2019年/日本 監督/西谷弘

(映画館)

原作の持つ気品を損なわず大人の上質な恋愛物語として映画化されている。ゆったりとしたカメラで捉えるパリやNYの風景が美しく、それらが決して冗長に感じられないのがいい。いい年をした大人だからこそ、恋に対して逡巡し、しかし突き上げられる情動は抑えられず苦しむ。

その2人の心の揺れがしっかりと描き出されていた。原作読了後、洋子をイメージしたのは中谷美紀だったが石田ゆり子だったからこの儚さが生まれたのかもしれない。未来が過去を変えるという原作のメッセージにとても共感した、あのときの高揚感に再び浸った。

蒔野と洋子、それぞれにコップを握りしめるシーンがあり、分別のある大人だからこそそれをしないのだと見せる。本作はこうした映画的に豊かな表現にあふれている。かつ、これらが安易な心情表現へのアンチテーゼとも受け取れるのではないか。

福山雅治のターニングポイントは西谷弘監督の「真夏の方程式」だと思っていて、本作で再びタッグを組みさらに俳優としての魅力が増したと感じた。特に微細な表情の変化。なぜ1度しか会っていない女を運命の人と思ったかは冒頭の彼の演技力でしか観客を納得させられない。とても困難な役だったと思う。ギターが弾けるという点においても福山雅治の起用は大正解だったね。


蜜蜂と遠雷

2019-10-21 | 日本映画(ま行)
★★★★★ 2019年/日本 監督/石川慶

編集が最高!通常、演奏シーンはいかに音楽が凄いかを見せる事が多いが本作はそれをしない。演奏シーンに別のピアニストの過去や心情のシークエンスをかぶせてくる。ゆえに演奏シーンで物語が止まることがなく、別の演奏者の苦悩や気づき、希望を同時進行で描き出すのだ。

またその演奏中に挿入されるシークエンスの美しいことよ!時に叙情的に時に幻想的に。ある意味コンペ曲が劇伴の役割を担っているのだ。そして、ラストの演奏者、松岡茉優のシーンだけはそれをしない。完璧に彼女の演奏しか見せず、彼女が紡ぎだす音楽に集中させる。これはもう、やられた!

斉藤由貴、片桐はいりなどの脇陣も全員がまさに音楽業界にいそうな人物を好演。中でも平田満が最高…栄伝を見送るあの小さな頷きで涙腺が決壊した…。松岡茉優は全てにすばらしいのだけど、予想外だったのは森崎ウィン。こんな繊細な演技をするんだと唸った。本年度暫定No.1。映画館の音響で見るべし。

マル秘色情めす市場

2019-07-09 | 日本映画(ま行)
★★★★★ 2017年/日本 監督/上田慎一郎

長年見たかった念願の1本をついに鑑賞。紛う事なき大傑作。芹明香から醸し出されるエロスと聖性は目眩を覚える。釜ヶ崎ゲリラロケにおけるロングショットに溜息、爆発シーンのアバンギャルドさに興奮、そして突然のパートカラーで世界が変わる。田中登の才気が炸裂した1本。自分のロマンポルノ鑑賞歴で間違いなくNo. 1。

町田くんの世界

2019-06-25 | 日本映画(ま行)
★★★★☆ 2019年/日本 監督/石井裕也

(映画館)

すべての人にやさしい善き人町田くん。彼といるとすべての人が自分の悪意やエゴに気づかされ、自身の存在を恥じてしまう。彼は鏡のような存在。悪意に満ちたこの世界で、なぜ町田くんはそんなにいい人でいられるの?と周囲の人々は問う。人は誰しも好きこのんで誰かを貶めて生きる人生なんて送りたくないのだ。ところが恋をした町田くんは誰にでもやさしいことが好きな人を苦しめてしまうことを知る。どうする?町田!

若い高校生の恋バナ映画と思っていたのにさにあらず。悪意、そして無関心にあふれた社会でどう生きるればよいのかをと問うてくる秀作。主演ふたりのみずみずしい演技はもちろんなのだが、それを際立たせているのが周囲の演技派役者陣。同級生演じる大賀がいい。高畑光希がいい。しかし、やはり前田敦子が最高なんである(知ってた)。その他、松嶋菜々子や池松壮亮など、脇を固める役者陣が豪華で、一人ひとりがリアルに演じている。

個人的には石井裕也作品とはあまり相性が良くないと思っているのだけど、本作はいちばん好きな作品になった。ギスギスした世の中だからこそ、本作に監督が込めたメッセージの意義はとても大きいと感じた。

マインド・ゲーム

2018-08-20 | 日本映画(ま行)
★★★☆ 2004年/日本 監督/湯浅政明

湯浅作品の脳内ドーパミンが出るようなめくるめく映像は好き。でも、年のせいか、勢い有り余る映像に後半疲れて集中力途切れ物語がよくわからなくなった。もう1回観ればいいのだろうが、その気力はない。もうこういう集中力の必要な映画を見る体力がなくなってるんだろうなあ。

万引き家族

2018-06-20 | 日本映画(ま行)
★★★★☆ 2018年/日本 監督/是枝裕和

「誰も知らない」へのアンサーとも言える作品で、社会に捨てられた子どもを拾う大人たちという構図ですが、その実、拾ったつもりの彼らは社会から捨てられた存在、かつ、最終的に子どもたちからも捨てられるという大変にビターな物語。

撮影が「そこのみにて光り輝く」などで評価を得た近藤龍人。彼のファンタジックなカメラワークが、これまでの是枝作品とは異なる趣をもたらしており、それが今回のパルムドールに少なからず影響している。これまでの是枝の絵とは違うので。

役者たちのアンサンブルが本当にすばらしく、子どもたちの即興演技と大人役者陣の抑制された演技が見事に融合していました。中でも、入れ歯を外して演じる樹木希林が圧巻。それにしても、役者陣が豪華。ウディアレン化してますかね。是枝さんの作品なら出たい!みたいな。池松くんも一瞬でしたけど、存在感ありました。

ただ、自分の好みとしては前作「三度目の殺人」の方が好き。また、テーマ的にはこちらの方がカンヌ的な気もするんですけど。まあ、社会から見捨てられた人を描いてきた是枝さんの集大成(本人はこの言葉嫌がってましたけど)として、ついにパルムドールという感じでしょうか。

悶絶!!どんでん返し

2018-03-25 | 日本映画(ま行)
★★★★☆ 1977年/日本 監督/神代辰巳

冒頭のおっぱいパブから(暗転後のクレジットの入り方も最高)アパート行って、オカマに襲われるまでの疾走感がすばらしい。やっぱり導入部の力強さって、本当に大事。突き抜けたバカバカしさにパワーを感じ、元気になる。

惜しむらくは女を殴るシーンが見ててつらいこと。時代性とは言えやはりつらい。女を殴るシーンがなければ間違いなく星5つ。