Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

私をくいとめて

2021-04-30 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2020年/日本 監督/大九明子

のんの主演に目が行きがちだが(もちろんすばらしい)大九節とも言える色とりどりの観客を飽きさせない演出と編集にやられた。人を食ったようなシーンの挿入も雑音にならず、ワクワク感がどんどんアップ。ひとりはラクだが、ひとりのママもつらい。Life goes on.お一人様に幸あれ。

のんと橋本愛。フォーカス浅めにして捉える両名のクロースアップの美しさ。その意図的なカメラワーク。何としても美しく撮るのだという意気込みがビンビンに伝わり、我々観客も彼女らを応援せねばならない、そんな気分にさせられた。本作はのんさん応援歌でもあるのだね。見事な主演ぶりだった。

多田くんについて。 公開時、映画ファンの林遣都評がTLにあまり流れて来ず(湖民アカは別)寂しかったが、それはのんの存在感があまりに大きかったからだね。ちょっと鈍くてKYな年下営業マン。クセのある役をさらっとこなして、主演を輝かせるのが、林遣都の真骨頂。

ロング・ショット

2021-04-29 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2019年/アメリカ 監督/ジョナサン・レビン

女性がステイタス上の格差ロマンスにはノッティングヒルの恋人という大名作があるけど、負けず劣らずチャーミングな作品。シャーリーズセロンは超絶美しいし、一方国務長官というバリキャリなのにお茶目なところもあり。またそれを嫌味なく見せられるのは姐さんさすがです。

昨今ポリコレもあり、美人と醜男というルッキズムの側面をネタとして使うのは難しいが、それも見事にクリア。見た目や金銭格差はあまり触れずに、志のある者同士の結びつきに帰結させる脚本が実に今っぽい。●●となった彼女をフレッドが紹介するラストも今後の社会の希望を投影していて爽快だった。



映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ

2021-04-29 | 日本映画(あ行)
★★★☆ 2017年/日本 監督/石井裕也

劣悪な環境での人間の生きづらさ、そのリアルな表現には惹きつけられる。ズボンのチャックをいつも開けているようなダメ人間を田中哲司始め、全ての役者陣が好演。が、しかし自分はハマれなかった。わざわざめんどくさい生き方を選んでいるよう。

めんどくさいダメ人間の話は好物だけど、そこに手を差し伸べたくなったり、一緒に泣いたりしたいような人物たちへの入り込みがあまり持てない。これは私がいつも石井裕也作品に感じていること。うまく言語化できないけどきれいにまとまり過ぎているような感じ。作品のムードがこざっぱりしている。

隔たる世界の2人

2021-04-21 | 外国映画(か行)
★★★★ 2020年/アメリカ 監督/トレイボン・フリー マーティン・デズモンド・ロー

黒人の生き難さをタイムループという手法で見せた傑作短篇。タイムループ物は「何度もやり直す内にいい方向に転じる」というのがほとんどだ。しかし本作はその王道の展開を裏切る。そういう意味では斬新だが、なんという皮肉。どんなに努力しても…静かな叫びに心が締め付けられる

ミッドサマー

2021-04-13 | 外国映画(ま行)
★★★ 2019年/アメリカ 監督/アリ・アスター

序盤はモンド映画的な面白さや美術デザインに引き込まれた。夏至祭の描写もよくも大真面目にやったもんだと笑いつつも感心。しかし、作り込みが凄ければ凄いほどだんだん不快に。家族の喪失を克服する物語より、単に奇祭で酷い目に遭う映像表現が優先されているよう。好みではなかった。

一度に家族を亡くすという悲劇が、単に物語の導入、フックとして存在しているよう。なぜこの設定なのか合点がいかない。夏至祭の間、家族の亡霊は見るが、ダニー自身がどう家族と関わってきたかは一切語られないからだ。彼氏との関係始め、全てのエピソードが有機的に融合せず違和感ばかりが残った。

あのこは貴族

2021-04-09 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 2021年/日本 監督/岨手由貴子

都合のいい恋人と都合のいい婚約者。ひと昔前ならこの2人は取っ組み合いの喧嘩をし罵りあいそれを我々も面白がって見ていた。なんてアタシ達はバカだったんだろう。誰かの期待に応える生き方にNOと言おう。日本映画がこれまで見せてきた女性像に静かに、しなやかに楔が打ち込まれた。

他を知る事で人は閉じ込められていた世界から出ることができる。タクシーと自転車。橋の向こうとこちら側。様々な対比を巧みに用いた演出が見事。モデルオーラを完全に消した水原希子はもちろんだが、身のこなし一つから世間を知らない無垢なお嬢様を表現しきった門脇麦がすばらしかった。

恋人の浮気相手ではなく1人の人間として華子は美紀と繋がれた。それが彼女の扉を開いた。小さな一歩を踏み出す作風は邦画の十八番。それが新たなシスターフッド物というのが実に2020年代的ではないか。また閉じた側も本作は断罪しない。決められた道を歩く幸一郎の諦念が染みる。彼には彼の孤独がある。

ノマドランド

2021-04-06 | 外国映画(な行)
★★★★☆ 2020年/アメリカ 監督/クロエ・ジャオ

これほど米国国土の美しさを見せる映画が近年あったろうか。それがアメリカ社会から追い出された初老の女を通じて描かれるという皮肉。しかし、広大な自然に立つファーンの姿には住み慣れた土地を追い出された敗者の影はない。ノマドの友にひたすら耳を傾けるマクドーマンドが圧倒的。

誰しも己の生き方を自分で選べる訳ではない。しかし、それは悲劇なのだろうか。ファーンの生き様をケンローチ的なアプローチで描く事も可能だが本作はそうはしない。ここには否定も肯定も批判もない。それが実に清々しい。そしてミナリ同様アメリカで生きることをアジア系監督が描いているのが感慨深い。

ミナリ

2021-04-04 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2020年/アメリカ 監督/リー・アイザック・チョン

希望を持ち新しい何かを始めようとする人々へ贈る賛歌。家族の絆と地域の繋がり。物事を片方から判断しないこと。人生の小さな教訓が詰め込まれている。何かを失いながらも人は前を向いて生きていく。アメリカで生きると彼らは選んだ。選んだ道を正解にするしかないのだ。

とにかく長男のデイビッドがかわいい!かわいすぎる!この子の愛らしい演技で元は取れたと思えるくらい。見知らぬ土地に連れてこられ、不安だろうに、彼の一挙手一投足に釘付け。生意気でやんちゃだけど、許してしまえるそのさじ加減が絶妙。

アジアンおばあちゃんあるある満載でかなり笑った。口の中に入れたものを孫に与える。良からぬ遊びを教える。孫の親、つまり自分の娘の言うことを聞かない。自然体で演じたユンヨジョンがお見事。余計な事しちゃだめ〜というラストの展開に至るまで、我が母を思い出さずにはいられなかった。