Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

マンディンゴ

2012-05-07 | 外国映画(ま行)
★★★★☆ 1975年/アメリカ 監督/リチャード・フライシャー
(DVDにて鑑賞)


「カルトにとどまらない普遍的な名作」


町山智浩氏の「トラウマ映画館」で紹介されているカルト作品。
牧場のように黒人奴隷を育て売買する農園主マクスウェルとその息子ハモンド。
ハモンドは名門の娘ブランチと結婚するが、彼女が処女でなかったために怒り狂い、愛情を美しい黒人女に注いでいた…


舞台は19世紀半ばのルイジアナの大農園。
黒人差別の凄まじい現実に打ちのめされそうになるのだけど、
1本の映画作品としてみても秀作だと思います。
それは、登場人物たちが(性格がいいとか悪いということではなく)非常に魅力的だということ。

特に私が惹かれたのは白人農園主の息子ハモンドを演じるベリー・キング。
農園主である父親は黒人奴隷の売買も行い、まるで家畜のごとく扱いでおよそ彼らを人間扱いしない。
そんな父親を息子は人間としていささか斜めに見ているのだけど、
彼もまた足が不自由であることでコンプレックスを持っている。
彼が自分に向ける卑屈な心と黒人も同じ人間だと思いたい正義心、両者で揺れている様子がよく伝わってくる。
また、マンディンゴと呼ばれる純血の黒人の活き活きとした健康な体との対比も憎い演出である。

そのマンディンゴの奴隷として農園にやってくる黒人ミードを演じるケン・ノートンも魅力的。
体は大きいけれど純朴でまっすぐな心を持つ黒人。彼は、ボクサーなんですね。どうりでいい体していると思いました。

農園主マクスウェルの黒人奴隷に対する数々の仕打ちが実に淡々とした演出で描かれるので、
そのあたりがカルト的な映画の雰囲気をたたえているのかも知れませんが、
やっぱりこういう時代があったんだということを多くの人が知るべき作品だと思います。


渇き

2012-05-06 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2009年/韓国 監督/パク・チャヌク
(DVDにて観賞)

「ソン・ガンホの幅広さに脱帽」


映画公開時にはあまり評判が芳しくなく、期待せずに見たのですけど、おもしろかった。
やっぱり、私はパク・チャヌクの映画とは相性がいい。
彼の映像センスがすごく好きです。

現代韓国の映画作品には容赦ない暴力シーンが多く、
パク・チャヌクにしても彼を一躍有名にした「オールドボーイ」などから
韓流を代表する監督のような印象を与えているのかも知れない。
でも、私はこの人の作品からは、いわゆる韓流のイメージよりも、ヨーロッパ映画の雰囲気を感じます。
特に、ちょっとした「外し方」ですね。

例えば、息子の死に直面して母親がショックで動けなくなるシーン。
なぜか場所が突然手術室に切り替わり、みんなが手術用の服とゴム手袋を付けて
手術台に乗せられている母親をのぞき込んでいて、こりゃダメだなとか言い合ってる。
こういうシーンにくすっと笑っちゃうんですよね。
アルモドバルとかも、こういうことしませんかね。
バンパイアのジャンプもCGを使ってるんだろうけど、着地の瞬間など映像的なぎこちなさが残っていて、リアル過ぎないのが映画的な雰囲気を持っている。
釣り船から男を突き落とすシーンでは、釣り竿の針がテジュの耳たぶに引っかかり、
リールがぐるぐると巻き取られて、耳たぶがプチーン!なんていう一連のシーンもパク・チャヌクらしいアイデア。
全く動けなくなった母親がギョロギョロと目を動かすシーンも面白いです。

映画の宣伝的には韓国の若手女優キム・オクビィンが脱いでいることもあって、
エロティックな部分が前に出されているんだけども、見て見るとそればかりでもないんですよ。
公開時の宣伝ポスターにも使われたDVDジャケットのイメージが逆効果じゃないでしょうか。

とはいえ、ベッドシーンもねっとりしていて、いい。
ソン・ガンホは役のためにずいぶん体を絞ったらしいんですけど、その効果は絶大で非常に魅力的な神父。
とてもセクシーなんですよね。
どうしようもないボロボロのおっさんとのギャップが凄い。やっぱ、ソン・ガンホは最高ですね。

大統領の理髪師

2012-05-05 | 外国映画(た行)
★★★☆ 2004年/韓国 監督/イム・チャンサン
(DVDにて観賞)

「その場所でその時を、ただ生きる」


韓国においては、比較的現代に近い政治事件を描くのはなかなか難しい問題があるようで、
そのあたりの重さを取り払うためにか、かなり笑いの演出が盛り込まれています。
しかしね。私にはこれらのユーモアがどうも面白いと思えなくて、そこのところは好き嫌いもありましょうが、
もう少し減らして欲しいところですね。特に繰り返される便意ネタはもうええやんかとげんなりしてしまいました。
テロリストが森の中でお尻をおさえて、こそこそと逃げ回るシーンなんて、まるでドリフターズのコントのようでねえ。
私はあまり好きではないんです、この手の笑いを誘うシーン。

そこを除けば、ひょんなことで大統領の専属理髪師になった男の悲喜こもごもを庶民の視点から語る秀作だと思います。
一介の理髪師ゆえに時代の流れにのまれるままに生きるしかない男をソン・ガンホが好演しています。
そして、演技派ムン・ソリが実に平凡な主婦役。
あまりに普通なので最初、彼女だと気づきませんでした。

政治に翻弄される庶民ということなんだけど、
結局のところ、私も含めただの平凡な市民というのは、何もできない、ということなんですよね。
それをこの映画では、なすすべもなく悲嘆にくれるように描いているわけでもないし、
間違って政府に囚われた息子を取り返すために、主人公が大活躍するように描いてもいない。
ただ、ひたすら与えられた場所で粛々と生きるしかないってこと。
それが、全ての人の生きる姿であって、それを実にリアルに描いていると思う。

ブレードランナー(劇場公開版)

2012-05-04 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 1982年/アメリカ 監督/リドリー・スコット
(Blu-rayにて鑑賞)


「ナレーションがあってもいい」



「ディレクターズカット」を見てからこちらを見ると、非常にわかりやすいのでした。
冒頭「俺はレプリカントをしとめる殺し屋だった」というひと言があるだけで、
すっとこの世界に入っていけるのです。
その後続くデッカードのナレーションは時にくどいこともありますが、
私はこれはこれでわかりやすくていいんじゃないかと思ったりもする。

何せこの近未来の混沌ぶりはハンパないので、
「ディレクターズカット版」は最初から最後まで不安な気持ちが絶えない。
心の置き所がないのである。
でも、こっちの劇場版はデッカードのナレーションがあることで、
とても安心して見ていられる。

ただ、エンディングは断然ディレクターズカットを支持する。
こちらの劇場版ではドライブ中のふたりが映し出されることによって、
例えレプリカントの命が4年だとしても、ふたりは少なからず幸福なひとときを過ごせたであろうことが推測できる。
それじゃあ、つまんないよね。
手に手を取って、エレベーターで乗り込むカットで終わる「ディレクターズカット」は
ふたりの行く末が全く示されないことで観客の想像も膨らむし、
ユニコーンの折り紙が強烈な残像として残ります。

それにしても、ナレーションのあるなしでこんなに作品の印象が異なるんだなあってことを再認識しました。


ブレードランナー(ディレクターズカット)

2012-05-03 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 1982年/アメリカ 監督/リドリー・スコット
(Blu-rayにて鑑賞


「完璧なる混沌の世界」


伝説の作品を初鑑賞。
やっぱりこの世界観に尽きるんでしょうね。
未来的なタイレル社の高層ビルと新宿裏通りのような猥雑な街並み。
この混沌こそが、ブレードランナーの一番の魅力だと感じました。
ブルーレイ技術のおかげで、この近未来都市は実に美しく再現されています。

デッカードの暗い部屋の窓から差し込む空飛ぶ宣伝カーのまばゆい明かり。
そのコントラストも非常に美しい。

ヴァンゲリスの音楽もいいですね。
彼の映画音楽でこれまであんまりいいと思ったことないのですが、
この不穏なシンセサイザーの音色がとてもマッチしている。
かと思ったら、デッカードとレイチェルのシーンでは、やけに甘ったるいジャズが流れたりして。
映像もそうなんですが、こうした落差をひとつの世界観として築き上げることができるのが
リドリー・スコットの凄腕たるゆえんですね。

一方、ストーリーは「わかりやすい劇場版のナレーションを一切排した」というだけあって、
実に難解です。そもそもの設定に対して何の説明もないので、冒頭少しその世界観に入り込めなかったのも事実。
小説を読んでいた息子でさえ、全体の物語を把握するのに苦労していた様子でした。

劇場版にはないユニコーンの夢を新たに挿入したことで、
デッカードもレプリなんではないかと想像する観客が多いのもうなずけます。
たとえ、それがミスリードであっても、物語としては俄然おもしろい。
デッカードがレプリだからこそ、彼は判別テストの腕前が非常に高いんではないか、
なんて考えてしまうのでした。




プライド 栄光への絆

2012-05-02 | 外国映画(は行)
★★★☆ 2004年/アメリカ 監督/ピーター・バーグ
(DVDにて鑑賞)


「まるで日本の高校野球のよう」


1988年、テキサス州オデッサ。パーミアン高校のアメリカン・フットボール・チーム“パンサーズ”は々月のシーズン開幕を前に猛練習に励んでいた。通算5度目の州チャンピオンを目指す彼らはまた、町全体の熱狂的な期待を一身に背負っている。そんな中、将来を有望視されている者、名選手だった父の存在がプレッシャーとなっている者、控えに甘んじている者など各々事情を抱えながらシーズンに臨む選手たち。冷静さと情熱を併せ持つヘッド・コーチ、ゲインズがそんな彼らを鼓舞していく。やがてシーズン初戦、序盤は好調なパンサーズだったが…。

本国アメリカでアメリカンフットボールは高校も大学もずいぶん人気があるとは聞いていたのですけれど、
名門校を取り巻く人々のその熱狂ぶりは想像以上でした。
ましてや自分の息子がチームの一員ともなると、家族をあげて大応援。
毎日毎日、家族からも街の人々からも「次は勝てよ」と言われるそのプレッシャーたるやいかほどか。
カラダは屈強かも知れませんが、その異常なプレッシャーで高校生たちの心は今にも砕けそうなのです。
すれ違いざまに自分が高校時代に勝ち取ったチャンピオンリングを見せる。やだねーこんなおっさんいたら。

自分たちのクラブだけでなく、街の活性化や利益も生み出してしまう巨大産業。
日本の高校野球とかぶります。
将来はプロ選手にという夢もまた同じ。
映画では一人ひとりの選手にスポットライトがあたり、
その快進撃にあたかもみながプロのフットボーラーになったのかと思いきや、
そのほとんどは会社員やサービス業への道を歩む。ほろ苦い結末。

部員をまとめるコーチ役を演じるビリー・ボブ・ソントン。
周りから多大な雑音を受けながらも、寡黙にまとめていく渋いおっさん。
彼のおかげでだいぶ作品も引き締まって見えました。

ミッション:8ミニッツ

2012-05-01 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2012年/アメリカ 監督/ダンカン・ジョーンズ
(映画館にて鑑賞)


「繰り返し学習」


シカゴで発生した列車爆発事故。乗客が全員死亡した凄惨な事件を解決するために始動した政府の極秘ミッションは、犠牲者が死亡する“8分前”の意識に入り込み犯人を見つけ出すというものだった……。

上映時間94分というコンパクトな中で、サスペンス、アクション、パラレルワールド
というエンタメの要素をうまく織り交ぜながらスリリングにまとめた1本だと思います。

特定の人間の意識内にタイムスリップする。
それが、8分だけという設定がキモなんですね。
8分間ですからそれなりにいろんなことができます。
でも、ある程度の展開が転がり出すと、そろそろタイムリミット。
なかなかビミョーな時間なんですよ、8分って。

犯人を見つけ出すまで、何度も何度も同じところからやり直し。
同席する女性との会話もタイムスリップを重ねるごとに、変化していく。
同じようなシークエンスが何度も繰り返されるので
私は「バンテージ・ポイント」を思い出しました。
繰り返しのシーンって、観客もいろいろ予想が膨らむんですよね。
犯人はアイツじゃないかと予想を立てて、それが裏切られ、また同じシーンが繰り返される。
繰り返しの効果で、観客もストーリーに凄く前のめりになるんです。うまいです。