Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

記憶の棘

2011-10-25 | 外国映画(か行)
★★★★ 2004年/アメリカ 監督/ジョナサン・グレイザー

「ほんのひと刺しで崩れ落ちる心」



ずいぶん評価が割れている作品ですが、私は好きですね。

夫の生まれ変わりと言う少年ショーン。その登場シーンの不気味さ。
これから結婚する晴れがましいパーティーの席にまるで死神がやってきよう。
心がざわざわとするこのざらついた感触、ちょっとハネケ作品を思い起こさせる。
そして、コンピューターのビープ音みたいなBGM。独特の世界があります。

冒頭パーティーにやってきた友人クララがリボンを取りに帰るシークエンスが
重大なネタバレになっているのですが、
いつものごとくそういうフックに全く気づかず、ころっとしてやられてしまいました。

(以下、ややネタバレ)
ふたりだけの秘密を知っている。
たかだかそれくらいのことで、人って騙されてしまうんだな。
演出の不気味さもあって、私もそうなんじゃないかという方向へ心が揺らいでしまった。
人によっては、少年ショーンの演技に対する演出があまりにも思わせぶりなのが拒否反応を示すのかも知れないけど、
私はむしろ「僕はショーンだ」というたったひと言で、がらがらと崩壊するアナの心理状態が実に興味深いと思った。
蜂のひと刺しみたく、心の襞をツンと刺されて、アナは膝からがくんと崩れ落ちる。
年相応な男ならともかく、たかが10歳の少年と人生をやり直したいとまで。
だから、「記憶の棘」という邦題はなかなか秀逸。
もし私だったら、私の記憶のどこをひと刺しされたら、崩れ落ちてしまうのだろう、とふと考える。

ラストシークエンス、ウエディングドレス姿で精神が決壊してしまったかに見えるアナが痛ましい。
そして、何食わぬ顔で日常生活に戻る少年ショーン。とても恐ろしいエンディングではないでしょうか。