Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ヒミズ

2012-01-31 | 日本映画(は行)
★★★★★ 2011年/日本 監督/園子温
<Tジョイ京都にて観賞>


「クズみたいな大人たちの中で」


一つ一つの描写はいつもの園子温節で、残酷で陰惨なんだけれども、
東日本大震災を受けて書きかえられた人物設定や物語はより多くの人に受け入れられやすいものになっている。
園子温の映画は見た後どっと疲れる、と形容されることも多いけど、
本作では私は胸のつかえが取れたようなとてもスッキリとした快感を感じた。
例えは悪いかもしんないけど、長い便秘が終わったような。
はたまた、ゴミ屋敷をピカピカに掃除したような。
なんていうんだろ。自分の中に蓄積していた気持ち悪いものをごっそりと掻き出してもらったような感じ。

それは冒頭、教師の「世界に一つだけの花」の引用に対して「普通バンザイ!」と叫ぶ住田くんに始まり、
何か変だよな、ってみんながモヤモヤしている世の中のあれやこれやに対して
グッサグッサと刃を突きつけてくれるからだろう。
だから、わかりやすいと言えば、ものすごくわかりやすい映画だ。
「J-POP歌っているやつなんかクソだ」という描写は、園監督にしかできないよ。

上っ面だけの優しさ。
欺瞞に満ちた人間関係。
てめえのことしか考えない大人たち。

そんな日本社会の中で親に恵まれない子どもたちは、本当になす術もないのだろうか。
住田の父親も母親も人間失格で、殺されても文句の言えないようなクズだけど、
住田が心の底から殺したいのはこんな大人を黙認している日本そのもののような気がする。


主演を務めた染谷将太も二階堂ふみもとてもいい。
二階堂ふみって、宮崎あおいに似てるなあ。
回りを固めるキャストがこれまた園子温組一同に勢揃いという感じで、とっても豪華。
窪塚洋介は園作品は初参加かも知れないけど、思った通りバッチリハマってますね。

住田くんと茶沢さんが土手を走るラストシーンは、泣けて泣けてしょうがないのだった。


ザ・フォール/落下の王国

2012-01-30 | 外国映画(さ行)
★★★ 2007年/アメリカ 監督/ターセム
(DVDにて鑑賞)


「美しすぎて腑に落ちない」


1915年、ハリウッド。撮影中の事故で重傷を負い病院のベッドに横たわるスタントマン、ロイ。身体が動かず自暴自棄となり、自殺願望にとらわれていた。一方、5歳の少女アレクサンドリアは腕を骨折して入院中。じっとしていられず敷地内を歩き回っていて、ロイの病室へと辿り着くが…。

石岡瑛子さんがお亡くなりになりました。
私は彼女の媚びないデザインが好きでした。
彼女にとって日本のデザイン業界は狭すぎて、居心地悪くて、飛び出して行った。その生き方もかっこいい。
とても挑発的で、研ぎ澄まされたデザイン。
でもそれは、己の主張を通すためのデザインでは決してなかった。
最高の表現にするために、徹底的に対象物と向き合い、製作者たちと議論を重ね、
とことん削ぎ落とした産物があのとてつもなくスタイリッシュなデザインだったと思う。

ターセム監督の「ザ・セル」を初めて見た時は、圧倒的な映像美に驚きました。
石岡さんの衣裳が連続殺人犯の心の中をありのままに具現化するだけではなく、
人の精神の不可解さ、異様さをまざまざと感じさせてくれた。
石岡さんのデザインした衣裳たちが「ザ・セル」という作品自体をさらに高めていた。

ところが、この作品は「ザ・セル」を見た時の感動とはほど遠かった。
私は美しさ最優先、という方向で作られた作品も肯定しますが、
この作品は「この映像でないといけない」という理由を見つけられなかったんです。

果たして、この映像は誰の頭の中で展開されたものなんだろう。
語り手のスタントマンの男の頭の中か、果たして聞き手の少女アレクサンドリアの中か。

自殺願望の男という設定ではあるけど、
彼の創り出す妄想そのものは実に整合的で、狂気が感じられない。
聞き手の少女が創り出した脳内映像だとすると、今度は完成度が高すぎる。
何だか現実のストーリーにもおとぎ話にものめりこめない。
石岡さんのデザインした衣裳はどれも奇抜で本当に美しいのだけど、
あの架空の物語の人物たちがあのような出で立ちであらねばならない理由がわからなくて
とってもとっても残念だった。
でも、石岡瑛子の創り出した衣裳は一見の価値はあると思います。
「ザ・セル」や「ドラキュラ」を見直したくなりました。

ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い

2012-01-17 | 外国映画(は行)
★★★ 2009年/アメリカ 監督/トッド・フィリップス
(DVDにて鑑賞)


「酔っ払いは嫌い」


これがアメリカで爆発的にヒット!とか言われると、
やっぱ私はアメリカ人の感性には全くついていけない人間だな…と思ってしまう。
だって、全然笑えなかったんだもん。

前日の記憶がないという展開は一体何があったの!?と思わせて
それなりに引っ張るわけですけども、
次々と明らかにになる暴れっぷりがどれもこれも笑えない。

パトカー盗んで暴走!とか見せられても
いくら酔っ払ってても、そこまでしちゃあイカンよな。
という、こんな時には出てくるモラル感(笑)。

そもそも、ハメを外すという行為をあまり良しとしない性分なだけに
最後までノリきれなかったのであります。
しかも、ワタシ、酔っ払い男が嫌いなんだった。
どんな好きな人でも、酔っ払って吐いてるところを目撃したら、もうダメ。
全体的にも笑いのツボがハマんなくて残念でした。

マネーボール

2012-01-16 | 外国映画(ま行)
★★★☆ 2011年/アメリカ 監督/ベネット・ミラー
(DVDにて鑑賞)


「理論はあれど、プレイするのは人間」


野球大好き人間なので、かなり楽しみにしていた作品。

弱小チームが徹底的にデータ理論で強いチームに立ち向かう。
その何くそ精神は見ていて面白い。
どう見ても戦力的に劣るチームがこれほどまでに勝てるってことは、
チームスポーツってえのは、やはりメンバーの意思統一が大事なんだよね
なんてことも思わされて。
どんなクソ戦術でも、もしかしたらメンバーの一人一人が固い意思を持って動けば、
ひとつのラインには乗っかるのかも知れないね。
野球ファンなので、その辺はとても楽しめた。

だけども、ひっかかるよね。
ブラッド・ピット演じるビリー・ビーンは札束をちらつかせられて、
大学進学ではなくメジャーに入団するわけだけども、花咲かずに引退。
選手の頬を札束で殴るような行為を嫌悪しているけど
このマネーボール理論だって、選手をただの駒としか見てない戦法なんだよ。
そこに矛盾を感じる。

弱小球団だから、何よりも勝利が優先されるのは仕方ないけど、
選手も血の通った人間なんだってこと、ビリーはいちばんよくわかっているはず。
勝利のためにマネーボール理論を優先させねばならない苦悩がもっとあってもいいはずなんじゃないかと思って
どうもそれが引っかかりました。

ブラピよりもデータ分析で彼の片腕となるピーターを演じるジョナ・ヒルが良かったですね。
ビリーよりも彼の方が「本当にこの理論でやっていいのか」という葛藤を内に秘めているんじゃなかろうか。
そんな雰囲気が感じ取られる演技でした。

ブタがいた教室

2012-01-15 | 日本映画(は行)
★★★★ 2008年/日本 監督/前田哲
(DVDにて鑑賞)


「論議を呼ぶことが目的の映画」


公開当時はいろいろ議論を呼んでいました。
子どもに生き物の生死を選択をさせること自体、酷であり、教育者としてあるまじき行為。
最後まで面倒を見ることなどできないことを承知のはずで無茶苦茶な提案である。
など、担当先生への厳しい意見をたくさん読んだ。

ん、まあね。

こういう議論が起きること自体がこの映画の目的なんじゃないでしょうか。
だから、映画化した価値は十分にあったと思います。

最終的な結論を出すクラス会議のシーンは、台本は白紙だったってことで、
子どもたちは迫真の演技です。
こちらに関しても、製作者が誘導すべきで子どもたちに丸投げってどうなの?という意見があり。
まあ、人の見方はいろいろだなあ、とそんなことを考えるのにもなかなか良い映画(=題材)だと思う。

つまり、これは徹底的に問題定義の映画なんじゃないか。
そういう意味で私はとても評価している。
教頭を演じる大杉漣が常に観客目線で突っ込んでますやん。
「名前なんてつけちゃっていいの?」とかさ。
事あるごとに星先生にチクリと言ってます。
これって、そうそう教頭先生の言うとおり、と感じる常識派の人たちをフォローしてくれてるんだと思う。

映画は事実を割と忠実になぞっている。
だから、星先生の行為の是非を論じることは、
本来的にはこの映画そのものの評価することとは次元の違う話。

だけども、どうしてもそれを飛び込えてしまう。
製作者はしてやったり、だろう。

私は映画以前にテレビのドキュメンタリーを見たけど、何と勇気のある先生だろうと思った。
「命」の授業に正しい教え方なんて存在しない。
結局、子どもたちは傷ついたのだろうか。ブタを飼ったことがトラウマになったのだろうか。
私はそうは思えない。
子どもは傷つきやすいと同時に逞しい生き物だから。

自分の手を汚し、自分の頭でとことん考える。
そんな経験をしている子どもは、ほんのごく僅かだろう。
子どもや父兄の反応が怖くて、一歩も踏み出せない教師たちの中で
この人はとにもかくにも、前に動いた。とても勇気のある先生だと思う。


タクシードライバー

2012-01-14 | 外国映画(た行)
★★★★★ 1976年/アメリカ 監督/マーティン・スコセッシ
(DVDにて鑑賞)

「デニーロの目は一見の価値あり」

ベトナム帰りの青年トラヴィス・ビックルは夜の街をタクシーで流しながら、世界の不浄さに苛立ちを感じていた。大統領候補の選挙事務所に勤めるベッツィと親しくなるトラヴィスだったが、彼女をポルノ映画館に誘ったことで絶交されてしまう。やがて、闇ルートから銃を手に入れたトラヴィスは自己鍛錬を始めるが、そんな彼の胸中にひとつの計画が沸き上がる……。



スコセッシの映画って、個人的には好みじゃない。
巨匠と呼ばれている割には私の心にぐさっと来る作品ってないんだよね。
常々、なんでだろうと思い続け、彼の何と私の何が相性悪いんだろうと考え続け。
最近気づいたことは、おそらく彼のカットで鮮烈に印象づけられるものがないってことだろうと思う。
カットやシークエンスでガツン!と来るものがないのよ。
でも、これはスコセッシの中で唯一好きな作品。

やっぱ、デ・ニーロの存在感だよね。
狂犬のようなと表現されるけど、その通り。
特に目が鮮烈。
あんなギラギラした目って、やっぱ若い時にしかできないワケで、
そういう役を演じられる時にいい作品に出会えるかどうかって、
俳優の運命を左右するのかもなあ。

この作品を見た時私はジュリー主演の「太陽を盗んだ男」といろいろ比べて面白いよなと思ってたんだけど、
それぞれの脚本が兄弟だって、後から知りまして。
なんだ、そうだったんかいな、と。

やっぱ己を鍛えて、銃で武装するっていうのがいかにもアメリカっぽいよね。
トラヴィスは自己の内に世の中をぶっ壊せる何かを作り上げようとするんだけど、
片やジュリーはあくまでも原爆装置の力を借りていて、当事者意識が薄いんだよ。
もちろん、それは当時のしらけ世代と関係しているわけなんだけど。

こうした世の中への反抗をモチーフにした青春映画って、長い間受け継がれていて
最近見た「ヒミズ」にしてもその系譜に入るのかも知れない。

何に対して怒り、どう行動するのか。
それぞれの若者に心を重ねてみると、その時その時に時代というものがくっきりと浮かび上がってとても興味深い。

ザ・フライ

2012-01-13 | 外国映画(さ行)
★★★★ 1986年/アメリカ 監督/デビッド・クローネンバーグ
(DVDにて鑑賞)

「自分のものでなくなる」


クローネンバーグは好きなんだけど、グロ映画が苦手なのでずっと避けてた。
確かにだんだんハエ化していく描写は気持ち悪いことこの上ないんだけれども、
これはラブストーリーとしての側面が大きいんだね。そこんところが面白かった。
好きな男の外見が醜悪になっても、愛せるかどうかということ。

元は古典映画「蝿男の恐怖」という作品らしいけど、
ベロニカが妊娠してしまい、というくだりも同じなんでしょうか。
クローネンバーグは「内に宿す」というテーマがすごく好きだよね。
「戦慄の絆」なんて、もろ産婦人科医の話しだし。

自分の体を異形のものに乗っ取られる。
自分の精神が異形のものにむしばまれる。
クローネンバーグはずっとこのテーマを掘り下げているんだな。

体はハエ化しても、精神は人間であり続けるのか。
精神が人間であればそれで人間と言えるのか。
では、人間の本質とはどこにあるのか。
そんなことを考えさせられました。

ラブストーリーとしても例えば戦争映画でよく同じようなモチーフがあります。
好きだった男が終戦後別人のようになってしまった。それでも愛せるのか。
スサンネ・ビアの「ある愛の風景」なんかもそうだよね。
ただここで妊娠してしまう、というのがクローネンバーグっぽい。
お腹の中から蝿男が生まれてくるのか、なんて想像するだけでもグロテスク。
クローネンバーグなら、その描写も描けそうだぞ。


悪人

2012-01-12 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2010年/日本 監督/李相日

「少々タイトル負け」

決して悪くはない作品ですけれども、この年の邦画のNo.1かと言われると
そうでもないというのが正直なところでしょうか。
「悪人」というタイトルが示しているもの。
それは多くの方がご指摘されているように、
人間誰しも抱えている闇の部分がふとしたきっかけで己を悪人にしてしまうということなのでしょう。
善人と悪人の境目は曖昧で、私から見れば善人の人でも、別の人から見ればそいつは悪人になってしまう。
そうした、人生の矛盾は十分に伝わるものです。

妻夫木聡、深津絵里、柄本明、樹木希林、満島ひかり、岡田将生。
この主要6人のキャストがそれぞれの役柄を見事に演じていて、
映画ファンの目から見れば「手堅い人選」。
人気小説の映画化ということを鑑みて、ある程度の集客を狙うという意味でも完璧なキャスティングでしょうね。

ただ、この6人の中で誰が役柄に一番ハマっていないかという厳しい見方をすれば、
哀しいかな、それは妻夫木くんだったりもします。
悪役でも果敢に挑戦して殻を破りたい、という熱い気持ちが、
何度挑戦してもオスカーが取れないディカプリオにも重なったりして。

やっぱり、諸々の事情を考えると、悲劇ではあるのですが
エンターテイメント作品としての側面を大事にせざるを得なかったのかな。
「悪人」という、まるでドストエフスキーの小説みたいなタイトルなもんで、
もっと突き抜けた結末が欲しかったです。

息もできない

2012-01-11 | 外国映画(あ行)
★★★☆ 2008年/韓国 監督/ヤン・イクチュン

「痛みの行方」

情け容赦ない暴力で周囲を震え上がらせる借金の取り立て屋、サンフン。ある日、道端で唾を吐き、偶然通りかかった女子高生ヨニのネクタイを汚してしまう。見るからに強面のサンフンに対しても怯むことなく突っかかっていくヨニ。最悪な出会いを果たした2人だったが、不思議とウマが合い、奇妙な交流が始まるが…。

映画館で公開されている時から、これは衝撃作だとずいぶん話題になってた。
確かに、社会の底辺に生きる人たちのやりばのない怒りや暴力の連鎖によって逃れられない苦しみが
そりゃもう痛いほどに伝わってきて、凄いエネルギーを放っている。

なんだけれども。
私はちょっとこの手の韓国映画に飽きてきました。
監督は私財を投げ打ってこの作品を作っているわけで、
どうしてもこれを描かなきゃいけない心情もわかる。
それでも、韓国の新鋭ってところで、そろそろ暴力から脱した映画でこれは、
と思うものを見たいなと思うんである。

貧しさからも、暴力からも、もがいても、もがいても、逃れられないふたり。
悲しい事実が待ち受けていることを想像するのは容易で、思った通りの展開。
かつ、その後に示される希望は、この物語の流れからはどうしてもなじめない。
サンフンの末路からラストに至るまでの違和感がぬぐえない。

女子高生に唾を吐く、自分の子どもを殴る蹴るなど、個々の描写は凄まじいけど、
その尖りようが物語そのものには流れていなくて、少しちぐはぐした感じを受けた。

マイ・ブルーベリー・ナイツ

2012-01-10 | 外国映画(ま行)
★★★ 2007年/フランス・香港 監督/ウォン・カーウァイ

「たるかった」

「花様年華」をアメリカ風にライトに描いたらこんな感じになるんでっせ。
って、そんな作品なんでしょうかね。
延々すれ違うふたりを描いて、その距離と時間が互いの存在を認識させるという。

「ブルーベリー・パイ」なんてスイーツを恋の架け橋に使うあたり、
甘い、甘い物語なんでしょうけど、
やっぱり私はタバコの煙むせかえるよなねっとりした恋愛の方が好きだわ。

それに昔の彼が忘れられないって1年も旅する割には、
そこまで傷を負っている主人公の心に同調できないというかね。
背景もなんも見えなくて、描写が浅いよね。

まあ、ノラ・ジョーンズは映画初出演の割にはうまいしキュートです。
ノラとジュードのファンが見たら楽しい映画じゃないでしょうか。
私にはたるかったです。

人間蒸発

2012-01-09 | 日本映画(な行)
★★★★★ 1967年/日本 監督/今村昌平

「唯一無二の世界」

今村作品が好きだ。
ねっとりと蠢く人間模様。反して、鮮烈なカットが屹立する映像。
本作は、ドキュメンタリーなんだけども、凄い。凄すぎる。
ドキュメンタリーって何だ?創作との境界はどこにあるのだ?
今、こんなの撮れないよね。プライバシーも何もあったもんじゃない。
見終わってからいろんな思いが交錯して、頭の中がぐちゃぐちゃ。

物語は当初行方不明になった婚約者を探す早川佳江という女性を
追いかけるドキュメンタリーとしてスタートする。
するんだけれども、事態はとんでもない方向に進んでいく。
行方不明になった男性を追いかけるはずが、
早川佳江という女性自身の心の闇がだんだん浮き彫りになってくる。
姉との確執、そして婚約者は姉と通じていたのではないかという疑い。

そして、レポーターに扮する露口茂に対して、
なんとその女性が恋心を抱き始める。
その揺れるさまをカメラは如実にとらえはじめる。

「この被写体は面白い」今村監督が思い始めたのは果たして撮影期間中であったのか。
それとも、当初からこうした狙いをもって取り始めているのか。

和室のひと部屋で心の内を切々に訴える早川佳江。
ところが、監督のひと声で、彼女の周りの壁があっという間に取り払われる。
カメラがどんどん引いてゆくとなんとそこはセットだった。

撮影されるという立ち位置が決まったら、
撮られし者は誰もが女優になってしまうのか。
カメラを構える。そう決まった時から撮影者は貪欲に対象者をえぐる運命なのか。

嘘と真の境界が果てしなく曖昧になっていく。
今村監督にしか描けない世界に圧倒される。


RED/レッド

2012-01-08 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★ 2010年/アメリカ 監督/ロベルト・シュヴェンケ

「じいさん、ばあさんの無茶苦茶したれ」

わしらにもまだまだできるとばかりに銃は撃ちまくるわ、爆発しまくるわ。
まあ、年寄りがんばってんなーと温かい目で見守る老人映画なんでしょうか。
年金をもらっているブルース・ウィルスが、
電話だけの交流で年金担当者の女性と恋に落ちてしまう
プラトニックぶりをお茶目と見るか、トホホと見るか。

老人映画花盛りな昨今ですから、
まじめに老いや死を考えるのもいいけど、
ばかばかしいアクション映画があってもいいんじゃないか。
そういう軽いノリですね。

モーガン・フリーマン(1937年生まれ)やヘレン・ミレン(1945年生まれ)と同じような老人扱いが
ブルース・ウィルス(1955年生まれ)にとってはどうなの?という気がしましたが、
その辺はもう開き直りなんでしょうか。
とても伸び伸びと演技しております。
ブルース・ウィルスのこれくらいの肩の力の抜け加減が
いちばん彼の魅力が出るんじゃないかと思いますね。

電話の声でしか相手を知らないのにいきなり超過激な逃避行に巻き込まれて、
どんどん相手の事が好きになってしまう「吊り橋効果」のおねえちゃんに笑えます。



風花

2012-01-07 | 日本映画(か行)
★★★★ 2000年/日本 監督/相米慎二

「寂しさに寄り添う者たち」

子どもを故郷に残し東京で働く風俗嬢の女と落ちぶれたキャリア官僚のロードムービー。
そのプロットから何となく作品全体のイメージが想像されてしまって。
まあ、ドライブして寂しい景色でも見ているうちに、
孤独なふたりの心が結びつきあうんだろうなと、ふんふん、そういう話だよな、
と何だかわかったような気がして、ずいぶん見るのを先延ばしにしていたんだよね。
これはある程度映画を見ている人間の悪い癖かも知れない。

でも、やっぱり映画は見てみないとわからないわけで、とても良かったです。
小泉今日子はドラマに出るとさっぱりだけど、映画だとすごくいい。
これは、なんでだろう。
彼女の佇まいって、ある程度時間をかけてカメラが追いかけると醸し出されてくるものがあるんだよね。
ドラマのようにカット割りが多いと、彼女の魅力は出てこない。そんな感じがする。

「寂しい」その切なさが静かに見ている人の心に侵入してくる。
しかし、人は誰かと一緒にいると、そのひと時だけ寂しさから解放される。
それが例え見知らぬ人であったとしても。

小泉今日子と淺野忠信、ふたりのぶっきらぼうな関係。
それは中途半端な優しさなど、相手を少しも癒さないということを知っているから。
ふたりがたどり着くさびれたペンションの描写も秀逸。
季節労働者のようなしがないおっさんばかりが宿客で、
オーナーは毎年恒例のひとり時代劇を披露する。
このダサイ感がたまらない。
酔客に「プロなんだろ?」と接客を迫られるゆり子。
どこへ逃げても自分がみじめな人間だということを思い知ったのだろうか、
死を決意したゆり子が風花舞う冷たい雪の上で静かに踊るシーンがとても幻想的。



ションベン・ライダー

2012-01-06 | 日本映画(さ行)
★★★☆ 1983年/日本 監督/相米慎二

「アントキの中学生」

勝手なイメージでこれが相米監督のデビュー作だと思ってたんだよね。
なぜかというと、学生の自主映画みたいなノリでとても荒削りな作品だから。
もちろん、それが魅力になっているのは言うまでもない。

でも「翔んだカップル」や「セーラー服」の後に作られた作品なんだね。知らなかった。

大好きなカメラを手に入れて、無我夢中で撮った。
そんなみずみずしさにあふれている。
ぴあフィルムフェスティバルで学生たちの作品が入賞したりするじゃない?
あんな感じなんだよね。

本当ならそのたどたどしさが稚拙に感じられるかもしれない
河合美智子や永瀬正敏のセリフまわしも魅力的にうつる。
大人という壁に全力で突撃する中学生たち。
「大人は判ってくれない」。
このモチーフはその後の「台風クラブ」で大きな実を結ぶんだね。

性に目覚め、大人になろうとしている彼らだけど
自分たちがまだ子どもであること、その無力さも知っている。
もがいても、もがいても、大人は相手になんかしれくれない。
ちぇっ、なんだよ、バカヤロー。

そんな中で藤竜也演じるヤクザだけが自分たちを大人扱いしれくれる。
この藤竜也の雰囲気がすごくいいんだよねー。

今そうやってもがいている中学生っているんだろうか。
今の子たちにとって、大人と自分たちとの境界線はとても曖昧だ。
「大人」とは本来、不可解で無寛容な存在なはずで、
だからこそ、その存在の際だちを壁と捉えてきた。
でも、今の子たちにとって、大人はそれだけの存在感を示しているんだろうか。
ふと、そんなことを考えてしまった。


ニューイヤーズ・イブ

2012-01-05 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★ 2011年/アメリカ 監督/ゲイリー・マーシャル
<梅田ステーションシネマにて鑑賞>


「思った通りで、それ以下でも以上でもなく」


(激しくネタバレ)
この手の映画を映画館で見るのはひっさしぶり。
なんか、何も考えないでいい映画を見たかったんですよね。

でも…。
確かにお気楽に楽しめるのはそうなんだけど、
やっぱり全体的にベタなノリが私の好みではない。
悪くはないんだけど。

唯一、ハル・ベリーのくだりで泣きそうになりましたがね。
この人は本当に美しい。

やっぱ、日頃からアメリカ映画に慣れ親しんでいる人が見たらもっと面白いんだろうな。
キャストの数が相当ですからね。
みんなが入れ替わり、立ち替わり。誰と誰がどう結びつくのか見守りながら見る。
これって、ある程度それぞれの俳優に対する興味が知識があればあるほどいいんだと思う。
キャサリン・ハイグルとか、ジェシカ・ビールあたりの布陣も日頃アメリカ映画でお見かけする女優さん
という知識がないと、それぞれの役回りに対する愛着が持てないよね。
なんせ、人数が多いだけにそれぞれの人物の描写が少ないからさ。

あとは音楽かな…。音楽の入り方が、さあ盛り上がりますよ~ってところで
その通りの音楽が入るもんで、なんかしらけちゃうんだな。

最後にいちばんおいしいところをサラ・ジェシカ・パーカーがもってっちゃうってのが
納得イカン。そこが大きいかも。

NYのカウントダウンは、一回参加してみたいと前々から思っていたんですけど
あの盛り上がりっぷりは楽しめました。