Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

Arc アーク

2021-06-26 | 日本映画(あ行)
★★★ 2021年/日本 監督/石川慶

遺体を美しいまま保存するプラスティネーション技術とそれをアートのように仕上げるボディワークスの独創的な表現には惹きつけられた。しかし、この独創性が仇となったか、前半と後半で断絶されたような感。説明を排除した静かな佇まいは理解できるが、もう少し感情的に揺さぶられたかった

近未来のアーティスティックな表現は監督の感性が存分に活かされ非常に面白い一方、残念なのは記者会見のシーン。どうして邦画は会見シーンがこうもチープになってしまうのだろうか。世界観を維持するディテールの大切さを感じる。様々な役割を演じ分ける芳根京子の魅力は堪能。

ただ、人間の苦悩を台詞ではなく演技で納得させるという点においては、蜜蜂と遠雷における松岡茉優のすごさを改めて思い知らされた。

アメリカン・ユートピア

2021-06-26 | 外国映画(あ行)
★★★★★ 2020年/アメリカ 監督/スパイク・リー

最高! キャッチコピーの「一生に一度の至福の体験」は間違いではない。一人ひとりのパフォーマーがキレキレの演奏で極上の音楽をもたらす。ワイヤレス環境で縦横無尽に舞台を動き回る、その美しさ。斬新な演出、ダンス、照明。まさに総合芸術。Once in a lifetimeで号泣。

正面、俯瞰、ロング、クロースアップ。ライブの臨場感をビシバシ伝えるカメラがすばらしい。劇中カメラは全く映り込まず、没入感も相当なもの。ほとんどライブに行けない日々が続く今、こんなすばらしいものを見せてもらえたことに感謝。最新の技術がもたらしてくれる最高のライブ体験。必見。

判決、ふたつの希望

2021-06-24 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 2017年/レバノン・フランス 監督/ジアド・ドゥエイリ

配管工事の水がかかった、かからないのいざこざが国を揺るがす政治闘争へと発展。身近な話題から切り込み、中東が抱える宗教・政治の闇を万人に理解させ、ハラハラさせる脚本が見事。レバノン?ようわからん…な人でも問題なしの秀作。裁判映画でこれほど高揚したのは久しぶりだ。

中東問題や難民についての知識が乏しい自分でも最後までほとんど何の疑問も持たずに追うことができた。とにかく脚本がすばらしい。「謝れ」「いや、謝らない」という一見大人気ない行為の裏側。後半の裁判劇で明かされる意外な真実。根深い政治問題だがエンタメ作品としても一級品。

ストップ・メイキング・センス

2021-06-22 | 外国映画(さ行)
★★★★ 1984年/アメリカ 監督/ジョナサン・デミ

一台のラジカセからリズムが流れる。1人また1人とメンバーが現れ、やがて狂おしいほどに見る者を高揚させる凄まじいグルーブ。デビッドバーンのパフォーマーとしての天才性をとことん見せつける。なぜ人は音楽を聴くのか。その理由がここにある。ライブ映画の金字塔。

リアル世代だが当時の私はトーキングヘッズに対してはその哲学的で抽象的な詩の世界やビジュアルイメージも相まって、スカしたバンドというイメージがあった。しかし本作公開時にその先入観は打ち砕かれた。久しぶりに見直したがあの時よりもエモいこの感情はなんだ。2021の今、バーンの詩が胸に来る。

記者たち 衝撃と畏怖の真実

2021-06-21 | 外国映画(か行)
★★★☆ 2017年/アメリカ 監督/ロブ・ライナー

イラクに大量兵器はなかった。大手新聞が政府見解を垂れ流しにする中、地道な取材で隠された真実を暴く。911が起きた直後からイラクを攻撃する(したい)という説が政府内で発生していたという事実に驚愕。しかし映画的には実にあっさりとした進行で物足りなさも残った。

瞳の奥に 

2021-06-19 | TVドラマ(海外)
Netflixドラマ

スティーブンキングが原作を絶賛という触れ込みで見たけど、残念案件。ラストのオチはそれなの?というちょっとした驚きはあるけど、謎を引っ張るばかりでドラマとしての魅力が乏しい。悪夢とか精神病院とか、それらしいアイテムを散りばめるだけじゃあイカンでしょ。

his

2021-06-18 | 日本映画(は行)
★★★★ 2020年/日本 監督/今泉力哉

ゲイの恋人を通じて描く、子育てとは?家庭とは?という普遍的な物語。田舎だからこそ偏見もあるし、そう上手くはいかないだろうと思うが、それでも希望を持ちたいという前向きな展開が心地いい。女だって子育てはうまくいかないことにもスポットを当てる、その公平な視点も好きだ。

「his」というタイトルに惹かれる。彼の子供、彼の元妻、彼の悲しみ、彼の喜び…。それらを共有することから始めようという意味だろうか。いろいろと想像して楽しんでしまう。子役の女の子の素直な演技が良かった。子供の素直な言葉に大人はいつもハッとさせられるもんだよね。

ボクらを見る目

2021-06-17 | TVドラマ(海外)
★★★★ Netflix

5人の黒人少年が強姦事件の冤罪で逮捕される。こんな無理筋が通るのかという、白人警官による取り調べ中の脅しと自白強要。少年ゆえに大人の言うことに従ってしまう、その先の地獄たるや。これが実話なのかと何度も目を疑った。少年期、青年期を演じるキャストも熱演。

原題は「When They See Us」。黒人の仕業に違いないと決めつける先入観、黒人のせいにすればいいという身勝手さ。常にそうした悪意に晒され続ける彼らの苦悩が胸に迫る。無実を知りながら「白人警官の言うことを聞いて刑務所に入った方がいい」と言う親もいる。その彼らを取り巻く環境があまりに悲しい。

わたしたち

2021-06-16 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2016年/韓国 監督/ユン・ガウン

小学4年の少女たちの人間模様。いじめ、仲間はずれ、嫉妬、喧嘩。しかし、一つひとつの体験が外側の世界に通じる扉になる。友達間のよくある話なのに実にスリリングな脚本。ミサンガ、マニキュア、絆創膏などの子供アイテムが見事に彼女らの心情を表現し、物語をドライブさせる。傑作。

カメラは常に主人公のソンを捉え続ける。尺の半分以上と言っても過言ではなかろう。そのソンの表情。喜び、翳り、憂い、気づき。微細な表情の変化で、物語が進んでいく。実に高難度技。なのに、全く気取らず我々の少年少女時代を回想せずにはいられない温かみも持ち合わせる。すばらしい作品。

悪人伝

2021-06-15 | 外国映画(あ行)
★★★☆ 2019年/韓国 監督/イ・ウォンテ

まんまアウトレイジなオープニングにニヤつく。ヤクザと刑事とサイコパスが三つ巴で血みどろ合戦。マドンソクの厚みに圧倒され、勢いだけで突っ走るかと思いきや、死刑制度にも切り込む。科捜研みたいな2時間ドラマなノリもご愛嬌。全部載せでお腹いっぱいにさせてくれる韓国エンタメに満足。

ブラックバード

2021-06-14 | 外国映画(は行)
★★★★ 2019年/アメリカ・イギリス 監督/ロジャー・ミッシェル

安楽死を選択した母。最期の日を過ごすために家族が集まってくる。究極の選択を前にそれぞれの思いが交錯し、隠されていた事実が露わになる。構造的な既視感はあるが、冒頭からラストまで家族間の小さいさざ波が引いては押しての繰り返し。緻密な脚本で引き込まれた。秀作。

ワンシチュエーションだからこそ、場としての「家」が重要だが、これが実に魅力的。いい建築が出ると作品の印象が格段に上がるので嬉しい誤算。作中では明かされないがリリーの病名はALSと思われ、昨今日本でも衝撃的な事件もあり、静かな佇まいだがテーマは多くの問題を孕んでいると思う。

一人っ子の国

2021-06-08 | 外国映画(は行)
★★★★ 2019年/アメリカ 監督/ナンフー・ワン ジアリン・チャン

一人っ子政策の悪影響を様々な角度からえぐる問題作。おぞましい事実の連続で身の毛がよだつ。特に不妊治療を受けさせるため、村の男が嫌がる女性たちを次々と医者の家まで引きずる映像は戦慄。バースコントロールを政府が行うことがいかに恐ろしいかを突きつける。必見。

子1人と決められると何が起きるか。国をかけた壮大な実験結果のよう。男の子が欲しいため、捨てられる嬰児。監視人となる村人。何より恐ろしいのは、当の女性も含めこれらの事実を「政府の方針だから仕方なかった」と人々は吐露する。真面目にそう思ってる。近年のドキュメンタリーで断トツの恐ろしさ

オーシャンズ8

2021-06-07 | 外国映画(あ行)
★★★ 2018年/アメリカ 監督/ゲイリー・ロス

いろいろとヌルい。このヌルさが作品の魅力になれば良かったがそうはいかず残念。女性だけで作ること自体に意義はあると思う。が、これだけのメンツを集めるのなら、それぞれの俳優の個性をさらに際立たせたり、意外性を持たせるような挑戦があっても良かった。もったいない。

ケイトブランシェットのメンズライクな出で立ちはお約束だったと思われ。この徹底したイケメンぶりは見たいものが見れた満足感はある。ただ、それでもなあ。もうひと押し、ふた押し足りない。特にアンハサウェイの扱いが雑な脚本どうなの。キャストが集まった時点で息切れしたのかと勘ぐりたくなる。



AWAKE

2021-06-06 | 日本映画(あ行)
★★★☆ 2019年/日本 監督/山田篤宏

天才の苦悩とか人間とAIの対決!のようなカタルシスを作れるのに敢えて外すのが粋ではないか。主演以外のキャスティングもいい意味で地味。ゆえにライバル2人が自然にクローズアップされる。暗い性格の猫背な棋士。そのやりすぎない吉沢亮の役作りがすばらしい。受けて立つ若葉竜也も。

人間とAIが勝負することの意義は何か?まで足を突っ込むと、おそらく物語はぶれてしまう。いろんな引き算がうまくいっている作品ではないだろうか。対決物のアゲアゲ気分を味わいたい人には物足りないかもしれないが、夢破れた青年がごくごく普通の日常を生きるという着地も実に好ましい。

ボーダー 二つの世界

2021-06-05 | 外国映画(は行)
★★★☆ 2018年/スウェーデン・デンマーク 監督/アリ・アッバシ

人間の感情を嗅ぎ分ける特殊能力を持つティーナと彼女の前に現れた不思議な男ボーレ。動物的な見た目や生活ぶり。彼らは一体何者なのか。生々しい映像表現が唯一無二。どうしたらこんな奇抜な物語が紡げるのかと思ったら200歳のエリの原作者と知って納得。北欧映画のレンジの広さに感服。
 
異形の者が人間世界に馴染めぬ話ということでは古くは狼男でもあり、北欧神話などを下敷きにした昨今のアメコミとの共通性も感じさせる。ギョッとする映像表現の連続ではあるが、様々な見方ができるのがすごい。