Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

そうして私たちはプールに金魚を、

2022-01-20 | 日本映画(さ行)
★★★★☆  2016年/日本 監督/長久允

たまらんね、このセンス。思春期の醒めた感覚、どうせ人生なんてという中学生の厭世観を綴るセリフの洪水とポップな色とりどりの映像。そしてメタ構造。ただの馬鹿騒ぎではない知性も感じさせる。何とキュートで魅力的な作品。

激動の昭和史 沖縄決戦

2021-08-15 | 日本映画(さ行)
★★★★★ 1971年/日本 監督/岡本喜八

とめどなく続く爆発と炎上にそれを裏打ちするデータがかぶさる。容赦ない残酷描写と演者たちから漂う悲壮感。鑑賞者も沖縄の火の中に放り込まれる。戦争の惨さや軍人の無力さに気持ちも沈むが、キレのいい編集で一気に見せる岡本喜八の手腕。戦争大作の大傑作。

その場を生きているかのような俳優陣もすばらしいし、時折インサートされる兵士たちの遺書に胸が締め付けられる。それらはあまりに生々しい。戦時期を生き抜いた人間だからこそできる演出ではないだろうか。沖縄戦終結が6月末。それでも原爆投下を抑えられなかったのはなぜかと考えずにはいられない。

志乃ちゃんは自分の名前が言えない

2021-08-07 | 日本映画(さ行)
★★★☆ 2017年/日本 監督/湯浅弘章

言葉を話せない、歌えない、周囲に馴染めない。できない者同士で友情を育むのかと思いきや、そうはならない展開がいい。傷を舐めあう友人よりも、まず自分を認めることから始めなきゃ。饒舌なセリフも少なく、表情や仕草だけで繊細な心情を伝える主演二人が天晴。


最初の晩餐

2021-08-01 | 日本映画(さ行)
★★★☆ 2018年/日本 監督/常盤司郎

父の葬儀で久しぶりに家族が集まる。なぜ兄は家を出たのか、次第にわかる真相。葬儀を起点にした家族の再生物語はありがちなだが、人間ドラマとしての引力の所以は永瀬正敏と斉藤由貴。永瀬正敏の病人演技の説得力よ。そして私生活のあれやこれやを彷彿とさせ、凌駕する斉藤由貴の凄み。

作品批評とはズレるが、個人的には家族の問題を子供に何も話さず、家族が崩壊する話が好きではない。子供にも知る権利があると思うからだ。親がどう生きようが自由だが、付き合わされる子供には言葉を尽くして欲しい。子供が子供のうちに親ときちんと対話する物語が邦画には少ないように感じる。

すばらしき世界

2021-03-02 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2021年/日本 監督/西川美和

正義を声高に叫べば生き難く、しかし我慢の積み重ねもまた心を蝕む。この世界には寛容と不寛容があふれている。さあ、あなたはどう生きるかと突きつけてくる。ほんの少しの優しさが生きる道しるべになるのなら、私はそちらの側にいたい。文字通り世界はすばらしいと私は受け止めた。

脇役陣みなすばらしい演技だが、私が一番印象に残ったのは六角精児。親父が同郷という親近感であれこれ世話を焼いてくれる。まっすぐで人のいいおじさんぶり、こういう存在がどれほど大事か。クセはあるが時に可愛らしく見える元ヤクザを演じる役所広司はさすがの一言。新たな代表作の誕生ですね。

洗骨

2021-03-01 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2018年/日本 監督/照屋年之

風葬の後、骨を洗う「洗骨」という風習を通じ、壊れた家族が絆を取り戻し、命を繋ぐすばらしさを描く人間賛歌。沖縄の美しい自然を捉えるロングショット、テンポいいセリフ運びとユーモア溢れるやりとり、そして満を持して迎える圧巻の洗骨シーン。お見事。見終わって思わず拍手。

蓋を開けた時は息を呑んだ洗骨シーン。敬意を持って撮影しているのがよくわかる。綿密なリサーチと地元の協力。沖縄出身監督だからできたのかもしれない。それにしてもガレッジセールのゴリさんとは。だって、脚本もすばらしい。ブランコのロングショットなんて巨匠の風格ですよ。大した才能で驚いた。



サマータイムマシン・ブルース 

2021-01-07 | 日本映画(さ行)
★★★☆ 2005年/日本 監督/本広克行

昨年ドロステ見たので久しぶりに再見 壊れたリモコンを取り戻すためタイムマシンで昨日と今日を行き来するコメディ。肩の力抜いて楽しめる。瑛太や上野樹里は覚えていたがムロツヨシ(若い!)もいたか。ヨーロッパ企画、同じ事をずっとやってるのが偉い。継続は力なり。

劇中、何度も「タイムマシンには矛盾がある」というセリフ。そこは置いといて楽しもうと割り切って鑑賞できる。BTTFオマージュもあちこちに散見。よって未来から来たアイツの正体も容易に推測できるがそこはご愛嬌。ヨーロッパ企画の面々も全員勢揃いじゃないか。みんな若いよ!

さよならくちびる

2021-01-06 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2019年/日本 監督/塩田明彦

邦画に出ずっぱりの(ある種見飽きたとも言える)3人だが、この生き生きとしたリアリティはどうだ。演出本も出している塩田監督だが解散ツアーを時系列で描くというオーソドックスさゆえに、3名の演技に魂が宿ったように思える。ハルレオ、何と魅力的。メロディが頭から離れない。

しつこいようだが。将来見えなくてぐずってる、みたいな役は成田凌も散々やっているし、他作品と何か演技が変わっているかというとそうでもないし。じゃあ何が違うかというと、この3人の醸し出す空気感としか言えない。この三角関係は最高。見てて解散が辛くなってきたもん。映画館で見たかったなー。

2020-12-21 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2018年/日本 監督/武正晴

偶然銃を拾った大学生のトオルはいつか誰かを撃つのだという強迫観念にとらわれる。トオルはいつ、誰に銃口を向けるのか。モノクロの映像が緊張感を増幅させ、ついに訪れるその瞬間の映像的な変化が見る者に強烈な余韻を残す。まるでATGのような“今”の邦画の手触りとは全く異なる作風にやられた。

主人公トオルの人物造形が実に魅力的。武器を手に入れた虚無感は太陽を盗んだ男のジュリーみたいだし、友人を見下したりガールフレンドを弄ぶニヒリストっぷりは若い頃の仲代達矢みたいだし。そんな複雑なキャラを見事に演じる村上虹郎恐るべし。しかも待ちに待った村上淳との共演があれ。食らった。

本作でもリリーフランキーの得体の知れなさが炸裂。この空気感は誰にも真似できない。彼が出るとそこからもう物語世界が歪むというか、異なる位相に行ってしまう感じ。やはり、リリーフランキー出演作品は見逃せない。

スパイの妻

2020-10-28 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2020年/日本 監督/黒沢清

人間のおぞましさ、そして狂気と裏腹の愛。そこに、気味の悪い死体や不気味なフィルムという黒沢らしさが加わり、今まで見たことのない夫婦愛映画に。私こそ夫と運命を共にするのにふさわしい。退屈な日常を捨て、狂気に走る妻を演じる蒼井優が「お見事!」でした。

恐怖描写が少ないだけに本作で監督賞はファンとしては残念…と思っていたが、いま考えるに、これ「寝ても覚めても」の濱口監督らしい脚本で、人の脚本をいかに黒沢的に演出・撮影したかというのが見て取れる。なので監督賞がふさわしいんだなと納得。でもやっぱりもっと怖い黒沢が好きです。

しとやかな獣

2020-09-15 | 日本映画(さ行)
★★★★★ 1962年/日本 監督/川島雄三

最高やねん。金しか頭にない欲望むき出しの人間が織りなすブラックコメディ。公営団地の部屋で展開されるカメラアングルの多彩さ。あんなアングル!こんなアングル!狂言でダンス、階段上り下りシーケンスのアバンギャルドさ。唯一無二の作家性に触れた時に勝る映画鑑賞の悦びはない。



37セカンズ

2020-05-18 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2019年/日本 監督/HIKARI

世界は矛盾に満ち、時に徹底的に無関心であり、徹底的に好奇心むき出しである。しかし、自分を一人の人間として扱う人に出会えるかどうか。それが鍵だ。そういう人を見極め、積極的に関わっていけば世界は広がる。束縛や搾取から自立する女性の物語として誰しも共感できる力強い作品。

HIKARI監督、本作が長編デビュー作だというのに、脇役陣の使い方が最高にうまい。そして、チョイスがめちゃくちゃツウ好みである。板谷由夏、渡辺真起子、宇野祥平。一瞬しか出ない尾美としのり、渋川清彦もすごくいい。みんな自然体の演技が板についている。

当て書きだという主演の佳山明さんの体当たりの演技の素晴らしさは言わずもがな。これから、どういう活動をされていくのだろう。

しゃぼん玉

2019-11-21 | 日本映画(さ行)
★★★★ 2016年/日本 監督/東伸児

強盗犯が田舎の自然と人に触れて改心…というよくある話。しかし市原悦子扮するスマが #林遣都 演ずる伊豆見を呼ぶ「坊」という声、全てを赦し慈しむその声を聞くだけでも見るべきと断言したい。繰り返される「ぼうはええこじゃ」に観客はそれぞれの過去の過ちから解き放たれるのだ。

通り魔に遭い田舎に戻ってきた若い女性の行く末を描ききれていない点は不満が残るのだが、それを凌駕する市原悦子の佇まい。遺作になったのは偶然だが、彼女のこれまでの役者人生が凝縮されたような役どころで田舎の老女の朗らかさとその裏にある諦めを見事に表現し、スマそのものとして存在している。

親の愛を知らない伊豆見を演じるにあたり #林遣都 がひどい箸の持ち方にした事はファンの間では有名な話。スマに会い、人としての心を取り戻していく様を好演している。本作での市原悦子や銀二貫での津川雅彦など既に鬼籍に入った名優との共演で得たものが確実に俳優としての幅や深みとなっているはず

ジャッカルの日

2019-11-16 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 1973年/アメリカ 監督/フレッド・ジンネマン

ドゴール暗殺計画を描いたサスペンス映画の傑作。早々に警察が計画をキャッチするので果たして暗殺できるのかという緊張感が肝の映画とは思いますが。それよりジャッカルですよ。Dボウイみたいな端正な顔の英国イケメンが粛々と、徹底的に冷酷に計画を進める様子に痺れた。ジャッカルとは一体何者だったのか。謎に包まれるエンディングにふさわしい、エドワード・フォックスの淡々とした演技が見事にハマっている。

上意討ち 拝領妻始末

2019-07-19 | 日本映画(さ行)
★★★★★ 1967年/日本 監督/小林正樹

(WOWOW録画)

大傑作。冒頭、城の外壁を切り取る映像がスタイリッシュで驚く。その後も全カットがきりりとコントラストの効いたモノクローム映像で構図もバチバチに決まっている。物語にもハラハラしてさすが橋本忍。カメラ、美術、脚本、チャンバラ。全部最高で非の打ち所なし。

殿様の意向で人生を左右される悲哀は現代社会にも十分通じるし、特筆すべきは女性映画としても申し分ないこと。男社会の勝手でモノ扱いされるいち(司葉子)の存在は大きな比重を占め、かつ彼女がしっかり自分の主張を通す女としてキャラ付けされていることに驚く。1967年製作とはとても思えない。

それに三船敏郎&加藤剛の「うちの嫁最高!」な言動がたまらん。2人のフェミニストっぷりは泣く。全ての男たちにこうあって欲しいわ!と大興奮。三船&仲代の関係はBL視点でも十分楽しめるし、決闘シーンの殺陣はさすがのひと言。どこからどう見ても完璧。「切腹」より断然ハマった。