Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

舟を編む

2014-01-01 | 日本映画(は行)
★★★★ 2013年/日本 監督/石井裕也
(DVDにて鑑賞)

「夫婦の物語の側面には物足りなさ」

いい話だな。うん。
小さな小さなことを15年間積み上げて、辞書という舟を大海原に放つのさ。
地味な仕事が大きな輝きを見せることに、働くことのすばらしさも感じさせてくれる。
松田龍平のイケテない男もいい演技だ。
オダギリくんのこういう軽い役もいいね。

しかし、宮崎あおいがなあ。。
演技が悪いということではなく、この夫婦の味が伝わってこないのさ。
まじめくんの仕事っぷりのストーリーがいい分、
夫婦の物語にサイドストーリーとしての輝きがないんだよね。
妻が板前という特殊な職業に就いている分、何かそこに面白さを見つけたかったんだけど。

パーマネント野ばら

2013-09-11 | 日本映画(は行)
★★★★☆ 2010年/日本 監督/吉田大八
(DVDにて鑑賞)

「切なく、エロく、逞しく」

ものすごく良かった。早く見るんだったと後悔。
西原理恵子&吉田大八で好物なのはわかっていたのに、
カンノちゃんのDVDジャケットを見て、どうもかもめ食堂とか、食堂カタツムリとか、
あっちの癒やし系かと敬遠してた。そしたら、これがえらい毒のある話で。
これまたどんでん返しにすっかりやられました。
それぞれのオンナの人生が生き生きと描かれていて、吉田大八らしい作風にも満足。
エロいワードがバンバン出てくるのだが、これがちゃんと意味を成しているのもよいです。



武士の家計簿

2013-09-07 | 日本映画(は行)
★★★★ 2010年/日本 監督/森田芳光
(DVDにて鑑賞)

「今だからこそやらねばならない普通の映画作り」


晩年の森田監督は、ごく普通の映画を普通に撮ることに腐心してきたように思う。
変化球を挟むことなく、全休ストレート勝負。そんな感じだ。
本作にしても、そろばんバカと言われた侍の一代記だが、
やりようによってはもっとコメディに振ったり、
そろばんに命をかける侍のペーソスを出したりできそうなんだけど、敢えてそれはしない。

老若男女を問わず、全ての人が同じ視点から感じられる哀しみや笑い。
清貧に生きたひとりの男の慎ましい、しかしぶれない人生の手応えを全ての人が同じ温度で共有できる。
そういう作品作りを目指していたのではないか。

僕たち急行」でも森繁の「社長シリーズ」を意識していたということなので、
良き時代の日本映画を取り戻したいという気持ちが森田監督には強かったんではなかろうかと思うのです。
そこが「アーティスト」に感じられるただの懐古趣味とは違う。
あるべき物、やって当たり前のことがなくなってしまった現代の映画作りに
普通の映画を作って警鐘を鳴らしているような気がしてならない。

ポテチ

2013-05-19 | 日本映画(は行)
★★★ 2012年/日本 監督/中村義洋
(WOWOWにて鑑賞)


「踏み込まないかっこ悪さ」

68分という短さだから見やすいがしかし物足りない。
という前にこれ、単に尺が短いから物足りないのか?という根本的な疑問がわき起こる。
中村監督が伊坂作品を撮る時のいつものスカした感じの作品。
すっごく真面目な話を敢えてサラッと描きましたよ、でもそこに人生の深淵が見えるだろ?
と言われても、もっと突っ込まんかい!と思ってしまう私。

どうなんでしょ、これが今風ってことなのか。

アメリカ映画だと、たぶんジェイソン・ライトマンなんかもそういう作風だと思うんだけど、
(人生の奥深さをライトタッチで描くみたいなさ)
彼の作品に比べるとずいぶん浅く感じるよね。

もしかしたら、自分と母親は血が繋がってないかも、
というアイデンティティー・クライシスにまつわるストーリー。
主人公と周辺人物の綾を描くことに力を入れすぎていて、
(もちろん作風としては力を抜いているようにがんばって見せている)
根っこの部分には怖くて触れないという感じが否めないんだよね。
うまく描けないから避けてるみたいな。
いつまで、中村監督はこの調子で行くのかな。
そろそろ、すかしはやめて、腹くくって大事なところに切り込まないといけないんじゃないかな。

へルタースケルター

2013-01-29 | 日本映画(は行)
★★ 2012年/日本 監督/蜷川実花
(映画館にて鑑賞)



「何故の慟哭」



何もなかった80年代。
そう揶揄された時代にそれなりに思いを抱え、悩み、生きてきた。
そんな時にきら星のごとく現れた岡崎京子という作家。彼女は、80年代から90年代にかけてサブカルの寵児だった。
「PINK」でズギュンと打たれて、「リバーズ・エッジ」でえぐられ、「へルター・スケルター」で全部持って行かれた。
「へルター・スケルター」の最終回が発行されまもなく事故に遭い、その後彼女の漫画を読むことはできなくなった。
岡崎京子は「へルター・スケルター」と共に伝説になった。

原作を読んでいる方はおわかりだろうけど、岡崎漫画はデヴィッド・リンチの影響を色濃く受けている。
現実と妄想の境目にあるカーテンのある部屋で優雅にソファに座り、りりこを迎える麻田検事。
彼は、もちろんカイル・マクラクランが演じるクーパー刑事。むろんそのカーテンの色は赤だろうとつい脳が補完してしまう。
発刊当時からこの作品をリンチが映画化してくれないだろうかと何度願ったことか。
本気でリンチに手紙を書こうと思ったこともあったくらいだ。
それがよりによって、蜷川実花とは。
廣木隆一だったらいいのに。園子温だったらいいのに。吉田大八だったらいいのに。中島哲也だったらいいのに。
いくらでも、この世界観をわかってくれる監督はいるじゃないか。なのに、なぜ。

どうしたらここまで、というほどのろまな演出とガヤガヤとうるさいだけの極彩色の映像。
全てのシーンが1本調子で現実と虚像の境目にある亀裂など微塵も感じさせない。
「演出はとろいのに、映像はうるさい」という見事なちぐはぐっぷりだ。
そして、おそらく出資してくれる出版社や今後の写真集との兼ね合いだろう。
延々と続くスタジオでの撮影シーンにうんざりする。127分という上映時間がどれほど長く感じたことか。
そして、この映画はまるで死の匂いがしない。
全身美容整形の「りりこ」が滅びる様は、頂点を迎えた究極の美が方向転換をしてひたすら死に向かうカウントダウンなのだ。
しかし、映像はいつまでも極彩色にこだわり、その裏に隠された真っ黒なものを見せようとはしない。
全身美容整形の女の子が己の体の保持ができなくなり、ただ狂っていくだけだ。
原作漫画ではたびたび無音の高層ビルや工事現場の絵がインサートされ、滅びゆく美を呑み込む都市を浮かび上がらせるのに。
壮絶なラストシーンの改変もただ残念としかいいようがない。
原作でりりこが会見場に残した「あれ」こそ、「へルター・スケルター」のみならず岡崎京子がほとんどの作品でこだわり続けてきたものだからだ。
「あれ」を見せないラストシーンに至って、やはり蜷川実花は岡崎漫画をわかっていないのだなと了解した。

りりこを演じる沢尻エリカは熱演だ。キャラクター自身本人とかぶるところもあって、復帰作に選んだ理由はわかる。
が、いかんせん演出が1本調子なのがいけない。女の脆さや底知れない怪しさ、逞しさと言ったものが全くあぶり出されていない。
本作を機に本格的に「女優として」再スタートを切れたかというと全くそんなことはなく、
むしろ脱いでくれるのが沢尻エリカしかいなかったからという目でしか見られないのは、ただの脱ぎ損。
それは全て監督の責任だろう。
桃井かおりと寺島しのぶはさすがだと思った。監督に支持されなくても、自力でキャラクターの内面を創り上げている。
水原希子もピッタリのキャスティングだった。

虚しい気持ちでエンディングを迎えていた時、私の隣にいたギャル風の2人連れが「わからん」とつぶやいて去って行った。
そうだ、そうなのだ。岡崎が描き続けてきた虚しい消費社会の姿がこれではないか。
「へルター・スケルター」という作品そのものもまた、大衆によってもみくちゃにされ、消費されたのだ。
この皮肉な結果こそ、世紀の怪作「へルター・スケルター」が身をもって示したかということなのだろうか。
これもまた真なりと、私は受け入れられるか。
否。
やはり無理だ。そんなに器の大きいファンじゃない。
「へルター・スケルター」を現代に引きずり出して、晒し者にして、ズタズタにされたという怒りにも似た気持ちに抗えない。
なぜ、蜷川実花だったのかと無意味な叫びを繰り返すしかないのだった。


僕達急行 A列車で行こう

2013-01-24 | 日本映画(は行)
★★★★☆ 2011年/日本 監督/森田芳光
(DVDにて観賞)


「ハンケチ落とし祭って何だよ?!(笑)」


森田監督の遺作になってしまったわけですが、とても好きですね、この感じ。
テンポはいいし。笑いどころもきっちり押さえてるし。オタクネタなのに、全然嫌みがない。
これが流行の漫画とかベストセラーの映画化ではなくて、
オリジナル脚本ということがすばらしい。
日本の映画界は非常に惜しい才能を失ったと思う。

森田芳光監督って、作品の出来映えの差が激しいと言われているけど、
(私もそう思う)
それは元々彼がマルチな話題に取り組める監督だからだったからじゃないだろうか。
いろんな題材にチャレンジして、巨匠然とせず、普通の人が普通に楽しめる映画作りを貫いてきたと思う。
そんな監督って、今見渡すと例えば堤幸彦監督とかになるのかな。
うーん、何か違う気がする。。。悲しいね。

本作は鉄ヲタを演じる瑛大と松山ケンイチのふたりの若手俳優が
のびのび演技しているのも見どころのひとつ。
私はタモリ倶楽部をよく見るんですけど、中でも鉄道特集が好き。
鉄道には全く詳しくないんだけど、
何が面白いかというと大好きな趣味について必死に語っている人を見ているのが楽しい。
鉄道に限らず好きなものが、実利から離れていればいるほど、
人間のフェチな部分がクローズアップされて、こういう細部を愛でる人間のおかしみが際立つ。
そうした変だけど愛おしい鉄オタの挙動に森田監督は結構ベタな効果音を乗せたりとか、
行きつけのキャバレーでホステスたちが客と戯れる「ハンケチ落とし祭」とか、
何だか人を食ったようなふざけたディテールが積み重ねられていて、森田監督らしいなと思う。

後半の展開はかなりご都合主義で、それをありきたり、思った通りでつまらない、
と言う人もいるだろう。でも、そのご都合的なノリも含めて、誰もが楽しめる一作、
しかもそれが遺作というところに感慨を覚えるのだ。


ヒミズ

2012-01-31 | 日本映画(は行)
★★★★★ 2011年/日本 監督/園子温
<Tジョイ京都にて観賞>


「クズみたいな大人たちの中で」


一つ一つの描写はいつもの園子温節で、残酷で陰惨なんだけれども、
東日本大震災を受けて書きかえられた人物設定や物語はより多くの人に受け入れられやすいものになっている。
園子温の映画は見た後どっと疲れる、と形容されることも多いけど、
本作では私は胸のつかえが取れたようなとてもスッキリとした快感を感じた。
例えは悪いかもしんないけど、長い便秘が終わったような。
はたまた、ゴミ屋敷をピカピカに掃除したような。
なんていうんだろ。自分の中に蓄積していた気持ち悪いものをごっそりと掻き出してもらったような感じ。

それは冒頭、教師の「世界に一つだけの花」の引用に対して「普通バンザイ!」と叫ぶ住田くんに始まり、
何か変だよな、ってみんながモヤモヤしている世の中のあれやこれやに対して
グッサグッサと刃を突きつけてくれるからだろう。
だから、わかりやすいと言えば、ものすごくわかりやすい映画だ。
「J-POP歌っているやつなんかクソだ」という描写は、園監督にしかできないよ。

上っ面だけの優しさ。
欺瞞に満ちた人間関係。
てめえのことしか考えない大人たち。

そんな日本社会の中で親に恵まれない子どもたちは、本当になす術もないのだろうか。
住田の父親も母親も人間失格で、殺されても文句の言えないようなクズだけど、
住田が心の底から殺したいのはこんな大人を黙認している日本そのもののような気がする。


主演を務めた染谷将太も二階堂ふみもとてもいい。
二階堂ふみって、宮崎あおいに似てるなあ。
回りを固めるキャストがこれまた園子温組一同に勢揃いという感じで、とっても豪華。
窪塚洋介は園作品は初参加かも知れないけど、思った通りバッチリハマってますね。

住田くんと茶沢さんが土手を走るラストシーンは、泣けて泣けてしょうがないのだった。


ブタがいた教室

2012-01-15 | 日本映画(は行)
★★★★ 2008年/日本 監督/前田哲
(DVDにて鑑賞)


「論議を呼ぶことが目的の映画」


公開当時はいろいろ議論を呼んでいました。
子どもに生き物の生死を選択をさせること自体、酷であり、教育者としてあるまじき行為。
最後まで面倒を見ることなどできないことを承知のはずで無茶苦茶な提案である。
など、担当先生への厳しい意見をたくさん読んだ。

ん、まあね。

こういう議論が起きること自体がこの映画の目的なんじゃないでしょうか。
だから、映画化した価値は十分にあったと思います。

最終的な結論を出すクラス会議のシーンは、台本は白紙だったってことで、
子どもたちは迫真の演技です。
こちらに関しても、製作者が誘導すべきで子どもたちに丸投げってどうなの?という意見があり。
まあ、人の見方はいろいろだなあ、とそんなことを考えるのにもなかなか良い映画(=題材)だと思う。

つまり、これは徹底的に問題定義の映画なんじゃないか。
そういう意味で私はとても評価している。
教頭を演じる大杉漣が常に観客目線で突っ込んでますやん。
「名前なんてつけちゃっていいの?」とかさ。
事あるごとに星先生にチクリと言ってます。
これって、そうそう教頭先生の言うとおり、と感じる常識派の人たちをフォローしてくれてるんだと思う。

映画は事実を割と忠実になぞっている。
だから、星先生の行為の是非を論じることは、
本来的にはこの映画そのものの評価することとは次元の違う話。

だけども、どうしてもそれを飛び込えてしまう。
製作者はしてやったり、だろう。

私は映画以前にテレビのドキュメンタリーを見たけど、何と勇気のある先生だろうと思った。
「命」の授業に正しい教え方なんて存在しない。
結局、子どもたちは傷ついたのだろうか。ブタを飼ったことがトラウマになったのだろうか。
私はそうは思えない。
子どもは傷つきやすいと同時に逞しい生き物だから。

自分の手を汚し、自分の頭でとことん考える。
そんな経験をしている子どもは、ほんのごく僅かだろう。
子どもや父兄の反応が怖くて、一歩も踏み出せない教師たちの中で
この人はとにもかくにも、前に動いた。とても勇気のある先生だと思う。


バッシング

2011-03-08 | 日本映画(は行)
★★★★ 2005年/日本 監督/小林政広

「想像のスタートライン」

「誰も守ってくれない」を見て、いい比較になると思い、この作品を思い出しました。あちらで疑問なり、煮え切らないものを持たれた方にお勧めします。本作は一時期社会的にも大きな問題となった、イラク人質事件が題材になっています。ボランティアとしてイラクに赴くも、テロ組織の人質となり、日本政府が身代金を支払うことで解放されたあの事件です。当時「自己責任」という言葉がクローズアップされたことを多くの方が覚えているでしょう。

さて、本作はとても特異な映画です。それは、主人公の境遇が全く説明されないまま、物語が始まるということです。しかも、人質事件以降、ある程度の月日(それも、どれくらい経っているのか全く不明)が経っており、主人公の暮らしも性格も相当すさんでいる。すさみ切っている。のっけから、全く同情できないシチュエーションで物語が進むのです。

マスコミにどんな報道のされ方をしたのか、正義感を気取った大衆がどんな仕打ちをしたのか。彼女自身、どんな思いでイラクに旅立ったのか。映画の中では、全く描かれない。だから、我々は想像するしかないんです。なぜこの女性がこんな風になってしまったのかを。これは、なかなか厳しい作業です。だって、目の前の女性の第一印象は最悪なんですもの。

だからこそ、観客にとっては彼女の来し方を想像しようという意欲を問う踏み絵のような作品。
想像できますか?ではなく、想像しようというスタートラインに立てますか?ということなんですね。

コンビニでぶっきらぼうにおでんを買うシーンが印象的。もし、私が店員ならこんな客には間違いなく不快感を覚えるでしょう。このお客の人生の裏側を想像しようなんて、決して思わないでしょう。だからこのシークエンスは、観客に対する挑戦、問いかけなのです。

マスコミの視点も、大衆の視点も、政府の視点もない。すさんだ環境の中でぶつける先のない怒りと矛盾を己の中に溜め込む女性主人公の日々が淡々と描かれるだけ。その視点の偏りが是か非か、というのは、これはもう、観る人の価値観次第なのですが、彼女の絶望的なまでの人間不信は間違いなく伝わるのです。

僕の彼女はサイボーグ

2010-11-21 | 日本映画(は行)
★★★ 2008年/日本 監督/クァク・ジェヨン

「とんがりおっぱいの残像」

「猟奇的な彼女」のイメージでお願いします。っていう企画だったんだろうなあ。最初に主人公二人が出会って、愛を育むあたりは、韓国映画よろしくこっちが恥ずかしくなるような浮き足ムード全開。そうした光景も「これはよその国の出来事だから」なんて脳が言い訳すれば、意外とすんなり入り込めるんだろうけど、やっぱ日本映画だぞっていう前提があるとかなりの違和感を感じてしまう。

しかし、サイボーグを演じるのが綾瀬はるかってのは、絶妙のキャスティングでしょう。彼女、演技に感情表現が乏しいし、無機質っぽい感じがぴったり合ってると思う。加えて、何ですか、あのおっぱいのとんがり具合は。いかにも、フィギュアをそのまま人間サイズに拡大したかのような出で立ち。「サイボーグはるか」のキュートさが何とか作品を引っ張っているんじゃないでしょうか。しかし、裏を返せばそれぐらいしか印象が残らないってことで。

相手役の小出恵介にもう少しコミカルな演技の魅力があれば、もう少し変わったのかも知れません。コメディを演じるという点においては、韓国の俳優の方が断然うまいですね。また、主人公の少年時代の田舎の風景が一体いつの時代?という描写だったのも興醒め。ツッコミどころ満載ゆえにそれを笑って楽しめる映画もありますが、大真面目に作られているようなので突っ込みようにも突っ込めないトホホな気分で終了。

パコと魔法の絵本

2010-11-17 | 日本映画(は行)
★★★☆ 2008年/日本 監督/中島哲也

「観客を驚かせたい」

怒濤のカラフル攻撃。次から次へとド派手なキャラクターが登場して飲めや歌えの大騒ぎで、まるでリオのカーニバルのよう。そのパワーたるや圧倒的なんだけども、これ、ハマル人とそうでない人がいるんじゃないかなあ。私は残念ながら後者の方で最初の30分くらいでお腹いっぱいになって、後半は疲れました。この感想「嫌われ松子」と同じだぞ。

でも、中島監督ってのは面白いですね。彼はCM出身なんだけど、CM作りってのは必ず「商品を売りたいターゲット」ってのが存在するでしょう?でも彼の映画を観る限り、映画制作に関してはターゲットを全く置いていないように見える。むしろ、ターゲットを絞ることで作品の自由度を失うことを最も嫌っているのではないだろうか。この作品にしても「子供向け」とか「子供向けだけど大人も楽しめる」とか、そういうターゲット層を意識した言葉ではうまく表せないんだもの。

「観客を驚かせたい」。それが中島監督のポリシーなのかもね。または「今まで見たこともないものを見せたい」とか。ところどころ、ティム・バートンとかディズニーを思い起こさせるような部分もあるんだけど、そこにヤンキーもパンクもゴスロリもぶちこんで、独自の世界観を作ってる。AKBのPVも話題だし、チャレンジャーですね、中島監督は。それにしても小池栄子がぶっとんでたなあ。夢に出てきて追いかけられそうだわ。

包帯クラブ

2010-05-17 | 日本映画(は行)
★★★★☆ 2007年/日本 監督/堤幸彦

「人の痛みなんてわかるわけないさ」


そんなの当たり前じゃないか。辛いことも苦しいことも他人が100%共有できるなんて、ありっこないよ。その前提を了解した上で、何とか役に立ちたい、笑わせてやりたい、って思うのが人間同士なんだよな。と、つい青臭いことを屋上で叫びたくなるようないい映画でした。これは、めっけものです。

何か吹っ切れたような柳楽優弥の怪演っぷりがとにかく最高です。変な関西弁をしゃべる自傷癖のある暴れん坊ですが、人生にやさぐれているという役どころだけでなく、こりゃもう演技がヤケクソです。どうにでもなれと言った感満々で、その開き直り具合が感動的ですらあります。

そして、手すりや鉄棒など、無機質な物体にひらひらと白い包帯が舞う。その映像がとても美しい。包帯を巻くシークエンスが、モノが感情を持ったような、命が吹き込まれたような瞬間に見えるのです。このアイデアはすばらしい。原作がすでに映像的なんでしょうか。読みたくなりました。

ネット社会の中傷などどんよりした展開になるけど、サバサバした演出で観賞後も爽やかな後口が残ります。ちょっとスネた役どころゆえ、石原さとみちゃんのタラコ唇もバッチリ合ってて、実にキュート。天然キャラの貫地谷しほりも愛らしく、若手俳優陣が生き生きとスクリーンを駆け回っているのが心地よい。初めて堤幸彦作品で面白いものに出会えました。


ハンサム・スーツ

2010-04-04 | 日本映画(は行)
★★☆ 2008年/日本 監督/英勉

「何もかもバラバラ」


「ブサイク男がハンサム・スーツを着て、イケメンに変身したらどうなるか」というアイデアが最初にあっただけ。脚本も音楽もなーんにも、詰め切れずに見切り発車で映画を作ってしまった。「バブルへGO!」の悪夢が蘇る。また、同じセリフ言っていいですか?

企画書、書き直してこい!

ああ、スッキリ。見た目じゃなくて中身が大事ってことがいいたいのはさあ、もう見始めて15分でわかるわけよ。そのオチに向かって物語が進んでいくのは百も承知なのさ。そこに、どうサイドストリーで彩りを加えるかじゃないの、肝心なのは。腹立たしかったのは、車椅子の男性が登場してくることよねえ。人は見かけじゃないってことを語る時に身障者の人を登場人物として加えるのは、とてもデリケートな問題じゃないのかなあ。どうして彼の存在があるのか、製作者は映画の中できちんと説明しないといけないよ。

それから音楽。何で渡辺美里の「マイ・レボリューション」なんだい?コンセプトにはあってるかも知れないけど、これ思いっきり80年代ソングの代表だよ。でも、エンディングは東京ガールズコレクション。ターゲット思いっきりティーンエージャーじゃん。それであの主題歌はないよなあ。

とにかく作品を構成する全てのピースに一貫性がない。つぎはぎだらけの企画物映画。そんな感じでした。あんなにクリアなデジタル画像で塚地のアップはキツ過ぎる。楽しんだ人、ごめんなさい。



ハッピー・フライト

2010-03-07 | 日本映画(は行)
★★★ 2008年/日本 監督/矢口史靖

「当確線上の映画作り」

矢口監督って、いい意味でも悪い意味でも「ウォーターボーイズ」の成功でいろんなものをしょわされているような気がしてならない。軽いテンポで楽しい作品が作れるという周りの期待だとか、群像劇風に面白いものが作れて当然という認識だとか。でも、本作を見ての正直な感想は(大成功だったと言われている)「スウィングガールズ」とほぼ同じ。個々の人物の掘り下げが甘くて、波乱が起きるわりにはエンディングにかけてのカタルシスが乏しい。

映画館を出て「つまらない」という感想になる類の作品ではないと思う。エンタメとして、何とか及第点がつく(例えば、ぴあの出口調査とかさ)ラインを維持するための映画作り。そんな風に思えてしまうのは私だけだろうか。その印象を持ってしまうのは、脚本の練りが今ひとつ、ふたつということ。

飛行機が落ちるかも知れないという事柄のハラハラ感はさておき、パイロット、キャビンアテンダント、グランドホステス、管制塔員など、飛行機を取りまく人物達の悲喜こもごもは、その役職の中で完結している。彼らが交錯することで意外な展開が生まれるわけではない。飛行場にはいろんな人が勤めていて、それぞれが任務を果たすことで飛行機は無事に飛んでいるんですよ、はいおしまい。その無難な展開が何とも物足りないのだった。



ホームレス中学生

2010-02-04 | 日本映画(は行)
★★★★☆ 2008年/日本 監督/古厩智之  

「もう一つの“大阪物語”」


なかなか厳しい評価も散見するが、カメラがとてもいい。家族が解散してから、やたらとウンコネタが連発されるが、カメラはとても上品だ。主人公のぐるりを静かに回り、時折遠くから見守る。そして、ほとんどローアングル。文字通り、地面を這いつくばっていきる裕と同じ目線でカメラはゆっくりと動く。とても優しい目。そして、兄弟3人の暮らしが始まり、銭湯の前で待ち合わせをして家路に着く時、姉の幸子がぽつりとつぶやく。「あたし今ちょっと幸せやわ」。そこで、今まで地面をうろついていたカメラがするすると上昇し、少し高いところから姉と弟の後ろ姿をとらえるのだ。

正面アングルの巻きフン公園や、絶妙なタイミングで入る料理のアップといった短いカットしかり、部活帰りの中坊がブラブラ歩いていて友人がスクリーン右側から捌けると後ろからオトンの自転車が現れるといったシークエンスしかり、非常に見心地が良く、映画らしいカメラワークにあふれている。また、小池徹平23歳で、中学生。池脇千鶴28歳で、高校生。キンコン西野29歳で大学生。このキャスティングは大した度胸だと思う。しかも、大阪が舞台で田中裕子と池脇千鶴って、亡くなった市川準監督「大阪物語」へのオマージュじゃないかしら。「大阪物語」は夫婦漫才の話だし、夫は典型的なダメ男(演じる沢田研二がこれまた最高にいい味)。トーンもよく似ている。

後半の転調ぶりも見事だと思う。身近な女性の死によって、母の死をまともに受け止められなかった小さい頃の傷がじわじわと疼き出すという、まるで「ラースと、その彼女」ばりの展開。家ナシ、飯ナシ、便所ナシの頃は、ただひたすら食って生きることで必死だったのに、そうした飢餓の危機を乗り越えると、とたんにくよくよ悩んだりし始める。これ、何気に人間の本質を突いてはいまいか。

さてと。

古厩監督は、本作で「これを一番伝えたい」という見せ方は何一つしていないと思う。子供の逞しさを前面に出したいわけでもなく、市井の人々の人情を前面に出したいわけでもない。キャラクターやエピソードに食い込むというより、むしろ引いて演出している。人によっては、中途半端と感じる演出だろうし、好き嫌いも分かれるかも知れない。でも、私はこの絶妙な引き具合が好きだったりする。120分の中に、キラリとした輝きが2度3度あればそれで十分。そんな思いで古厩監督は映画を撮っているんじゃないだろうか。

最近、麒麟の田村くんはテレビに出ては、このオトンに家を買ってあげたから(番組の企画で再会したらしい)、印税はほとんど残ってないと話している。子供を捨てて、ダンボール食わしたオトンでっせ、みなさん。何とも、血の繋がりとは不思議なものよ。そして田村くんが会うんじゃなかったと思っているのか、何があっても父は父と思っているのか。そんなことは、誰にもわからない。でも、もしこの作品が人情味あふれる感動作に仕上がっていたら、田村くんが印税でオトンに家を買ってあげたという事実とはたぶんしっくり来ない。そんな気がしてならないのだ。