落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

花火降る夏

1999年07月25日 | movie
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この映画のテーマは「中年世代の香港返還」。
前作『メイド・イン・ホンコン』で「少年たちの香港返還」を凄絶なまでに美しく鋭利な 映像詩に表現した陳果(フルーツ・チャン)監督の?V作です。
主人公は返還に伴って解散した香港駐留英国軍中国人部隊の退役軍人たち。
職もアイデンティティも失った彼らが、返還の混乱にもまれ喘ぎ苦しみながらも 新生香港に生き場所を求める物語です。

冒頭、地下鉄に乗った松葉杖の少年が登場します。彼の顔には弾丸の大きな穴が 開いていて、そこから向こうの風景が見えています(ココすげー怖いです)。
この少年とその顔の穴が、物語にどう関わっていくのかはずっと後にならなければ 分からないのですが、香港映画に多用される単なるフラッシュバックではない、非常に この映画を明確に象徴した、上手いオープニングシーンだと思いました。

この映画で描かれる大きな要素は、この冒頭シーンでも分かる通り暴力と犯罪です。
でもそれだけではない。そこには家族問題、少年の非行、絶望的に落ち込んでいく経済、 中国政府に対する香港人たちの不安と期待の入り交?カった奇妙な感情、と云った現在の 香港が抱えている現実の問題がありありと鮮やかに描かれています。
そしてそれらは、何も香港だけではなく、現代社会の普遍的な問題とも云えるテーマです。

映像も素晴しいです。香港の街を、これまでのどんな映像作家とも違った視点で、しかも どの香港映画よりも魅力的にとらえています。
この映画には観たことのない香港が、最上級に香港らしい香港が映っています。

キャストもほとんどは無名の俳優ばかりですが、非常に味のあるお芝居をしています。
またキャラクターにまつわる細かなエピソードの描写も非の打ちどころが無い。素晴しい。
スターもなくロマンスもなく画面を飾るのは返還セレモニーの夥しい花火だけ、 香港返還をテーマにした数限り無い映画の中で、最も「香港返還」映画と呼ぶに 相応しい映画です。