『少年H』
1941年、神戸で仕立て屋を営む妹尾家では、アメリカに帰国する宣教師から譲られた洋食器で食事をする習慣が始まる。向かいのうどん屋の兄ちゃん(小栗旬)が共産主義者の容疑で逮捕され、出征したはずの男ねえちゃん(早乙女太一)は自殺。幼い肇(吉岡竜輝)もクリスチャンだというだけで学校でいじめに遭い、遠い外国で起きている戦争が一家の生活に暗い影を落とし始めるのだが、仕事柄さまざまな在日外国人とふれあう父(水谷豊)は「戦争はいつか終わる。戦争が終わったとき、恥ずかしい人間になっとったら、あかんよ」と息子を諭すのだった。
妹尾河童の自伝的小説の映画化。
この原作は確か10年以上前に一度ドラマ化されていて、その当時は男ねえちゃんを演じた窪塚洋介がとにかくものすごいインパクトだったことしか覚えてないんですけども。あとになって観たいなーと思ったんだけど、このドラマ版はソフト化されてないんだよね。なんか大人の事情があるみたいで。窪塚洋介すごかったんだけど。ぐりの中の窪塚洋介伝説。誰か覚えてる人いないかな。
閑話休題。
原作の方は読んでないし、妹尾氏に関しても高校生くらいの頃に何冊か著書を読んだきりなので何も知らないし、物語に関しては何の思い入れもないんだけど。じゃあなんでわざわざ観に行ったかっつーとロケ地ね(ここ)。
ここは明治末期に建てられた日本毛織加古川工場の社宅で、建てられて100年ほど経ったいまもほぼそのまま社宅として利用されている。当時としてはかなり立派な、しっかりした建物ばかり、それも店舗や史跡でもない一般の民家ばかりの住宅街が何ブロックもそっくり残った風景はまるでタイムスリップでもしたみたいな雰囲気で、いま思えば、日清/日露戦争と大陸への侵略が始まろうとしていた軍国主義下で、防寒に優れたウールの軍服を大量生産する目的で毛織工場も軍需産業化し始めたがために、これほどまでに充実した社宅が建設されたのではないかと思う。実は工場そのものも総煉瓦造りの非常に壮麗な建物ばかりだったのだが、老朽化のために徐々に取り壊され、いまはごく一部しか残っていない。この社宅も含めて観光地化や文化財としての保存を求める声は大きいのだが企業側にはその意志はなく、このままいけば早晩この貴重な風景は姿を消す運命にある。
ぐりの母校はこの社宅の隣にあって、ぐり自身3年間この社宅の中を通って通学していた。その当時はこの社宅の存在を知る人はほとんどなく、いまのように映像作品のロケ地に利用され始めたのはインターネットが普及し、建物マニアたちの探訪記でしばしば取り上げられるようになってからではないだろうか。
『少年H』では一家の教会通いのシーンに登場するこの街の価値がもっとひろく知られるようになって、できることなら、ちゃんとここの存在意義をもっと大切に考えてもらえるようになればいいと思う。何しろこんな場所、ほかにそうそうないんだから。
映画自体は正直にいってとくに印象的な作品ではない。
キャストは豪華だし、お金もかかってるし、すごく誠実にしっかりとつくられた立派な映画だとは思うけど、大変申し訳ないが、来月あたりにこの映画のことを思い出してくれといわれたらたぶん無理だと思う。決して悪い映画じゃない。でも、結局何がいいたかったのかというメッセージ性とそのロジックのどこにも、ぐりはオリジナリティを感じることはできなかった。
とくにがっかりしてしまったのは、終戦後、食料を隣人たちに分けようとする母(伊藤蘭)にHが激しく反抗するシーン。熱心なクリスチャンという設定の彼女だが、このシーンを含め、その信仰がただ盲信的なだけでしっかりとした精神的な根拠が具体的に描写される場面がまったくない。とくに説明は必要ないかもしれないけど、せめて最後には、女性として人間として、もっと毅然とした態度で長男を納得させてほしかった。そういうのを邦画に求める方が間違ってるのかもしれませんけども。
ただ子役の演技は非常に素晴らしかった。大人の価値観に振り回されるH少年の怒り、悲しみ、孤独。彼だけでなく、妹・好子を演じた花田優里音や、H少年の級友たちの演技力にも感動しました。最近の子役はスゴイね。びっくりです。
おそらくはこの映画は、ぐりのようなすれた大人ではなく、彼・彼女たちのように素直な若い心をもった観客のためのものなのだろう。正義とは何か、自分にとってほんとうに大切なものを守り、追求していく生き方とは何か、たくさんのヒントを必要とする人たちにとっては、とてもストレートなメッセージ性のある映画だと思います。是非ご家族で観るといいんじゃないでしょうか。
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1941年、神戸で仕立て屋を営む妹尾家では、アメリカに帰国する宣教師から譲られた洋食器で食事をする習慣が始まる。向かいのうどん屋の兄ちゃん(小栗旬)が共産主義者の容疑で逮捕され、出征したはずの男ねえちゃん(早乙女太一)は自殺。幼い肇(吉岡竜輝)もクリスチャンだというだけで学校でいじめに遭い、遠い外国で起きている戦争が一家の生活に暗い影を落とし始めるのだが、仕事柄さまざまな在日外国人とふれあう父(水谷豊)は「戦争はいつか終わる。戦争が終わったとき、恥ずかしい人間になっとったら、あかんよ」と息子を諭すのだった。
妹尾河童の自伝的小説の映画化。
この原作は確か10年以上前に一度ドラマ化されていて、その当時は男ねえちゃんを演じた窪塚洋介がとにかくものすごいインパクトだったことしか覚えてないんですけども。あとになって観たいなーと思ったんだけど、このドラマ版はソフト化されてないんだよね。なんか大人の事情があるみたいで。窪塚洋介すごかったんだけど。ぐりの中の窪塚洋介伝説。誰か覚えてる人いないかな。
閑話休題。
原作の方は読んでないし、妹尾氏に関しても高校生くらいの頃に何冊か著書を読んだきりなので何も知らないし、物語に関しては何の思い入れもないんだけど。じゃあなんでわざわざ観に行ったかっつーとロケ地ね(ここ)。
ここは明治末期に建てられた日本毛織加古川工場の社宅で、建てられて100年ほど経ったいまもほぼそのまま社宅として利用されている。当時としてはかなり立派な、しっかりした建物ばかり、それも店舗や史跡でもない一般の民家ばかりの住宅街が何ブロックもそっくり残った風景はまるでタイムスリップでもしたみたいな雰囲気で、いま思えば、日清/日露戦争と大陸への侵略が始まろうとしていた軍国主義下で、防寒に優れたウールの軍服を大量生産する目的で毛織工場も軍需産業化し始めたがために、これほどまでに充実した社宅が建設されたのではないかと思う。実は工場そのものも総煉瓦造りの非常に壮麗な建物ばかりだったのだが、老朽化のために徐々に取り壊され、いまはごく一部しか残っていない。この社宅も含めて観光地化や文化財としての保存を求める声は大きいのだが企業側にはその意志はなく、このままいけば早晩この貴重な風景は姿を消す運命にある。
ぐりの母校はこの社宅の隣にあって、ぐり自身3年間この社宅の中を通って通学していた。その当時はこの社宅の存在を知る人はほとんどなく、いまのように映像作品のロケ地に利用され始めたのはインターネットが普及し、建物マニアたちの探訪記でしばしば取り上げられるようになってからではないだろうか。
『少年H』では一家の教会通いのシーンに登場するこの街の価値がもっとひろく知られるようになって、できることなら、ちゃんとここの存在意義をもっと大切に考えてもらえるようになればいいと思う。何しろこんな場所、ほかにそうそうないんだから。
映画自体は正直にいってとくに印象的な作品ではない。
キャストは豪華だし、お金もかかってるし、すごく誠実にしっかりとつくられた立派な映画だとは思うけど、大変申し訳ないが、来月あたりにこの映画のことを思い出してくれといわれたらたぶん無理だと思う。決して悪い映画じゃない。でも、結局何がいいたかったのかというメッセージ性とそのロジックのどこにも、ぐりはオリジナリティを感じることはできなかった。
とくにがっかりしてしまったのは、終戦後、食料を隣人たちに分けようとする母(伊藤蘭)にHが激しく反抗するシーン。熱心なクリスチャンという設定の彼女だが、このシーンを含め、その信仰がただ盲信的なだけでしっかりとした精神的な根拠が具体的に描写される場面がまったくない。とくに説明は必要ないかもしれないけど、せめて最後には、女性として人間として、もっと毅然とした態度で長男を納得させてほしかった。そういうのを邦画に求める方が間違ってるのかもしれませんけども。
ただ子役の演技は非常に素晴らしかった。大人の価値観に振り回されるH少年の怒り、悲しみ、孤独。彼だけでなく、妹・好子を演じた花田優里音や、H少年の級友たちの演技力にも感動しました。最近の子役はスゴイね。びっくりです。
おそらくはこの映画は、ぐりのようなすれた大人ではなく、彼・彼女たちのように素直な若い心をもった観客のためのものなのだろう。正義とは何か、自分にとってほんとうに大切なものを守り、追求していく生き方とは何か、たくさんのヒントを必要とする人たちにとっては、とてもストレートなメッセージ性のある映画だと思います。是非ご家族で観るといいんじゃないでしょうか。
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