『ヒトラーの忘れもの』
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1945年、デンマーク。
ラスムスン軍曹(ローラン・ムラ)はユトランド半島の海岸線にナチスが埋設した150万の地雷を除去するよう指示されたドイツ兵捕虜を指揮するが、14名全員が年端もいかない少年兵ばかり。常に爆発事故の危険にさらされながら続けられる作業の緊迫感と、満足な補給も休息もない過酷な状況下で、子どもたちは3ヶ月後の計画終了と帰郷を心待ちに、日々を堪え忍ぶのだが・・・。
デンマークでも語られてこなかった負の歴史の史実をもとにしたドイツとの合作映画。
戦争を始めるのは簡単だけど、終わるのはとても難しい。
そして始める人間は大抵ずっと安全なところにいて、終わらせる任務を担う人間は常に生命の危機に瀕している。
人が民族という共同体を形成し、宗教や言語の壁を挟んで争うようになった遥か過去から、その真理は不変のままだ。
この物語でその犠牲者になるのは、いまでいえばせいぜい中学生ぐらいの少年たちである。みるからにあどけなくおどおどと頼りない彼らが、明けても暮れても毎日毎日砂浜に這いつくばって震える手で地面の下の地雷を探り、掘り返して処理するシーンが延々続く。
台詞は無茶苦茶少ないし、音楽もほとんど使用されない。聞こえるのは吹きすさぶ海風の音と、軍曹の厳しい命令の声ぐらいなものである。
落ち着きません。こんなに落ち着かない映画があるもんかってくらい、究極に落ち着かない。
それでもこの映画が美しいのは、北欧映画独特の色あいと光に満ちた圧倒的な映像美によるものだろう。
季節設定が5〜8月で日が長く、軍曹が「寝ろ」と命じる消灯時間でも辺りはかんかん照りの真昼の明るさである。彼らが任務に就く海辺には軍曹が下宿する小さな農家がたった一軒、雪のように白い砂浜が広がる海岸線はつるりとまっすぐで、そこに青い波がはたはたと穏やかに打ち寄せている。
もうむちゃくちゃ綺麗です。すんごい綺麗。絵のようななんて陳腐な表現しか思いつけないのが残念だけど、ほんとにアンドリュー・ワイエスの絵みたいなんだよね。燃えさかるように明るいのに寂しげで、悲しいほど荒涼としているのに叙情的。
そこで働く子どもたちはみんなぼろぼろに疲れてよごれてるんだけど、それでもとてもかわいい。冒頭、暗い軍用トラックの座席で、彼らの蒼い瞳がキラキラと光る場面がある。ひとことの台詞もない陰鬱なそのシークエンスから、年齢も風貌もそれぞれ違う子どもたちの、どれほど惨めな状況でもほとばしる無垢な魂の輝きと滴るような生命力が、画面の向こうから胸に直に突き刺さってくる。
どうしてこんな小さな子どもが、残虐な戦争の尻拭いをしなければならないのか。どんな大義名分もどこにも残っていないのに。どうして彼らを、誰もまもってくれなかったんだろう。
軍曹は子どもたちをあくまでも捕虜として冷徹に指揮する。その態度には一片の呵責もない。なにしろ子どもたちは彼の部下ですらない。餓死しようが爆死しようがいっこうに構わない。
子どもとはいえ彼らはナチス・ドイツの兵士である。デンマークはドイツと交戦はしなかったが、1940年から5年の間占領され軍政下に置かれていた。紛うかたなき敵であることに間違いはない。
だが世の中のしくみと人の感情とはべつもので、下宿先の農婦母子以外に外部との接触が極端に少ない閉鎖的な環境の中で、じわじわと軍曹の思いも変化していく。揺れ動き、葛藤しながら、軍人ではなく人の心をとりもどしていく彼の辿る道が、この物語の軸にもなっている。
そりゃそうです。だって戦争はもう終わってるんだもん。軍人としてどうこうより、人としてどうありたいかの方が大事に決まっている。
地雷除去の話なのでもちろん爆発事故のシーンは何度かあるが、子ども中心の作品のせいか流血表現が極端に少なく、誰でも安心して観られる画面になってます。
ていうかこれ観ちゃうと、暴力の再現性と流血表現はいっさい無関係なんだなってことがすっごくよくわかる。血なんか出なくても負傷者や死者が映らなくても(まったく映ってないこともないけど)、じゅうぶん怖いもん。
誰が加害者で誰が被害者でとか、何が正しくて何が間違っててなんていう勧善懲悪じゃなく、ただただ戦争がどれほど非人間的なものかを、少人数の子どもたちばかりの言葉も少ないシンプルなストーリーで見事に再現した傑作。
戦争映画っていくら観てもどうしても好きになれないけど、これはほんとうに観てよかったです。
関連記事:
『ある愛の風景』
『ボーフォート ─レバノンからの撤退─』
『ハート・ロッカー』
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1945年、デンマーク。
ラスムスン軍曹(ローラン・ムラ)はユトランド半島の海岸線にナチスが埋設した150万の地雷を除去するよう指示されたドイツ兵捕虜を指揮するが、14名全員が年端もいかない少年兵ばかり。常に爆発事故の危険にさらされながら続けられる作業の緊迫感と、満足な補給も休息もない過酷な状況下で、子どもたちは3ヶ月後の計画終了と帰郷を心待ちに、日々を堪え忍ぶのだが・・・。
デンマークでも語られてこなかった負の歴史の史実をもとにしたドイツとの合作映画。
戦争を始めるのは簡単だけど、終わるのはとても難しい。
そして始める人間は大抵ずっと安全なところにいて、終わらせる任務を担う人間は常に生命の危機に瀕している。
人が民族という共同体を形成し、宗教や言語の壁を挟んで争うようになった遥か過去から、その真理は不変のままだ。
この物語でその犠牲者になるのは、いまでいえばせいぜい中学生ぐらいの少年たちである。みるからにあどけなくおどおどと頼りない彼らが、明けても暮れても毎日毎日砂浜に這いつくばって震える手で地面の下の地雷を探り、掘り返して処理するシーンが延々続く。
台詞は無茶苦茶少ないし、音楽もほとんど使用されない。聞こえるのは吹きすさぶ海風の音と、軍曹の厳しい命令の声ぐらいなものである。
落ち着きません。こんなに落ち着かない映画があるもんかってくらい、究極に落ち着かない。
それでもこの映画が美しいのは、北欧映画独特の色あいと光に満ちた圧倒的な映像美によるものだろう。
季節設定が5〜8月で日が長く、軍曹が「寝ろ」と命じる消灯時間でも辺りはかんかん照りの真昼の明るさである。彼らが任務に就く海辺には軍曹が下宿する小さな農家がたった一軒、雪のように白い砂浜が広がる海岸線はつるりとまっすぐで、そこに青い波がはたはたと穏やかに打ち寄せている。
もうむちゃくちゃ綺麗です。すんごい綺麗。絵のようななんて陳腐な表現しか思いつけないのが残念だけど、ほんとにアンドリュー・ワイエスの絵みたいなんだよね。燃えさかるように明るいのに寂しげで、悲しいほど荒涼としているのに叙情的。
そこで働く子どもたちはみんなぼろぼろに疲れてよごれてるんだけど、それでもとてもかわいい。冒頭、暗い軍用トラックの座席で、彼らの蒼い瞳がキラキラと光る場面がある。ひとことの台詞もない陰鬱なそのシークエンスから、年齢も風貌もそれぞれ違う子どもたちの、どれほど惨めな状況でもほとばしる無垢な魂の輝きと滴るような生命力が、画面の向こうから胸に直に突き刺さってくる。
どうしてこんな小さな子どもが、残虐な戦争の尻拭いをしなければならないのか。どんな大義名分もどこにも残っていないのに。どうして彼らを、誰もまもってくれなかったんだろう。
軍曹は子どもたちをあくまでも捕虜として冷徹に指揮する。その態度には一片の呵責もない。なにしろ子どもたちは彼の部下ですらない。餓死しようが爆死しようがいっこうに構わない。
子どもとはいえ彼らはナチス・ドイツの兵士である。デンマークはドイツと交戦はしなかったが、1940年から5年の間占領され軍政下に置かれていた。紛うかたなき敵であることに間違いはない。
だが世の中のしくみと人の感情とはべつもので、下宿先の農婦母子以外に外部との接触が極端に少ない閉鎖的な環境の中で、じわじわと軍曹の思いも変化していく。揺れ動き、葛藤しながら、軍人ではなく人の心をとりもどしていく彼の辿る道が、この物語の軸にもなっている。
そりゃそうです。だって戦争はもう終わってるんだもん。軍人としてどうこうより、人としてどうありたいかの方が大事に決まっている。
地雷除去の話なのでもちろん爆発事故のシーンは何度かあるが、子ども中心の作品のせいか流血表現が極端に少なく、誰でも安心して観られる画面になってます。
ていうかこれ観ちゃうと、暴力の再現性と流血表現はいっさい無関係なんだなってことがすっごくよくわかる。血なんか出なくても負傷者や死者が映らなくても(まったく映ってないこともないけど)、じゅうぶん怖いもん。
誰が加害者で誰が被害者でとか、何が正しくて何が間違っててなんていう勧善懲悪じゃなく、ただただ戦争がどれほど非人間的なものかを、少人数の子どもたちばかりの言葉も少ないシンプルなストーリーで見事に再現した傑作。
戦争映画っていくら観てもどうしても好きになれないけど、これはほんとうに観てよかったです。
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