自遊空間、 ぶらぶら歩き。

日々見たこと、聞いたこと、読んだこと、考えたこと

神も仏もありませぬ

2004-10-21 | 
佐野洋子さんの神も仏もありませぬ(筑摩書房)を読んだ。

自分が読んだ本をひとさまにお薦めするのは差し出がましいのだけれど、
この本は老いへの一歩を踏み出した人に読んでほしい本だ。
団塊の世代なんかに。
もちろん、若い人にだってじゅうぶん楽しめる。絵本のような本だから。

この本にさし絵はないけれど、絵が見えてくるのはこんな部分だ。
…………
 ここの春はいっぺんにやってくる。山が笑いをこらえている様にすこしずつふくらんで来て、茶色かった山が、うす紅がかった灰色になり、真白な部分と、ピンクのところとが、山一面にばらまいた様に現れる。こぶしと桜がいっぺんに咲くのだ。くそ面白くもない毎日をすごしている私は、いとも軽薄に、腹の底から踊り狂う様に嬉しくなる。やがて山がサラダ菜の様な若葉になると、私はまた来年のこぶしの咲く山を待っている。
 私が死んでも、もやっている様な春の山はそのままむくむくと笑い続け、こぶしも桜も咲き続けると思うと無念である。

ことばの一つ一つに色がついて、はずんで、ぽんっと絵の一部にはめ込まれていくようだ。
こんな、いきいきとした文章が随所に出てくる。
そして、ホロリとする、笑う、うなずく、我が身を振り返る。

老いることをあきらめるんじゃなくて、容認していこうと、少し前向きになってくる本だ。

この本で、佐野さんは第3回の小林秀雄賞を受賞した。
エッと思える賞だけれど、ご本人が喜んでいるようなので、私もうれしい。

佐野洋子さんは65歳。
年齢をたずねると「4歳ぐらいかしら」と答える母上を施設にあずけていらっしゃる。






コメント
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