朝日新聞GLOVE・Travelが、台湾省台北市に遺る「~秘密トンネル」と題した記事を載せていた。それは「蒋介石とその妻・宋美齢が設けた脱出用の秘密トンネル」としており、その所在地は、かつて(改築後)私もその玄関前まで訪れた事がある所で、彼らが海外の賓客を接待し宿泊させる専用施設として使用した高級ホテル「円山大飯店」の地下にあるとしている。
現在の建物は1973年に改築され14階建てとなっている。トンネルは地下1階の東西に1本ずつ存在し、西側(全長約85m)は2019年に、東側(全長約70m)は2021年に一般公開されたとの事。天井の高さと幅はどちらも2mほどで、4~5階の高さを曲がりくねった階段や坂道を下って外へ脱出できるように造られているようだ。
この記事を見て残念に思った事がある。それは、後段で日本(神聖天皇主権大日本帝国政府)統治時代の建物として台湾総統府(元台湾総督府。総督は軍事指揮権のほか行政・立法・司法の権限掌握。初代総督は海軍軍令部長、海軍大将・子爵・伯爵の樺山資紀)とともにその時代の建物が多く残る迪化(てきか)街(日本の植民地時代には非武装抗日運動の拠点であった)を紹介しているのであるが、最も重要な歴史を載せていない事である。それは蒋介石と宋美齢が円山大飯店を建てた場所に、かつてどのような建物が建てられていたかという事にまったく触れていない事である。総統府の建物などについて紹介をしながら、この事を紹介しないというのはどういう事だろう。プロとして知らないとは考えられないから、意図的に隠蔽したと言われても仕方がないだろう。
つまり、円山大飯店が建てられいる場所は、神聖天皇主権大日本帝国政府が国家神道に基づき1900年に、敗戦まで天照大神を祀った官幣大社「台湾神宮」を高台に建て、台北の街を見下ろすように存在していた場所であるという事実に触れていないからである。
敗戦まで海外には、神聖天皇主権大日本帝国政府が国教とした国家神道(日本各地の神社を、天皇の祖先=天照大神を祀ったとされる伊勢神宮を頂点とし、官幣社・国弊社・府県社・郷社・村社・無格社というランク付けをし、国家管理していた)に基づく同化政策=皇民化政策=民族性抹殺政策により建てた「神社」は約700社存在したといわれており、ブラジル・合衆国・中国・朝鮮・シンガポール・南洋諸島など広範囲に分布していた。
日清戦争の結果、神聖天皇主権大日本帝国政府は台湾を初の植民地とし、その支配のための重要政策として全島に神社を建てた。そして1900年には官幣大社台湾神宮を建て、その後、県社・郷社・村社・無格社の建設を進め、合計65社を建てた。神社に準ずる「社」(116社)も島の隅々にまで建てた。祭神は天照大神である。台湾支配の特徴は「皇民練成」「皇民意識」の育成であった。帝国政府はアジア・太平洋戦争開始とともに、皇民化政策=同化政策=民族性抹殺政策を強化し、「皇国精神の徹底を図り国民意識の強化に努る事」と定め、日本語使用及び日本式への姓名変更とともに神社崇敬を重視強制した。それは台湾民族にとって寺廟の廃止にとどまらず、芸術・風習まで「日本精神」を強制され、戦争総動員体制に組み込まれ使い捨ての駒とされる事を意味していたのである。
(2022年2月7日投稿)