OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

グリグリ、フワフワ

2006-01-31 18:30:30 | Weblog

朝から仕事でグリグリに痛めつけられた……。

こうとでも書かなければ収まりがつかない、そんな1日でした。しかも、まだまだこれから夜も続きそうな雰囲気で……。

アドレナリンな噴出してきますね~、こんな時にはクールダウンな1枚を――

Glad to Be Unhappy / Paul Desmond (RCA)

ソフトな情感を吹かせたら最高のアルト奏者がポール・デスモンドです。ご存知のようにディブ・ブルーベック・カルテットのバリバリの看板だった人ですが、その人気からバンド在籍中にも単独のリーダー盤もかなり作っており、このアルバムもその中のひとつです。

メンバーはポール・デスモンド(as)、ジム・ホール(g)、ジーン・ライト(b)、コニー・ケイ(ds) とされていますが、その録音時期は1963 ~ 1964年までの間の幾つかのセッションから寄せ集めたもので、曲によってはジーン・チェリコ(b) も参加しているようです。

内容はスタンダード6曲+デスモンドのオリジナルが1曲というものですが、そのどれもが金太郎飴状態♪ その雰囲気が好きな人ならば文句無く、気持ち良くなれますが……。安寧の歌心に満ちています♪

が、はっきり言うと、ダレてしまう部分も否めません。ソフトな纏まりの良さは天下一品なのですが……。流れるんですよねぇ……。

ですから、ジャズを聴こうとする意欲満点の時には聴いてはなりません。あくまでもBGMの世界です。ただし演奏者の本気度は高く、特にジム・ホールはいつもながら最高の演奏を聴かせていますし、デスモンド自身も絶対に真似の出来ない音色と柔らかなフレーズをたっぷり披露しています。

しかし、それがマンネリ……。全てはお約束という物足りなさがいっぱいです。ちなみにデスモンドは幾枚もリーダー盤を発表していますが、個人的には、こんなに引っかかりの無い演奏ばかりのアルバムも無いもんだ! と感じるほどです。

したがって、今日のようにヘヴィな場面の連続にポカッと空いた時間に鳴らしてみると、これが鬼のようにハマります♪ それに気づいただけで、今日という日の意義があったと感じるサイケおやじではありますが、それにしてもジャケットの美女に気を魅かれます……。


食欲の名盤

2006-01-30 18:10:40 | Weblog

何だか今日は、異常に食欲がありました。昼メシの弁当食べた後に、頂き物のバナナを4本、フライドチキン2切れ、お茶の時間に大福食って、今またコロッケパンを手にして、これを書いています。

この後に晩メシ食う気でいるんですから、自分でも吃驚というか、ストレスがたまっているんでしょうか……。

でも若い頃は、これぐらは平気で食えましたがね、そんな当時に流行っていたのが、このアルバムです――

Weather Report (Sony)

昨日ご紹介したウェイン・ショーターといえば、やはりウェザー・リポートですね。う~ん、懐かしい。もちろん賛否両論ありましょうが、1970年代のジャズ界を大いに面白くしたのが彼等でした。これはそのデビュー盤です。

ウェザー・リポートが画期的だったのは、ロックバンドのように最初からグループとしてデビューしたことで、これは当時のジャズ界では珍しいことでした。そしてジャケット裏にクレジットされたメンバーは、ウェイン・ショーター(ts,ss)、ジョー・ザビヌル(key)、ミロスラフ・ヴィトウス(b)、アル・ムザーン(ds,vo)、アイアート・モレイラ(per) とされていますが、実際の録音にはバーバラ・バートン(ds) が加わっているようです。

ちなみにこのセッションは1971年の2月、発売は同年9月頃だったと思いますが、忽ち「新しいジャズ」として、もてはやされました。実際、1972年頃のジャズ喫茶では、このアルバムが頻繁に鳴っており、年頭には来日公演も行われたほどです。

しかし実際の現場でのジャズファンが皆、これを素直に認めていたかといえば、もちろん、否です。初めて聴くと、完全に「なんじゃ、これっ!」という松田優作状態だと思います。

なにしろA面1曲目の「Milky Way」が、完全にプログレの世界です。ホワンホワンと蠢くザビヌルのキーボードに対し、時折、フェッフェッと合の手を入れるショーターのサックスだけで、後は得体の知れないノイズというかテープ・ヒスというか、ちゃんとした音のしていない時間が虚しく流れるだけの曲です。

もちろん聴いているこちらは、前述した「なんじゃ、これっ!」です。しかしその2分30秒が過ぎた次の瞬間、ビシバシのドラムスと怒涛のファンク・ベースが炸裂して、2曲目の「Unbrellas」がスタート! これが快感です♪ ここだけを求めて、初っ端からの苦行を耐えると言っても過言ではありません。

ただし演奏そのものにきちんとしたテーマは存在しません。フリーなジャズロックという雰囲気が濃厚ですが、強力なヴィトウスのエレキベースを核とした展開は、リズムパターンを変化させつつ進んでいきます。

そして続く「Seventh Arrow」では、それが暗黙の了解的な4ビートに落ち着き、イノセントなジャズファンは一安心ですが、演奏自体は過激です。特にアル・ムザーンのドラムスは容赦なくビートの嵐を巻き起こしますし、そこに切り込むショーターも無駄口を叩かずに要点だけ言い放つ小気味良さが流石! スパッとした終り方もジャズらしくありませんが、逆に新鮮です。

それを受け継ぐ形で始まる「Orange Lady」は幻想的なザビヌルのエレピに支配されながら、ショーターのソプラノとヴィトウスのベースが連れ添って穏やかなテーマを繰返すという発端から、アイアートの色彩豊かな打楽器が加わって徐々にビートが強くなり、ショーターの一音入魂ともいうべきアドリブが鮮やかです。もちろんそれに絡むメンバーの強かさも魅力的ですが、最後まで権力を失わないザビヌルが一番凄いかもしれません。

B面はその続篇的な「Morning Lake」でスタートしますが、こちらは最初からアドリブ色が濃く、リズムパターンもしっかりしていますので安らぎます。何となく白人ゴスペルの匂いまで漂ってくるのです。

それは次の「Waterfall」でも同様で、メンバー全員が暗黙の了解で爽やかに絡み合いつつ演奏は進みますが、ビートの芯がはっきりしているので疲れません。逆に、醸し出される緊張感が心地良いほどです。ただしそれは、恐らくロックに馴染んでからジャズを聴きだした私のような者に限ってのことかもしれません。個人的にはヴィトウスのリード・ベースに耳を奪われます♪

そしてここまで来ると、次に控える「tears」が過激なスタートになるのは、もう、お約束です。ドスンッと来てビシバシと展開される重たいビートに煽られた暗い演奏、そこに絡んでくる爽やかなコーラスと色彩豊かな打楽器群の響き……。これはもう、ジャズを飛越えてプログレの香りがしてきます。しかもその中で、作者であるショーターが暴れ、ヴィトウスが弾け、アル・ムザーンとアイアートが嵐を巻き起こすのです。おまけにそこで、ひとり冷静なザビヌルが一番輝いてしまうというオチが強烈です。

こうして向かえる大団円の「Eurydice」は、もう皆様ご推察のように、大4ビート大会♪ とにかく全てはこの演奏に収束するためにあったという筋書きが、たっぷり楽しめます。ヴィトウスの強靭なベースランニングと鋭く切り込むアル・ムザーン、そしてギラギラしたザビヌルのコード弾きの妙に煽られて、ショーターも本領発揮というか、唯我独尊のアドリブを全開させます! もちろんザビヌルもエレピで応戦していますが、意外と隠し味で引き立つのがアイアートの打楽器という、これは決定的な名演です♪

というわけで、完全に出来すぎの名盤♪ 実際、かなり作りこまれた演奏ばかりです。そしてそのあたりが、ガチガチのジャズファンからは敬遠されていくのですが、さりとて、このアルバムの価値が下がるとは思えません。

現代の耳では、やや時代遅れの部分も確かにありますが、それが懐かしさに繋がっているところも否定出来ず、私は時たま取り出しては愛聴しています。

ちなみにウェザー・リポートは、もちろん世界中でブレイクしたわけですが、我国に限って言えば、この後の作品はそれほど大きな評判になっておらず、むしろあえて敬遠していたジャズ喫茶さえありました。メンバー・チェンジが頻繁にあったのもマイナスだったようです。そしてついに万人に認められたのが1976年、つまりジャコ・パストリアス(b) が参加した「ブラック・マーケット(Sony)」の発売まで待たねばならなかったのです。

その意味で、このデビュー盤は最高の出来を示しているわけですが、聴いてるうちにマイルス・デイビスのトランペットが欲しくなる瞬間が、確かにあります。それはメンバーのほとんどがマイルスのバンドに雇われていた履歴があるためですが、逆に言えば、マイルスがショーターやザビヌルの才能を頼りにしていた証でもあるわけで、このアルバムのルーツともいえる「インナ・サイレントウェイ / マイルス・デイビス(Sony)」も合わせて聴けば尚一層、楽しみが深くなると思います。


突っぱねられたらグリコ盤

2006-01-29 18:14:13 | Weblog

昨夜は友人&お世話になった先輩の訃報、身内の病気、仕事での難問発生と、矢継ぎ早にあって、ケイタイは一晩中フル稼働でした。正直、しんどいです。

虚しさとやるせなさ、ヘヴィな日常生活が重なって、全く我が道を行くことが出来ませんね。

それで本日の1枚はこれを――

Introducing Wayne Shorter (Vee Jay)

タイトルどおり、ウェイン・ショーター(ts) の初リーダー盤ですが、愕くなかれ、これが資料的には公式で2度目のレコーディングとなっており、それでも完全に自己の世界を表現してしまったという! 本当に絶句です。そして、この我が道を行く潔さは羨ましい限り!

もちろん、当時すでにジャズ・メッセンジャーズに加入していたショーターは、バリバリの看板だったわけですが、そのバンドでの録音に先駆けてデビュー盤を出している事実にも、ご注目♪

録音は1959年11月で、メンバーはジャズ・メッセンジャーズの同僚であるリー・モーガン(tp) が相方、迎え撃つリズム隊はウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コプ(ds) という、これまた当時のマイルス・デイビスが雇っていた黄金のトリオですから、当に時代の最先端を行く演奏が残されたのも自然の流れです。

というか、それを目論んで、このメンバーを召集したとも言えるのですが、演目は1曲を除いて全てショーターのオリジナルで固めているという意欲作になっています。しかも妥協がありません。

まずA面1曲目の「Blues A La Carte」からして、通常のブルース進行では無く、中間にモード構成のパートを入れた変則パターンが、逆に聴き手の心を刺激してきます。もちろんテーマ・メロディもスピード感があってカッコ良く、アドリブ・パートではショーターが何時の間にかそこへ滑り込んでいるという鮮やかさが最高です♪ しかも演じられるアドリブ・メロディが従来のモダンジャズのお約束のフレーズから完全に逸脱したものになっているのです♪

それは続くリー・モーガンやウィントン・ケリーのアドリブを聴くと分かります。ショーターのアドリブがあまりにも奇々怪々なので、そこに入ってホッとしてしまうのです。これは現在の耳で聴いてそうなのですから、当時は驚異的に新鮮だったと思われます。

そのあたりは2曲の「Harry's Last Stand」でも顕著で、前曲同様のテンポで聴き手を突き放すような演奏に終始します。ただしこちらは通常のブルース進行なので、ファンキー味のテーマで若干の和みも漂います。

しかし先発のアドリブを披露するショーターが、そんなお約束をぶっ飛ばす過激な因数分解的フレーズばかりを吹くのですから、続くリー・モーガンやウィントン・ケリーがいくら十八番のリックを繰り出しても、時、既に遅しという演奏に終始してしまうのでした。

しかも3曲目の「Down In The Depths」では、その傾向が尚更に強まっていき、景気の良いイケイケのテーマと全くショーターだけの独自なフレージングが完全に活きた物凄い演奏が完遂しています。それはコルトレーンの影響を含みつつ、音の跳躍とかリズムへのアプローチ、そしてショーターの元々の感性が従来のモダンジャズとは異なっている証明だと思います。

はっきり言うと、以上のA面の3曲を聴きとおして、楽しいという気分にはなれません。しかし、ジャズの持っているスリルとサスペンス、クールな情熱という部分は超満点です♪ この聴き手を突き放すようなカッコ良さこそ、モダンジャズが次なるステップに駆け上がる大切な要素だったと、今では分かりますが、当時はどうだったのでしょう……?

それはB面に入っても変わることのないペースで進み、「Pug Nose」では、後にショーターの特徴と言われる「黒魔術」趣味がほんのりと出ているようなテーマが魅力的です。それは独特のクールさが表出している曲調を情熱的にアドリブしていくメンバー全員の意思統一に繋がり、全く聴き手に媚びることの無い演奏になっています。

続く「Black Diamond」は、スピード感溢れるハードバップ調ということで、このアルバムではやや異色ではありますが、ショーター初期の名曲として人気が高く、もちろん素晴らしい快演になっています。とは言っても、ショーターのアドリブは相変わらずモダンジャズのお約束のフレーズを出してきません。ウネウネ・モクモクと変態モード一本やりになっています。しかしそれが快感♪ この鮮烈さがショーターの、今日まで変わらぬ魅力だと思います。もちろんリー・モーガンも熱く燃えていますし、リズム隊のシャープさは言わずもがな!

こうして過激な演奏が続いた大団円には、人気スタンダードの「Mack The Knife」が用意されていますが、これが楽しくて、やがて悲しきなんとやら……♪ ショーターの容赦ないアドリブ攻撃で魅惑のテーマが徹底的に変形されていきます。しかしそれを救うのがリー・モーガンのジャズ魂というか、楽しくやって何故悪いという居直りがウィントン・ケリーにも伝播して、白熱の演奏と化していくのでした♪

ということで、このアルバムは従来のジャズとは決別している部分が大部分を占めていると思いますが、けっして破天荒な作品ではなく、とてもカッコイイ演奏集です。ただし、聴き手を徹頭徹尾、突っぱねているような態度があるのです。

ですから正直、聴いていて疲れます。しかしそれがまた、快感でもあるのです。つまりショーター節にシビレている者にとっては、かけがえの無い演奏ばかりというわけです。その感覚はコルトレーンでもソニー・ロリンズでもない、ましてやハンク・モブレーやスタン・ゲッツでもない、ショーター独自のテナーサックスの美学! やはりジャズの歴史上では確固たるスタイルをそのデビュー当時から持っていた、偉大なるスタイリストだということです。

と、本日も断言しておきますが、全体に鋭く完璧なリズム隊の存在なくして、このセッションの成功は無かったと思います。特にジミー・コブのクールで重いビート、小気味良いオカズと合の手の入れ方は最高です! そこに集中して聴くと、また別の感動が押し寄せてくるという、言わば一粒で二度美味しいグリコ盤なのでした。力、つきますよ♪ ちなみに現行CDはボーナストラックのおまけが付いています。


孤独な休日、実は楽しい♪

2006-01-28 17:21:07 | Weblog

今日は貴重な一人ぼっちの休日になりました。やりたいことは山の様です。もちろんメインサイトの更新作業も忘れていません。ちゃんと原稿を進めていますので、見捨てないで下さい。

そのバックに流していたのが、今月の新譜という、このアルバムです――

Softrock Drivin' 空と海とわたし (ビクター)

10年ほど前に出て、今や伝説になっているらしい和製ソフトロックのオムニバス盤「ソフトロック・ドライヴィン」シリーズの最新作です。

昭和45年前後の楽曲を中心に全25曲収録されていますが、その趣旨はボサノバ歌謡と中道コーラス歌謡という、リアルタイムでは時代に逆行していたお洒落なものです。

ただし個人的には全てが名曲とは断言致しません。これを聴いて気に入った作家や歌手を追いかける手掛りにするのが、理想かと思います。

で、私的なお目当ては「抱きしめて / 有沢とも子」と「愛しているから / 奈美悦子」の2曲です。

前者は梶芽衣子の妹で、姉はクールビューティでしたが、有沢とも子はファニーな愛嬌顔の憎めない美女でした。たしか映画にもちょい役で出演していましたが、歌手としては昭和44年、荒木一郎のプロデュースによるこの曲でデビューしています。

曲調は当時流行していたコーラスをいっぱい入れた西海岸ポップスですが、メロディのミソはフォーク歌謡という優れものです。特にサビの展開は哀愁モードが全開♪ バックの演奏ではタンブリンと華麗なストリングス、そしてシンプルに弾むエレキベースやドラムスが印象的で、多分、12弦と思われるギターが隠し味になっています。

肝心の有沢とも子の歌唱は、やや危ないところが逆に魅力という、所謂ヘタウマですが、好きですねぇ~。しかし残念ながらヒットしていません。そして彼女は「太田ともこ」と改名して再デビューするのですが、その辺りの経緯については付属解説書をご覧下さい。

もうひとつの「愛しているから / 奈美悦子」は昭和42年12月に発売された大名曲! 日活映画「スパイダースの大騒動」でも歌っており、それを観た私はこのレコードを欲しくてたまりませんでした。そしてもちろん、それは叶わず、今回ようやく欲望が満たされたわけです。

その曲調は典型的な昭和歌謡曲を、イギリス流ポップスで煮しめしたような、当時の日本でなければ生み出しえない傑作です。奈美悦子のボーカルもキュートなコブシと溜息まじりのセクシーな部分が絶妙にブレンドされた一世一代の名唱だと思います。

バックの演奏も分厚い男性コーラス、重たいストリングス、泥の上澄みのようなエレキギターの響きが、やや脂っこい彼女のボーカルを上手く中和させており、当にイントロから最後まで間然することがありません。これが「昭和」です。

このアルバムには他にも「真夜中のピエロ /  城千景」や「夜だから / 藤川昌子」といった、この手のオムニバスでは定番の有名ボサノバ歌謡曲が収録されています。また「カム・オン… ! / オリーブ」はサイケ・バンドがバブルガム・ロックを演じたような隠れ名曲ですので、要注意です。高速でドライブしまくりのエレキベースが物凄いです。

ということで、全篇、なかなかの名編集盤になっています。詳しい曲目についてはジャケ写からネタ元にリンクしてありますので、そちらをご覧いただきたいのですが、まだまだ表沙汰になっていない名曲が沢山あるのも、また事実です。おそらくマスターテープの状態や権利関係がネックになっているものと推察しております。

こうした問題点は以前のシリーズでも目立ち、当時から賛否両論でした。そのあたりも鑑みて、さらなる続篇に期待しています。ちなみにリマスターは良好でした♪


物欲のブル~ス

2006-01-27 16:16:55 | Weblog

最近、映画や音楽の復刻が勢いづいています。紙ジャケット仕様のリマスターCDや特典おまけ付きDVD、さらに発掘物等々、欲しいブツばかり……。

しかし、それを全部買うことは経済的に許されないし、また、どうにか入手しても楽しむ時間が無いという悪循環が続いています。

あぁ、精神衛生上、良くないなぁ……。結局、どっかで切捨てないといけないわけですが、もう、何を切り捨てたらいいのか分からないのが、正直なところです。

それというのも、結局、昔、手に入れられなかったブツとか観たくても無理だったものとか、とにかく過去への執着? しかし、ここで入手しておかなければ、後々、必ずや後悔するだろうという恐れ?

そんなものがドロドロと渦巻いて、私を物欲地獄へ導くのでした。この煩悩、とても百八つのブツでは収まりそうもないほどで……。あぁ、地獄だなぁ……。

ということで、本日の1枚は――

O.K. Ken ? / Chicken Shack (Blue Horizon)

1960年代後半に大きなブームとなった英国ブルースロックの雄がチキン・チャックです。その中心メンバーは黒人モダンブルースのギタースタイルを完全に我が物としてたスタン・ウェッヴと紅一点のクリスティン・パーフェクトで、特にクリスティンは後にフリートウッド・マックで大活躍するキーボード&ボーカリストであることは、皆様、よくご存知のとおりです。

ちなみに彼等は4人組が基本編成でしたが、ドラムスとベースは流動的、しかも影が極端に薄いというのが特徴でしょうか???

まあ、そのあたりはこれ以上ふれませんが、これはそんな彼等の2枚目のアルバムで、基本は白人プルースですが、ホーン隊も加えたその演奏は、ソフト&ソウルフルな面も垣間見せて、私は好きです。

しかもアルバムの構成が、収録曲間にナレーションや効果音を挿入して繋げていくという、当時のイギリス音楽界の最先端を行くものになっています。

ただしこの作品は当時、オリジナルの英国輸入盤なんて、とても日本では手軽に入手出来るものではありませんでした。また日本盤も発売されていましたが、私の乏しい小遣いでは変えるはずもなく、レコード店で現物を眺めては溜息をついていたという曰くがあります。

私にとって、その大きな部分はクリスティン・パーフェクトという女性への憧れで、音楽雑誌に掲載されていた彼女のポートレートを見た瞬間、完全に虜になりました。それは彼女がプレイガールでお馴染みの日本の大女優である八代万智子様に、似ていたからです。

つまり、またしても私の悪いムシが出たというところですが、その彼女の声を聴きたくて物欲地獄に落ちてしまったというわけです。

しかし結局、当時は買うことが叶わず、後に友人から借りて聴くことが出来たわけですが、何故かレコードそのものは入手せずに今日に至りました。

ところがなんと、リマスターされたCDが現在、紙ジャケット仕様で再発中なのですから、今度こそ迷わすにゲット♪ ただし好事魔多しというか、今回の再発盤では曲間の効果音などが見事にカットされていたのです。これはどうやら英国の音源管理者からの指示ということで、諦めざるをえないのですが、やはりコレクターには時の流れが大きな敵という、またまた教訓の一場面を演じてしまった……。

ということで、気分は全くのブルースですが、このアルバムはやっぱり素敵です♪


熱くて安らぐこの1枚

2006-01-26 16:22:09 | Weblog

今日は地吹雪の中で車のキーを落としてしまい、雪の中を這いずりまわること15分近く……、ようやく発見して事なきを得ましたが、ウルトラセブンの中のエピソード「零下140℃の対決」でモロボシダンがウルトラアイを雪の中に落として探し回る気持ち、分かりましたよ……。

ということで、本日は温かく、熱いコルトレーンを――

Settin' The Pace / John Coltrane (Prestige)

私がコルトレーンのウラ名盤と信じて疑わないのが、このアルバムです。

メンバーはレッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) というお馴染みの面々をバックに従えたコルトレーンのワン・ホーン編成で、録音は1958年3月26日! ということは、この直後にマイルス・デイビスの名盤「マイルストーンズ(Sony)」が吹き込まれ、さらに1年後には、畢生の大傑作「ジャスアント・ステップス(Atlantic)」が製作されるという、当に上昇期の勢いに突き動かされていた時期を捉えているわけです。

しかもその内容には、けっして前衛的なところが無く、スタンダードを材料にハードバップの枠組みの中でやる事を徹底してやった雰囲気なのです。もっともこれは今の耳で聴いての話で、当時はこれでも相当に破天荒なところがあったと思われます。

その所為かA面1曲目には意表をついてスローナンバーが収録されており、その「I See Your Face Before Me」が非常に素晴らしい出来! ダークな音色でソフトにテーマを吹奏するコルトレーンは、時折「ふすすすすす~」というテナーサックスの魅力ここにありという必殺のサブトーンを織り交ぜてアドリブパートに滑り込んでいくのです。そして、もちろんそこでも元メロディを上手く活かしたコルトレーン流の泣きのフレーズをたっぷりと聞かせてくれるのです。

また続くレッド・ガーランドが最初からブロックコード弾きで、これまたソフトな情感を表現していきます。ただしポール・チェンバースのアルコ弾きは??? しかしその地獄があるからこそ、ラストテーマを吹奏するコルトレーンが一層輝くという本末転倒な輝きが素晴らしいわけですが♪ ちなみに終わり方はマイルス・デイビスのバンドでは定番のもっていき方で、これはガーランド自身も参加したマイルスのリーダー盤「ザ・ミュージングス(Prestige)」の同曲でも聞かれますので比較するのも一興です。

2曲目の「If There Is Someone Lovelier Than You」はあまり馴染みのないスタンダード曲ですが、ミディアムテンポで演じられるこれが、全くコルトレーンのアドリブフレーズを活かすためにあるような曲調! いろいろな後日談によれば、プレスティッジのコルトレーンのレコーディングではレッド・ガーランドが曲目を決めていたらしいので、おそらくこれもそのひとつだろうと思います。もちろん出来は最高♪ 快適なテンポの中で圧巻のブレイクと如何にもコルトレーンらしいウネウネとした高速フレーズ、さらにリズム隊とのコンビネーションで生み出されるハードバップのグルーヴが渦巻いています。

B面は幾何学的なテーマが印象的なジャッキー・マクリーン(as) の有名オリジナル「Little Melonae」でスタートしますが、前半はリズム隊の見せ場になっており、珍しくレッド・ガーランドがモンク風のフレーズを出したり、またポール・チェンバースも意図的に変態ウォーキングを聞かせていますので、けっこうイライラさせられます。

しかしお待ちかねのコルトレーンが登場すると、それが一転、暗黒面で炸裂するフォースの威力というか、屹立するダースベイダーのような迫力のアドリブが展開されていくのです。もちろんそれは所謂シーツ・オブ・サウンドと呼ばれる音の洪水! あまりの凄さにレッド・ガーランドは途中でピアノ伴奏を止めてしまうところもあります。

そしてオーラスは急速テンポの「Rise 'n' Shine」です♪ なにしろ、いきなりテーマを吹奏したコルトレーンが、全く自分勝手にアドリブに突入していくスピード感が圧巻です。もちろんそれに動じることのないリズム隊も流石で、特にアート・テイラーは独自のシンバルの美学を聴かせます。う~ん、それにしてもコルトレーン! 実は久々に聴きましたが、そのアドリブフレーズがスケール練習になっていないのは驚異的です。ちゃんと自分なりの歌心を、吹きまくるフレーズに託しているのですねぇ~♪

こうして演奏は大団円でコルトレーン対リズム隊という対決の構図を提示して、大興奮のうちに終了しますが、そのわりと整合性のある展開がお約束になっておらずにスリル満点というところが、勢いというものでしょうか。

という4曲が収められたこのアルバムは、発売されたのが録音から3年以上を経た1961年末だったと言われています。これはもちろんプレスティッジお得意の商方で、その頃にはジャズ界をリードする存在になっていたコルトレーンの人気に便乗したというわけですが、このアルバムにはすでに当時の勢いの端緒が記録されているのですから、批判の対象にはならないはずだと思います。

闇雲にハードでは無いし、かと言って事なかれの製作でもないので、ジャズ喫茶はもちろん家庭でも楽しめる、これは不朽の名盤ではないでしょうか。

あぁ、今日はコーヒーが旨い♪


平常心の1枚

2006-01-25 17:45:22 | Weblog

自然体は難しいです。自分に正直というのは、本当に難しいですね……。いつも何らかの形で「演じて」いる自分を感じます。カッコつけたり、グッと堪えてみたり、平常心を装ってみたり、力んでみたり……。そんな繰り返しの終りなき日常に聴くアルバムが、これ――

Bebop City / Dusko Goykovich (enja)

ダスコ・ゴイコビッチといえば、今や日本では不動の人気を確立しているトランペッターですね♪ このユーゴスラビア生まれの名手は、1970年代に「アフターアワーズ(enja)」というジャズ喫茶の名盤でブレイクしたのですが、その魅力は常にジャズの保守本流を大切にした演奏にあります。

実際、そのスタイルは1950年代のマイルス・デイビスを彷彿とさせる歌心とフレージングの妙、仄かに黒いフィーリング、溌剌としたノリと思わせぶりなバランスの絶妙さという、ジャズ者ならば、必ずや心魅かれる存在です。

当然、レコード製作の共演者は保守派というか同世代のベテランが多いわけですが、このアルバムは1994年に勇躍としてニューヨークに乗り込み、バリバリの若手と吹き込んだ1枚です。

メンバーはダスコ・ゴイコビッチ(tp) 以下、エイブラハム・バートン(as)、ラルフ・ムーア(ts) という伸び盛りの若手をフロントに、リズム隊は中堅のケニー・バロン(p) とレイ・ドラモンド(b)、そして欧州で何度も共演して気心の知れているベテランのアルビン・クイーン(ds) という布陣です。

というわけですから、私は大いに期待して聴き始めたのですが、こういう書き出しだと皆様すでにご推察のとおり、これが全くダメというか、いつものゴイコビッチ節が出ません……。つまりバンド全体のコンセプトが噛合わない雰囲気が濃厚です。

結局、あ~ぁ、ゴイコビッチでも気負ったりすることがあるんだなぁ~、という気分になり、それが逆に安心感でもあるという、全く妙な気分にさせられる出来なんですが、それが突如、7曲目の「One For Klook」でいつもの快感、ジャズを聴く楽しみに引き戻されるのです。これはゴイコビッチのオリジナルで、かつて共演したドラムスの巨匠であるケニー・クラークに捧げたビバップ色が強い曲♪ メンバーのソロも快適そのもので、これまでのウサが一気に晴れる名演です。特にアドリブの出だしで「キャ~ンディ~」と元ネタメロディを引用してしまうゴイゴビッチが憎めません♪

そして続く有名スタンダードの「Day By Day」はゴイゴビッチのワンホーン・カルテット編成で、マイルス流儀のミュート・トランペットがたっぷりと楽しめます。この哀愁を塗した歌い回しがゴイゴビッチ中毒の本質で、いつまでも聴いていたいと思わずにはいられなくなります♪

さらにオーラスの「Brookly Blues」は、典型的なハードバップのブルース! もちろんゴイコビッチのオリジナルですから、作者が余裕のファンキー節を披露すれば、エイブラハム・バートンもじっくりと黒いフィーリングを醸し出そうと奮闘しています。そしてそれを支えるリズム隊はタメとツッコミのバランスが良く、ハメを外し気味のケニー・バロンがやや浮いているとはいえ、フェードアウトしながら終わる演奏の最後までダレていません。

ということで、私はこれを後半3曲だけしか聴きませんが、それで充分、ジャズを聴く楽しみに浸ることの出来る、稀有の名盤! と今日は言い切っておきます。あ~、たまに贅沢もいいでしょう。


素敵な編集盤

2006-01-24 15:52:04 | Weblog

あ~ぁ、昨日からまたまた大雪・大吹雪です……。もういい加減、カンベンしてほしい! 毎日・毎朝、除雪ばっかりで……。

こういう時は温か味のあるアルバムを――

The Autumn Stone / Small Faces (Immediate)

1960年代後半のイギリスで最高のアイドルバンドと言えば、スモール・フェイシズです。

メンバーは子役として活躍していたスティーヴ・マリオット(g,vo) を中心に、イアン・マクレガン(key)、ロニー・レイン(b)、ケニー・ジョーンズ(ds) の4人組で、バンド名は彼らが皆、小柄だったことに由来しておりますが、そのファッションセンスと演奏技量は抜群でした。もちろん1965年にデビューして忽ち、当時のロンドンのお洒落な若者達、つまりモッズ族に支持され、人気を獲得しています。

しかしそこに目をつけた興行師やレコード会社から過酷な巡業や不利益な契約をとられ、バンドは四苦八苦の日々……。おまけに毎週のように少女雑誌のグラビアを飾る彼等のステージには、ミーハーな女の子達がつめかけ、それは嬉しいことでしたが、メンバーは実力を正当に評価されないと悩むこともあったと言われています。

実際、彼等が作り出していた楽曲はかなりハイブラウなものを含んでいたのは、紛れも無い事実でした。

そして1969年にスティーヴ・マリオットが脱退して、バンドは人気絶頂のまま、活動休止となります。

このアルバムはその直後に発売されたもので、未発表曲やシングル盤オンリーの曲、ライブ音源等々がレーベルを越えて収録された、所謂アンソロジー盤ですが、これが曲の流れや彼等の活動変遷を一気に体験出来る優れものです。

その内容は「Here Comes the Nice」「All or Nohting」「Lazy Sunday」「I Can't Make It」「Afterglow of Your Love」「Sha La La La Lee」「The Universal」「My Mind's Eye」「Tin Soldier」「Just Passing」「Itchycoo Park」「Hey Girl」「Watcha Gonna Do About It」「Wham Bam Thank You Mam」がシングル盤で発売されたものですが、ステレオバージョンだったり、モノラルでありながらミックスが微妙に違うもの、あるいは編集されているもの等々、このアルバムでしか聴く事の出来ない貴重なお宝になっています。

また「Rollin' Over」「If I Were a Carpenter」「Every Littie Bit Hurts」の3曲はライブ音源で、まさに黄色い歓声に包まれた彼等のステージの様子がわかります。ちなみにこれは1968年5月の録音で、まだまだ同ステージからの未発表曲があり、それがいろいろなアルバムに分散しているのは残念です。

そして「The Autumn Stone」「Collibosher」「Red Balloon」「Call It Something Nice」「Wide Eyed Girl on the Wall」が当時、未発表だった音源で、これが素晴らしさの極致♪ 残念ながら頓挫したものの、彼等の次なるステップが間違いなく前進であったことの証明になっています。

という楽曲が、このアルバムでは非常に滑らかに、印象的に編纂されています。特にA面ド頭から続く内向的なソウル・ミュージックの「Here Comes the Nice」、シンミリ&ホノボノのアコースティック曲「The Autumn Stone」、刺激的なインスト「Collibosher」、妙なグルーヴが楽しい「All or Nohting」の4連発には完全脱帽です。中でも「The Autumn Stone」は本当に素敵な名曲ですよ!

またこのバンドはデビュー当時は黒っぽいR&B志向でしたが、いつしか独特のメロディ感覚とチャカしたようなノリ、それでいてグルーヴィな演奏、さらにクールで熱いボーカルという稀代の個性派だと思います。

その意味でデビュー曲からラストシングル、代表曲&未発表曲をそろえたこのアルバムは、彼等の真髄を味わえると思います。しかも現在、これがリマスターした上に紙ジャケット仕様で発売されているので、これから彼等を聴いてみようと思われる皆様は、ぜひともこれをゲットして下さい。もちろん私も本日購入し、聴きながらこれを書いているわけです♪


義理よりマイ・ファニー~♪

2006-01-23 18:17:01 | Weblog

職場ではもう、バレンタイディの話題が蔓延しはじめています。

やれ、義理チョコだの、本命だの……。どうせ本命なんて貰えるわけないし、もしも貰ったとしたら、かえって大変な事になりますからねぇ。そんな事はもっと真摯に行動してもらいたいもんです。たとえ義理でも、貰ったらお返しせねばならない立場も考えもらいた……。百円や二百円のチョコでも、こっちはその倍以上、お返しせねばならんのですぜっ!

そりゃ~あ、義理でも貰えるのは、嬉しくないと言えばウソになる部分はありますが、こんな風習は止めるべきだ! チョコ屋には申しわけありませんがねっ!

ということで、本日の1枚は、極当たり前に――

My Funny Vlentine / Miles Davis (Sony)

あまりにも名盤、名盤過ぎる名盤です。モダンジャズのひとつの完成形を残したといっても過言ではないかもしれません。それほど充実した演奏が聴かれます。

メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、ジョージ・コールマン(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という、今では夢のオールスターズ! 録音は1964年2月12日、ニューヨークのフィルハーモニック・ホールでのライブ盤です。ちなみにこの日の録音からは「Four & More」と名付けられたもう1枚のアルバムが作られており、そっちはアップテンポ曲中心、こちらはスロー物中心の編集になっております。

まずA面は必殺の名演「My Funny Vlentine」でスタート、ハンコックが奏でる思わせぶりなイントロから、これも押さえた感情を露呈するマイルスのテーマ吹奏が始まった瞬間、完全にその世界に引きづりこまれます。この空間美がまず見事です。

この頃のマイルスは俗にフリー・ブローイングと呼ばれる自由度の高いライブ演奏を得意としており、それはひとつの演奏の中で自在にテンポを変え、メロディをフェイクして雰囲気を作り出すという展開が聴きどころになっています。

そういう遣り口は、特にリズム隊に柔軟さが求められ、次にマイルスが何をどう発展させていくのか、現場は緊張感がいっぱい! また逆にリズム隊に煽られてマイルスが動揺する場面もあったりして、なかなか凄い演奏が展開されるのです。

例えばここでは、さんざん思わせぶりをやった挙句、2分50秒目あたりから一気に4ビートの展開にもっていき、熱く燃えるノリを披露した後、再び内向モードに戻していくという完璧な展開が楽しめます。そして黒いグルーヴに満ちた最後の感情が、続くジョージ・コールルマンに委ねられるというわけです。

そういう手法が全篇で楽しめるこの作品は本当に名演の連続で、続く「All Of You」ではジョージ・コールマンとハンコックが大熱演、特にハンコックは生涯を通じての名演のひとつだと思います。また、そのバックでは地味ながらロン・カーターのベースも素晴らしい!

B面では「Stella By Starlight」がいきなりの大名演で、マイルスの緩急自在のアドリブに激した観客が、1分52秒あたりでおもわず「イェ~」と叫べば、マイルスもそれに応えるかのように熱いフレーズを綴って行くあたりは、もう最高です。当然、観客からは大拍手♪ ここではリズム隊のコンビネーションにも聞き逃せないものがあります。

そして次の「All Blues」は、このアルバムでは唯一のアップテンポ曲で、テーマでのバンドの絡みとコンビネーションは完璧ですし、アドリブパートでのストレートなノリはやはり楽しいものがあります。そしてこういう曲調になると、トニー・ウィリアムスの繊細かつ激烈なドラムスに耳を奪われます♪

こうして訪れる大団円の「I Thought About You」はクールなカッコ良さを追求するマイルスが素晴らしく、そのあまりのカッコつけにトニー・ウィリアムスがキレたかのようなオカズを入れる場面が多々あります。そこで、そうかい分かったよ、というように比較的ストレートにアドリブを継承するジョージ・コールマンの物分りの良さも、憎めません。これがジャズなんですねぇ~♪ それはハンコックとても同じ気持ちらしく、ロン・カーターと結託してトニーに花を持たせる瞬間が、確かにあるのでした。

そしてそれを横目で睨みつつ、マイルスが静謐なラストテーマを奏でるあたりが、この作品のクライマックスになっています。

というこの作品は、ジャズ入門者にはキツイかもしれませんが、ハマると抜け出せない魅力がある大名盤に違いありません。義理チョコ贈ろうとしている貴女は、止めてこのアルバムを買いましょうね。


キャバレームード万歳♪

2006-01-22 17:18:43 | Weblog

昔の日活アクション映画に付物なのがキャバレーです。

その経営者は悪玉で、美人マダムはボスの囲われ者ですが、もちろん浮気をしたり、過去に好きな男がいて、子供とも生き別れになっているという設定がほとんどです。

そして、そこへ流れてくるのが、これも訳有りのグラマー・ダンサーで、もちろん店ではセクシーに踊ります♪

というように、私はそういう昭和30年代後半から40年代前半にかけてのキャバレーの雰囲気が大好きで、映画の中には当時の本物のジャズメンが登場したり、役者であってもそれなりのムードで楽器を操っています。

まあ、ジャズ全盛期の日本でも、大方の仕事はそんなもんだったのかも知れません。あまり真剣にモダンジャズに取り組んでいるとホサれるという実態は、やはり日活映画の「銀座の恋の物語」でジェリー藤尾が演じるピアニストがその見本でしょうか……。

ということで、本日はキャバレー・ムードのこの1枚を――

Diz Big Band / Dizzy Gillespie (Verve)

ディジー・ガレスピーはチャーリー・パーカーと共にモダンジャズを創出した偉大なる天才トランペッターですが、ビバップのエキセントリックな面とは裏腹に明るく楽しい演奏も心がけていた芸能人的なところがある人です。

それ故に当時から、ガチガチのジャズ・ファンからは軽く見られていたらしいのですが、音楽の素晴らしさを追求していた点では、誰よりも高く評価されるべき天才だと、私は思います。

そのガレスピーが常に奮闘していたのがビックバンド経営で、もちろん自分が主役としてド派手な演奏を目指していたと思われますが、雇い入れるメンバーは俊英揃いで、例えばその中からリー・モーガン(tp)、ベニー・ゴルソン(ts)、ウィントン・ケリー(p)、チャーリー・パーシップ(ds) 等々、多くの人気者が1950年代後半からのハードバップ期に大活躍していったのは、ご存知のとおりです。

ただしガレスピーのビックバンド自体は経営難が続き、何度かの結成・解散を繰返しており、その度に優れた演奏を残してはいるものの、現実は本当に厳しいというところです。このアルバムは恐らくレコーディング用に編成された臨時のビックバンドによるものでしょうが、その内容は素晴らしい限りです。

まずA面はディジー・ガレスピー(tp) を主役に、ウィントン・ケリー(p)、パーシー・ヒース(b)、ジミー・クロフォード(ds) というリズム隊、そしてホーン隊とストリングが加わった、当時としては進歩的なアレンジと下世話な部分が絶妙に混合された演奏になっています。ちなみにアレンジは鬼才ジョニー・リチャーズで、録音は1954年9月16日です。

収録4曲の内、特に私が好きなのは「O Solow」で、下世話なラテン・リズムとノーテンキな内にも一抹の哀愁が漂うガレスピーの歌、陽気なウィントン・ケリーの弾けるピアノ、ジョニー・リチャーズのふくよかなアレンジが渾然一体となった魅惑の演奏が聴かれます。これをバックに白木マリが踊りながら登場という、当に日活映画キャバレー・シーンを彷彿させるものがあるのですから、もう、たまりません。もちろんガレスピーのトランペットも激しく咆哮しています。

他にも優雅なストリングスに彩られた中でガレスピーのトランペットが優しく歌う「Roses Of Picardy」や「Silhouette」は、なんとなくハリウッドそのものという感じまでします。しかし、かなり野心的なアレンジが施された「Can You Recall ?」は、ガレスピーが緊張しすぎというか、賛否両論別れるところでしょうか……。

さてB面は、A面録音の前日である1954年9月15日の演奏が4曲、収録されていますが、こちらは常日頃からバンド・メンバーを中心としたビバップ・ビックバンドが熱く激しく燃えています。その中にはクインシー・ジョーンズ(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、ハンク・モブレー(ts)、ラッキー・トンプソン(ts) という、後年の大スターも含まれていますが、主役はあくまでもガレスピーという展開になっています。ちなみにリズム隊はウェイド・レグ(p)、ルー・バニック(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という当時のレギュラーで、アレンジはジャズからR&B、ダンス音楽全般を手広くこなすベテランのバスター・ハーディングが担当しています。

まず「Cool Eyes」はグルーヴィな雰囲気が横溢した迫力のハードバップで、厚みがあってキレ味鋭いバンドのリフに支えられて、初っ端からガレスピーがお得意のハイノート、急速フレーズを連発して熱く盛り上げていきます。途中のテナー・ソロはラッキー・トンプソン、トロンボーン・ソロはJ.J.ジョンソンと思われますが、そんなことに拘るよりも、とにかくド迫力のバンド・アンサンブルに圧倒されること必至のカッコイイ名演です。

続く「Confusion」はミディアムテンポで重厚にスイングするダンス曲で、これも白木マリが踊ってくれそうな雰囲気が満点です。バンド・アンサンブルとリズム隊のノリが本当に絶品なのです♪

そして「Pile Driver」は快適なハードバップ・ブルースで、ガレスピーもお得意の展開とあってA面でやや感じられた戸惑いが全くありません。お約束のフレーズを交えつつも荒っぽく突進するところは痛快です。ただ、少~しバンド・アンサンブルが遠慮気味なのが惜しまれます。

しかしオーラスの「Hob Nail Special」では、そのあたりも含めて全員が痛快なノリを披露しています。ただし演奏時間が短めなのが残念ですが……。

ということで、こういうのを聴くと、やっぱりジャズはフルバンだぁ! 思ったりします。まあ、このあたりは私の節操の無さが全開するところではありますが……。願わくばジャズ喫茶の大音量システムで聴いていただければ、その魅力は余すことなく堪能出来るという名盤だと思います。

ちなみにリクエストはB面がオススメですし、愕くなかれ、これが世界初CD化として現在、日本盤が復刻中ですよ♪ 例によってジャケ写からネタ元へリンクしてあります。