OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジョン・レノンの告白

2010-05-31 17:14:59 | Beatles

Mother c/w Why / John Lennon (Apple / 東芝)

ジョン・レノンは間違いなく歴史を変えた偉人ですし、天才的な音楽家&思想家だと思いますが、決して神様ではなく、とても人間の本質に正直なロックンローラー!

ですから個人的に一番驚いたのは、ビートルズの分裂騒動に関して、渦中のジョンその人が、精神的に不安定となり、治療を受けていたという現実です。

う~ん、皮肉屋で時には意地悪、さらにはバカ正直な純情男のジョンが、なぁ……。

もっと強い人かと思っていたんですよ。

しかし、そういう事実を知ったのは、もちろん決してリアルタイムではありません。

そして当時の私が聴いていた、ジョンの初めての本格的なソロアルバムといって異論のない「ジョンの魂 / John Lennon Plastic Ono Band」は、シンプルで力強いサウンドに支えられた赤裸々な歌詞が、何故そうなのか? 本当に理解の範疇を超えていたところにも共鳴してくるのです。

ちなみに問題の「ジョンの魂」の英米発売は1970年12月11日、我国では少し遅れて翌年の2月に出ていますから、ジョージの金字塔3枚組LP「オール・シングス・マスト・パス」と同時期の人気盤でしたが、当然ながら若き日のサイケおやじは買えず、友人から借りての鑑賞……。

そこでなんとかゲット出来たのが、中古でしたが、本日ご紹介のシングル盤でした。

A面収録の「Mother」は、前述「ジョンの魂」でも冒頭に置かれた強い印象の名曲名唱として、実に悲痛な響きがハードに歌われています。

ご存じのようにジョンは幼い頃に両親に捨てられ、後に母親と再会するものの、17歳の時に死別していますから、少年時代は物心両面で決して恵まれた環境ではなかったでしょう。そんな思いをストレートにぶっつけた「Mother」という歌と演奏は、その歌詞の辛辣な部分も含めて、時代の中で何かを超越した響きが感じられるのです。

しかし曲メロとアレンジ&演奏はネクラではないんですよねぇ。むしろプラスのベクトルが強いという感じが、これまた凄いのです。

参考までに演奏メンバーを記しておくと、ジョン・レノン(vo,g,p)、クラウス・ヴァマン(b)、リンゴ・スター(ds) という強力なトリオに加え、プロデュースはジョンとヨーコ、そしてフィル・スペクターが関与しています。

良く言われているように、当時のジョンはヨーコに強い影響を受け、活動そのものが賛否両論のギリギリを彷徨っていた頃でもありましたから、この「Mother」も実はヨーコを母親代わりに選んだ自己憐憫の歌だとか……?

まあ、そう言われてみれば、ジョン・レノンは特級のマザコン男!?!

そういう正体を自ら曝け出したところに、またジョン・レノンの天才性があるんでしょうか……。

さて、実は告白しておくと、このシングル盤をゲットしたのは、B面に収録されたヨーコの演じる「Why」を聴きたかったからなのです。

結論から言えば、一般的なポップスやロックの王道から外れた前衛性の強いものだったんですが、それは予想は出来ていても、なかなか実直に聴くことは出来ません。なにしろ「ジョンの魂」と同じような演奏メンバーを従えたアルバム「ヨーコ・オノ / プラスティック・オノ・バンド」が作られ、それは双子のようなジャケットデザインで発売も同時期であったはずなのに、ラジオの洋楽番組では完全に近い無視状態でしたからねぇ……。

結局は買って聴く他はないのです。なにしろそこにもジョンのギターと「声」があるのですから! 聴いたもん勝ちってやつですよね。

ということで、同じ母親を巡る関係でも、何処ぞの総理大臣のように母親からお金を出してもらって政治家ごっこに興じ、国民を裏切ったバカもいれば、母親から捨てられたことを根源的な心の糧とした偉人もいるというが、この世の深いところだと思います。

まあ、そんなことはあくまでも他人の目から見た思い込みでしょう。

本人にしか分からないものが間違いなくあるでしょう。

しかし例えばジョンが「Mother」を歌ったように、そういう正直な部分が少しでも感じられれば、心に響く行き様に共感するのです。

でも、これは難しいです。

そして、それが出来れば、その人は天才になるんだと思うのでした。

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私のMy Sweet Load

2010-05-30 16:48:15 | Beatles

My Sweet Load c/w Isn't It A Pity / George Harroson (Apple / 東芝)

お金が無いことは人生の苦しみのひとつですが、殊更好奇心と欲望が強かった若い頃には煩悩に繋がるほどだといって、過言ではないでしょう。

例えば聴きたいレコードが買えないという現実も、そのひとつとして代表格だったのが、ジョージ・ハリスンの金字塔! 驚愕の箱入り3枚組LP「オール・シングス・マスト・パス」でした。なにしろ日本盤が5千円でしたからねぇ。もう当時の音楽好きの若い男女にとっては、憤りと社会不満を爆発させかねないものがありました。

というのも、実はジョージのソロ活動には既に2枚のアルバムが発表されていたんですが、中身は電子音楽や映画サントラ音源という、些かロックやポップスの主流から外れたものでしたし、加えてビートルズの先行き不安……。

そんな中で大きな光明となったのが、本日ご紹介のシングル曲「My Sweet Load」でした。

シンプルなアコースティックギターのコードストロークと些か線の細いスライドギターが実に印象的なイントロに導かれ、そのメインの曲メロは親しみ易いフレーズを繰り返すだけの展開なんですが、ジワジワと心に染み込んで不思議と気分が高揚されられるという、所謂良い曲♪♪~♪

日本での発売は昭和46(1971)年1月でしたが、既にアメリカでは前年11月末頃に出ていたこともあり、レコード発売前から大ヒットは確実というムードでラジオから流されまくっていたと記憶しています。

そして今では、誰もが一度は耳にしたことがあると思われるのですが、驚いたことに世界中でこの曲がヒットしていた同年春、盗作騒動が勃発したのも印象的でした。

その元ネタは、黒人女性コーラスグループのシィフォンズが1963年にアメリカで大ヒットさせた「He's So Fine」であるとする訴えは、紆余曲折の末に原告側出版社の勝訴となり、確か58万ドル超の支払いを命じられましたですね……。

まあ、このあたりは感性の問題も大きいと思いますし、当時のラジオの洋楽番組では話題のひとつとして、この両曲を比較するなんていう企画もあり、サイケおやじもその時に初めてシフォンズの「He's So Fine」を聴いたんですが、そんなに似ているかなぁ……? というのが最初の印象でした。

ところが事態が変わったのは同年初夏になって世に出た、ジョディ・ミラーという女性歌手の歌う同曲のカパーバージョンで、なんとアレンジが「My Sweet Load」を強く意識!?! アコースティックギターのコードストロークのイントロまでも確信犯的に利用した、実に狙ったものでしたから、裁判所の判断が傾くのもムペなるかな……。

おまけに裁判の途中から、あの悪徳計理士のアレン・クレインが原告側に寝返ったり、シフォンズが「My Sweet Load」のカパーバージョンを出したり、さらにジョージ自身が当時の妻だったパティと親友エリック・クラブントンの不倫騒動に落ち込んだりしていましたから、この結果も致し方ないのかもしれません。

しかし、それはそれとして、とにかくジョージの「My Sweet Load」は素晴らしいですよ、やっぱり♪♪~♪

ジョージの内省的な優しさを強く滲ませる歌唱、それをバックアップするコーラスがひたすらに「ハレルヤ」「ハレクリシュナ」と歌う一途な信頼、あるいは信仰的ムードが、実に上手く融合していると思わざるをえないのです。

もちろんそんな個人的な思い込みは今となっての感想で、リアルタイムでは既に述べたように、全く不思議な高揚感に包まれた気持の良さが、この大ヒット曲の魅力でした。

それは演奏パートのシンプルな構成にも感じられ、特にアコースティックギターがメインの前半から途中でドラムスとベースが加わっての盛り上がりは、まさに信仰集会の趣なんですが、そんな胡散臭いものは少なくとも私には微塵も感じられず、逆に一緒に歌ってしまうほどです。

ハァ~レルゥ~~ヤッ♪♪~♪
ハァ~レリシュ~~ナッ♪♪~♪

ちなみに「ハレルヤ」は黛ジュンの大ヒットで耳に馴染んでいた言葉でしたが、「ハレクリシュナ」って??? 後に知ったところでは、ヒンズー教の神様のことだったのは、皆様が良くご存じのところだと思います。

ということで冒頭の話に戻りますが、この曲が大ヒットしたことにより、前述の3枚組LP「オール・シングス・マスト・パス」が尚更に希求されたんですねぇ。そして叶わぬ思いに現実の厳しさを痛感させられ……。

そんな気分で聴くとさらに刹那の境地なのが、B面収録の「Isn't It A Pity」でした。

切々としながら、何処か醒めた境地を滲ませるシンプルなメロディを湿っぽく歌うジョージ、それを覆い隠すかのような大仰なオーケストラの響き、意外なほど力強いリズム隊の存在は、なんだか何かの終りを告げられているかのような印象を受けてしまうのです。

ちなみに、今では当たり前のように言われているフィル・スペクターのプロデュースとか、それに関わる「音の壁」云々なんていう論説は、リアルタイムではほとんど関心の対象にもなっていなかったと思います。なにしろ問題のアルバム「レット・イット・ビー」制作に関する裏話や発売の経緯についてのあれこれが、当時は今ほど公になっていませんでしたし、フィル・スペクターその人が、既に忘れられた存在だったのですから!?

このあたりを後追いで体験してしまうと、また当時のジョージの音楽についての印象も変わってしまうかもしれませんね。個人的には、この「It Isn't It A Pity」について、なんてモコモコモヤモヤした野暮ったい音だろう……。なんていうのが正直な感想でしたし、それゆえに諦観漂うジョージの歌とメロディが心に染みくるという、なかなか不思議な体験をさせてもらったのです。

ということで、これもまた私にとっては青春の1曲♪♪~♪

そう言えは最初にラジオで聴いた時、曲名から「私の甘い道」ってなんだ!?

という強烈な思い違いをしていたのも、懐かしい思い出なのでした。

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ウェスの映像は尽きない喜び

2010-05-29 16:59:45 | Jazz

Wes Montgomery In Europe 1965 (Imro-Jazz = DVD)

これはかなり以前にゲットしていたブツですが、なんかタイミングが合わなくてご紹介していませんでした。

内容はウェス・モンゴメリーが1965年に訪れた欧州巡業の日々の中、出演したテレビ番組をふたつ収録しています。

そのメンバーはウェス・モンゴメリー(g) 以下、ハロルド・メイバーン(p)、アーサー・ハーパー(b)、ジミー・ラブレイス(ds) という当時のツアーバンドですから、纏まりの良さは文句無し!

☆1965年3月25日、イギリスでのテレビショウ (約29分)
 01 Yesterdays
 02 Jingles
 03 'Round Midnight
 04 Twisted Blues
 05 Full House

 このパート以前から何度も商品化されている有名なセッションで、例えば最近でも「Wes Montgomery All Stars Live In Hamburg 1965 」に収録されていました。
 画質や音質のリマスターも大差は無いと思いますが、まあ、このあたりは十人十色の好き嫌いかもしれません。
 もちろん演奏はモダンジャズの王道を行く極上の展開ですよ。特にグルーヴィなワルツビートがイカシている「Full House」は、何度観ても最高ですねぇ~♪

☆1965年3月末頃、ブリュッセルでのテレビショウ (約24分)
 06 Impressions
 07 Twisted Blues
 08 Here's That Rainy Day
 09 Jingles
 10 The Girl Next Door

 こちらは詳細なセッションデータが特定されていないようですが、演奏メンバーは前半と同じスタジオセッションのモノクロ映像で、このブツの本命です。
 私は初めて観ました。
 まず、何んと言っても期待してしまうのが、初っ端の「Impressions」でしょう。
 そして結果は強烈なアップテンポでブリブリに弾きまくるウェス・モンゴメリーの神髄! オクターブ奏法やコード弾きはもちろんのこと、単音フレーズでの運指の秘密もしっかりと確認出来ますよ。それと躍動的なリズム隊、特に疑似マッコイ・タイナーを演じるハロルド・メイバーンが憎めません。全く4分に満たない演奏時間が恨めしい!
 ちなみに画質は「A-」程度ですが、音質のリマスターはなんら問題の無いレベルだと思います。
 ですから、「Twisted Blues」や「Jingles」という、ロンドンセッションとのダブリ曲にしても、聴き&観較べが実に楽しいところなんですよ。それは演奏そのものばかりではなく、カメラワークや照明の味わいも含めてのものですから、画質や音質はロンドンセッションに軍配が上がるものの、演奏に関しては甲乙つけ難い充実度です。
 ただし「Twisted Blues」はテンポが幾分上がっている所為でしょうか、こちらの方がバンド全体に前向きな勢いが漲っている感じですし、「Jingles」ではアドリブソロに入る順番がウェス・モンゴメリーとハロルド・メイバーンで逆になっていること、そしてジミー・ラブレイスのドラムソロがあることで、ウェス・モンゴメリーのソロパートが短くなっているブリュッセルのバージョンに荒っぽさが顕著!?! つまり瞬発力がジャズ本来の瞬間芸へとダイレクトに繋がるエネルギーとなって、ここに記録されているように思います。
 また「Here's That Rainy Day」は、お目当てのボサノバ風の演奏ですから、ジミー・ラブレイスの気持の良いリムショットをバックに、スピーディなアドリブを披露するウェス・モンゴメリーの魔法のギターが楽しめますよ♪♪~♪
 う~ん、映像のカメラワークで指使いが確認出来ますから、思わずコピーしたくなって、きっと私は挫折するでしょうねぇ。もちろんハロルド・メイバーンの選ぶコードも全篇で興味深いと思います。
 ですからオーラスにしっとりと演じられる「The Girl Next Door」の味わいは、番組そのもののクロージングとして用いられている所為もあり、また格別♪♪~♪

ということで、映像作品としては時代性もあり、貴重度が優先されるものかもしれませんが、演奏だって凄いものが楽しめるのは言わずもがなでしょう。

実はウェス・モンゴメリーのこの時の巡業には、まだまだブートでしか出回っていない映像が幾つか残されています。そのあたりはネットを徘徊すれば、今では簡単に接することが出来るとはいえ、やはりオフィシャルとしてパッケージ化されるのが望ましいでしょうねぇ。お金を払う価値が、まちがいなくあるのですから!

最後になりましたが、今週の私は韓国への往復出張に明け暮れ、ご推察のように掲載していたプログ紹介記事はストックの流用でした。現実的には、ほとんどレコードやCD&DVDを鑑賞する時間も無くて、些かストレスが溜まっています。

ちなみに今の韓国は怖い緊張感がリアルに感じられますよ。

原因は、例の国際問題です。

我国もトップの妄想虚言や往生際の悪い言い訳、仲間割れなんかに拘っていないで、はっきりと現実に対処して欲しいものですねぇ……。

とにかくジャズでもエロスでも、楽しめる時に楽しんでおきましょうよ。 

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ジェリー・ガルシアのもうひとつの桃源郷

2010-05-28 17:56:23 | Rock

Garcia / Jerry Garcia (Warner Bros.)

私はジェリ・ガルシア、ご存じグレイトフル・デッドの中心人物だったギタリストが大好きで、そのクリアーなギターの音色で演じられる浮遊感溢れるアドリブソロ、時には刹那のムードが強くなる自然体の構成美、そしてグレイトフル・デッドという人生の過ごし方までも証明してみせた音楽魂……。

それらは決して大袈裟ではなく、極めて自己に忠実な生き様だったように、今の私には羨ましく感じられのですが、若い頃にはもちろん、そのギターと音楽性ばかりに夢中になっていました。

ですからグレイトフル・デッドとは別にジェリー・ガルシアのソロアルバムが存在すると知った時には、究極的な気分で聴きたくてたまらなくなり、艱難辛苦の末に、まずゲットしたのが、本日ご紹介のアメリカ盤でした。

これは公式にはジェリー・ガルシア単独名義の最初のアルバムらしく、アメリカでは1972年に出たものですが、リアルタイムでの日本盤事情は勉強不足でわかりません。そして当然ながら、私は後追いの鑑賞でした。

 A-1 Deal
 A-2 Bird Song
 A-3 Sugaree
 A-4 Loser
 B-1 Late for Supper
 B-2 Spidergawd
 B-3 Eep Hour
 B-4 To Lay Me Down
 B-5 An Odd Little Place
 B-6 The Wheel

収録は上記の全10曲ですが、残念ながら演奏メンバーのクレジットがジャケットにはありません。ただし今日の情報によれば、ジェリー・ガルシアが歌とギターの他に各種キーボードやベース等々を担当し、ドラムスはグレイトフル・デッドからビル・クルツマンを助っ人に頼んでの多重録音作品というのが定説のようです。

しかし各々の演奏は充実と意外性に裏打ちされた聴きごたえが満点♪♪~♪

まずはA面ド頭の「Deal」が、まさに哀愁ロックとしか言いようがない、一抹の「泣き」を含んだ名曲にして名演♪♪~♪ 快適なカントリー風味とニューオリンズR&Bの巧みな折衷スタイルを彩るジェリー・ガルシアのギターは、上手く計算されているんですが、それは極めてナチュラルで、あの自由奔放な浮遊感が失われていません。終盤では幾分苦しそうなボーカルも良い感じ♪♪~♪

もう、この1曲を聴けただけで、このアルバムをゲットした苦労が報われたと思いましたですねぇ~♪

そして些かグレイトフル・デッドのアウトテイクっぽい「Bird Song」、まったりとしたカントリーロックの「Sugare」、懐古趣味とフォークロックが混ぜ合わされたキンクス風の「Loser」と続くA面の流れが、とても愛おしいばかりです。

もちろん、ジェリー・ガルシアならではのギターソロは適材適所に配されていますし、なによりもジェリー・ガルシアがほとんどを書いたとされる曲メロが素敵ですよ。ちなみに作詞はグレイトフル・デッドの盟友たるロバート・ハンターというのも、安心感のポイントでしょう。

しかし、そうした和みと喜びはB面に針を落とした瞬間、粉々に粉砕されます。

なんとその冒頭「Late for Supper」は、いきなりガッツ~ンと響くアバンギャルドなピアノや電子楽器の脳天直撃地獄拳! その後の空間優先主義とフリージャズなピアノ、意味不明のつぶやきコラージュンの連続には、頭を抱えるしかない気分なんですが、フッと気がつくと何時しかプレイヤーのカートリッジが次のトラックに移行しているんですから、おそらくは「Spidergawd」も、その続きという構成なんでしょうか……?

それが何とか救われるのが、丸っきりプログレという「Eep Hour」で、エピタフ調のコード進行によるピアノがメインの素敵な演奏です。そして途中から変幻していく「メリー・ジェーン」メロディへの繋がりには、生ギターやシンセによる彩りがあり、ついにジェリー・ガルシアならではの澄んだ音色によるエレクトリックなギターソロが流れ出すにおよんで、あたりは完全に刹那の境地!?!

あぁ、全くトンデモ系の構成美に圧倒されますよ♪♪~♪

そして続く「To Lay Me Down」が、これまたせつない白人R&Bバラードのカントリーロック的な展開で、ほとんどグラム・パーソンズの世界なんですから、ここまでの流れの深淵な企みには茫然自失の歓喜悶絶です。せつせつとしたボーカルと伸びやかなギターのコントラストは、ジェリー・ガルシアの素晴らしい個性のひとつだと思います。

そしてA面からの場面展開にアナログ盤LPならではの特性をここまで上手く活用したアルバムは、本当に少ないんじゃないでしょうか。

ですから再びピアノ中心の短いインスト「An Odd Little Place」で場面転換を図った後、重厚なグレイトフル・デッド調の「The Wheel」で締め括られる大団円も、なかなか不思議な安心感に満ちていて、また最初に針を戻したくなるほど、このB面の構成は強い中毒症状を秘めています。

もう、ほとんどプログレだよなぁ~~~♪

しかもジェリー・ガルシアに抱いているイメージが、それで壊れるなんてことは絶対に無いと思うんですよねぇ。

ということで、和みのA面に刹那のB面という、なかなかその時々の気分に合わせられる秀逸なアルバムです。

本音を言えば、あのスペーシーなギターソロをたっぷり楽しみたいというのが最初の狙いでしたから、特にB面前半の強烈な裏切りは許せない瞬間ではありましたが、それも聴き終わってみれば立派な感動に変幻しているのですから、素直に凄いと思います。

リアルタイムではどうだったのか知る由もありませんが、その後も現在に至るまで、このアルバムが名盤扱いになったことは無かったどころか、忘れられているのが実情じゃないでしょうか……。

これもまた、聴かず嫌いは勿体無い1枚として、ぜひともお楽しみ下さいませ。

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もっと聴こうよ、イエスのセカンド!

2010-05-27 13:40:21 | Rock Jazz

Time And A Word / Yes (Atlantic)

今日でも絶大な人気を誇るイエスは、もちろんイギリスのプログレバンドではピンク・フロイドキング・クリムゾンと並んで特に有名だと思いますが、決してレコードデビュー直後から大ブレイクしたわけではなく、当然ながら試行錯誤がありました。

中でも本日ご紹介のセカンドアルバムは、特にその傾向が強いと評論家の先生方にはウケが良くないらしいんですが、天の邪鬼なサイケおやじは最高に好きな1枚♪♪~♪

もう、これ無くして、何がイエスか!?

そこまで言っても後悔しないほど、好きです!

なぁ~んていう愛の告白は、女性に対しても使ったことが無いほどなんてすよ。

そしてイギリスでは1970年、我国では翌年に「イエスの世界第2集・時間と言葉」を邦題に発売されたのですが、ファーストアルバムで完全にKOされていた若き日のサイケおやじは、青春の血の滾りとでも申しましょうか、八方手を尽くし、ついに掲載したジャケット違いのアメリカ盤を逸早く入手することに成功♪♪~♪

もうこの時は本当に嬉しくて、天にも昇る心持ちとは、このことか!?

と、まで感激したんですが、実際に鑑賞謹聴すれば、それは尚更に強烈な歓喜となって、サイケおやじをシビレさせたのです。

 A-1 No Opportunity Necessary, No Experience Needed
                                                     / チャンスも経験もいらない
 A-2 Then
 A-3 Everyday
 A-4 Sweet Dreams
 B-1 The Prophet / 預言者
 B-2 Clear Days
 B-3 Astral Traveller / 星を旅する人
 B-4 Time And A Word / 時間と言葉

当時のイエスは前作同様にジョン・アンダーソン(vo,per)、ピーター・バンクス(g,vo)、トニー・ケイ(key)、クリス・スクワイア(b,vo)、ビル・ブラッフォード(ds,per,vib) という5人組でしたが、このアルバムセッションには特にオーケストラが随所に導入され、トニー・コックスなるアレンジャーが起用されています。そのあたりが賛否両論の要因だと言われているのですが……。

しかし個人的には全く違和感が無く、むしろ素晴らしいと思うばかりなんですよ。

それはこのセッションから参画したプロデューサーのトニー・コルトンの手腕、あるいはその起用を望んだジョン・アンダーソンの目論見だったかもしれませんし、巷間で酷評されるほどトホホのアルバムでは決して無いと確信しています。

それは如何にもブリティッシュなオルガンに導かれ、華麗なる西部劇調のストリングが鳴り響く中を一転して暴走する強烈なロックジャズ「チャンスも経験もいらない」からして完全なる成功! とにかく目眩がしそうなクリス・スクワイアの過激に躍動するベースワーク、エグ味の強いピーター・バンクスのジャズ系ギター、空間を支配するビル・ブラッフォードのドラムスも恐ろしいばかりに冴えまくり♪♪~♪ 素晴らしいアンサンブルと意図的にラフにしたであろうコーラスの存在は、既存のロックへのひとつの挑戦だったかもしれません。

しかも録音もミックスも、当時としては異常に先鋭的! つまり旧態依然とした左右と真ん中に分離するステレオミックスを大切にしながらも、各楽器の存在感が場面毎に微妙に変化するという小技が効いていて、それはアルバム全篇の隠し味かもしれません。

ですから続く「Then」が如何にエマーソン・レイク&パーマーしていようが、鋭いストリングの響きは決して殺されることなく、また今となってはバッファロー・スプリングフィールドのオリジナルとして知られる「Everyday」にしても、その中間部で炸裂する強烈なロックジャズの展開が、ド迫力のバンドアンサンブルと激しいアドリブの応酬、さらにビシッとキメまくりのドラムスとベースがオーケストラのパートと遊離する愚行なんて、絶対にありえません!

ちなみにサイケおやじは、当然ながらこの時点でバッファロー・スプリングフィールドは聴いたことがなく、後にオリジナルバージョンに接した時には些かの肩すかし状態だったことを付け加えおきます。

う~ん、それにしてイエスの「Everyday」は、何度聴いても圧倒的!

イノセントなジャズ者でも絶対に圧倒されること、請け合いです!

そしてポール・マッカトニーがプログレしてしまったような「Sweet Dreams」では、リボルバーっぽいドラムスの音作りがニクイばかりですし、このアルバムの中では特に躍動的な「預言者」では、ついにトニー・ケイのキーボードが大活躍! そのクラシックとジャズを良い塩梅でミックスさせた旨味は、なかなか絶品だと思いますが、演奏そのものがディープ・パープルになっているのも否定出来ず、それがまた嬉しかったりすると言えば、贔屓の引き倒し以上に苦しい言い訳でしょうねぇ……。

しかしそれを中和するのがジョン・アンダーソンの透明感あふれるボーカルで、ストリングスとの相性も素晴らしく、またド派手に自己主張するドラムスとベース、未だにジャズから脱却出来ないピーター・バンクスのギター共々に気分が高揚させられます。もちろん秘められたビートルズっぽさには、思わずニヤリ♪♪~♪

それはピアノとストリングスだけをバックにジョン・アンダーソンが歌う「Clear Days」の清々しさ、その詩情をジワジワとロックジャズ&正統派プログレ指向へと惹き戻す「星を旅する人」、そしてオーラスの「時間と言葉」における壮大な構築美という、全く後のイエスとなんら変わらない流れの中でも効果的な隠し味です。

また特筆しておきたいのが、ピーター・バンクスの凄いギターワークで、モロにジャズっぽいコードワークやオクターヴ奏法、あるいは通常のスケールから逸脱したアドリブ展開や細かいオカズの使い方、テンションの高いカッティング等々、とにかくロックジャズのギタリストとしては世界最高峰屈指のひとりと私は思います。

正直に言えば、今の私はピーター・バンクスを聴きたくて、初期イエスのレコードを取り出すといって過言ではないのです。

しかし掲載されたLPジャケットをご覧になれば驚かれるとおり、そこにはピーター・バンクスの姿は無く、代わりにここでは全く演奏していない新加入のスティーヴ・ハウが!?!

まあ、これはアメリカ盤という特殊事情ゆえのことではありますが、本国のイギリス盤や日本盤はお馴染みのシュールなイラストになっていますから、この仕打ちは酷いとしか言えません。

そこに何があったのか、現在の歴史ではバンドの意向に合わないとして、アルバム発売直前に解雇されたことばかりが有名になっていますが、その経緯や結果はともかくとして、ピーター・バンクスという稀代の達人ギタリストを真っ当に評価する動きがあっても良いのでは……?

それともうひとつ、このアルバムでのクリス・スクワイアのベースワークは、もはや暴虐と表現すべき躍動感を聞かせてくれますが、それは録音&ミックスがエレキベース中心主義に傾いているからでしょうか? リアルタイムでも呆れるほどに驚かされましたが、それは今日でも全く変わらない現実です。

さらにビル・ブラッフォードのシャープなドラミングも驚異的で、ロックビートはもちろんのこと、4ビートからポリリズムへと発展していくジャズっぽい敲き方は最高に冴えまくり♪♪~♪

そうした成果は、録音エンジニアのエディ・オフォードの優れた手腕によるところが大きく、後の大傑作「こわれもの」や「危機」といった名盤へとダイレクトに繋がる事実を否定は出来ないでしょう。

とにかく今は全く忘れられているこのアルバムこそ、聴かず嫌いの決定的1枚です。

こんなにビシッとキマッているロックジャズを聴かないのは、本当に勿体無い!

これは私のような者が百万言を弄しても致し方ない現実だと思います。

ぜひっ!

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スティーヴ・キューン対ゲッツ&ブルックマイヤー組

2010-05-26 17:15:40 | Jazz

Stan Getz & Bob Brookmeyer Recorded Fall 1961 (Verve)

ジャズ史上屈指、白人テナーサックス奏者の最高峰、等々の称号は幾つあっても足りない偉人がスタン・ゲッツ! こう断言しても私は後悔しません。

しかもその人生には当然ながら波乱万丈で、悪いクスリの溺れていた時期も確かにありましたし、音楽面にしてもクール派のスタアとして脚光を浴び、ボサノバの大ヒットからはシャリコマ路線に踏み込み、さらにはモードや現代音楽、フュージョンにまで意欲的に取り組んだ姿勢は、時として批判は浴びても、今となっては残された音源の全てが素晴らしいとしか言いようがありません。

さて、本日ご紹介の1枚はタイトルどおり、ちょうどボサノバ期に入る直前の1961年秋に吹きこまれた、極めてモダンジャズな傑作! メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、スティーヴ・キューン(p)、ジョン・ネヴス(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という当時のレギュラーカルテットに盟友のボブ・ブルックマイヤー(v-tb) が特別参加していますから、気心の知れた中にも礼節と前向きな姿勢を旗幟鮮明にした好セッションが楽しめます。

A-1 Minuet Crica '61
 ボブ・ブルックマイヤーが書いたウキウキするようなワルツタイムのオリジナルで、曲タイトルの「メヌエット」に恥じない優雅なスンイグ感と歌心に満ちた演奏が繰り広げられています。
 その原動力は言わずもがなのロイ・ヘインズで、この名人ならではという、オカズが多くてメシが無いドラミングが痛快に新しいポリリズムを叩き出していますから、ホノボノとした歌心に徹するボブ・ブルックマイヤー、またクールでありながら躍動的なスタン・ゲッツも油断出来ません。
 そして、さらに素晴らしいのがスティーヴ・キューンの存在で、大御所2人に続いてアドリブを始める、その最初のワンフレーズが出た瞬間、そこには新しい風が吹いてきた感じが実に新鮮で、たまりません♪♪~♪
 もちろん、そのスタイルは所謂エバンス派なんですが、リアルタイムの時点でそのフィーリングを逸早く理解実践していたひとりとしての証明が、このトラックばかりでなく、アルバム全篇できっちりと楽しめますよ。ロイ・ヘインズとの相性も良い感じ♪♪~♪
 演奏はこの後、例によってお互いのアドリブ合戦で構築していくアンサンブルを聞かせる、まさにゲッツ&ブルックマイヤーが十八番の展開になりますが、このあたりは1950年代前半から続く「お約束」として絶対に欠かせず、嬉しくなるばかりです。

A-2 Who Could Care
 これもボブ・ブルックマイヤーのオリジナル曲で、静謐な浮遊感と心温まるメロディの流れに癒されます。いゃ~、それにしてもボブ・ブルックマイヤーの曲作りは侮れませんねぇ~♪
 ですからスタン・ゲッツも飛躍したフェイクは聞かせてくれないのですが、相当にしっかりとアレンジされた演奏展開には十分満足させられますし、思わずビル・エバンス!? と唸るばかりのイントロを披露するスティーヴ・キューンは伴奏も冴えまくり♪♪~♪
 これもジャズの魅力のひとつと、再認識です。

A-3 Nice Work If You Can Get It
 快適なテンポで演奏される歌物スタンダードの楽しさを満喫出来るトラックです。
 まずはボブ・ブルックマイヤーがハートウォームなアドリブフレーズを次々に提示すれば、スタン・ゲッツは何時ものクールなところは抑えつつ、ホノボノとしてフワフワなノリで呼応するというニクイことをやっています。
 そしてスティーヴ・キューンは、当たり前のようにビル・エバンスの物真似大会に徹するのですが、それは決して厚顔無恥ではなく、ジャズ者にとっては、思わずニヤリの至福じゃないでしょうか。私は好きです。

B-1 Thump,Thump,Thump
 これまたウキウキするしかないボブ・ブルックマイヤーのオリジナル曲ですから、作者に特徴的なモゴモゴした吹奏と歌心満載のアドリブの妙が最高に楽しめます。刺戟的なロイ・ヘインズのドラミングも凄いですよ。
 一方、スタン・ゲッツは悠々自適というか、正直に言えば、些か本調子では無いのかもしれませんが、それでも十八番の「ゲッツ節」を淀みなくキメるあたりは流石だと思います。
 しかしサイケおやじの耳をグッと惹きつけるのはスティーヴ・キューンのビル・エバンスしまくったアドリブで、実はジャス喫茶で最初に聴いたこのレコードの演奏は、この部分でしたから、完全にビル・エバンス!?! と思い込んで感動したほどの素晴らしさなんですよ♪♪~♪ しかも聴くほどにスティーヴ・キューンの個性らしきものの滲み出しが感じられるんですねぇ~♪
 あぁ、何度聴いても、良いものは良いですよ。
 微妙にナウ・ヒー・シングスなロイ・ヘインズのドラミング、また実直なジョン・ネヴスのベースワークにも好感が持てます。

B-2 A Nightingale Sang In Berkeley Square
 これも人気スタンダード曲とあって、スタン・ゲッツ中毒者には絶対の演奏になっています。なにしろスローテンポで夢見るようなテーマ演奏は、スタン・ゲッツでしかありえないテナーサックスの音色とボブ・ブルックマイヤーのホノボノフィーリングが完全融合♪♪~♪
 それはアドリブパートにも当然引き継がれますが、そんな区別云々は愚の骨頂でしょうねぇ。ただただ演奏に酔いしれていると、そこは桃源郷なのです。

B-3 Love Jumped Out
 オーラスは多分、バック・クレイトンのオリジナルらしいモダンスイングの新しい解釈というか、これまでもモダンジャズに懐古趣味のアンサンブルを取り入れてきたボブ・ブルックマイヤーの目論見が、ここでも試されたということでしょうか。
 些か悠長なスイング感は、ロイ・ヘインズの温故知新によって刺戟的なビートに変換されているように感じますが、肝心の親分ふたりがノンビリムード……。
 しかしストップタイムを意欲的に用いてくるリズム隊の刺戟策が効いたんでしょうか、中盤からは緊張と緩和のバランスも良好な名演として、素敵な大団円♪♪~♪
 ちなみにリズム隊だけのパートは、もちろん疑似ビル・エバンス・トリオですから、好きな人にはたまらない展開だと思いますよ。スティーヴ・キューンは言わずもがな、ここまで些か地味だったベースのジョン・ネヴスが執拗な伴奏とツッコミのアドリブを披露すれば、ロイ・ヘインズも先鋭のジャズビートで対抗するという素晴らしさ! このトリオだけのレコーディングがあればなぁ~♪ なんていう贅沢な我儘を言いたくなるのでした。

ということで、名盤ガイド本にはあまり載ることもないアルバムかもしれませんが、実際に聴いてみれば、この充実度は侮れません。特にスティーヴ・キューンというよりも、ビル・エバンス好きとでも申しましょうか、所謂エバンス派の原初的な発生が確認出来るという喜びは、何とも言えませんよ。また今でも無名なジョン・ネヴスの頑張り、そしてロイ・ヘインズの唯一無二なドラミングも、このセッションの成功には欠かせなかったと思います。

そしてスタン・ゲッツとボブ・ブルックマイヤーが自らの頑固さを路程しつつも、あえて新しいリズムアプローチに対応していくスリルが、このアルバムの魅力になっているんじゃないでしょうか。

ですから絶妙の和みと先鋭性が両立した瞬間、また逆に破綻しそうな部分も含めて、このアルバムがジャズ者の気を惹くのは当然です。

ちなみにスタン・ゲッツは後にビル・エバンスとの共演レコーディングを幾つか残しいきますが、もしかしたらこの時点でビル・エバンスを雇いたかったのかもしれませんね。

しかしスティーヴ・キューンをその代役ときめつけるのは、あまりにも失礼でしょう。それほど、ここでのスティーヴ・キューンは冴えています。極言すれば、スティーヴ・キューン中心に聴くアルバムかもしませんし、実際、サイケおやじは、そうすることも度々なのです。

つまり、これも一粒で二度美味しいという、グリコ盤なのでした。

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ミッシェル・ルグランの名盤を実感

2010-05-25 16:48:19 | Jazz

Michel Legrand At Shelly's Manne-Hole (Verve)

ミッシェル・ルグランはフランスの高名な音楽家として映画&音楽ファンならば知らぬ人も無い天才ですが、一方、ピアニストとしても、特にジャズを弾かせれば天下一品の腕前!

そうした「もうひとつの顔」を若き日のサイケおやじに知らしめてくれたのが、本日ご紹介の1枚です。

ジャケットが光っているのは、表面が銀インク印刷というか、銀紙に型押しという仕様になっているからで、如何にも当時のアナログ盤LPの凝った体裁が嬉しいわけですが、それをきっちり撮影出来なかったのは、サイケおやじの素人の哀しさとして、ご理解願います。

肝心の中身はピアノトリオの秀逸なライプ演奏♪♪~♪

録音は1968年9月5日、メンバーはミッシェル・ルグラン(p,vo)、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds) という、今では夢の臨時編成! しかもシェリー・マンが当時経営していたクラブ「マン・ホール」でのライプセッションですから、即興的な醍醐味と名人3者のコラポレーションが絶妙の構築美を堪能させてくれます。

ちなみに一説によれば、このセッションが実現したのはハリウッド映画への仕事でミッシェル・ルグランがシェリー・マンと邂逅した経緯があったようですが、それにしてもここに聴かれる、一発勝負的なジャズ衝動は凄いですねぇ~♪

A-1 The Grand Brown Man
 店内のざわめきの中、本当に指慣らしのようなスタートからグイグイと演奏を牽引していくミッシェル・ルグランのピアノ! それに追従しつつも頑固な自己主張を崩さないレイ・ブラウンのペースは執拗ですし、シェリー・マンのブラシが、これまたヘヴィでメリハリの効いたビートを叩きますから、いつしかアップテンポへと移行しているトリオが一丸となった豪快スイングには心底、シビレさせられます。
 実は告白すると、ジャズ喫茶で初めてこのアルバムの、この演奏を聴いた時、てっきりオスカー・ピーターソン?? う~ん、それにしては、ちょいと違うけれど、ベースはレイ・ブラウンだよなぁ……。なぁ~んて勝手な自己解釈をしながら飾ってあるジャケットを見ると、そこにはジャズ喫茶特有の暗い照明に浮かびあがった銀色のこのアルバムがっ!
 しかもピアノを弾いているのが、当時は作編曲家としてしか私が認識していなかったミッシェル・ルグランだったのですから、もう吃驚仰天の極北でした。
 なにしろ演奏が進むにつれ、相当にアバンギャルドなフレーズも飛び出しますし、トリオとしての遣り口が新主流派というか、ビル・エバンス的なアプローチをオスカー・ピーターソンが演じてしまったような、そんな不遜な例えでしか文章に出来ないほど圧巻の勢いに満ちているのですから!?!
 つまりトリオの面々がそれぞれにインタープレイを展開しつつ、基本配分は「4/3/3」という、その場面毎の主役が「4」なのは言わずもがな、トリオのお互いがその時々の主役を盛り立て、主役は他のふたりを蔑にしないという潔さが、アルバム全篇を通しての快演に繋がっているように思います。

A-2 A Time For Love
 ジョニー・マンデルが書いた映画音楽の中では最も有名なメロディかもしれませんが、それを丸っきりミッシェル・ルグランのオリジナル? なんていう思い込みに誘うのが、この演奏かもしれません。
 実際、サイケおやじは長い間、このメロディはルグラン!?!
 なんて愚かな思い込みをしていたほど、ここでの華麗なピアノ演奏は素晴らしく、絶妙の間合いとお洒落なフレーズ&コードの選び方は、如何にもフランス人らしいと思うのは私だけでしょうか。
 ミッシェル・ルグランも無暗にテクニックをひけらすことはなく、レイ・ブラウン&シェリー・マンにサポートされている現実に感謝の名演♪♪~♪

A-3 Ray's Riff
 ワルツタイムのブルースで、タイトルどおり、レイ・ブラウンのペースから定番的に弾きだされるリフを活かした即興的な演奏だと思われます。
 まず、とにかくレイ・ブラウンのペース中心に聴いて大正解! 大技小技を適材適所に繰り出す音楽性は、モダンジャズの神髄といって過言ではないでしょう。
 そして当然ながら、ほとんど黒っぽさのないミッシェル・ルグランのアドリブは豪快にしてグルーヴィ♪♪~♪ なんかジャズ的に矛盾しているような感じも致しますが、そこはシェリー・マンが百戦錬磨のドラミングで盛り上げていく中を、ミッシェル・ルグランのピアノが見事な答えを聞かせてくれます。

A-4 Watch What Happens'
 これはお馴染み、ミッシェル・ルグランが珠玉のオリジナル曲として、誰もが一度は耳にしたことのあるメロディでしょう。最初の一節が提示された瞬間、客席からも拍手が沸き上がるのもムペなるかな!
 しかも作者本人は些かも気負うことなく、かなり自由度の高いメロディフェイクから歌心を随所に滲ませるアドリブパートまで、本当に変幻自在のジャズピアノ♪♪~♪ 寄り添うレイ・ブラウンも凄いサポートを披露していますから、中盤以降はオスカー・ピーターソン症候群を露呈するのも、実は嬉しいプレゼントだと思います。

B-1 My Funny Valentien
 これはちょっと以外な選曲のような気もするんですが、とにかく有名スタンダードを演じてくれるのは楽しみも倍加するということで、初っ端からレイ・ブラウンのペースによる奔放なアドリブソロの露払いが強烈です。
 そしてミッシェル・ルグランがマジかオトボケか判断し難いハミングボーカルでお馴染みのメロディを歌い、続けてスキャットによるアドリブからピアノによるハードな解釈を聞かせてくれるに及んで、このトリオの凄さが歴然としてくる仕掛けです。
 このあたりは本当に文章にするのが虚しくなるほどで、スキャットとピアノのユニゾンやレイ・ブラウンのペースと恐ろしい対話を繰り広げる展開には、思わず唸る他はないでしょう。

B-2 Another Blues
 これまた即興的なんでしょうか、相当にハードバップなブルースなんですが、演奏をリードしていくのはレイ・ブラウンのペース! そして実にグルーヴィなミッシェル・ルグランのピアノが痛快なアドリブを披露するその中には、当然ながら過激な部分もどっさり!?
 しかしシェリー・マンがハードドライヴィングなジャズビートを外しませんから、様々なリズム的興奮に煽られたトリオの名演が堪能出来ますよ。

B-3 Willow Weep For Me
 これもジャズ者には説明不要のブルージーなスタンダードメロディなんですが、なんとも意地悪いレイ・ブラウンのベースワークゆえに、かなり緊張度の高い演奏になっているようです。
 しかしミッシェル・ルグランが、それこそオズオズとお馴染みのメロディを繰り出せば、後はじっくり構えて濃密なモダンジャズのムードが横溢♪♪~♪ かなりヤケッパチ気味にド派手なフレーズやブロックコードを響かせるミッシェル・ルグランに対し、意外なほど細心の注意をはらうレイ・ブラウンというコントラストは、まさに名人達の会話というべきかもしれません。

B-4 Los Gatos
 オーラスも全くの即興に近い演奏で、ほとんどフリージャズかもしれませんが、タイトルからもご推察のようにラテン味のモードが導入されたあたりが結果オーライだと思います。
 中でもシェリー・マンの頑張りは特筆物で、高速4ビートから混濁のラテンリズム、さらにはフリーなポリリズムを千載一遇のチャンスに叩きまくり! もちろんピアノトリオとしての本分からミッシェル・ルグランが全体をリードして、聴き易いフレーズを積み重ねていきますが、ドラムスとベースが言いなりにならない頑固さで、これがジャズの面白みという大団円になるのでした。

ということで、ピアノトリオのアルバムとしては世に出た瞬間から名盤扱いの1枚でしょう。今となっては、ほとんど通過儀礼的な存在かもしれません。

しかしモダンジャズの演奏としては特級品であることに間違いはなく、参加した面々にとっては、何れもが代表作に値する出来栄えだと思います。

特にレイ・ブラウンは、その録音がウッドベースの特性を上手く活かしている所為もあり、繊細にして豪胆な個性が前向きの音楽性とジャストミートの快演を披露♪♪~♪ 最高に素晴らしいジャズベースの神髄が堪能出来ますよ。

またシェリー・マンは、その店の経営者という立場もあったんでしょうか、些か仕切り役という感が無きにしもあらずなんですが、しかし、ここぞっ、でキメるビートの凄さやリズムの自在性は達人の名に恥じないものです。

そしてミッシェル・ルグランにしても、それまで幾つもあったジャズセッションから、ここでピアニストとしてもモダンジャズの最先端を演じきったことにより、決定的な評価を得たんじゃないでしょうか。

願わくば、このトリオによる未発表音源集も期待したいところですが、やはり一期一会であればこその名演アルバムなんでしょうねぇ~♪

加えて録音も、なかなか秀逸ですよ♪♪~♪

やっぱり名盤は、良いですね。

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吹きまくれっ! ソニー・ステット!

2010-05-24 16:55:13 | Jazz

Sonny Stitt Plays (Roost)

常に平均点以上の演奏しか披露しないソニー・ステットは、それゆえに何を吹いても同じ!? ですから持つべきアルバムは「ステット、パウエル&J.J. (Prestige)」と「チューンナップ (Cobblestone)」だけでOK!?

なんて不遜なことを思っていた時期もあり、今となっては額に汗が滲むばかりなんですが、その頃でさえ、本日ご紹介の1枚は別格の存在でした。

それはワンホーンでスタンダードやインスタントなオリジナルを吹きまくるという、何時もと同じ姿勢を貫いていることに変わりはなくとも、参加した名手達とのコラポレーションが所謂サムシンエルスを強く感じさせる自然体の名演集!

録音は1956年9月1日、メンバーはソニー・ステット(as) 以下、ハンク・ジョーンズ(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、シャドウ・ウィルソン(ds)、そしてA面にだけフレディ・グリーン(g) が加わっています。

A-1 There Will Never Be Another You
 モダンジャズだけでも幾多の名演が残されている有名スタンダード曲を全くの自然体で悠々と吹いてしまうソニー・ステットの素晴らしさ! この気負いの感じられないテーマ変奏と意気軒高なアドリブこそが、稀代の名人サックスプレイヤーの真骨頂だと思います。
 サポートメンバーの中ではハンク・ジョーンズが珠玉のピアノタッチで夢心地のメロディを紡ぎだし、フレディ・グリーンのジャストなジャスビートがたまらない快感を作りだしていますから、このあたりにも耳を奪われてしまうのでした。

A-2 The Nearness Of You
 これまた有名なシミジミ系スタンダードの決定版として、このソニー・ステットの演奏も侮れない仕上がりです。ますばハンク・ジョーンズの優雅なピアノとウェンデル・マーシャルのアルコ弾きで奏されるイントロからして絶品♪♪~♪
 そしてスローテンポながら絶対にダレない演奏展開の中、ソニー・ステットは原曲メロディの美味しいところだけを抽出していくような絶妙のアドリブ、またそれに先立つテーマ解釈に絶対的な名人芸を披露するのです。
 ちなみにソニー・ステットはあまりマイナースケールを吹かないので、そのあたりが我国ではイマイチ人気の要因かもしれないのですが、それにしてもここまでの胸キュン感を提供してくれるのは流石だと思うばかりです。
 その点、ハンク・ジョーンズは完全に分かっているというか、素晴らしすぎるピアノを「さらり」と聞かせています。。

A-3 Biscuit Mix
 如何にもモダンジャズなメロディはソニー・ステットのオリジナルですが、フレディ・グリーンの快調なリズムギターゆえにモダンスイングからビバップ期のジャムセッション御用達なムードが最高です。
 そしてメンバー全員のリラックスした演奏は部分的に相当の力みから、思わずハッとさせられる場面も散見されるんですが、そこは流石の名手揃いに免じて、実に和みの結果オーライ♪♪~♪

A-4 Yesterdays
 これまた有名スタンダードで、原曲は過ぎ去った過去に思いをはせる悔恨のパラードですから、演者にはそれなりのブルーな心情が求められて当然のところを、ソニー・ステット以下バンドの面々は落ち着いた中にも、むしろ軽めな表現を目指しているようです。
 そこには当然ながらジェントルなハンク・ジョンズのピアノ、強いビートを提供するフレディ・グリーンのリズムギターがあればこそ、実はソニー・ステットの饒舌なアルトサックスが駆け足を演じるイヤミもあるんですが、それにしてもリズム隊だけのパートの潔さと分かり易いソニー・ステットという組み合わせが楽しめるんじゃないでしょうか。

B-1 Afrerwards
 激しいアップテンポでビバップの真髄に迫らんとするソニー・ステットのオリジナル曲ですから、チャーリー・パーカーと常に比較されることを有難迷惑に感じていたという作者にしても、会心のアドリブを完全披露する名演を聞かせてくれます。
 とにかく徹頭徹尾、全く淀むことのないビバップフレーズの速射砲的洪水には溜飲が下がりますよ♪♪~♪ また、ハンク・ジョーンズも慌てず騒がすの姿勢から前向きのアドリブが痛快至極な演奏を作り出していきます。

B-2 If I Should Lose You
 ハンク・ジョーンズの上手すぎるイントロに導かれ、ソニー・ステットが吹き始めるテーマメロディの快適な変奏♪♪~♪ これぞっ、ステット流儀のスタンダード解釈が極みつきに展開されていきます。
 それはアドリブ優先主義でありながら、随所に原曲や有名曲のフレーズを美味しく散りばめるという、常套手段にしてはあまりにも楽しすぎます。
 ちなみに既に述べたように、こちらのB面にはフレディ・グリーンが参加していませんが、こういう曲と演奏こそ、あの唯一無二のリズムギターが聞こえないと……。それゆえでしょうか、シャドウ・ウィルソンのブラシのビートに、なんとなくフレディ・グリーンを感じてしまうのです……。
 
B-3 Blues For Bobby
 ソニー・ステットが書いたオリジナルのスローブルースなんですが、そんな事よりも全篇から溢れ出るモダンジャズのブルースフィーリングに素直に接して正解の演奏だと思います。
 ただし、そうは言っても、実に流麗なソニー・ステットのアルトサックスから流れ出るアドリブフレーズには、些か物足りなさも感じてしまうのが正直な気持かもしれません。
 あぁ、もっと黒っぽければなぁ……。
 なんていう不遜な贅沢が、我儘なのは自覚しているつもりですが……。
 しかしチャーリー・パーカーだって、おそらくはマイナーブルースなんて吹いたことはなかったと思いますし、その意味でソニー・ステットがここで真正面から正統派のモダンジャズブルースを吹ききったのは、当たり前の潔さなんでしょうねぇ。
 自分の不明を恥じ入るばかりでございます。

B-4 My Melancholy Baby
 そしてオーラスは、これまたちょいと胸キュンメロディの歌物スタンダード♪♪~♪ 快適なテンポで屈託なく歌いまくるソニー・ステットのアルトサックスは、やっぱり最高だと思わざるをえませんねぇ~♪
 とにかく「ステット節」の大盤振る舞いというか、こういうのを聴いて、なんだぁ、またかよ……、なんて言っては絶対にいけませんよね。なにしろそれこそが余人に真似の出来る境地ではありませんし、ここまで自分の「型」を完成させているミュージシャンは、数えるほどしかいないと思います。

ということで、やはり名盤扱いになっているのが、何度聴いても実感されますよ。

おそらくは前述した「チューンナップ」が出る前の決定版が、このアルバムだったんじゃないでしょうか。

まあ、今となってはちょいと物足りなさも感じないわけではありませんが、既に述べたように、このセッションには確かに所謂サムシンエルスがあるように思います。

それはまさに極上にブレンドされた珈琲かウイスキーのように、極上の香りに満ち溢れた至福の味わい♪♪~♪

ですから万人向けの傑作として認知されることから、逆に今ではあまり聴かれていないような気もしているんですが、一度はジャズ喫茶あたりでリクエストし、高級オーディオで楽しみたい1枚だと思うばかりです。

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ロリー・ギャラガーはチェック柄のシャツ

2010-05-23 16:59:35 | Rock

Rory Gallagher Live In Europe (Polydor)

ロリー・ギャラガーはイギリスというよりも、アイルランドのロック野郎! しかも十八番は自ら弾きまくる熱血ギターを存分に活かしたブルースロックなんですから、サイケおやじにはジャストミートのひとりなんですが、実際、我国でも1970年代中頃までは相当な人気がありましたし、その時期を中心に今でも新しいファンが増えているんじゃないでしょうか。

本日の1枚は、まさにロリー・ギャラガーの真髄を楽しめる傑作として、そうした人気に火をつけた名盤です。

 A-1 Messin' With The Kid
 A-2 Laundromat
 A-3 I Could've Had Religion
 A-4 Pistol Slapper Blues
 B-1 Going To My Home Town
 B-2 In Your Town
 B-3 Bullfrog Blues

発売されたのは昭和47(1972)年で、録音は同年2~3月の欧州巡業と言われていますが、当時から既に当たり前だったスタジオでの手直しオーバーダビング等は極力感じられない、なかなか素のままのライプパフォーマンスが実にストレートな興奮を煽りますよ。

メンバーはロリー・ギャラガー(vo.g,hmc,mandolin) 以下、ジェリー・マッカヴォイ(b)、ウィルガー・キャンベル(ds) が参加したトリオ編成は、英国伝統のクリームスタイルを踏襲していますが、それもそのはず、十代の頃から既にプロとして活動していたロリー・ギャラガーが世に出たは、クリームのマネージメントにスカウトされ、当時組んでいたテイストというクリームの真似っこバンドで巡業の前座をやることになった経緯があるのです。

もちろんテイストはその後、「第二のクリーム」として売り出されますが、残念ながらブレイクすることはありませんでした。

しかしロリー・ギャラガーのギターから弾き出される熱血、それと同等のエモーションが込められた不屈のボーカルはライプの現場から評判を呼び、ついに音楽的な相違を理由にテイストが解散した後、あらためてソロデビューしたのが1971年でした。

そしてその頃になると、ロリー・ギャラガーの音楽性もクリーム一辺倒ではなくなり、ブルースをベースにしながらも、アメリカ南部の土着フォークソングやカントリー&ウェスタン、また同時に自己のルーツに忠実なアイリッシュロックの伝統をも受け継いだ、実に素朴で野趣溢れる独得のスタイルへ移行していくのです。

それは当然ながら、定評のあったライプギグの方が真価を発揮する度合いが高く、そこでいよいよ発売されたこのアルバムが人気を呼ぶのもムペなるかな!

まずはA面冒頭「Messin' With The Kid」はご存じ、シカゴブルースの大物たるジュニア・ウェルズとバディ・ガイのコンビが十八番している定番を、実にロック的にカパーした大熱演! あのウキウキするキメのリフをちょいとシンプルに弾くのもニクイばかりですし、ずっしりとヘヴィなロックビートを基調に疾走していく歌と演奏は、最高に1970年代ロックしていますよ♪♪~♪

もちろんロリー・ギャラガーのギターソロは泣きまくり♪♪~♪

ボーカルと呼応する合の手フレーズの上手さも流石ですし、ブリッジ外奏法やミストーン寸前のチョーキング等々、高出力のフェンダーならではというロックギターの魅力を活かしきったストレートな技の数々は、真似出来そうで、実は出来ないのが素人の限界!?

しかしそれがロリー・ギャラガーの真骨頂だと思います。

つまり明らかにエリック・クラプトンからスタートしたと思しきギタースタイルが、決してコピーではない自分だけのスタイルに完成されているんですねぇ。それは例えばミック・テイラーも同じなんでしょうが、そんなところから、なんとロリー・ギャラガーはミック・テイラーの後釜としてストーンズから誘いを受けていたのは有名なエピソードだと思います、

閑話休題。

ですから猪突猛進の「Laundromat」がディープ・パープルになりかかったり、あるいは正統派ブルースロックの「In Your Town」がミッドナイトランブラーしそうになっても、そこはロリー・ギャラガーが自らオリジナルとクレジットしているとおり、自信に満ちたギターと熱い歌いっぷりによって、堂々と乗り切ってしまう姿勢が潔い! 特にワンコードのブギ「In Your Town」で唸りまくるスライドギターとボーカル、そしてベースとドラムスがぶっつけてくるシンプルなビートとの相乗効果は圧巻ですよ。

また、もうひとつの魅力が所謂アンプラクドな「Pistol Slapper Blues」や「Going To My Home Town」で、巧みなフィンガービッキングでアコースティックギターの弾き語りを聞かせる「Pistol Slapper Blues」は戦前ブルースのコピーですが、マンドリンを激しくかき鳴らして歌う「Going To My Home Town」は、なんとロリー・ギャラガーのオリジナルなんですから、そのブルースやカントリーフォークへの愛情は本物だと痛感されますねぇ~♪

このあたりはライ・クーダーとは異なる、ロリー・ギャラガーならではの「ロックな個性」だと思います。だって、このストレートに熱い勢いはライ・クーダーの完成された美意識とは別次元の荒削りに剥き出しなところがあって、これは誰にも止められないと思うばかりっ!

ですからエレキを抱え、おそらくはホルダーで首にかけたハーモニカを吹きながら歌う「I Could've Had Religion」が、尚更に街角のブルースになっているのは当然が必然でしょう。途中からドラムスとベースを従えて唸るギターとボーカルの蠢く情感の昂りが、本当に最高ですよ。

そしてオーラスの「Bullfrog Blues」が、これまた痛快至極のR&Rブルース大会♪♪~♪ もう、これまでの経緯なんか全て忘れてノリまくろうぜっ! そんなロリー・ギャラガーの男義とサービス精神が全開です。

ちなみにドラムスとベースのふたりは、決してテクニシャンではなく、むしろ場面によってはロリー・ギャラガーの足をひっぱりかねないところもあるんですが、そんなの関係ねぇ~! ひたすらに弾きまくられるギターと迸る情熱のボーカルを懸命にサポートせんとする勢いがありますから、そんなラフな部分さえもロックの存在証明となる好結果が、このライプ盤の大きな魅力でもあります。

ということで、とにかく「一家に1枚」的な1970年代ロックの必聴アルバム!

もちろん世界各国でヒットしたことにより、ロリー・ギャラガーはアメリカや日本でも巡業を敢行し、大きな人気を確固たるものにしています。

と同時にスタジオ録音盤も名作を幾つも作っていくのですが、その頃になるとバンドそのものにメンバーチェンジがあったりして、個人的にはどうもイマイチ……。熱狂的なファンは増えていたと思いますし、評論家の先生方も新作が出る度に絶賛していたんですがねぇ……。

まあ、それほど私にとっては、このアルバムが核心に触れるほど掛け替えのないものになっていたということでしょう。

しかし1995年、享年47歳にして天国へと旅立ったロリー・ギャラガー!?!

残され音源は遺族によって、かなりきっちり管理されつつあり、CD化も相当に進んでいるはずですから、一時期に比べ、今では様々なアルバムを聴くことが容易だと思います。

そしてその中でも、このライプは真っ先に聴いていただきたい魂の記録!

掲載したジャケ写からもご覧になれるとおり、長髪にチェック柄のシャツとジーパン姿でボロボロのギターを弾きながら歌うロリー・ギャラガーこそ、1970年代ロックのひとつの象徴だったのです。

あぁ、それにしてもロリー・ギャラガーが入ったストーンズを聴きたかったのは、サイケおやじだけでしょうか? 噂によれば実際にスタジオでのリハーサルやセッションに参加し、幾つかのレコーディングもやったそうですが、なんと自ら誘いを辞退したというのですから、今はただただ、妄想が刺戟されます。

ロリー・ギャラガーよ、永遠なれっ!

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アーマッド・ジャマルを聴きながら

2010-05-22 17:00:59 | Jazz

Portfolio Of Ahmad Jamal (Argo)

実は韓国へ出張していました。まあ、仕事はそれなりの成果でしたし、駆け足旅行で好きな海鮮鍋やホットクも食べられなかったんですが、個人的収穫としては本日ご紹介の人気盤を入手してきました。

ご存じ、今や我国でも人気ピアニストの仲間入りを果たしているアーマッド・ジャマルのライプアルバムで、なかなか珍しい2枚組のアナログLPです。

 A-1 This Can't Be Love
 A-2 Autumn Leaves / 枯葉
 A-3 Ahmad's Blues
 B-1 Old Devil Moon
 B-2 Seleritus
 B-3 It Could Happen To You
 B-4 Ivy
 B-5 Tater Pie
 C-1 Let's Fall In Love
 C-2 Aki & Ukthay
 C-3 You Don't Know What Love Is
 C-4 I Don't Know What Time It Was
 D-1 So Beats My Heart For You
 D-2 Gal In Calico
 D-3 Our Delight

録音は1958年9月5&6日、ワシントンD.C.のクラブ「スボットライト」で、アーマッド・ジャマル(p)、イスラエル・クロスビー(b)、ヴァーネル・フォーニア(ds) という、一番有名なレギュラートリオによる、極めて日常的であろうライプ演奏が楽しめます。

そのミソは決してアーマッド・ジャマルのピアノにあるのではなく、良く言われているとおり、間合を活かしたトリオ3者による礼節をわきまえたインタープレイが、唯一無二の和みを作り出しているようです。

つまりインタープレイと言っても、例えばビル・エバンスのトリオのように、互いに相手の隙を窺い、激しいツッコミやボケをかますのではなく、アーマッド・ジャマルのトリオでは相手に道を譲りつつ、礼を交わしてすれ違い、そこで仲間意識を高めるというような感じでしょうか。しかし決してナアナアではない、親しき仲にも礼儀あり!

それゆえに相手が弛緩すれば、容赦ない苦言を呈する場面も多々ありますし、時にはガチンコで意見の相違を戦わせることさえあるように思えます。

そんな緊張と緩和が見事なジャズになっているんですねぇ~♪

それと今や伝説か真実か、ますます分からなくなっているのが、アーマッド・ジャマルが1950年代のマイルス・デイビスに大きな影響を与えたという説でしょう。あの思わせぶりなマイルス・デイビスの歌物フェイクやアドリブフレーズとリズムの関係は、アーマッド・ジャマルのピアノ、そしてトリオとしての遣り口をトランペットに翻案した云々という、あれです。

そして大手のCBSコロムビアと契約した折にレギューバンド結成を勧められたマイルス・デイビスが希望のピアニストは、アーマッド・ジャマルだったという叶わぬ夢も有名なエピソードでしょう。ちなみにこの時の想定メンバーは他にソニー・ロリンズ(ts)、オスカー・ペティフォード(b)、ジミー・コブ(ds) だったというのですから、マイルス・デイビスの野望も相当なものでした。

まあ、それはそれとして、マイルス・デイビスのハードバップ期の演目には、確かにアーマッド・ジャマルの十八番が多く、それを検証するに相応しいアルバムが、この2枚組LPの一番大きな価値として言い伝えらてきたのですが、現実的は限定盤だったということもあり、なかなか聴くことが容易ではありませんでした。もちろんサイケおやじも、今回の入手が初めてであり、それまでは某コレクター氏のご厚情によるカセットコピーで楽しんでいたというわけです。

そこで肝心の演奏についてですが、なんと言っても「枯葉」が、あのキャノボール・アダレイをリーダーにした傑作「サムシン・エルス(Blue Note)」でマイスル・デイビスが決定的な大名演を聞かせた元ネタという、その論拠が興味深いところです。

それは例のリズムパターンに帰結するわけですが、ここでのトリオの演奏は「サムシン・エルス」でのバージョンよりもテンポが速く、ベースも最初こそ「らしい」フレーズをやっていますが、実際にはテーマパートよりもアドリブ中心主義というか、どんどん変奏されていく急ぎ足によって、かなり自在な動きに終始していますし、既に述べたように間合いを活かした特徴的なピアノトリオ演奏にあっては、虚心坦懐に全体を均等鑑賞しないと良さが分からないという構造になっているようです。

つまり、じっくり聴くのも正解ですが、聞き流すというか、所謂「ながら聞き」の方が分かってしまうんじゃないか? なんていう些か不遜なことまで思ってしまうんですねぇ。なにしろドラムスはスリル満点だし、ピアノとベースは何処を弾いているんだか迷い道かもしれないと感じられるんですよ……。

あの、むせび泣くマイスル・デイビスのミュートによる泣きの変奏に馴染んでいると、肩すかしは免れないでしょう。

しかし粋なセンスがたまらない「Gal In Calico」は、そのテーマ解釈とアドリブフレーズの展開が、マイルス・デイビスが「ミュージングス・オブ・マイルス(Prestige)」で演じていたバージョンに直結するものを強く想起させますし、イスラエル・クロスビーのベースが、これまたポール・チェンバースっぽいところも気になりますが、まあ、これは逆なんでしょうねぇ。

その意味で前述したレギュラーバンド結成時に雇ったレッド・ガーランドへ、アーマッド・ジャマルように弾く事を強要したというマイルス・デイビスの命令も、強ち作り話とは思えず、そのレッド・ガーランドがマイルス・デイビスの例のマラソンセッション中に残した「Ahmad's Blues」を聴き比べるのも楽しいと思います。

ただし、そんなこんなの思惑を超えたところに存在するアーマッド・ジャマル・トリオの魅力は、確かにこのアルバムを真実の人気盤にしています。

絶妙の間合とテンションの高いリズムへのアプローチが素晴らしい歌心を増幅させる「It Could Happen To You」は、ビル・エバンス・トリオとは全く違いますが、インタープレイの極致を演じていると思いますし、緻密なアンサンブルとアグレッシプなアドリブが両立した「Let's Fall In Love」や「I Don't Know What Time It Was」あたりのスタンダード解釈も実に個性的です。

いゃ~、ピアノよりもベースやドラムスが目立ってしまうんですよねぇ~♪

それでいて全然、煩くない存在感を発揮するイスラエル・クロスビーとヴァーネル・フォーニアは、我国ではあまり評価されていませんが、大変な実力者だと痛感されます。

ということで、一緒に録音されている客席のざわめきも好ましい雰囲気ですし、所謂カクテルピアノとしても、その醸し出されるムードは最高♪♪~♪ 後年の録音で更に顕著なように、アーマッド・ジャマルは非常なテクニシャンなんですが、それをひけらかすことなく聴き手を満足させてしまうのは、流石のセンスだと思います。

ちなみにマイルス・デイビス云々に拘る部分も否定出来ませんから、その比較対照盤をあげておくと――
 
 枯葉 / Somethin' Eles (Blue Note)
 Ahmad's Blues / Workin' (Perstige)
 Old Devil Moon / Blue Haze (Perstige)
 It Could Happen To You / Relaxin' (Perstige)
 You Don't Know What Love Is / Walkin' (Perstige)
 Gal In Calico / The Musing Of Miles (Perstige)

――と、だいたい上記のようなことになりますが、このアルバムの録音が1958年春なのに、マイルス・デイビスの演奏のほとんどが、それ以前という素朴な疑問については、アーマッド・ジャマルはマイルス・デイビス所縁の地であるシカゴのローカルスタアであり、既に様々な演目を独自のスタイルで演じていたトリオにマイルス・デイビスが接していたということでじゃないでしょうか?

このあたりは個人的に、まだまだ探求が必要かと思います。

最後になりましたが、入手したLPはご覧のとおり、かなり傷んでいます。しかも見開きジャケットの中面と裏面には英語と韓国語による書き込みがあったりして、おそらくは韓国に駐留している米軍関係者から流れた中古盤だと推察しているのですが、私に譲ってくれたのは仕事関係で偶然に知り合ったジャズ好きの韓国人でしたから、あまり入手ルートは尋ねないのが礼儀でしょうねぇ。

そんな事よりも、現在の韓国は自国海軍への魚雷攻撃で緊張度が高く、このレコードを譲ってくれた韓国人の息子さんは現在徴兵されているので、とても心配していました。

今後の情勢は全く不透明ですが、戦争なんていう愚行は絶対に止めて欲しいと切望しています。なによりも、例えばジャズを聴くなんていう、ささやかな楽しみさえも無にしてしまいますから……。

今日はなんだか、暗い結末で失礼致しました。

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