OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

フィル・ウッズの満腹ライブ

2008-10-31 14:29:37 | Jazz

The Phil Woods Six Live From The Showboat (RCA)

1970年代に吹き荒れたフュージョンの嵐の中では、ベテラン実力派さえもその色合いが強いレコーディング作品を残していますが、流石に正統派ジャズメンの矜持を持ち続けたひとりがフィル・ウッズでした。

白人ながらチャーリー・パーカー直系の真正ビバップスタイルに独特のウネリを加えたスタイルは、1950年代中頃からのハードバップ期に一躍人気を集め、さらにモダンジャズが混迷した1960年代中期以降は欧州に活路を求め、同時に1970年代前半まではスタジオの仕事もやりながら持ち続けたジャズ魂は人間国宝でしょう。

そしてもちろん各時代には物凄い人気傑作盤を残しているのは言わずもがな、これは1970年代後半の決定的な名演集になっています。

録音は1976年秋、メリーランド州にある「ショウボートラウンジ」という店におけるライブで、メンバーはフィル・ウッズ(as,ss)、マイク・メロリ(p,key)、ハリー・リーヘイ(g)、スティーヴ・ギルモア(b)、ビル・グッドウィン(ds)、アリリオ・リマ(per) という当時のレギュラーバンドです――

A-1 A Sleepin' Bee
 ビル・エバンスの名演も記憶されている素敵なメロディのスタンダード曲で、ギターとのデュオで思わせぶりを演じた後は快適なテンポで自在にアルトサックスを歌わせるウィル・ウッズは流石の名人です。とにかくこのウネリと歌心、見事な緊張と緩和♪ これがハードバップというか、永遠のジャズグルーヴでしょうねぇ~~♪
 録音の雰囲気から言えば、電気増幅アタッチメントが付いたウッドペースの音が如何にも1970年代ですし、バランスが良すぎて軽く聞こえるドラムスが物足りなくもありますが、このあたりは音量を上げることで解消出来ると思います。ちょっと安っぽいピアノの響きも同様でしょう。
 それゆえにこのアルバムは、入荷したとたんにジャズ喫茶の人気盤! ド頭の些か勿体ぶったフィル・ウッズのアルトサックスが鳴り出せば、店内は忽ちジャズ色に染まりましたですね。

A-2 Rain Dansc
 ギタリストのレイ・リーヘイのオリジナルで、ちょっとプログレなイントロから16ビートも使ったテンションの高いテーマアンサンブルへと続く流れは、明らかに当時のフュージョン色が強くなっています。
 しかしギターの音色はロック系のエフェクターを使っていない正統派ジャズそのものですから安心感がありますし、ツッコミするどいリズム隊とソプラノサックスで対決するフィル・ウッズの過激な姿勢は潔いかぎり!
 このあたりの折衷性というか、実は時代の要求にもきちんと応える物分かりの良さが、フィル・ウッズのプロ意識なんでしょうか。良くも悪くも凄い人だと思います。

A-3 Bye Bye Baby
 これも楽しいスタンダード曲の名演で、展開としては「A Sleepin' Bee」と同じですが、ここではマイク・メリロのピアノが大活躍♪ 私はこのアルバムで、この人の大ファンになったほどです。
 もちろんフィル・ウッズもアップテンポの4ビートで飛ばしまくり! 「Amapola」を煮詰めたようなテーマメロディの解釈も憎らしく、アドリブは素晴らしい歌心を徹底的にハードドライヴさせる物凄さです。アルトサックスの鳴りも強烈至極で、このあたりがフィル・ウッズの全盛期だったのかもしれません。

A-4 Django's Castle
 タイトルどおり、ジプシー系ギタリストのジャンゴ・ラインハルトが書いた名曲ですから、ここではギタリストのハリー・リーヘイが大フィーチュア♪ 疑似ボサノバにアレンジされたリズムも心地良く、ジンワリした歌心がその場の空気を和ませてくれます。
 ちなみに私は、この人もこのアルバムで知ったのですが、その経歴も演奏も、ここでの快演しか知らないという気になるギタリストです。
 肝心のフィル・ウッズはテーマメロディの変奏が流石の味わい、そして最後のお礼の挨拶では、人の良いオヤジって感じにも和みます♪

B-1 Cheek To Cheek
 これも有名スタンダードで、このアルバムでは「お決まり」という演奏展開ですが、それがまた気分最高! 思わせぶりなテーマ演奏からスピード感満点のアドリブパートへの傾れ込みが、わかっちゃいるけど、やめらない♪
 フィル・ウッズの流麗にして豪快なノリは余人のツケ入る隙も無く、唯我独尊の響きがイヤミ寸前ではありますが、それこそがジャズの醍醐味を満喫させてくれると思います。
 また終盤で展開されるアルトサックスとペースの二人三脚から激しいラストテーマへの突入も良い感じ♪ このあたりのバンドアンサンブルはレギュラーならではの強みでしょうね。
 しかし我儘を言えば、ダンポールみたいなバスドラの響きは、なんとかならんのかっ!? ビル・グッドウィンが名演なだけに勿体無いというか……。これはCDリマスターではどうなっているか? 大いに気になるところでもあります。買ってみようなぁ……。

B-2 Lady J
 フィル・ウッズのオリジナル曲で、ほとんど大野雄二っぽい疑似ボサノバに気分は最高♪ 適度に力んだアルトサックスの響きにシビレまくりです。
 纏まりの良いリズム隊ゆえに、アルバムをここまで聴きとおしてくると、些かマンネリも感じられるのですが、それはそれとして……。

B-3 Little Niles
 アフリカの民族意識を強く打ち出していた黒人ピアニストのランディ・ウェストンが書いた代表曲で、この人は小型のセロニアス・モンクみたいなスタイルでしたが、作曲能力はなかなかです。
 この曲もミステリアスな魅力がいっぱいの人気メロディでしょうね。フィル・ウッズもそのあたりを活かした吹きっぷりですし、バンドメンバーも思わせぶりとグイノリを巧み使い分けた好サポートを聞かせてくれます。特にベースのスティーヴ・ギルモアが実に良いですねぇ~♪
 しかし、やっぱりフィル・ウッズは圧倒的! 緩急自在なノリ、千変万化の音色、ウネリとヒネリのフレーズが洪水のように押し寄せてくるのでした。

C-1 A Litte Peace
 マイク・メリロが書いた思わせぶりがたっぶりのスロー曲ですが、フィル・ウッズにとっては、こういう雰囲気が十八番ですからねぇ~。ここでも粘っこく激情を発散させて、正直言えば、疲れる演奏を聞かせてくれます……。ハッとするほど良いアドリブメロディも飛び出すのですが……。
 バンドメンバーも自分達が楽しんでいるような感じでしょうか。中盤からのグイノリのパートは痛快ですが、やっぱり聴いていて疲れます……。

C-2 Brazilian Affair
 タイトルどおり、ブラジル系ラテンフュージョンのハードバップ的展開に終始したフィル・ウッズのオリジナル曲で、全体が4パートで組み立てられています。なんと22分近い熱演!
 スタートはキャノンボール・アダレイの「Jive Samba」みたいなリズムパターンを使い、渡辺貞夫みたいなテーマメロディが楽しい雰囲気ですが、流石にフィル・ウッズのアルトサックスは痛快に歌いまくり♪ 適度な力みも良い感じで、熱くさせられます。アリリオ・リマのパーカッションも楽しいですね。ここが「Prelude」というパートになるんでしょうか。
 すると続く「Love Song」のパートはスローな疑似ボサノバで、レイ・リーヘイのギターがイマイチ……。フィル・ウッズのAORっぽいアルトサックスも激情的ですが、それなりかもしれません。
 しかし次の「Wedding Dance」に入ると躍動的なラテンビートでバンドが強烈にグルーヴし、フィル・ウッズもソプラノサックスで大熱演ですし、「お約束」を多用したマイク・メリロのピアノも憎めません。このあたりは渡辺貞夫がこの時期にやっていた同種の演奏よりは、ずぅ~っとハードバップ寄りというのが、ジャズ喫茶ウケしていたポイントでしょうか。
 その秘密は最終パートの「Joy」で展開される全力疾走で明らかにされ、快楽的なテーマの新主流派的な解釈は痛快そのもので、なんとアレンジのキメには、マイルス・デイビスでお馴染みの「天国への七つの階段」のリフが用いられているという稚気が最高です。あぁ、これがフィル・ウッズです! もちろんその場の観客も大熱狂!

D-1 I'm Late
 フィル・ウッズのソプラノサックスを中心にリズム隊も共謀したエキセントリックな演奏ですが、全てが終わった後に「不思議の国のアリスからの曲でした」なんていうリーダーのMCに吃驚です。
 う~ん、それにしても、この疾走感は痛快至極で、明らかに1970年代ジャズ正統派の響きに満ちています。バンド全員がヤケッパチに力んでいますが、同時に見事なほどの統一感、纏まりがありますから観客も大喜びで、歓喜の拍手喝采がライブ盤ならではの醍醐味になっています。

D-2 Superwoman
 一転して、これはメロウでソフトなソウルフィーリングがいっぱい♪ もちろんスティーヴィー・ワンダーの、あの曲ですからねぇ~♪ フィル・ウッズのアルトサックスも本領発揮の甘くて情熱的な歌心です。そしてバンド全体のノリが、決して凡百の軟弱フュージョンになっていないんですねぇ。
 ちなみに当時のフィル・ウッズは、例えばビリー・ジョエルの「素顔のままで」とか、所謂AORの歌物セッションでも名演を残していましたから、こうした雰囲気は十八番だったんでしょう。と言うよりも、それがフィル・ウッズがデビュー当時から変わらずに持ち続けた天性の歌心の本質かもしれません。
 あぁ、それにしても心地良いジャズのムード♪ まさにフュージョンブームに真っ向から立ち向かったモダンジャズの面目躍如でしょうね。

D-3 High Clouds
 これまたアップテンポでブッ飛ばしたラテンジャズの快演で、もちろん時期的にフュージョンっぽいノリやバンドアンサンブルが逆に楽しさを倍加させています。
 しかしフィル・ウッズはモダンジャズの正統を継ぐパーカーフレーズの連発で、決して妥協していない姿勢が潔く、そんなリーダーを盛りたてるバンドの面々からも必死さと演奏する楽しみが伝わってきます。特にアリリオ・リマのパーカッションが実に爽快ですねぇ~。

D-4 How's Your Mama (Phil's Theme)
 オーラスは当時のライブではラストテーマに使われていた演奏で、如何にもゴキゲンなブルースとメンバー紹介が楽しいところ♪ まさにフィル・ウッズの真摯なサービス精神が良く出た締め括りとして、最高です。

ということで、実はこの2枚組のライブ盤はLP片面が各々30分近くある長丁場ですから、通して聴くと正直、満腹感で疲れます。しかしそれにしても痛快な傑作であることに違いはなく、当時リアルタイムのジャズ喫茶では鳴りまくっていましたですね。

そして正統派4ビートを古臭いと感じていたフュージョンのファン、あるいはそこから本格的にジャズへ入ってきたファンも、これには歓喜悶絶したのが真相だったと思います。

もちろんそれは現在でも充分に通用する感覚でしょう。時代はこの2年後ぐらいから新伝承派と称される4ビートリバイバルになりますが、そんな事象を全く問題にしていなかったのが、フィル・ウッズの矜持だったかもしれません。フュージョンだろうがAORだろうが、何時も一番ヒップなのはモダンジャズという証明が、このアルバムなのでしょうか。

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ジミー・スミスの日常的ライブ盤

2008-10-30 14:25:25 | Jazz

The Incredible Jimmy Smith At Club“Baby Grand”Wilmington, Del. Vol.2 (Blue Note)

ライブ盤の魅力は大衆音楽の必須条件みたいなもんですが、もともとは瞬間芸のジャズではスタジオ録音だって、まあ、ライブセッションみたいなものでしょう。

しかし実際に観客を前にしての演奏は、なかなかに緊張感があり、またその会場や小屋の雰囲気、そして客層それぞれからの反応等々がありますから、演奏者はそういう環境に左右されて当たり前ですし、それがパッケージ化されたアルバムの個性に繋がるんだと思います。

さて、本日ご紹介の1枚は、モダンジャズのオルガン奏者では第一人者だったジミー・スミスが、自らのレギュラートリオを率いての巡業ライブ! しかもその現場がニューヨークではなく、デラウェア州のウィルミントンという地方都市にあるクラブ「ベイビー・グランド」なのですから、これは当時の極めて日常的なグルーヴを残す目的があったと思われます。

録音は1956年8月4日、メンバーはジミー・スミス(org)、ソーネル・シュワルツ(g)、ドナルド・ベイリー(ds) とされていますが、その頃のジミー・スミスはアルフレッド・ライオンがイチオシのスタアとしてブルーノートと契約し、アルバム3枚分以上のスタジオセッションを終えたばかりです。しかしプロデューサーのアルフレッド・ライオンにしてみれば、ジミー・スミスを発見したのがハーレムのクラブでしたから、どうしてもそういう日常的な熱気をレコード化したかったのでしょう。その意味で、地方都市のクラブ、おそらく客層は黒人主体の店でしょうか、とにかくガサツな熱気が渦巻く演奏が楽しめます。

ちなみにこれは「第2集」で、ということは当然「第1集」も出ていますが、当時のブルーノートはこうしたライブ盤を出すときはLP1枚物 で「Vol.1 & 2」の同時発売が常のようでした。ですから両盤とも同等の仕上がりになっていまので、どちらが好きかは十人十色でしょう。とりあえば私は、「第2集」派ということで――

A-1 Caravan
 デューク・エリントン楽団の当たり曲ですが、私の世代では何と言ってもベンチャーズでしょう。あのエレキギターの痛快無比なノリとロックの真髄というべきグルーヴは、日本中に狂騒を巻き起こしたのですから、失礼ながらオリジナル演奏のホンワカムードは望むところではありません。
 そしてここでの演奏は、そんな私の希望どおり! 猥雑な熱気が渦巻くクラブの雰囲気とグルーヴィなモダンジャズというよりもR&Bやロックインストの味わいも濃厚な大名演になっています。
 まずトリオが一丸となって作り出す初っ端からのグルーヴ、熱いリフがたまらなく最高です。そしてソーネル・シュワルツのギターがテーマをリードし、そのまま強引なアドリブソロに入っていくのですから、歓喜悶絶! 濁って歪んだようなギターの音色は、まさに真空管アンプの味わいが素晴らしく、これが黒人ギターの魅力かと思います。
 もちろんジミー・スミスは、テーマのサビでスピード感満点の4ビートスパイスを効かせ、アドリブパートでは全力疾走のグイノリを披露! こういうところはディープ・パープルのジョン・ロードがダイレクトに影響を受けているのでしょうね。激ヤバの伴奏も良い感じです。
 それはソーネル・シュワルツのギターも同様で、合いの手というよりも、挑むようなリズムギターの存在感こそが、こうした黒人だけのグルーヴを生み出している秘密かもしれません。
 またドナルド・ベイリーが敲く残響音が強いドラムスも最高にゴスペルムードを醸し出し、これは店内の構造にも関係するのかもしれませんが、それを見事に録音したヴァン・ゲルダーは流石だと思います。
 心底、熱くなります!

A-2 Love Is A Many Splendored Thing / 慕情
 邦題は「慕情」として、これも我が国ではお馴染みのメロディですから、ジミー・スミスがメンバーと共謀してゴスペルムードに改作するのが、かえって好ましいほどです。
 なにしろ冒頭の無伴奏オルガンソロ、一転してのグイノリテーマ演奏、さらにアグレッシブなアドリブパートと続く展開は脂ぎったフィーリングが濃厚ながら、しかしこれが無くては許されない雰囲気です。
 ゆったりとして重心の低いグルーヴを提供するドラムス&ギターとの一体感も素晴らしく、このトリオにはブルースやソウル、ゴスペルやジャズへの深い信仰が感じられるのでした。
 ちなみに店内のざわめきも、良い感じですね♪

B-1 Get Happy
 タイトルどおり「幸せになろう」という大快演です! アップテンポでブッ飛ばす痛快な4ビートは、これぞハードバップの醍醐味ですが、それにしてもオルガントリオでここまで出来るかという纏まりの凄味はエグイですねぇ~♪ ソーネル・シュワルツのギターが素晴らしい伴奏を聞かせてくれますし、アドリブパートでの直線的なソロも私は大好きです。
 そしてドナルド・ベイリーのドラミングが、これまた小気味良く、シャープで安定感のあるシンバルワークはバンドをどこまでもスイングさせまくりですから、ドラムソロが短いのは残念至極!
 しかしこれだけの演奏で幸せになれなかったら、それは贅沢かもしれませんね。 

B-2 It's Allright With Me
 そしてオーラスは、またまた楽しく痛快なスタンダード曲が選ばれる快挙です。ジャズバージョンではエラのボーカルやカーティス・フラーのハードバップ等々が代表するノリノリが「お約束」ゆえに、ここでのジミー・スミスも油断がなりません。徹頭徹尾に弾みきった楽しさは、奇妙なユーモアもあったりして……。まあ、本音を言えば、あまり黒っぽくないマーチテンポみたいなノリは、このアルバムの流れからして違和感があります。
 しかしジミー・スミスのアドリブパートに入ってからの充実度は素晴らしく、あぁ、これが狙いだったのか!? と頷くより他はないのです。このシンプルなビートに乗ったアグレッシブなフレーズの心地良さ♪
 ドナルド・ベイリーのブラシも実にシブイですから、ラストテーマがやってくる頃にはウキウキしている自分に気づくのでした。

ということで、1曲が8~10分超の長い演奏ばかりですが、飽きませんねぇ~♪ それは当時、本当に上り調子だったトリオの勢いがあるからでしょう。ちなみにこれは、ジミー・スミスにとっては初めての公式ライブ盤! 団子状でありながら、分離も良い録音とミックスが迫力のステージを再現してくれます。

大げさなアルバムタイトルにも納得!

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疑似ステ・ソウルトレーン

2008-10-29 12:04:57 | Jazz

Soultrane / John Coltrane (Prestige)

ジャズに限らずレコード蒐集を重ねていくうちに気がつくのは、アメリカ盤の音の強さ、そして失礼ながら日本盤の音のネボケとショボさです。これはアナログ盤特有の現象でしょうが、アメリカでプレスされたレコード盤は一般にカッティングのレベルが高く、つまり音圧の高い音が再生されるようです。

そしてもちろん、ファーストプレスのオリジナル盤は、その音の存在感が格別ですから、廃盤となって後はそれなりの高値も当然でしょう。実際、これほど資本主義の原則に忠実な世界もないもんです。

しかしそれを欲望の赴くままに入手出来るのは至極限られた人達ということで、私はなんとか「音」だけでも日本盤よりは「強い」ものを求めて、アメリカ盤に魅せられていた時期がありました。

ところが当時のアメリカ盤は、当然ながら古い作品ほど再発時に疑似ステレオ化されるのが常でした。これは本来、モノラルミックスしか無いオリジナル音源にステレオ効果を与えるために、電気的処理を施したものです。

例えば極端なエコーを用いることでステレオの片チャンネルに高音域を集中させ、実際に再生すると一方のスピーカーからは低音域、もう一方のスピーカーからは高音域が聞こえるという、非常に不自然なものです。

しかしこれが1960年代中頃のアメリカでは、LPがステレオバージョン主流となったこともあり、臆面もなく行われていたのです。おそらく売れ行きもそれなりに良かったのでしょうが……。

もちろん我が国のジャズ者は、それに納得していたとは言い難いでしょう。例に出して悪いとは思いますが、コロムビア原盤のマイルス・デイビスの某アルバムなんか、エコーが強過ぎてボワンボワンでツンツンツンの再生音しか出てきません。しかもレコードそのものの音圧が高く、逆に盤が薄くなっていますから、なおさらに始末が悪いのです。

しかしそれがブレスティッジ盤になると、何故かエコーもほどほどに効果的というか、明らかに音圧が高いので日本盤よりも「音」が強く、しかもスタジオ録音でありながら、ライブ会場で聴いているような味わいが感じられます。

と、前置きが長くなりましたが、それに私が目覚めたのが、本日ご紹介の「Soultrane」再発盤です。

その内容については、ハードバップ期のジョン・コルトレーンを代表する名盤として、ガイド本にも掲載されることが多いアルバムです。録音は1958年2月7日、メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) というお馴染みのカルテット――

A-1 Good Bait
 ミディアムテンポで悠々とテーマを吹奏し、あの音符過多のアドリブに突入するジョン・コルトーンの名演とされていますが、正直、私にはイマイチ……。
 それは告白すると、既にこの演奏を聴く前にアトランティックやインパルスの過激トレーンに馴染んでいたからでしょう。確かにジョン・コルトレーンは熱演なんですが、リズム隊のテンションが低い気が……。というか、余裕がありすぎる感じなんですねぇ。それは些かトボケたテーマメロディの所為もあるかもしれません。
 お叱りは覚悟していますが、主役のコルトレーンも含めて、もう少し緊張感のある演奏が出来なかったのかなぁ……と、これが正直な気持ちです。

A-2 I Want To Talk About You
 これは活動最終期までライブの現場でも十八番にしていた歌物曲の公式初演バージョンでしょう。もちろんジョン・コルトレーンはいきなり、あの、バラード演奏になると独特の「泣き」が入った音色でテナーサックスを鳴らし、真摯にメロディを吹いてくれます。
 しかしもちろん、1960年代以降に聞かせていた、例の最終の無伴奏アドリブソロはありませんし、バックのリズム隊も淡々としすぎている感じが……。
 まあ、これも先にニューポートやバードランドでのライブバージョンに馴染んでいた私ですから、ここでも10分を超える熱演ですが、あまり感じ入るところはないというバチアタリです……。
 う~ん、これって本当に名盤なのか……???

B-1 You Say You Care
 と不遜な気持ちを抱いていた私を一気にコルトレーン狂熱地獄へ誘うのが、この演奏です。
 曲はあまり有名ではないスタンダードですが、なんともいえない素敵な「節」が大いに魅力で、それをアップテンポで痛快にフェイクし、白熱のアドリブへ繋げていくバンドの勢いにはゾクゾクさせられますねぇ~~♪
 ジョン・コルトーンは、とにかく猛烈な音符の詰め込みフレーズを乱れ打ち! リズム隊のグルーヴも快適そのもので、特にチェンバース&テイラーのジャイアント・ステップス組がハイテンションです。
 つまり明らかにアトランティック期の萌芽が感じられる、私の大好きな演奏というわけです。レッド・ガーランドもスイングしまくりで感度良好♪

B-2 Theme For Ernie
 この曲の「Ernie」とは、前年末に他界した黒人アルトサックス奏者のアーニー・ヘンリーの事です。そしてジョン・コルトレーンは故人と親しかったそうですから、胸に去来する様々な思いをこめて、この惜別のテーマメロディを吹いているのでしょう。
 シンプルながら、実に哀感が滲み出た名演だと思います。しっとりとした伴奏をつけるレッド・ガーランド、グッと重心の低いポール・チェンバースも流石の存在感です。

B-3 Russian Lullaby
 さて、オーラスは、これぞ万人がイメージするジョン・コルトレーンでしょう。レッド・ガーランドが作る思わせぶりなイントロから一転、猛スピードで疾走する演奏はアート・テイラーのシンバルワークも痛快ですが、やはりジョン・コルトレーンが看板のシーツ・オブ・サウンドを全開させた激演! 全くたまらん世界なんですねぇ~~♪ これは私の世代の「パブロフの犬」みたいなもんでしょうか。
 まあ、それゆえにレッド・ガーランドが些か縺れ気味で、これがオスカー・ピーターソンだったら、スタジオは火事にでもなりそうな雰囲気でしょうね。
 ラストのテーマブレイクでは、まさにコルトレーンという猛スピードの無伴奏フレーズも、強烈ですねぇ~♪

ということで、A面よりはB面ばっかり聴いているのが私です。ところが何故か、ジャズ喫茶ではA面が多いような……。

既に述べたように、このアルバムはガイド本でも名盤、ジョン・コルトレーンの代表作とされているのですが、個人的にはA面だけでは、とてもそうは思えません。しかしB面の雰囲気は決定的に素晴らしく、ハードバップからモードへの突破口的な熱演ばかり!

そして前置きの話に戻れば、この疑似ステレオ仕様のアメリカ盤は、その音圧の高さからジョン・コルトレーンの硬質なテナーサックスの音色が、日本盤よりはずっとハードエッジに鳴っている! というのが私の感想です。

これは私の貧弱な再生装置でもそうなんですから、この体験以降の私は疑似ステレオでもプレスティッジ盤に関しては、それほど嫌悪感を抱かなくなりました。

とはいえ、やはりオリジナル盤が欲しいのが本音です。たぶん叶わぬ夢ですから、本日の1枚は、やはり負け惜しみになるのでしょうか。

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レム・ウィンチェスターをループ聴き

2008-10-28 12:28:23 | Jazz

Lem Winchester and the Ramsey Lewis Trio (Argo)

モダンジャズのヴァイブラフォン奏者といえば、MJQのメンバーとしても名高いミルト・ジャクソンが常に一番の存在ですが、他にもテリー・ギブスとかデイブ・パイク、あるいはエディ・コスタ、そして新主流派ではボビー・ハッチャーソンという名手が活躍しています。

そして本日の主役たるレム・ウィンチェスターも決して忘れられない人なんですが、残念ながらロシアン・ルーレットによる下らない最期が、本当に悔やまれますねぇ……。

ちなみにレム・ウィンチェスターは本職が警察官でしたから、演奏活動はアルバイトだったんでしょうが、それにしても見事な腕前とジャズ的感性の素晴らしさは、このアルバムを含めても数枚しか残されていません。

さて、この作品は副題が「Perform A Tribute To Clifford Brown」とされているとおり、早世した天才トランペッターのクリフォード・ブラウンに捧げられた企画セッションで、もちろんその十八番だった演目が中心になっています。

録音は1958年10月8日、メンバーはレム・ウィンチェスター(vib)、ラムゼイ・ルイス(p)、エルディ・ヤング(b)、レッド・ホルト(ds) というMJQ仕様! しかもサポートの3人は当時売り出し中だったラムゼイ・ルイス・トリオなんですから、これは聴く前からゾクゾクするのがジャズ者の心情でしょう。

ちなみに原盤裏ジャケットの解説等によれば、レム・ウィンチェスターが奉職していのはクリフォード・ブラウンの故郷の町だったそうですし、これがデビュー盤となったはニューポートジャズ祭での好演がきっかけとされています――

A-1 Joy Spring
 クリフォード・ブラウンが自らの歌心を証明するために書いたとしか思えない、天才的アドリブの所謂「ブラウニー・フレーズ」を巧みに繋ぎ合わせたような素敵なオリジナル♪ もちろん作者本人は「Clifford Brown & Max Roach (EmArcy)」で歴史的な名演を残していますから、これをカバーするプレイヤーは本当に大変だと思います。
 それゆえか、レム・ウィンチェスター以下のバンドには良い意味での開き直りみたいなところが感じられ、至極自然体に「自分達の演奏」をやっているようです。
 とはいえ、この編成ですから、どうしてもMJQみたいに聞こえるのは避け難く、ラムゼイ・ルイスなんか故意か、偶然か知りませんが、何となくジョン・ルイスしていますから、これは笑っていいんでしょうか? もちろん当時は、あの「Th In Crowd (Cadet)」の大ヒットを出す前とはいえ、ファンキー&グルーヴィンが持ち味の人が、これではねぇ~。
 しかしベースのエルディ・ヤングが熱演で、アーゴ特有のゴリゴリな録音もありますから、結果オーライでしょうね。肝心のレム・ウィンチェスターは可もなし不可もなし? 大御所のミルト・ジャクソンよりは乾いた音色のヴァイブラフォンが個性なんだと思います。

A-2 Where It Is
 レム・ウィンチェスターが書いたMJQ調のオリジナル! ですからテーマのアサンブルなんか、モロですねぇ~。ヴァイブラフォンもピアノも、ベースもドラムスも、全くのコピーバンドみたな響きが逆に嬉しくなってしまいます。
 しかしアドリブパートに入ってからのレム・ウィンチェスターは、徐々に個性的な世界を披露して、唸り声も印象的にシャープなフレーズを流麗に聞かせてくれるのです。もちろんラムゼイ・ルイスは、勿体ぶったファンキーフレーズを使っていますよ。
 う~ん、しかし、これはやっぱりMJQの世界だよなぁ~、と苦笑いです。

A-3 Sandu
 これもクリフォード・ブラウンが自作自演した有名なファンキー曲ということで、バンドの面々も本領発揮の粘っこい演奏を聞かせています。特にグイノリのラムゼイ・ルイス・トリオが最高ですねぇ~♪ ビシッとキメを入れるドラムスにどっしり構えたベースの存在感! ピアノの黒いファンキー節もたまりません。このあたりの「音」の強さこそ、その歪み寸前の迫力というか、アーゴというレーベル特有の響きでしょうね♪
 そして落ち着いたブルース魂を発揮するレム・ウィンチェスターの潔さ! 明らかにミルト・ジャクソンとは一味違ったその感覚は、ヴァイブラフォンのクールな響きが実にカッコ良いです。

A-4 Once In A While
 綺麗なメロディの有名スタンダードで、これもクリフォード・ブラウンがアート・ブレイキーのハンドメンバーとして「A Night At Birdland Vol.1 (Blue Note)」のライブバージョンが永遠の決定版になっていますが、それを神妙に演じるこの4人組の心意気にも、なかなかに感じ入るものがあります。
 レム・ウィンチェスターのヴァイブラフォンはクールな響きで心温まるメロディを紡ぎ出し、ゆったりとしたテンポで実にテンションの高い世界を描き出しているのです。
 ラムゼイ・ルイス・トリオの伴奏もツボを押さえた上手さがあり、地味ながらもA面のハイライトじゃないでしょうか。そこはかとないブルースのフィーリングが絶妙の隠し味だと思います。

B-1 Jordu
 これまたモダンジャズでは有名すぎるデューク・ジョーダンのオリジナル曲で、もちろんクリフォード・ブラウンも決定的な名演を残しているわけですが、このバージョンも秀逸です。
 もちろん正直、MJQ調も感じられますが、アドリブパートに入っては浮遊感すらあるレム・ウィンチェスターのヴァイブラフォンが素晴らしく、ズバンズバンに跳ねるベースとタイトなドラムス、そしてテキパキとしたラムゼイ・ルイスが本領発揮です。

B-2 It Could Happen To You
 モダンジャズでは数多の名演が残されている有名スタンダードですが、このバージョンもそのひとつという快演が楽しめます。特にラムゼイ・ルイスのノリは楽しくも痛快! 伴奏での濁ったようなコードワークとゴリゴリに迫るアドリブは短いながらも嬉しいですねぇ~♪
 肝心のレム・ウィンチェスターは、些か泥臭いメロディフェイクが逆に印象的だと思います。

B-3 Easy To Love
 有名スタンダードのシカゴソウル的解釈とでも申しましょうか、微妙に黒っぽいグルーヴが如何にもハードバップしています。特にガンガン煽るラムゼイ・ルイスの伴奏が楽しいですねぇ~♪ もちろんアドリブもグイノリです。
 レム・ウィンチェスターも自然体を心がけているようですが、随所でミルト・ジャクソンから脱却しようとして、それが果たせない苦悩が……。しかしそんな歌心も良いですね。クライマックスの短いソロチェンジやラストテーマの盛り上げ方にも、心が踊ってしまいます。

B-4 A Message From Boysie
 オーラスはシンミリとして意味不明なバラード曲ですが、部分的に浮かんでは消えていく美メロが、アドリブパートに入って活きてくるような感じです。つまり圧倒的にアドリブが素晴らしいというジャズの本質?
 まあ、こういうところはMJQの十八番でもありましたから、ここでもそれ風かと思いきや、実は寸前で踏みとどまっているのはラムゼイ・ルイス・トリオの力感溢れる黒いフィーリングがあればこそでしょうか。
 そしてこの演奏を聴いてからA面のド頭「Joy Spring」に戻ってみると、あら不思議というか、MJQ風にしか聞こえなかったその演奏が、非常に個性的なグルーヴに満ちていることに気づかされるのでした。う~ん……。

ということで、なかなかに深遠な企みが隠された作品なんでしょうか? ということはCDのループで楽しむのが正解?

実は私がそこに気づいたのは、このアルバムを入手した当時は1枚のLPを何度も繰り返して聴くという、当たり前のスジを通していた時期だったからで、それが現在では1回しか聴かずに後は棚のオジャマ虫、あるいは壁に掛けるような邪道はしていなかったのです。あぁ、なんてバチアタリな……。ちなみに私有は、当然ながら日本プレスの廉価盤です。

本日、久々に取り出して聴きながら、そんな若き日の自分を懐かしみ、今の自分を反省しているのでした。CD、買おうかなぁ。

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マギーの復帰、フィリー・ジョーの快演

2008-10-27 11:52:51 | Jazz

The Return Of Howard McGhee (Bethlehem)

今となっては悲しいことに、超一流のジャズメンには悪いクスリで塀の中とシャバを往復し、ファンの期待を裏切って演奏活動が出来なくなった人が少なくありません。

ハワード・マギーもそのひとりと言われ、実際、1940年代後半からモダンジャズの最前線で活躍しながら、フェードアウトとカムバックを繰り返しつつ、いつしか輝きを失っていったのは本当に残念と言わざるを得ません。

しかし数度のカムバック時に吹き込まれたアルバムは、その度に心機一転の意気込みに満ちた素晴らしい出来なんですから、悲喜こもごもなのも確かです。

このアルバムもそうした魅力がいっぱいの傑作盤でしょう。

録音は1955年10月22日とされていますが、これには諸説があるようです。そしてメンバーはハワード・マギー(tp)、サヒブ・シハブ(bs,as)、デューク・ジョーダン(p)、パーシー・ヒース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という素晴らしさ♪ 極めてビバップの香りが大切にされた演奏が楽しめます――

A-1 Get Happy
 小気味良いフィリー・ジョーのドラムスがイントロとなって狂騒のテーマが始まり、サビではデューク・ジョーダンのピアノが稚気も嬉しいアレンジが、まず楽しい限り♪
 そしてアドリブパートではハワード・マギーが本領発揮で、スピード感満点のビバップフレーズを連発すれば、サヒブ・シハブもブリブリとバリトンサックスを響かせる快演! イキイキとしたリズム隊も爽快ですねぇ~。特にデューク・ジョーダンは、日頃のネクラなイメージを一掃する感じです。
 ちなみにこのアルバムはジャズ喫茶では定番の1枚でしょうが、この演奏を聴いてハッとするお客さんが、おもわず飾ってあるジャケットを見てしまうのがその実情なのでした。

A-2 Tahitian Lullaby
 タイトルどおりにラテンリズムを使ったハワード・マギーのオリジナル曲で、その観光協会ご推薦みたいなメロディと緩やかなグルーヴは楽しさ満点♪
 しかもアドリブパートの充実が素晴らしく、ラテンビートに上手く合わせるサヒブ・シハブ、その背後では粘っこいブラシを披露するフィリー・ジョーが強い印象を残します。
 そして続くハワード・マギーが一転してグルーヴィな4ビートの真髄を吹きまくれば、デューク・ジョーダンは十八番のネクラな美メロでアドリブを紡ぎ出します。もちろんフィリー・ジョーがスティックで絶妙のシンバルワークを聞かせてくれるのも、最高ですねぇ~♪

A-3 Lover Man
 さて、これが興味深々の演奏です。なにしろチャーリー・パーカーとの有名な因縁が残されていますから……。
 それは1946年7月29日に行われたダイアルレコードのセッションで、ハワード・マギーを含むチャーリー・パーカーのバンドがスタジオ録音を行いましたが、主役のチャーリー・パーカーが悪いクスリと酒の所為でヘロヘロ……。それでもなんとか4曲の演奏を残すのですが、その後にホテルへ戻ったチャーリー・パーカーは錯乱して火事騒ぎを起こす等々騒動にっ! もちろん直後に施設送りです。
 しかもここまでの一連の経緯を某ジャーナリストが「スパロウズ・ラスト・ジャンプ」という短編小説にして、それがオー・ヘンリー賞を受けたことから、ダイアルレコードのオーナーであるロス・ラッセルは、一時はオクラ入りする予定の「Lover Man」を発売し、ベストセラーにしてしまうのです。もちろんチャーリー・パーカーは終世、この仕打ちを許そうとせず……。
 ですから、その場の当事者のひとりだったハワード・マギーが、自分も同じ境遇からの復帰セッションでこの曲を演じる胸中や如何に? という興味を押さえることが出来ないわけです。う~ん、全くエグイというか、上手いプロデュースですねぇ。
 とは言え、ハワード・マギー本人はどうだったんでしょう? ここでは情感が籠っているようにも、あるいは「お仕事」としての意識も、その両方を感じてしまうが、私の正直な気持ちです。
 ちなみに問題のチャーリー・パーカーのバージョンは、世評ほど酷い演奏ではないと私は思っているのですが……。

A-4 Lullaby Of The Leaves / 木の葉の子守唄
 哀愁路線の名曲スタンダードですがら、デューク・ジョーダンがイントロから良い味を出しまくりです。フィリー・ジョーのブラシも最高ですねぇ~♪
 もちろんハワード・マギーも余韻を大切にしたテーマ吹奏の妙、さらに溌剌してそこはかとないアドリブの上手さ♪ 流石だと思います。
 しかしここは、やっぱりデューク・ジョーダンでしょうねっ♪ 何時までも聴いていたい名演バージョンです。

A-5 You're Teasing Me
 まるっきりスタンダード曲のような素敵なメロディは、ハワード・マギーのオリジナル♪ ここではそれを完全に表現する独壇場のトランペットが見事過ぎます。
 しっとりとした情感をサポートするリズム隊も本当シブイですね。

A-6 Transpicuous
 これもハワード・マギーのオリジナル曲で、楽しい哀愁路線という、ジャズ者が一番好む雰囲気を存分に楽しめます。
 しかもイントロはデューク・ジョーダンが十八番というか、あのシグナルセッションの「Forecast」でも使っていた嬉しいものですし、短いアドリブにも独自の「節」がいっぱい♪ そしてハワード・マギーのトランペットが、これまた味わい深く、良く言われるようにロイ・エルドリッジからの影響がモロに出た歌心が素敵ですね♪

B-1 Rifftide
 イントロから景気の良いフィリー・ジョーのドラミング、そして始まる全力疾走のビバップリフ! ちなみにこの曲はコールマン・ホーキンス(ts) が書いたものですが、ハワード・マギーはそのオリジナル録音とされる1945年のキャピトルでのセッションに参加した因縁もあり、ここでの再演となったのでしょう。
 そしてこのバージョンは、バンド全員が大ハッスルしたハードバップの痛快さが満点! 

B-2 Oo-Wee But I Do
 これも快適なクッションが素敵なリズム隊のペース設定からグルーヴィなテーマの合奏、そしてモダンジャズ王道のアドリブに入る展開が、実に快感です。あぁ、それにしても、このリズム隊の弾み方はハードバップ全盛期の証でしょうねぇ~♪ 特にフィリー・ジョーが、まさに「フィリー・ジョー」的な名演で本領発揮ですよっ♪
 肝心のハワード・マギーも特有の投げやりなフレーズを連発しています。

B-3 Don't Blame Me
 有名スタンダードのバラード演奏とくれば、デューク・ジョーダンの美しいイントロは「お約束」という嬉しさよっ♪ もう、この部分だけ聴けば大満足なんですが、続くテーマメロディのパートでは、ハワード・マギーとサヒブ・シハブが情感たっぷりの表現を披露するんですから、もう絶句です。
 そして当然ながら、デューク・ジョーダンは短いアドリブパートでありながら、自らの美意識を見事に聞かせてくれます。

B-4 Tweeoles
 これまたリズム隊がシャープなハードバップのグルーヴを全開させるアップテンポの演奏ですが、ハワード・マギーも最初っから全力疾走! そしてデューク・ジョーダンが、またまた最高です。もう、なんというか絶妙に「泣き」のフレーズを入れる美メロのアドリブ♪
 このアルバムを自発的に取り出すのは、これがあればこそというのが、私の本音です。

B-5 I'll Remeber April
 モダンジャズでは定番の中の大定番というスタンダード曲を、決して期待を裏切らないアップテンポで演じてくれる嬉しいサービス♪ フィリー・ジョーが白熱のシンバルワークを響かせれば、ハワード・マギーもイキイキとしたフレーズの連発で応える展開が、実にジャズ者の琴線に触れまくりだと思います。
 またサヒブ・シハブのバリトンサックスがブリブリと咆哮すれば、デューク・ジョーダンも独特のピアノタッチが冴えわたりですし、フィリー・ジョーがグッとクッションの効いたドラミングで煽ります。
 そしてもちろんクライマックスは、ハワード・マギー対フィリー・ジョーの対決ですが、それにしてもフィリー・ジョーはセッションを通して絶好調なんですねぇ~~~♪ 自らの履歴でも十指に入るような快演じゃなかったでしょうか。

ということで、モダンジャズ的な楽しみがギッシリの名盤だと思います。典型的なハードバップであり、そこへ原型となるビバップのエキセントリックな味わいも残っているところが、実に痛快です。

特にリズム隊が本当に絶好調で、デューク・ジョーダンやフィリー・ジョーのファンならばシビレが止まらないと思いますし、私は実際、聴く度にそうなってしまいます。

そしてハワード・マギーも本領発揮の好演ですから、こういう書き方は嫌なんですが、悪い薬癖さえなければ、まだまだこういう快演をどっさり残せたはずだと思います。なにしろこの後のハワード・マギーは、やはり隠遁と復帰を繰り返し、往年の輝きは失せるばかりでしたから……。

そういう意味からも、ハワード・マギーのファンである私にとっては、大切に聴いていたいアルバムです。

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ロリンズ+クラーク=ダブルソニー

2008-10-26 12:13:08 | Jazz

The Sound Of Sonny / Sonny Rollins (Riverside)

人生は「一期一会」と言われますが、最近は矢鱈にそれが自覚されるのも、私が齢を重ねたからでしょうか。ジャズという瞬間芸が好きなのも、実はそうしたところに魅力を感じているのかもしれません。

と、最初から独り善がりを書いてしまいましたが、このアルバムはソニー・ロリンズとソニー・クラークというモダンジャズでは抜群の人気者同士が、そのアルバムタイトルどおりに「一期一会」を演じています。

録音は1957年6月のニューヨーク、メンバーはソニー・ロリンズ(ts)、ソニー・クラーク(p)、ポール・チェンバース(b)、パーシー・ヒース(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という、大変に好ましいワンホーン編成♪ ちなみにソニー・ロリンズは超絶の名盤「Saxophone Colossus (Prestige)」から約1年後、またソニー・クラークは西海岸からニューヨークへやって来たばかりの頃かと思われますから、ますます興味深々――

A-1 The Last Time I Saw Paris (1957年6月19日録音)
 と書きながら、初っ端はソニー・クラークが参加していないテナーサックスのトリオによる演奏で、リズム隊はポール・チェンバースとロイ・ヘインズがきっちりと務めています。
 そしてソニー・ロリンズが軽妙洒脱に素敵なメロディをフェイクし、緩急自在のアドリブを完璧に披露し、もちろんリズム隊とのコンビネーションも憎らしいほどにキマッています。
 わずか3分に満たないトラックですが、これには思わず歓喜して絶句♪

A-2 Just In Time (1957年6月11&12日録音)
 ここでいよいよソニー・クラークが登場♪
 曲はお馴染みの楽しいスタンダードですから、ソニー・ロリンズも思い切ったメロディフェイクから豪快なアドリブに繋げるという得意技を披露すれば、ソニー・クラークは絶妙の伴奏から胸キュンフレーズをたっぷり入れた「ソニクラ節」を全開させるのです。
 パーシー・ヒースとロイ・ヘインズも安定したリズムサポートですから、ソニー・ロリンズのブッ飛びフレーズにも動ずることなく、ハードバップ王道の楽しさが満喫出来るのでした。

A-3 Toot, Toot, Tootsie (1957年6月11&12日録音)
 一応は職業作家が書いたスタンダードみたいですが、このテーマのリズミックな展開は、ほとんどソニー・ロリンズのオリジナルの感じがします。もちろんアドリブパートは、これぞっ、という「ローリン節」の大洪水!
 ソニー・クラークもウキウキするような伴奏から小気味よくスイングするアドリブが痛快至極♪ ロイ・ヘインズも本領発揮のビシバシドラミングで場の雰囲気を盛り上げていますよ。
 う~ん、まさに「サウンド・オブ・ソニー」と納得!

A-4 What Is There To Say (1957年6月19日録音)
 さらにこれが素晴らしいバラード演奏♪
 曲はビル・エバンスやジョン・コルレーンも演じている、私が大好きなメロディということもありますが、この「ダブルソニー」のバージョンも最高に素敵です。
 まずソニー・クラークの小粋に夢見るイントロからグッと惹きつけられ、続いてソニー・ロリンズがゆったりとして大らかにテーマメロディを吹いてくれるんですから、本当にたまりません。ロイ・ヘインズのブラシも良い感じですし、ソニー・クラークは小粋な歌心が全開ですよ♪

A-5 Dearly Beloved (1957年6月11&12日録音)
 これもソニー・ロリンズとしか言いようのない名演で、ソフトなグルーヴを醸し出すリズム隊を従えて、怏々としたテナーサックスが横綱相撲です。粋な原曲メロディをそれ以上にフェイクしてしまう作曲=アドリブ能力の証明でしょうね。これにはフレッド・アステアも降参かもしれません。

B-1 Every Time We Say Boodbye (1957年6月11&12日録音)
 ジョン・コルトレーンの十八番という歌物スタンダードですが、ここでは快適なミディアムテンポで縦横無尽にスイングしまくるソニー・ロリンズ! もちろんこのバージョンがジョン・コルトレーンに先んじているわけですが、これを聴いてしまったら、誰だって別な表現を模索するしかないでしょう。
 う~ん、ジョン・コルトレーンがソプラノで演じたのは、この所為?
 まあ、それはそれとして、この流れるようにフレーズを繋げていく自然体の物凄さ! やっぱりソニー・ロリンズはアドリブ名人です。
 そして、待ってましたとばかりにアドリブに入ってくソニー・クラークも最高ですっ♪ ハードバップって、本当に良いですねぇ~~♪

B-2 Qutie (1957年6月11&12日録音)
 このアルバムでは1曲だけのソニー・ロリンズが書いたオリジナルで、堂々としてユーモラスなメロディと軽妙なノリが絶妙です。もちろんアドリブは典型的な「ローリン節」の連続です♪
 またパーシー・ヒースのペースソロも見事だと思います。

B-3 It Could Happen To You (1957年6月11&12日録音)
 有名スタンダード曲をソニー・ロリンズが完全な独り舞台で演じているというだけで、吃驚仰天! 初めて聴いた時は、途中からリズム隊が入ってくるものと信じきっていただけに、思わず唸りました。
 つまりその瞬間、ジャズ的な興奮を求めて緊張していた私に強烈な肩透かしをくらわしたソニー・ロリンズは、実は真っ向勝負だったんですねぇ~。
 やっぱり凄いと痛感です。

B-4 Mangoes (1957年6月11&12日録音)
 オーラスはラテンリズムとファンキービートの美しき融合みたいな楽しい演奏で、まずはリズム隊が秀逸です。
 そしてソニー・ロリンズが豪快無比、飄々として押しの強いフレーズを連発してくれますから、その場は完全にモダンジャズ天国♪ ソニー・クラークのファンキー度も高く、そこはかとない「泣き」を含んだ「ソニクラ節」は、やっぱり素敵です。それゆえに後半はバンド全体の剛球モードっぽい感じが面白いところかもしれません。

ということで、各曲の演奏時間がちょいと短い事もあって、「聴かず嫌い」になっているアルバムかもしれません。しかしソニー・ロリンズは快調そのもので、そのテナーサックスの魅力が存分に満喫出来ます。まさに典型的なソニー・ロリンズがここにあるのですねぇ~。

それとソニー・クラークの参加も大きな魅力で、なんとここが唯一の顔合わせというのが勿体無い限りです。ちなみに「Blues For Tomorrow」というオムニバス盤には、この時の残りから「Funky Hotel Blues」が1曲だけ収録されていますが、これがまた最高ですから、機会があれば、ぜひとも聴いて下さいませ。おそらく最近のCDにはボーナスで入っているでしょう。ファンキー至極なソニー・クラークも楽しめますよっ♪

しかしそれにしても、私はこのアルバムが大好きで愛聴しているんですが、世評はどうなんでしょう。ソニー・ロリンズには名演・名盤がどっさりありますから、この作品あたりは、そっとしておいて欲しい気もしているのでした。

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バート追悼の快演ライブ盤

2008-10-25 11:47:56 | Jazz

Charlie Parker 10th Memorial Concert 3/27/65 (Limelight)

モダンジャズを創成した天才アルトサックス奏者のチャーリー・バーカーは、残念ながら30代半ばで天国へ召されましたが、その偉業はジャズという音楽が残るかぎり不滅ですし、それ以後に出現したあらゆるジャズ演奏家は決してその影響力から抜け出すことは不可能という真実は、今に至るもひとつです。

さて、このアルバムはその天才に捧げた没後10年追善供養のコンサートから作られたライブ盤で、録音は1965年3月27日のカーネギーホール! 故人の仲間やベテランの大物までもが参集した白熱の名演が楽しめます――

A-1 Um-Hmm! (Ode To Yard)
 メンバーはディジー・ガレスピー(tp) が当時率いていたレギュラーのバンドで、ジェームス・ムーディ(ts,as)、ケニー・バロン(p)、クリス・ホワイト(b)、ルディ・コリンズ(ds) という実力者揃い♪ ガサツな熱気が渦巻くテーマメロディはケニー・バロンの作曲で、これが当日のハイテンションな気分と見事に合致して、所謂ハードバップの真髄にグッと惹き込まれます。
 ディジー・ガレスピーは十八番のド派手な音も使いますが、それ以上に心の底から湧きあがってくるエモーションが強く感じられ、それはもちろん盟友チャーリー・パーカーを悼んでの気持ちというところでしょう。まさに名演です。
 またジェームス・ムーディの暑苦しいテナーサックス、ケニー・バロンの颯爽としたピアノも素晴らしく、ルディ・コリンズのハードエッジなドラミングも痛快に録音されていますから、本当に鮮やかですねぇ~♪ クライマックスでキメるバンドのアンサンブルとベースの掛け合いにもゾクゾクさせられますし、アルバム全体の構成としては「ツカミもOK」のベストトラックだと思います。
 
A-2 Groovin' High
 チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーにとっては、そしてモダンジャズにとっても決して忘れてはならない不滅の演目として、ここでの熱演は「お約束」です。
 メンバーは前曲「Um-Hmm!」と同じですが、ジェームス・ムーディがアルトサックスに持ち替えて大熱演! モロなパーカーフレーズの連発には溜飲が下がります。後ろで半畳を入れるディジー・ガレスピーも憎めませんねっ♪
 もちろんアドリブパートでも十八番のフレーズ、抜群のスピード感と熱気をふりまいてボスの貫禄を示します。リズム隊の纏まりも最高!

A-3 Now's The Time
 この演奏は所謂ジャムセッションで、参加メンバーはロイ・エルドリッジ(tp)、コールマン・ホーキンス(ts) というスイング派の大物2人に C.C.Siegel という変名でクレジットされた J.J.ジョンソン(tb)、そしてリズム隊はビリー・テイラー(p)、トミー・ポッター(b)、ロイ・ヘインズ(ds) というチャーリー・パーカー所縁の面々です。
 しかも演目がR&Bヒットを改作してビバップの聖典としたノリの良いブルースですから、イントロのピアノからしてグルーヴィな雰囲気が横溢♪ アドリブ先発のコールマン・ホーキンスは決してビバップではありませんが、そのグイノリ狂騒の雰囲気は尋常ではなく、唯我独尊の名演を聞かせてくれます。
 さらに続く J.J.ジョンソンが何を吹いても上手過ぎるクールな快演ですから、リズム隊も遠慮しないテンションの高さがジャズの醍醐味です。
 またロイ・エルドリッジもモダン以前のトランペッターですが、ここで聞かれるように、そのスタイルとノリは明らかにディジー・ガレスピーの元ネタですから全く違和感がありません。というよりも、発散されるジャズ魂とエルギッシュなアドリブの凄さに圧倒されてしまいますねぇ~~~♪
 これにはリアルなモダンというリズム隊も刺激を受けたに違いなく、ビリー・テイラーが持ち前のバカテクで強烈な自己主張を展開すれば、ロイ・ヘインズもヤケッパチ寸前のプチキレドラミングですから、あの世のバードもニンマリでしょう。

B-1 Blues For Bird
 これはリー・コニッツの完全な独り舞台ですが、演奏の前にキリストとチャーリー・パーカーを対比させた冗談を言うのが不遜でもあり、至極当然でもありますから、観客は大笑いという和みが抜群の演出です。
 そしてリー・コニッツが心の底から湧きあがる敬愛の念を、アルトサックスに託して吹き切るのが、このブルース!
 ちなみにリー・コニッツはクール派の白人奏者で、ご存じのようにレニー・トリスターノの一番弟子でありながら、本人は強くチャーリー・パーカーに傾倒し、度々師匠から注意を受けていたそうですから、その情念は本物でしょう。
 ここでの演奏は、はっきり言えば退屈寸前でもありますが、聴き終えると何故か私は、妙に感動してしまうのでした。

B-2 Donna Lee
 一転して次は楽しいスキャットボーカルです。
 歌うのはデイヴ・ランバートで、伴奏はビリー・テイラー(p)、トミー・ポッター(b)、ロイ・ヘインズ(ds) ですから、痛快なノリは保証付き♪ チャーリー・パーカーが書いたビバップの定番曲をシュビドゥバ、ドュヴィドュバと快調に歌いとばしていますが、もちろんそれはチャーリー・パーカーが残したアドリブフレーズを見事に再現したものですから、所謂バップスキャットの真髄です。
 
B-3 Bird Watcher ~ Disorder At The Border
 オーラスはまさに大団円という豪華なジャムセッション♪
 参加メンバーはディジー・ガレスピー(tp)、ケニー・ドーハム(tp)、J.J.ジョンソン(tb)、リー・コニッツ(as)、ビリー・テイラー(p)、トミー・ポッター(b)、ロイ・ヘインズ(ds) とされていますが、合奏部分を聴くと、もっと多くのメンツが参加しているように感じます。
 まあ、それはそれとして、演奏は作者のビリー・テイラーが独り舞台の大ハッスルでイントロから熱演を披露し、ベースとドラムスを呼び込んでからはグルーヴィな展開となって、場の雰囲気を盛り上げます。
 そして最初に出るトランペットはケニー・ドーハムでしょうか、このイブシ銀の音色にド派手なフレーズのミスマッチは実に味わく、続くリー・コニッツもフニャフニャした音色でエキセントリックなフレーズを綴るという違和感が、実にたまりません。これがジャムセッションの魅力でしょうねぇ~~♪
 しかし J.J.ジョンソンが登場すると雰囲気は一変! 豪放磊落なアドリブは痛快至極ですし、それを追撃するディジー・ガレスピーも得意のハイノートを駆使して熱気満点です。
 演奏はクライマックスから「Disorder At The Border」というリフ曲の合奏に移行し、これはコールマン・ホーキンスがディジー・ガレスピーを雇って1944年に録音したビバップの予告篇的な演奏を再現したという、本当にニクイ演出になっているのでした。

ということで、豪華なメンツと充実した演奏がビッシリ詰まった人気盤です。特にA面の素晴らしさは圧巻で、ド頭「Um-Hmm!」のグルーヴィな名演は聴かずに死ねるか! の一言です。

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テイタム&ウェブスターの赤と黒

2008-10-24 12:22:55 | Jazz

Art Tatum - Ben Webster Quartet (Verve)

普通のジャズ喫茶はモダンジャズ以降が中心でしたから、それ以前のスイングスタイルやニューオリンズ~ディキシー系の演奏は滅多に鳴ることもないのですが、その中で例外的な人気盤が、本日の1枚です。

主役はオスカー・ピーターソン以前にピアノの大名人というアート・テイタム、そしてテナーサックスの大御所の中でも特に偉大なベン・ウェブスターの2人で、もちろん企画は大物共演が得意技というノーマン・グランツのプロデュースによるものですが、その凄さがイマイチ発揮出来なかった晩年のアート・テイタムの作品中では特級品として、名盤化したようです。

実際、私にしてもアート・テイタムという物凄いテクニックと音楽性を兼ね備えたピアニストについては、???という部分が多く、何故ならばその演奏が凄さを超えて一回転し、振り出しに戻った「当たり前な感じ」と思えたのです。

今にして思えば完全なバチアタリなんですが、上手過ぎてスキが無く、それがスリルの欠如に感じていたのかもしれません。常にホームランを打ってしまう十割バッターのような、そんな神業に驚きつつも、その安定感が「普通」に繋がって聞こえたのかも……。

まあ、そんなこんなで、初めてこのアルバムを聴いた時には、全然古びていない新鮮な感覚に驚かされました。堂々の悠々自適を演じるベン・ウェブスターのテナーサックスに絡みつつ、しっかりとサポートするアート・テイタムのピアノが素晴らしく自然体です。そしてアドリブでは出来過ぎのメロディと華麗な装飾フレーズの妙♪ 同じテナーサックスのワンホーン演奏では、ソニー・ロリンズでもジョン・コルトレーンでも無い大きな世界が展開され、これは実に納得させられたのです。

録音は1956年9月11日、あらためてメンバーを記せば、ベン・ウェブスター(ts)、アート・テイタム(p)、レッド・カレンダー(b)、ビル・ダグラス(ds) というワンホーン体制です――

A-1 All The Things You Are
 ゆったりとしたテンポで、まずはアート・テイタムのピアノが優雅なイントロからテーマメロディの変奏を聞かせてくれます。あぁ、この一瞬だけで、完全にその世界に惹き込まれますねぇ。背後に控えるレッド・カレンダーのアルコ弾きも良い感じ♪
 そしてボ~ンとひとつの音を響かせて入ってくるベース、グッとタメを効かせながらサブトーンの魅力を披露するベン・ウェブスター♪ 泰然自若としたテナーサックスの後ろではアート・テイタムのピアノが華麗な舞い踊りなんですが、ちっともイヤミは感じません。それを百も承知のベン・ウェブスターの度量の大きさに感銘するほどです。
 ジャズの世界では、あまりにも有名なスタンダード曲ですから、数多の傑作バージョンが残されていますが、この演奏こそインストならば十指に入るのじゃないでしょうか。

A-2 My One And Only Love
 これもお馴染み、胸キュン系の歌物スタンダードで、テナーサックスではジョン・コルトレーンかコールマン・ホーキンスが決定版と思い込んでいた私を、完全降伏させたのが、この演奏です。
 いきなり琴線に触れまくりというアート・テイタムのソロピアノから、グッと大人の恋愛というベン・ウェブスターの心情吐露が、たまりません♪ 原曲は熱烈な恋愛思慕の歌なんですが、この心底、相手を思いやる感情表現の素晴らしさは、私自身が齢を重ねる毎に感動させられます。
 もちろんアート・テイタムは物凄いテクニックで華麗なメロディフェイクと魅惑のアドリブ♪ ドラムスとベースもゆったりしたテンポの中で意外にもグイノリのグルーヴを出していたりして、明らかにスイング時代のオンピートから脱却し、モダンなオフビート感覚になっていますから、こういうメンツの演奏にも違和感が無いのだと思います。
 あぁ、このバンドをパックにフランク・シナトラの歌が聴きたい! デジタル技術でなんとかならんでしょうかねぇ~。なんて見果てぬ夢までみてしまう素敵な演奏ですよ♪

A-3 My Ideal
 これまたテナーサックスではソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンの演奏が残されていますから、モダンジャズのファンにもお馴染みのスタンダード曲だと思いますが、私は自身はこのバージョンが一番のお気に入りです。
 力強いリズム隊に支えられて大きなノリを披露するベン・ウェブスターのテナーサックスはシンミリと忍び泣き♪ ひとつ間違えれば大袈裟な世界へ入り込んでしまうギリギリの抑制と心情吐露が流石だと思います。
 アート・テイタムも伴奏とは言い難い華麗なピアノソロで背後を彩り、アドリブパートに入っても、その味わいはますます冴えわたりです♪ ソフトでメリハリの効いたピアノタッチも最高にジェントルな雰囲気で飽きません。

B-1 Gone With The Wind
 これはアート・テイタムの十八番とされているスタンダード曲ですから、ここでも実に楽しげなピアノを聞かせてくれます。指が動いてとまらない感じのメロディフェイクは鉄壁のテクニックとリズム感が凄すぎます。そしてそれが当たり前に聞こえるのが、また驚異でしょうねぇ。
 ちなみにアート・テイタムはご存じのように極端に視力が悪く、おそらくは譜面も見ることが出来なかったと思われますから、楽曲メロディは耳から覚えて頭の中でフェイクしていたのでしょうね。そこに天性の音感と作曲能力というかアドリブ能力が結びついて、この偉大なピアニストが世に出たのは僥倖としか言えません。
 ベン・ウェブスターもここではちょっと脇役という感じですが、流石に存在感は強烈です。

B-2 Have You Met Miss Jones ?
 これも良く知られたスタンダード曲をカクテルラウンジっぽいアレンジで演奏した、ある意味ではこのアルバムの典型的なスタイルが楽しめますが、ただのムードミュージックにはなっていないと確信出来ます。
 典雅なアート・テイタムに対して真摯なベン・ウェブスターという個性の激突と協調が、素晴らしい時間を作り出しているのですからっ!
 このあたりはは私の稚拙な文章では表現不可能です。これは決して「逃げ」ではなく、真実ですよ。短い演奏ですが、絶対に聞いていただきたいトラックです。

B-3 Night And Day
 軽快にスイングするアート・テイタムのピアノ、悠然としたプローを聞かせるベン・ウェブスターのテナーサックスが心地良い、ある意味ではこのアルバムの中で一番古臭い演奏に聞こえます。
 しかしアート・テイタムのアドリブは圧巻で、よくもまあ、こんなフレーズが弾けるもんだなぁ……、と呆れるほどです。強靭なリズム感にも仰天!
 そしてベン・ウェブスターが登場するとドラムスがスティックに持ち替えてのスイングビートになり、このセッションでは最も派手なパートが始まりますが、ベン・ウェブスターは決して下品な音は出していないのでした。

B-4 Where Or The When
 さてオーラスもアート・テイタムのソロピアノから始まり、良いムードが出来上がったところでベン・ウェブスターが登場するという、このアルバムではお決まりの演奏パターンになっていますが、ここまで通して聴いていても、それが全く飽きない世界です。
 いや、むしろ音符過多の装飾過剰の世界が名残惜しいほどで、そういう感傷的な気分をさらに刺激してくるのがベン・ウェブスターのサブトーン♪ ああ、この歌心と男気の見事さ! こんな素敵なジャズは人類の宝物でしょうね。
 この演奏ばかりでなく、全部を通して余計な手出しをしないベースとドラムスの堅実な助演も、実は強い印象として残ります。

ということで、流石にジャズのガイド本では名盤認定されるのも当然という傑作です。特に私はA面が最高に好きで、一時は中毒症状に陥ったほど!

ところが最近の再発盤では曲順が変えられているようですね。まあ、CDだったら問題はないんですが。

はっきり言えば古臭く、しかし録音はハードバップ期の1956年ということで、ビート感も幾分モダンになっていますから、これは温故知新のアルバムでしょう。ひとわたりモダンジャズの名盤を聴いた後には、なおさらに不滅の感が強くなるやもしれません。

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チャーリー・パーカーのラテンな笑顔

2008-10-23 13:19:07 | Jazz

Fiesta / Charlie Parker (Clef / Verve)

ジャズ喫茶で最も気持ちの良い過ごし方は「居眠りモード」かもしれません。もちろん爆眠状態ではなく、店内に満たされてるビートの洪水の中でトロトロと白昼夢♪ これが実に心地良いわけですが……。

時折、ハッとするほど良い感じの「音」に感応して現実に引き戻される瞬間も、また、たまらなくジャズ喫茶的な楽しみのひとつだと思います。

さて、その日の私もそんな楽しみに浸っていたわけですが、そこへ流れてきたのが陽気で楽しいラテンミュージック!? ん~、ここはジャズ喫茶だったよなぁ……。うん、確かにアルトサックスやピアノがアドリブやっているなぁ……。

と思って目を開けた私は、そこに楽天的な笑顔も爽やかなチャーリー・パーカーのポートレイト、そして鮮やかなブルーのアルバムカパーを見たのです。

げっ、チャーリー・パーカー!? こんなん演奏しているの!?

当時はガチガチのジャズに入れ込んでいた時期の私だった所為もありますが、それにしてもこんな楽天的な演奏もないだろう~、という気分が支配的でした。しかしその快楽的な味わいは本当に素敵で、また後に知ったことですが、チャーリー・パーカーという天才はモダンジャズばかりではなく、クラシックや大衆音楽にも造詣が深く、大好きだったというのですから!

う~ん、実際、そうでしょうねぇ。だってモダンジャズ最先端で自分より凄いプレイヤーは存在しないわけですから、チャーリー・パーカーにしてもビバップよりも新しい展開へ進む意思表示だったのでしょう。

ちなみにこの時期、つまりヴァーヴに残された演奏については既に全盛期では無いとか、シャリコマで甘っちょろいとか言われることが多いようですが、チャーリー・パーカーは何時だってチャーリー・パーカーでしかありえない凄さと潔さが楽しめると思います――

A-1 Un Poquito De Tu Amor (SP:Mercury / Clef 11092 A)
A-2 Tico Tico (SP:Mercury / Clef 11091 A)
A-3 Fiesta
A-4 Why Do I Love You
(take-7 / master)
A-5 Why Do I Love You (take-2 / altarnate)
A-6 Why Do I Love You (take-6 / altarnate)
 A面の4曲、別テイクも含めた6トラックは、もちろんSP発売を前提とした短い演奏です。録音は1951年3月12日、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、ロイ・ヘインズ(ds) 、ホセ・マンガル(per)、ルイス・ミランダ(per) というセクステットですが、各曲ともに打楽器組の活躍が顕著です。
 まずは楽しいチャチャチャ調の「Un Poquito De Tu Amor」がチャカポコリズムで浮かれたテーマ演奏、しかしアドリブハードでは何時に変わらぬチャーリー・パーカーの全力疾走に目も眩むほどです。
 また、いきなりスパスバと始まる「Tico Tico」は、本当にどうにもとまらないという山本リンダ状態♪ 耳に馴染んだメロディがチャーリー・パーカーの不屈のジャズ魂で強烈にフェイクされ、踊り出しても許されるラテンのビートがたまりません。もぉ、どうにもとまらない!
 さらにアルバムタイトルとなった「Fiesta」での妖しい雰囲気の良さ♪ どちらかというと4ビート主体の演奏は、後年のルー・ドナルドソン(as) あたりが十八番としていた打楽器入りハードバップの元ネタかと思われます。もちろんチャーリー・バーカーのアドリブは得意技の連発ですし、ウォルター・ビショップのピアノも正統派のモダンジャズになっていますよ。
 そして「Why Do I Love You」はスタンダードの歌物ということで、このセッション中では一番、正統派っぽい仕上がりですが、やはり打楽器組がラテンビートを強調しているので、ロイ・ヘインズは些か影が薄い感じ……。それが別テイク、特にテイク6では逆に強靭な4ビートを敲いたりしていて、思わず唸ってしまいますし、ウォルター・ビショップも熱演です。しかもチャーリー・パーカーは何時だって泰然自若!
 ちなみに「Un Poquito De Tu Amor」と「Tico Tico」はSP発売されていますが、「Fiesta」と「Why Do I Love You」はLP時代になってから世に出た演奏かもしれません。このあたりは私の勉強不足で、データがイマイチ明確ではありませんので、念のため……。

B-1 Mama Inez (SP:Mercury / Clef 11092 B)
B-2 La Cucuracha (SP:Mercury / Clef 11093 B)
B-3 Estrellita (SP:Mercury / Clef 11094 A)
B-4 Begin The Beguine (SP:Mercury / Clef 11094 B)
B-5 La Paloma (SP:Mercury / Clef 11091 B)
 B面の最初の5曲が、これまた楽しいラテンジャズ♪
 録音は1952年1月23日、メンバーチャーリー・パーカー、(as)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、マックス・ローチ(ds) 、ホセ・マンガル(per)、ルイス・ミランダ(per) 、そしてベニー・ハリス(tp) が加わっています。
 結論からいうと、演奏そのものの仕上がりがA面より一層に鮮やかですから、全ての曲がSPとして発売され、後には10インチ盤LPとなり、さらにここで12インチ盤LPとして再収録されたのは人気が高かった証明でしょう。
 まずは「Mama Inez」の楽しく軽快な雰囲気の中で炸裂する豪放なチャーリー・パーカーのアドリブに喚起悶絶! ベニー・ハリスとウォルター・ビショップも集中力が見事な熱演を聞かせています。
 また、浮かれた調子の「La Cucuracha」、妖しい哀愁が心に沁みる「Estrellita」、アート・ペッパーが必ずや聞いていたと確信する「Begin The Beguine」の微熱な気分♪ さらに掛け声も楽しいラテンフレイヴィーが横溢する「La Paloma」という、全てが懐かしく耳に馴染んだメロディが、チャーリー・パーカーという天才のアルトサックスで楽しめる幸せ!
 特に「Mama Inez」でのアドリブは典型的なパーカー節が満喫出来ると思いますし、個人的には新東宝キャバレームードが満点の「Estrellita」が最高に好きです。う~ん、三原葉子が踊っているような♪♪~♪

B-6 My Little Suede Shoes (SP:Mercury / Clef 11093 A)
 さて、オーラスは、こうしたラテン路線のチャーリー・パーカーでは一番有名な曲でしょう。もちろんチャーリー・パーカーのオリジナルで、後年には他のプレイヤーもカバーしているほどの楽しい雰囲気が、たまりません♪
 録音&メンバーのデータはA面と同じですが、それにしてもこのお気楽度数の高さは半端ではなく、おそらくはチャーリー・パーカーが書いた曲では最高の親しみ易さがあるのじゃないでしょうか。

ということで、素晴らしく楽しいアルバムです。

もうビバップだとかモダンジャズだとか云々は関係無く、この快楽に身を任せてしまえば、南の島の楽園で朗らかに過ごせる気分にどっぷり♪ あとは美女だけが傍らにいれば……、という妄想は、やはりチャーリー・パーカーのアドリブの凄さにブッ飛ばされるんですが、まあ、いいか♪

それにしても、こういう企画アルバムやセッションは後年、かなりの頻度で作られましたが、ここまでシンプルに徹底した演奏も無いでしょう。チャーリー・パーカーが演じているからこその価値も当然ありますが、それに拘らずに聴いて楽しい傑作集だと思います。

天才のラテンな笑顔は、暗いジャズ喫茶では眩しいほどでした。

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ジミー・レイニーの来日伝説1976

2008-10-22 11:47:53 | Jazz

Jimmy Raney Live In Tokyo 1976 (Xanadu / Jazz Collectors = CD)

1970年代のハードバップリバイバルを牽引したレーベルとして、アメリカの「ザナドゥ」は頑なにビバップ~ハードバップに拘ったところが魅力でしたから、ジャズ喫茶では欧州の「スティープルチェイス」と並んで安心印の人気を集めました。

それは安定した売り上げがあったのでしょう、ついには「ザナドゥ・オールスタアズ」とも言うべきメンバーによる来日公演もあったのです。そして当然ながらライブレコーディングも敢行され、数枚のアルバムが作られています。

さて、本日ご紹介のCDは、その中からジミー・レイニーが主役の演奏を纏めた再発物ですが、これは今まで「Live In Tokyo」「Tokyo 1976」「Xanadu Anniversary」という3枚のLPに分散収録されていた音源の集大成ということで、なかなか復刻が進まない同レーベルの厳しい状況下では嬉しいプレゼントでしょう。

録音は1976年4月12&14日、メンバーはジミー・レイニー(g)、サム・ジョーンズ(b)、リロイ・ウィリアムス(ds) というトリオが中心♪ そして最後にはチャールス・マクファーソン(as) とバリー・ハリス(p) が加わったクインテットの演奏が楽しめます――

01 Just Friends (1976年4月12日録音)
 これはアナログ盤ではオムニバスの「Xanadu Anniversary」に収録されていた演奏で、正直言えば没テイクっぽい感じがしないでもありません。ギターが真ん中、ベースが左、そしてドラムスが右に定位したステレオミッスクは基本に忠実だと思いますが、ジミー・レイニー以下、トリオの面々が些か力みすぎという雰囲気で、時折、何かが歪んだような音が入ります。
 しかし演奏はそれゆえに熱演で、意外に荒々しいところは日頃からクールな歌心が特徴的なジミー・レイニーの別の顔を見た気分です。これも、「あり」でしょうね。

02 How About You (1976年4月12日録音)
03 Darn That Dream (1976年4月12日録音)
04 Anthropology (1976年4月14日録音)
05 Watch What Happens (1976年4月12日録音)
06 Autmn Leaves (1976年4月14日録音)
07 Stella By Starlight (1976年4月12日録音)
08 Here's That Rainy Day (1976年4月12日録音)
09 Cherokee (1976年4月14日録音)
 以上の演目はジミー・レイニーのリーダー盤「Live In Tokyo」として、この関連音源では最初に発売されたものですが、左にギター、真ん中にベース、そして右にドラムスというステレオミックの定位がド頭の「Just Friends」と違うのは違和感が……。ちなみに音質も異なっていて、こちらのパートの方に迫力とキレがある感じです。う~ん、このあたりの統一感の無さが勿体ない感じですね。
 と最初から文句タラタラですが、しかし演奏内容は流石に選びぬかれたトラックばかりですから、素晴らしい♪ 歌物スタンダード中心というプログラムも嬉しく、スローな「Darn That Dream」でのハートウォームなメロディフェイク、また軽快な「How About You」やお目当ての「Autmn Leaves」での流麗なフレーズと歌心のバランスの良さは、まさにジミー・レイニーの世界です。ライブということで、適度にラフなところもサム・ジョーンズの黒いペースとリロイ・ウィリアムスのパワフルで歯切れの良いドラミングが冴えていますから、結果オーライでしょう。
 そしてボサロックにアレンジされた「Watch What Happens」とソフトパップな「Here's That Rainy Day」の雰囲気の良さ♪ あぁ、何度聴いてもホンワカと和みますねぇ~~♪ 時折聞かせてくれる疑似オクターヴ奏法や早弾きフレーズも流石ですから、ジミー・レイニーには、こんな路線のイージーリスニング系アルバムを作って欲しかったと心底、思ってしまいます。
 しかし真正ビバップを演じた「Anthropology」も凄いです! 青白い炎のようなジミー・レイニーのアドリブ魂の純粋さ、それを煽るリロイ・ウィリアムスのドラミングがイノセントなジャズ者をエキサイトさせること必定です。もちろんサム・ジョーンズは基本に忠実なハードバップのウォーキング♪ このあたりの情熱は「Cherokee」でも堪能出来ますが、こちらは些か散漫な感じがしないでもありません。
 あと「Stella By Starlight」は完全なソロギターの世界♪ ジミー・レイニーのギターテクニックと歌心の秘密が解き明かされる好演で、当日の会場にはギター名人の運指やピッキングを研究せんとする熱心なファンが双眼鏡やオペラグラスを持参していたという伝説も残されているほどですが、元々のテイクが左チャネルだけのミックスなので、CD化された事により真中と右チャンネルに残るテープヒスが、より鮮明に聞こえるようになったのは残念! このあたりのリマスターをもっと丁寧にやって欲しかったですねぇ……。

10 Groovin' High (1976年4月14日録音)
11 Blue‘N’Boogie (1976年4月14日録音)
 そしてこれがクライマックス♪ ジミー・レイニーのトリオにバリー・ハリスとチャールス・マクファーソンが加わったビバップ大会として、定番の2曲が熱演されます。ちなみにこれはアナログ時代はLP「Tokyo 1976」に収録されていたのですが、ミックスは団子状のモノラルという雰囲気が相当に強く、それはそれで良いとしても、今回のCD化では、またまたリマスターの無神経さが露呈した感じです。
 しかし演奏の密度は極めて高く、ハードバップというよりもビバップど真ん中のエキセントリックな味わいが楽しめます。特にチャールス・マクファーソンはチャーリー・パーカーへの畏敬の念が表出した熱演ですし、バリー・ハリスはパド・パウエルへ最敬礼♪ もちろんジミー・レイニーも負けじとハッスルして丁々発止のソロチェンジとか、熱くさせられますよ。

ということで、なかなかに充実した演奏と好企画だったんですが、既に述べたようにリマスターの統一感の無さは減点です。しかし、それでも私が満足してしまうのは、ビバップへの愛情というよりも、1970年代ジャズ喫茶への郷愁でしょうか。

まあ、そのあたりをお含み願って、お楽しみ下さいませ。

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