■Lee Morgan Live At The Lighthouse (Blue Note)
この齢まで生きていると、身内はもちろんの事、友人知人や所縁の諸氏、そして自分の人生に様々な悲喜こもごもを与えてくれた有名人の訃報に接することが多くなります。
まさに、この世は諸行無常……。
それこそが真実と痛感させられるわけですが、しかし所謂天寿を全うする生き様であれば納得の大往生ながら、順番を間違えるというか、何か早すぎる死に直面させられると不条理感を強くするのは、生かされている者の正直な我儘でしょう。
例えばモダンジャズの天才トランペッターとして十代の頃から絶大な評価と人気を得てたリー・モーガンにしても、1972年2月、享年33歳の他界は、愛人から射殺されるというスキャンダルも加わって、決して忘れられない悲報でした。
なにしろ時代はロックに押されていたモダンジャズの新しき胎動期であり、業界はロックジャズやクロスオーバーと呼ばれ始めていた元祖フュージョン、そしてハードバップリバイバルやモード&フリーの所謂新主流派の巻き返しが盛り上がっていた頃とあって、その中心人物としては未だバリバリの若手というリー・モーガンの存在は、広くジャズファンの期待の星だったと思います。
それはサイケおやじにしても、ちょうど本格的にモダンジャズを聴き始めたというリアルタイムでしたから、リー・モーガンという「分かり易いスタイル」を貫くスタアプレイヤーは、ジャズという怖い世界では絶好の道案内人でもありました。
そして当時、ジャズ喫茶で人気を集めていたのが本日ご紹介の2枚組LPで、その内容はハードバップとモード系オドロの世界がライプ特有の熱気を孕んで繰り広げられる強烈な長尺演奏集!
録音は1970年7月、西海岸の名店クラブ「ライトハウス」でのライプセッションで、メンバーはリー・モーガン(tp) 以下、ベニー・モウピン(ts,bcl)、ハロルド・メイバーン(p)、ジミー・メリット(b)、ミッキー・ロッカー(ds) という、如何にもの実力者か揃っています。
A-1 Absolution
ジミー・メリットが作った、ドロドロのモード曲が作者自らのエグ味の強いベースワークで導かれ、テンションの高いリズム隊と思わせぶりがニクイばかりのフロント陣が実に上手いテーマアンサンブルを聞かせてくれます。まずはこの最初のパートで、自然にモダンジャズという魔界に浸ってしまう雰囲気の良さは最高でしょう。
そこには幾分忙しないミッキー・ロッカーのドラミングが本音で心地良く、ダークな音色でタフなモードスケールに基づくフレーズを積み重ねるベニー・モウピン、執拗な絡みはもちろん、静と動のコントラストを巧みに構築するリー・モーガン、小型マッコイ・タイナーと言っては失礼ながら、紛れも無く手数の多いピアノでリスナーを熱くさせるハロルド・メイバーン!
こういう5人組が、ミディアムテンポで噴出させる情念のモードジャズこそが、リアルタイムでのジャズ喫茶では王道のウケまくりだったんですねぇ~♪
あの紫煙が充満する暗い空間で固い椅子に座り、決して美味しいとは言い難い珈琲を飲みながら大音量で聴くモダンジャズの基本形が、ここにあります。
いゃ~~、何時聴いても、懐かしい「あの頃」が蘇る演奏ですよ、個人的ではありますが。
B-1 The Beehive
ハロルド・メイバーンが書いたアップテンポの激烈ハードバップで、とかにくビシバシに煽ってくるミッキー・ロッカーのドラムス、初っ端からウネリっぱなしというジミー・メリットのペース、如何にもコードをガンガンぶっつけてくるハロルド・メイバーンのピアノから成るリズム隊が、いきなり爽快です♪♪~♪
そして後先も考えていないような、タレ流し気味のアドリブに専心するペニー・モウピンが潔く、それが要所で数次挿入されるキメのリフのアンサンブルによって良い方向へ導かれて行くという、なかなかツボを外さないバンドの立脚姿勢は流石だと思います。
それはリー・モーガンにとっても十八番の展開であり、猪突猛進というか、突貫精神の攻撃的な勢いは、これがファンにとっては待ってましたの拍手喝采でしょう。徹頭徹尾、淀みなく吹きまくられるハードバップフレーズの大洪水は、余計な計算も下心もない真摯なジャズ魂の発露として、素直に熱くさせられてしまうこと、請け合い!
ですからハロルド・メイバーンのピアノがスピード違反を演じても、また、ミッキー・ロッカーのドラムソロに場当たり的なところがあったとしても、全ては「カッコ良いジャズ」をやっているという結果オーライに収斂されるんじゃないでしょうか。
それこそがジャズを聴く楽しみのひとつという演奏だと思いますが、音量ボリュームの上げ過ぎには注意が必要でしょうねっ!
C-1 Neophilia
ベニー・モウピンが作ったとされる、実に陰鬱なムードが充満するモード系の演奏です。なにしろ初っ端から無伴奏で聞かされる作者のバスクラリネットが激ヤバですよっ!
さらに続けて、じっくりとしたテンポで進んでいくバンドアンサンブルとアドリブパートの流れの中では、先発のベニー・モウピンが、これしか無いっ! そういうオドロの自己表現で、この雰囲気はマイルス・デイビスが出した問題傑作「ビッチェズ・ブリュー」のセッションでベニー・モウピンが参加していた「Pharaoh's Dance」と共通する独得の粘っこさが表現されていると思います。
しかし、ここではさらに進化した作者の情念のアドリブがリズム隊と見事に呼応し、絶妙の山場を構築していくエキセントリックな展開が、本当に最高ですよっ♪♪~♪
あぁ、この絞り出されるような刹那の心情吐露!
これもまた、モダンジャズの醍醐味じゃないでしょうか?
ですからリー・モーガンにしても、なかなか神妙に綴るアドリブパートの静謐な熱血は天才の証明で、時に破綻しそうになったり、十八番というよりは、マンネリフレーズというのが正しいと思われる部分にしても、それは一期一会の一言で片付けられるものではありません。実に深~い思惑があるんでしょうねぇ。
その意味でハロルド・メイバーンが一瞬、晩年のビル・エバンスみたいになってしまうのも憎めませんし、ジミー・メリットのペースがイモ? という定説にしても、それは十人十色の好き嫌いにすぎないと思います。
個人的にはベニー・モウピンの名演を堪能するばかりなのですが……。
D-1 Nommo
これまたジミー・メリットが作った熱血モードジャズの隠れ名曲で、冒頭からバンドが演じていく思わせぶりが、心地良い解放感のパートと上手くミックスされながら展開する流れが実に上手いですねぇ~~♪
そこには幾分煮え切らないところからヤケッパチな気分転換を図るベニー・モウピン、瞬間芸の極みに挑むリー・モーガンの溌剌、喧しいほどに音数を増やしていくハロルド・メイバーン、空気も読めずに自己主張するブリブリのジミー・メリット、意外に冷静なミッキー・ロッカーというバンドメンバー間の意志の疎通が感じられ、現場には所謂暗黙の了解があったんじゃないでしょうか。
まあ、このあたりはプロのジャズプレイヤーならば言わずもがな、サイケおやじが稚拙な筆を弄するまでもないとは思いますが、それにしもメンバー各人がバラバラをやっていそうで、実はキチッと纏まった演奏は凄いですよ。
ちなみに全体の流れは、それぞれのアドリブの終盤に無伴奏なパートが設けられ、思わずグッと惹きつけられてしまうのでした。
ということで、アナログ盤2枚組LPに収録されたのは、たったの4曲!
それも、アッという間に聴き終えてしまうほどの充実ですから、たまりません♪♪~♪
ジャズ喫茶の人気盤になる事もムペなるかな、これを大音量で鑑賞する喜びは筆舌に尽くし難いものがありましたですねぇ~♪
そこでついにというか、CD時代になった1996年には未発表テイクを追加した拡張3枚セットが登場し、それがまた熱い演奏集ということで、大いに話題となったのも記憶に新しいところです。
もちろんサイケおやじも速攻でゲットし、聴きまくった前科は隠すことも出来ないわけですが、最近は何故か、こっちのアナログ盤2枚組を取り出してしまいます。
それは正直に告白すると、CD1枚分を聴き通す根性も気力も薄れているからで、その点、LP片面で20分前後の1曲だけを楽しむというのが、現在のサイケおやじには合っているようです。
最後になりましたが、リー・モーガンにとって、このアルバムは結果的に晩年の傑作と認定されるのが、ファンばかりでなく、全モダンジャズファンには共通の悲しみだと思います。
世の中には「使い果たした」という言い回しもあるようですが、リー・ガンにはもっと長生きをしてもらって、本物のモダンジャズを聴かせて欲しかったと思うばかり……。
それでも、なにかとムラっ気がある天才と呼ばれる故人に対し、少なくともサイケおやじは今でも敬意を表し、特にこのアルバムを聴く度に合掌しているのでした。