■A Hard Rord / John Mayall And The Bluesbreakers (Decca / London)
ブリティッシュロックのギタリスト銘々伝を探る時、ピーター・グリーンもまた天才のひとりとして無視出来ません。
なにしろクリームを結成する為にブルースブレイカーズを抜けたエリック・クラプトンの後任として立派に重責を果たし、さらには正統派ブルースロックの人気バンドに君臨するフリートウッド・マックを結成し、深い陰影を描き出す独得のギターを披露した活躍は、まさに伝説でしょう。
というのも、実はピーター・グリーンは全盛期だった1970年代前半に突如として引退!? というか不可解な隠遁生活に入ってしまい、以降のフリートウッド・マックがコロコロと音楽性を変えながら進化の過程を辿った事にも、まんざら無関係では無いと思われます。
ただし、このあたりは相対的に鑑みて、ピーター・グリーンが音楽界の流れに乗り切れなかった現実の裏返しかもしれず、したがって実質的なデビューにして世界中を驚愕感動させたブルースブレイカーズでの諸音源、中でも本日ご紹介のLPが愛おしくてなりません。
A-1 A Hard Road
A-2 It's Over
A-3 You Don't Love Me
A-4 The Stumble
A-5 Another Kind Of Love
A-6 Hit The Highway
A-7 Leaping Christine
B-1 Dust My Blues
B-2 There's Always Work
B-3 The Same Way
B-4 The Supernatural
B-5 Top Of The Hill
B-6 Someday After A While
B-7 Living Alone
さて、例によってブルースブレイカーズというバンドを語る時、ジョン・メイオールというリーダーの存在感云々を避けては通れないわけですが、とりあえずこのアルバムが世に出た1967年春においては、その威厳も神通力も絶大だったと思われます。
なにしろエリック・クラプトンという神様を降臨させたわけですから!?!
そこで、それと共に強権を得たブルースブレイカーズを是が非でも存続させなければならなくなった宿命を負ったとしても、ジョン・メイオールには本望だったという推察は容易です。
現実的にはエリック・クラプトンの後釜探しは、相当に苦労したと言われていますし、エリック・クラプトン本人も何かしらの未練があったところから、ようやく本決まりとなったピーター・グリーンは凄いプレッシャーだったでしょうねぇ。
そしてこのアルバムの制作セッション時のメンバーはジョン・メイオール(vo,g,key,hcm,etc)以下、ピーター・グリーン(vo,g)、ジョン・マクヴィー(b)、エインズレー・ダンバー(ds) というレギュラー4人組に、ホーンセクションが適宜参加しています。
ということは、ピーター・グリーンのギターに耳が集中される事は必然であって、それこそが意地悪な思惑や過大な期待が表裏一体のファン心理!?
もちろんサイケおやじが、このアルバムを初めて聴いたのは、ピーター・グリーンが既に「フリートウッド・マックのピーター・グリーン」として素晴らしいギタープレイ聞かせてくれた後でしたから、リアルタイムで接していたリスナーの気持は想像するしかないわけですが、おそらく大部分はジョン・メイオールのブルース審美眼(?)を信頼するしかなかったんじゃないでしょうか。
そして結果は、歴史的にも高い評価と人気を集めた「The Supernatural」が、このアルバムを象徴する名曲名演とされ、それゆえにブルースロックからニューロックへの橋渡し的名盤に祀り上げられたわけですが……。
しかしサイケおやじには、やっぱりこれはブルースロック王道の1枚であって、例えば後にはオールマンズも十八番とする「You Don't Love Me」、あるいはエレクトリックギターインストの魅力が爆発する「The Stumble」といったカパー演奏の凄さは絶品! 特に後者でのピーター・グリーンはエリック・クラプトンとは似て非なる凄味が圧巻! 当然ながら、サイケおやじにもコピーに勤しんだ前科と挫折の悔恨がありまして、それも人生の良い思い出になってしまうほどです♪♪~♪
さらに言うまでもなく、ジョン・メイオールのオリジナルとクレジットされた収録各曲にしても、ほとんどが黒人ブルースの既成曲を焼き直したところに快感のルーツがあり、それゆえに演奏メンバー各人の技と個性が楽しめる仕掛けこそが、ブルースロックの楽しみに他なりません。
中でも、しつこいようですが、一座のスタアであるピーター・グリーンのギターは絶大な魅力で、ミディアムテンポの「A Hard Road」や「Another Kind Of Love」におけるエッジ鋭さ、スローな「Someday After A While」での粘っこさは、典型的な個性が堪能出来ると思います。
また一方、親分の些か空回りのスタイルに歩調を合わせたような「It's Over」や「Hit The Highway」、あるいはアップテンポの「Leaping Christine」等々での堅実な助演も「お仕事」と言えばミもフタもありませんが、それでも「The Same Way」のギターソロは短くとも流石に聴かせてくれますねぇ~♪
ですからエルモア節をブルースロックに解釈した「Dust My Blues」がそれなりに上手くいったのも、決して偶然の産物ではなく、バンドのやる気と時代の必然かもしれません。
そこで前述した「The Supernatural」がサイケデリックロックの混濁性を逆手に活かしたミステリアスなムードを見事に表現出来たのも、ムペなるかなっ! ピーター・グリーン畢生作として、エグ味寸前のギターは音色もフレーズも絶品であり、後にフリートウッド・マックでやってしまう「Albatross」や「Black Magic Woman」の前哨戦としても、それが決して超越出来ない境地なんですから、たまりません♪♪~♪
あぁ、これはやっぱり、名曲にして名演ですよっ!
ということで、正直に言えば不満が無いとは決して申しませんが、ピーター・グリーンが上昇期~全盛期に残した貴重な演奏が楽しめるというポイントは不滅でしょう。
またギターの音色がエレキ特有の歪みを活かしたもの、あるいは澄みきったトーンを可能にするピッキングコントロールの素晴らしさ等々、その千変万化のテクニックを多岐に楽しめるところは、巷間あまり指摘されない重要点だと思いますが、これは特段ギターを弾かないファンにとっても大きな魅力じゃないでしょうか。
ここではピーター・グリーンという天才ギタリストの、未だ全面的に開花する直前の「天才」が、その資質と共に記録されているのですから!?!
そして最後になりましたが、肝心の親分たるジョン・メイオールは、またまた子分の引き立て役というか、結果的に本人が些かのトホホを演じているだけに、かえってプロデューサー的な力量が表面化したという、全く失礼だと思いますが、個人的には憎めない偉人のひとりだと思うのでした。