■美しき愛の掟 c/w 風は知らない / ザ・タイガース (ポリドール)
掲載したのは
タイガースが昭和44(1969)年春に出したシングル盤で、これはもちろん皆様ご存じのとおり、ここからバンド内では沢田研二と並び立つ人気者だった加橋かつみ(vo,g) の脱退により、岸部修三=現・岸部一徳(b) の実弟である岸部シローが参加しての最初のレコードというのが大きなウリになっていた話題の商品だったんですが、現実的には加橋かつみ在籍中のレコーディングだったという真相を逆手に活かした、なかなか奥深い楽曲が両面で楽しめる秀作だと思います。
それはまずジャケットスリーブのデザインにも顕著で、とにかく沢田研二をメインに他のメンバーはシルエットだけという扱いも賛否両論ながら、それでも作詞:なかにし礼&作曲:村井邦彦が提供した収録A面「美しき愛の掟」は、絶妙に当時の洋楽の流行を上手く取り入れた歌謡ロック!?
なにしろハイハットシンバルに導かれて始まるギターリフのイントロからミディアムテンポでじっくり歌う沢田研二のボーカルの湿った情感に呼応するが如き泣きのギターも印象的ですが、間奏におけるヘヴイなリズムギターとのコラボレーションも所謂「ニューロック」がど真ん中ですし、テンポアップしたパートに入ってのボーカルのノリ、さらには後半で目立ちまくるキーボードの存在感共々に、これぞっ!
新生タイガースの自己主張!?
と同時に、既定の事実になっていたスタジオミュージャンによって作られる演奏パートが、ここではタイガースが自前でやっているとしか思えない粗削りな雰囲気が好ましいというか、あくまでも個人的な推測ではありますが、特にドラムスのラフな質感やブリブリにドライヴするベースの個性なんかは、殊更後者の場合、後の井上バンドにおける岸部一徳の持ち味に似ていると思うんですが、いかがなものでしょう。
ちなみにキーボードは後にミッキー吉野が担当していたと解明されているのですが、他のパートは極力タイガースの自前だったと思いたいのがサイケおやじの本音であり、その意味からもそれまでのタイガースのシングル曲とは異なり、コーラスパートが消されたかのように沢田研二のボーカルだけが前面に出ているあたりは、ジャケットスリーブとの整合性でしょうか。
そ~いえば確か当時は、これが加橋かつみのタイガースにおける最後のレコーディングというウリもあったと記憶していますし、だからこそ作詞:岩谷時子&作曲:村井邦彦が提供のB面収録「風は知らない」では、加橋かつみがそれとはっきり分かるハモりを披露しているあたりはニクイばかりの企画なんですねぇ~~~♪
まさにファンの求めるところを狙ったヒット盤だと思います。
そして新参加の岸部シローについては、一応当初はギターを抱えてはいたんですが、完全な飾り物であり、ほとんど弾けないという真相は言うまでもありませんでしたから、この頃からステージライブでは助っ人ミュージシャンが入っていたんですが、ボーカリストとしてはそれまで加橋かつみが担当していたパートをきっちり歌っていましたし、なによりも親しみやすいキャラで司会をやったりするパフォーマンスは、後のタレント活動を予見させる結果はオ~ライ?
また、今となっては触れることも憚られる、如何にも芸能界的な「加橋かつみ失踪事件」の顛末と真相については、サイケおやじとしても当時から嫌な印象しかなく、せっかくここに歌謡ロックの道筋を辿り始めたタイガースから抜ける必要があったのか!?
そんなこんなの煮え切らない疑問が拭いきれません……。
しかし、だからこそとでも申しましょうか、タイガースの「美しき愛の掟」は忘れられないのでした。