OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

伝説

2006-05-30 18:08:41 | Weblog

なんか本日は大物俳優、大物映画監督、往年の名力士の訃報が続きましたですね……。

そこで今日は――

Thelonious Monk with John Coltrane Live At The 5 Spot (GAMBIT)

以前、ブルーノートからCDで発売され、世界中に衝撃を与えた音源の再発です。

それは伝説で彩られていたライブ演奏で、ジョン・コルトレーンが悪いクスリのためにマイルス・デイビスのバンドをクビになり、セロニアス・モンクに拾われていた時期である1957年晩夏の頃を録音したものと言われていました。

マイルス・デイビスに雇われていた頃のジョン・コルトレーンは、はっきり言えばヘタクソでしたが、セロニアス・モンクのバンドで揉まれて自己の奏法を掴み、飛躍的に上手くなったとされていたのですから、この音源の歴史的価値、ジャズ的な面白みは録音状態の悪さを超越していました。

ところが、前述のブルーノートから出されたCDはピッチの狂いがあり、さらに録音年月日にも疑問符が付くというものでした。

それが今回、遺族の承認を得てリマスターされ、別レーベルから再発されたのです。しかも未発表の2曲が追加されています♪

録音は1958年9月11日! と言う事はジョン・コルトレーンが既にマイルス・デイビスのバンドに復帰していた最中ということになります。メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、セロニアス・モンク(p)、アーマッド・アブダラ・マリク(b)、ロイ・ヘインズ(ds) で、もちろん「ファイブ・スポット・カフェ」でのプライベート録音です――

01 Crepuscule With Nellie
 微熱に浮かされたような気だるい曲を、セロニアス・モンクのピアノが淡々と綴っていきます。途中からジョン・コルトレーンも何となく参加していますが、お客のザワメキの中、隙間だらけの演奏が虚しく流れていく、その空間美がたまらなく愛しいのですねぇ、私には♪
 アドリブらしいパートが無い、短い演奏ですが、その場の雰囲気も取り込んだ名演ではないでしょうか……?

02 Trinkle Tinkle
 めくるめく様なセロニアス・モンクのオリジナルで、ジョン・コルトレーンはハーモニクス奏法も使いながら熱演を聴かせてくれます。もちろん全体的な構想は、十八番のシーツ・オブ・サウンドですが、そこに果敢に斬り込んでいくセロニアス・モンクとの鬩ぎ合いが、コーラスを重ねるにつれて激烈になっていくのです。
 そして何時もながら、セロニアス・モンクはピアノを弾いていない時間があります。しかし自分のソロ・パートになると、俄然、本領発揮という、全く上手い展開です。

03 In Walked Bud
 セロニアス・モンク流儀のビバップ曲の真髄が、これです。なにしろジョン・コルトレーンが必至に吹奏しているのに、バックでは我関せずというか、気ままにピアノを叩き、変態コードを撒き散らすのですから、こういう親分にバンド・メンバーが困惑させられている様が、はっきりと記録されています。
 そして例によってセロニアス・モンクがビアノを弾かなくなって、初めてジョン・コルトレーンも安心したようですが、今度は気抜けのビールっぽいソロになるのですから、???です。
 まあ、そういうところがジャズの醍醐味なんでしょうが……。
 肝心のセロニアス・モンクは、そんなことにはお構い無しの名演を聴かせてくれますから、完全に熱くさせられます♪

04 I Mean You
 これも音質の悪さを超越した熱い演奏です。結論から言うと、バンドを構成する4人がバラバラというか、暗黙の了解だけでプレイしているように聴こえます。しかし熱気や場の雰囲気は最高潮で、こんな激烈なライブが毎夜行われていた当時のニューヨークに、タイムマシンがあったら必ず行きたいと、思わずお願いの名演です。特にロイ・ヘインズが気合入っていますねぇ~♪

05 Epistrophy
 一応、バンド・テーマという演奏ですが、冒頭からラテン・リズムで暴れるロイ・ヘインズが強烈ですし、超変態コードを叩くセロニアス・モンクに困り果てたジョン・コルトレーンがアラビア風のモードに逃げ込む場面さえあります。
 ただし演奏そのものがコンプリートで録音されていないのが、残念至極です。

06 Ruby My Dear
 今回が初出の演奏です。曲は静謐なムードを湛えたセロニアス・モンクの代表作で、ジョン・コルトレーンとの相性も素晴らしい演奏です。つまり後の「ネイマ」あたりを想起させられるわけですね♪ う~ん、ここでのジョン・コルトレーンは素晴らしいです!
 しかし哀しいかな、ここでもセロニアス・モンクのソロ・パート途中でフェイドアウトされていまうのでした……。残念っ!

07 Nutty
 これも今回が初出の演奏で、リズミックなリフを使ったセロニアス・モンクの人気曲です。しかし演奏そのものは、ジョン・コルトレーンが不調というか、気合が抜けています。ただしセロニアス・モンクは流石に鋭く、危ない絡みを聴かせてくれるのですが……。まあ、ボツになるのも、致し方無しというか……。

ということで、正直、音質は良くありません。しかし今回のリマスターでは演奏そのもの、そして観客のザワメキ、場の雰囲気が自然にミックスされているので、BGM的に聞き流していると、あたかも現場でライブを楽しんでいるような心持にさせられます。

もちろん、無念無想で聴き入っても感動間違いなしの名演ではありますが!

それにしてもタイムマシンにお願いという、そんな1枚です。

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楽しき仲間♪

2006-05-29 17:08:59 | Weblog

親戚の葬儀の終り、復帰しました。

それにしても最近の葬儀は簡略化され、式次第も流れるように執り行われ、これは葬儀屋システムの充実なんでしょうが、故人を偲ぶ時間さえ決められているような、私のようなオールドウェイブな人間は、イマイチ、ドライになりきれませんでした。

まあ、あんまり湿っぽいのも、困りもんなんですが……。

ということで、本日の1枚は快演・熱演のこれを――

Jackie's Pal / Jacki McLean Introducing Bill Hardman (Prestige)

気の合う友人、ウマが合う奴ってのは、確かにいますよねっ♪

1950年代のジャッキー・マクリーンにとっては、ビル・ハードマンこそ、そういう相手だったんでしょう。

このアルバムはジャッキー・マクリーンのリーダー盤ですが、タイトルどおりに気の合う仲間のビル・ハードマンを相棒にしたハードバップの快作です。

原盤解説によると、この2人はチャールズ・ミンガス(b) のバンドで一緒になって意気投合、そして揃ってジャズ・メッセンジャーズに移籍したらしいんですが、どうもジャッキー・マクリーンがチャールズ・ミンガスと喧嘩したという伝説が残されています。

だいたいジャッキー・マクリーンは若造のくせに、マイルス・デイビス(tp) やチャーリー・ミンガス(b)、そしてアート・ブレイキー(ds) という恐いボスと喧嘩してはバンドを飛び出していたらしく、なんかそんな時に必至になだめたりしていのが、ビル・ハードマンという場面が浮かんでまいります。もっともこれは私の完全なる想像ですが、このアルバムのジャケットを眺めていると、さもありなんという雰囲気です。

で、このアルバムは、そんな2人がジャズ・メッセンジャーズに移籍する直前に吹き込んだもので、録音は1956年8月31日、メンバーはビル・ハードマン(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、マル・ウォルドロン(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) となっています――

A-1 Sweet Doll
 仄かな哀愁が漂うジャッキー・マクリーンのオリジナルで、演奏はハードバップ一直線の素晴らしい出来栄えです。
 まずアドリブ先発のジャッキー・マクリーンが何時もながらの熱い心情吐露! 太い音色で泣きまくりです。続くビル・ハードマンは小型ケニー・ドーハムという感じの音色とフレーズが特徴ですが、憎めません。
 しかし何よりも凄いのはリズム隊の大活躍で、黙々と同じリフを変奏していくマル・ウォルドロン、ポール・チェンバースの我が道を行きまくるベース、スティック&ブラシで快適なクッションを送り続けるフィリー・ジョー♪ 本当に最高です。極限すればフィリー・ジョーだけ聴いていても満足させられる、素晴らしさです!

A-2 Just For Marty
 ビル・ハードマンのオリジナルで、これも一抹の泣きがある名曲です。そしてジャッキー・マクリーンが、そのツボを完全に押さえた最高のアドリブ・ソロを聞かせてくれるのですから、もう、たまりません♪ しかも何時も以上にチャーリー・パーカー(as) 直系のフレーズを多用しているところにも、ご注目!
 ビル・ハードマンも自作曲とあって、これもじっくり練り上げたと思われるフレーズを連発しています。
 そしてここでもリズム隊が好演で、クライマックスではフィリー・ジョーとホーン陣の掛け合いが楽しめます。

A-3 Dee's Dile
 如何にもマル・ウォルドロン作曲らしい暗い楽想のハードバップですが、これがジャッキー・マクリーン&ビル・ハードマン組にはピッタリ!
 前2曲とは少し異なる重いビートを作り出しているリズム隊にノセられて、ジャッキー・マクリーンが暗く呻けば、ビル・ハードマンは苦しい言い訳に終始するのですが、それが不思議な魅力に転化していく、味な演奏になっています。

B-1 Sublues
 ビル・ハードマンが書いた真っ黒なブルースです。これをポール・チェンバースを軸とした素晴らしいリズム隊が演奏をリードして、フロントの2人を盛り立ててつつ完成に導いていくという、美しき仲間意識が顕著な仕上がりです。
 そしてこういうミディアム・テンポのブルースは十八番のジャッキー・マクリーンが、期待に応えて泣くのです。う~ん、それにしてもリズム隊が凄すぎますねぇ。マル・ウォルドロンのピアノが訥弁なだけ、逆に凄みがっ!
 ちなみにフィリー・ジョーとマル・ウォルドロンは、これが最初で最後の共演でしょうか? 非常に相性が良いですねぇ♪ もっと聴きたい組み合わせです。

B-2 Steeplechase
 チャーリー・パーカー(as) が書いたモダンジャズの定番曲が楽しく演奏されています。もちろん、こういうアップテンポではフィリー・ジョーのドラムスが冴えまくり♪ 先発のジャッキー・マクリーンが気持ち良くノセられた快演を聞かせれば、ビル・ハードマンも地味ながら熱演です。
 そしてここでもリズム隊が最高です。ポール・チェンバースのブンブン・ベースが存分に楽しめますし、隙間だらけのマル・ウォルドロンのピアノが、そこにジャストミートする形で独自のウネリを作り出しています。
 またポール・チェンバースは得意のアルコ弾きでアドリブを聞かせますが、これがかなり思い切った音使い! その背後ではフィリー・ジョーが終始、的確なビートを送り続けています。
 こうなるとフロントの2人、ジャッキー・マクリーンとビル・ハードマンも負けてはいられないと、ラストテーマ直前に熱い掛け合いを聞かせてくれるのでした。

B-3 It Could Happen To You
 アルバムのオーラスはビル・ハードマンが一人舞台のスタンダード曲です。
 マル・ウォルドロンの気分はロンリーなイントロも素晴らしく、ビル・ハードマンはシミジミとテーマを変奏していくのですが、このあたりで充分満足させられる仕上がりになっています。
 この人は超一流のトランペッターではありませんでしたが、こういう「味」の世界を演じさせては、なかなか良い仕事をしてくれます。
 また、ここでもリズム隊の好演が言わずもがなで、ポール・チェンバース&フィリー・ジョーの相性は最高です。

ということで、これは名盤ガイド本には紹介されない、当にハードバップの隠れ名盤ではないでしょうか? とにかくリズム隊が絶好調で、特にフィリー・ジョー・ジョーンズのファンならば大満足のはず♪ 聞き逃せないアルバムだと思います。

それはポール・チェンバースの力演にも言えることですが、そういう素晴らしいリズム隊のサポートを得たジャッキー・マクリーンとビル・ハードマンの熱演は、さもありなんの素晴らしさ♪

実はこの2人も相性が本当に良く、共演した作品の異常な高揚感は神秘的とも言えます。

本当にタイトルに偽りなしの好盤だと思います。一応、ジャケ写からネタ元で試聴出来ますよ♪

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お詫び

2006-05-27 16:38:28 | Weblog

昨日、親戚に不幸があり、プログ掲載中止となりました。

一応、明日まで休載の予定です。

予定といえば、映画「紅薔薇夫人」鑑賞も中止せざるをえません……。

これも運命でしょう……。

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幻惑されて

2006-05-25 18:19:21 | Weblog

何事も過大な期待は禁物というのが、人生訓のひとつです。でも好きな道には期待するなというのが、ドダイ無理な話です。

特にジャズのアルバムなんて、なまじ演奏形態が固まっているだけに、聴く前から演奏者と演目だけで幻惑されてしまうなんて、日常茶飯事です。

そして、それが外れたり、当ったりというのがジャズレコード蒐集の醍醐味なんですが、そこで本日の1枚は、これを――

Songs On My Mind / 今田勝 (Trio / Art Union)

今田勝はメロディ至上主義のピアニストだと思います。とにかくアドリブが美メロの洪水♪ ただしリズム&ビートのアプローチが、私には相性がイマイチなので、1970年代末頃から大当たりをとったフュージョン路線の諸作は、どうも……。というのが、正直なところです。

で、このアルバムはそういうヒット狙いから一転して、再び正統派4ビートのピアノ・トリオ編成に戻って吹き込んだものです。もっとも当時のジャズ界は、新伝承派と称された若手の台頭とベテラン勢の盛り返しで、フュージョン・ブームが終焉を迎えていたという事情もあるかのかもしれませんが……。

録音は1982年11月1&4日、メンバーは今田勝(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、ビリー・ハート(ds) という豪華なトリオです。

実は白状すると、このアルバムは発売当時にジャズ喫茶で聴いたのですが、録音の按配が???で、それはベースの音圧が強すぎるというか、ほとんど風圧としか聴こえないものでした。

もちろんピアノとドラムスの音は良好なので、全体としては素晴らしい録音盤ということなんでしょうし、鳴らしていた某店のオーディオ・システムとの相性もあるかもしれません。

しかしその時の私には完全に???で、それ以来、記憶の彼方に押し込められた1枚でした。

それが数日前に立ち寄った中古店の、CD5枚で1000円というコーナーに埋もれていたところへ曹禺、失礼ながら員数合わせとしてゲットしてきたのが、これというわけです。

そして本日、聴いてみたら、おぉ、こんなんだったのかぁ~、なかなか、素敵♪ その内容は――

01 Black Orpheus / 黒いオルフェ
 ジャズ者にはお馴染みのボサノバ曲で、ビリー・ハートの歯切れの良いリムショットが快感ですし、今田勝のビアノから美メロが溢れ出ています。しかしジョージ・ムラーツのベースは何だ! 音程もフレーズもイマイチで、失礼ながら手抜き疑惑さえ浮上します。う~ん……。

02 Georgia On My Mind
 これもジャズ者なら避けて通れないニクイ選曲で、レイ・チャールズのバージョンがあまりにも有名な泣きの歌物を、今田勝は昭和歌謡モードを隠し味として、コブシの世界からジャズに斬り込んでいきます。
 実はここでもベースとドラムスのコンビネーションがイマイチなので、今田勝のピアノが素晴らしい方向へ行けば行くほどに、どこかバタバタした印象が残ってしまうのです。
 つまり、なんじゃ、これっ? という心は完全に松田優作状態……。

03 Everything Happens To Me
 しかしここで、これまでのモヤモヤが晴れます♪
 曲は私の大好きな哀愁系のスタンダードで、通常はスローで演奏されることが多いのですが、ここでは軽快な4ビートで勝負! テーマ部分でのビリー・ハートのブラシとジョージ・ムラーツのネタネタ絡むベースがジャズの醍醐味です。
 そしてアドリブ・パートではビートを強めてグイノリの展開となり、今田勝のピアノは絶好調の歌心が全開♪ 快感です! 聴いていて、思わず音量を上げてしまいますねぇ~♪ ビリー・ハートも素晴らしい!

04 On Green Dolphin Street
 これも今ではモダンジャズの定番となったスタンダード曲で、マイルス・デイビス(tp) やビル・エバンス(p) といった巨匠達による名演が山のように残されていますので、後追いの演奏者のプレッシャーは如何ばかりか? 等と余計なお世話を焼いてしまうことなど、ここでの今田勝には必要ありません。
 パワーと繊細な感覚のバランスが卓抜なビリー・ハートのドラムスを軸として展開されるトリオ3者の鬩ぎ合いは、最高です。ジョージ・ムラーツもどうにか調子を取り戻しておりますし、今田勝のビアノは歌心の塊です。

05 I Remember Clifford
 早世した天才トランペッターのクリフォード・ブラウンに捧げられたモダンジャズ曲なので、演奏者が哀愁の美メロに溢れたテーマを、如何に膨らませていくかが聴きどころだと思います。
 それは恐らく素直なメロディ感覚が要求される、つまり天性の美メロ主義が試される演奏になるはずで、ここでの今田勝は十八番の泣きとコブシ、メロディ・フェイクの上手さを存分に発揮しています。
 そしてそれが甘さに流れないのは、ビリー・ハートが叩き出すクールなビートによるものだと思います。

06 It Could Happen To You
 これも有名スタンダードですが、ビアノトリオでの演奏としては、ケニー・ドリューが名盤「ダーク・ビューティ(Steeple Chase)」で取上げてから定番となりました。
 ですから後追いの演奏者は、嫌でもケニー・ドリューと比較されますが、今田勝は悠々自適に軽妙洒脱なフレーズを弾きまくりです。むしろここでは、ベースとドラムスが自意識過剰という雰囲気で、それが逆に和むのでした♪

ということで、これは賛否両論の作品だと思います。個人的には、どうしてもジョージ・ムラーツの不調が気になるところ……。

しかし「Everything Happens To Me」は、なかなかの名演ですし、その勢いで続く後の3曲もノセられてしまうという快適盤になっています。何かの機会があれば、聴いてみて下さいませ。

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雰囲気だってジャズ

2006-05-24 18:10:04 | Weblog

仕事の現場には先頭に立ってバリバリやる者ばかりでは無く、その環境をやり易くする雰囲気作りに長けた者が必要かと思います。

本日はそんな人の1枚を――

Benny Golson And The Philadelphians (United Artists)

ジャケットは素っ気無いんですが、中身はバリバリのハードバップです。

録音は1958年11月17日、メンバーはリー・モーガン(tp)、ベニー・ゴルソン(ts)、レイ・ブラアント(p)、パーシー・ヒース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、タイトルどおりにフィラデルフィア出身者を集めてのセッションです――

A-1 You're Not The Kind
 レイ・ブライアントが粋な風情のイントロを弾き出してスタートする快適なハード・バップですが、仄かに漂う暖かい作風と演奏姿勢がたまりません。
 アドリブの先発も当然ベニー・ゴルソンで、ハスキーな音色でモリモリブリブリと吹きまくります。このあたりの音数の多さはジョン・コルトレーン(ts) と同じことをやっているのですが、聴くと決定的に違うのが、基本スタイルがビバップ以前のテナーサックスに根ざしていることで、ベン・ウェブスター(ts) とかドン・バイアス(ts) がハードバップを吹奏すると、こうなるの? なんて雰囲気です。故に私はベニー・ゴルソンのソフトバップ説に加担しているのですが、軟弱ということでは、もちろんありません。
 それは続くリー・モーガンの負けじと張り切るトランペットを聴けば明らかで、背後ではフィリー・ジョーのドラムスが叩き過ぎの美学でオカズを入れまくりです♪
 う~ん、それにしてもリー・モーガンは凄すぎますねぇ~♪
 演奏はこの後、レイ・ブライアントのピアノから、やたらにカッコ良いセカンド・リフが提示され、ラストテーマが導かれるのでした。最高です!

A-2 Blues On My Mind
 これもベニー・ゴルソンが作曲したファンキーなブルースで、まるっきりジャズ・メッセンジャースしているテーマからして、最高です。
 そしてアドリブ先発ではレイ・ブライアントが本領発揮のソフトな黒っぽさをたっぷり聞かせてくれますし、背後から迫ってくるハードボイルドなリフも雰囲気を盛り上げます。
 こうなるとベニー・ゴルソンは十八番の展開ですから、ふふふふふふぅ~というサブトーンにヒステリックな高音の泣きを混ぜ合わせて、当に自作自演のブルース魂を吐露していきます。
 するとリー・モーガンはフィリー・ジョーとグルになって、擬似倍テンポの輝かしいアドリブを披露♪ あぁ、こんなにジャズどっぷりのアドリブを聞かされると、全くこの人は天才以外の何者でも無いと思いますねぇ。
 またパーシー・ヒースも巧みなベースソロを展開しますが、その背後に潜むフィリー・ジョーの抑えたドラムスが、意想外の素敵さです。

A-3 Stablemates
 ベニー・ゴルソン作曲によるハードバップで、当時からモダンジャズでは定番としてマイルス・デイビス(tp) やミルト・ジャクソン(vib) 等々、素晴らしい演奏が残されていますが、これは作者の自作自演とあって、ケチのつけようが無い名演だと思います。
 その要はリズム隊の的確なサポートでしょう。イントロからフィリー・ジョーが妙技を披露してテーマをお膳立てすれば、パーシー・ヒースは安定感抜群の土台作りです。
 それがあるからこそ、リー・モーガンがミュートで煌くソロを披露し、レイ・ブライアントが洒落たタッチで歌心を発揮、さらにベニー・ゴルソンがブリブリと押出していけるのです。
 全く、素晴らしい演奏♪ 本物の名曲・名演です!

B-1 Thursday's Theme
 B面は暗い哀愁が満点というベニー・ゴルソンのオリジナルでスタートします。そしてこのサスペンスがいっぱいの曲調で、もう名演は約束されたようなものです。
 なにしろリー・モーガンのミュート・トランペットとベニー・ゴルソンのハスキーなテナーサックスの相性が抜群ですし、控えめながらもビートの芯がクッキリしたリズム隊が最高です。
 アドリブ・パートでも、ベニー・ゴルソンが珍しくも歌心を前面に出して、全く飽きないソロを展開すれば、続くリー・モーガンもジンワリと心情吐露♪ 文句のつけようがありません。
 レイ・ブライアントのピアノも忍び泣きの風情がありますし、背後で鳴り続けるフィリー・ジョーのブラシが、本当に不思議な魅力で余韻を残すのです。これこそジャズ者必聴の名演かもしれません。

B-2 Afternoon In Paris
 一転、明るい曲調の演奏で、所謂ゴルソン・ハーモニーと愛されたテーマ処理が、まず素敵です。
 ベニー・ゴルソンのアドリブは何時どおりのゴリ押しスタイルなので、やや嫌味があるというのが正直な感想ですが、リー・モーガンの明朗闊達なトランペットと躍動的なフィリー・ジョーのドラムスで救われるという、ちょっとミもフタも無い仕上がりです。しかし憎めないんですよねぇ~、これがっ!

B-3 Calgary
 オーラスはピアニストのレイ・ブライアントのオリジナルで、なかなかの名曲が溌剌と演奏されます。
 先発のアドリブ・ソロはもちろん作者自身ですが、すぐにリー・モーガンが待ちきれない雰囲気で突っ込んでくるあたりが痛快です。
 そしてこの演奏で一番目立つのがフィリー・ジョーの頑張りでしょう。全篇にこれぞっ! という名人芸を聞かせてくれます。

ということで、これは偏見無く、ハードバップの名盤と断言致します。とにかくメンツも曲も魅力たっぷりで、聴く前からこちらが想像していたとおり以上の演奏と音が出てきますよ♪

オリジナル盤は希少でしたが、幸いなことにジャケット違いのCDとして復刻されています。おまけにベニー・ゴルソンがパリのミュージシャンと共演したボーナス・トラック付きで、これが「ブルース・マーチ」とか「モーニン」といった人気曲なんですから、ルンルンです♪

主役のベニー・ゴルソンはテナーサックス奏者としては、それなりの評価しか得られないのが本当のところで、好き嫌いが別れる人なんですが、作・編曲者としては超一流! 個人的には雰囲気作りの名人だと思います。このアルバムでも「Thursday's Theme」は特に秀逸で、あぁ、モダンジャズを聴いているなぁ……、という雰囲気にどっぷりと浸かれること、請け合いです。

ハードバップ好きには欠かせないアルバムだと思いますので、ジャケ写からネタ元をチェックしてみて下さい。

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やさぐれて幸せ♪

2006-05-23 17:46:46 | Weblog

昨夜からいろいろあって、仕事はトラブルの大嵐でしたが、頼んでいたブツがドサッと入荷♪ 故に何とか精神の均衡を保ちつつ、幸せの一番星でした。

まず、これ、聴きましたからねぇ――

やさぐれ歌謡最前線 / みなしごのブルース (ユニバーサル)

ハードボイルドに浸りたい……。そんな気分って、誰にでもあるでしょう。

でも生き方までは、そう行かないから、慰めが必要なんでよね……。すると世間は暖かい……。ちゃんと、そんな気分にぴったりの歌が、あるんですぇ。

このCDは本日、復刻発売されたばかりのオムニバス盤で、中身は昭和歌謡曲の「やさぐれ」がたっぷり詰まっています。

もちろん、全てが名曲・名唱というわけではありません。こういう企画では避けられない弱点ではありますが、どのトラックが好きかは、十人十色です――

01 みなしごのブルース / アワネ麻里
02 ナイト・トレイン / アワネ麻里
03 とても不幸な朝が来た / 黛ジュン
04 星の流れに / 秋吉久美子
05 エリカの花散るとき / 秋吉久美子
06 涙のかわくまで / 西田佐知子
07 やさぐれブルース / 賀川雪絵
08 野良犬 / 賀川雪絵
09 海は女の涙 / 石川セリ
10 街 / 桃井かおり
11 尻軽女ブルース / 桃井かおり
12 怨み節 / 梶芽衣子
13 欲しいものは / 梶芽衣子
14 酔いどれ女の流れ唄 / 加藤登紀子
15 いつか男は去って行く / 川辺妙子
16 野良猫 / ガールズ
17 パンキー・ハイスクール・ラブ / ガールズ
18 LOVE JACK / ガールズ
19 東京迷路 / 藤圭子

何と言っても、ド頭に収録された「みなしごのブルース」ですよ♪ 昭和歌謡曲マニアには必須のアイテムとして、オリジナル・シングル盤は高値が付いていますので、こうした最新リマスターでのCD復刻は喜ばしいところです。つまり、ひとりでも多くの皆様に聴いていただきたい名曲なのです。

これは作詞:ちあき哲也、作曲:筒美京平という黄金コンビが昭和46年に発表した歌謡フォークと言っていいんでしょうか、泣きのメロディを哀愁のトランペット、生ギター、エレキピアノ、ヴァイブラフォンで味付けし、哀しみと諦観に満ちた詩の世界を浮彫りにした、ハードボイルドな仕上がりです。

歌っているアワネ麻里については、恐らく後年の粟根まりえと同一人物かもしれませんが、その正体・履歴については良く知りません。しかし歌いっぷりは完全にハマっています。必聴!

で、2曲目の「ナイト・トレイン」はそのB面に収められていたリズム歌謡で、R&B演歌系なんですが、サビで妙に明るい展開に持っていくあたりが、筒美京平のワザが空回りした迷・名曲だと思います。そしてアワネ麻里の歌唱は、ここでもコブシを巧みに使って、最高です。

さらに3曲目は、ご存知、黛ジュンの大ヒット曲「とても不幸な朝が来た」ですから、私のような者は、この3連発で悶絶です。それにしても黛ジュンのボーカルの力は大変なものですねぇ、あらためてその粘っこい魅力を痛感しています。

4&5曲目の秋吉久美子の歌は、もちろん有名昭和歌謡曲のリメイクですが、バックの演奏は、日本のプログレバンド「四人囃子」+凄腕の「安全バンド」なので、要注意です。私なんか、カラオケが欲しいと思うほど、強烈なグルーヴが楽しめます。

6曲目はあまりにも有名な西田佐知子の名曲ですが、個人的には奥村チヨのカバーの方が好きですね……。

7&8曲目を歌う賀川雪絵はスケバン女優としての面目躍如! このクサミは、彼女であるから許されるという……。とにかく聴いて下さいませ。

他には桃井かおりの「尻軽女ブルース」がジャズ歌謡と諦め歌唱がマッチした名曲だと思います。

また梶芽衣子の「怨み節」は昭和54年に発売されたリメイク・バージョンで、アレンジが軽めになった分、彼女の歌の凄みが自然体で楽しめる、まあ、賛否両論の出来だと思います。

16~18曲目に3曲も収録されたガールズは、当時人気があった外タレ・バンド=ラナウェイズに肖ったセクシー・バンドです。もちろんキワドイ衣装とツッパリな歌&演奏がウリでした。テレビにもガンガン出まくりでしたし、「野良猫」はヒットしましたねぇ~♪

今思うと、レコードと生ライブの差が当たり前にあったバンドなんですが、ブスの瞳に恋している現在の社会状況では、憎めませんね。本格的にCD復刻すれば、かなり売れると思うんですが……。もちろん映像もねっ♪

しかしこのアルバムの大団円は、やはりこの人という藤圭子! しかもウルトラ名曲の「東京迷路」なんですから、もう、たまりません。この人のボーカルの凄み、存在感、歌いまわしとリズムへのアプローチなんて、天才です。20年前の曲なんですが、全く古びていません♪ 現在では愛娘の宇多田ヒカルの方が注目されていますが、まだまだですと断言します。あぁ、彼女のコンプリート・ボックスとか、紙ジャケット完全復刻なんてあったら、私は全てを投げ打つ覚悟が出来ています。

ということで、これもとにかく聴いて下さい! リマスターも良好です。としか結論付けられない暴虐のコンビレーション盤なのでした。あぁ、今日も幸せだぁ~♪

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神様を観た!

2006-05-22 17:56:39 | Weblog

最近、昼メシの弁当屋が、またまたサービスの大盤振る舞いで、トン汁はつく、サラダ・バイキングはやる、大盛も普通盛も値段はいっしょという、おいおい、儲かるのかね? と余計なお世話をやいてしまいますが、本日はそれを食いながら、幸せな映像・演奏に接しました――

Bud Powell In Europe (EFOR Films = DVD)

ガッツ~ンときました、このDVD!

私が敬愛する天才黒人ピアニストのバド・パウエルの貴重なライブ映像集です。大半は以前にLD化されたり、ブート・ビデオで出回っていたのですが、DVD化は今回が初めてでしょうし、公式発売は始めての映像も含まれています。

まず最初のセッションは1959年10月30日、パリのクラブ・サンジェルマンからのテレビショウ映像です。メンバーはクラーク・テリー(tp)、バルネ・ウィラン(ts)、バド・パウエル(p)、ピエール・ミシェロ(b)、ケニー・クラーク(ds) という米仏混成のモダンジャズ・バンドです――

01 Crossing The Channel
 最初はトリオでの演奏で、これはバド・パウエルの超人気盤「アメイジング第5集」のB面ド頭を飾っていたマイナー調の名曲です。ここでのパウエルは全く鍵盤を見ないで余裕の演奏、ケニー・クラークもブラシで快演です。

02 No Problem / 危険な関係
 ここでホーン隊が加わっての演奏は、デューク・ジョーダン(p) が映画「危険な関係」のテーマとして作った哀愁のハードバップ♪ こんな人気曲をパウエルがっ! と嬉しくなりますが、ここではバルネ・ウィランのテナーサックスばかりが活躍して、正直、物足りません。
 このあたりはテレビ放送用のライブということで、地元フランスの若手人気者にスポットを当てた企画なのでしょう。それでも全く物怖じせずに吹きまくるバルネ・ウィランは凄いと思います。

03 Pie Eye
 バド・パウエルがビバップの真髄を披露するイントロを弾き出せば、クラーク・テリーがそれを引き継いでアドリブに突進する、即興的な曲です。ここではケニー・クラークのブレイク的なドラムソロは挟んでバド・パウエルも短いながら出番がありますが、空ろな目つきが何とも言えません。

04 52nd Street Theme
 ビバップそのものというエキセントリックなテーマが提示された後、バルネ・ウィランが見事なキーワークで正統派の実力を発揮、その後はケニー・クラークとの丁々発止があり、ここではバド・パウエルも斬り込んでくるので、スリル満点です。
 しかし演奏時間が短いのが残念です。

05 Blues In The Closet
 再びリズム隊だけのトリオ演奏で、バド・パウエルは随所にセロニアス・モンク風のコードと装飾を入れながら、快調な演奏を聞かせます。もちろん鍵盤は全く見ていませんし、例の唸り声も微かに聞こえますが、画面ではバド・パウエルの口が動きっぱなしなので、あぁ、こうやって演奏していたのか! と謎解きの映像に興奮させられます。
 そしてベースのピエール・ミシェロも抜群のソロを披露しています。

06 Miguel's Party
 これも映画「危険な関係」からのハードバップ曲です。
 バド・パウエルの作り出すイントロは何時もながらに気持ちの良く、ホーン隊によるテーマ吹奏の後、まずクラーク・テリー、続いてバルネ・ウィランが王道の演奏を聞かせます。特にバルネ・ウィランは大張り切りですね♪
 肝心のバド・パウエルは、もう余裕としか言えない素晴らしさです。この時期の演奏はダメだとか評価されますが、そんなことは、この映像・演奏に接するとウソだということが、よく分かります。

以上は以前LD化されていた演奏ですが、やはり何度観ても良いですね♪

で、次のセッションは1959年12月のテレビショウで、場所はパリのブルーノート・クラブでのライブ、メンバーはラッキー・トンプソン(ts)、ジミー・ガーリー(g)、バド・パウエル(p)、ピエール・ミシェロ(b)、ケニー・クラーク(ds) です――

07 Get Happy
 リズム隊だけのトリオ演奏で、ビアノの前板が外してあるので、バド・パウエルの指使いがはっきり見えます。映像も二重・三重にメンバーの動きを重ねたりして変化があり、飽きません。
 肝心の演奏も快調そのもの♪ アップテンポでも全く鍵盤を見ないバド・パウエルは、ここでも同じで、圧倒されます。

08 John's Abbey
 これもバド・パウエルの代表的なオリジナル・ビバップ曲で、前曲以上に早いテンポで絶好調の演奏が披露されます。凄い!

09 Anthropology
 ここでテナー奏者のラッキー・トンプソンとギタリストのジミー・ガーリーが加わったジャムセッション! 演奏されるのはチャーリー・パーカー作の代表的なビバップ曲です。
 まずバド・パウエルが物凄い勢いでアドリブパートに突入するので、続くラッキー・トランプソンも必死です。この人はマイルス・デイビスの名作アルバム「ウォーキン(Prestige)」に参加してジャズ史に名前を残した名手ですが、ここでは、やや余裕が感じられず、残念です。というか、音色がフワフワしていて……。
 そしてギタリストのジミー・ガーリーはアメリカ人ながら欧州で活動していた隠れ名手♪ ここでも全く淀みの無いフレーズを弾きまくり! フッションも演奏スタイルもカッコ良い人ですねぇ~♪
 演奏はこの後、ラッキー・トンプソンとケニー・クラークのバトルになって盛り上がりますが、残念ながら、途中でフェイドアウトしています。

と、このセッションも以前にLD化されたものでした。

しかし次は公式発売されるのが恐らく初めての映像でしょう。録音は1962年初頭、メンバーはバド・パウエル(p)、ニールス・ペデルセン(b)、Jorn Elniff (ds) で、これもコペンハーゲンのカフェ・モンマルトルからのテレビショウ映像ですが、これが物凄い! 観た瞬間、発狂しそうでした――

10 Anthropology
 アップテンポの演奏ですが、トリオの一体感は最高です。もちろんバド・パウエルがリードしているのですが、この時、若干15歳だったニールス・ペデルセンが、とてつもない神童だったことが確認出来ます。またドラムスの Jorn Elniff が白人ながら上手い人で、重くて歯切れの良いビートで演奏を盛り上げていくのです。
 そしてこの時のバド・パウエルは上機嫌というか、例の水野晴男に似た笑顔と全く鍵盤を見ずに弾きまくるその姿には感涙です。
 カメラワークと映像編集も抜群で、俯瞰から捕らえたバド・パウエル、指使いのツボを押さえた映し方、当日の客席の様子やメンバーの緊張感も完璧に撮影してあります。もちろんお客さんの美女のアップも、ありますよ♪

11 Around Midnight
 モダンジャズ永遠の名曲「ラウンド・ミットナイト」が、パウエルのクールにして壮絶な美学で彩られていきます。前述したようにカメラワークが最高なので、画面から目が離せず、さらに耳は演奏に釘付け状態! これを観ずしては死ねないのがジャズ者の宿命とでも言うべき、素晴らしすぎる演奏です。
 あぁ、生きていて良かった♪ と今日は心底思いましたねっ! ぜひともご覧いただきい、畢生の映像・演奏です。
 ちなみにこの頃のニールス・ペデルセンは先輩から、バド・パウエルは病気だから、もうレコードで聴けるような演奏は出来ないので安心しろ とアドバイスされたものの、実際に共演してみると、そのあまりに凄さにビビッたそうです。

ということで、これは絶対のオススメ映像集です。特に最後の2曲は悶絶必至! もしかしたら心臓麻痺を引起こすかもしれない、強烈さがあります。

繰り返しますがバド・パウエルの晩年はダメだなんて、流言蜚語にすぎません。こんな演奏に接することが出来た当時のファンは、本当の幸せ者です。

そして現代でこれが楽しめる我々もまた、幸せ者です。幸せになりましょう!

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ハードバップ再び!

2006-05-21 18:47:07 | Weblog

本日は気持ち良く晴れましたですね♪ 実家から赴任地まで車で移動しても、まるっきり遊びに行くようなドライヴ感覚でした。

当然、車内の音楽はノリ重視の選曲♪ 定番のストーンズに始まって、ジミー・スミス、鈴木茂、ミーターズ、サンタナと繋いで、次に流したのが昨日ゲットしたばかりの、これです――

Sonny Stitt with Art Balkey & The Jazz Messengers (Sonet / Universal)

嬉しい復刻です!

オリジナル盤は1975年に発売され、当時は日本盤も出たという、ハードバップの隠れ名盤でした。もちろん局地的にジャズ喫茶の人気盤ともなりましたが、なにしろ当時はフュージョンが日の出の勢いでしたから、こういう作品は所謂「昔の名前で出ています」的な扱いでした。

またジャズ・メッセンジャーズそのものがナツメロバンドとしての扱いというか、実力派を揃えている割りには人気が落目の三度傘……。このアルバムにしても、ソニー・ステットという唯一無二の名人の名を借りたお手軽企画という先入観念が濃厚でした。

ところが内容は素晴らしい!

実は私はオリジナル盤を持っていたのですが、どういうわけか、ある時から、紛失状態で悔しい思いをしていました。ところが昨日、ネタ探しをしていた店頭で輸入盤CDを発見、ボーナストラックまで入っていたので、迷わず購入してきました。

そして結論からいうと、やっぱり素晴らしい! しかもリマスターも良好ということで、本日はそのCDをご紹介です。

録音は1975年5月16日、メンバーはビル・ハードマン(tp)、デイヴ・シュニッター(ts)、ウォルター・デイビス(p)、鈴木良雄(ds)、アート・ブレイキー(ds) というジャズ・メッセンジャーズに、特別参加としてソニー・ステット(ts) が加わっています――

01 Blues March
 初っ端からベタな選曲に、ちょっと……。と言うなかれ!
 もちろん気持ちは分かりますよ、私もそうでしたから……。
 しかし虚心坦懐に聴いてみると、アート・ブレイキーのドラムスにもキレがありますし、バンド全体の突進力も強烈です。
 そしてアドリブ先発のソニー・ステットが悠々自適のフレーズを積み重ねて流石ではありますが、正直言うと、それだけです。
 実はそれよりも素晴らしいのが、ジャズ・メッセンジャーズ本隊の熱演です。まずビル・ハードマンがベテランの味を示せば、続くデイヴ・シュニッターがダークな音色とハードなフレーズで迫ります。しかし愕いたことに、その山場でソニー・ステットが意味不明なチョッカイを出してソロ・パートを横取りするという、当にジャズの修羅場を現出させるのです。
 う~ん、ジャズは恐いです! このままデイヴ・シュニッターにアドリブを続けさせていたら自分が危ないとでも、ソニー・ステットは思ったんでしょうか? 確かにそういう部分があるのかもしれません……。

02 It Might As Well Be Spring / 春の如く
 ソニー・ステット一人舞台というスタンダードの解釈は、余裕でテーマを崩していきますが、あざとい部分が耳に残ります。それでもアドリブパートでは十八番のメジャー・スケールを多用して、安心感満点の吹奏を心がけているようです。
 このあたりは上手いけれども無難すぎて……、という天邪鬼な気持ちに襲われますが、いやいや、これがソニー・ステットだけの名人芸でしょう。

03 Birdlike
 ジャズ・メッセンジャーズOBのフレディ・ハバード(tp) が作った迫力のハードバップ曲を、いきなりアート・ブレイキーのドラムソロをイントロにして爆走させていくバンドの勢いが見事です。
 アドリブ先発はソニー・ステットで、相変わらず見事なキーワークが堪能出来ます。後半ではホーン陣による絡み&リフが襲い掛かってきますが、物ともせずに突進するという悠然たる自信は見事!
 続くビル・ハードマンもベテランの意地を聞かせてくれますし、デイヴ・シュニッターがハーブバップの真髄に挑戦! 正直言って、当時から過小評価組の代表のような存在でしたが、今聴くと、私にはエリック・アレキサンダー(ts) よりも魅力があります。
 演奏はこの後、ウォルター・デイビスのピアノから再びソニー・ステットにアドリブが受け継がれ、そのまんまラスト・テーマに傾れ込むという王道の展開ですが、全体にアート・ブレイキーのドラムスがパワーと繊細さを併せ持つ凄みを存分に発揮しています。
 ちなみにアナログ盤では、ここまでがA面でした。

04 I Can't Get Started / 言い出しかねて
 これもソニー・ステットの一人舞台で、お馴染みのスタンダード曲が素材になっていますが、リズム隊が物凄い煽りを演じています。
 演奏のテンポはミディアムでのテーマ吹奏があり、アドリブパートに入ってからテンポアップされていく常套手段が用いられているのですが、まず鈴木良雄のベースが執拗に絡みだし、アート・ブレイキーのドラムスがビシバシとキメを入れていくので、ウォルター・デイビスも黙ってはいられない雰囲気から、恐いコードで伴奏をつけていくのです。
 当然、ソニー・ステットは、それじゃ俺もやらしてもらうよっ! という覚悟で歌心を全開させてくれるのですから、名演にならないほうが不思議です。
 率直に言えば当たり前の演奏かもしれませんが、この作品が発売された当時はフュージョン・プームの真っ只中ということで、誰しもが忘れかけていた正統派4ビートのグルーヴが、ここには確かに生まれているのでした。

05 Ronnie's Dynamite Lady
 ソニー・ステットが抜けた純粋なジャズ・メッセンジャーズの演奏です。曲はウォルター・デイビスが作った、カッコ良いモード調のハードバップ! テーマ部分からアート・ブレイキーが大張り切りです。
 アドリブ先発のデイヴ・シュニッターはデクスター・ゴードンの後継者的な音色とフレーズに新しい感覚も盛り込んだ熱演で、リズム隊の強烈な煽りに負けていません。
 続くビル・ハードマンは最初っから諦めているような雰囲気もありますが、破綻の無い吹奏に撤し、ウォルター・デイビスにバントタッチ! するとこのピアニストが、作者である強みを活かして大暴れです♪
 もちろんその後には、アート・ブレイキーが怒涛のドラムソロを聞かせ、親分の貫禄を示すのでした。

06 In Walked Sonny
 アルバムの締めくくりはスロ~ブル~スで、鈴木良雄のベースが蠢いてテンポを設定、そこへウォルター・デイビスのゴスペル風なピアノが被り、アート・ブレイキーがナイヤガラ瀑布で斬り込んでくれば、もう最初から聴き手はジャズにどっぷりという展開が楽しめます。
 そしてソニー・ステットがお約束の泣きでブルース魂を発揮! 本当にこの人はメジャー・スケールがほとんどの演奏ですが、それでも泣いてしまうというツボを外さない、本当の名人だと思います。
 ビル・ハードマンもここではハスキーな音色を活かして好演ですし、デイヴ・シュニッターはダークな音色でブルース衝動を爆発させ、けっして大先輩のソニー・ステットに気後れしていません! あぁ、これぞハードバップです!

ということで、アナログ盤はここでお終いでしたが、今回の復刻CDには「Birdlike」と「Ronnie's Dynamite Lady」の別テイクが入っています。そしてこれがマスターテイクと比しても遜色の無い出来栄えで、それは当時のメッセンジャーズが如何に安定した実力者揃いだったかという証だと思います。

特に「Birdlike」におけるビル・ハードマンの溌剌度は本テイクを凌ぐ勢いがありますし、「Ronnie's Dynamite Lady」の荒っぽさも、逆に暴力的な魅力があります。

それとアルバム全体における鈴木良雄の地味な凄さは特筆ものです♪ 完全にリズム隊の要としてアート・ブレイキーやウォルター・デイビスをリードしている瞬間さえも感じられるのです。バンド全体に勢いがあるのも、この日本人ベーシストの存在ゆえだと思います。

繰り返しますが、今回の復刻はリマスターも秀逸なので、ついついボリュームを上げてしまうアルバムです。う~ん、こうなるとオリジナルジャケットじゃないのが、残念ではありますが!

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マッコイ節!

2006-05-20 18:16:12 | Weblog

久々に実家で完全休養と決めこみましたが、来客、野暮用頻発でした。一番堪えたのが、冷蔵庫の故障! 老朽化しているからなぁ……、ということで、量販店へ行ってみると、買い替えの処分代が高いなぁ……。

と本日も嘆き節ご容赦です。そこで景気づけと言うか、ストレス発散の1枚を――

The Real McCoy / McCoy Tyner (Blue Note)

マッコイ・タイナーと言えば、ジョン・コルトレーン! これはどうしても逃れることの出来ない、マッコイ・タイナーの宿命でしょう。そしてそれは、けっして哀しいことではありません。ジャズ者は何時だって、マッコイ・タイナーにそれを望んでいるのです。

等と、またまた独断と偏見から書き出してしまいましたが、実際、私がマッコイ・タイナーに求めるイメージは「コルトレーンという伝統芸能」の正当な継承者という位置付けです。

皆様が良くご存知のとおり、マッコイ・タイナーは1960年の秋頃にジョン・コルトレーンのバンド・レギュラーになってから注目されたわけですが、その暗くて饒舌なピアノ・スタイルは、当にジョン・コルトレーンがサックスで表現しているフレーズや音色、感情や精神性までも直に後追いしているものです。

しかしジョン・コルトレーンのバンドに在籍していた当時に作られた自己のリーダー盤では、饒舌なピアノ・スタイルはそのままに、もっと気軽な演奏、つまり常套的なハードバップとか明るさも漂うピアノ・トリオ物が主体でした。

もちろんその中にも名盤・名演とされるものが多々あります。しかし1965年末にジョン・コルトレーンのバンドを辞めた瞬間、マッコイ・タイナーにはバッタリと仕事が来なくなり、レコーディングの契約も打ち切られたそうです。

つまりジョン・コルトレーンあってのマッコイ・タイナーだったわけです。この現実の厳しさに、当時のマッコイ・タイナーの気持ちは、いかばかりか……。ついにはタクシー運転手や肉体労働をやりつつ生計を立てていたと言われています。

しかし、そんなマッコイ・タイナーに契約を申し出たのがブルー・ノート・レーベルで、このアルバムはその第1弾として製作されたものです。録音は1967年4月21日、メンバーはジョー・ヘンダーソン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ロン・カーター(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という4人組! おぉ、これは誰が想像したって、全くジョン・コルトレーンの真似っこバンドに違い無い!

結論から言うと、そのとおりです。しかもその期待どおりの音が出てくるのですから、たまりません――

A-1 Passion Dance
 エルビン・ジョーンズの活き活きとしたドラムスによるイントロから、タイトルどおりに情熱的なテーマが流れてきた瞬間、聴き手はジョン・コルトレーンが作り出した熱気と混濁の世界に放り込まれます。
 しかしそれが快感なんですねぇ~♪ もちろん演奏メンバー全員の意思統一もそこに集約されており、アドリブ先発のマッコイ・タイナーはジョン・コルトレーンのバンドでさんざん聴かせてきた十八番のノリと指使い! ピアノにおけるシーツ・オブ・サウンドを大爆発させています。
 そして、やっぱりこの人というエルビン・ジョーンズが、両手両足フル稼働のポリリズム・ドラミング! 快感のシンバルと馬力のオカズがたまりません!
 さらにコルトレーン派の第一人者であるジョー・ヘンダーソンが、暗く屈折したテナーサックスをフル・ボリュームで鳴らしまくり! 続けてエルビン・ジョーンズの大車輪ドラムソロが出るという、完全王道の演奏パターンは、例え真似っこであっても、ジャズ者には大歓迎の一時でしょう♪ あぁ、最高です。クライマックスでは4者入り乱れのチャンバラ状態までも、楽しめます。

A-2 Contemplation
 あぁ、この怠惰な雰囲気のワルツ曲こそ、「コルトレーンという伝統芸能」の美味しい部分です。重いビートを叩き出すエルビン・ジョーンズのドラムス、蠢くロン・カーターのベースを土台にして、ジョー・ヘンダーソンが呻き、マッコイ・タイナーが暗い情念を吐露してくれれば、それだけで満足するのが日本のジャズ喫茶のお客さんです。呪術的快感に身も心も委ねる、それが許される瞬間が至福でもあるのです。

B-1 Four By Five
 躍動的なモード曲で、テーマ部分でのリズム割りは複雑ですが、アドリブパートでは爽快な高速4ビートになるという、全く上手い構成です。
 ジョー・ヘンダーソンのテナー・サックスはスピード感満点ですし、マッコイ・タイナーはアドリブソロはもちろんのこと、伴奏でのコード弾きでも独自の色合いを存分に発揮してくれます。
 そしてクライマックスでは、エルビン・ジョーンズとの遣り取りまでも用意されていますが、あまりにもお約束が多すぎるような……。

B-2 Search For Peace
 ミディアム・スローで演じられる哀愁曲です。そしてこういう雰囲気だと、ジョー・ヘンダーソンが十八番の隠し味という、昭和歌謡曲モードを漂わせてくれるので嬉しくなります。
 またマッコイ・タイナーもこれ以前のリーダー盤で聞かせていた繊細な歌心、ビル・エバンス風のハーモニーの展開を披露しています。こういう部分はジョン・コルトレーンのバンドでは、やりたくても出来なかったところですから、マッコイ・タイナー自身もじっくりと自己表現に撤しているようです。

B-3 Blues On The Corner
 この何だか陽気でドタバタしたテーマ演奏が違和感満点のブルースです。しかしアドリブパートに入っては、何時ものマッコイ・タイナー節が大盤振る舞いされますし、バックで煽るエルビン・ジョーンズも楽しそうで、これは完全に1960年代初頭のジョン・コルトレーン・バンドというノリです。
 そのあたりのツボは、次に登場するジョー・ヘンダーソンも充分に把握してというか、もちろん自分だけのフレーズとノリは大切にしていますが、コルトレーン派に属するかぎりは必須の演奏に撤していて、好感が持てます。

ということで、これは全曲がマッコイ・タイナーのオリジナルから成る「コルトレーンという伝統芸能」の最良盤です。おそらくマッコイ・タイナーとブルーノートの製作陣は、そのあたりについてシビアな話し合いがあったはずですから、単なる真似っこという安易な道を選んだわけでは無いと思うのですが、図らずもこのセッション直後の7月にジョン・コルトレーンが急逝! このアルバムの発売時期もその頃と推定されるだけに、この作品の存在感は一際だと思います。

マッコイ・タイナーはこれ以降、吹っ切れたように「コルトレーンという伝統芸能」を継承し、1970年代前半に大輪の花を咲かせるのです。そしてほとんど誰も、それを非難しなかったという事実が残されました。

それはジョン・コルトレーンの音楽が、それだけ絶大な力があった証ではありますが、やはりマッコイ・タイナーというピアニストが正当な継承者と認められたからだと思います。しかもその伝統芸能を担う演奏者の中には、このアルバムをお手本とする者まで現れているのです。

そしてマッコイ・タイナーの諸作や新譜は、必要以上に肩に力を入れて聴いたものです。それは日本のジャズ喫茶の美しき姿でもありました。そんな至福をもたらしてくれたマッコイ・タイナーに、あらためて感謝です。

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追悼ジョン・ヒックス

2006-05-19 17:35:41 | Weblog

この歳になると身近な訃報に接することが多くなるわけですが、やはり堪えます……。

本日は追悼の1枚を――

Hi Voltage / Hank Mobley (Blue Note)

あまりパッとした人気はありませんでしたが、ジャズ者には意外に気になる存在だった黒人ピアニストのジョン・ヒックスが亡くなられました。

この人は所謂器用貧乏というか、マッコイ・タイナー風の演奏が得意でしたので、コルトレーンの真似っこバンドには欠かせない人材でしたし、近年はハービー・ハンコックの繊細な部分だけを取り出したようなスタイルでピアノトリオ作品を吹き込み、一部では熱烈歓迎されています。

録音もかなり残しているはずですが、そういう人なので歴史的名盤なんてものには無縁でしたが、良い仕事はちゃ~んとしています。

例えばこのアルバムはキャリア初期のセッションだと思われますが、いささか締りの無い全体の雰囲気の中で、凛とした存在感と若気の至りが憎めない演奏を聴かせてくれました。

録音は1967年10月9日、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ハンク・モブレー(ts)、ジョン・ヒックス(p)、ボブ・クランショウ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という面々は、実は当時のハンク・モブレーのレギュラー・バンドだったというのですが――

A-1 High Voltage
 ブルース進行に基づいた典型的なジャズロックで、ブルー・ミッチェル~ハンク・モブレー~ジャッキ・マクリーン~ジョン・ヒックスと続けて登場する豪華メンバーによるアドリブは、全く手馴れたものです。
 リズム隊も絶好調ですし、テーマ曲のカッコ良さなんて当時の日活アクション物に流用されている雰囲気です。
 でも、それだけ、なんです……。全く意想外のスリルなんて、望むべくも無いという……。あぁ、これで良いのか? 良いんですねぇ! だってこれが、ハンク・モブレーの世界なんです。プログラム・ピクチャーの世界感があるジャズ、それも王道だと思います。

A-2 Two And One
 一転して、烈しい覇気に満ちたハードバップが展開されます。まず、何よりもビリー・ヒギンズのドラムス、特にシンバルが鮮やかです。
 そしてアドリブの先発は、もちろんハンク・モブレー! これが絶好調のモブレー節をに加えて、モード解釈の新フレーズまでも聴かせてくれます。さらにブルー・ミッチェルもスピード感と歌心を大切にした展開ですし、ジャッキー・マクリーンはギスギスした音色とノリで泣いているのです。
 またフロント陣のバックで目立ちまくりの伴奏コードを弾いているジョン・ヒックスが、ソロパートでも大奮闘! そのバックから襲いかかってくるリフを物ともせず、クライマックスに突進していくのでした。うへぇ~、カッコイイ!

A-3 No More Goodbys
 ハンク・モブレーを中心としたワンホーンで演奏されるスロー・バラード♪
 ただし、ムードだけでやってしまった雰囲気が濃厚なので、出来はイマイチです。
 しかしサポートのジョン・ヒックスが素晴らしい! 甘く、幻想的なピアノは本当に素敵です。この人の特徴はマッコイ・タイナーとハービー・ハンコックの折衷スタイルであることは否めませんが、この演奏は名演だと思います。
 それに刺激されたかのように、ハンク・モブレーが後半のソロで盛り返しているあたりが、その証かもしれません。

B-1 Advance Notice
 如何にもブルーノートらしいハードバップですが、テーマ部分からお手軽ムードが蔓延しているのがミエミエです。しかし、それをぶっ飛ばすのが、先発で見事なアドリブ・ソロを聞かせるジョン・ヒックスです。
 ただしそれに導かれるように登場するハンク・モブレーが、失礼ながら、気抜けのビール……。モブレー節は淀みなく流れて来るのですが……。
 そのあたりの弛緩したムードはブルー・ミッチェルやジャッキー・マクリーンにも感染しており、全く終わりなき日常的な演奏……。まぁ、それ故にジョン・ヒックスの頑張りが眩しいのだと、買被ることになるのですが……。

B-2 Bossa Deluxe
 アラビア風のメロディをボサビートで解釈してみました、という曲です。もちろん狙いは新主流派的モード演奏なんでしょうが、アドリブ先発のジャッキー・マクリーンが思いっきり迷っています。
 またブルー・ミッチェルも十八番というよりも当たり前のフレーズを連発していますし、ハンク・モブレーに至ってはリラックスし過ぎて、聴いてるこちらは完全に居眠りモードに入りそうです。
 しかしそれでも最後まで聴き続けられるのは、ビリー・ヒギンズの素晴らしくシャープなドラムスの存在故! そしてジョン・ヒックスの、独り張り切ったピアノの存在感! リズム隊中心に聴いて正解だと思います。

B-3 Flirty Gerty
 本来はテンションの高い曲なんでしょうが、この緩~いムードは何でしょう? レイドバックと言っていいんでしょうか? とにかくフロントのホーン陣が弛みっぱなしです。もちろん悪い演奏ではないんですが、冴えが感じられません。
 しかしリズム隊、特にジョン・ヒックスは輝いています。

ということで、このアルバムは全曲がハンク・モブレーのオリジナルでありながら、どこかイマイチな出来になっています。それはアドリブの冴えの無さというか、何時もと同じモブレー節がたっぷり聴かれるにもかかわらず……。

このあたりが瞬間芸たるジャズの不思議ところかも知れません。

しかし私は、このアルバムでジョン・ヒックスに邂逅出来たことに無上の喜びが感じています。この度、故人の冥福を祈りつつ聴こうと選んだのも、自然の成行きとご理解下さい。

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