なんか本日は大物俳優、大物映画監督、往年の名力士の訃報が続きましたですね……。
そこで今日は――
■Thelonious Monk with John Coltrane Live At The 5 Spot (GAMBIT)
以前、ブルーノートからCDで発売され、世界中に衝撃を与えた音源の再発です。
それは伝説で彩られていたライブ演奏で、ジョン・コルトレーンが悪いクスリのためにマイルス・デイビスのバンドをクビになり、セロニアス・モンクに拾われていた時期である1957年晩夏の頃を録音したものと言われていました。
マイルス・デイビスに雇われていた頃のジョン・コルトレーンは、はっきり言えばヘタクソでしたが、セロニアス・モンクのバンドで揉まれて自己の奏法を掴み、飛躍的に上手くなったとされていたのですから、この音源の歴史的価値、ジャズ的な面白みは録音状態の悪さを超越していました。
ところが、前述のブルーノートから出されたCDはピッチの狂いがあり、さらに録音年月日にも疑問符が付くというものでした。
それが今回、遺族の承認を得てリマスターされ、別レーベルから再発されたのです。しかも未発表の2曲が追加されています♪
録音は1958年9月11日! と言う事はジョン・コルトレーンが既にマイルス・デイビスのバンドに復帰していた最中ということになります。メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、セロニアス・モンク(p)、アーマッド・アブダラ・マリク(b)、ロイ・ヘインズ(ds) で、もちろん「ファイブ・スポット・カフェ」でのプライベート録音です――
01 Crepuscule With Nellie
微熱に浮かされたような気だるい曲を、セロニアス・モンクのピアノが淡々と綴っていきます。途中からジョン・コルトレーンも何となく参加していますが、お客のザワメキの中、隙間だらけの演奏が虚しく流れていく、その空間美がたまらなく愛しいのですねぇ、私には♪
アドリブらしいパートが無い、短い演奏ですが、その場の雰囲気も取り込んだ名演ではないでしょうか……?
02 Trinkle Tinkle
めくるめく様なセロニアス・モンクのオリジナルで、ジョン・コルトレーンはハーモニクス奏法も使いながら熱演を聴かせてくれます。もちろん全体的な構想は、十八番のシーツ・オブ・サウンドですが、そこに果敢に斬り込んでいくセロニアス・モンクとの鬩ぎ合いが、コーラスを重ねるにつれて激烈になっていくのです。
そして何時もながら、セロニアス・モンクはピアノを弾いていない時間があります。しかし自分のソロ・パートになると、俄然、本領発揮という、全く上手い展開です。
03 In Walked Bud
セロニアス・モンク流儀のビバップ曲の真髄が、これです。なにしろジョン・コルトレーンが必至に吹奏しているのに、バックでは我関せずというか、気ままにピアノを叩き、変態コードを撒き散らすのですから、こういう親分にバンド・メンバーが困惑させられている様が、はっきりと記録されています。
そして例によってセロニアス・モンクがビアノを弾かなくなって、初めてジョン・コルトレーンも安心したようですが、今度は気抜けのビールっぽいソロになるのですから、???です。
まあ、そういうところがジャズの醍醐味なんでしょうが……。
肝心のセロニアス・モンクは、そんなことにはお構い無しの名演を聴かせてくれますから、完全に熱くさせられます♪
04 I Mean You
これも音質の悪さを超越した熱い演奏です。結論から言うと、バンドを構成する4人がバラバラというか、暗黙の了解だけでプレイしているように聴こえます。しかし熱気や場の雰囲気は最高潮で、こんな激烈なライブが毎夜行われていた当時のニューヨークに、タイムマシンがあったら必ず行きたいと、思わずお願いの名演です。特にロイ・ヘインズが気合入っていますねぇ~♪
05 Epistrophy
一応、バンド・テーマという演奏ですが、冒頭からラテン・リズムで暴れるロイ・ヘインズが強烈ですし、超変態コードを叩くセロニアス・モンクに困り果てたジョン・コルトレーンがアラビア風のモードに逃げ込む場面さえあります。
ただし演奏そのものがコンプリートで録音されていないのが、残念至極です。
06 Ruby My Dear
今回が初出の演奏です。曲は静謐なムードを湛えたセロニアス・モンクの代表作で、ジョン・コルトレーンとの相性も素晴らしい演奏です。つまり後の「ネイマ」あたりを想起させられるわけですね♪ う~ん、ここでのジョン・コルトレーンは素晴らしいです!
しかし哀しいかな、ここでもセロニアス・モンクのソロ・パート途中でフェイドアウトされていまうのでした……。残念っ!
07 Nutty
これも今回が初出の演奏で、リズミックなリフを使ったセロニアス・モンクの人気曲です。しかし演奏そのものは、ジョン・コルトレーンが不調というか、気合が抜けています。ただしセロニアス・モンクは流石に鋭く、危ない絡みを聴かせてくれるのですが……。まあ、ボツになるのも、致し方無しというか……。
ということで、正直、音質は良くありません。しかし今回のリマスターでは演奏そのもの、そして観客のザワメキ、場の雰囲気が自然にミックスされているので、BGM的に聞き流していると、あたかも現場でライブを楽しんでいるような心持にさせられます。
もちろん、無念無想で聴き入っても感動間違いなしの名演ではありますが!
それにしてもタイムマシンにお願いという、そんな1枚です。