■the Cross -愛の十字架 / 本田美奈子 (東芝)
歌の上手いアイドルと云えば、昭和60(1985)年にデビューした本田美奈子は絶対に外せない存在です。
当時は所謂1980年代アイドルの爛熟期と申しましょうか、その頃に注目された新人では南野陽子、斉藤由貴、中山美穂、松本典子、浅香唯、そして今や賛否両論のおニャン子クラブのメンバー等々、なかなか強い印象を残している面々が揃っていたのですが、その中にあっての本田美奈子は華奢で愛くるしいルックスとは相反する歌唱力とリズム感があって、サイケおやじはちょいと驚かされましたですねぇ~~!?
しかし、それゆえの「あざとさ」というか、可愛さ余って憎さ百倍とまでは思いませんが、どこかしら感情移入し難いものがありました。
その歌唱やアクションに何かしら、上手いんだけど気持ちが入ってない様な感じを受けていたんですねぇ……。
特に翌年に大ブレイクしたヒット曲「1986年のマリリ」における「あられもない」キッチュな衣装やアクションには、彼女本来の歌唱力が無駄遣いに思えましたし、こんなんだったら、いっそ正統派歌謡曲や演歌をやったほうがマシっ!
とまで思っていたところに出たのが、本日掲載のシングル盤A面曲「the Cross -愛の十字架」でして、とにかくこれが、アッと驚くブリティッシュハード系の歌謡ロックバラードだったんですから、たまりません ♪♪~♪
しかも全篇に寄り添って泣きまくるギターが、一聴してゲイリー・ムーア!?
というファーストインプレッションが真実だったんですねぇ~~~♪
説明不要かとは思いますが、ゲイリー・ムーアは当時のロック界では人気も実力もトップクラスのギタリストで、十八番はハードロックの中で「泣き」のフレーズと音色を堪能させてくれるという、殊更日本のロック好きの琴線に触れる大スタアでありましたし、世界的にも超大物ロッカーが、まさか極東の女の子アイドルのバックを演じているなんて、それはサイケおやじの様な既にして頭が固くなり始めていた中年者のロック愛好者には、なにかトンデモな事態でしかありませんでした。
おまけに楽曲を提供したのが、これまた御本人!
そして肝心の本田美奈子の歌いっぷりが、哀愁滲む曲メロを完全に摑んでいたんですから、そ~した現実に接した以上、サイケおやじの足は自ずとレコード屋へ!
そんな愕然として狂喜した日が昭和61(1986)年9月、確かにありました。
で、早速ソングクレジットを確認してみると作詞作曲はゲイリー・ムーア、編曲はガイ・フレッチャー、そして訳詞が秋元康とあり、レコードに針を落とせば、イントロから心に響く刹那のギターは、やっぱりゲイリー・ムーアに相違ありません ♪♪~♪
もちろん、既に述べたとおり、全篇要所で泣きじゃくるギターのリックとフレーズはお約束以上ですよっ!
そして本田美奈子の歌唱が、それに全く負けていないのは驚くべき事で、このあたりはプロデュースの見事さもありますし、何よりも彼女の情熱とヤル気、そして実力の証明でありました。
ちなみに後に知った事ではありますが、本田美奈子は最初、例のテレビスカウト番組「スター誕生」で勝ち抜いていながら、演歌(?)をやりたがっていたらしく、それゆえにすんなりとデビュー出来なかったという経緯も伝えられていますが、同時に洋楽にも親しんでいなかったとすれば、この素晴らしい歌謡ロックの金字塔は奇跡というには、あまりにもリアルなっ!
おそらく、ゲイリー・ムーアの大ファンを自任していたアン・ルイスは羨ましかったんじゃ~ないでしょうかねぇ~~、という失礼な妄想は別にして、楽曲そのものの素晴らしさからしても、これはもっとカバーバージョンが作られても不思議ではない仕上がりと思うばかりです。
あっ、そうでした、作者のゲイリー・ムーアが「Crying In The Shadow」としてセルフカバーしていましたですね♪♪~♪
ということで、以降の本田美奈子は続けてプリテンダーズの「Don't Get Me Wrong」をモロパクリしたオリジナル曲「Oneway Generation」を出し、ついにはクイーンのブライアン・メイから楽曲を提供されての歌謡ロック路線を突っ走り、最後にはガールロックバンド「Wild Cats」の結成まで行ってしまうんですが、それは追々ここで綴ってみたいと思います。
ご存知のとおり、彼女はロックバンドがちょいと不発気味だった所為か、今度はミュージカルの舞台で活躍し、同時進行的にクラシックの世界へも歩みを進めたのですが、やはり凄い才能を使い果たしたかの様に病に倒れ、早世してしまったのは悲しいです……。
あぁ……、きっと天国でもゲイリー・ムーアのギターと共演しているはず!
本当に、そう思っています。
最後になりましたが、この素晴らしいシングル盤にひとつだけ欠点があるとすれば、それはジャケ写スリーブで不粋に自己主張しているバーコードの存在でしょう。
うむ、神様の無慈悲は、どこから来るのかなぁ……。