OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジミー・スミスの本領を楽しむ

2009-02-28 11:10:18 | Jazz

Crazy! Baby / Jimmy Smith (Blue Note)

膨大なレコーディングを残したジミー・スミスの代表作を決めるのは至難というほど、その完成度の高い演奏は凄いというしかありませんが、中でも私が愛聴しているアルバムが本日の1枚です。

まず、美女とスポーツカーというジャケットが素敵ですねっ♪♪~♪ 如何にも当時という雰囲気が、実にたまりません。

録音は1960年1月4日、メンバーはジミー・スミス(org)、クウェンティン・ウォーレン(g)、ドナルド・ベイリー(ds) というお馴染みのレギュラー・トリオですから、暗黙の了解も鮮やかに纏まった、最高にグルーヴィな演奏が楽しめます。

A-1 When Johnny Comes Marching Home
 邦題は「ジョニーが凱旋する時」とつけられた黒人ゴスペル系の伝承曲ですが、やはりジミー・スミスといえば、これっ! というほどにキマッた演奏です。
 実際、ドナルド・ベイリーの重心の低いマーチングドラムと勇壮な雰囲気に満ちたジミー・スミスのテーマの弾き方を聴けば、思わず気持ちが引き締まります。
 そして痛快な4ビートに移行して始まるアドリブパートでは、クウェンティン・ウォーレンがジャストミートの露払いを務めた後、ジミー・スミスがスピード感満点にして粘っこいフィーリングも両立させた素晴らしいオルガンソロを聞かせてくれます。このあたりは完全にモダンジャズでありながら、ハードロックのオルガン奏者にまでも確実に影響を与えたものと思います。
 またビバップのオルガン的表現としては、ブルーノートで本格的にデビューした当初よりは、さらに粘っこいタッチが顕著になっていて、まさにグル~~ヴィ! 残響音を強調した録音も印象的なドナルド・ベイリーのドラミングも、実に適材適所なリックばかりですし、クウェンティン・ウォーレンのコードワークの荒っぽさが、逆に良い感じ♪♪~♪
 ついつい、ノセられてしまいますねっ!

A-2 Makin' Whoopee
 和み系スタンダードの有名曲を通常のテンポより早めて演奏していくトリオの一体感が、まず素敵です。ウキウキするようなノリが本当に良いですねぇ~♪
 しかしジミー・スミスのオルガンは、決して軽いばかりではなく、演奏が進んでいくにつれてグビグビの音使いが出まくりですから、グッと惹きつけられます。左手とフットペダルのコンビネーションで作りだされる4ビートのウォーキングラインも強烈ですよ。

A-3 A Night In Tunisia
 モダンジャズの聖典として外させない名曲を、ジミー・スミスはプログレっぽいアレンジを用いて豪快に聞かせてくれます。なにしろメインテーマのリフを丸っきり、イエスかソフトマシーンみたいに演じているんですよっ! 歴史的には逆とはいえ、これを聴いて仰天するのは、私の世代だけかもしれませんが、なかなか痛快だと思います。
 しかし、もちろんジャズ本来のグルーヴはきちんと維持されていて、サビからアドリブは完全無欠の4ビートですが、あの胸騒ぎのブレイクは、またまたプログレですからねぇ~♪ もはや辛抱たまらん状態です。
 そして演奏の中心に位置するアップテンポのブッ飛ばし方は、オルガンジャズのひとつの典型として不滅でしょう♪♪~♪ 非常に芸の細かいアドリブフレーズの大嵐とバンドの一体感は、驚異的だと思います。
 また、その意味で、些かB級グルメ感が強いクウェンティン・ウォーレンのギターに共感を覚えるのも悪くないでしょう。なにしろ最後の最後で、またまたジミー・スミスが暴れてしまうのですから!

B-1 Sonnymoon For Two
 ソニー・ロリンズが書いた有名なリフのブルースですから、ここでのハードバップ大会には安心感がいっぱい♪♪~♪ 特にジミー・スミスのオルガンからは黒っぽいムードが溢れ出しています。
 そして時折聞かせる得意技というか、右手で強靭なアドリブソロを演じながら、左手と足で粘りの4ビートウォーキング、さらにひとつの和音を連続放射するというブルースのゴッタ煮グルーヴにシビレます。
 このあたりはハモンドオルガンという文明の利器の特性を活かしきった必殺技でしょうね。どうやって演じているのかは良く分かりませんが、倍音スイッチとか使うんでしょうか? とにかく快感としか言えない、これが私の好きな瞬間です。
 ちなみにキース・エマーソンやロニー・スミスは、鍵盤の間にナイフを突き刺して音を固定させるという見せ技を使っていますが、ジミー・スミスは!?

B-2 Mack The Knife
 これもソニー・ロリンズの当たり曲ながら、ここではそのイメージを覆すような、まさにジミー・スミスならではのアレンジと表現が面白いところです。なにしろ、あの耳に馴染んだメロディがちょっぴりしか出ないんですからっ! そして、あくまでもアドリブ主体の演奏にしているのです。
 しかしトリオの勢いは素晴らしく、アップテンポでグイグイと突き進んでいく一体感は最高です。グビクビと峻烈なフレーズを積み重ねて山場を作るジミー・スミス、淡々としたコードワークのクウェンティン・ウォーレン、強いバックピートも印象的なドナルド・ベイリー! これもハードバップだと思います。

B-3 What's New
 これまた有名スタンダード曲ですが、スローで演じると思わせておいて、強いビートのハードバップにしてしまったという、なかなかジミー・スミスらしい目論見がズバリと成功しています。
 実際、ここで聞かれる力強いグルーヴは、ミディアムテンポの勢いと上手く化学反応したような特別なものでしょう。ド派手なオルガン奏法を出し惜しみしない姿勢にも拍手喝采♪♪~♪ 決してラウンジ系ではありませんよ、これは。

B-4 Alfredo
 そしてオーラスは曲タイトルからも推察出来るように、おそらくはレーベルオーナーのアルフレッド・ライオンに捧げたブルースです。まず、この弾むのようなグルーヴが実に快適ですねぇ~~~♪
 クウェンティン・ウォーレンのギターも上手くツボを押さえたアドリブを披露していますが、やはりジミー・スミスのソウル&ブルースなオルガンは最高! シンプルにして濃厚なオルガンジャズの真髄が楽しめると思います。

ということで、実に傑作としか言えない名盤でしょうね。

ただし、今となっては、これが当たり前という感じも強いのですが……。そのあたりは如何にジミー・スミスの影響力が、その後のオルガンジャズ&レアグルーヴ、ハードロック等々に及んでいるかの証明です。

トリオとしての纏まりも、レギュラーバンドならではの良さが自然体ですから、例えば「A Night In Tunisia」のような凝ったアレンジもワザとらしくありません。むしろ、そういうケレンが潔いほどです。

やっぱりオルガンの王様はジミー・スミス!

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俺のは寝ているソニー・ロリンズ

2009-02-27 11:48:02 | Jazz

Sonny Rollins (Blue Note)


まず最初にお断りしておきたいのが、私有盤は再発なので、ジャケットは掲載された向きということです。つまりソニー・ロリンズが寝ているわけですね。オリジナルは本人が起きている、そしてジャケットの黄色い部分からレコードを取り出す仕様なんです。左90度旋回!

どうして、そんな凝ったデザインにしたのか、真相は知る由もありませんが、なんともマニア泣かせというか、胸騒ぎのブツだと思います。

さて、肝心の中身は、ソニー・ロリンズ全盛期の演奏を楽しめる優良盤ですが、この時期には歴史的名盤&大傑作ばかりが残されているとあって、その中では比較的静観されている1枚かもしれません。しかし出来は極上!

録音は1956年12月16日、メンバーはソニー・ロリンズ(ts)、ドナルド・バード(tp)、ウイントン・ケリー(p)、ジーン・ラミー(b)、マックス・ローチ(ds) という、今では夢のオールスタアズです。

A-1 Decision
 ずっしり重いファンキーフィーリングが、如何にも真っ黒なハードバップです。ミディアムテンポのグルーヴの要は、もちろんウイントン・ケリーが担っていますよ。
 ソニー・ロリンズのアドリブは何時もの天衣無縫さよりも幾分、生硬な押し出しが強く、極限すれば「らしく」ありません。しかしドナルド・バードにはとっては、まさに十八番の場面設定とあって、その思わせぶりに歌いながらも忌憚の無いアドリブは安定感があります。
 そしてウイントン・ケリーのジワジワっとくる粘っこい「ケリー節」の素晴らしさ♪♪~♪ そのファンキーな転がりが琴線に触れまくりですねぇ~♪
 終盤にはマックス・ローチのブラシの至芸も用意されています。

A-2 Bluesnote
 アップテンポで豪快にドライヴしたハードバップですが、ここでもウイントン・ケリーが絶妙にファンキーな味付けを演じています。相当にビシバシな姿勢のマックス・ローチも怖いですねぇ~。
 しかしドナルド・バードの、些かマンネリ気味のアドリブが出た瞬間から、その場は曲タイトルどおりのブルーノート的な現場主義が横溢し、その王道を邁進するソニー・ロリンズのスケールの大きさに圧倒されるでしょう。
 ハードエッジなリズム隊を翻弄するかのように飛翔しては急停止するフレーズ展開、グリグリのウネリ、骨太なテナーサックスの音色! こんな人、他にいませんよねぇ~♪
 さらにウイントン・ケリーの猥雑な感じさえ漂う素敵なフィーリング、さらにリズム隊3人の個性も含めて、やっぱりハードバップって良いですねぇ~♪

A-3 How Are Things In Glocca Morra
 そして、これこそがソニー・ロリンズの伝統的な一面が良く出た名演だと思います。
 ドナルド・バードのミュートトランペットが絶妙の道案内となり、続くソニー・ロリンズがシンミリとした情感に熱い想いをこめて吹奏するテーマ部分の素晴らしさ! 曲はスタンダードらしいのですが、そのせつないメロディが優しく逞しいテナーサックスで味わえるという桃源郷です。
 中間部のアドリブではウイントン・ケリーがマイナーな風情も滲む歌心でスイングし、続くソニー・ロリンズが再びハードボイルドな男気を聞かせて、演奏は素敵な余韻を残しながら終了しますが、これこそ、何度でも聴きたくなる傑作トラックでしょうね。

B-1 Plain Jane
 A面では、些か「らしくない」姿も披露していたソニー・ロリンズが、このB面に入っては全く期待どおりの豪放さを堪能させてくれます。まずは、この演奏が凄いですよっ!
 力強いミディアムテンポのグルーヴを提供するリズム隊と共謀し、まさに空間を自在に浮遊して豪快なアドリブに専心するソニー・ロリンズの天才性は否定出来るものではありません。破天荒なフレーズ! 驚異的なリズム感!! 本当にゾクゾクしてきます。
 う~ん、失礼ながらドナルド・バードの保守性が凡庸に感じられるのも、偽りの無い気持ちです。もちろん、それはそれで、楽しいハードバップの本質ではありますが……。
 その意味でウイントン・ケリーの飛び跳ねグルーヴが逆に痛快ですし、続くソニー・ロリンズ対マックス・ローチの直接対決が展開されるクライマックスに至っては、ただただ、スリルと興奮に身を任せるしかありません。

B-2 Sonnysphere
 初っ端から強引なソニー・ロリンズの独壇場! そのブッ飛んだ感性がハードなリズム隊に煽られ、さらに爆発していく名演です。もちろん十八番のモールス信号やグイノリのツッコミドライヴ、ウネリまくった「ローリン節」がテンコ盛りですよっ♪♪~♪
 それゆえにドナルド・バードの必死の熱演も、ちょっと可哀想なところも散見されますが、結果オーライでしょうねぇ、私は憎めません。
 そしてリズム隊が一丸となったウイントン・ケリーのアドリブパートの勢いは絶品ですから、続くソニー・ロリンズ対マックス・ローチのソロチェンジが熱いのは当然が必然です。
 あぁ、このスリルとリズム的な興奮こそがジャズの素晴らしさだと、私は確信させられるのでした。

ということで、熱血してゾクゾクするB面、「How Are Things In Glocca Morra」の名演が入っているA面という、ちょっと人気と評価が分かれていしまう作品かもしれません。個人的にはジャズ喫茶ならB面という感じですが、自宅鑑賞ではA面でしょうか。

まあ、このあたりの嬉しい悩みはCDで解消されるわけですが、なんかこのアナログ盤のジャケット問題が妙に心にひっかかり、なかなかLPから離れられません。

おそらく紙ジャケット盤ならば、この両方の問題も解消されるんでしょうけど、古い体質のサイケおやじには、寝ているソニー・ロリンズが合っているのかもしれません。なんだか寝釈迦観音に見えてきましたよ。

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マル・ウォルドロンの奇妙な情熱

2009-02-26 10:40:40 | Jazz

The Quest / Mal Waldron (New Jazz / Prestige)

マル・ウォルドロンといえば、レフト・アローンの人と決めつけられた感もありますが、しかしその本質は、秘められた過激な情熱と真摯なジャズ魂を持った情念のピアニストだと思います。また妙にジェントルな雰囲気も、なかなか良いですね。

さて、本日ご紹介のアルバムは、その中でも特にアブナイ姿勢を明確に打ち出した強烈1枚!

録音は1961年6月27日、メンバーはエリック・ドルフィー(as,cl)、プッカー・アーヴィン(ts)、マル・ウォルドロン(p)、ロン・カーター(cello)、ジョー・ベンジャミン(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という、実に怖い面々が勢揃い! ほぼ1ヵ月前に吹き込まれた、ロン・カーターの辛辣なアルバム「Where? (New Jazz)」との共通項も感じられる凄いセッションになっています。しかも演目は全て、マル・ウォルドロンのオリジナル!

A-1 Status Seeking
 ちょっとギャング映画のサントラ音源のようなテーマですが、チャーリー・パーシップのタイトで躍動的なドラミングが引き金となり、忽ち強烈なアップテンポのモード大会となります。初っ端から全力疾走というエリック・ドルフィーのアルトサックスには、既にして危険が全開!
 続くブッカー・アーヴィンのテナーサックスも硬質なツッコミで、その短絡的なアドリブフレーズが実に痛快ですし、ロン・カーターのチェロが、これまた意味不明の凄さというか、全くの分からなさがジャズの一面を表しているようです。
 そしてマル・ウォルドロンが同じフレーズを執拗に繰り返すという、情念のイタコ弾き! 録音のバランスから、やや引っこんだミックスは勿体無い感じですが、ドラムスやベースとの兼ね合いを考慮すれば、まあ、いいか……、
 しかしながら、この演奏の緊張感と不安な激情は、まさにセッション全体を象徴していると思います。

A-2 Duquility
 ロン・カーターのセロが陰鬱なメロディをリードしていきますが、そのアブナイな音程が逆にムードを高めているようです。
 そしてマル・ウォルドロンの訥弁スタイルによるアドリブが始まれば、気分はロンリー……。そのポツンポツンとしか続かないピアノは、当時の暗いジャズ喫茶にはジャストミートの快感でした。
 隠れレフト・アローンかもしれませんねぇ。

A-3 Thirteen
 これも陰鬱なムードが激辛に演じられたアップテンポのモード大会! チャーリー・パーシップの極めてロイ・ヘインズっぽいドラミングが、ここでも冴えまくっていますし、エリック・ドルフィーも快調です。
 しかし、それにも増して怖いのがロン・カーターのチェロで、登場した瞬間から、その場を不安で気持ち悪いものにしてしまうのです。
 ただし、それをブッ飛ばすのがブッカー・アーヴィンのハードにドライヴしたテナーサックスでしょう。ここでは何時もの脂っこさよりは、ストレートな咆哮に徹している感じですが、正解でしょうねぇ。続くマル・ウォルドロンのアドリブにも控えめの良さがあります。
 そしてラストテーマのアンサンブルの気持ち悪さ! 

A-4 We Diddit
 これも前曲の続篇のような演奏で、細切れのリフから激しく突っ込んでいくエリック・ドルフィーのアドリブは爽快ですが、またまたロン・カーターのチェロがっ!?
 しかしここでも躍動的なリズム隊の4ビート、またブッカー・アーヴィンの妥協しない自己主張、さらにマル・ウォルドロンやチャーリー・パーシップの熱演がなかなかに見事ですから、ついつい夢中になってしまいます。

B-1 Warm Canto
 珍しくもエリック・ドルフィーのクラリネットがテーマをリードして、さらに素晴しいアドリブを聞かせてくれる、実に心和む演奏です。その穏やかに空中を浮遊していくような表現、同時に異次元を覗いてしまう瞬間も強い印象を残します。
 またロン・カーターのチェロも味わい深く、その音程のアブナイところも結果オーライという曲調ですから、マル・ウォルドロンも会心の笑みというピアノを聞かせてくれますよ♪♪~♪
 このアルバムでは一番というジェントルな雰囲気は、とてもこのメンバーからは想像も出来ないほどの名演だと思います。

B-2 Warp And Woof
 変拍子、多分5拍子を使った変態ブルースで、冒頭からロン・カーターのチェロが悪趣味なテーマをリードしていきますが、アドリブパートではマル・ウォルドロンが十八番という執拗なリフの繰り返し! これが実に快感を呼びます。
 そしてブッカー・アーヴィンが粘っこくて投げやりな本領を発揮! 続くエリック・ドルフィーも過激な姿勢を貫いて対抗し、終盤ではテナー対アルトの静かなる決闘も用意されています。

B-3 Fire Waltz
 さてさて、これがお目当てというファンも多いでしょうねぇ♪♪~♪ なにしろエリック・ドルフィーが生涯の人気セッションとなった、あのファイブスポットのライブ盤でも演じられる名曲ですから!
 しかしここでは、それに先立つスタジオバージョンということで、マル・ウォルドロンとロン・カーターが活躍するという肩透かし……。エリック・ドルフィーはテーマ部分にしか登場しません。
 その代わりに濃密なアドリブを聞かせてくれるのがブッカー・アーヴィン! 粘っこくて歌心のバランスもとれた、これまた隠れ名演の可能性があるパートだと思います。

ということで、妙に落ち着きのない仕上がりかもしれませんが、個人的にはB面を愛聴しています。とくに「Warm Canto」の変質的な和みは、絶大な魅力なんですよ。

集合したメンバーも個性的ですし、セッション全体の前向きな姿勢や意欲的なアルバム作りには共感を覚えます。

ちなみに掲載した私有盤は、もちろん再発されたジャケット違いですが、このサイケポップなレタリングは、1960年代中頃からの流行りでした。それゆえに未だジャズを聴いて間もない頃だった十代の私は、妙な安心感を持って、このアルバムを買いました。

そして当時はA面ばっかり聴いていたんですが、齢を重ねるうちにB面、特に「Warm Canto」が、無くてはならないのです。

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ハンク・ジョーンズとポギーとベス

2009-02-25 10:35:50 | Jazz

Porgy And Bess / Hank Jones (Capitol)

ハンク・ジョーンズは今でこそ、モダンジャズの巨匠にして超人気ピアニストになりましたが、それは例の「グレート・ジャズ・トリオ」以降の評価だと、個人的には思っています。特に我が国では、そうじゃないでしょうか?

もちろん、その趣味の良い音楽性と洒落たピアノタッチ、優雅にして黒人感覚も滲むアドリブの素晴らしさは万人の認めるところだったと思いますし、モダンジャズ全盛期の1950年代を中心に残された名演の数々は、それが名盤となる重要な働きをしていました。

ところが同時期の本人はライブの現場より、スタジオの仕事を優先させていたようですから、ジャズマスコミでの取り上げ方も少なく、当然ながらジャズ喫茶の人気盤となるような派手なリーダー盤は出していません。

しかし地味ながらも、シブイ魅力というか、ディープなジャズ魂に裏打ちされた素敵なアルバムは作られ続けていたのです。

例えば本日ご紹介の1枚は、ガーシュインの集大成とも言える黒人オペラの傑作「ポギーとベス」から作られた企画盤で、同種のアルバムとしてはマイスル・デイビスとギル・エバンスのコラボ盤とか、あるいはボーカル物ではサミー・デイビスとカーメン・マックレーの共演盤等々は有名ですが、こちらも捨て難い魅力に溢れています。

録音は1958年、メンバーはハンク・ジョーンズ(p)、ケニー・バレル(g)、ミルト・ヒントン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という驚くほどにハードな面々が、実にシブイ演奏を聞かせてくれます。

 A-1 Summertime
 A-2 There's A Boat Dat's Leavin' Soon For New York
 A-3 My Man's Gone Now
 A-4 A Woman Is A Sometime Thing
 A-5 Bess, You Is My Woman
 B-1 It Ain't Necessarily So
 B-2 I Got Plenty O' Nuttin'
 B-3 Oh, I Can't Sit Down
 B-4 Bess, Oh Where's My Bess
 B-5 I Ain't Got No Shame

結論から言うと、何れの曲も長くて4分弱ですから、丁々発止というアドリブの応酬は聞かせれません。しかしナチュラル感覚でアレンジされたバンドアンサンブルの見事さ、そしてシブイ個人技が随所で光るという、聴くほどに味わいが深まる名演ばかりだと思います。

例えば「Summertime」では、ハンク・ジョーンズがジンワリと弾いてくれるイントロの素晴らしさ! それに続くテーマメロディのフェイクの上手さ♪♪~♪ 最初は地味で肩透かしだと思いましたが、今ではそこが聴きたくて、このアルバムを取り出すほどです。

また「There's A Boat Dat's Leavin' Soon For New York」での、実にイヤミの無い緻密なアレンジは最高です。アドリブなんて不粋なものは必要ありませんね。しかしこれも、立派なジャズの決定版だと確信出来るのです。

そのあたりは「My Man's Gone Now」にも感じられ、極限すれば、とても4人で作り出しているとは思えないほど、濃密な演奏になっています。そして何となくMJQに共通する味わいさえも感じるんですが、こういう手法はジャズが本来持っている自然な躍動感を損なう恐れもありながら、このメンツには心配ご無用でしょうねぇ。

バンドのノリが曲によってはスイング系のタテノリ4ビート感を強くしているのも結果オーライでしょうか。冒頭の「Summertime」や「A Woman Is A Sometime Thing」では、ジャンゴ・ラインハルトあたりの所謂ジプシースイングの味わいさえ漂いますが、しかしハンク・ジョーンズのピアノは、あくまでもお洒落なモダンジャズ♪♪~♪ エルビン・ジョーンズの順応性にも共感を覚えます。

またケニー・バレルの控え目な好演も印象的で、ようやく活躍出来た「Bess, You Is My Woman」での地味なフレーズ展開とか、「It Ain't Necessarily So」におけるブルースな表現力は流石! ちなみに後者は、このアルバムの中では最もハードバップしていますが、それだってソフトな黒っぽさが秀逸の極みだと思います。

さらに躍動的なバンドアンサンブルが冴えわたる「I Got Plenty O' Nuttin'」では、ハンク・ジョーンズの両手バラバラ弾きや美メロのアドリブが飛び出しますし、名手揃いのカルテットが個人芸の本領発揮! まさに間然することの無い仕上がりでしょう。

そして粘っこいグルーヴが全開していながら、とてもお洒落なフィーリングの「Oh, I Can't Sit Down」、カクテル系のアレンジで演奏される「Bess, Oh Where's My Bess」に秘められた、実にしぶといジャズ魂には泣けてくるかもしれません。

こうして迎える「I Ain't Got No Shame」の大団円は、ケニー・バレルがギターのボディを敲く合の手も楽しい急速テンポの演奏ですが、メンバー全員が腹八分を心得たあたりは賛否両論かもしれません。しかしアルバム全体の構成や流れからすれば、これしか無いと思います。

ということで、アドリブよりはハンドアンサンブルやシブイ個人芸を楽しむアルバムだと思いますが、もっと言えば、BGMとしても有用だと思います。

実際、このアルバムの盤質が良好なブツは意外にも入手が難しく、それはアメリカ白人社会では日常というホームパーティ等で使われていた所為だと思います。

ちなみにハンク・ジョーンズには、同じメンバーで作ったもうひとつの和み盤「Here's Love (Argo)」があって、しかしそれに比べても一段とアンサンブル重視の姿勢が、ここでは鮮やかだと思います。

元ネタとなったオペラの「ポギーとベス」は、メジャーとしては初のオール黒人キャストによるミュージカルで、ジョージ・ガーシュインが黒人音楽を徹底的に研究して作り上げた執念の一代傑作ながら、1935年と言われる初演当時は決して評判は良くなかったそうです。

まず「ミュージカル」じゃなくて、「オペラ」ですからねぇ~。その両者がどう違うのか、サイケおやじには判別がつきませんが、当時のアメリカでの人種差別意識を鑑みれば、そういう大上段に構えた姿勢は……。

しかし楽曲や構成の素晴らしさが、少しづつではありますが認識されたようで、特に欧州を中心に好評が続き、ついには1958年に至って映画化され、傑作となりました。現在、出まわている様々なカバーアルバムは、そこから便乗して作られたといって過言ではなく、このアルバムも当然ながら、そのひとつでしょう。

ところで、驚いたというか、嬉しかったというか、このアルバムはCD化されていました。そして私は先日、某中古屋で発見して即ゲット♪♪~♪ しかも紙ジャケット仕様だったんですよっ! あぁ、我が国のレコード会社も、やってくれますねぇ~♪♪~♪ これで傷みがせつなくなっているアナログ盤には、ラックで安眠してもらいましょう。

そしてこれを鳴らしていれば、その場の雰囲気の良さは保証付きです。最近、何かとギスギスしてシビアなサイケおやじの仕事場にも、これさえあれば和みが広がるのでした。

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絶品のケリーとソニー・クリス

2009-02-24 09:56:59 | Jazz

Sonny Criss At The Crossrroads (Peacock)

1970年代初頭からの幻の名盤ブームによって、日本は諸外国からも再発天国と羨ましがられる状況となりましたが、それはCD時代になっても尚更に継続していますよねぇ。

例えば本日ご紹介の1枚は私にとって、長年の夢の憧れというアルバムでした。それが1994年になって、しかも当時は目からウロコの温故知新という、紙ジャケット仕様で再発されたのですから、感涙でした。

実はその遥か以前、1974年頃のラジオ番組で、私はこのアルバムに収録の「Sweet Lorraine」を聴き、そのあまりの素晴らしさに絶句して憧れていたのです。しかしレコードそのものはウルトラ級の幻盤であり、ジャズ喫茶でも置いてあるところは……。

ちなみに制作レーベルの「Peacock」は黒人大衆音楽がメインでしたから、決して盤質が良くないというか、良質の塩ビが使われていないようなプレス状態が多く、それゆえに廉価だったかもしれませんが、思わずタメ息というブツも少なくありません。

それが我が国で再発されたCDは、なかなかリマスターの満足度も高い仕上がりでした。

録音は1959年3月、メンバーはソニー・クリス(as)、オレ・ハンセン(tb)、ジョー・スコット=ウイントン・ケリー(p)、ボブ・クランショウ(b)、ウォルター・パーキンス(ds) という、実に琴線に触れるバンドです。

01 Sweet Lorraine
 これが私を心底シビレさせていた演奏で、曲はご存じ、せつないメロディが涙を誘うスタンダード♪♪~♪ もちろんソニー・クリスは、それを情感満点に吹奏してくれますが、ウイトン・ケリーの愁いが滲むイントロからして、グッと惹きつけられます。
 あぁ、このミディアムテンポのジャズ的なムードの良さ! そして泣きじゃくるソニー・クリスの黒っぽさ、さらにウイントン・ケリーの思わせぶりにスイングするせつない歌心♪♪~♪ もはや何も言えません。
 ただ、ただ、ジャズを好きになって良かった……。全ての皆様に聴いていただきたいと、願うばかりです。

02 You Don't Know What Love Is
 これもまた、陰鬱にして泣きそうになるほど優しいメロディのスタンダード曲で、ここではオレ・ハンセンのトロンボーンが加わり、素晴らしい表現でテーマメロディをリードしていますが、ソニー・クリスのアルトサックスも泣いています。
 そしてウイントン・ケリーの絶妙にコントロールされたピアノの存在感♪♪~♪ ちなみに契約の関係で、ジャケットには Joe Scott と記載されていますが、聴けば簡単に正体がバレバレです。あぁ、最高っ!
 まさにブルーで、本当にせつなくなってしまう名演だと思います。

03 I Got It Bad
 これまたウイントン・ケリーの作るイントロが絶品! そして思わせぶり満点というソニー・クリスのアルトサックスが優しく泣いてくれますから、たまりません。本当に心が震えてしまうほどです。ちなみに曲はデューク・エリントン楽団の代表的な演目ですが、ここまでツボを押さえた秀逸なカバーも珍しいと思います。
 あぁ、それにしてもウイントン・ケリーは最高♪♪~♪ この時期はマイルス・デイビスのバンドレギュラーを務め、また他にも数多くの名演を残していた全盛期とはいえ、ここまで味わい深い表現は、生涯のベストセッションのひとつではないでしょうか。
 
04 Sylvia
 ソニー・クリスが十八番の泣きを披露したブルースで、その黒い表現とグルーヴィなリズム隊の快演によって、たまらないファンキーハードバップの魅力が横溢しています。
 またトロンボーンのオレ・ハンセンが、これまたハートウォームな味わいで高得点! ソニー・クリスの泣き節も含めて、全てが「歌」のアドリブフレーズは、思わず口ずさんでしまうほどです。
 そしてウイントン・ケリーがアドリブはもちろん、絶妙の伴奏で盛り上げていくんですから、そのあまりの素晴らしさには感涙して絶句するしかありません。あぁ、この粘っこいグルーヴと飛び跳ねフレーズの快感は、ジャズを聴く喜びに他なりませんねぇ♪♪~♪
 控え目ながら、健実なドラムスとベースも好サポートです。

05 Softly, As A Morning Sunrise
 これもご存じ、ウイントン・ケリーの十八番ですから、躍動的なイントロからスイングしまくった伴奏にサポートされたフロント陣も快調です。幾分、ホンワカムードのテーマ合奏から忽ち自分のペースでアドリブに突入していくソニー・クリスは、やっぱり良いです!
 もちろんウイントン・ケリーのアドリブは「お約束」の桃源郷ですし、オレ・ハンセンの安定感も侮れません。ちなみに私は、このトロンボーン奏者については、ほとんど知らないのですが、なかなかの実力者だと思います。
 
06 Butt's Delight
 アップテンポで突進する、これがソニー・クリスの得意するビバップ系モダンジャズ!
 とにかく一瞬も休まないアルトサックスの暴走を楽しめますが、強烈なドライヴ感でそれを支えるリズム隊も最高です。特にウイントン・ケリーの弾けた姿勢はヤバいほどですよっ!
 それと急速テンポを全く苦にしていないオレ・ハンセンの爆裂トロンボーンも強烈至極ですし、終盤のソロチェンジでメンバー全員が持ち味を発揮するあたりは、如何にこのセッションそのものが快調であったかの証明だと思います。

07 Indiana
 オーラスは古くからの有名スタンダードにしてビバップ創成のカギともなった曲ですから、ソニー・クリスも偉大な先人に敬意を表したかのような熱演フェイクが楽しめます。おぉ、チャーリー・パーカー!? ベニー・カーター!? いや、これはソニー・クリス!!
 そしてウイントン・ケリーが、もう最高としか言えませんよっ! この粘っこいスイング感は唯一無二、ファンキーにして歌心優先のフレーズ展開♪♪~♪
 さらにオレ・ハンセンの温もりトロンボーンが楽しくも、実にせつないアドリブを聞かせてくれますから、モダンジャズ万歳!

ということで、今回は特にサイケおやじの独善的歓喜悶絶が噴出したご紹介になっているかもしれませんが、これは真実だとご理解願います。とにかくハードバップ好きには、絶対に感涙の演奏だと思うんですよ。

ちなみにこのCDを入手して、ちょっと疑問に思えるのが、アルバムの曲構成です。原盤復刻を摸した紙ジャケットには、A面に前半の3曲が、B面には後半の4曲がアナログ盤の構成とされていますが、収録時間を考慮すれば、A面には最初からの4曲が入っていないとバランスがとれないのでは?

このあたりはオリジナルアナログ盤を見たことが無いので、気になるところです。

気になるリマスターの音質については、もちろんオリジナル盤との比較は出来ていないわけですが、なかなか力感がハードバップっぽいと思います。ちょっとドラムスが引っこんだステレオミックスのバランスも、結果オーライだと思います。

あぁ、こうなると、オリジナルのアナログ盤が欲しいですねぇ……。

しかし、このCDだって、個人的には棺桶盤! 皆様にも、ぜひとも聴いていただきたい傑作盤だと確信しております。

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ジョー・ヘンダーソンの新主流派記念日

2009-02-23 09:13:50 | Jazz

In 'N Out / Joe Henderson (Blue Note)

新主流派の代表選手といえば、黒人テナーサックス奏者のジョー・ヘンダーソンは落とせないところですが、そのデビューにあたっては当時のボスだったケニー・ドーハムの紹介でブルーノートへ入った経緯が絶妙でした。

つまり「いぶし銀」と形容される人気のベテランといっしょに録音セッションが行われることで、最低保障の安心感があったのです。

ご存じのように、ジョー・ヘンダーソンのスタイルはモード手法に基づいたウネウネクネクネの屈折節に加え、豪快なツッコミも鋭いハードバップの要素を合せ持つ魅力的なものですが、もしも最初っからワンホーン盤とか新進気鋭の若手ばかりが集まったアルバムだったら、完全な迷い道だったような気がします。

実際、デビューアルバムの「Page One (Blue Note)」には「Blue Bossa」を筆頭に、「Recorda Me」や「Homestretch」といった永遠のモダンジャズ人気曲が収められ、そこで聞かれるジョー・ヘンダーソンの魅力には、ケニー・ドーハムの薫陶も強く滲んでいると感じます。

しかしジョー・ヘンダーソンの資質には、そんな安逸感を超越するスケールの大きさがあり、それは後の歴史も証明しているところですが、その第一歩が本日ご紹介のアルバムだと思います。

録音は1964年4月10日、メンバーはケニー・ドーハム(tp)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、リチャード・デイビス(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という強力なクインテットで、ジョー・ヘンダーソンにすれば3作目のリーダー盤となっています。

A-1 In 'N Out
 ちょっと不安なイントロからスピード感満点のテーマ、そして疾走していくアドリブパートのスリルが最高です。バラバラをやっていながら、実は暗黙の了解的に収斂していくリズム隊も凄いですねぇ~。
 アドリブ先発のジョー・ヘンダーソンはジョン・コルトレーン風のモードに拘りながらも、独特のクネクネしたフレーズの連なりと自分で苦しんでいくような音使いがエルビン・ジョーンズの豪快なドラミングに叱咤激励され、グイグイと熱くなっていきます。
 そしてこういう展開なら、俺に任せろっ! というマッコイ・タイナーが水を得た魚です。その激しく暗い情念のピアノは、まさにこの時代の象徴でしょうねぇ~♪ 我が国ジャズ喫茶全盛期とは、こういう感じが主流でしたよ。
 気になるケニー・ドーハムは、あれっ、どうしたのっ? という戸惑いが隠せない雰囲気ですが、流石はベテランの貫禄でしょうか、きちんとスジを通した熱演だと思います。「いぶし銀」なんて、ここでは無縁!
 演奏はこの後、さらにジョー・ヘンダーソンが熱気再燃の爆発を聞かせて、見事な大団円を作り出していますが、ラストテーマのヤケッパチも痛快ですねぇ~♪

A-2 Punjab
 馴染みにくいメロディのテーマは、これまたモードにどっぷりというジョー・ヘンダーソンのオリジナルですが、力強いリズム隊にはグルーヴィな雰囲気がありますから、如何にも黒人ジャズの粘っこさが安心印でしょうか。
 実際、エルビン・ジョーンズが敲き出す暴虐のポリリズムには、ヘヴィな4ビートの魅力がいっぱいですから、ジョー・ヘンダーソンはもちろん、ケニー・ドーハムの些か無理した姿勢もイヤミになっていないようです。つまり、どんなに屈折しようにも、自然体でストレートな心情を吐露させられてしまったというか……。
 その点、ライブの現場でも長年のコンビで活動してきたマッコイ・タイナーは落ち着いたもので、実にモードの魅力を上手く発散したライトタッチが良い感じ♪♪~♪ エルビン・ジョーンズの激しいドラミングがさらに冴えて聞こえてくるのでした。

B-1 Serenity
 これもジョー・ヘンダーソンのオリジナル曲ですが、なかなか哀愁漂うハードバップ的なテーマが素敵です。ミディアムテンポでグルーヴィな雰囲気も、硬質なリズム隊の存在ゆえに緊張感があります。
 そしてケニー・ドーハムがアドリブ先発でシブイ手本を示せば、続くジョー・ヘンダーソンが「泣き節」に挑戦しながら、結局は「ウソ泣き」ですから、居直りの後半が実に憎めません。
 またリズム隊が三者三様の個性的を披露し、特にリチャード・デイビスのペースワークは、短いアドリブも含めて味わい深いと思います。 

B-2 Short Story
 ケニー・ドーハムが書いたハードバップの隠れ名曲♪♪~♪
 ラテンビートを上手く使った哀愁のテーマメロディと作者本人が会心のアドリブというモダンジャズの桃源郷が、ここにあります。もちろん主要部分は痛快な4ビートですから、エルビン・ジョーンズの楽しく躍動するドラミングにも歓喜悶絶させられますっ♪♪~♪
 そしてジョー・ヘンダーソンは意欲的なフレーズ展開! ヒステリックな音使いも織り交ぜながら、曲想を大切にした名演ですし、マッコイ・タイナーの流麗なモード節も快感を呼びます。
 う~ん、この後にはジョン・コルトレーンのソプラノサックスが出てきそうな、失礼ながら、そんな錯覚さえも嬉しくなるほどです。エルビン・ジョーンズの十八番のドラムソロとか、とにかく1960年代モダンジャズの美味しいところがテンコ盛りです。

B-3 Brown's town
 少しばかり陰鬱な曲ですが、メロディのキモには作者のケニー・ドーハム十八番のフレーズが使われていますから、やはり安心感があります。
 しかしアドリブパートの混濁した怖さは侮れず、エルビン・ジョーンズがリードしているようなリズム隊の暴虐ゆえに、ケニー・ドーハムの戸惑いが実に印象的! う~ん……。
 その意味で続くマッコイ・タイナーが登場すると、その場がグッと落ち着くというか、典型的な新主流派のモードジャズが、ある種の安心感になるんですねぇ~♪ あぁ、これも「時代」っとやつでしょうか? リチャード・デイビスのペースソロに至っては、相当にフリーな展開なんですが、違和感なんて全く無いのです。
 そして驚くなかれ、リーダーのジョー・ヘンダーソンのアドリブパートが無いんですねぇ~! これって!?

ということで、最後の最後で疑問符が出てしまうアルバムではありますが、ジョー・ヘンダーソンが自らの個性を確立した最初の名盤だと思います。

この録音当時でもボスだったケニー・ドーハムへの恩返しという味わいも意味深なところで、A面で自分が目立った分だけ、B面をボスへの上納金にしたような気遣いが感じられます。

まあ、このあたりはプロデューサーのアルフレッド・ライオンが仕組んだ事かもしれませんが、そんな深遠な配慮をブッ飛ばしているのがエルビン・ジョーンズの大活躍! セッション全体を熱気に満ちた快演にした功績は無視出来ません。

冒頭に述べたように、ケニー・ドーハムは安心印の保証書かもしれませんが、ケニー・ドーハムにしても決して保守安逸派では無く、セシル・テイラーやエリック・ドルフィーと共演しても互角の勝負を演じる尖鋭性を持ち合わせた実力者なのです。それがエルビン・ジョーンズを要にしたリズム隊の作りだす過激な大波に飲み込まれる寸前だったのですから、時代は変わる!

そしてジョー・ヘンダーソンの飛躍が明確に記録された、これは新主流派記念日的な名盤だと思います。

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モンクとマリガンの奇蹟

2009-02-22 11:00:36 | Jazz

Mulligan Meets Monk / Thelonious Monk & Jerry Mulligan (Riverside)

安易に信じたくはありませんが、やっぱり奇蹟はあると思います。

例えば本日の1枚は、セロニアス・モンクとジェリー・マリガンという、普通はミスマッチとしか思えない2人が真っ向勝負で名演を繰り広げてしまった、まさに奇蹟の傑作盤!

まず、こんな「水と油」のアルバムがあること自体、私は信じられませんでした。なにしろセロニアス・モンクは強烈な不協和音なんて日常茶飯事の確信犯であり、一方、ジェリー・マリガンはスマートな歌心優先主義者にして、豪快なアドリブも得意な作編曲家という理論と実践の名手ですからねぇ~。

しかし一聴して、これはやっぱり凄いセッションだったと感動で震えるアルバムでした。

録音は1957年8月12&13日、メンバーはジェリー・マリガン(bs)、セロニアス・モンク(p)、ウィルバー・ウェア(b)、シャドウ・ウィルソン(ds) というガチンコのカルテットです。

A-1 Round Midnight
 セロニアス・モンク作曲によるモダンジャズ史上最も有名なオリジナル曲でしょう。マイルス・デイビスの決定的な名演を筆頭に、これまで多くの傑作バージョンが残されていますが、ここに聞かれる煮え切らない緊張と緩和が、極めてモダンジャズの真髄だと感銘させられてしまうのは、私だけでしょうか……?
 セロニアス・モンクは何時もと同じ唯我独尊のコードワークを使っているはずなんですが、ジェリー・マリガンは我関せずに十八番のフレーズばっかりで、実にしなやかなアドリブを繰り広げているのですから、吃驚仰天です。
 全体のグルーヴが、何時に無く弾んでいる感じもセロニアス・モンクのバンドにしては珍しく、また逆にジェリー・マリガンの不惑の姿勢が潔いと思います。
 そして後半に至っては、なんとか自分のペースを取り戻そうと力んでしまうようなセロニアス・モンクが憎めません。そんな「らしくない」姿の巨匠も良いですね♪♪~♪

A-2 Rhythm-A-Ning
 これもセロニアス・モンクの代表曲にして熱い演奏が何時ものパターンですが、ここでは曲の一部が改作され、尚更に激烈な対決姿勢が鮮明な仕上がりです。とにかく初っ端からノリノリのバンドの勢いが怖いほど!
 そしてジェリー・マリガンのバリトンサックスが豪快無比に咆哮するアドリブパートでは、途中からセロニアス・モンクが休んでしまうという「お約束」を実行し、その直後からのアドリブ再開ではツッコミ鋭い展開に持っていく十八番を演じています。
 しかしここでもジェリー・マリガンが全体を引っ張っている結果は明らかじゃないでしょうか? う~ん、マリガン恐るべし!
 シャドウ・ウィルソンのドラミングも熱いですね。

A-3 Sweet And Lovely
 モンク&マリガン、両者にとっても得意の演目だけに、ここでは対決と協調がさらに明白な結果を生んでいます。セロニアス・モンクがリードしてフェイクするテーマからアドリブへ、極上のハーモニーとカウンターのメロディを付けていくジェリー・マリガンが、実に良いですねぇ~~♪
 それゆえにセロニアス・モンクもテンションの高い心情吐露が素晴らしく、リラックスしてマイペースのジェリー・マリガンとの対比も鮮やかな名演だと思います。

B-1 Decidedly
 ジェリー・マリガンが提供した躍動的なオリジナル曲で、全くのマイペースで自在に吹きまくる作者に対し、ちょっと焦り気味のセロニアス・モンクが珍しくも微笑ましい演奏だと思います。
 特にジェリー・マリガンはアドリブパートの中盤から得意のストップタイムを使いながら、緩急自在の素晴らしさを披露しますから、たまりません。あぁ、このドライヴ感と歌心の見事な融合♪♪~♪
 しかしセロニアス・モンクの依怙地のアドリブも強烈! 負けん気でワザと音を切り詰めているような感じが結果オーライでしょうか。そのユニークな存在感は、やっぱり良いですねぇ~♪
 とはいえ、これも完全にジェリー・マリガンに牛耳られた演奏かもしれません。当時はセロニアス・モンクのバンドレギュラーだったと思われるドラムスとベースの2人も、マリガン派へと寝返った感じです。

B-2 Straght, No Chaser
 これまたセロニアス・モンクの有名オリジナルというブルースですが、ここでは、例えばマイルス・デイビスが演じているようなヤクザな雰囲気は無く、むしろ飄々としたジェリー・マリガンの解釈に作者が苦笑いしているような展開になっています。
 う~ん、これには賛否両論というか、少なくともサイケおやじには完全な肩透かしで、もっとブリブリに熱い演奏を期待していたのですが……。
 ただし、こういうムードを容認してしまったセロニアス・モンクがそこに居る以上、おそらくは侮れないものがあるんでしょうねぇ。これはド素人の私には理解不能というか、実際、演奏が進むにつれて淡々とした雰囲気が好ましくなってくるんですから、う~ん……。
 ただしハードエッジなドラムスとベースのグルーヴには、間違いなく黒人ジャズの凄味がありますし、セロニアス・モンクにしても安易な妥協では無いと思います。いや、そう思いだいですね。

B-3 I Mean You
 これもセロニアス・モンクのオリジナル曲で、結論から言えば、アルバムのフィナーレに相応しい快演になっています。特に作者自身がようやくというか、自分のペースを取り戻したかのような「らしい」アドリブを披露すれば、付かず離れずの姿勢が潔いジェリー・マリガンも素晴らしいかぎり!
 余計な手出しをしないドラムスとベースの伴奏も流石だと思いますが、ウィルバー・ウェイは与えらたれアドリブパートで少しだけの我儘を演じるのもまた、好ましいところでしょう。
 ラストテーマへのアンサンブルが、これまたクールで熱い!

ということで、アルバムを通して聴くと、意外にもジェリー・マリガンがペースを握ってしまった感も強いのですが、実は後年、このセッションの未発表テイクが公表され、実際に聴いて目からウロコ! そこにはセロニアス・モンク以下、リズム隊の暴虐までもが記録されていたのです。まあ、それゆえに纏まりの悪さや未完成な部分も否定出来ませんから、結果的にオリジナル仕様がベストになったのでしょう。

そしてセロニアス・モンクの協調性の見事さとか、ジェリー・マリガンの頑固さが表出した、全く意表を突かれたような仕上がりに! つまりプロデュースの上手い目論見が成功したのです。

しかしこれは、やっぱり奇蹟でしょう。

一般的には頑固で怖いセロニアス・モンクと融通のきくジェリー・マリガンというイメージが覆された仕上がりとはいえ、単にプロデュースだけでそれが達成されたとするには、あまりにもここでの演奏は濃密です。

他流試合が得意のジェリー・マリガンはもちろん、セロニアス・モンクにしても勝ち負けよりは良い試合が出来たという達成感があったんじゃないでしょうか。

今回も独断と偏見のサイケおやじですが、これも聴かずに死ねるかの1枚だと思います。

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私の好きなジョー・ゴードン

2009-02-21 11:35:46 | Jazz

Introducing Joe Gordon (EmArcy)

特にジャズを聴き始めると、妙に偏愛してしまうミュージシャンに出会ってしまうと思うのですが、私にとってはジョー・ゴードンが、そうしたひとりです。

きっかけはホレス・シルバーの名盤「Silver's Blue (Epic)」を聴いたことで、この溌剌としてビバップ正統派の黒人トランペッターを好きになってしまったのですが、これは中学生の恋愛に似ていたと今は思っています。つまり、かなりのイノセント♪♪~♪

ちなみにジョー・ゴードンは小型ガレスピーと言われたほどの名手ですが、決して多くの録音は残していません。

そして本日ご紹介のアルバムは、数少ないリーダー盤です。

録音は1954年9月3&8日、メンバーはジョー・ゴードン(tp)、チャーリー・ラウズ(ts)、ジュニア・マンス(p)、Jimmy Schenck(b)、アート・ブレイキー(ds) という、実に味わい深いクインテットです。

A-1 Toll Bridge
 いきなりビンビンにブッ飛ばす真正ハードバップの名演ですが、この曲って、実はコールマン・ホーキンス(ts) が歴史的な名演とされる元祖ビバップの「Rifftide」と同じでは!?
 それゆえにワクワクするようなイントロのリフから痛快なテーマ合奏、さらに勢いに乗じて突進するジョー・ゴードンのトランペットが火の玉です。リズム隊の猛烈な後押しも凄い!
 さらに大運動会のようなチャーリー・ラウズ、手加減しないジュニア・マンス、熱いドラングで盛り上げていくアート・ブレイキー、野太いペースワークを響かせる Jimmy Schenck も頼もしいと思います。

A-2 Lady Bob
 クインシー・ジョーンズが書いた最高にカッコ良いファンキー曲で、粘っこいジュニア・マンスのピアノにゴスペルムードのドラムス&ベースがグルーヴィ♪♪~♪ もちろんフロントの2人による、絶妙の思わせぶりを入れたテーマ吹奏が、たまりません。
 そして強いバックピートに煽られたジョー・ゴードンのアドリブの熱さには、純粋な黒人ジャズの喜びが爆発しているようで、全くドキドキさせられます。続くチャーリー・ラウズの落ち着いた黒いムードも良いですねぇ~~♪ あぁ、ぶる~す!
 と、くれば、ジュニア・マンスにとっては十八番の展開ですから、短いながらも絶品のアドリブが冴えまくりですよっ♪ 本当に良い雰囲気が横溢しています。

A-3 Grasshopper
 これもクインシー・ジョーンズが書いたハードバップ曲で、その爽やかに躍動するテーマリフの楽しさがヤミツキになります。う~ん、このあたりは西海岸派の味わいもありますねぇ。
 しかしアドリブパートの熱気は、間違いなく黒人だけの強いピートに裏打ちされたものでしょう。とにかく勢い満点のジョー・ゴードンのトランペットからして、エキセントリックなビバップの鋭さと尚更に黒っぽい感性が上手く融合しています。
 またチャーリー・ラウズも幾分生硬なノリが逆に好ましく、何時も同じようなフレーズしか吹かないと酷評されることもある逆説的な名手の証明も、ここでは「逆もまた真なり」だと思います。
 さらにリズム隊のハードな感覚も素晴らしく、ズバリと核心を突いたジュニア・マンスは、やっぱり好きです。そしてアート・ブレイキーの奮闘にも熱くさせられますから、クライマックスのソロチェンジは、まさに「手に汗」ですし、続くラストテーマも爽快の極みです。

B-1 Flash Gordon
 おぉ、これはジャズメッセンジャーズのテーマ曲じゃないですかっ!?
 そして既に皆様がご推察のとおり、このセッションはプレ・メッセンジャーズなんですねぇ~♪ そう思えば、テーマリフにホレス・シルバー調のアレンジが入ってしまったのも納得です。
 ジョー・ゴードンのトランペットは不安定な部分をスリルに変換するという、禁断の裏ワザを使っていますが、それも結果オーライでしょう。私はそこが好きだったりするのです。
 またジュニア・マンスのピアノが意外にも正統派ビバップに偏っていながら、さらに温故知新の隠し味♪♪~♪ それゆえにチャーリー・ラウズのテナーサックスが苦笑いして登場する感じも、好ましいと思います。う~ん、またまた同じようなフレーズばっかり吹いてますよ。ニンマリするしかありませんねぇ~♪
 そしてクライマックスで激突するジョー・ゴードン対アート・ブレイキー! 時間切れの引き分けという感じが勿体なくも痛快です。

B-2 Bous Bier
 ラテン風味のファンキーメロディという、実にハードバップの美味しいところを凝縮した名曲です。ミディアムテンポのグルーヴィなムードも、このバンドならではの魅力が良く出ていると思います。
 それはジョー・ゴードンの秘められた歌心が上手く引き出されたことでも証明されるように、実はこれまたクインシー・ジョーンズの作曲というミソがあるのですねぇ~♪ おそらくはこのセッションの仕切りは、この若き天才ではなかったでしょうか?
 ジュニア・マンスも「A Night In Tunisia」のリフまでも使わされる快演ですし、熱い胸の内を吐露したようなチャーリー・ラウズのジワジワした迫り方には、グッと惹きつけられます。
 つまりこれは、前述した「A Night In Tunisia」の改作というのがタネ明かしかもしれませんね。しかし憎めないと思います。演奏か熱いですから♪♪~♪
 
B-3 Xochimilco
 これまた曲タイルのアナグラムからして、メキシコ調の陽気なビートとメロディが楽しいです。ライトタッチのフロント陣とずっしり重みも感じさせるリズム隊のバランスも秀逸でしょう。
 ジョー・ゴードンのアドリブには、悪いクセみたいなヒキツリも出てしまいますが、それも私にとってはアバタもなんとやら♪♪~♪ 全く微熱な恋愛模様ですし、チャーリー・ラウズの纏まりの悪いソロ展開にしても、その懸命さが好きだったりします。
 その点、リズム隊の安定感は抜群で、逆に面白くないほどですが、それは贅沢というもんでしょうね。

ということで、典型的なハードバップの名盤だと思います。

ちなみにこれは最初、前半の4曲だけが10インチ盤で発売され、後に後半の2曲を追加した12インチ盤として再発されたのが、ご紹介のLPです。全体の音作りは、エマーシー特有の明るくてパンチの効いたもので、これも多いに魅力ですが、実は10インチ盤と12インチ盤を比較すると、明らかに前者に軍配が上がるというのが、サイケおやじの素直な気持ちです。なんというか、音そのものが、尚更に強いんですねぇ。

ですから、それは忽ち「幻の名盤」と認定されています。そして私には高嶺=高値の花となりました。それでもこの再発盤を手にした時は、嬉しかったですよ。少なくとも「聴く」という基本的な行為を楽しめましたから! これは決して、負け惜しみではありません。

もうひとつ、贅沢を言わせてもらえば、このセッションには残り2曲の演奏が実在し、その「Evening Lights」と「Body And Soul」は、「The Jazz School」というアルバムに収録されています。これも欲しいなぁ……。

もしかしたらCD化されて、このセッションが全て纏められているかもしれませんね。

有名ではありませんが、機会があれば、ぜひともお楽しみ下さいませ。決して後悔しない、ハードバップに愛のある名盤だと思います。

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エルビンのコルトレーン継承盃

2009-02-20 11:21:53 | Jazz

Puttin' It Together / Elvin Jones (Blue Note)

心機一転とか、人生の転機とか、とにかく何かのきっかけが大切なのは、この世の常です。

で、このアルバムは稀代の剛腕ドラマーとしてジャズ史に名を刻するエルビン・ジョーンズが、ジョン・コルトレーンのバンドを辞して後のレコーディングですが、それは明らかにジョン・コルトレーンの1965年あたりまでの音楽性を引き継いだものです。

ちなみにエルビン・ジョーンズはジョン・コルトレーンとの音楽的、そして人間的な確執から1965年いっぱいでレギュラーから抜けていますが、その後、いくらも経たないうちにジョン・コルトレーンが天国へ召されたことが、このバンドでのレコーディングに何らかのきっかけを与えたという推察は容易だと思います。

録音は1968年4月8日、メンバーはエルビン・ジョーンズ(ds) にジミー・ギャリソン(b) の鬼より怖い2人組に加え、当時の新鋭として注目株のジョー・ファレル(ts,ss,fl,piccolo) という、爆発的なトリオです。

A-1 Reza
 誰もが一度は耳にしたと思われる有名なボサノバ曲を、このトリオは汗ダラダラの熱風暴虐の演奏にしています。エルビン・ジョーンズの激烈ポリリズムと勝手気ままに徘徊するようなジミー・ギャリソンのペースを尻目に、曲想を一から作り直すようなジョー・ファレルのテナーサックスというトリオが束になって襲いかかってきますよ。
 もちろんこれは、所謂黄金のカルテットと呼ばれたジョン・コルトレーンの1965年頃までの音楽性を規範にしていますから、ジョー・ファレルのテナーサックスがいくら頑張っても、ジョン・コルトレーンのような肉体的&精神性の極限までいってしまうところには及びません。ドラムスとベースが全く同じというところからして、それは物足りなさへ繋がるのが正直な気持ちです。
 しかしジョー・ファレルには、明らかに新感覚というか、ロック系のスマートなスピード感あって、演奏全体を重さから救う、ある種のしなやかさが私は好きです。

A-2 Sweet Little Maia
 ジミー・ギャリソンが書いた、飄々として粘っこい隠れ名曲です。
 作者自身の強靭なペースワークが全篇をリードしているのは当然ながら、ヘヴィなエルビン・ジョーンズのブラシと空間を自在に浮遊するジョー・ファレルのソプラノサックスが不思議な魅力を作り上げていますから、妙に麻薬的な効力がありますねぇ~。
 このあたりの感覚は、当時流行のサイケロックあたりと共通の味わいかもしれませんし、そういうリアルタイムのロックファンにはジョン・コルトレーンの演奏も御用達だった事実が、無関係とは思えません。
 クライマックスで聞かれるジミー・ギャリソンのペースソロには、これが終わるとジョン・コルトレーンが降臨されるような錯覚が、実にたまりません。

A-3 Keiko's Birthday March
 エルビン・ジョーンズが当時新婚のケイコ夫人に捧げた痛快曲♪♪~♪
 しかしこれは、ドナルド・バードやペッパー・アダムスが「The Long Two Four」として既に発表していた曲ですし、エルビン・ジョーンズもそこに加担していた「10 To 4 At The 5 Spot (Riverside)」収録のバージョンが最初にある以上、何かと憶測には楽しいものがあります。
 ここではエルビン・ジョーンズの豪快なマーチングドラムソロに始まり、アップテンポでブッ飛ばしてスカッとする演奏になっています。ジョー・ファレルがピッコロで鋭く迫れば、ジミー・ギャリソンの揺るがぬウォーキングベースが逆に目立つという、実に上手いバランスも良いですねぇ~♪
 そしてクライマックスにはエルビン・ジョーンズの大車輪ドラムソロが必然として登場! ヘヴィなビートと絶妙のタイム感覚、そして思わせぶりと爆発のタイミングが絶対的に熱い名演になっています。

B-1 Village Greene
 このアルバムでは、最もジョン・コルトレーンのイメージに近い演奏で、ジョー・ファレルもテナーサックスで重厚に、そしてウネウネクネクネと熱演! もちろんエルビン・ジョーンズのドラムスも当然の如く暴れていますし、ジミー・ギャリソンに至っては、完全にモロな世界を再現しているのが、全く嬉しいところ♪♪~♪
 今となっては、ある種の安心感が良い意味でのマンネリとして、ここに聞かれるのでした。 

B-2 Jay-Ree
 ジョー・ファレルの書いたスピード感満点のモード曲で、ポリリズムが炸裂するエルビン・ジョーンズのドラミングが絶対的な4ビートを敲いているとはいえ、秘められたロック感覚がジョー・ファレルのテナーサックスから迸っていると感じます。
 こういう疾走のフィーリングって、マイケル・ブレッカーあたりにも確実に引き継がれたのかもしれませんね。この頃のジョー・ファレルを聴くと、私はいつもそう思います。

B-3 For Heaven's Sake
 熱い演奏が続いたこのアルバムの中で、ようやく登場という唯一のスタンダード曲に和みます。
 ジョー・ファレルのフルートは優しく幻想的であり、ジミー・ギャリソンのアルコ弾きと協調する導入部から2人のインタープレイによるテーマメロディのフェイクまで、なかなかの高密度♪♪~♪ エルビン・ジョーンズのブラシによる控えめなサポートも好ましく、ちょっとヤミツキになるかもしれません。

B-4 Ginger Bread Boy
 オーラスはジミー・ヒースの代表作にして、多くのミュージシャンが演目にしている有名モダンジャズ曲ですから、ここでそのカッコ良いテーマを大馬力でやってくれたのは快挙です。
 そして何といっても、ズンドゴでドカドカ煩いエルビン・ジョーンズの暴虐のドラムソロをイントロにしたヘッドアレンジがシンプルで結果オーライ! その後の3者によるインタープレイ的なアドリブパートの予告篇となって、実に絶妙なのです。
 それは4ビートの快楽地獄でもあり、モード天国への階段でもありますから、大音量で聴かないと、ちょいと損した気分になるかもしれません。

ということで、これはジャズ喫茶の人気盤でもあり、これを聴いているとジョン・コルトレーンの黄金のカルテットが愛おしくなる、二律背反の名盤だと私は思います。

その意味で、ジョン・コルトレーンが神様だった時期の我が国ジャズ喫茶を体感したファンには、ジョー・ファレルが可愛そうな扱いになってしまうのですが、今にして思えば、リアルタイムで、これだけコルトレーンのスタイルを現代的な感覚で表現出来たサックス奏者は稀だったと思います。

未だデイヴ・リーブマンも、スティーヴ・グロスマンも、そして当然ながらマイケル・ブレッカーも第一線で注目される前だったのですから!

う~ん、後が続きません……。

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濃縮5倍のミンガス

2009-02-19 12:18:44 | Jazz

Mingus, Mingus, Mingus, Mingus, Mingus / Charles Mingus (Impulse!)

俺はお前のことを考えて、鬼のような事をする!

という言い訳が続く今日、この頃です……。

本当は相手の事よりも、自分が大切だという台詞に他なりませんね、これは。相手から鬼と思われても、納得するしかないのでしょうねぇ……。あぁ、哀し……。

というゴタゴタしてギトギトの日常から少しでも逃れるために、本日はこのアルバムを出してきました。

長ったらしいタイトルは、通称「ファイブ・ミンガス」と呼ばれる名盤で、ミンガス親分が集めた白黒混成の大型バンドが、デューク・エリントン風味に彩られた脂っこいモダンジャズを聞かせてくれます。

録音は1963年1&9月、メンバーはチャールズ・ミンガス(b) 以下、ロルフ・エリクソン(tp)、リチャード・ウィリアムス(tp)、エディ・プレストン(tp)、ブリット・ウッドマン(tb)、クェンティン・ジャクソン(tb)、ドン・バターフィールド(tu)、エリック・ドルフィー(as,fl)、チャーリー・マリアーノ(as)、ジェローム・リチャードソン(ss,bs,fl)、ブッカー・アーヴィン(ts)、Dick Hafer(ts,fl)、ジャッキー・バイアード(p)、ウォルター・パーキンス(ds)、ダニー・リッチモンド(ds) 等々が入り乱れの、基本は11人編成のバンドです。

A-1 Ⅱ B.S. (1963年9月20日録音)
 いきなり響きわたるミンガス親分の強靭なベースをイントロに、これが典型的なミンガス流儀のリフが熱く合奏され、そのアンサンブルにはデューク・エリントン楽団に敬意を表したというよりも、完全な真似っ子という彩が添えられています。
 このあたりはパクリというよりも、尊敬の念というか、「愛のあるいただき」でしょう。
 そしてアドリブパートではブッカー・アーヴィンとジャッキー・バイアードがモードも使った熱血、さらに温故知新の表現を聞かせてくれますが、やはり短い演奏時間の中に、カッチリと纏まったバンドアンサンブルが最大の楽しさに、思わずイェ~♪

A-2 I × Love (1963年1月20日録音)
 これも曲名は変えてありますが、ミンガス親分の以前のオリジナル曲を丹念にアレンジし直した演奏で、それはもちろん、デューク・エリントンの手法を忠実に取り入れたものです。参加したサックスプレイヤーがフルートからバリトンサックスまで、いろいろと持ち替えて作り上げるハーモニー、またブラス陣の細かい芸が本当に秀逸ですねぇ~♪
 ジョニー・ホッジスを思わせるアルトサックスはチャーリー・マリアーノでしょうか、なかなかにシビレますよ。

A-3 Celia (1963年1月20日録音)
 これもチャーリー・マリアーノのアルトサックスが大活躍する情念の名曲で、混濁したハーモニーを聞かせるバンドアンサンブル、さらにゴスペル風味のリズム隊が強烈なドライヴ感と芯の強いビートを聞かせてくれる名演です。
 全体のテンポは緩やかな部分と熱気に満ちたハードバップど真ん中のパートが交互に現れますが違和感は無く、グッと惹きつけられます。

A-4 Mood Indigo (1963年9月20日録音)
 これはご存じ、本家デューク・エリントン楽団の代表曲を完全コピーに近い雰囲気でカバーしていますが、しかし決してパロディとは思えない演奏です。
 特にミンガス親分のペースがソフトで深みのあるバンドアンサンブルと協調しながらも、強烈な自己主張を聞かせていますから、これは1939年頃から同楽団に在籍し、モダンベースの基礎を作ったとされるジミー・ブラントンへのトリビュートにもなっているようです。

B-1 Better Get Hit In Yo' Soul (1963年1月20日録音)
 これもまたミンガス親分の代表曲「Better Get It In Your Soul」の改作バージョンで、強烈にアクの強いゴスペルハードバップが堪能出来ます。アップテンポで突撃していくバンドの勢い、アンサンブルの混濁した状況と激しいリズム&ビートの嵐には、圧倒されると思います。
 ゴッタ煮のアドリブパートでは叱咤の掛け声や各種楽器の咆哮、さらに手拍子も賑やかに盛り上がっていく展開が、最後には予定調和へ収斂していくと思いきや、土壇場では痛快なカーテンコールが楽しいですよっ♪♪~♪

B-2 Theme For Lester Young (1963年9月20日録音)
 これも曲名は変えられていますが、実はミエミエに有名な「Goodbye Pork pie Hat」がデューク・エリントン風味にアレンジされた、ミンガス親分会心のオリジナルです。
 スローで、そこはかとない佇まいが強く滲むテーマメロディとハーモニーの麻薬的な魅力は、プッカー・アーヴィンの秘めた情熱のアドリブでさらに濃縮され、ジワジワと効いてきます。

B-3 Hora Decubitus (1963年9月20日録音)
 初っ端から熱いミンガス流儀のハードバップが大編成で演じられるという、この快感がたまりません。イケイケでグイノリのバンドアンサンブルは、参加メンバーがそれぞれの役割をしっかりと果たしながら、決して迎合していません。
 そういう挑戦的な姿勢はアドリブパートで尚更に鮮明となり、ブッカー・アーヴィンからエリック・ドルフィーへと繋がる背後では怖いリフ、おまけに強烈な存在感を示すミンガス親分の4ビートウォーキングがありますから、一瞬の油断が命取り!
 ですからリチャード・ウィリアムスのトランペットが、つんのめったような勢いになるのもムペなるかな! もはやバンドの全員が火の玉となった大熱演です。

ということで、演目のほとんどはミンガス親分ではお馴染みの名曲ばかりですから、案外と聴き易い仕上がりだと思います。しかもコクがあって熱気に満ちた演奏は、モダンジャズでは特級の名演ばかり! ある意味ではチャールズ・ミンガスのベスト盤かアンソロジー的な面白みもあるように思います。

ちなみにジャズ喫茶ではB面が定番だと思われますが、個人的にはA面でのチャーリー・マリアーノの活躍が印象的で、自宅ではこちらを聴くことが多いと、告白しておきます。

それと同時期のセッションからは、もう1枚、「The Black Saints & The Sinner Lady (Impulse!)」という凄いアルバムも作られていますから、合わせてお楽しみ下さいませ。

コメント (2)
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