OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ローランド・カークの涙は溢れて

2009-03-31 10:34:16 | Jazz

The Inflated Tear / Roland Kirk (Atlantic)


ローランド・カークの数あるリーダー作の中で、恐らくは一番に安定感のある、つまり普通に聴いて違和感の無い名盤が、このアルバムじゃないでしょうか? 実際、ガイド本でも推薦されることが多いように思います。

なにしろローランド・カークという天才は、ジャズという定義に縛れない自由な感性が強く、それは盲目という現実との関連は否定出来ないでしょう。それゆえにリスナーは妙に構えてしまうことも、また否定出来ません。

このジャケ写からも強い印象を受けてしまう、様々に独自考案した管楽器の同時吹きとか、他にもいろんな楽器を自在に操るという、ちょいとゲテモノ系の演技演出も、聞かず嫌いの要因だと思います。

しかし、一端虜になったが最後、全てを聴かずに死ねるかの代表選手かもしれません。そしてこのアルバムは、その入口には最適で、演目も1曲を除いてローランド・カークのオリジナルです。

録音は1968年11月30日、メンバーはローランド・カーク(fl,ts,Manzello,strich,cl,etc.)、ロン・バートン(p)、スティーヴ・ノボセル(b)、ジミー・ホップス(ds) という当時のレギュラーバンドに、ディック・グリフィン(tb) が部分的に参加しています。

A-1 The Black And Crazy Blues
 陰鬱な、ちょっとニューオリンズあたりの葬列の音楽みたいなメロディが印象的ですが、ローランド・カークはソプラノサックスが猫の鳴き声のように響く、おそらくはマンゼロという楽器を吹いているのでしょう。とにかく、その切々としたメロディの魅力が心に滲みこんでまいります。
 ロン・バートンのブルースロックな、如何にも粘っこいピアノもイヤミがギリギリの素晴らしさ♪♪~♪ 終盤ではローランド・カークの得意技という複数管同時吹きによるホーンのハーモニーが被さってきますから、このハートウォームな雰囲気は最高です。
 ちなみにローランド・カークは自分の葬式には、この曲を演奏して欲しいと遺言していたか……。さもありなんの感涙です。

A-2 A Laugh For Rory
 冒頭には短く、ローランド・カークの愛する息子の声が入っているとおり、フルートによる子供向けの曲のような、ちょいとキュートなメロディが印象的です。
 しかしそれが一転、アドリブパートに入っては躍動的な4ビートでウネリの至芸を披露してくれるんですねぇ~♪ 唸り声を巧みにフルートの音色とシンクロさせるあたりは、もっと聴いていたいと思うほどです。
 またロン・バートンの正統派ジャズピアノの疾走も良い感じ♪♪~♪

A-3 Many Blessings
 野太いテナーサックスが咆哮する、ジャズの中のモロジャズ演奏!
 幾何学的なテーマアンサンブルを経て突入するアドリブパートでは、あの息継ぎ無しにジルジルと吹きまくる、ローランド・カークの超人的な大技が満喫出来ますし、なによりも真っ向勝負の姿勢が最高です。
 ロン・バートンのピアノも極めて真っ当なスタイルを追求していますが、それはドラムスやベースも同様ですから、ローランド・カークの真の実力が認識されると思います。 
 
A-4 Fingers In The Wind
 これが信じられないほどに静謐で美しいメロディの隠れ名曲♪♪~♪ それをフルートでじっくりと奏でてくれるローランド・カークが神様に思えるほどです。背後を彩るロン・バートンのピアノが、これまたイヤミのギリギリという十八番がニクイほどです。
 う~ん、それにしても、ここで遺憾なく発揮されるローランド・カークの美しき感性は、所謂ビューティフル♪♪~♪

B-1 The Inflated Tear
 アルバムタイトル曲は最初、ちょっと前衛的な打楽器やベースの絡みが危ない雰囲気ですが、それが終わるとローランド・カークが複数管同時吹きで重厚なハーモニーを響かせ、じっくりとした悲しいメロディを提供してくれます。
 いったい、どんな楽器を吹いているのか分からないのが悔しいほど、それは哀切の「歌」なんですねぇ……。そして複数管同時吹きによるアクセントの上手い使い方とか、本人の激情が迸ったような叫び声的な台詞云々!
 完全に作り物の世界かもしれませんが、これもジャズとして充分に楽しめると思います、。

B-2 The Creole Love Call
 収録曲中、これだけがデューク・エリントンの有名なオリジナル曲です。そしてローランド・カークとバンドは、作者の意図を大切にした南部風のムードやゆったりしたジャズの味わいを徹底追及! もちろんローランド・カークは複数管同時吹きで絶妙のエリントンハーモニーを再現し、リズム隊も素晴らしいジャズの本質を演じてくれます。
 あぁ、この和みとジャズを聴く喜びの満喫感♪♪~♪ 様々な楽器を吹きながら、しぶといアドリブをやってしまうローランド・カークにも脱帽ですし、それゆえにカルテットとは思えないバンドカラーが見事ですねっ♪

B-3 A Handful Of Fives
 アップテンポの躍動的な演奏で、ソプラノサックス系の音が出るマンゼロという楽器を使い、モード系のアドリブに専心するローランド・カークに激しく対峙するリズム隊という構図は、完全にジョン・コルトレーンのバンドを模倣しているようです。
 というか、これは「愛のある」パロディ?
 ちなみにローランド・カークは、この手の演奏をライブの現場では定番にしていたほどのエンタメ系でもありますが、もちろんそれは真摯なジャズ魂の発露でしょうね。そう思う他は無いほどに楽しいです。

B-4 Fly By Night
 これまたジョン・コルトレーン風のモード系バンド演奏で、ディック・グリフィンのトロンボーンが加わっている所為でしょうか、ちょいとブルーノートの新主流派っぽい雰囲気です。
 特にロン・バートンのピアノは小型マッコイ・タイナー! そしてベースはレジー・ワークマン、ドラムスはジョー・チェンバース? という目隠しテストの結果が出たとしても、あながちミスとは……。
 もちろんローランド・カークはテナーサックスで熱演です。

B-5 Lovellevelliloque
 なんだか意味不明の曲タイトルですが、演奏そのものはアップテンポの正統派モダンジャズですし、モードを使いながら、独特の痙攣フレーズを連発して山場を作るローランド・カークは、ここでもジョン・コルトレーンに帰依しているようです。
 それはロン・バートン以下のリズム隊にしても同様なんですが、ここまでの流れをジョン・コルトレーンの「物真似ごっこ」と決めつけては、ミもフタもないでしょう。素直に聴いて熱くさせられる名演だと思いますが……。

ということで、終盤の3曲はちょっと同一の雰囲気がマンネリ気味とはいえ、なかなか正統派として楽しめアルバムだと思います。それはローランド・カークの資質を尊重しながら拡大解釈したとしか思えないジョエル・ドーンのプロデュース、それを信頼して好きなことをやってしまったローランド・カークの潔さという、上手い成功例じゃないでしょうか?

それゆえに受け止められない部分も、確かにあると思います。しかし、そのちょっと突き抜けた感性は、やはりジャズ者の琴線にふれるでしょう。

ちなみにローランド・カークのライブは素晴らしく、それに接するとスタジオ録音が虚しくなるとまで言われますが、私は体験したことがありませんし、確かにライブ盤に記録された熱いギグは魅力的ですが、スタジオレコーディングも、ある意味で完成された独特の世界が、どんなアルバムにも表出されていると思います。

その強烈な存在感ゆえに、なかなか虚心坦懐に聴けないローランド・カークの作品中、これは例外的にストレートな仕上がりじゃないでしょうか。名盤扱いもムベなるかな!

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ウェス・モンゴメリーの凄い映像集

2009-03-30 11:46:52 | Jazz

Wes Montgomery All Stars Live In Hamburg 1965 (Jazz Shots = DVD)

最近の復刻は特に映像物でも活況らしく、ついにこんなブツまで登場! 昨日発見して、速攻でゲットしてきました。

内容はウェス・モンゴメリが1965年に招かれた欧州巡業の日々から、メインはタイトルどおりにドイツでのテレビショウという、超お宝映像がモノクロで約33分♪♪~♪ これは以前、死ぬほど画質の悪いブートビデオで出回っていたこともありますが、今回は一応、オフィシャルということで、画質は良好♪♪~♪

そしてボーナストラックとして、これはお馴染み、同年のイギリスにおけるテレビショウからウェス・モンゴメリーのカルテットによる演奏が約35分入っていますが、既に他メーカーでDVD化済み映像のリマスターです。

さらにもうひとつ、これもブートビデオでは定番という、アメリカでの1967年のテレビショウから1曲がオマケです。

☆1965年4月28日、ドイツでのテレビショウ
 メンバーはウェス・モンゴメリー(g)、ハンス・コラー(as)、ジョニー・グリフィン(ts)、ロニー・スコット(ts)、ロニー・ロス(bs)、マーシャル・ソラール(p)、Michel Gaudry(b)、Ronnie Stephenson(ds) という超豪華! 結論から言うと、主役はウェス・モンゴメリーとは言いながら、他のメンバーの見せ場も存分に用意されいますし、既に述べたように画質はAランク♪♪~♪ カメラワークも、こちらが見たいところを、しっかりと映し出しています。

01 Blue Grass
 三々五々、スタジオに参集してくるメンバーは普段着姿で、英語、ドイツ語、フランス語がゴッタ煮の会話から、既に和気藹々の良い雰囲気です。チューニングでのスケール練習で、物凄いフレーズをさらりと演じるのはマーシャル・ソラール!
 そして始まるのが、ロニー・ロスが書いたシビレるハードバップの隠れ名曲で、躍動的なリズムに乗っかって痛快なサックス陣の合奏にはワクワクさせられますよ♪♪~♪
 さらにアドリブパートでは、軽い感じのウェス・モンゴメリーは挨拶代わりかもしれませんが、続くロニー・スコットは本気度の高い熱血節ですし、ハンス・コラーは本来のクールスタイルから激情派に転向していたツッコミを披露!
 しかし後を引き継ぐロニー・ロスのバリトンサックスは自分で苦しんでいるようですねぇ……。う~ん、不調なのか……? と思っていると、ジョニー・グリフィンが不滅のブッ飛ばし! マーシャル・ソラールが十八番のスクランブルなピアノも強烈です。
 そして最後にはウェス・モンゴメリーのオクターブ奏法がドラムスを翻弄するソロチェンジですよっ♪♪~♪ 映像では、いとも簡単に物凄いギターワークを演じるあたりに、ますます仰天させられます。ドラマーも必死ですが、間髪を入れずのラストテーマの合奏も最高!
 各人のアドリブは短いのですが、このカッコ良さ! その密度の濃さにシビレがとまりません♪♪~♪

02 On Green Dolphen Street
 これはマーシャル・ソラールがメインのトリオ演奏で、モダンジャズでは良く知られたスタンダード曲を素材にしながら、綿密なアレンジやキメが怖いほどに決まっているところから、このトリオは当時のレギュラーだったのかもしれません。
 アップテンポでの激しい3者の絡み、マーシャル・ソラールの唯我独尊というメチャ弾きは好き嫌いがあるかもしれませんが、ドラムスとベースもヤバイほどに真摯なジャズ魂を発散させた名演だと思います。
 それを見ているサックス陣のニンマリ顔も印象的ですね♪♪~♪ このあたりは映像作品の良さでしょう。もちろんカメラワークも秀逸ですよ。

03 Blue Monk
 前曲から続くスタジオ内の良い雰囲気は、ウェス・モンゴメリーのギターの合の手とか、メンバー間のジョークや笑い声がなかなかのお楽しみでしょう。
 そして始まるセロニアス・モンクの有名オリジナルは、ジョニー・グリフィンが主役を務めるワンホーン演奏♪♪~♪ もしも作者がその場に居たら、ちょっと激怒かもしれないテーマのフェイクも、実はグリフィン節の一部分という熱血が、たまりません。
 剛直なビートで煽るリズム隊も素晴らしく、硬質なハードバップのブルース大会を見事に演出してくれますから、ウェス・モンゴメリーもセンスの良い伴奏のオカズ入れ、さらには短音弾きからオクターヴ奏法へと盛り上げていくアドリブが、その映像で確認すると本人のニンマリ顔も印象的です。う~ん、親指だけの弾き方とか左手の運指とコードの押さえ方が、実に興味深いですねぇ~♪ これも映像作品の楽しみだと思います。
 それはマーシャル・ソラールのピアノやベースが選ぶコードの妙、さらにタバコで一服というウェス・モンゴメリーのシブイ仕草♪♪~♪ 何度観てもシビレます。

04 Last Of The Wine
 曲間の笑いとかチューニングが、この演奏前にも印象的ですが、特にウェス・モンゴメリーが弾いてしまうバラード系歌物フレーズの一節が良い感じ♪♪~♪
 そして始まるのが、ロニー・ロスが書いた典型的なモード曲で、例えば「So What」調の雰囲気ですから、作者本人の苦しんだバリトンサックスに続いて、実に軽やかに飛翔していくウェス・モンゴメリーのギターが鮮やかです。実際、映像で確認出来るフレーズの運指を見ているだけで、ギター好きならば血が騒ぐでしょう。こういう天才にはモードもフリーも関係無いというジャズ魂が凄いと思います。
 また独特の浮遊感が魅力というハンス・コラーのモード吹きも痛快至極! 背後から襲いかかってくるサックス陣のリフも楽しく、続くマーシャル・ソラールのピアノにしても、恐ろしいばかりのテクニックに裏打ちされたドライヴ感が凄すぎ!
 締め括りのフレーズを軽々とやってしまうところから、繋ぎのバラードをちょこっと聞かせるウェス・モンゴメリーも憎めませんね♪♪~♪

05 West Coast Blues
 そして最後はウェス・モンゴメリーが書いたワルツビートのブルースで、重厚なサックス陣の合奏を従え、自然体のハードバップフレーズを連発する作者のギターは、やっばり凄いですねぇ~♪ 特に親指ピッキングだけで、これだけの強いアタックと音色のコントロールを演じてしまうのは驚異的だと思います。十八番のオクターブ奏法も冴えまくりですよ。
 映像で確認して気がつくのは、その軽い雰囲気というか、決して力まない弾き方が吃驚するほどです。

ということで、今回の発掘はここまでなんですが、映像では曲の終りに、まだまだ続きがありそうな雰囲気です。なんか楽しい余韻がニクイですよ。

画質&音質が共に良好ですから、これはぜひともご覧くださいませ。

☆1965年3月25日、イギリスでのテレビショウ
 これは既に度々パッケージ化されてきたソースで、人気ジャズ番組だった「JAZZ 625」からの発掘モノクロ映像♪♪~♪ 当然ながら画質はAランクですし、カメラワークも健実です。
 メンバーはウェス・モンゴメリー(g)、ハロルド・メイバーン(p)、アーサー・ハーパー(b)、ジミー・ラブレイス(ds) という、この欧州巡業ではレギュラーのバンドですから、演奏の纏まりやアドリブの充実度には安定感が抜群ですよ。

06 West Coast Blues / Theme
07 Yesterdays
08 Jingles
09 'Round Midnight
10 Twisted Blues
11 Full House
12 West Coast Blues / Theme

 上記の演目の中では、じっくりと歌心を醸成していく「Yesterdays」や「'Round Midnight」が、今や語りつくされた名演ですが、強烈なグルーヴが噴出した「Jingles」でのウェス・モンゴメリーこそが、最も真髄だと思います。とにかく流麗な短音弾きのフレーズ展開からオクターヴ奏法、さらに白熱のコード弾きと展開される怒涛のアドリブは圧巻! それが良好な映像で確認出来るのですから、長生きはするもんです。
 共演者では基本はモード節ながら、実にセンスの良いハロルド・メイバーンが熱演ですし、若気の至りも好ましいハービー・ハーパー、ロックやR&Bの味わいも秘めたジミー・ラブレイスの4ビートドラミングが、やはり本場の底力でしょう。
 お目当ての「Full House」は、あの名盤テイクに比べれば軽い感じですが、それでもウェス・モンゴメリー独特の開放感のあるアドリブ展開には、美メロのフレーズが満喫出来ますし、中盤からのオクターヴ奏法の乱れ打ち、そして終盤のバンドアンサンブルが、実に楽しいです。
 映像全体としては、既発のブツよりも映像がイマイチ劣化している部分もありますが、なによりも、あのフレーズはこうやって弾いていたのか!? という両手の使い方を見せてくれるウェス・モンゴメリーは凄い人!

☆1967年6月、アメリカのテレビショウ
 大ヒットアルバム「A Day In The Life (CTI)」に関連したテレビ出演の映像で、当時はテレビトラックと呼ばれていたカラオケのオーケストラをバックに、ウェス・モンゴメリーが短い演奏を聞かせてくれます。

13 Windy

 もちろんこれは尻切れのフェードアウト演奏になりますが、ウェス・モンゴメリーのアドリブはスタジオバージョンとは完全に異なる、その場のリアルな生演奏だと思います。
 ただし画質はB……。しかも以前に出回っていたブートビデオではカラー版もあったはずですが、ここではモノクロというのが残念です。

ということで、なかなか貴重で楽しめるDVDだと思います。

ちなみに曲のチャプターは、ジャケット裏解説に従ってここに記載しましたが、実際は「06」からがボーナストラック扱いとなり、チャプター番号が「01」からの仕切り直しになっていますから要注意でしょう。しかし普通に鑑賞するには、何ら問題はありません。

こういうブツが突然に発売されるのは大歓迎♪♪~♪

そして、これを観ても、同じように弾けるわけではありませんが、ついついコピーしたくなって、ギターを抱えてしまうのでした。

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実直派カーメル・ジョーンズ

2009-03-29 09:20:46 | Jazz

Jay Hawk Talk / Carmell Jones (Prestige)

ジャズ喫茶の人気盤になる条件として、ちょっと知名度の低い実力者の派手なリーダー盤といういことになれば、本日ご紹介のアルバムも、そのひとつでした。

リーダーのカーメル・ジョーンズは1960年頃から西海岸で活躍していた黒人トランペッターで、ビックバンドの一員として、あるいは自己名義のアルバムも出している実力者でしたから、ついに1964年になってホレス・シルバーのバンドレギュラーに抜擢され、ニューヨークへと進出することになったようですが、同バンドでの素晴らしい演奏は名盤「Song For My Father (Blue Note)」に、しっかりと記録されています。

で、このアルバムは、ちょうどその当時に吹き込まれたリーダー作で、録音は1965年5月8日、メンバーはカーメル・ジョーンズ(tp)、ジミー・ヒース(ts)、バリー・ハリス(p)、ジョージ・タッカー(b)、ロジャー・ハンフリーズ(ds) というバリバリの面々です。

A-1 Jay Hawk Talk
 当時流行の典型的なジャズロック演奏ですが、ジョージ・タッカーのハードエッジなペースワークを要にした、かなり硬質のグルーヴが心地良い限り!
 そしてカーメル・ジョーンズのトランペットが真っ黒なモダンジャズの真髄を聞かせてくれますよ♪♪~♪ なんというか、エグイ分かり易さなんですねぇ~♪
 するとジミー・ヒースが、これまた過激なツッコミに下品なフレーズ展開という熱血的な素晴らしさ! それに乗っかってしまったようなバリー・ハリスの戸惑いも結果オーライというか、それもこれも、ジョージ・タッカーの強烈な存在感ゆえだと思います。
 尻切れとんぼ気味のラストテーマの潔さも印象的ですね。

A-2 Willow Weep For Me
 そして、せつせつと真っ黒に演じられブルース歌謡の名曲が続きます。テーマメロディを素直にフェイクしていくカーメル・ジョーンズは、やはりクリフォード・ブラウン系の名手の自覚が見事!
 続くバリー・ハリスも本領発揮の地味~な良さが滲み出る名演ですし、ここでもエグイばかりのジョージ・タッカーが、激烈なペースワーク!
 全体はシンプルな演奏に仕上げられていますが、ハードバップの王道が楽しめます。

A-3 What Is This Thing Called Love
 これも有名なスタンダード曲にして、モダンジャズではクリフォード・ブラウンの決定的な名演がありますから、カーメル・ジョーンズも神妙に全力を尽くした快演になっています。
 ストレートなテーマアンサンブルからジミー・ヒースがジルジルと吹きまくるテナーサックスの真っ向勝負! 初っ端からハッスルしまくったリズム隊の痛快4ビート! そして懸命に前向きなアドリブを披露するカーメル・ジョーンズの果敢な挑戦!
 全てが正統派ハードバップとして、好感の持てる演奏だと思います。

B-1 Just In Time
 これまたリー・モーガンの隠れ名演が残されている軽やかなスタンダード曲ということで、カーメル・ジョーンズにしても自信に溢れたテーマ吹奏から、既に熱いものが感じられます。そしてアドリブパートに至っては、流麗なフレーズ展開で、完全なる歌心優先主義を披露するのです。
 また露払いを務めるジミー・ヒースのテナーサックスも正統派のイキイキとしたものですし、バリー・ハリスの余裕たっぷりにスイングするピアノも最高♪♪~♪

B-2 Dance Of The Night Child
 カーメル・ジョーンズが書いたマイナー調のファンキー曲で、ハードエッジなアクセントが冴えたリズム隊のキメが、テーマメロディをさらに熱いものにする快演が、これです。
 アドリブ先発のバリー・ハリスも、そのあたりは心得たハードドライヴな節回しが最高ですし、グイノリにして強靭なジョージ・タッカーのペースワークにも、グッと惹きつけられるでしょう。
 そしてカーメル・ジョーンズが渾身のファンキートランペット! クリフォード・ブラウン直系のフレーズに加え、ちょっと硝煙反応に近いような、独自の個性もしっかりと聞かれますよ。続くジミー・ヒースのダークなテナーサックスも高得点!
 さらにお待ちかね、ジョージ・タッカーの剛球ペースソロが凄いです! そのまんまの雰囲気で繋がっていくラストテーマのカッコ良さも、実にたまりませんねっ♪♪~♪

B-3 Beepdurple
 これも当時の流行だったラテン系ハードバップですが、アドリブパートはアップテンポの正統派4ビート♪♪~♪ この軽やかなノリをしっかりと熱くしていくジョージ・タッカーのペースも、一際に強い印象を残します。
 そしてカーメル・ジョーンズのトランペットが伸びやかに歌うんですねぇ~♪ ホレス・シルバーのバンドでは同僚のドラマーだったロジャー・ハンフリーズとのコンビネーションもバッチリですから、禁断のブラウニーフレーズの連発も大歓迎です。
 さらに熱烈前進のジミー・ヒース、ビバップ魂を継承しているバリー・ハリス、トドメの地響きペースソロを披露するジョージ・タッカーと続くアドリブの痛快さは、演奏全体をグングンと熱くしていくのでした。

ということで、演目の流れにメリハリの効いたA面、如何にもハードバップど真ん中のB面というアルバム構成は人気盤の必要十分条件を満たしていますから、ジャズ喫茶では鳴りだした瞬間にお客さんが飾ってあるジャケットを思わず見てしまう情景が日常茶飯事でした。

確かアナログ盤時代は日本未発売だったんじゃないでしょうか? そのあたりもジャズ喫茶の人気盤の必須条件でしょうねぇ。現在のCD化の状況は不明ですが、聴けば忽ち気のなること、請け合いです。

ちなみにカーメル・ジョーンズはこの後、欧州へと活動の拠点を移してしまい、現地でも幾つかの録音を残していますが、結局は短かったニューヨーク時代が最高の輝きだったと思います。そのあたりはブッカー・アーヴィン(ts) やチャールズ・マクファーソン(as) との共演盤等々にも鮮やかに記録されていますので、いずれは取り上げる所存ですが、こういう実直派が本場の第一線では、必ずしも満足に活動出来なかった当時の状況の厳しさは……。

後頭部ショットのジャケットも暗示的ですねぇ。

しかしそういう人こそが、ジャズ者には気になる存在として、残された演奏はいつまでも聴き継がれるものでしょう。このアルバムも、そのひとつと確信しています。

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ホーキンス&ウェブスターの最高タッグ

2009-03-28 12:23:17 | Jazz

Coleman Hawkins Encounters Ben Webster (Verve)

昨日はトロンボーンの素敵な協調盤を取り上げましたが、その後、私は自分で刺激され、こんなアルバムまで聴いてしまったです。

コールマン・ホーキンスとベン・ウェブスターは、ジャズが本当にジャズらしくなった1930年代からの大御所テナーサックス奏者として、何時の時代に聴いても最高のプレイヤーでしょう。モダンだ、モードだ、というジャンルなんて、この2人がひとつの音を出した瞬間に虚しいものへ変わり果てるのですから!

で、このアルバムは、その2人が共演しての熱いジャズ魂が、最高の形で記録された人気盤♪♪~♪

録音は1957年10月16日、メンバーはコールマン・ホーキンス(ts)、ベン・ウェブスター(ts)、オスカー・ピーターソン(p)、ハーブ・エリス(g)、レイ・ブラウン(b)、アルヴィン・ストラー(ds) という極上のバンドです。

A-1 Blues For Yolande
 オスカー・ピーターソンがリードするリズム隊がニューオリンズ風のR&Bグルーヴを設定した後、巨匠2人のテナーサックスが堂々のブルースリフを吹いてくれる、ただそれだけで大満足してしまう演奏です。あぁ、このゆったりとして懐の深い、これぞっ、ジャズ本来の魅力に酔わされますねぇ~♪
 そしてコールマン・ホーキンスの力んだ節回しに続いては、ベン・ウェブスターのマイルドなシビレ節! このアドリブの似て非なる個性の饗宴にはテナーサックスの真髄が、間違いなく潜んでいると感じます。

A-2 It Never Entered My Mind
 モダンジャズではマイルス・デイビスの名演が決定版して良く知られたメロディも、ベン・ウェブスターがこの曲の真相を明かしたような最高のメロディフェイクを聴いてしまえば、尚更に感銘するほかはありません。
 実際、ここでのソフトな情感の溢れる泉の如きインスピレーションは極上♪♪~♪ それに続くコールマン・ホーキンスの男気の吹奏にも、ハードボイルドな感傷がたっぷりと表現されていますから、あぁ、こういう生き様は男の憧れでしょうか……。
 こういう人に、私はなりたい!
 ラストテーマの消え入りそうな心情吐露も、ベン・ウェブスターの十八番にして余人の真似出来る境地ではないでしょうね。リズム隊のシブイ助演も全篇で味わい深いと思います。

A-3 La Rosita
 キャバレームードのラテン曲ですが、ここまでソフト&ディープに演奏されたのも、この2人ならではの幸せな結末でしょう。とにかくリズム隊の全て分かっているサポートも素晴らしく、テーマアンサンブルからコールマン・ホーキンスのメロディフェイクの雰囲気の良さは畢生です。硬質なサブトーンが冴えまくりですよっ♪♪~♪
 そして、そこに寄り添ってくるベン・ウェブスターの存在感も流石の一言! もうここだけで全てが最高としか言えません。
 またアドリブパートでの4ビートの力強さは、グルーヴィなミディアムテンポのお手本ですから、ここも侮れませんねぇ。 

B-1 You'd Be So Nice To Come Home
 モダンジャズの演奏ではアート・ペッパーが最高とされる有名スタンダードですが、どっこい、このベン・ウェブスターのメロディフェイクには完全に脱帽させられるでしょう。
 オスカー・ピーターソンが作りだす小気味良いイントロから続くテーマ演奏こそが、この曲の最も美味しい部分を見事に抽出したものだと思います。じっくりと弾んだリズム隊のスイング感も抜群ですから、御大のアドリブも流石の素晴らしさですよ♪♪~♪
 そしてオスカー・ピーターソンの思わずニヤリのアドリブから、いよいよ登場するコールマン・ホーキンスが、何時もの力みを控え目にしつつも、実にハートウォームな存在感♪♪~♪
 それゆえにラストテーマのアンサンブルでは、ますます心がジンワリと温まってくる大名演だと思います。
 
B-2 Prisoner Of Love
 これがまたテナーサックスによるジャズの魔法に酔わされるという、決定的な名演です。意図的にスイングビートを強調したリズム隊も分かっていますし、御大両巨匠がサブトーンと歌心、任侠と男気の共演という、まさに昭和残侠伝! いやいやそんな泥クサイもんじゃないですね。スマートでジェントルな良さもたっぷりという、ハードボイルドのジャズ的な展開とでも申しましょうか、最高です。
 ちなみに先発でテーマメロディをリードしていくのがコールマン・ホーキンス、ラストテーマをしぶとくフェイクするのがベン・ウェブスターだと思いますが、そんな些細なことは、演奏全体の大きな魅力の前に関係ないでしょう。

B-3 Tangerine
 通常はアップテンポでの演奏というスタンダード曲も、この両巨頭にかかってはスローテンポの歌心優先主義というムードがたまりません。オスカー・ピーターソンの伴奏も最高に味の世界ですよ♪♪~♪
 コールマン・ホーキンスが抑えた気味に感傷的なメロディを綴れば、ベン・ウェブスターは十八番のマイルドなサブトーンが魅力全開♪♪~♪ このたっぶりとした表現は、まさにベテランの貫禄とは一概に決めつけられない奥深さが凄いと思います。
 ふふすすすぅ~、というテナーサックスの魅力が、ここに極まっていますね。
 
B-4 Shine On, Hervest Moon

 この大らかなノリこそが、アルバムの締め括りに相応しいという、素敵なスタンダード曲の大人の解釈♪♪~♪
 少しずつ強いグルーヴを作りだしていくリズム隊に気持ち良く乗っかってしまう2人の巨匠という、実に憎めない展開が楽しいですねぇ~♪ 穏やかさと力みのバランスも秀逸だと思います。

ということで、キャリア的にはコールマン・ホーキンスが先輩という位置付けではありますが、お互いの尊敬の念が滲み出たハートウォームな雰囲気は最高! ベン・ウェブスターにしても決して二番煎じでは無い、堂々の個性を見事に発揮していますから、慣れ合いなんてこともありません。

大物対決にありがちな肩透かしも全く無いですし、セッション全体の凄味や緊張感が見事にリラックスした良い感じに収斂しているのです。

ちなみにこの時のレコーディングには他にも凄い演奏が残されていて、それは他アルバムやSP盤等々に分散収録されいますので、要注意でしょう。そこには一人舞台のワンホーン演奏もあるのですが、おそらく最近の復刻CDならば上手く纏められているんじゃないでしょうか?

とすれば、これはぜひとも聴いていただきたい名盤の中の大名盤♪♪~♪

実は告白すると、このアルバムの存在を知った当時の私は、ギンギンのガチンコバトル盤だと思い込んでいたのですが、一聴して、このシブイ男の世界にKOされた過去があります。 ぜひ、どうぞ!

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春の和みのJ&K

2009-03-27 12:32:40 | Jazz

K + J.J/ Kai Winding & J.J. Johnson (Bethlehem)

同一楽器プレイヤー同士のバンドの演奏といえば、ジャズでは対決バトル物がお決まりですが、しかし中には飛びぬけて素晴らしい協調性を重んじたグループも確かにありました。

例えば本日の主役たるカイ・ウィンディングと J.J.ジョンソンの2人は、共に優れたトロンボーン奏者ですが、彼等が1954年秋頃から組んでいたレギュラーバンドも、そのひとつでした。

もちろんお互いを意識したライバル的なアドリブ合戦は、その端緒となったライプ盤「An Afternoon At Birdland (RCA)」にも記録されいるとおり、熱いものがあります。しかし基本は、対決よりもアンサンブルの面白さとかアドリブとアレンジの両立という、非常にスマートな楽しさが魅力だったと思います。

さて、このアルバムは、そうした長所が遺憾なく発揮された代表作でしょう。

録音は1955年2月26&27日、メンバーはカイ・ウィンディング(tb,arr)、J.J.ジョンソン(tb,arr)、ディック・カッツ(p)、ミルト・ヒントン(b)、ウェンデル・マーシャル(b)、アル・ヘアウッド(ds) という素晴らしいバンドです。

 A-1 Out Of This World
 A-2 Thou Swell
 A-3 Lover
 A-4 Lope City
 A-5 Stolen Bass
 B-1 It's All Right With Me
 B-2 Mad About The Boy
 B-3 Yes Sir, That's My Baby
 B-4 That's How I Fell About You
 B-5 Gong Rock

上記のような演目のアレンジはA面が J.J.ジョンソン、B面がカイ・ウィンディングということで、似て非なる資質が上手く別れて楽しめるようになっています。

もちろん演奏では両者のトロンボーンが素晴らしいアドリブの競演を聞かせてくれますが、そのスタイルは小刻みなフレーズを使い、メカニカルなキメを多用するのが J.J.ジョンソン、闊達で躍動的なのがカイ・ウィンディングという聞き分け方を、私はしています。

ただし私有のこのアルバムはモノラルミックスですから、そこに拘ると、ちょいと素直に楽しめません。ゆえに本日は曲毎の文章は割愛した次第です。

演奏そのものに仕込まれたアレンジの妙、ハーモニーの魔法、トロンポーンという楽器特有のホノボノ感と爆裂熱血の豪快な音の楽しみ♪♪~♪ そういうものに身も心も自然の委ねられてしまう傑作トラックばかりだと思います。

例えば冒頭の「Out Of This World」は良く知られたメロディのスタンダード曲ですから、ここでのアンサンブルは尚更に楽しめるわけですが、それを見越したかのように、明確なアドリブパートが現れないという潔さ!

そして続く「Thou Swell」では、アップテンポのアドリブ合戦という流れが最高の目論見として秀逸です。

その意味ではB面初っ端の「It's All Right With Me」が、数多残されているジャズバージョンの中でも一際の名演として誉れが高く、実際、シブイ思わせぶりから颯爽としたテーマアンサンブルと名人両雄の躍動的アドリブ合戦が堪能出来ますし、これは以降、例えばカーティス・フラーやジャズテット等々の元ネタ的な演奏としても有名でしょう。リズム隊のシャープな弾け方も良いですねぇ~♪

さらにこのアルバムの魅力となっているのが、スローな演奏で特に顕著な室内楽的なアレンジかもしれません。例えば「Stolen Bass」や「Mad About The Boy」ではリズム隊が陰の主役というか、ベースの働きが侮れません。

またピアニストとして参加のディック・カッツの歯切れの良いプレイは、そうしたアレンジを存分に活かす絶妙のスパイスになっていると思います。もちろん如何にもハードパップな伴奏の中で、キラリと光る知的な雰囲気も良い感じ♪♪~♪

ということで、隅々にまでビシッとキマッた演奏ばかりゆえに、いまひとつのスリルが無いというご不満もございましょうが、楽しくて和やかなムードは天下逸品のモダンジャズ!

ちなみに現行CDには別テイクも収録されているそうですが、もし全体がステレオバージョンだったら、ぜひとも聴いてみたいもんです。

今日はちょいと花冷えしていますが、こういう暖かいジャズは春の和みですね。

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ピアノトリオのハリウッド的名盤

2009-03-26 11:30:01 | Jazz

My Fair Lady / Shelly Manne (Contempoaray)

オードリー・ヘプバーン主演の同名映画が好きだったので、中学時代のサイケおやじにしても、このアルバムは親しみを抱いて聴けました。私的にはジャズ入門アルバムのひとつで、それは当時、我が家に下宿していた叔父さんのコレクションでした。

題材となったミュージカル「マイ・フェア・レディ」はジュリー・アンドリュースをヒロインに、1958年3月が初舞台と言われていますし、このアルバムの録音は同年8月17日ですから、収録された演目の全てがピカビアの新曲だったというのも、今となっては驚異的ですね。つまりリアルタイムではほとんど知られていなかったメロディを魅力的なモダンジャズに変換しつつ、さらに本来の魅力を存分に引き出したというわけですから、ベストセラーは当然でしょう。逆に言えば、このアルバムによって知られた曲もあるほどです。

ちなみにメンバーはアンドレ・ブレヴィン(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds) という強力なピアノトリオですが、アンドレ・プレヴィンは前述した映画版にも関わっていますし、このセッションでも細かいアレンジを担当したのではないかと推察しています。

A-1 Get Me To The Church On Time
 静々と最初のテーマメロディを導くピアノ、そこにガッツ~ンと被ってくるペースとドラムスの衝撃が、いきなりの快感です。そしてそれを合図に、アップテンポの激演が展開されますが、アドリブに入った部分では、アンドレ・プレヴィンが明らかに不調というか、インスピレーションが低迷した雰囲気です。
 しかしそこから少しずつ調子を上げ、終いには狂ったようにドライヴするというのは、見事な演出なんでしょうねぇ~。カウント・ベイシー調のキメにメリハリの効いた硬質なピアノタッチ、直截的なスイング感は両手をフル稼働させた、所謂バカテク派の典型! それがロイ・デュナンの素晴らしい録音で見事に楽しめます。
 そのあたりはシェリー・マンのスカっとするドラミングや実直なリロイ・ヴィネガーのペースワークにも同様に適用され、まさにツカミはOK♪♪~♪

A-2 On The Street Where You Live
 良いムードの求愛の歌が、ここではシンミリとして小粋なスイングで演じられています。とにかくアンドレ・プレヴィンのメロディフェイクが抜群♪♪~♪ 緩急自在のテンポ設定を巧みに作り上げるトリオの纏まりも最高だと思います。
 それはグイノリでグルーヴィなノリ、自意識過剰なファンキーフレーズを弾いてしまうアンドレ・プレヴィンの微笑ましさ、中盤のアップテンポのパートからスローダウンしていくところのキメのフレーズのカッコ良さ♪♪~♪ 何度聴いてもシビレます。

A-3 I've Grown Accustomed To Her Facce
 これはヒギンズ教授のネクラな独白の歌ですから、なおさらにシンミリと胸キュンのメロディが活かされた仕上がりになっています。そして流石はアンドレ・プレヴィンのピアノタッチの素晴らしさが感動的でしょう。
 彩豊かなシェリー・マンのドラミングも芸が細かく、骨太のジャズビートを維持するリロイ・ヴィネガーのペースも地味な良さに溢れています。
 全く歌心を大切した仕上がりですねぇ~♪

A-4 Wouldn't It Be Loverly
 相当にゴスペルファンキーな導入部から、このメンバーでは珍しいほどのハードバップなムードが横溢しますが、原曲は育ちの良くないイライザが本性丸出しで歌う場面でしたから、これがジャストミートなアレンジでしょうねぇ~♪
 しかしそれを知らなくとも、このゴツゴツとしたファンキーさはピアノトリオのひとつの醍醐味だと思いますし、それを可能にしているが、両手を使いきって尚更に強靭なタッチを披露するアンドレ・プレヴィンの物凄さ! 幾分、様式美に陥っているようなところもありますが、それも許せる範疇だと思います。

B-1 Ascot Gavotte
 これが初っ端から豪快にブッ飛ばした名演! オスカー・ピーターソンの黄金のトリオに一脈通じるようなアレンジと演奏のキメは、トリオの一体感も見事です。
 特にシェリー・マンのブラシが痛快ですねぇ~♪ 終盤のソロチェンジは手に汗ですよ、本当に! そして締め括りが「粋」です。

B-2 Show Me
 これまたイライザのオトボケが、このピアノトリオの洒脱な演奏で表現された快演です。 相当に凝ったアレンジが使われていますが、それを全くの自然体で演じてしまう3人の力量には、聴くほどに圧倒されるでしょう。
 あまりにもジャストにスイングするアンドレ・プレヴィンのピアノスタイルは、スイングしていないなようにも聞こえるので、例えばウイントン・ケリーあたりとは対極の違和感も否定出来ませんが、このタイプの演奏では結果オーライだと思います。
 そういう部分を上手くサポートしているペースとドラムスの存在も侮れませんね。

B-3 With A Little Bit Of Luck
 原曲はオトボケ調の楽しい歌でしたが、ここでは思いきったスローなテンポでロマンチックにメロディをフェイクしたトリオの解釈が見事すぎます。実際、この綺麗な旋律を抽出して膨らませたセンスは、最高ですよっ♪♪~♪
 アンドレ・プレヴィンのピアノは歌心の真髄、素敵なピアノタッチを存分に活かした畢生の名演だと思いますし、このアルバムの中でも、特に印象的な仕上がりでしょうねっ♪

B-4 I Could Have Dance All Night
 これはご存じ、このミュージカルの中では最も知られたメロディだと思いますから、トリオの演奏も油断は禁物! 豪快でエグイ表現ギリギリの導入部からテーマアンサンブルの凝った展開、さらにアドリブパートの溌剌としたドライヴ感が決定的です。
 しかしアンドレ・プレヴィンのピアノは、それゆえに硬直した感じがしないでもありません。タテノリ系のスイング感とでも申しましょうか、ガツンガツンと迫ってくるんですが、グルーヴィなムードが無いのです。
 まあ、このあたりは如何にも白人、西海岸派ということなんでしょうが、それゆえに大ヒットだとしたら、さもありなんでしょうか……。

ということで、アレンジと演奏のバランスも秀逸な傑作だと思います。

ただし既に述べたようにアンドレ・プレヴィンのピアノには、同じバカテク派でもオスカー・ピーターソンのようなグルーヴィな雰囲気も無く、またフィニアス・ニューボーンのような強引なドライヴ感も足りていません。

このあたりが黒人系ピアノに親しんだ後には、物足りないと感じるでしょう。

しかし全体のスカっとした雰囲気の良さやきちんとしたアレンジ、さらにキメがきっちり定められた起承転結は、やはり痛快ですし、それを完璧に演じきったトリオの潔さは魅力だと思います。

それがコンテンポラリーだけの明快な録音で作られているのも、まさに大ヒットの条件として、企画から演奏まで一貫したシステムの成功例じゃないでしょうか。

このトリオには他にも、さらにジャズっぽいアルバムが幾枚も残されていますが、やはり当時、世界で一番進んでいたハリウッド芸能界の底力を鑑みれば、これが決定的な名盤と断言致します。

本日も独断と偏見で失礼致しました。

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ジャズメッセンジャーズ対ポール・チェンバース

2009-03-25 12:20:14 | Jazz

Lee-Way / Lee Morgan (Blue Note)

昨日のWBC決勝戦は、近年に無いハードボイルドな雰囲気と我が国にとっては痛快な結末でしたねぇ~! こんなシビレる感動を与えてくれた両チームには素直に感謝です。

ところで変態のサイケおやじは、あの試合の映像に音楽をつけたら……、なんて考えてしまうのですが、とりあえず、本日ご紹介のアルバムは、ジャストミートじゃないでしょうか。なんて独り善がりをやっています。

メンバはリー・モーガン(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ボビー・ティモンズ(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds) という、これも疑似メッセンジャーズ物では有名なひとつですが、録音は1960年4月28日! ブルーノートでのリー・モーガンにとっては、1957年11月&1958年2月に録音した畢生の名盤「Candy」に続くリーダー盤ですが、この間、他レーベルへ浮気をしていたり、あるいはジャズメッセンジャーズでの大活躍があったにしろ、恩あるブルーノートでの公式主役セッションが2年ぶりというのも、なかなか意味深な面白さを醸し出しているようです。

A-1 These Are Soulful Days
 如何にもというマイナー調のハードバップ曲で、じっくりと構えた全体のグルーヴの中で、テーマサビのワルツビートが異質なアクセント! これが緊張感を高めます。
 しかもアドリブ先発はポール・チェンバースの素晴らしいベースソロがピンピンピン! 続くボビー・ティモンズの抑えたゴスペル節が、尚更に黒っぽいムードを演出していきますし、もちろん、その背後ではポール・チェンバースが、これしかないの4ビートウォーキングが真髄ですよ♪♪~♪
 そしてジャッキー・マクリーンが特有のギスギスした音色でせつないアドリブメロディを奏でれば、ついに登場するリー・モーガンは多少のミスも意に介さない勢いでトランペットを鳴らすのですから、このあたりの雰囲気の良さこそがハードバップの魅力でしょうねぇ~♪
 何時もに比べれば大変に地味なアート・ブレイキーのドラミングも味わい深く、ジワジワと迫ってくるムードは、とてもアルバムのド頭とは思えないのですが……。

A-2 The Lion And The Wolff
 しかし、そういう煮え切らなさが、不安感を尚更に煽り、逆に血が騒いでくるという最高のテーマリフでブッ飛ばされます。というか、ここでの最初の印象を効果的にするための曲順だったのでしょうか!? このあたりのワクワク感、不安とスリルと期待が強まるところは、昨日のイチローの決勝打の対決のような素晴らしさです。
 実際、あの場面には、この演奏しか劇伴にはなりませんよっ!
 ですからボビー・ティモンズが弾き出す暗くて情熱的なリフ、ポール・チェンバースのグイノリ4ビート、ドドンパとアフロビートを内包したアート・ブレイキーのドラミングという凄いリズム隊に導かれ、ジャッキー・マクリーンが十八番のネクラな激情を聞かせれば、リー・モーガンはひたすらにハードバップの奥儀を極めんと奮闘するのです。
 あぁ、この雰囲気の良さは筆舌に尽くし難いです♪♪~♪
 ちなみに曲タイトルはブルーノートを運営していたアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフに捧げられているのは言わずもがなでしょう。
 そして演奏はボビー・ティモンズのゴスペル大会へと続きますが、ここでもポール・チェンバースが強烈な自己主張というか、結論から言うと、このベース奏者の参加ゆえに通常のメッセンジャーズ化が図れなかったということでしょうか? 強靭なペースソロを経てアート・ブレイキーも爆発的なドラムソロを披露していますが、実はそれさえも、ちょっと異なる味わいが濃厚だと感じます。

B-1 Midtown Blues
 ジャッキー・マクリーンが書いた鋭角的なハードバップのブルースですから、初っ端からファンキー&グルーヴィンなムードが、どこまで横溢していきます。
 リー・モーガンのアドリブは荒っぽくて弾けんばかりの勢いが眩しい限り! アート・ブレイキーも嬉々として強烈なバックピートで煽りますし、ポール・チェンバースのパッキングは4ビートの極みでしょうねぇ~♪ 最高っ!
 またジャッキー・マクリーンが大熱演ですよっ♪♪~♪ アグレッシブなブルースの解釈とツッコミ鋭いフレーズ、そしてハードバップの楽しさが極まったアドリブの醍醐味は、まさに「マクリーン節」がテンコ盛り!
 また、ボビー・ティモンズのゴスペルピアノには歓喜するばかりですし、ポール・チェンバースのヤル気は間違いなく本物! ここでのアドリブは驚異的ですよ。
 つまりリズム隊の熱気も凄すぎますし、バンドが一丸となった突進力とガチンコの雰囲気、総力戦という展開は想像に易く、実際はなかなか出来るもんじゃないでしょう。テンションの高さと勝負度胸が渾然一体となった名演だと思います。

B-2 Nakatini Suite
 ラテン風味も強い哀愁系の隠れ名曲ですから、ちょいとホレス・シルバーのバンドにリー・モーガンが客演したような雰囲気もあります。
 しかしアドリブハードに入ってからの猛烈なアップテンポの展開は、アート・ブレイキーの渾身のドラミングが熱血の4ビートですから、リー・モーガンも燃えています。あぁ、この馬力があって颯爽としたスタイルこそが唯一無二です。
 またボビー・ティモンズの前向きな姿勢も潔く、さらにアート・ブレイキーが面目躍如のドラムソロ! そしてラストテーマに繋がるのですが……。
 う~ん、ジャッキー・マクリーンはテーマアンサンブルにだけ参加!?
 なんとも勿体ない展開ですが、これは曲名から推察して、「組曲」の部分的な演奏だったのでしょうか? もしかしたらジャッキー・マクリーンが主役となったパートもあったのかもしれませんねぇ。
 このあたりはオクラ入り演奏でも発掘されんことを願っています。

ということで、実に荒っぽくて痛快なハードバップの人気盤だと思います。若さと度胸で全篇を乗りきったリー・モーガンは大変に魅力的ですね。ミスも散見されるんですが、完全に許せます。というか、それがあってこその魅力かもしれません。

そして個人的には、もうひとつの魅力になっているのが、ポール・チェンバースの存在です。その柔軟で強靭なペースワークは、数多残されたこの天才ベース奏者のセッションの中でも出色だと思います。このメンツ構成でジャズメッセンジャーズにならなかったのも、ポール・チェンバースの所為だといって、過言ではないでしょう。

極限すればメッセンジャーズ対ポール・チェンバースの決選!

結果は十人十色の好みだとしても、熱いセッションが確かにここに残されたのです。

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バレルとトレーンの最後の邂逅

2009-03-24 11:11:38 | Jazz

Kenny Burrell & John Coltrane (New Jazz)

この、そのものズバリのアルバムタイトルも潔い名盤!

野球でも、ここ一番の速球勝負は、例え打たれたとしても気持ちの良いものですが、この作品にも同様の醍醐味があって、私は大好きです。

ケニー・バレルが打ってみろ! と投げた速球を、ウネウネクネクネしながらも豪快なスイングで迎え撃つジョン・コルトレーンという構図は、キモの据わった仲間達に支えられながら、凄いハードバップ大会を作り上げてしまいましたですね。

録音は1958年3月7日、メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、ケニー・バレル(g)、トミー・フラナガン(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、これで名演が生まれなかったら世の中終わりというクインテットです。

A-1 Fright Trane
 トミー・フラナガンのオリジナル曲で、タイトルどおりに疾走するジョン・コルトレーンの魅力がいっぱいという、アップテンポのハードバップです。例の音符過多症候群「シーツ・オブ・サウンド」が完成直前にまで到達していたトレーン節が、存分に披露されていますよ。
 しかし実は、けっこう手探りの部分もあったのかもしれませんね。それがスリルとスピード、アブナサを表現出来たと言ってしまえばミもフタもありませんが、好感が持てるのは確かです。
 そしてそれを支える強靭なリズム隊とケニー・バレルの凄いアドリブ! 実にスカッといる名演だと思います。トミー・フラナガンのスイングしまくったピアノも痛快ですよっ♪♪~♪

A-2 I Never Knew
 有名スタンダードの素敵なメロディをシンプルに弾いていくケニー・バレル、タイトでク―ルなジミー・コブのドラミング、さらにピアノとベースの素晴らしいコードワーク♪♪~♪ まさにモダンジャズの基本が最初っから楽しめます。
 そしてジョン・コルトレーンがクネクネと屈折しながら、それでも実直なテナーサックスを聞かせてくれるとなれば、トミー・フラナガンのセンスの良さが尚更に輝くという、いやはやなんともの名演だと思います。
 あぁ、こういうジャズが好きです!

A-3 Lyresto
 ケニー・バレルが書いた溌剌として楽しいバードバップのオリジナル♪♪~♪ このテーマメロディとガサツなアンサンブルが、なかなかクセになる魅力です。
 そしてアドリブ先発のジョン・コルトレーンの、何の迷いもないテナーサックスが実に痛快! 十八番のウネウネ節と新しいスピード感が融合しています。
 またケニー・バレルの安定感は言わずもがな、トミー・フラナガンにポール・チェンバースというデトロイト時代からの仲間に加え、ジミー・コブという名手が入ったリズム隊の素晴らしさ! これぞっ、ハードバップの醍醐味がリズム隊から追及された終盤のソロチェンジは圧巻ですよっ!

B-1 Why Was I Born
 さて、これがアルバムの目玉演奏として、今日でも決定的な名演とされるトラックです。
 それはスタンダード曲を素材に、ケニー・バレルとジョン・コルトレーンがデュオを演じた、まさにアルバムタイトルどおりの存在証明!
 じっくりしたテンポで素直な情感を表現するジョン・コルトレーンのメロディフェイクは、神妙にしてハートウォームな響きが素晴らしく、寄り添うケニー・バレルのギターが、これまた小技と目立ちたがりのバランスが、最高に秀逸です。
 ちなみにジョン・コルトレーンが完全なデュオを演じたのは、これから後にエルビン・ジョーンズのドラムスと直接対決したものだけだと思いますから、わずか3分10秒ほどの演奏が、たまらなく愛おしくなるのでした。

B-2 Big Paul
 オーラスはリラックスしたブルースセッションで、ミディアムテンポで幾分ギスギスしたリズム隊のグルーヴが絶妙です。初っ端の独白からグイノリの4ビートをリードするポール・チェンバース、ゆるゆると入ってくるトミー・フラナガンのピアノ、さらに妥協しないジミー・コブのドラミングが、そうした雰囲気を強くしているようです。
 そしてジンワリとしてセンスの良いブルースを演じていくトミー・フラナガンのしぶといピアノは「お約束」ながら、このリズム隊ならばマイルス・デイビスが出そうで出ないのが、良い感じ♪♪~♪
 逆にジョン・コルトレーンが自分勝手に煮詰まっていくのも、この時代ならでは魅力でしょうねぇ~♪ ダークで重厚なテナーサックスの音色も凄いと思います。
 その点、ケニー・バレルは既に完成されたスタイルの中で、独自のブルースの美学を見事に表現しているようです。この、けっして先走らない沈着さは、如何にも自分のリーダーセッションだという自負があるんでしょうねぇ。意図的にブルースというよりは、新しいハードバップっぽいフレーズを多用しているあたりにも、それが感じられます。
 演奏はこの後、ポール・チェンバースの豪胆なペースソロから再びトミー・フラナガンのピアノがアドリブに入りますが、ジミー・コブのヘヴィにしてタイトなドラミングも私は大好き♪♪~♪
 いゃ~、ハードバップって本当に良いですねっ♪♪~♪

ということで、実は従来のハードバップから一歩先に進んだグルーヴが強く感じられるセッションでもあります。それはリズム隊に特に顕著だと思うんですが、いかがなもんでしょう。
 
そしてそこに炸裂するジョン・コルトレーンの未完成にして上昇期の音符過多症候群! これにはケニー・バレルも些かタジタジという感があります。しかし、如何にもハードバップど真ん中のピッキングは大いに魅力♪♪~♪

典型的なハードバップの中に新しい息吹も強く感じられるのは、私だけでしょうか。やはり人気盤の風格が、意味不明なジャケットのデザインと共に強い印象として残ります。

そして正直に言えば、コルトレーン&バレルのデュオ演奏を、もっと聴きたかったですねぇ……。

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ミッシェル・ルグランのジャズ

2009-03-23 15:18:50 | Jazz

Legrand Jazz / Michel Legrand (Philips / Columbia)

ミッシェル・ルグランはフランスのというよりも、世界的に名声を得ている音楽家ですが、その広範な音楽性には当然ながらジャズも含まれています。もちろんミッシェル・ルグラン自身が優れたピアニストであり、またあらゆるジャズのエッセンスを自らの作る音楽に活かしているのは、言わずもがなでしょう。

そして作られたジャズ関連のアルバムは全てが名盤扱いですが、特に人気の高いのが、この作品だと思います。

その内容はビックバンド系のアレンジとアドリブソロの両立が完璧という中で、参加した面々はアメリカの超一流が勢揃い! マイルス・デイビス(tp)、アート・ファーマー(tp)、ドナルド・バード(tp)、ジミー・クリーヴランド(tb)、ハービー・マン(fl)、ジョン・コルトレーン(ts)、フィル・ウッズ(as)、ジーン・クイル(as)、ベン・ウェブスター(ts)、ハンク・ジョーンズ(p)、ビル・エバンス(p)、トミー・フラナガン(p)、エディ・コスタ(vib)、バリー・ガルブレイス(g)、ミルト・ヒントン(b)、ポール・チェンバース、ドン・ラモンド(ds)、オシー・ジョンソン(ds) 等々、ほとんど全員がリーダー盤を出しているほどのオールスタアズ♪♪~♪ 一応、3回のセッションに分かれたメンツの構成は原盤裏ジャケットに明記されていますが、アレンジとバンドアンサンブルの素晴らしさに加えて、当然ながら各人のアドリブソロも秀逸の極みつきが楽しめます。

ちなみに録音は1958年6月とされていますが、この時はミッシェル・ルグランが新婚旅行でニューヨークにやって来たとのことで、人生の喜びの絶頂にあった歓喜と仕事熱心さが名演を生み出したのは、いやはやなんともですね。

また、このアルバムはフランス盤、アメリカ盤、日本盤、そして各国盤で曲順が異なっているようですが、とりあえず本日はアメリカ盤でご紹介しようと思います。

A-1 The Jitterbug Waltz (1958年6月25日録音)
 エンタメ系ピアニストのファッツ・ウォーラーが書いたお洒落なワルツ曲ですが、それを「パリの粋」とモダンジャズの斬新なスピード感でアレンジした最高の演奏です。
 穏かにテーマをリードするマイルス・デイビスのトランペットは何時になくハートウォーム♪♪~♪ もしかしたらフリューゲルホーンかもしれませんが、一転してモダンジャズならではの混濁したハーモニーと躍動的な4ビートが乱入してきて、あとは颯爽としたアドリブと彩豊かなアンサンブルが交錯するという、息をもつかせぬ快演となります。
 気になるアドリブソロはクールなマイルス・デイビス、飄々としてスマートなハービー・マン、熱血のフィル・ウッズ、クネクネとしてハードにドライヴしたジョン・コルトレーン、そして既にして孤高のビル・エバンスと続きますが、短いながら何れも凄いです。
 またポール・チェンバースやエディ・コスタ、さらにビル・エバンスの伴奏やアンサンブルでの役割も聞き逃せませんねぇ~♪ もう、これ一発だけでアルバムの虜になってしまいますよ。

A-2 Nuages  (1958年6月27日録音)
 フランスのギタリストでジプシー系ジャズを広く世に知らしめたジャンゴ・ラインハルトの代表曲とあって、ミッシェル・ルグランのアレンジも完全にツボを押さえて、さらに飛躍した表現となっています。
 それはギル・エバンスも顔色なしという膨らみのあるホーンの使い方、奥深いビートを内包したスローテンポの展開の中で、ベン・ウェブスターの余裕たっぷりというテナーサックスが堂々の「歌」を聞かせて収斂するのですが、僅か2分ちょっとの中にこれだけの味わいを醸し出すのは驚異としか言えません。

A-3 Night In Tunisia (1958年6月30日録音)
 これはご存じ、モダンジャズでは定番のエキゾチックな名曲ですが、ミッシェル・ルグランのアレンジは単なるハードバップに処理することの無い、如何にもフランス人らしい凝りようが楽しいところ♪♪~♪
 4人のトランペッターを全面に出したド迫力の合奏からジーン・クイルとフィル・ウッズのアルトサックス合戦、トロンポーンやトランペットの腕くらべ、重厚なサックスアンサンブルの響きも心地良く、誰がどのパートを吹いているのか、いろいろと推察するのも面白ですね。特に終盤のトランペットバトルは圧巻ですよっ! 

A-4 Blur And Sentimetal (1958年6月27日録音)
 カウント・ベイシー楽団が当たりをとった所謂「泣きのバラード」が、ベン・ウェブスターのサブトーンを活かしたテナーサックスの名演で楽しめます♪♪~♪
 と、ここまでは如何にもの展開なんですが、ミッシェル・ルグランのアレンジはトロンポーンにカウンターのメロディを演じさせたりして、一筋縄ではいきません。
 しかしベン・ウェブスターのテナーサックは堂々の大名演ですよ。これがジャズ! 流石のミッシェル・ルグランも脱帽じゃなかったでしょうか。

A-5 Stompin' At The Savoy (1958年6月30日録音)
 そして軽やかに演じられるのが、スタンダード曲の浮かれた演奏です。あぁ、この足が地につかないようなムードは本当に素敵ですね。
 そしてアドリブパートではアルトサックスとトランペット、そしてトロンポーンの名手が登場しますが、それはジーン・クイルにフィル・ウッズ、ドナルド・バードにアート・ファーマー、そしてジミー・クリーヴランドあたりが演じているのでしょうか?
 そこが解明されないモヤモヤもありますが、ミッシェル・ルグランのアレンジが素晴らしくモダンですから、これには同曲をヒットさせたベニー・グッドマンの心中や如何に!?
 オシー・ジョンソンの流石のドラミングが全篇を見事にスイングさせているのも、嬉しいですね。

A-6 Django (1958年6月25日録音)
 MJQでお馴染みの気分はロンリーな名曲ですから、テーマメロディをリードしてクールなアドリブに持っていくマイルス・デイビスが冴えまくりのトランペット♪♪~♪ ミュートで醸し出される思わせぶりな表現は繊細にして、あの「死刑台のエレベーター」ですよ♪♪~♪
 ミッシェル・ルグランのアレンジはジョン・ルイスが企図していた味わいを大切にしながらも、ハープやピアノ、ギターやヴァイブラフォンを適材適所に活用した、なかなか印象派の色彩が感じられる、これが所謂「パリのエスプリ」ってやつでしょうか。

B-1 Wild Man Blues (1958年6月25日録音)
 ジャズ創成期にルイ・アームストロングとジェリーロール・モートンが合作したとされる歴史的な名曲が、ミッシェル・ルグランの欧州的なアレンジで演じられるという、実に素敵な温故知新です。
 柔らかなハーモニーを全面に出したバンドアンサンブルを基調に、エディ・コスタの浮遊するヴァイブラフォン、ハードに意味不明なジョン・コルトーン、カッコ良いマイルス・デイビスのアドリブが楽しめますが、ここではそれよりも演奏全体の凝りに凝ったアレンジの味わいが秀逸だと思います。特にフルートやハープをこれほどテンション高くモダンジャズに取り入れてしまうところは、驚異的に新鮮じゃないでしょうか。

B-2 Rosetta (1958年6月27日録音)
 これも本来はウキウキして楽しい名曲なんですが、それをミッシェル・ルグランは初っ端から意表をついたテンションの高さでアレンジしています。
 そしてアドリブパートでは参加したトロンボーン奏者が入り乱れの大バトルからベン・ウェブスターが貫禄の激ブロー、さらにハービー・マンの祭り囃子が聞こえるというハードバップ大会! 背後で炸裂するトロンボーンのアンサンブルも怖いほどにカッコ良く、キメまくりですよっ♪♪~♪
 演奏全体を強烈にドライヴさせるドン・ラモンドのドラミングやハンク・ジョーンズの流石の存在感も素晴らしいと思います。

B-3 'Round Midnight (1958年6月25日録音)
 これはもう、マイルス・デイビスを起用するしか無い名曲なんですが、確かにマイルス・デイビスはミュートで例の通りの好演! しかしミッシェル・ルグランのアレンジには、それを否定するかのような雰囲気が濃厚です。
 このあたりはお互いのメンツと制作者側の目論見がハラハラドキドキの結果になったのではないでしょうか?
 おそらくは十人十色の好き嫌いがあると……。

B-4 Don't Get Around Much Anymore (1958年6月27日録音)
 これはデューク・エリントン楽団の代表曲ですから、グルーヴィなジャズっぽさは「お約束」なんでしょうが、ここではジョージ・デュヴィヴィエとメジャー・ホリーという、2人の優れたベーシストに匠の技の共演をさせています。
 ちなみに私有盤はモノラルミックスですが、これがステレオ盤だと左右から2人のペースが対決と協調を見事に演じているはずですから、グッと惹きつけられますよ♪♪~♪
 他にもハービー・マンのフルートやトロンボーンのアンサンブルが見事な彩を添えて、これも凄い名演トラックになっています。

B-5 In A Mist (1958年6月30日録音)
 オーラスはジャズの歴史に名を刻した白人トランペッターのビックス・バイダーベックが残した大名曲! その美しいメロディとムードはタイトルどおりの浮遊感に満ちたミステリアスな不思議系ですが、ミッシェル・ルグランのアレンジは意表を突いたというか、躍動的なジャズビートとメリハリの効いたバンドアンサンブルで演じてしまう、まさに禁断の裏ワザです。
 う~ん、それにしても溌剌としてシャープなドライヴ感は心地良く、こういう楽しさも「あり」ですよねぇ~♪
 ただし細かい部分には、例えばヴァイブラフォンやピアノのシブイ使い方が抜群のスパイスになっていて、決してオリジナルを蔑ろにはしていないのでしょうね。

ということで、ミッシェル・ルグランの恐るべき才能が見事に表現されています。そして参加した超一流の面々も、そのあたりを意識しつつ、本場の意地を聞かせた感も強くあると思います。

実は告白すると、私はマイルス・デイビスやビル・エバンスが目当てでこれを聴き、ミッシェル・ルグランなんて、モダンジャズではキワモノだと思っていたのですが、そんな浅はかな思い込みは簡単に覆されるほどにショックを受けました。

というか、こんなに刺激的でカッコ良いビックバンド物は無いでしょう。お洒落なムードは言わずもがな、登場してくるアドリブの充実度も驚異的です。

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秋吉敏子はモダンジャズのピアニスト!

2009-03-22 09:58:34 | Jazz

george wein presents TOSIKO / 秋吉敏子 (Storyville)

1974年の我が国ジャズ界の大事件といえば、幻のレーベルだった「ストーリーヴィル」の復刻が、そのひとつでした。そして中でも、このアルバムの発売は朗報♪♪~♪

主役の秋吉敏子は日本を代表するジャズ作編曲家であり、真のモダンジャズを追求したピアニストとして、今では知らぬ人も無い有名人でしょうが、その才能を認められ、1956年に渡米して後は我が国芸能界から去った形となり、1970年頃には幾分忘れられた存在だったと思います。

サイケおやじにしても、秋吉敏子を強く意識したのは、1970年の大阪万博に出演のために帰国したニュースフィルムを見てからですし、ちょうどこのアルバムが再発される前後には、念願のビッグバンドを率いて躍進する彼女の話題が、ジャズマスコミを賑わしていたのですから、ナイスタイミング!

しかも内容が素晴らしいんですねぇ~♪

録音は1956年のボストン、メンバーは秋吉敏子(p)、そしてポール・チェンバース(b) とエド・シグペン(ds) という、この時代ではトップのサイドメンが参加していますが、これはプロデューサーのジョージ・ウェインが如何に秋吉敏子という才能を高く評価していたかの表れでしょう。

A-1 Between Me And My Self
 なんだか哲学的な曲タイトルですが、秋吉敏子が書いたテーマメロディもまた、クラシックや現代音楽、そしてモダンジャズがゴッタ煮となった、当時としては非常に斬新なものでしょう。今聞いても、実にミョウチキリンでアブナイ感じがします。
 しかしそれを、このトリオは絶妙のアレンジで少しずつハードバップ寄りに化学変化させていくのです。
 そしてついにグイノリのアドリブパートに突入してからの強引なスイング感! と、同時に幾何学的なキメと硬派な演奏姿勢が、失礼ながら女性ピアニストとは思えないエグイ感性となって、鋭いジャズ魂を聞かせてくれます。
 正直言えば、全く和めない演奏ですが、この厳しさこそが秋吉敏子そのものじゃないでしょうか。

A-2 It Could Happen To You
 一転して、こちらはお馴染みのスタンダード曲をハードバップに解釈した楽しい演奏です。もちろんピアノトリオでは数多の名演が残されているわけですが、秋吉敏子のバージョンも、そのひとつといって過言ではないでしょう。
 ここにはパド・パウエルとハンプトン・ホーズの影響から脱却しつつあった当時の彼女のピアノスタイルが、はっきりと記録されていますし、後半のスローなパートでの女性らしい豊かな表現とか、全く素晴らしい仕上がりだと思います。

A-3 Nostalgia
 これも秋吉敏子の素晴らしいオリジナル曲で、スローなメロディ展開には哀愁と昭和歌謡曲の味わいが混在していると感じます。さらに美妙な中華メロディまでもがっ!
 それをセンスの良いコード選びとイヤミの無い装飾音を使いながら、しかも墨絵のようなシンプルな美しさを滲ませるピアニストとしての表現力♪♪~♪
 地味ですが、何度でも聴きたくなる名曲にして名演だと思います。

A-4 Homework
 ビバップのバロック風展開とでも申しましょうか、一説によるとバークリー在学中の宿題として秋吉敏子が書いたと言われているように、なかなかタイトルどおりの面白さがあります。
 そしてアドリブパートでは真正ハードバップなベースとドラムスを尻目に、不思議な浮遊感を漂わせるピアノのアドリブ、さらに強靭なポール・チェンバースのピチカートソロが圧巻です。
 それゆえに些かビビったような彼女のピアノが逆に健気な雰囲気で、失礼ながら可愛いく感じられるのでした。

A-5 Manhattan Address
 パド・パウエルの影響をモロ出しにした秋吉敏子のピアノスタイルに加え、クラシックの基礎もみっちりと仕込まれたテクニックが冴えるオリジナル曲の名演です。
 ソロピアノのスタートからリズム隊を従えての猛烈アップテンポのパート、さらに再びのスローな終盤の余韻まで、間然することのない素晴らしさだと思います。

B-1 Sunday Arternoon
 B面に入っては、またまた秋吉敏子のオリジナル曲ですが、気難しいムードのメロディ展開に幾分の安らぎが滲むという、これも不思議系でしょうか……。
 しかしアドリブパートのハードバップな味わいは捨て難く、それもポール・チェンバースの凄すぎるベースワークとアドリブがあればこそでしょう。エド・シグペンのしぶといドラミングも流石です。

B-2 Blues For Toshiko
 前曲では些か硬くなっていた秋吉敏子のピアノが、この自作のブルースでは強烈なグルーヴを発散した大名演! ポール・チェンバースのウォーキングベースに導かれ、ジワジワっとブルースリックを弾き始める彼女の熱いハートが、実に良い雰囲気です。
 エド・シグペンの抑えたドラミングも好印象ですし、縦横無尽に躍動するポール・チェンバースのペースを聴いていると、こんな真っ黒なブルースを演じてしまう秋吉敏子の情熱には圧倒されるばかり!
 1956年という時代を鑑みれば、女性ピアニストという範疇に留まらず、完全に日本人ばなれしたモダンジャズ演奏家としての面目躍如だったと思います。
 
B-3 Soshu No Yoru / 蘇州の夜
 これは服部良一の有名曲ですよねっ♪♪~♪
 その一節を、秋吉敏子は少女時代を過ごした中国への想いを胸に弾いてくれたのでしょうか? 特にアドリブはありませんが、短くも胸キュンの演奏として、私は大好きです。

B-4 Softly As In A Morning Sunrise
 そしてこれが大団円の大名演!
 曲はご存じ、ジャズでは定番の有名なメロディですから、秋吉敏子も気合いの入ったハードバップを存分に弾きまくりです。あぁ、この躍動的でメリハリの効いたピアノタッチの素晴らしさ! アドリブブレーズの不変性! そしてピアノトリオとしての絶大な魅力!
 それにしても、こんな凄いペースとドラムスを従えて一歩も引かぬ心意気は、女侠客の意気地さえ感じてしまうのですが、それは失礼というものでしょう。なにしろ秋吉敏子は唯一無二なのですから! このグイノリに歓喜せよっ!

ということで、オリジナル盤は秋吉敏子自身も当時は所有していなかったという幻の名盤が、復刻されて聴けた喜びは絶大でした。しかも内容が「名盤」の噂に違わぬ素晴らしさでしたからねぇ~♪

既に述べたように、この時代のピアノトリオ物としては出色の1枚でしょうし、オスカー・ピーターソンも語っていたように、当時の女性ピアニストでは秋吉敏子がダントツというも、完全に納得の証明だと思います。

ちなみに今に至るも、私はオリジナル盤を聴いたことがないので比較は無理ですが、最初にトリオから復刻されたアナログ盤LPは、音質もそんなに悪くないと感じたのですが、いかがなもんでしょうか?

今日ではCD化もされていますので、何時かはそっちもゲットする用意はありますが、なんかこの日本盤には愛着が捨てきれないのでした。個人的にはB面を愛聴しています。

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