OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

これがコルトレーンの初ヒット!?

2021-07-17 17:09:55 | Jazz

My Favorite Things / John Coltrane (Atlantic / 日本ビクター)

本日は偉大なるジャズの巨匠、ジョン・コルトレーンの命日です。

説明不要かとは思いますが、故人はR&B~モダンジャズのバンドでプロ活動を本格的にスタートさせ、広く注目されたのはマイルス・デイビス(tp) のレギュラーバンドメンバーに起用された1955年頃だったと云われていますが、当時の評判はターヘ!?

そのギクシャクして起承転結が上手くないアドリブスタイルは、殊更玄人筋からはウケが悪かったそうですが、ハードで黒っぽいテナーサックスの音色は、それなりに評価されていたとか……?

そのあたりが好転したのが、悪いクスリに耽溺した末にマイルス・デイビスのバンドを馘になった1957年で、今度はセロニアス・モンク(p) のバンドに加わると、ボスから様々な薫陶を受けた結果、ようやく独自のスタイルを模索出来るまでに成長(?)、同時に自身のリーダー盤を含む様々なセッションで録られた音源は、なかなか興味深く、またモダンジャズの神髄に迫る名演も数多く残されている事は言わずもがなでしょう。

そして、1960年頃には、ついに自らのバンドを組み、クラブ出演やレコーディング契約も結ぶ事が出来たのですが、今日の評価とは裏腹に肝心のレコードは全く売れず、その要因はジョン・コルトレーンならではの音数の多い、というよりも多過ぎる音符の羅列としか思えなかった、その歌心の欠如したアドリブスタイルによる長尺演奏が、一般のジャズファンには理解の範疇では無かったからでしょう。

しかし、故人は頑なに自らのスタイルを探求し続け、ついに最初のヒット盤になったのが、1961年3月に発売されたLP「マイ・フェバリット・シングス」で、中でもソプラノサックスで三拍子の愛らしいメロディを吹きつつも、結局は嵐の様なアドリブ地獄に誘うアルバムタイトル曲「My Favorite Things」でした。

もちろん、これはご存知、ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」の中で歌われ、巷では知られたメロディであった事が大きなポイントでしょうか。

それを演目に取り入れたのが誰のアイディアかは定かではありませんが以降、ジョン・コルトレーンと云えば、「My Favorite Things」が出なければ収まらないという、決定的な代名詞になりました。

なにしろ当時から、この人気演奏は世界各国でシングルカットされ、本日掲載したのは、昭和36(1961)年に我が国のビクターレコードから発売されたものですが、もちろん長尺演奏をA&B面に分断して収録してありますし、ジャケ写そのものも、前述のLP「マイ・フェバリット・シングス」からではなく、同時期に制作発売されていたアルバム「コルトレーン・ジャズ」からの転用デザインとなっているのが、コレクター魂を揺さぶるところでしょうか。

ただし、サイケおやしは、そんな気分は全くありませんで、なんとなく珍しかったのと、盤質が悪いがゆえに安値だったもんですから、かなり以前にゲットした1枚です。

ちなみに演奏メンバーはジョン・コルトレーン(ts) 以下、マッコイ・タイナー(p)、スティーヴ・デイビス(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、これがレコーディングされた1960年10月時点におけるレギュラーのバンドメンバーですから、流石に纏まりは素晴らしいと思いますが、後々まで故人の重要なステージ演目になっていたもんですから、もっともっと激しく、強烈なライブバージョンが数多聴ける現在では、聊か物足りなく感じるのも、また事実でしょう。

しかし、それはそれとして、ジョン・コルトレーンは、このヒットで目覚めたかの如く、例えば「Greensleeves」とか「Afro Blue」等々、キュートなメロディをワルツテンポで演じるという、ソプラノサックスの魔法(?)を繰り返し使い、ファンを喜ばせていくのです。

ということで、本日は偉大なるジョン・コルトレーンの最初のヒット作について、簡単にご紹介させていただきましたが、とてもとても、故人については、不肖サイケおやじに、ど~のこ~の言えるはずもありません。

最近はジャズから遠ざかっている自らの不明を顧みて、本日は久々にジョン・コルトレーンのレコードでも、じっくり鳴らしてみようかなぁ~~。

現在は、ど~なっているのか、全く分かりませんが、少なくとも昭和50年代中頃までのジャズ喫茶全盛期における7月17日は、1日中ジョン・コルトレーンのレコードを鳴らす店が多数あり、大盛況でありました。

ジョン・コルトレーン! 永遠なれっ!

合掌。

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本田竹曠との出会い

2019-10-23 19:36:51 | Jazz
This Is Honda / 本田竹曠 (Trio)

サイケおやじがジャズ喫茶に出入りし始めた昭和40年代末頃は欧米に比べ、日本人のジャズミュージシャンは一段低く扱われていた現実が確かにあり、所謂和物ジャズなんて決して鳴らさない店さえありましたし、そ~ゆ~のを好きだと言える雰囲気も無かったような……。

ですから、例えばスイングジャーナル誌とかのジャズマスコミで煽りがあったとしても、積極的に日本人がやっているレコードを買うのは、金銭的な制約も厳しかった事もあり、なかなか手を出せるものではありませんでした。

ところが、そんなサイケおやじの認識を一変させてくれたのが昭和47(1972)年に録音・発売された本日ご紹介のLPで、リーダーの本田竹曠(p) 以下、鈴木良雄(b)、そして渡辺文男(ds) というピアノトリオの演奏は、その録音状態の良さもあり、強烈な迫力のモダンジャズでありました。

A-1 You Don't Know What Love Is
 通常はというか、多くのジャズミュージシャンによって夥しい録音が残されている有名スタンダード曲ですから、それがスローな展開で演奏される魅惑のメロディという安心感がある反面、サイケおやじにとっては、なんか怠いんじゃ~なかろうか……?
 なぁ~んていう生意気な先入観があったんですが、実際には力強いピアノタッチとずっしり重いビート感に満ち溢れた演奏で、じわ~っと始まるテーマメロディが次第に変奏されながらアドリブパートに入っていけば、テンポは変わらずともグイノリってやつで、つまりはグルーヴィな展開になっていくんですから、何時しかグッと惹きつけられている自分に気づいて、ハッとするほどですよ。
 寄り添いながらも自由度の高いベースやビートの芯を作り出すドラムスもイイ感じ♪♪~♪
 そして本田竹曠のピアノスタイルは歯切れが良く、音数も多い事は多いんですが、矢鱈なモード奏法は用いず、あくまでも歌心優先主義なんでしょう、ブルースフィーリングやソウルジャズの風味も滲ませるあたりは、サイケおやじが最も好むところです。

A-2 Bye Bye Blackbird
 これまた良く知られたスタンダード曲で、ピアノトリオの演奏としてもレッド・ガーランドとか、耳に馴染んだメロディですから、ミディアムテンポでスイングさせていく本田竹曠も油断は禁物と申しましょうか、時折唸り声も交じっていくグルーヴィなノリの楽しさは、ジャズを聴く喜びに直結するものと思います。
 
A-3 Round About Midnight
 おぉ~っ、これは本田竹曠のソロで演じられるモダンジャズの名曲!
 実は告白すると、サイケおやじは決して好きなメロディではなく、マイルス・デイビス(tp) とかチャーリー・パーカー(as) が残した名演ぐらいしか馴染めないんですが、ここでは録音の良さからピアノの鳴りに魅了されつつ、繊細と大胆さを両立させた本田竹曠のジャズ魂に拍手喝采! 

B-1 Softly As In A Morning Sunrise
 う~ん、これもモダンジャズでは定番演目として、ピアノトリオだけでも夥しいレコーディングが残されている事は言わずもがな、だからこそユルフンな姿勢は許されるはずもなく、本田竹曠トリオの演奏はアップテンポでガンガンにスイングしまくっているんですから、たまりません♪♪~♪
 その音数の多さから、ちょい聴きにはマッコイ・タイナーっぽいかと思いきや、ウイントン・ケリーやジュニア・マンスボビー・ティモンズ等々のハードバップ&ファンキー派のノリやフレーズを巧みに自らの個性の下地にしているとしか思えないドライヴ感は素晴らしいです ♪♪~♪

B-2 When Sunny Gets Blue
 ソウルっぽい泣きを含んだテーマメロディは何時だってジャズ者の好むところだとすれば、この曲などは最右翼のメロディーかもしれません。
 ですから、じっくりと構えた本田竹曠のピアノは言わずもがな、相当に入れ込んだ鈴木良雄のベースソロに刺激されたかのような後半の展開のおけるリーダーのアドリブは確信犯?
 そんな不遜な事まで心に浮かんでしまう名演と思うばかりです。

B-3 Secret Love
 そしてオーラスは、このアルバムの中では一番に激しい演奏で、ドラムスのイントロからフルスピードで突っ込んでいくピアノトリオの醍醐味が堪能出来ますよ。
 演目そのものも楽しいスタンダード曲ですし、スカッと痛快なハードバップが見事な大団円 ♪♪~♪

ということで、今となっては分かりが良過ぎる感も確かにあろうかとは思いますが、1972年の日本にだって、ここまで熱いピアノトリオのレコードが製作されていたという真実はひとつ!

録音状態は左右にドラムスとベース、真ん中にピアノという典型的な当時のステレオミックスで、発売同年には録音賞も獲得した事は、決して無視出来ません。

しかし同時に、サイケおやじの現在の耳と感性では、ここまで凄い演奏であればこそ、ベースとドラムスのミックスがもう少しばかり大きく、厚くなっていたらなぁ~~。

そんな贅沢な欲求も確かにあります。

もちろんCDとして数次再発されているはずですから、おそらくはリミックス&リマスターは成されているとは思いますが、サイケおやじは全く聴いた事がありませんので、今回はアナログ盤LPだけの話です。

そして当然ながら、我儘な欲求はオーディオ装置を改善すれば解消するのでしょう。

うむ、ジャズを聴くのは昔も今も……。

最後になりましたが、本田竹曠は当然芸名であり、本田竹彦とか本田竹広と名乗っていた時期もありますので、それだけにリーダー盤も多く、セッション参加しているレコーディングも相当数残されていますし、演奏スタイルもハードパップからフリーに近いところもあれば、フュージョンやソウルジャズまでもやっていながら、やっぱりサイケおやじにとっては何時も気になるピアニストです。

そして、そのあたりのレコードを追々ご紹介する所存です。
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これで朝からトレーン!

2019-10-07 19:52:48 | Jazz
Blue World / John Coltrane (Impulse! / Universal Music = CD)
 
  01 Naima (Take 1)
  02 Village Blues (Take 2)
  03 Blue World
  04 Village Blues (Take 1)
  05 Village Blues (Take 3)
  06 Like Sonny
  07 Traneing In
  08 Naima (Take 2)

例えブートであろうとも、未発表の発掘音源が出る度にファンを熱くさせるのがミュージシャンのステイタスだとすれば、ジョン・コルトレーンは常に大歓迎されるジャズの巨匠ですから、それが堂々の公式盤であるほどに世界中は大騒ぎっ!

なんとっ!

本日ご紹介のCDはジョン・コルトレーン(ts,ss) 以下、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という所謂黄金のカルテットが1964年6月24日、カナダ国立映画製作庁の作品「The Cat in the Bag」のサントラ用にレコーディングした、まさに歴史的にも全盛期のジョン・コルトレーンが記録されているという前振りが強烈でした。

と書いたのも、結論から述べさせていただければ、これは確かにルディ・ヴァン・ゲルダーが手掛けたスタジオレコーディングですから、音は申し分ありませんが、如何せん、曲毎の演奏時間が短く、ほとんどテーマメロディしかやっていないトラックもあったりして……。

もちろん演目はジャズ者にとってはジョン・コルトレーンの聖典として殊更耳に馴染んでいるはずですから、未発表曲とされる「Blue World」にしても、以前にレコーディングしたスタンダード曲「Out of This World」をスローテンポで再演しただけと思うんですが、いかがなものでしょう。

そう思えば、ジョン・コルトレーンは多数残されているライブ音源では結果的に同じ曲を何回もレコーディングした(された)とはいえ、スタジオでの再演録音は珍しいような気がしますので、その意味からして今回の発掘音源は貴重なプレゼント!?

そしてサイケおやじ的には、朝っぱらから聴けるジョン・コルトレーンなんですよっ!

つまり朝イチに気合を入れ、その日を厳かな気分でスタートさせたい時、これまでは「Spirtual」とか「Crescent」あたりを鳴らしていたんですが、このアルバムはド頭からイケますし、長くて狂熱的なアドリブが無いですから、すっきりとジョン・コルトレーンの世界に浸れるわけです。

それが軟弱と言われようが、あるいは分かっていないっ! と罵られようとも、サイケおやじの「朝からトレーン」という気分には、この発掘CDがジャストミートであります ♪♪~♪
 
最後になりましたが、以前の大ニュースとして、2008年にハリウッドのユニバーサル倉庫の火災から夥しい貴重な音源のマスターテープが消失したいう事件が報じられましたが、ジョン・コルトレーンの遺産は助かっていたんですかねぇ~~。
 
その真偽は定かではありませんが、まずはこの様な音源が世に出ている事はありがたい話です。
 
乞うご期待 ♪
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夢見心地のライブ盤

2019-10-02 20:00:42 | Jazz
The Only Recorded Performance Of Paul Desmond With The Modern Jazz Quartet (Finesse)

  A-1 Greensleeves
  A-2 You Go To My Head
  A-3 Blue Dove (La Paloma Azul)
  A-4 Jesus Christ Superstar
  B-1 Here's That Rainy Day
  B-2 East Of The Sun
  B-3 Bags New Groove

全然イケてないジャケットだけど、中身は極上というレコードは確かに在って、例えば本日ご紹介のLPも、そのひとつとしてサイケおやじが今頃の季節の愛聴盤です。

それはポール・デスモンドモダン・ジャズ・カルテット=MJQの共演盤という、好きなものは絶対に好きっ!

なぁ~んていうジャズ者には、思わずゾクゾクする夢が実現されたライブ音源で、もちろんハーフオフィシャルなんでしょうが、音質は普通に聴ける良好な仕上がりで、録音は1971年12月25日、ニューヨークのタウンホールのクリスマスコンサートから、あらためてメンバーは記載しておけば、ポール・デスモンド(as)に、ミルト・ジャクソン(vib)、ジョン・ルイス(p,arr)、パーシー・ヒース(b)、コニー・ケイ(ds) で編成されていたMJQがバックを務める形ではありますが、プロデュースとアレンジをジョン・ルイスが担当しているので、きっちり纏まりの良いコラボレーションが楽しめますよ。

それは「Greensleeves」「You Go To My Head」「Here's That Rainy Day」「East Of The Sun」という、まさにポール・デスモンドが十八番の有名曲でも、確かにポール・デスモンドのソフト&クールなアルトサックスをメインに立ててはいますが、聴くほどにMJQがバックで手慣れたサポートを繰り広げつつ、メンバー各々は自己主張を忘れていません。

説明不要とは思いますが、MJQの4人はビバップ~ハードバップの中でも堂々の活躍をしていながら、それがMJQという集合体の中では協調性を大切にした演奏を主眼にしていたと解釈すれば、典型的な白人ジャズを貫いてたポール・デスモンドの卓越した歌心と浮遊感が持ち味のアドリブ、また唯一無二のソフトな音色を響かせるアルトサックスとの相性は、意図的に譲歩するまでもなく、なかなかグルーヴィなノリさえ楽しめるんですねぇ~~♪

もちろんミルト・ジャクソンも歌心優先主義なればこそ、前述「You Go To My Head」、あるいは完全にMJQが主導する「Here's That Rainy Day」におけるアドリブは流石ですし、ジョン・ルイスの細かい芸(?)憎めません。

そしてコニー・ケイはブラシよりはスティックを多用するという、この共演にしては、ちょいと意外な事をやっていますが、しかしこれが大正解! アップテンポの「East Of The Sun」では、ポール・デスモンドが在籍していた往年のデイブ・ブルーベック・カルテットを思い出させてくれる演奏になっているのは嬉しいかぎり ♪♪~♪

う~ん、こ~なってみると日頃、「クラシックかぶれ」なぁ~んて陰口もあるジョン・ルイスがデイブ・ブルーベックと相通じるフィーリングを自然体に醸し出しているあたりも予定の行動でしょうか? と云うよりも、だからこそ、このジョイントが企画され、良い結果が残された気さえしますが、いかがなものでしょう。

その意味で「Blue Dove」は、やはりデイブ・ブルーベック・カルテットの演奏が人気を集めた古いメキシコのメロディですから、ここでやらなきゃ~、観客は納得しないはずで、それを見事、期待に応えたMJQとポール・デスモンドのサービス精神は過言ではなく、至高のプロ魂と思います。

また、往年の人気演目ばかりにとらわれず、ちょうどアメリカのブロードウェイで大ヒット上演中だったロックミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」のメインテーマ曲「Jesus Christ Superstar」を何の衒いもなくやってしまったとしか思えない快演は賛否両論があろうとも、緻密なアレンジと丁寧な取り組みが聞かれる事に間違いはありません。

個人的にはこの音源のハイライトかもしれないと思っています。

さらにオーラスの「Bags New Groove」は「New」なんて付いてはいても、結局はミルト・ジャクソン&MJQが極みの「Bags Groove」ですから、前曲「East Of The Sun」から続くハードバップのちょいと気取った展開がイイ感じ ♪♪~♪

当然ながらジャズ者には安心印の大団円になっていますよ ♪

いゃ~~、本当にジャズってイイですねぇ~~ ♪

ということで、今では夢のライブ音源は以前からCD化もされていますので、気になる皆様には、ぜひともお楽しみいただきたい優良アルバムです。

このあまりに快適な演奏は、ある意味じゃ~BGMと揶揄される事もあったんですが、現在は聴かずに死ねるかっ!

そ~ゆ~再評価を強く望んでいるのでした。
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秋の夜長のパット・マルティーノ

2019-09-26 20:32:45 | Jazz
The Visit / Pat Martino (Cobblestone)

ギタリストのステータスのひとつが「早弾き」にあるとすれば、パット・マルティーノこそは、その権化!

とにかくアドリブフレーズは乱れ打ちの如く正確無比という、まさに二律背反の境地に達した天才であり、寸時の緩みも感じさせないところは近づき難い印象の人物である事は、掲載したLPのジャケ写からも存分に伝ってくるんじゃ~ないでしょうか。

いゃ~、本当にジャケ写だけ見ていると、これがジャズのレコード?

なぁ~んていう疑問さえ抱いてしまうほどで、実はサイケおやじにしても、最初にこのジャケ写に邂逅した時はてっきりサイケデリックフォーク(?)かラガロック系のアルバムみたいな印象だったんですが、ワンテンポ置いて確認にすれば、そこには「Pat Martino」なるご尊名があり、しかもわざわざ「Inspired by and dedicated to Wes Montgomery」と但し書き(?)までもが記載されていたのであれば、あとは自ずと神妙に鑑賞する他はありますまい。

録音は1972年3月24日、メンバーはパット・マルティーノ(g) 以下、ボビー・ローズ(g)、リチャード・デイビス(b)、ビリー・ヒギンス(ds) という硬派な面々です。

A-1 The Visit
 パット・マルティーノ自作の変拍子、おそらく 6/8 拍子と思われますが、このメンバーにとっては何の躊躇も無くスイングしまくるんですから、痛快な怖さに震えてしまいます。
 全く淀みも緩みも感じさせない速射フレーズでアドリブを続けるパット・マルティーノを巧みにサポートするボビー・ローズのサイドプレイも流石ですし、かなり目立ってしまうリチャード・デイビスのベースは当然ながらアコースティックですから、本当にジャズ性感度の高い演奏だと思います。
 う~ん、フェードアウトが残念ですねぇ~~~。
 
A-2 What Are You Doing The Rest Of Your Life?
 どっかで聞いたことがある美しいテーマは多分、ミッシェル・ルグランの作曲かと思いますが、しっとりしたムードを大切に内気な片思いの如くメロディを綴っていくパット・マルティーノは、随所でオクターヴ奏法や思わせぶりなピッキングを用いて、このスローな曲展開でも全く飽きさせませんよ♪
 また、ここでもサイドギターのボビー・ローズが地味な名演と思います。
 
A-3 Road Song
 ご存知、ウェス・モンゴメリーの自作自演が超有名の決定版ではありますが、それゆえに数多のミュージシャンが演奏している中にあって、パット・マルティーノは矢鱈な早弾きはせず、むしろじっくりと偉大な先達に憧れと畏敬の念を抱いたような落ち着いたプレイがニクイばかり!
 もちろん演奏が進むに連れて十八番の三連&六連フレーズ、執拗な反復フレーズの完全披露はお約束で、このあたりはグラント・グリーンが得意技の「針飛びフレーズ」とは似て非なる、まさにパット・マルティーノの真骨頂でありましょう。
 いゃ~~、それにしても楽曲そのものが最高に素敵ですよねぇ~~♪
 パット・マルティーノも実に楽しそうにオクターヴ奏法をやらかすんですから、もう……、何にも言えません ♪♪~♪
 
B-1 Footprints
 これまたモダンジャズの名曲と申しましょうか、ウェイン・ショーターが書いた如何にものモードメロディを原曲のイメージどおり、ミディアム・スローで演じていますから、セッション参加メンバー全員の実力も存分に楽しめる仕上がりです。
 それは基本がブルースと思われる曲展開の中で、拘りのないフレーズを積み重ねるパット・マルティーノ、所謂新主流派どっぷりのベースでアドリブもバッキングも容赦ないリチャード・デイビス、繊細さとグルーヴィな感覚を両立はさせたビリー・ヒギンズのドラミング、さらに隙間を埋めていくボビー・ローズのサイドギターも上手いの一言!
 まさにジャズ者歓喜の名演じゃ~ないでしょうか。
 終演間際に炸裂するリチャード・デイビスのアルコ弾きには悶絶!

B-2 How Insensitive
 これまたご存知、アントニオ・カルロス・ジョビンの耳に馴染んだボサノバ曲ですから、油断は禁物!?
 テーマメロディを静かに歌わせつつ、ハッと気づけば、パット・マルティーノは何時の間にか独自にテンポアップした解釈で例の端正な乱れ打ち! 細かいフレーズを積み重ねるアドリブフレーズは、そのピッキングも凄いと思うばかりです。

B-3 Alone Together
 オーラスはジャズ者御用達のスタンダード曲ですから、正統派4ビートのハードバップを聴かせてくれます。そして当然ながら、テーマ演奏からしてオクターヴ奏法の大盤振る舞いということは、アルバムの主題のひとつでもあろう「dedicated to Wes Montgomery」でしょうか。
 さらにアドリブパートでの早弾きも爽快にして熱くさせられる、これぞっ! パット・マルティーノの素晴らしさ、凄さに圧倒されてしまいますよ。
 無暗に熱血じゃ~ないところが、たまりません ♪♪~♪

ということで、ジャケ写のイメージに狂わされると肩透かし的な内容かもしれませんが、モダンジャズのギターアルバムとしては実に秀逸で、ジャズ喫茶の大音量で聴くも良し、自宅で深夜独りヘッドホンで鑑賞するのも格別という名盤と思います。

パット・マルティーノには弾きまくった名演&名盤が多数あり、例えば「ライブ!」とか「イースト」等々、ロックファンにもアピールする人気アルバムは確かに凄いと思いますし、サイケおやじも大好きです。

と、同時に、このアルバムの様に幾分内省的な雰囲気が滲んだ演奏も、またパット・マルティーノの真実かもしれません。

最後になりましたが、ここで的確なサイドギターを担当しているボビー・ローズは隠れ名手として再評価を望みます。そして実はプロデューサー的な仕事もやっているらしく、ソウルジャズの分野での暗躍(?)も幾枚かのレコードに残されていますので、追々にご紹介しようと目論んでおります。

秋の夜長にはジャスギターのアルバムがジャストミートですねっ!
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レイ・ブライアントの真実はひとつ

2019-09-22 20:17:02 | Jazz
Slow Freight / Ray Bryant (Cadet)

レイ・ブライアントが幾枚も出した名盤&人気盤の中でも、もしかしたら一番じゃ~ないかと思われるのが本日掲載のLPです。

しかし、だからこその分かり易さが強い所為でしょうか、往年のジャズ喫茶では軽く扱われていた現実も確かにあり、このアルバムが「好き」とは言えない雰囲気、言ってしまったら「恥ずかしい」という取り越し苦労も、まあ、今となっては自意識過剰でありました。

だって、中身はきっちり充実していますし、決して場当たり的にやったセッションじゃ~無い事は、聴くほどに実感されるばかりです。

録音は1966年12月、メンバーはレイ・ブライアント(p)、リチャード・デイビス(b)、フレディ・ウェイツ(ds) という強力ピアノトリオにホーンアンサンブル担当としてアート・ファーマー(tp.flu)、スヌーキー・ヤング(tp,flu) という超一流の面々が参加していますので、まさにレイ・ブライアントが持ち味のブルース&ソウルに溢れ、小粋なフィーリングは保証付き!

A-1 Slow Freight
 レイ・ブライアントが自作にして看板にもしているミディアムスローのブルースなんですが、親しみ易いホーンリフを従えたグルーヴィなビアノトリオの演奏に如何にも「ぶるうす」な語りが被せられているのが強い印象として刻みつけられます。
 で、この語りを演じたのは、裏ジャケ解説文にはポール・セラーノと記載されていますが、この人は当時、シカゴ周辺で活動していたMJT(Modern Jazz Two) に参加する事もあったトランぺッターと同一人物なんでしょうか? ちなみにMJTはボブ・クランショウ(b) とウォルター・パーキンス(ds) のユニットで、フロント陣は流動的ながら、フランク・ストロジャー(as) やハロルド・メイバーン(p) 等々の人気者も参加したLPを数枚残していますので、機会がございましたら、お楽しみ下さいませ。
 さて、しかしながら、この「語り」が入っているがゆえに演奏が進むにつれ、なかなか雰囲気が盛り上がる事が、逆に硬派なジャズファンやマニア層には顰蹙とでも申しましょうか、所謂シャリコマと決めつけられる一因だったのかもしれません。
 実際、往年のジャズ喫茶の中には決してA面を鳴らさない、あるいはリクエストがあっても、A面はお断りという店さえあったんですから、いやはやなんとも……。
 レイ・ブライアント本人はライブでの必須演目にしていたほどですから、リスナーのウケが悪かったはずもなく、だとすれば日本独自の文化であったジャズ喫茶の功罪さえも論議されてしまいそうな名演だと、サイケおやじは強く思うばかりです。

A-2 Amen
 ドナルド・バードが名盤「フェゴ(Blue Note)」に入れた自作自演のゴスペルファンキーな人気曲ですから、そのオリジナルの楽しさと熱気を増幅せんと奮闘するレイ・ブライアントは流石のグルーヴを発散させています。
 それはブラスセクションを活かしたブレイクやフェイクっぽいフレーズの作り方、またアドリブソロのノリの良さこそが、レイ・ブライアントの人気の秘密と痛感されるばかりでしょうか。
 楽しいです ♪
 
A-3 Satin Doll
 説明不要、デューク・エリントンが書いた超有名スタンダード曲ですから、ジャズ者の耳に馴染んだメロディを快適なテンポでスイングさせていく上手さは流石の手練れと思います。
 そして注目はバッキング、あるいはソロパートで驚愕のテクニックと音楽性を発揮しているリチャード・デイビスの物凄さで、特にベースソロはストロングスタイルの極みと申しましょうか、これを聴かずして、このアルバムの何をか語らんや!
 
B-1 If You Go Away
 B面ド頭はジャック・ブレルのシャンソンヒットで、アメリカでも多くの歌手がカバーバージョンを出しているんですが、ここでのブラスセクションを聞いて、思わず「人形の家」!
 と、叫びそうになる皆様が必ずやいらっしゃるでしょう。
 しかし、レイ・ブライアントの憂いが滲むピアノタッチは曲想を大切にしていますし、施されたアレンジもドラムとベースの存在を確実に活かして秀逸ですよ。
 すでに述べたとおり、このアルバムはジャズ喫茶ではB面が御用達という傾向があったようですが、いきなりこの演奏がスタートするとニンマリする以前に初めて聴いた時には呆気にとられるのも、全ては「人形の家」ゆえの事と思いますよ ♪♪~♪

B-2 Ah, The Apple Tree (When The World Was Young)
 これも原曲はシャンソンかもしれませんが、アメリカのジャズシンガーが英語で歌ったバージョンが幾つもあるという、耳に馴染んだメロディをピアノトリオだけで神妙(?)に演じているのは気分転換的でしょうか。
 
B-3 放蕩息子の帰還 / The Return Of The Prodical Son
 フレディ・ハバードやジョージ・ベンソンの演奏が殊更有名なソウルジャズの名曲ですから、レイ・ブライアントも周到にして期待に応える演奏を聴かせてくれます。
 しかも前段として、真摯に地味な「Ah, The Apple Tree (When The World Was Young)」を聴いた後ですから、実はほとんど調子の良い哀愁のテーマメロディだけで進行していく変奏パターンが分かり易いのは言わずもがな、この曲そのものが大好きなサイケおやじなどは、何度でも聴きたくなる魔法に毒されたようなもんですよ。
 ところが後半に登場するリチャード・デイビスのアルコ弾きのベースソロで現世に連れ戻されるという快感がニクイばかり♪♪~♪
 ちなみに「放蕩息子の帰還 / The Return Of The Prodical Son」を作曲したハロルド・アウズリーはソウルジャズをテリトリーに活躍したサックス奏者で、しぶといリーダー盤も出しているので、いずれはご紹介させていただきます。

B-4 The Fox Stalker
 オーラスは、まさにレイ・ブライアントが十八番のラテンビートを用いた自作曲で、ピアノトリオの魅力を満喫させてくれますよ♪
 オシャレ系のフレーズを潜ませたアドリブの妙、そして自然体のスイング感は絶品と思います。

ということで、本来モダンジャスは楽しいもんなんですよ ♪ てなことを実感させてくれるアルバムだと思います。

しかし、冒頭に述べたとおり、若い頃のサイケおやじは、ど~してもそれを素直に言えず、このアルバム以外にも秘匿していたLPが多々ありました。

ところが今は、それが若気の至りというよりは、未熟なプライドであったと反省するばかり……。

逆に言えば、齢を重ねて羞恥心を失ったのだとも思いたい心境でございます。

それでも、レイ・ブライアントが残してくれた「Slow Freight」は、人気盤にして傑作という真実はひとつ!

不滅だと思うのでした。
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バーニー・ケッセルの快楽のボッサ

2019-09-16 20:06:11 | Jazz
Guitarra / Barney Kessel (RCA Camden)

  A-1 B.J.'s Samba
  A-2 Meu Irmao
  A-3 Malibu
  A-4 On The Riviera
  B-1 Lison
  B-2 Freeway
  B-3 From My Heart
  B-4 Swing Samba
  B-5 Amelia

俗に「フレンチボサ」とか「イタリアンボサ」とかいう言葉がレコード業界(?)にあるぐらいですから実際、欧州産のボサノバ物は人気があるらしく、というよりもボサノバというブラジル産のモダンジャズの魅力は世界共通の快楽だとすれば、アメリカのジャズミュージシャンが欧州でボサノバ物のレコードを作ったとしても、何ら違和感は無いはずです。

また、言うまでもなく、ボサノバが世界に流布したのはスタン・ゲッツ(ts) がこのジャンルを大ヒットさせた事がきっかけとすれば、例えばバド・シャンク(as) とか、殊更ハリウッド周辺で活動していたスタジオセッションも普通にやれるジャズ系の白人ミュージシャンが、その高い音楽性やテクニックを見込まれて、ど~にも即席に作ってしまったようなBGM的ボサノバ風味のレコードも現在まで沢山知られているのですから、超一流のジャズギタリストであり、また西海岸のセッションプレイヤーとしてもトップクラスだったバーニー・ケッセルが渡欧していれば、そこでソレモンのアルバムを吹き込んでいたとしても、それは時代の要求だったと思うばかりです。

しかし問題(?)は、そ~ゆ~レコードが我が国では軽く扱われていたというリアルタイムの現実で、本日ご紹介のバーニー・ケッセルのLPが世に出た1970年に日本で発売され、売れていたのかは判然としません。

極言すれば、これはリアルジャズではないっ!

という一言で片づけられてしまうほど、中身は実に快楽的なんですねぇ~~ ♪

拙ブログで度々書かせていただいたように、そうしたレコードは日本じゃ~名盤扱いにはならない事は、殊更当時のジャズマスコミやジャズ喫茶等々のマニア性の高い現場では常識だった感があります。

それでも何かのハズミ(?)に、このアルバムの中の1曲でも耳にすれば、思わずグッと惹き込まれることは請け合い! 
 
と、サイケおやじは激オススメなんですよ。

とにかくA面ド頭「B.J.'s Samba」はバーニー・ケッセルのオリジナルとされていますが、軽快なラテンビートにノリまくって紡ぎだされるテーマメロディの既視感的聴覚の快楽は、つまりどっかで聞いたことがあるような美味しいメロディの良いとこ取りでしょうか、バックのハモンドオルガンも所謂ラウンジ感覚が満点という気持ち良さ♪♪~♪

そして主役のバーニー・ケッセルは初っ端から十八番のリックを大盤振る舞いで、歌心に満ちたアドリブを繰り広げるもんですから、約4分ほどでフェードアウトされてしまうのが本当に勿体ないかぎりで、しかしだからこそ、アルバムは絶対に間違いないっ!
 
思わずそんな確信を抱いてしまうのはサイケおやじの独断と偏見ではありますが、続く「 Meu Irmao」が、これまたアップテンの快演で、おぉ~、このテーマメロディは、あれかなぁ~~♪

なぁ~んてことを思わせてしまう演奏メンバーはバーニー・ケッセル(g) 以下、カルロ・ペス(g)、アントネロ・ヴァヌッツィ(org)、ジョバンニ・トマソ(b)、エンゾ・ルツェッラオ(ds,per) 、チロ・チッコ(per) とされていますが、サイケおやじはイタリア語をほとんど知らないので、日本語読みは全くの我流とお断りしたところで、しかし彼等はなかなかの実力者だと思います。

なによりも、こ~したラテン~ボサロック調のボサノバ風ジャズを快適に演じてしまうセンスには脱帽ですよ♪♪~♪

また、収録曲のクレジットを確認して驚かされたのが、なんとっ! 本場ブラジルのソングライターが書いた名曲が全く入っておらず、バーニー・ケッセルの4曲以外は参加メンバーやイタリアの音楽関係者からの提供だったらしい、その心意気や、良し!

ですから、バーニー・ケッセルが作曲し、アップテンポで演じられた「On The Riviera」がレイモン・ルフェーブルやミッシェル・ローランでお馴染みの「シバの女王」にクリソツというニンマリ感はたりませんし、特にB面収録の各曲が後にリー・リトナーがやったブラジリアン・フュージョンっぽい味わいに近くなっているのは、目から鱗でありました。

ということで、これは徹頭徹尾快楽的なアルバムでして、実は告白すればサイケおやじは1970年代末頃からの一時期、集中的にバーニー・ケッセルのレコードを漁っていた頃に何の気なしに出会った1枚だったんですが、そんな理由ですから、掲載の私有盤はカナダプレスであり、しかしオリジナルはイタリア盤という事実が確かにあります。

それと冒頭に述べたとおり、このアルバムは日本じゃ~決してチヤホヤされる事なんか微塵もなかった当時も今や夢とでも申しましょうか、我が国のリスナーの意識改革があったようで、近年は完全なる人気盤にっているそうですよ。

当然ながら、しっかりCD化もされているので、楽しくオシャレな演奏が欲しくなっている皆様には、ぜひとも聴いていただきたい個人的な愛聴盤なのでした。
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今でも菅野邦彦のライブ盤にシビレっぱなし

2019-09-14 20:07:18 | Jazz
ライブ! / 菅野邦彦ライブ (Nadja / Trio)

  A-1 Menica Moca (10月7日:福岡市「ケリー」での録音)
  A-2 Wave / 波 (10月8日:熊本市「ソワレ」での録音)
  A-3 Sweet And Lovely (10月9日:鹿児島市中央公民館での録音)
  B-1 Summertime (10月10日:名瀬市中央公民館での録音)
  B-2 For Once In My Life (同上)
  B-3 Blues (同上)

菅野邦彦は天才と称賛されるジャズピアニストとして昭和30年代後半から今も元気に活動していますが、しかし一般的なジャズファンにそれが認知されたのは、おそらくは昭和40年代後半になってから、殊更昭和48(1973)年に発売された鈴木勲のリーダー作「ブロー・アップ(Three Blind Mice)」に参加してからだと思います。

実際、このLPは録音が素晴らしいという評価もあってか、当時のジャズ喫茶でも日本人ジャズとしては鳴らされる事が多かったようですし、もちろん収録された演奏もウケた事からジャズ関係の表彰も様々獲得した人気盤となれば、菅野邦彦にも注目が集まるのは当然でしょう。

そして、その流れから以前=昭和43(1968)年に録音&発売されていた菅野邦彦の初リーダーアルバム「フィンガー・ポッピング(takt)」の存在が再確認されながら、現実的には既に廃盤だった事から、直ぐに再発はされたんですが、それまでの間、新たに菅野邦彦に魅了されたファンの渇きを癒してくれたのが、昭和49(1974)年に発売された本日掲載のLPでした。

と、以上は例によってサイケおやじの独断と偏見ではありますが、リアルタイムでは、このライブ盤こそが菅野邦彦の本領に触れた最初の個人的な感慨でして、正直なところ、録音状態は決して素晴らしいとは言い難い状況ではありますが、演奏はジャズの本質に迫る楽しさと粋なフィーリングに溢れているんですねぇ~~ ♪

実はこのLPに収録の演奏はタイトルに偽り無しの生粋のライブであり、しかも発売前年の昭和48(1973)年10月に敢行された自らのレギュラーグループを率いての九州巡業において、地元のファンが非公式に録音した音源から選ばれたトラックが使われたという真相が、なかなか良い方向に作用したとしか思えない仕上がり!?

このあたりの経緯や状況は、当時鹿児島に在住していたらしいジャズ愛好家の中山信一郎氏が付属解説書に詳しく書いており、リアルタイムでの九州地区のジャズを取り巻く環境やファンの熱意等々が今や歴史的資料としても興味深く読めるところでしょう。

そこには菅野邦彦のキャリアや音楽性ばかりではなく、人柄や信念までも身近に感じられるままに書かれていると思えば、このアルバムに収録された各トラックが少なからぬ時間のテープに残された音源の中から選び抜かれた理由にも自ずと納得されると思います。

演奏メンバーは菅野邦彦(p)、本田栄造(b)、高田光比古(ds)、小林庸一(per) というカルテット編成ながら、ライブの現場における熱気さえも自然に捉えられたイイ雰囲気は、録音の良し悪しを問題にしない音楽的な膨らみ(?)がサイケおやじには感じられるほどです。

なにしろA面ド頭に収録されたセツナチズム溢れるボサノバの人気曲「Menica Moca」からして、録音のバランスは決して良好とは言えず、主役である菅野邦彦のピアノが若干引っ込んだ感じではありますが、マイナーキーの原曲メロディーを活かしきったアドリブの歌心やリズム的快楽度は相当にハイテンション ♪♪~♪

続く、これまた有名なボサノバ曲「Wave / 波」がボサノバのリズムじゃ~なくて、チャカポコの4ビートで演じられるのも意表を突くジャズ的なセンスとしか思えないほど、ここでの菅野邦彦は歌心とダイナミックなノリで出色のアドリブを披露していますし、バンドメンバーが一丸となってのグルーヴも好き嫌いはあるにしろ、やっぱり楽しさに満ちています。

いゃ~、このアルバムの中では最長の14分を超える演奏時間が短く感じますねぇ~~ ♪

ですから、付属解説書によれば不調だったとされる鹿児島での「Sweet And Lovely」にしても、それを知らなきゃ~逆に幾分の攻撃的な姿勢が滲んだラフな演奏と感じられますし、その執筆者の中山信一郎氏が何故に「不調」と記したのか、ちょいと興味が……ですよ。

そのあたりは現在まで定説になっているとおり、菅野邦彦のピアノスタイルはエロル・ガーナーフィニアス・ニューボーンあたりからの影響下に云々という、まさに当時はジャズの主流になっていたマッコイ・タイナーやハービー・ハンコック等々のモード系のイケイケ&思索的なスタイルとは一線を画する「OLD WAVE」であり、実際にアルバム全篇で例の「ビハインド・ザ・ビート」や「両手ユニゾン弾き」という前述した巨匠の秘技が出る場面が確かにありますが、基本姿勢はジャズならではスイング&ドライヴ感を常に大切にしたプレイじゃ~ないでしょうか。

時にはウィントン・ケリーっぽくなるあたりもイイ感じ♪♪~♪

ですから同じ会場で録られた演奏だけで纏められたB面の集中的な楽しさが格別なのはムベなるかな、所謂グルーヴィな味わいも滲ませる「Summertime」、ジャズファン以外にも広く知られているヒットメロディの「For Once In My Life」では前半のスローな展開からテンポアップして盛り上げる後半の楽しさ、そして熱狂の拍手の中で続けて入っていく即興的な「Blues」に至っては、本当にジャズを聴いている快楽が横溢しまくる雰囲気が、たまりません ♪♪~♪

このあたりの感覚は、実は当時の日本のジャズファンの中では賛否両論が確かにあったとサイケおやじは思っているんですが、それは特に長くジャズを聴いているマニア&コレクター諸氏にとっては、シリアスさに欠けると受け取られていたようですし、軽く扱うのが真剣勝負でジャズを鑑賞する態度と決めつけるが如き姿勢が、例えばジャズ喫茶に集うジャズファンの中には少なからずあったと感じています。

まあ、今となってはちょいと信じられない話かもしれませんが、ジャズ喫茶の中には日本人がやっているジャズのレコードは鳴らさない方針の店さえあって、それは日本人と外人じゃ~、リズムやビートの感覚&感性が違うから、極言すれば日本人のジャズは偽物だから聴くだけ野暮とまで決めつけられていた現実が確かにありましたですよ……。

サイケおやじにも、そのあたりの感じは理解出来るところもあります。

しかし、だから日本人が演じるジャズは全部ダサイなぁ~んてこたぁ~~、絶対に無いでしょう。

好きなものは好きっ!

と堂々と言えるのが恥ずかしいとしたら、見栄だけで時には自分じゃ~理解不能なジャズを聴くなんていう時間の浪費と精神衛生の悪化を招く愚行を、ねっ!

菅野邦彦のピアノを楽しむのに、そんな理屈なんて不必要!

それがジャズの本質のひとつだと、殊更このアルバムはサイケおやじに訴えかけてきたんですねぇ~ ♪

告白すれば、リアルタイムの昭和49(1974)年以来、相当長い時間、このアルバムに針を落としていた現実がサイケおやじにはあり、それが平成に元号が代わったある日、ほんの不注意からレコード盤そのものを割ってしまった不覚は痛恨でした……。

それが2年近く前、偶然にもオリジナル盤を知り合いからプレゼントされながら、借りているトランクルームに置きっぱなしにしていたというバチアタリは全くサイケおやじの不明の至り、深い反省と感謝の念を心に刻み、昨夜はこれを自宅に持ち帰り、じっくりと聴きながら拙文をしたためている次第です。

あぁ~~、やっぱり好きなものは好きですよ、特にこの菅野邦彦のライブ盤がっ!

最後になりましたが、冒頭述べたとおり、ここに収録の音源は現地のファンが私的に録音したものですから、製品化するにあたってはトリオレコード関係者のプロの技があってこそだと思います。また、この「Nadja」というレーベルはトリオレコードが立ち上げた自主制作音源を専門とする、つまりはインディーズということだそうで、だからこその自由な雰囲気が横溢した、如何にもジャズらしい作品が世に出たのかもしれません。

それと付属解説書によれば、この巡業中の音源には、まだまだ優れた演奏が残されているらしく、何時かはそれも公にされる事を強く望んでいます。

うむ、もしかしたら以前に発売されたというCDには入っているんでしょうか?

そんなこんなを気にしながら鑑賞するこのアルバムは、ますます楽しさが増幅するのでした。
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ジャコとギルの真夏の正夢

2017-07-27 17:08:10 | Jazz
Gil Evans & Jaco Pastorius Live Under The Sky Tokyo '84 (Hi Hat = CD)

★Disc-1
 01 Stone Free
 02 Up From The Skies
 03 Orange Was The Color Of Her Dress
 04 Jaco Solo
 05 Soul Intro / The Chicken
 06 Here Comes de Honey Man / Eleven
 07 Announce
★Disc-2
 01 Jaco Solo / Goodbye Pork Pie Hat
 02 Variations on the Misery / Jaco Solo
 03 Dania
 04 Announce
 
毎年、夏の風物詩とも言えるようになった野外フェスも、殊更1980年代のバブルが弾ける前あたりまではジャズの分野でも大盛況だった中にあって、1977年から始まった「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」と称されたイベントは、大物ジャズ&フュージョンプレイヤーを豪華絢爛に招聘した事により、今や伝説となったライブギグも多く、例えば1977年と1979年の VSOP クインテットは知られ過ぎている感もありますが、本日掲載のCDで聴かれる、1984年のギル・エバンス・オーケストラとジャコ・パストリアスの共演ステージも、まさに様々な憶測や悪評も否定出来ない超・伝説、あるいは真・伝説!?

サイケおやじは幸運(?)にも、その現場に参集しておりましたので、当夜の印象を交えながら、この音源をご紹介させていただきます。

まず、何と言っても、ギル・エバンスとジャコの共演という企画からして、発表された瞬間からの衝撃は大きく、特にジャコに関してはウェザー・リポートに加入してからの大ブレイク以降、その革新的とも言える斬新なエレクトリックベースのサウンドと演奏スタイルはジャズ者ばかりか、ロック&ソウルファンからも人気と注目を集めた存在でしたから、自身がリーダーとなったバンドでの来日公演も大成功していながら、この1984年当時は、ほとんど音信不通というか、あまり活動状況が伝えられていなかったわけで、今となっては、その頃のジャコは悪いクスリや大酒鯨飲等々から、心身共に不安定さを増し、その周囲からはミュージシャン仲間が去っていたという孤立状態だったそうですから、さもありなんと言えば、それまで……。

しかし、リアルタイムじゃ~、そんな内幕なんかは一般の音楽好きには知らされていなかったのですから、ビックバンドでの音楽構築に拘りつつ、大きな成果を残していたジャコがギル・エバンス率いるオーケストラに特参する企画は、まさに夢の中の正夢!?

サイケおやじにしても、ウェザー・リポートの来日公演以降、ジャコのライブには接する事が出来なかった事から、このステージは絶対に逃せないと覚悟を決め、万難を排してチケットをゲットしたわけですが……。

さて、当日の1984年7月28日、場所は東京よみうりランドの野外シアター・イーストに出向いてみると、リハーサルが長引いていたらしく、客入れが大幅に遅れている様子で、しかもやっと入場した時でさえ、ステージには囲いが設けられ、その中でリハーサルが続いていたという段取りの悪さは、そこから時折聞こえて来た奇声(?)や怒号(?)等々と共に、なんだか不穏な空気が感じられた記憶が残っているものの、それでもそんなリハーサルに音だけでも接する事が出来たラッキーな気分も確かにありましたですねぇ~~♪

ちなみにオーケストラの来日メンバーはギル・エヴァンス(key) 以下、ルー・ソロフ(tp)、マービン・ピーターソン(tp)、マイルス・エバンス(tp)、ジョージ・ルイス(tb)、クリス・ハンター(as)、ジョージ・アダムス(ts)、ハワード・ジョンソン(bs,tuba)、ピート・レヴィン(synthesizer)、ハイラム・ブロック(g)、マーク・イーガン(b)、アダム・ナスバウム(ds) という実力派揃いでしたから、ここにジャコが加わったらという、それは正しく未知との遭遇でしょう!?

そして待ってましたの開演は、ギル・エバンスがジミヘンをやらかす「Stone Free」と「Up from the Skies」の二連発!

ご存じのとおり、ギル・エバンスはジミヘンとの共演レコーディングを目論んでいながら、肝心のジミヘンが急逝した事により、その計画は頓挫したものの、体勢を立て直しての1974年に出したアルバム「ブレイズ・ジミ・ヘンドリックス(RCA)」の大成功によって世界中を驚嘆させて以降、ライブの現場でも度々ジミヘンの楽曲を演奏していた事は今日まで残された幾多の音源でも明らかですが、やっぱりリアルタイムの実演に接してみれば、そのゾクゾク感は格別!

とにかく何気ない始まりから、ググゥゥ~っと盛り上がって爆発する「Stone Free」ではクリス・ハンターが熱血のアルトサックスで泣き節アドリブを披露するんですが正直、デイヴィッド・サンボーンの代役みたいな存在という先入観があろうとも、これはこれでジャズの醍醐味でありましょう。

そしてハワード・ジョンソンのチューバのソロから、ハードフュージョンにどっぷり染まったハイラム・ブロックのギターソロが飛び出す頃には、本当にカッコイィ~~ジャズを聴いているという気分にさせられましたですねぇ~~~♪

またそこから自然に繋がっている「Up from the Skies」は、4ビートも入れたロックジャズになっていて、ここでもハイラム・ブロックが良い味出しまくりなんですが、お目当てのジャコは時折ステージに顔を出すというか、居並ぶメンバーのところへ行っては追っ払われるみたいな奇行が???

当然ながら、演奏ではマイク・イーガンがメインでベースを担当していたんですが、ちょっとでもジャコの姿が見えれば、それだけで観客は大騒ぎというハイボルテージな状況で、そんなこんなは、この音源にもしっかり記録されていますので、ご想像とご確認をお願いする次第です。

したがってチャーリー・ミンガスの古典「Orange Was The Color Of Her Dress」にもジャコの存在感は無いに等しく、それゆえに優雅な演奏が成立したのでしょうか、ジョージ・アダムスのシビレるテナーサックスが過激と和みのコントラストを見事に描いていたのは高得点でした。

あぁ~~、このサウンドこそ、ギル・エバンスの魔法ですよねぇ~~~♪

ですから、いよいよジャコが本格的に入ってのジコチュウにならなければ納得出来ない「Soul Intro / The Chicken」、またその前段としての「Jaco Solo」の煮え切らなさは、ますます観客をフラストレーションに誘ったが如き狂熱であり、告白すれば、その場のサイケおやじも燃えるジャズライブのルツボに落とされていたんですが……、それこそが生演奏に接する喜びであったに違いありません。

あぁぁ~、ルー・ソロフのトランペットとジョージ・ルイスのトロンボーンがモダンジャズの真髄に迫っていますっ!

ですから、続くジョージ・ガーシュイン作の有名ミュージカル曲「Here Comes de Honey Man」とギル・エバンスの十八番「Eleven」のメドレーが長~~い演奏になってはいても、ハイラム・ブロックのプログレ風味も交えたギター、ソニー・ロリンズ風の展開も披露するジョージ・アダムスのテナーサックス、ピート・レヴィンのシンセ、さらには荒っぽくてもビシっとキメるアダム・ナスバウムの力強いドラムスに爆裂するマービン・ピーターソンのトランペット等々、グッと惹きつけられるプレイは強烈至極ですよっ!

まさに、この音源のハイライトとも言うべき演奏だと思いますし、ここまでやられると、ジャコの存在、その好不調なんて、それほど問題にならないような気がするばかりなんですが、実際にジャコの出番なんて無くて、そのライブステージでも本人のベースの音はミックスで下げられていたような感じもありましたが、いかがなものでしょう。

しかしそれでもファンの熱狂は殊更ジャコ信者に物凄く、「Announce」で聴けるように、如何にもの手拍子で「サンサンナナビョ~~シ」が出てしまうあたりは、いやはやなんとも、それもニッポンの夏!?

ちなみに、この音源のソースは当時のNHK-BSで放送されたというクレジットがあって、サイケおやじも後に友人から頂戴したカセットコピーを聴いていたんですが、映像とかの完全版は、ど~なっているんでしょうかねぇ~~、とにかくここで解説放送されているのは、ジャズ評論家の児山紀芳先生であります。

で、そんなこんなの流れは、いよいよ Disc-2 で煮詰まり、「Jaco Solo / Goodbye Pork Pie Ha」ではツカミにあたるジャコのベースソロのマンネリ感というか、これまでの常套手段を聴けるだけで満足させられる事は確かですから、それでも「Goodbye Pork Pie Hat」でのクリス・ハンターの真摯な熱演には、ジャズを聴いているという喜びに震えてしまいますよ♪♪~♪

オーケストラサウンドの彩も素晴らしく、なかなかの名演じゃ~ないでしょうか。

これはジャコが後半、ほとんど音を出していなかった(?)結果かもしれません。

その意味でロックビートとモロジャズの4ビートが交錯する「Variations On The Misery / Jaco Solo」は混濁した痛快さが満点で、ジョージ・アダムスのテナーサックスやルー・ソロフのトランペットがアドリブの醍醐味を伝えてくれますし、リズム隊の伴奏というか、上手いバックアップは流石の証明なんですが、そ~なってみるとジャコの短いソロパフォーマンスが、なんだかなぁ……。

ついにはジャコ自作の「Dania」に入っても、グルーヴィなリズム的興奮にジャコ本人がノリ切れないというか、この不完全燃焼があっては、この日の伝説が悪評として残されたのも無理からん話と思います。

ただし、オーラスの「Announce」に記録されているとおり、サイケおやじを含むその夜の観客の熱狂は物凄く、実はそれこそが、このCD化された音源の最大意義だとしたら、伝説は伝説として、素直に後世へ残しておくのも悪い事ではないのでしょう。

ということで、あの夜から既に33年が過ぎ、ジャコもこの3年後には鬼籍に入ってしまったのですから、伝説の重みと深味は強くなるばかりとはいえ、やっぱり今となっては、ジャコの奇行というか、例のドロだらけでの演奏とか、ベースを掌の上で直立させてのバランス遊び等々、写真や映像で接するだけの事でも、その精神の危うさは押して知るべし……。

そんな紙一重の天才に会えただけでも、サイケおやじは納得して、この音源を聴いているのでした。
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ジョン・コルトレーンの最初の黙想

2017-07-17 15:26:41 | Jazz
First Meditations (For Quartet) / John Coltrane (Impuise / ABC)

 A-1 Love
 A-2 Compassion
 B-1 Joy
 B-2 Consequences
 B-3 Serenity
 
本日はジョン・コルトレーン没後50年目の命日……、にしては巷でそれほどの追善供養が行われているような気がしないのは、既にサイケおやじがジャズを真っ向勝負で聴く生活から遠退いている所為でしょうか……。

そこで原点回帰として、朝一発目から故人のレコードをあれやこれやと取り出し、まずは針を落としたのが本日掲載のLPなんですが、この凡そ「らしくない」ジャケットデザインは、発売されたのが1977年という所謂フュージョン全盛期だった時代背景を考慮しても、なんだか煮え切らない気持ちは今も昔も変わりません。

しかし、現実としてのリアルタイムじゃ~、まさかの嬉しさに大歓迎されたんですよっ!

なんたって演奏メンバーがジョン・コルトレーン(ts) 以下、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という黄金のカルテットで、しかも収めらていたのが1966年に世に出た、あの混濁と静謐の名盤「メディテーションズ」と同じ曲目だったんですから、これはもう、聴く前からドキドキさせられるのがジャズ者の宿業でありましょう。

とにかく「ファースト・メディテイションズ」というアルバムタイトルに偽り無し!

それは、説明不要かとは思いますが、件のLP「メディテーションズ」がお馴染みのカルテットにファラオ・サンダース(ts) とラシッド・アリ(ds) を加えての得体の知れなさというか、1965年の問題作「アセンション」以降、ますますフリージャズに傾倒していった故人の音楽性を肯定するが如き新旧世代の対立の構図は、そのまんま、リスナーを戸惑わせるものになっていたはずで、リアルタイムのコルトレーン信者はもちろんでしょうが、後追いでジャズを聴く楽しみを知ったサイケおやじを含む一般のファンにしても、聴く前から腰が引けてしまっていたのが、この時期のジョン・コルトレーンのレコードだったように思います。

しかし、ジョン・コルトレーンがそれでも愛想を尽かされなかったのは、フリージャズと言っても、決して出鱈目の垂れ流しでは無く、独自の文法らしきものを打ち立てる、その前向きな(?)姿勢がどうにかリスナーに伝わってきたからだとすれば、前述のアルバム「メディテーションズ」が激情と狂乱を演じるファラオ・サンダースに対し、静謐な衝動で威厳を示すジョン・コルトレーンの有様こそが、混濁しながらも爆発力を失わないリズム隊共々に、ひとつのジャズ的精神宇宙を成り立たせ、スピーカーの前のファンをそこに引き込むブラックホール!?

ですから、聴いていて、どうにも疲れるし、それが心地良さに転化する瞬間のエクスタシーだったとしても、余程の気持が入っていなければ、自室では気楽に針を落とせないのが「メディテーションズ」という傑作LPだと、そんなふうにサイケおやじが決め込んでいたところに、この「ファースト・メディテイションズ」の発売は、故人没後10年目の1977年でありました。

そして、そこには正統派ストロングスタイルのジャズが大好きなファンならば、聴く前から演奏メンバーのクレジットを確認して歓喜悶絶!

さらにレコードを聴きながら、シビレが止まらないほど昇天させられる桃源郷に連れて行かれるわけですが、しかし不肖サイケおやじも、そのひとりだったとはいえ、生来の天邪鬼の身としては、なんだか妙な物足りなさを覚えたのも、また正直なところ……。

それは結論から述べさせていただければ、まずジョン・コルトレーン本人の出来がイマイチ、調子が出ていないんじゃ~なかろうか?

という非常に不遜な気持ちであり、カルテットとしての纏まりも、所々で迷いや模索が滲んでいる感じあるような、う~ん……、こんな事を書いてしまうと、皆様からのお叱りは必至だと思いますが、そんなこんなの収録演目に対する正直な感想は――

まずA面ド頭「Love」は、暑苦しい曲調のスローな演奏で、巷間云われるところのスピリチュアルなムードが横溢しているあたりは、如何にもの人気があって、なにしろ前述のLP「メディテーションズ」の中にあっても、グッと惹きつけられる魅力は否定し難いものでしたからねぇ~~。

ちなみに、このアルバムに収録の全曲は1965年9月2日、「メディテーションズ」は同年11月23日のセッションから作られたという歴史を鑑みれば、その2ヶ月足らずの短期間に何がどのように変化し、進化したのかは興味深いところだと思いますし、その意味で続くミディアムテンポの「Compassion」におけるジョン・コルトレーンが痙攣シビレ節で咆哮すれば、ドスドスに敲きまくって物分かりの悪さを露わにするエルビン・ジョーンズの対峙こそが、黄金のカルテット全盛期を論証しているのでしょうか……。

そしてレコードをひっくり返してB面に針を落とせば、いきなりアップテンポの「Joy」が始まりますが、最初っからエルビン・ジョーンズのタイミングが合わないようなドラミングが耳触りですし、リズム隊も隙間だらけの伴奏というか、これはサイケおやじの独断と偏見なんでしょうが、だからこそアドリブパートに入ってからの猛烈なノリで突進する演奏は流石、黄金のカルテットの面目躍如!

しかし、逆に言えば、だからこそこの「Joy」は6人組で作られた本篇アルバム「メディテーションズ」では不採用で演奏されず、実はここでのセッションから間もない同年9月22日に再演レコーディングされたバージョンが、なんとっ!

1972年、つまりジョン・コルトレーンの没後に未亡人となったアリス・コルトレーンが様々に意味不明なオーバーダビングを施して仕立て上げた「インフィニティ」というLPに流用されるという、これまたなんともな仕打ちが……。

だからでしょう、現在では故人の遺作がCD復刻された際、この「Joy」のオリジナル再レコーディングバージョンがオーバーダビング抜きで聴けるようになり、その安心印が尚更に強くなった演奏は素晴らしいかぎりなんですが、そ~ゆ~保守性が感じられるところに、賛否両論があるのも、また事実だと思います。
 
閑話休題。

で、いよいよこのアルバム「ファースト・メディテイションズ」の佳境に入るのが「Consequences」で、実は思いっきりフリーな演奏でありながら、エルビン・ジョーンズはきっちり4ビートを感じさせるドラミングをやっていますし、マッコイ・タイナーは本領発揮の大爆発ですから、後半でのジョン・コルトレーンの大噴火は、全てのジャズ者を納得させる伝家の宝刀でありましょう。

そして間断無く入ってしまう「Serenity」は、厳かで勿体ぶった雰囲気に溢れていて、これが終局を演出するには最良のやり方だったのかもしれませんが、安らぎよりは微妙に悪い予感が滲んで来るような……。

う~ん、ジョン・コルトレーン……、何も途中で無理やりっぽく咆哮することはないだろうに……。

という、またまた不遜の極みを吐露してしまったサイケおやじではありますが、やっぱりこの「ファースト・メディテイションズ」はリアルタイムでゲットさせられたわけですし、当時のジャズ喫茶では、ほとんどの店でリクエストが絶えなかった人気盤でありました。

以下は全くのサイケおやじの独断と偏見、そして妄想ではありますが、「ファースト・メディテイションズ」の魅力は、まずは黄金のカルテット最末期の演奏が聴ける事が一番なのは言わずもがな、決して絶好調とは言い難いジョン・コルトレーン自身のプレイから伝わって来る前向きな姿勢とそれに対する迷いが、後年神様に祀り上げられる偉人の素顔の一面を感じさせるからかもしれません。

告白すれば、サイケおやじは、この「ファースト・メディテイションズ」を聴き込んで後、本篇「メディテーションズ」が好きになったのであって、それもまたサイケおやじの OLD WAVE な体質を証明する事象に他なりません。
 

さあ、今夜は「メディテイションズ」をしっかり聴いて、故人を偲びましょうか。

合掌。
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