■サウンド・オブ・サイレンス / Simon & Garfunkel (CBS / 日本コロムビア)
1960年代後半の我が国洋楽シーンは、ビートルズが何でも一番で、その他の歌手やバンドはストーンズやビーチボーイズでさえも十把一絡げ状態だったと思います。つまり今では神格化されたロックスタアでさえも、当時はビートルズに太刀打ち出来なかったというわけですが、そこへ静かに登場し、圧倒的な人気を獲得したのが、サイモンとガーファンクルでした。
ご存じのように、このコンビは最初、ポピュラー系のフォークデュオとしてスタートし、トム&ジェリーと名乗っていた頃には小さなヒット曲も出していますが、その後は泣かず飛ばず……。それが突如としてブレイクしたのは、彼等がシンプルに歌っていた「The Sound Of Silence」の初期バージョンにプロデューサーが勝手にドラムスやエレキギター等々のバック演奏をダビングし、フォークロックに作り直してヒットさせたという逸話は有名すぎます。
これは1965年の事で、その担当プロデューサーはモダンジャズでは極めて良心的なマイナーレーベルだったトランジションを運営、少数ながらもハードバップの大傑作を作っていたトム・ウィルソンでした。しかも、そのダビングセッションに参加したのが、ボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」のレコーディングで集まった面々だっというのですから、歴史は怖いほどに真実を求めていますし、その結果として翌年1月にはチャートのトップに輝いたというわけです。
そして我が国では昭和43(1968)年、サイモンとガーファンクルの歌と演奏が大々的に使われたダスティ・ホフマン主演の映画、「卒業」が公開されてからの大ブレイクだったと思います。とにかくその人気は凄まじく、ちょうどビートルズが些かの迷い道に入りかけていたこともありましたから、彼等の力強くて清涼感あふれる歌声と素敵なヒネリが効いた珠玉のメロディは、ちょうどGSブームが爛熟して下火になりかかっていた日本の音楽業界にも救世主だったかもしれません。今となっては、カレッジフォークのブームがフォーク歌謡的な流行へと進化していく、そのきっかけのひとつが、サイモンとガーファンクルの人気沸騰だったという気もしています。
それは少年時代のサイケおやじも、当然夢中にさせられました。
そして本日ご紹介のシングル盤は、私が件の映画「卒業」を観た直後に買ったものです。
実は告白すると、この映画は自発的に観に行ったわけではなく、叔母さんに連れられていったのですが、さて劇場に到着してみると、そこには叔母さんの彼氏が待っていました。つまり私は叔母さんのデートのダシに使われていたわけですが、後で知ったところによると、この2人は当時、会うことも禁止されていた悲恋をやっていたのです。
まあ、そういう理由ですから、映画が終わった後、私は叔母さんから千円貰って帰ることになり、そのお金で買ったのが、このシングル盤なのです。
肝心の映画は優秀な成績で大学を卒業し、将来を嘱望されているダスティ・ホフマンの漠然とした不安やコンプレックスを描いていたようですが、当時は中学生だった私には??? 今では有名なラストシーンでの教会からの花嫁略奪やキャサリン・ロスの知的な美貌よりも、ダスティ・ホフマンを誘惑するアン・バンクロフトの妖艶なエロスが、実は醜悪に見えたほど印象的でした。いやらしい美脚も♪♪~♪
ただ映画公開以前から話題になっていたサイモンとガーファンクルの楽曲には、素直に素敵だと思わされました。このシングル盤を買ったのも、それゆえの事ですが、しかし実際の映画音楽担当は、後にフュージョンの立役者となるデイヴ・グルーシンだったんですねぇ~。如何にもジャズっぽい自作曲の他にも、ポール・サイモンの書いたメロディを相当に濃い味付けにアレンジしたストリングやブラスの使い方は、それらを収めたサントラ音源集で楽しめますが、そのプロデュースをやったのが、マイルス・デイビスでお馴染みのテオ・マセロという因縁も興味深々です。
その中でサイモンとガーファンクルは「The Sound Of Silence」「Mrs, Robinson」「April Come She Will」「Scarborough Fair」等々を歌っていましたが、特に私が気に入ったのが、このシングル盤B面に入っている「ミセス・ロビンソン」でした。
ただし映画で聴かれたバージョンは生ギターをメインにした短いテイクだったものが、このシングル盤ではドラムスやベースも入った力強いフォークロックで軽快に歌われていますから、忽ちサイケおやじをシビレさせたのは言うまでもありません。ウキウキするような生ギターの使い方、絶妙に黒いグルーヴが潜むリズム的な興奮、そして繊細で意外にしぶとい感じの歌とコーラス♪♪~♪
皆様がご存じのように、この「ミセス・ロビンソン」は「卒業」のサントラアルバムに続いて発表された彼等の大傑作盤「ブック・エンド」に完成バージョンとして収録されたもので、アメリカでは先行シングルとしてチャートのトップに輝いていたのですが、我が国での発売はどっちが早かったのでしょうか? とにかくサイケおやじは、このシングル盤で初めて聴いたと記憶しています。そして「サウンド・アブ・サイレンス」よりも好きになりましたですね♪♪~♪
ちなみにシングル盤ですから、両曲ともモノラルミックスです。
ということで、サイモンとガーファンクルは日本でも格別の人気者となり、ラジオの深夜放送では「ビートルズ対サイモンとガーファンクル」なんていうリクエスト合戦の企画もあったほどです。
さて、気になる叔母さんと彼氏のその後ですが、とうとう駆け落ちまがいに結婚してしまいました。う~ん、後から思うと、きっと2人は映画のラストシーンをそれぞれの気持ちで決意しつつ、観ていたのでしょうか?
それは昭和43(1968)年7月の事でしたが、折しも41年目の今年の7月、久々の来日公演も予定されているらしいですね。あぁ、光陰矢のごとし!