実家で本やCDの整理をしていたら、アッ、こんなん買っていたという遭遇の繰り返しで、なかなか作業が進みませんでした。
つい、読んだり聴いたりしてしまうんですねっ。
そして久々に聴いた1枚が――
■Gift / Stephen Keogh, Bill Charlap, Louis Stewart, Mark Hodgson (Ashbrown)
ヒネクレテ屈折している私ですが、王道とか正統派というノリは、やっぱり好きです。
最近のジャズピアニストではビル・チャーラップという白人の若手がピカイチ♪ 全くの正統派で一寸聴くと没個性派のようでいて、素直なメロディ感覚とノリがジワジワと効いてくるタイプです。
つまり誰の真似でも無いんですねぇ~♪ していあげればハンク・ジョーンズ派でしょうか。
で、このCDは多分ブレイクする以前の録音でしょう。入手したのも4年ほど前で、どうやら2000年に製作されていたようで、私は店頭で鳴っていたのを気に入って買ったんです。
メンバーはビル・チャーラップ(p)、ルイス・スチュアート(g)、Mark Hodgson(b)、Stephen Keogh(ds) です。そして発売レーベルは Ashbrown Productions となっており、しかも仕事のブッキングの連絡電話番号やメールアドレスも入っているところから、どうも所属エージェントのプロモーション色が強いアルバムです。
しかし内容は素晴らしいです♪ 演目も最高――
01 Line For Lyons
ジェリー・マリンガン(bs) が書いた穏やかな名曲を、まずルイス・スチュアートがリードしてテーマメロディの素晴らしさを提示した後、Mark Hodgson の地味なペースソロがペースを設定、そしてビル・チャーラップが何の衒いも無いアドリブを聴かせてくれますから、ここで気分は完全にジャズモードにどっぷりです。
Stephen Keogh のブラシも最高の上手さですし、ルイス・スチュアートはジム・ホールとジミー・レイニーの中間を行く、本当に好ましいスタイルです。
あぁ、この1曲を聴いて何も感じなかったら、その人はジャズを聴くフィーリングに欠けていると、私は断じます。しかし、そんな偏見に満ちた心を和ませてくれるのが、この演奏です。
終盤は4人の絡みとドラムスのやりとりがありますが、気負っていないところが凄いし、5分26秒目でグワァ~ンとくるビル・チャーラップのピアノは最高♪ そして Stephen Keogh のドラムスは上手過ぎます!
02 Stairway To The Stars
お馴染みのスタンダードが王道のスローテンポで、じっくりと演奏されますが、全くダレ無い素晴らしさです。
全体がピアノとギターに限り無く近いデュオで、こういう趣向では主役2人のメロディ美学が全開ですねぇ~♪ 無駄なフレーズ、音使いがひとつも無いんですよ。当に至福の時が流れます。
03 Curtains
これもジェリー・マリガンが書いたモード系の名曲で、ビル・チャーラップは当時、この人のバンドで働いていたと言われています。
ここでの演奏はピル・チャーラップのピアノをメインにしたトリオ編成なので、ややビル・エバンスに成りかかっていますが、ハッと気づいてハービー・ハンコックになるあたりが、憎めません。
う~ん、それにしても Stephen Keogh のドラムスは本当に良いですねっ! 決して派手じゃないんですが、要所でスタタタッと決めるブラシの鮮やかさ! 写真を見ると中堅という雰囲気ですが、こういう隠れ名手が聴けたのも望外の幸せです。
お目当てのビル・チャーラップは、ディープなコード使いが、ちっとも難しく聞こえないという美メロの洪水です。リズムに対するノリも抜群♪
04 Yardbird Suite
これもピアノトリオの演奏でビバップの名曲に果敢に挑戦したというよりも、余裕たっぷりの快演です。
ビル・チャーラップはハキハキしたタッチで王道のノリながら、甘さに流れませんし、Mark Hodgson のベースもズバリと核心を突いています。
そしてここでも Stephen Keogh のドラムスが素晴らしさの極致で、そのブラシで生み出されるグルーヴだけ聴いていても大満足です。
本当に気持ち良いんですよっ♪
05 Blue Lights
力強い Mark Hodgson のベースがリードするハードバップで、ここでの主役はルイス・スチュアートのギターです。
曲はジジ・グライスが書いた哀愁の変則ブルースですが、ルイス・スチュアートは殊更にそれを意識せず、自分に素直というか、白でも黒でも無い、流石はベテランの味を聴かせてくれます。
また軋みを聞かせる Mark Hodgson のベースソロもソツが無く、さらにステックで重いビートを叩き出す Stephen Keogh のドラムスが強力です。
ちなみにビル・チャーラップはお休みなのが残念……。
06 What's New
これもお馴染みのスタンダード曲ですが、ビル・チャーラップはサラリとテーマを提示し、ルイス・スチュアートも同様のノリを聞かせるので、何気無い演奏と言えばそれまでなんですが、Mark Hodgson のヘヴィなベースがミソです。
それは自然体で王道ジャズに取り組むバンドの基本がしっかりしていて、決してレストランとかホテルのラウンジで営業をやっている雰囲気ではありません。
しかし同時に和み感覚も存分にあるという、真の実力者達の集りが証明された演奏だと思います。
07 Yesterdays
これも有名スタンダードながら、まずルイス・スチュアートが無伴奏ギターソロでテーマを変奏してくれますから、緊張があります。しかもそこに、ビル・チャーラップが本当に上手く滑り込んできます♪
そしてバンド全員の演奏になると、これも前曲「What's New」同様の力強く和むという、出来そうで出来ない匠の技を堪能させてくれるのです。
溢れる美メロのアドリブを一層輝かしいものにするペースとドラムスのコンビネーションも非の打ち所が無く、あぁ、こんなに素直にジャズの虜になっていいのかしら……、という素晴らしさです。
08 The Song Is You
オーラスはモダンジャズで必須のスタンダード曲を、こちらの望むようにアップテンポで料理してくれるのですから、たまりません。
例によって Stephen Keogh のドラムスは快適そのもの♪ Mark Hodgson のベースもウネリまくりです。
もちろん先発でアドリブソロに突入するルイス・スチュアートの早弾きも強烈ですし、ビル・チャーラップの伴奏コードは、かなり烈しいものを含んでいます。当然、アドリブソロではハードな一面を披露し、やや自分を見失う瞬間も散見されますが、そこは若気の至りで、憎めません。つまり、最高!
ということで、現在では入手が難しいブツかもしれませんが、ビル・チャーラップのファンはもとより、全てのジャズファンは、これを見つけたら即ゲットして間違いありません!
そして実は最近、ジャズモードから離れつつあった私は、今日これを聴いて、再びジャズの素晴らしさに覚醒したというわけです。