今日は4年に一度の特別な日ですが、別に得したという気分じゃなく、かえって1日、余計に仕事をさせられている気分なのは、自分だけでしょうか?
ということで、本日は忘れられかけている名演盤を――
■Perception / Art Farmer (Argo)
多分、アート・ファーマーが全篇でフルューゲルホーンを吹いた、最初のアルバムじゃないでしょうか?
トランペットよりも柔らかな音色のフルューゲルホーンは、歌心優先主義者のアート・ファーマーにとって、後々まで代名詞となるわけですが、これは決して軟弱な仕上がりではありません。
しかしリーダー盤としては、前作「アート」があまりにも名盤過ぎて、このアルバムが注目されそこなったという事はあるでしょう。
録音は1961年10月25~27日、メンバーはアート・ファーマー(flh)、ハロルド・イバーン(p)、トミー・ウィリアムス(b)、ロイ・マッカディ(ds) というワンホーン体制です――
A-1 Punsu
アート・ファーマーが自ら十八番のアドリブフレーズを良いとこどりして作ったようなオリジナル曲♪ ハロルド・メイバーンのセンス抜群のイントロに導かれ、軽快なリズムに乗って爽やかなメロディが柔らかく吹奏された瞬間から、あたりは桃源郷です。
もちろんテーマからアドリブにかけての境目は絶妙の曖昧さで、それはつまり全てがアート・ファーマーの美メロ主義で貫かれている証でしょう。躍動的なリズム隊とのコンビネーションも申し分ありません。
ハロルド・メイバーンもトミフラっぽいところにマッコイ節を交えた好演ですから、思わずニンマリ♪ “真似っこ”と言う無かれですよ。
またトミー・ウイリアムスのベースも、そのまんま、ビル・エバンスのトリオへ行ってしまいそうな雰囲気が秀逸ながら、惜しむらくは録音が薄くて残念……。それゆえに私は低音域を強めて再生しています。するとロイ・マッカディのドラミングまでもが、一層シャープに楽しめるのでした。
A-2 The Day After
ジャズテットでの同僚トロンボーン奏者=トム・マッキントッシュが書いた素晴らしいバラード曲♪ それをアート・ファーマーが静謐な想いを込めて、じっくりと吹いてくれます。
ほとんどがテーマメロディとその変奏ですが、劇的なリズム隊の存在感も強く、これも隠れ名曲・名演だと思います。
それにしてもトム・マッキントッシュは、けっこう良い曲を沢山書いているので要注意ですねっ!
A-3 Lullaby Of The Leaves
有名スタンダード曲をアート・ファーマーが十八番の展開で聞かせた快演です。ベースとの協調関係で提示されるテーマメロディの快適さ、続くリズム隊の入り方もグッときますが、アドリブパート先発がベースソロというのも、気がきいています。
このトミー・ウィリアムスが実に良い感じ♪ それに絡んでいくアート・ファーマーという緊張感も最高ですし、ドラムスとピアノを呼び込んでからのアドリブ展開も絡み中心で、バンド全体のグルーヴが凄い一体感で迫ってきます。
ロイ・マッカディのビシバシドラミング、今度はビル・エバンスしそうなハロルド・メイバーンが憎めません。
A-4 kayin'
珍しくブリブリっと始る曲展開がアート・ファーマーらしくありませんが、躍動的な演奏は何時しか楽しいハードバップになるというオリジナル曲です。クッションの効いたリズム隊が快感♪ ハロルド・メイバーン中毒になりそうです。あぁ、このリズム隊のピアノトリオ盤があったらなぁ~~~。
肝心のアート・ファーマーは作者の強みを活かしたアドリブ構成がやっぱり秀逸で、独自の柔らかな歌心を存分に披露しています。
B-1 Tonk
レイ・ブライアントのオリジナル曲で、如何にもというメロディと曲構成を完全に活かしたアート・ファーマー以下のカルテットは、流石の名演を聞かせています。ロイ・マッカディのブラシが実にシャープで、全体をきっちりと引き締めているんですねぇ♪
グイノリのベース、上手い合の手のピアノも流石の存在感ですから、アート・ファーマーも緊張感溢れるアドリブに撤しながら、随所にニンマリする歌心がシブイところです。もちろんハロルド・メイバーンも良いですよっ♪
B-2 Blue Room
これも有名スタンダード曲を素材に和みの世界を展開していくという、アート・ファーマが十八番の名演が楽しめます。ゆったりとしたテンポでベースとの2人芝居から始め、ピアノとドラムスの控えめな伴奏、そしてじっくりとしたアドリブで演奏を熟成させていくアート・ファーマー♪
フルューゲルホーンの甘い音色が静謐なスピリットで彩られた至福の時間が、ここにあります。
B-3 Change Partners
これが躍動的な新感覚ハードバップです! ロイ・マッカディの烈しいドラミングと歌心優先というアート・ファーマーの対決を軸に、ハロルド・メイバーンの大ハッスル、さらにはグイノリで蠢くトミー・ウィリアムスというカルテットの魅力が爆発! 思わず熱くなりますねぇ~♪
ちなみにロイ・マッカディはキャノンボール・アダレイ(as) やソニー・ロリンズ(ts) のバンドレギュラーも務める万能型の名手ですが、ここでの熱演は目からのウロコ♪ 歯切れの良いシンバル、ビシッとキメるスネアとタム、クライマックスのソロチェンジも含めて、何度聞いても凄いです。
B-4 Nobody's Heart
そして前曲の熱気をすうぅぅぅ~っと気持ち良く冷ましてくれるのが、この演奏です。夜の底が白くなるという、川端康成のようなメロディ展開は、アート・ファーマーだけのフルューゲルホーン天国♪ それを充分に理解しているリズム隊、特にハロルド・メイバーンの伴奏と控えめなアドリブも最高です。
最後に聞かれる無伴奏パートでのフルューゲルホーンが、何とも言えない味わいの深さです。
ということで、個人的には前述の「アート」よりも好きなほどです。
そして最初は日本盤を買ったんですが、何故かジャズ喫茶で聞いた時よりも寝ぼけ音質が??? 最初は自分の貧弱なオーディの所為かと納得もしていたのですが、アメリカ盤のシャキッとした音は、やっぱり魅力の根源と目覚めてオリジナル盤をゲット♪
ところが自分の不注意でB面に針飛びキズを作ってしまい、泣きました。
現在は紙ジャケット仕様のCDを聴いていますが、これがリマスターも秀逸♪ 懸念していたシンバルのキレ、あるいはベースの低音域も若干ではありますが補正されていますので、後はオーディ再生でお好みに調整すればOKでしょう。
これまた未聴なのは勿体無いという隠れ名盤だと思います。