今日は、以前から誘われていた「おやじバンド」の練習に行ってきました。土蔵の中の臨時スタジオは、以外に音響が良くて、気持ち良かったですねぇ♪
ただしドラマーが一回り若いので、煽られて演奏が走り気味です。そしてボーカルが体力的に息切れして後ノリになるんで、録音した演奏を聴くと、メチャメチャです。まあ、それが実力というか、楽しければそれで良しというのが、基本でした。
ということで、本日の1枚は――
■Birdland 1953 The Complete Trio Recodings / Bud Powell (Fresh Sound)
バド・パウエルはモダンジャズを創成した真の天才ピアニストですが、その真髄が記録された音源は極めて少なく、それゆえに他の演奏に過大な期待をされてしまうという、ある種の困った存在です。
ですからファンならずとも、全ての音源を聴きたいという欲求はジャズ者にとっては避けて通れないところ! 公式盤以外にも多くの非公式録音が表に出てくるあたりが天才の証という、本末転倒な言い訳をしつつ、コレクションが増えていく次第です。
さて、このCDは、1953年に長期契約を得て出演していたニューヨークの名店「バードランド」からの実況ラジオ放送をソースとして、その音源を集大成した2枚組です。まあ、これらの演奏は、アナログ盤時代から幾度か出ていましたので、特に珍しいブツではありませんし、音質も年代的な問題から決して良好とは言えませんが、今回の再発ではリマスターに統一感があって聴き易くなっています。
肝心の内容は、1953年2月から9月にかけて、11回のセッションを聴くことが出来ます――
CD-1
●1953年2月7日録音
01 Tea For Two
02 It Could Happen To You
03 Lover Come Back To Me
メンバーはバド・パウエル(p) 以下、オスカー・ペティフォード(b)、ロイ・ヘインズ(ds) となっています。
最初の2曲は、ビバップ特有のエキセントリックなところよりも、エレガントな味が強い演奏で、如何にもクラブ出演している感じです。と言うもの、「バードランド」という店はジャズを出し物にしていながら、実態は普通のクラブと同様、ブロードウェイに芝居や映画見物に出かける白人金持ち客の溜まり場ですから、ハードな演奏ばかりは出来ないというのが実状だったと思われます。
しかし「Lover Come BackTo Me」では、もう、いいでしょう、とばかりに猛烈なモダンジャズが展開されていて、溜飲が下がります。ベースとピアノの鬩ぎ合いも見事で、う~ん、素晴らしい♪ ただし、お客さんはワイワイガヤガヤです。
●1953年2月14日録音
04 Lullaby Of Birdland
05 I Want To Be Happy
06 Embraceable You
07 I've Got You Under My Skin
08 Ornithology
09 Lullaby Of Birdland
同じメンバーよる、1週間後の演奏です。2回現れる「Lullaby Of Birdland」はもちろんテーマ曲として軽めの展開ですが、バド・パウエルは真剣勝負というか、とても好調です♪ また異様に荒っぽい「I Want To Be Happy」はメチャメチャなツッコミやストライドピアノ風のスタイルが出たりして、全く怖ろしいノリ!
しかし「Embraceable You」や「I've Got You Under My Skin」では、一転して和みが強く、また「Ornithology」は迷い道になったして……。
●1953年3月7日録音
10 How High The Moon
11 Budo
12 Hallelujah
13 I've Got You Under My Skin
14 Embraceable You
このパートのメンバーは Franklin Skeets(b) とソニー・ペイン(ds) がサポートする、ちょっと珍しいトリオでの演奏です。
その所為か、バド・パウエルには落ち着きが感じられ、当たり前の展開に終始しますが、それでも凡百のピアニストには無い過激なインスピレーションが滲み出す瞬間があります。また所謂「パウエル節」が安心して楽しめるというか、例えば「Hallelujah」のイントロは、パウエル以外の何者でもありませんし、アドリブパートもビバップのお手本にようなフレーズばかりが出ているのでした。
●1953年3月21日録音
15 I Want To Be Happy
16 I've Got You Under My Skin
17 Sure Thing
18 Embraceable You
19 Woody'n You
20 Salt Peanuts
21 Lullaby Of Birdland
ここはチャールス・ミンガス(b) にロイ・ヘインズ(ds) という硬派な2人がついていますので、ちょっと恐い部分に期待してしまいますが、演奏は案外纏まっています。
「I Want To Be Happy」ではモダンジャズ正統派のノリが楽しく、クラシック風アレンジの「Sure Thing」と魅惑の「Embraceable You」も聞き逃せません。またロイ・ヘインズが頑張る「Woody'n You」と「Salt Peanuts」では、バド・パウエルも負けじと大ハッスル! お客さんを置き去りにしている感もありますが、やはり最高だと思います。こんな生ライブを聴いてみたいもんです。
CD-2
●1953年5月30日録音
01 I've Got You Under My Skin
02 Autumn In New York
03 I Want To Be Happy
この日のサポートは、チャールス・ミンガス(b) とアート・テイラー(ds) という、これも強力な顔ぶれです。
例によってクラブ出演ということで、最初の2曲は穏やかに楽しい雰囲気ですが、「I Want To Be Happy」では、あの唸り声も交えて苦悶の激情が吐露されています。ちなみに、この演奏の2週間前にはカナダのトロントで歴史的な「マッセイホール」公演があったわけですから、パウエル自身の調子も悪い時期では無かったはずなんでしょうが、ここでは完全に共演者に押され気味……。まあ、これもジャズの面白さだと思います。
●1953年6月3日録音
04 Budo
05 My Hear Stood Still
06 Dance Of the Infidels / 異教徒の踊り
前回と同じメンツですが、この日のバド・パウエルは気合が入っています。
まず「Budo」では厳しい音選びのフレーズが冴え、またビートに対するアプローチも緊張感があって、凄いです。もう完全にハードバップ化しているのは、アート・テイラーの強烈なドラムスの所為でしょうか、熱くなりますねぇ♪
また「My Hear Stood Still」の投げやりな雰囲気にも、常軌を逸したものが感じられ、アート・テイラーの素晴らしいブラシに煽られて自然体でグルーヴする「Dance Of the Infidels」は、これしか無いと唸ってしまいます。
●1953年7月11日録音
06 Dance Of the Infidels / 異教徒の踊り
この日は1曲しか残されていないようですが、メンツは前回と同じですし、演目もダブっているので、聞き比べの楽しみがあります。
で、アート・テイラーがステックで強烈なビートを敲き出せば、バド・パウエルは余裕の受け流しで、結果はこちらに軍配が上がります。2人のソロ交換もジャズの醍醐味ですねっ♪
●1953年9月5日録音
08 My Heart Stood Still
09 Unpocoloco
10 Parisian Throughfare
11 Danceof The Infidels / 異教徒の踊り
12 Glass Enclosure
この日はジョージ・デュビビエ(b) とマックス・ローチ(ds) がサポートですから、非常に楽しみです。
演目では、何と言っても「Unpocoloco」に興味深々でしょう。オリジナルではステックで過激に敲いてマックス・ローチですが、ここではブラシで、これも驚異の快演を聞かせてくれます!
バド・パウエル本人も快調で、「Parisian Throughfare」や「Danceof The Infidels」での軽いスイング感は流石だと思いますし、「My Heart Stood Still」では独特の浮遊感が魅了になっています。
●1953年9月19日録音 part-1
13 Parisian Throughfare
14 Dance Of The Infidels / 異教徒の踊り
演目は前回とダブリますが、この日はドラマーがアート・テイラーに交代しているので、聞き比べの楽しみがあります。
●1953年9月19日録音 part-2
15 Unpocoloco
16 Oblivion
データでは同日録音になっていますが、何故かメンバーはカーリー・ラッセル(b) とアート・テイラー(ds) に変化しています。
そしてここでは、アート・テイラーがマックス・ローチに負けじと「Unpocoloco」で熱演です。また「Oblivion」ではバド・パウエルが、なかなかの歌心を聞かせてくれるのでした。そしてカーリー・ラッセルのベースはハードバップしています。
●1953年9月26日録音
17 Parisian Throughfare
18 Dance Of The Infidels
19 Embraceable You
20 Unpocoloco
21 Oblivion
最後のパートは、またまたカーリー・ラッセル(b) とアート・テイラー(ds) という黒っぽいハードバップ組が共演しています。そして耳が慣れたと言えばミもフタもありませんが、トリオ全体の纏まりも良い、素晴らしい演奏が堪能出来ます。
まず強力なリズム感が心地良い「Parisian Throughfare」と「Dance Of The Infidels」では、自分だけの「節」を弾きまくるバド・パウエルが本当に素敵です。
「Embraceable You」の思わせぶりも良いですねぇ~♪
そして気になる「Unpocoloco」では、アート・テイラーがブラシで大健闘ですので、ぜひともマックス・ローチが敲いているバージョン「09」と聞き比べてみて下さいませ。バド・パウエルも気合が入っていますねぇ~~~♪
ということで、バド・パウエルが心底好きな私には、宝物のような演奏集なんですが、皆様はいかがでしょう。まあ、音はけっして良くないですし、出来、不出来の差が当然ありますから、あくまでも記録としての価値が高い事は否定致しませんが……。