本日もハードボイルドな仕事が続きました。
と書けば、カッコイイんですが、実際は泣き落としまでされたり、きっと私は鬼に思われたでしょう……。
でも、時には心を鬼にすることも、世の中、必要なんだぜっ!
こうでも思わなきゃ、やってられない毎日が、まだまだ続くんでしょうか……。
あ~ぁ、こういう時には黒っぽいものが聴きたくなります――
■Big Chief ! / Junior Mance (Jazzland)
ジュニア・マンスというピアニストはブルースが十八番というイメージが強く、実際、バリバリのブルースマンと共演したアルバムやセッションも残されているほどです。
でも、本質は真っ向勝負のジャズピアニストでしょう。
そしてこのアルバムは、ブルースやソウルのフィーリングを、とても上手くジャズに融合させた名盤だと思います。
録音は1961年8月1日、メンバーはジュニア・マンス(p)、ジミー・ローサー(b)、ポール・ガスマン(ds) という、いささか地味な面々ではありますが、その演奏はソフトな黒っぽさと熱い想いに満ちた名演ばかりです――
A-1 Big Chief !
ゴスペル風味のブルースで、テーマ部分からピアノとベースのコール&レンポンスが気持ち良く、そのまんま、アドリブパートに入っていくジュニア・マンスの自然なブルース・フィーリングが素敵です。
しかし、ここでは必要以上に熱くならず、トリオとしての一体感を大切にした演奏が展開され、まあ、小手調べといったノリですが、そこが逆に好印象です。
A-2 Love For Sale
一転、激烈なテンポで突進するスタンダードの解釈が、凄まじい興奮を呼ぶ演奏です。ジュニア・マンスのピアノは、当に暴れのフレーズの連打ですし、破綻寸前のリズム隊がスリル満点ですねぇ~!
3分6秒目あたりからは、十八番のフレーズとドラムスの対決となり、クライマックスへ一気の雪崩込みです。
きっと当時のクラブでの演奏は、こんなパターンの繰り返しだったんでしょうねぇ♪ トリオの纏まりも最高です。
A-3 The Seasons
またまた演奏は一転し、なかなか魅力的なテーマを持ったスロー曲が披露されます。
ジュニア・マンスのピアノは力強く深遠で、こういう世界は全くの意想外!
ジミー・ローサーのアルコ弾きも効果的ですし、およそジャズらしくない、完全に作り上げられた演奏かもしれませんが、クセになる恐さを秘めています。
A-4 Filet Of Soul
ちょっとユーモラスなテーマ曲ですが、ベースとドラムスにまでアレンジが及んでいる緻密な構成がミソでしょう。実際、ジミー・ローサーのベースが主役の演奏と言ってもいいほどです。
しかしジュニア・マンスも小気味良いフレーズの連発から、絶妙のファンキー・フィーリングを聴かせます♪
A-5 Swish
シンプルなテーマ部分からポール・ガスマンのブラシが冴えるアップテンポの曲です。
ジュニア・マンスはオスカー・ピーターソン風のテクニックを駆使して圧巻のアドリブを繰り広げますが、ここではステックに持ち替えたポール・ガスマンが、手加減せずに煽るので、演奏はどこまでも熱くなるのでした。
B-1 Summertime
お馴染みのスタンダード曲がファンキーに演奏されるのですから、たまりません!
定型のリフを用いつつ、黒いフレーズを慎重に選んでグルーヴィな雰囲気に撤するジュニア・マンスは潔く、また控えめながら、地の底で蠢くようなベースとドラムスの瞬発力がキメとなった、哀愁の大名演だと思います。
B-2 Ruby My Dear
セロニアス・モンクの名曲をファンキー味で料理した、これも名演だと思います。
それはソフトな黒っぽさであり、ハードバップ王道の分かり易さでもありますが、嫌味どころか、いつまでも浸っていたい魅惑のジャズになっているのでした。
B-3 Little Miss Gale
ミディアム・テンポのファンキー節が満喫出来る、ゴスペル・ハードバップです。
ジュニア・マンスのブルース味満点のフレーズは、もちろん素晴らしいですが、実は何よりもトリオの一体感が最高です。
力強いジミー・ローサーのベース、繊細かつ豪胆なポール・ガスマンのドラムス!
彼等は日本では無名に近いですが、こういう実力者が本場にはゴロゴロしていたのでしょうねぇ~。少ないレコーディングのチャンスに燃えた、熱い魂の迸りというか、とても気合の入った演奏が、この曲だけでなく、全篇で楽しめるのでした。
B-4 Atlanta Blues
最後を飾るのはブルースの偉大なる作編曲家=WCハンディか書いた名作です。
まず一抹の「泣き」を含んだテーマを、ベースの定型パターンで活かしながら展開されるトリオの一体感が素晴らしく、ジュニア・マンスのアドリブはツボを外さない、美味しいフレーズの連続です。
またポール・ガスマンのゴスペルドラミングが痛快! これも何時までも聴いていたい名曲・名演になっています♪
ということで、ピアノトリオでは決して名盤扱いにはなっていないようですが、こういう地味な味こそが、ジャズの醍醐味のひとつだと思います。
録音もリバーサイド系特有のギスギスした音で生々しく、個人的には、こういう雰囲気が大好きです。
ギトギトやコテコテとは言えませんが、なかなかの味があるアルバムで、甘さに流れないハードボイルドに浸るには最適かと、私は思います。