ここ何日かビートルズや1970年代ロマンポルノに浸りきっているので、車の中でもこんなのを聴いています――
■Moonglow / 山下達郎 (air)
今や大御所の山下達郎も、そのデビュー当時は全く冴えが無いというか、極一部のファンしか持たないマイナーな存在でした。なにせ音楽評論家の先生方からして好意的では無かったと思います。それは山下達郎があまりにも過去の音楽、つまりオールディズに拘泥し、且つまた所謂ブラコン嗜好が強いという、1970年代邦楽界の処理能力を越えていたからでしょう。
もちろんデビュー当時の自分のバンドだったシュガーベイブは惨めに沈没し、ソロになってもすぐには芽が出ませんでした。実は私は、シュガーベイブのライブは2回見ていますが、はっきり言うと面白くありませんでしたね……。
ところがジワジワと人気が上昇したのが1979年頃で、それはライブが良い! という評判がきっかけでした。
ちなみにその頃の山下達郎の活動は学園祭とかライブハウスが中心でしたが、かなり腕利きのメンバー、例えば坂本龍一(key)、ポンタ村上(ds) 等々がバックに入っていて、実際、私も何度かライブに接していますが、それはシュガーベイブ時代とは一転、満足度の高いものでした。
で、このアルバムは、そんな時期に出されたものです。しかも収められた楽曲が、見事にライブで演奏されるようなものばかりということで、つまり実際のステージを想定して製作されたのでは無いか? と私は思っています。そして、もしそうだとすれば、実はそういう態度は現役のミュージシャンにとっては必要不可欠なもので、ライブが出来ない演奏家は、少なくとも音楽魂がどこか欠如している証だと、私は独断と偏見で決め付けます。
肝心の内容は、まず曲作りのパートナーとしてメインの作詞が吉田美奈子♪ さらに演奏メンバーが椎名和夫(g)、難波弘之(key)、田中章弘(b)、上原裕(ds)、斉藤ノブ(per) を中核に、コーラスはもちろん吉田美奈子♪ さらに曲によっては細野晴臣(b)、高橋幸宏(ds) 等々、書ききれないほどの豪華なメンツが参加しています。もちろんホーン&ストリング隊も充実しています。
A-1 夜の翼
山下達郎が十八番の独りアカペラが見事です。本人がこのアルバムで唯一作詞した歌詞は、けっこう、せつないですよね♪
A-2 永遠のFull Moon
前曲の流れを見事に受け継いで、すんなりと始まる大ポップ曲ですが、こんな曲想を歌いこなすセンスは、当時の日本では山下達郎しか存在しませんでした。その根底には当時ブームだったマイアミ・サウンドが流れています。それにしてもメインよりも目立つ吉田美奈子のコーラスが最高です♪
A-3 Rainy Walk
おぉ、カーティス・メイフィールドっ! これが山下達郎流儀のリスペクトなんですねっ♪ ちなみにベースとドラムスは細野晴臣と高橋幸宏というYMO組! 素晴らしいですよ!
A-4 Storm
これも完全にシカゴ・ソウルを意識したスロー曲ですが、憎めないですねぇ、山下達郎が歌うと♪ 個人的には黒人物ではシカゴ系が好きなんで、元ネタは簡単にバレバレになっているんですが、それにしてもこの演奏の上手さ、曲の錬度は極限までいっていると感じます。
A-5 Funky Flushin'
今や山下達郎と言えば、この曲が出ないと暴動! という定番の和製ブラコンです。とにかくこのリズム・パターンは、この後の山下達郎の十八番になっているほどですし、ファルセットを上手く活かした歌い回しも最高です。
また、ここでもメインより目立つ吉田美奈子のコーラスが最高にグルーヴしていますねっ♪ 椎名和夫のギターも完成度が高い泣きですし、中盤のラテン・パーカッションから吉田美奈子の黒いボーカルとビートの饗宴あたりは、山下達郎本人が完全に埋没していて、カウントを入れる掛声も虚しいという素晴らしいノリに、当時の私は完全に悶絶したものです♪ 歌詞も最高♪
ちなみにこの出来に山下達郎本人は満足していなかったそうで、後に再録してベスト盤に収録しているのですが、このバージョンの素晴らしさだって不滅です。
B-1 Hot Shot
限りなくアイズリー・ブラザースに近い和製ブラコンですが、これは山下達郎しか出来ないワザでしょうね♪ シンプルな編成のバック演奏がロックの真髄を表現していますし、リズム・バターンは後々まで多用される山下印の完全オリジナル! 椎名和夫のギターも秀逸です。
B-2 Touch Me Lighty
一転してメローな雰囲気、歌詞は英語ですから、山下達郎はお得意のファルセットを存分に活かして、心の底から丁寧に歌っています。分厚い独りコーラスも素敵です。
B-3 Sunshine - 愛の金色-
これも1970年代R&Bの味が強いですねぇ♪ アルバムの中では完成度がイマイチという雰囲気ですが、メロディが何となく歌謡フォークしていて憎めません。
B-4 Yellow Cab
へヴィ・ファンクに挑戦したんでしょうか、当時のステージでは山下達郎がドラムスを担当、時には吉田美奈子をメインにして演じており、私は好きでしたねぇ♪ 全くコマーシャルではない、こういう曲を出してしまうあたりが山下達郎ならではです。
B-5 愛を描いて - Let's Kess The Sun -
これも山下達郎スタンダーズのひとつで、聴くたびに妙な感動を覚える私は、青いです……。当時のステージでは後半にセットされていたので、山下達郎は声が苦しくなって、半ばヤケクソで歌っていることが度々でした♪ もちろんそこでは吉田美奈子以下の女性コーラス隊が大爆発していましたが、そのあたりはこのスタジオ・バージョンでも存分にっ♪
ということで、このアルバムは私にとっては遅すぎた青春の1枚です。そして今でも、それゆえに車の中で愛聴しては、若き日のホロ苦い思い出に浸っているという……。どうかお笑い下さいませ。
ちなみに、このアルバムの最新リマスターCDは、それなりミックスが変えられているような気がしています。一番変わったのは、吉田美奈子のコーラスが少~し引っ込められたところかと……。分かるような気がしますねぇ♪