なんか、この国のネット環境は良くないですねぇ……。
時局から日本人は監視が厳しいか?
毎度、お越し下さる皆様には、心からお詫び申し上げます。
明日は、なんとかなるかもしれません。
■亜麻色の髪の乙女 / ヴィレッジ・シンガーズ (日本コロムビア)
「GSの貴公子」として売り出され、そのスマートなイメージと親しみ易さで人気があったヴィレッジ・シンガーズは、しかし決してロック的なGSではなかったと思います。
それはバンドのスタートが所謂カレッジフォークのグループであり、一応はエレキを使いつつも、サウンドの要は12弦のアコースティックギターでしたからねぇ。
実は少年時代のサイケおやじは、隣にあった町医者に出入りしていた若い先生がフォーク大好き人間だったことから、フォーク・トレッカーズと名乗っていたヴィレッジ・シンガーズの前身グループのライプに接したことがあるんですが、その爽やかにして前向きな歌の集会は、なかなか記憶に鮮烈です。
これは昭和40(1965)年頃の話で、そのフォーク・トレッカーズがヴィレッジ・シンガーズとしてレコードデビューしたのが翌年の秋頃だったと思うんですが、実はここでのメンバーは全盛期となった昭和43(1968)年当時とは違っています。
このあたりの経緯については知る由もありませんが、とにかく一般的に知られているヴィレッジ・シンガーズは清水道夫(vo,g)、小松久(g)、小池哲夫(key)、笹井一臣(b)、林ゆたか(ds) という5人組で、その再スタートが昭和42(1967)年夏に発売されたシングル曲「バラ色の雲」の大ヒットです。
ご存じのとおり、当時の我国芸能界はグループサウンズ=GSと称されたロックバンド形態が大ウケの上昇期でしたから、必然的に長髪とエレキをウリにしたグループが多い中で、ヴィレッジ・シンガーズは髪も短く、また衣装も清潔感優先でしたから、およそロック的ではない歌謡フォーク系の楽曲がジャストミート♪♪~♪
例えば前述したブレイク曲「バラ色の雲」は、イントロから大袈裟なストリングスが配され、覚え易いメロディを歌うリードボーカルとコーラスの兼ね合いは、ほとんど歌謡コーラスグループの様相です。
しかし、これがウケたんですよねぇ~♪
そして路線の決定打となったのが、翌年春に出た本日ご紹介の「亜麻色の髪の乙女」でした。
なにしろ曲メロと歌詞がちょいと胸キュンですし、ストリングアレンジの中でセンス良く使われるエレキギターとラフなドラムスが良い感じ♪♪~♪ またレイジーで甘いボーカル&コーラスが、強い印象として残ります。
ちなみに今では有名なエピソードになっていますが、すぎやまこういち作曲によるメロディは、昭和41(1966)年に発売された青山ミチのシングル曲「風吹く丘で」と、ほとんど同じです。
もちろん、それと「亜麻色の髪の乙女」は歌詞が違います。こちらは橋本淳が書いたオリジナルという真相があるものの、個人的には青山ミチのシングル盤を探しているんですが、なかなか良い出会いがありません……。
閑話休題。
こうして人気が安定したヴィレッジ・シンガーズは、この昭和43(1968)年に、いずれも松竹制作・斉藤耕一監督の「思い出の指輪」「虹の中のレモン」「小さなスナック」「落葉とくちづけ」等々の劇場公開作に出まくり、当然ながらそれらは所謂歌謡映画として主題歌や挿入歌をヴィレッジ・シンガーズが歌うという企画でしたから、相乗効果的にヒット曲も連発されましたし、メンバーが演技を披露することについても、なんら違和感をファンに与えない広範なスタア性は保証付き!
ですからGSブームが過ぎ去った昭和45(1970)年頃からは、堂々とムード歌謡コーラスのグループになり、結局は翌年に解散したらしいのですが、メンバー各々はソロ歌手や俳優へとすんなり転身していきました。
中でも林ゆたかは1970年代の我国を代表する俳優のひとりとして映画やテレビ出演も夥しく、特にロマンポルノでは「暴行切り裂きジャック」という決定的な名作に登場し、素晴らしい演技を披露しています。
ということで、最後に告白致しますが、以前にも述べたとおり、サイケおやじが高校で入れてもらっていた同好会のバンドは、当時の情勢からロック禁止令が出ていたところから、この「亜麻色の髪の乙女」のような歌謡フォークをやる事が日常でした。
そして正直に言えば全然、気乗りしていなかったサイケおやじは、実際に演奏へ加わってみると、そのフォークロック的なアプローチが自然体で秘められていた事に驚愕した覚えがあります。
確かにヴィレッジ・シンガーズはロックグループでは無いと思いますが、それでもロックの魅力をいっぱい携えたバンドでした。そういうところが、やはりGSブームそのものの勢いと凄さだったんだなぁ~♪
と、シミジミ痛感しています。
■Fragile / Yes (Atlantic)
所謂プログレの定義は十人十色でしょうが、それはロックジャズの様式美化というのが、サイケおやじの思うところです。
そして本日のご紹介は、言わずと知れた、その分野の決定的な名盤アルバムなんですが、しかしこれが出た当時の衝撃度は、保守的なサイケおやじにとっては、違和感以外の何物でもありませんでした。
まず「こわれもの」という邦題が画期的(?)でしたし、それだけで触れてはならない繊細な世界を連想させられ、加えてジャケットのイラストがファンタジーSFの世界でしたからねぇ……。
しかし同時に、サイケおやじは既にイエスが大好きでしたから、そのデビューアルバムから、セカンド&サードと聴き進めて来た結果として、必然的に辿りつかなければならない、ある種の強迫観念に支配されていました。
さらに発売前から、洋楽マスコミではイエスのメンパーチェンジと新作アルバムについて、かなり前向きな報道がありましたし、例え未だ日本では人気が確定していなかったイエスにしても、そういうマニアックな部分を気にせざるをえないファンがサイケおやじを含めて、相当数存在していたと思います。
そしてこのアルバム制作時のメンバーはジョン・アンダーソン(vo,per)、スティーヴ・ハウ(g,vo)、クリス・スクワイア(b,vo)、ビル・ブラッフォード(ds,per,vib)、そしてトニー・ケイに代わり、いよいよリック・ウェィクマン(key) が新参加した黄金期の顔ぶれですから、結果的に凄い演奏が出来上がったのも当然だったのです。
A-1 Roundabout
A-2 Cans And Brahms
A-3 We Have Haven
A-4 South Side Of The Sky / 南の空
B-1 Five Pre For Nothing / 無益の5%
B-2 Long Distance Ronaround / 遥かなる想い出
B-3 The Fish
B-4 Mood For The Day
B-5 Heart Of The Sunrise / 燃える朝焼け
まずA面ド頭の「Roundabout」は、今に至るもイエスを代表する名曲名演なんですが、ここで聴かれる躍動的なリズムと複雑なリフの完璧なコンビネーションこそ、プログレの優良なサンプルとして歴史に残るものでしょう。
もちろん覚え易いメインの曲メロは言わずもがな、思わせぶりなイントロのアコースティックギターソロから目眩がしそうなペースのリフ、さらにビシバシのドラムスとイノセントな熱血を聞かせるボーカル&コーラス、そして千変万化の彩りを提供するキーボード♪♪~♪ しかも随所に仕掛けられた壮絶なキメとアドリブ(?)の応酬には、何度聴いてもゾクゾクさせられますよ。
しかしサイケおやじは、このアルバムバージョン以前に、短く編集されたシングルバージョンに親しんでいたので、ある意味で大仰な仕上がりには最初、馴染めなかったのが本当のところです。
実はイエスの楽曲は前作のサードアルバムにおいて、既成のロックジャズから脱した方向性を打ち出し、例えばテーマ~アドリブ~テーマで終わるのが通常の展開だとしたら、イエスは短い曲の断片を幾つか用意し、それを複雑なリズムパターンやカッコ良いリフで繋ぎ合わせるというモザイク方式でしょう。
こうした作り方はポール・マッカートニーの得意技でもありますが、イエスが凄いのは、スタジオレコーディングでは当然のようにテープ編集を用いていながら、ライプの現場できっちりとそれを再現してしまう事!
ですから、レコードで聴かれる歌と演奏にしても、単なる曲メロの集約やテープの切り貼りでは無く、複雑な構成が極めて自然な流れで聴けますし、それがメンバーの卓越したテクニックと音楽性に支えられているところが、プログレのプログレたる証明として、絶大な支持を集めたというわけです。
そして気がついてみれば、シングルバージョンが大好きなサイケおやじも、やっぱりアルバムバージョンにおける構成美とスリルに酔わされてしまいます。
こうした方向性は、このアルバムで確立されたイエス独自の世界として、如何にものSEを使った「南の空」ではハードロックとロックジャズが巧みに融合され、しかも中間部にはリック・ウェイクマンのピアノソロを聞かせるパートも用意するという、実に憎たらしい事をやらかしていますが、憎めません。もちろん鉄壁なバンドアンサンブルは微動だにせず、ジャズっぽくビシバシに暴れるドラムスと凝ったコーラスワークの対比の妙、さらにロックジャズがど真ん中のエレキギターは素晴らしいですよ♪♪~♪
しかしオーラスに置かれた長尺の「燃える朝焼け」は問題でしょうねぇ~。
何故ならば、これを聴いた多くの人は、絶対にキング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」か、あるいは同グループの関連諸作を想起せずにはいられないからです。メロトロンの使い方はもちろん、ベースやドラムスのビートの組み立て、キメのリフやギターの存在感が、モロとしか言えませんよっ!?!
う~ん、もしかしたらグレッグ・レイクはこの演奏を聴いたがゆえに、ELPで「恐怖の頭脳改革」を作り上げたような推察も無理からんと思いますし、ビル・ブラッフォードが後にキング・クリムゾンに移籍してしまうのも、充分に理解出来るんじゃないでしょうか……。
しかし、このアルバムが上手く出来ているのは、そうした複雑な内情を含んだ名曲名演の間に、メンバー各自のソロ作品とも言うべきトラックが配置されていることでしょう。
中でもテンションの高い「Roundabout」が終わった余韻の中で鳴り響く「Cans And Brahms」は、ブラームスの交響曲第4番ホ短調第3楽章をリック・ウェイクマンが様々なキーボードを重ねて変奏した和みの仕上がりで、誰もが一度は耳にしたであろうメロディが流れ出た瞬間の至福は、何度聴いてもたまりません♪♪~♪
また短いながらも強烈な16ビートで演じられる「無益の5%」は、ビル・ブラッフォードの超絶ドラミングとクリス・スクワイアのエッジ鋭いベースが対決するという構図の中に、次なる目論見が隠されているようです。
それはバンドが一丸となって強烈な展開を披露する「遥かなる想い出」で、ジンワリと染みこんでくるビートルズ風味、流麗にしてジャジーなギター、エグミ満点にドライブするベース、自分の役割を完全に把握しているドラムス、さらに隙間を埋めつつ絶妙の彩りを添えるキーボードをバックに、ジョン・アンダーソンの透明感あふれるボーカルが力強く歌っているという、これもまた今日まで、イエスのライプ演目としては外せない人気の快演♪♪~♪ しかも前曲「無益の5%」で提示されたリズム的な躍動感が、しっかりと継承されているという用意周到さは、この5人によるグループの持ち味だと思います。
そこで新たな気持でジョン・アンダーソンがメインの「We Have Haven」を聴いてみると、メロディのビートルズっぽさは言わずもがな、オーバーダビングを駆使して作り上げられたボーカル&コーラスの不思議な心地良さは絶品! そして最後のSEがアルバムの思わぬ場所で登場するあたりの仕掛けも、聴いてのお楽しみです。
ということで、全くソツの無い作品集のようですが、実は「The Fish」の焦点の定まらなさは???ですし、スティーヴ・ハウがクラシック&スパニッシュなギターソロを演じた「Mood For The Day」にしても、単なる息抜き以上の効果は感じられないような……。
お叱りを覚悟で書かせていただければ、かろうじてアルバムの流れの中で自己主張出来るだけのトラックでしょう。逆に言えば、緊張感優先でハードな演奏ばかりの中で、潤滑油のような働きがあるのかも……。
ですから、保守的なサイケおやじは、聴き慣れるのに相当の時間が必要だったアルバムです。そしてリアルタイムのイエス体験としては、この「こわれもの」が限界でしたねぇ……。
つまり次に出た「危機 / Close To The Edge」がイエスというよりはプログレ、あるいはロックの決定的な至高の名盤とされる理由が、未だに理解出来ていないのが本音です。
しかし、そのあたりをライプ音源で聴くと、これが実にサイケおやじを感動させるのですから、タチが悪いですよ……。告白すれば、例のアナログ盤3枚組LP「イエスソングス」を聴いてから、「こわれもの」が好きになり、「危機」にしても何んとか理解しようと苦行の鑑賞を続けられるわけですが、やはり根底にはイエスが好きだという愛の告白があります。
なにしろ今でも、イエスの新譜や発掘音源、ブートが出ると、聴かずにはいられないんですよ。
本当に我ながら、笑ってしまいますが、まあ、楽しいことを作っていくのが人生というサイケおやじの本分からすれば、自分で納得するばかりです。
■Brian Augers Oblivion Express (Gohst Town / RCA Victor)
ブライアン・オーガーがトリニティを解散させ、新たに結成したオブリヴィオン・エクスプレスのデビューアルバムが本日のご紹介です。
ご存じのように、ブライアン・オーガーはモダンジャズを基本にしつつも、R&Bやロックの分野に斬り込む活動を繰り広げていたイギリスのキーボード奏者ですが、それにしてもこれまでに発表してきた作品群は、イノセントなジャズ者にも充分満足出来る内容に仕上がっていたと思います。
それは元祖フュージョンという分類になるのかもしれません。しかし1971年に発売されたこのアルバムは、時期的に全盛期だったプログレと既に確立されていたロックジャズの幸せな結婚♪♪~♪
メンバーはブライアン・オーガー(key,vo) 以下、ジム・ミュレン(g,vo)、バリー・ディーン(b,vo)、ロビー・マッキントッシュ(ds) という顔ぶれですが、サイド各自が後に他の有名バンドに移籍して活躍したのは言わずもがなの実力者揃いです。
A-1 Dragon Song
ジョン・マクラフリンの作曲と言われるだけあって、非常にハードで妥協の無い演奏が繰り広げられています。
とにかくヘヴィなテーマアンサンブルから全開するドラムスの暴れ、いきなりマクラフリン節しか出さないギター、どっしり構えたベースという役割分担の明快さも素晴らしいかぎりなんですが、やはり圧巻は鬼気迫るブライアン・オーガーのアドリブソロ! それはオルガンの限界に近い音使いも含めて、実に前向きで熱いエモーションに満ちています。
そしてバンド全体でゴリ押しするロックジャズ本流の勢いは、まさにこの時期のイギリスでしか表現されることの無かった異形のグルーヴでしょう。
これをロックとするか、プログレと形容するかは、リスナーが十人十色の感性でしょうが、オプリヴィオン・エクスプレスという先進的なバンドが提示した新しいジャズという括りもあるかと思います。
尤も、既にそんな分類に拘る必要が無いほど、ブライアン・オーガーの音楽的方向性は固まっていたのでしょう。これぞっ、アルバムの幕開けに相応しい熱演!
A-2 Total Eclipso
前曲のムードを引き継いだような演奏ですが、こちらはグッとテンポを落とし、ダークでミステリアスな感性を強く狙ったようです。
そしてジム・ミュレンのギターが大活躍するアドリブパートでは、しかし決してバックのアンサンブルが伴奏に留まらないインタープレイ的な味わいも強く、中でもロビー・マッキントッシュのドラミングが凄いですよ♪♪~♪
肝心のブライアン・オーガーはエレピやシンセ、そしてアコースティックなピアノを多角的に用いての奮闘を聞かせてくれますが、やはりオルガンによるアドリブが一番熱くさせてくれますねぇ~♪
11分超の長尺演奏ですが、聴き終える頃には宇宙空間に浮遊している自分を感じるサイケおやじです。
A-3 The Light
アップテンポでブッ飛ばすハードロック調の演奏で、メンバーのボーカル&コーラスも全面に出ていますが、極言すればディープ・パープルがロックジャズしてしまったような痛快さが魅力です。
つまりブライアン・オーガーのオルガンがジョン・ロードしている感じなんですが、それは全くの逆! 失礼ながらジョン・ロードよりも、ずぅ~~っと先鋭的なアプローチが極めてジャズ寄りだと思います。
ただし最終パートは凝り過ぎかもしれませんねぇ。
まあ、これは聴いてのお楽しみということで……。
B-1 On The Light
いきなり痛快なファンキーロックの演奏で、ボーカル&コーラスのパートがあまり印象に残らないのは残念ですが、インストパートのカッコ良さは唯一無二! 特にジム・ミュレンのギターが爽快にして熱血! あぁ、こんなに弾けたらなぁ~~~。
そしてもちろん、ブライアン・オーガーのオルガンが追従を許さぬ大疾走ですから、たまりません♪♪~♪
いゃ~、こんなアップテンポを完璧にやってしまうメンバーの力量は凄過ぎます。
B-2 The Sword
う~ん、またしてもハードに燃え上がる演奏で、ここに強力なボーカリストが入っていたらディープ・パープルも真っ青だったでしょうねぇ~♪ とにかくリフはシンプルにしてカッコ良く、痛烈なギターのアドリブは憧れの早弾き大会ですよ♪♪~♪ そしてドラムスのタイトな暴れは言うまでもないでしょう。
ですからブライアン・オーガーのオルガンが嬉々としてアドリブに突入すれば、どうにもとまらないという山本リンダ現象! ボケとツッコミのひとり漫才的な部分も含めて、流石に凄いと思います。
ちなみに学生時代のバンドで、この曲のリフを練習した前科があるんですが、結果は無残な迷い道という告白を……。
B-3 Oblivion Express
そしてオーラスのアルバム&バンドタイトル曲は、初っ端から叩きつけるようなイントロに導かれ、以降は思わせぶりなロックジャズとハードプログレがゴッタ煮となった展開が続きます。
と、書いてしまえば、既にご推察のとおり、ここからはエマーソン・レイク&パーマー=ELPの如き印象が打ち消しようもないでしょう。同時期にELPの傑作アルバム「タルカス」が世に出たのも、今となっては運命のいたずらとしか言えません。
実は後にブライアン・オーガー自身が告白したところでは、ELPの出現とキース・エマーソンのキーボード&シンセの使い方には少なからず衝撃を受けたそうですから、さもありなん!?
しかし、それはそれとして、ここでのブライアン・オーガーとオブリヴィオン・エクスプレスの演奏は、やっぱり凄いですよ。特にギターソロが出る場面はELPでは決して求められないものですし、意識的にジャズから離れようとするブライアン・オーガーのオルガンは終盤のエフェクト処理も含めて、かなり暴虐の展開を聞かせてくれます。
ということで、結論から言えば、このアルバムは思惑ほど売れなかったそうですし、それは既に述べたとおり、ELPという強力なライバル(?)の出現が大きな痛手(?)だったのかもしれません。
そして次作アルバム「ア・ベター・ランド」では、英国フォーク&ポップスのプログレ的展開という、いやはやなんともの迷い道に踏み込んでしまうわけですが、リアルタイムのこの時点では正解と断じます。
もちろんサイケおやじは傑作「クローサー・トゥ・イット」を聴いて後、つまり後追いで接したアルバムですから、それはオブリヴィオン・エクスプレスがあれこれ試行錯誤を重ねていた事を知ったうえでの結論ですし、ブライアン・オーガーに対する思い入れも強いものが……。
そのあたりを踏まえて、ブライアン・オーガーを初めて楽しまれようとする皆様には、このアルバムが推薦盤になるのかもしれません。
フュージョンよりはロックジャズ、そしてハードプログレなモダンジャズとして、実にストレートな醍醐味が凝縮された1枚だと思います。
■J.J. Johnson Quintet Featuring Bobby Jaspar (Fresh Sound = CD)
モダンジャズのトロンボーン奏者としてはピカイチだったJ.J.ジョンソンが、白人ながらテナーサックスやフルートに秀でたポビー・ジャスパーと組んでいたレギュラーバンドは、1956~1957年にかけて、本当に素晴らしい演奏を残しましたが、それらの音源は契約していたコロムビアレコードで3枚のLPに分散収録され、また1曲だけが別レーベルに貸し出されたりして、なかなか纏めて聴くのが困難でした。
また、後年になって当時のライプレコーディングも発掘されていますが、本日ご紹介の2枚組CDは、それらを可能な限り纏めた嬉しい再発です。
しかもレコーディングデータに従って編集されていますから、バンドメンバーの変遷によるサウンドの微妙な変化も楽しめると思います。
ちなみに、前述したスタジオ録音の分散収録のLPは以下のとおりで、末尾の記号は以降に述べる各曲が、どのLPに収められたかを分かり易くするためのものです。
J Is For Jazz (Columbia CL 935) ●
Jay and Kai (Columbia CL 973) ▲
Dial JJ5 (Columbia CL1084) ★
Playboy 1529/30 ▼
☆1956年7月24日録音
CD-1 01 Overdrive ●
CD-1 02 Undecided ●
CD-1 03 Angel Eyes ●
メンバーはJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts)、ハンク・ジョーンズ(p)、パーシー・ヒース(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という凄い面々!
今日では一般的に、J.J.ジョンソン&ポビー・ジャスパーと言えば、リズム隊がトミー・フランガンの「オーバーシーズトリオ」と決めつけられますが、ハンク・ジョーンズも流石に侮れないプレイを聞かせてくれますよ♪♪~♪
もちろんバンド全体のアンサンブルやアドリブの競演は最高レベルで、アップテンポの「Overdrive」では初っ端からテンションが高まりっぱなし! ツッコミ鋭いJ.J.ジョンソンに対し流麗なフレーズを綴るポビー・ジャスパー、さらに珠玉の音選びが素晴らしいハンク・ジョーンズに実直なペース&ドラムスの存在は、ハードバップの勢いと洗練が見事に集約されていると思います。
そしてエルビン・ジョーンズの粘っこいブラシがグルーヴィな決め手となった「Undecided」、一転してミステリアスな情感が滲むスローな「Angel Eyes」は、人気スタンダード曲のカパーとしては上位にランクされる名演だと思います。スタン・ゲッツ風のポビー・ジャスパーが、たまりませんねぇ~♪
☆1956年7月25日録音
CD-1 04 Tumbling Tumbleweeds ●
CD-1 05 Cube Steak ●
CD-1 06 Never Let Me Go ●
CD-1 07 Solar ●
翌日に行われた2回目のセッションは、J.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、ハンク・ジョーンズ(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という顔ぶれで、ベーシストの交代があるものの、演奏の纏まりとノリは、さらに良くなっている感じです。
特にビバップ期からのお馴染みのリフを流用したアップテンポのブルース「Cube Steak」では、スイングしまくりのリズム隊に煽られて突進するJ.J.ジョンソンが痛快無比! またラテンリズムと4ビートを交錯させた「Tumbling Tumbleweeds」は、トロンポーンとテナーサックスのコンビならではの柔らかなのサウンドが魅力で、これはカーティス・フラー&ベニー・ゴルソン組に勝るとも劣らない味わいでしょう。もちろんアドリブも流麗にしてソフトな歌心が素晴らしく、ハンク・ジョーンズも小粋な名演です。
そしてマイルス・デイビスのオリジナルとして有名な「Solar」が、ちょいとファンキーな味わいを滲ませて演じられるのは、如何にも1956年というハードバップ全盛期の証明! 力強いエルビン・ジョーンズも存在感がありますし、ポビー・ジャスパーがズート・シムズになってしまうのも、なかなかジャズ的な楽しみかと思います。
その意味でシンミリ系の素敵なスタンダード曲「Never Let Me Go」が、J.J.ジョンソンのミュートとポビー・ジャスパーのフルートによって、実にメロディ優先主義で演じられたのは大正解でしょう。短くも印象的なハンク・ジョーンズのアドリブも良いですよ♪♪~♪
☆1956年7月27日録音
CD-1 08 Chasin' The Bird ●
CD-1 09 Naptown U.S.A. ●
CD-1 10 It Might As Well Be Spring ●
3回目のセッションとなったこの日のメンバーは、J.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という編成で、ついに前述した「オーバーシーズトリオ」がリズム隊を務めます。
しかし、だからと言って、特にバンドの基本姿勢に変化は無く、ハードバップのスマートな解釈に徹した演奏が繰り広げられています。
それはチャーリー・パーカーの有名オリジナル「Chasin' The Bird」におけるテーマアンサンブルの妙と濃密なアドリブパートの兼ね合いが、なかなかウキウキする興奮を呼ぶところに顕著ですし、ウィルバー・リトルの豪気なベースワークは最高!
そして特筆したいのが、やはりトミー・フラナガンの参加ではありますが、前任者のハンク・ジョーンズも含めて、激しさよりもジャズ的にセンスの良いピアニストを起用するところに、J.J.ジョンソンの目論見があったんじゃないでしょうか。
ですからアップテンポの「Naptown U.S.A.」にしても、ワイルドに暴れるエルビン・ジョーンズのドラミングとは正逆に端正な伴奏とアドリブを披露するトミー・フラナガンというコントラストが印象深く、極みつきのスローバラード「It Might As Well Be Spring」では、ストレートに美メロのテーマをフェイクするJ.J.ジョンソンを彩るポビー・ジャスパーのフルートという構図を、きっちりサポートするリズム隊の落ち着きは流石の一言です。
☆1957年1月29日録音
CD-1 11 Bird Song ★
CD-1 12 It Could Happen To You ★
CD-1 13 Our Love Is Here To Stay ★
CD-1 14 Blue Haze ★
CD-1 15 I Should Care ▲
前回セッションから約1ヵ月後のレコーディングは上記したように、良く知られた演目が並んでいます。
そしてJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という有名なメンバー構成は、このあたりから固まったのでしょうか。
ですからリスナーにとっては素直にジャズを聴く喜びが強く、また実際の演奏そのものも実に充実していますが、今回は「It Could Happen To You」でポビー・ジャスパーを、また「Our Love Is Here To Stay」ではJ.J.ジョンソンをメインにしたワンホーン的な企画が嬉しいかぎり♪♪~♪
もちろん、そうなればリズム隊の活躍も聴き逃せません。
ポビー・ジャスパーがフルートで歌う「It Could Happen To You」ではエルビン・ジョーンズのブラシが本当に気持良く、またJ.J.ジョンソンが負けじと素晴らしい歌心を披露する「Our Love Is Here To Stay」では、リズム隊のグルーヴィなノリも最高潮です。
それゆえにバンドとしての纏まりも、これ以上無いほどの完成度で、特にヘヴィ&ファンキーな「Blue Haze」では、トミー・フラナガンが畢生の名演を聞かせれば、ウィルバー・リトルのベースは真っ黒に蠢き、エルビン・ジョーンズのドラムスがエッジ鋭いシンバルワークで煽りますから、フロントのJ.J.ジョンソンとポビー・ジャスパーも油断出来ません。まさに名盤「オーバーシーズ」の見事な予行演習になっています。
それはハードバップがど真ん中の「Bird Song」でも尚更に素晴らしく、矢鱈に熱くならずとも、充分にモダンジャズが演じられるという、このバンドならではの洒落たフィーリングが完成形として楽しめると思いますし、これまた有名スタンダード曲の「I Should Care」にしても、ちょいと西海岸派のようなバンドアンサンブルを主体としたライトタッチの演奏が実に颯爽として、感度良好♪♪~♪ エルビン・ジョーンズのスティック&ブラシがハード&タイトなのは言うまでもありませんが、ポビー・ジャスパーも大健闘ですよ。
☆1957年1月31日録音
CD-2 01 Barbados ★
CD-2 02 In A Little Provincial Town ★
CD-2 03 Cette Chose ★
CD-2 04 Joey, Joey, Joey ▼
これまた一連のセッションではハイライト的なパートで、メンバーは前回同様なんですが、特にポビー・ジャスパーが「In A Little Provincial Town」に「Cette Chose」というオリジナルを2曲も提供した事もあり、なかなかの活躍を聞かせてくれます。
ちなみにこの人はベルキー出身で、フランスでの活動後に渡米し、その直後からJ.J.ジョンソンに雇われた経歴の実力者ですが、ジャズ者にとっては、ウイントン・ケリー(p) の人気盤「ケリー・ブルー(Riverside)」への参加があまりにも有名ですよね。また、フランス時代のリーダー作では、オリジナルは見たこともありませんが、同じ内容のアルバムがアメリカでも「Bobby Jasper And His Allstars (EmArcy)」として発売されています。
で、肝心の「In A Little Provincial Town」は、サスペンス&ミステリアスな曲調の中で浮遊感さえ漂わせるポビー・ジャスパーのフルートが、思慮深いJ.J.ジョンソンと抜群のコントラストを描き出す大名演♪♪~♪
一方、「Cette Chose」は力強いグルーヴを伴った新感覚のハードバップとして、J.J.ジョンソンの爆裂トロンボーンに負けないスインギーなテナーサックスを吹きまくりと書きたいところなんですが、ど~してもズート・シムズの影響から逃れられないのが賛否両論でしょうか……。
しかし、それを救うのがリズム隊の存在感でしょう。
十八番のラテンリズムと4ビートのゴッタ煮が楽し過ぎる「Barbados」では、エルビン・ジョーンズのゴリ押しが最高ですし、協調関係が確信犯的なウィルバー・リトルも流石ならば、トミー・フラナガンが如何にも「らしい」アドリブを聞かせてくれるのも当然が必然なんでしょうねぇ~♪ 完全に煽られ気味のJ.J.ジョンソンとポビー・ジャスパーが相当に熱くなっているように思います。
そして「Joey, Joey, Joey」は、サイケおやじがこのCDをゲットさせられた真のお目当!
何故ならば、極めて珍しいオムニバス盤に収録された幻の音源として、長年聴きたかった演奏であり、それはエルビン・ジョーンズのポリリズムドラミングが冴えまくりというアップテンポのモダンジャズ! いゃ~、最高にカッコ良いテーマからポビー・ジャスパーのテナーサックスが飛び出す瞬間だけで、シビレが止まりません♪♪~♪ 続くJ.J.ジョンソンも颯爽としていますし、溌剌としたトミー・フラナガン以下のリズム隊も強靭なジャズ魂を存分に発揮しています。
実は以前にモザイクというコレクターズ系のレーベルから、この時期のJ.J.ジョンソンの音源が集大成的に発売されたことがありました。しかし値段が高いわりにはリマスターがイマイチという世評があり、実際に友人から聞かせてもらった時には、ちょいと残念な気分……。
そして待つこと、幾年月!?
結論から言えば、このCDはバランスの良いリマスターで、もちろんアナログ盤の味わいとは異なりますが、それでも充分に納得の仕上がりだと思います。
☆1957年5月14日録音
CD-2 05 Teapot ★
CD-2 06 So Sorry Please ★
CD-2 07 Old Devil Moon ★
これがまたしても、アッと驚く音源で、なんとリアルステレオミックスなんですねぇ~♪ もちろんアナログ盤時代はモノラルミックスでしか楽しめなかったわけですし、前述したモザイクからの再発CDがどうなのかは勉強不足でわかりませんが、とにかくここでは左にドラムスとベース、真ん中にホーン、右にピアノという定位がきっちりと決まっています。
肝心の演奏は、J.J.ジョンソンの呆れるほどのテクニックとジャズフィーリングが強烈な「Teapot」のスピード感に圧倒されますし、リズム隊だけによる「So Sorry Please」はピアノトリオの演奏ですから、必然的に「オーバーシーズ」していて、思わずニンマリ♪♪~♪ ちなみに「So Sorry Please」では左にベース、真ん中にドラムス、右にピアノというチャンネル定位になっています。
そして「Old Devil Moon」では、エルビン・ジョーンズの熱血ドラミングが圧巻! そのヘヴィなビートの出し方は、このバンドのスマートな行き方とは対照的にハードで重心の低いものですから、J.J.ジョンソンの目論見は見事に完遂された事だろうと思います。
☆1957年2月、カフェ・ボヘミアでのライプ録音
CD-2 08 Johnson Introduces
CD-2 09 Bernie's Tune
CD-2 10 In A Little Provincial Town
CD-2 11 I Should Care
CD-2 12 Angel Eyes
CD-2 13 Old Devil Moon
CD-2 14 My Old Flame
CD-2 15 Dailie Double
CD-2 16 Theme: Solar
これはボーナス扱いというか、後年になって発掘されたライプ音源で、おそらくは放送用のマスターなんでしょうか、音質は良好ですから、問題無く聴けると思います。しかも一応はリアルなステレオミックスなんですよっ!
気になるメンバーは、もちろんJ.J.ジョンソン(tb)、ポビー・ジャスパー(ts,fl)、トミー・フラナガン(p)、ウィルバー・リトル(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) というレギュラーバンドですから、充実した演奏はお約束!!
バンドリーダー自らの挨拶&メンバー紹介から、トミー・フラナガンのイントロも鮮やかな「Bernie's Tune」は、急速テンポながら十八番のアンサンブルとアドリブの競演が楽しめますし、リズム隊の素晴らしさは言わずもがな、終盤にはエルビン・ジョーンズのドラムソロも炸裂♪♪~♪
またスタジオバージョンが存在する「In A Little Provincial Town」「I Should Care」「Angel Eyes」「Old Devil Moon」は、聴き比べも楽しいところですが、総じてそれほど雰囲気が変わっていないのは、それだけバンドの演目と纏まりが完成されていた証という事でしょうか。
ですから、このメンバーによるスタジオバージョンが残されていない「My Old Flame」や「Dailie Double」にしても、違和感は無いと思いますし、当然ながらジャズならではの瞬間芸は、それこそ聴いてのお楽しみ♪♪~♪ 個人的にはアップテンポで演奏される「Dailie Double」の熱気に興奮させられます。
ということで、新発見のテイクは無いんですが、こういう良心的な復刻は大歓迎です。
既に述べたように、サイケおやじは唯1曲「Joey, Joey, Joey」だけを目当てにゲットしたわけですが、あらためてこのバンドの演奏を纏めて聴いてみると、そのスマートなカッコ良さとモダンジャズのグルーヴィなノリを両立させた密度の濃さにシビレさせられました。
残念ながら、この時期のクインテットは1957年秋頃には解散したらしいのですが、残された音源から纏められたLPは、何れも名盤扱いが当然の事ですし、繰り返しますがトミー・フラナガンの代表作「オーバーシーズ」に繋がった経緯も含めて、全てのジャズ者を虜にする演奏を、このCDが復刻された機会に、ひとりでも多くの皆様に聴いていただきたいと願っています。
■Swedish Schnapps / Charlie Paker (Verve)
ようやく、少しずつではありますが、ジャズモードへの回帰も兆しているサイケおやじは、朝の一発目から、このアルバムに針を落とせたということは、かなり状態が良いのかもしれません。
ご存じ、モダンジャズの天才にして神様であるチャーリー・パーカーが、1951年に自らのレギュラーバンドを率いて行った2回のセッションから纏められたLPですが、おそらくはそれぞれがSP、あるいは10インチ盤が初出だったと思われます。
ですから、12インチ盤に再編集された時には曲順が必ずしもレコーディングデータどおりにはなっていないのが、些か拘りに水を差される結果にもなっているんですが、しかし演奏内容の素晴らしさは唯一無二!
この時期のチャーリー・パーカーは既に全盛期を過ぎていたとか、そのあたりの真偽については評論家の先生方からのご指摘もあるわけですが、しかし今に至るもチャーリー・パーカーを超えたジャズ演奏家は出現していない現実を鑑みれば、素直に楽しむのも決して罪悪ではないでしょう。
いや、と言うよりも、聴けば納得の凄さとモダンジャズの醍醐味に溢れているのが、このアルバムの真実だと思います。
☆1951年1月17日録音:Charlie Paker & His Orchestra (Quintet)
B-1 Au Privave (alternate)
B-2 Au Privave (master)
B-3 She Rote (alternate)
B-4 She Rote (master)
B-5 K.C. Blues
B-6 Star Eyes
「His Orchestra」なんて、大仰な名義になっていますが、実は典型的なビバップのクインテット編成によるレコーディングで、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、マイルス・デイビス(tp)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、マックス・ローチ(ds) という、今では夢の5人組!
それは前述した事と矛盾するようですが、決して連日連夜、このメンツでライプをやっていたわけではないにしろ、当時のチャーリー・パーカーは、仕事の契約に応じてバンドを組んでいたそうですから、おそらくは気心の知れた顔ぶれが集められたセッションだったと思われますし、実際、ここで聴ける演奏からはコンビネーションの練達による安定したバンドアンサンブルとアドリブの充実が、しっかりと楽しめます。
中でも「Au Privave」はチャーリー・パーカーの有名オリジナルとして、ビバップの聖典曲のひとつにもなっているブルースなんですが、ミディアムテンポで繰り広げられるグルーヴィでテンションの高い曲調は必然的にアドリブの鋭さが求められているのでしょうか、マイルス・デイビスの必死さが良い感じ♪♪~♪ もちろんチャーリー・パーカーが余裕で演じる鋭いフレーズの連発と驚異的なリズム感は文句無しですから、ふたつのテイクのどちらも聴き応えがありますよ。
またアップテンポの「She Rote」は、初っ端からブッ飛ばすチャーリー・パーカーの絶好調ぶりが嬉しい限りですし、一転してブルース演奏の真髄を堪能させてくれる「K.C. Blues」は、これぞっ、黒人ジャズのならではの味わいが横溢し、チャーリー・パーカーにしても名演のひとつじゃないでしょうか。
そしてスタンダード曲の「Star Eyes」では、ラテンビートと4ビートを交錯させたテーマアンサンブルから、既に朗々と吹きまくるチャーリー・パーカーに対し、幾分の自信喪失気味というマイルス・デイビスが結果オーライ!?! アドリブの思わせぶりなところは完全に後年のスタイルに近くなっていると思います。
ちなみにリズム隊の3人は堅実な助演と言えばそれまでなんですが、やはりマックス・ローチのタイトなドラミングは素晴らしいと思います。
☆1951年8月8日録音:Charlie Paker Quintet
A-1 Si Si
A-2 Swedish Schnapps (alternate)
A-3 Swedish Schnapps (master)
A-4 Back Home Blues (alternate)
A-5 Back Home Blues (master)
A-6 Lover Man
B-7 Blues For Alice
さて、こちらはアルバムタイトル曲も含んだ晩年の名演とされるセッションで、メンバーはチャーリー・パーカー(as) 以下、白人ながら当時はレギュラーに雇われることも多かったレッド・ロドニー(tp)、ジョン・ルイス(p)、レイ・ブラウン(b)、ケニー・クラーク(ds) という布陣なんですが、リズム隊の3人は既にモダン・ジャズ・カルテット=MJQとしての活動をスタートさせたばかりの時期とあって、なかなか纏まりの良い助演ぶりです。
それはちょいとエキセントリックなテーマが印象的なブルースの「Si Si」から全開! 如何にものシンバルを鳴らすケニー・クラークに煽られ、チャーリー・パーカーが起伏の激しいアドリブを披露すれば、レッド・ロドニーは真っ向勝負の潔さですし、リズム隊各人の見せ場もソツがありませんねぇ~♪
さらに名演とされる「Swedish Schnapps」の引き締まった展開は2テイクとも圧巻で、特にマスターテイクにおけるチャーリー・パーカーのアドリブは緊張と緩和の見事なバランスが秀逸だと思いますし、少しばかり中間派寄りのレッド・ロドニーがきっちりモダンの領域に収まっているのは、リズム隊の貢献じゃないでしょうか。
その意味でミョウチキリンなテーマの「Back Home Blues」が、リラックスした中にもモダンジャズのブルースは、こうやるんだよっ! そんな心意気が感度良好♪♪~♪
ちなみにここまでの演目は全てチャーリー・パーカーのオリジナルでしたが、ここでいよいよ因縁のスタンダード曲「Lover Man」が演じられるのは興味津々でしょう。そして結果は見事な流石の仕上がりという安定感があるのはもちろん、実はそれが物足りないという、何とも我儘な結論というのがサイケおやじの本音です。
まあ、それはそれとして、時間的な制約からB面収録となった「Blues For Alice」は、不思議にも刹那的な雰囲気が横溢したテーマから完璧なアドリブパートまで、まさにチャーリー・パーカーの凄さが記録された名演だと思います。
ということで、ヴァーヴ時代は様々な企画セッションも多かったチャーリー・パーカーの、これは真性ビバップを楽しめる人気盤です。
今となってはマイルス・デイビスが参加したB面の注目度が高いと思われますが、元祖MJQのリズム隊が活躍するA面も侮れません。
そこには、ようやくジャズモードに回帰しつつあるサイケおやじを歓喜悶絶させるだけの魅力が、確かにありました。
今後とも、よろしくお願い致します。
■月の光 / Procol Harum (Regal Zonophone / キング)
なんとも幻想的でエロいジャケットのシングル盤は、プロコル・ハルムが1968年に出したセカンドアルバム「シャイン・オン・ブライトリー」からのカットなんですが、どうやらこれは日本独自!?
というのも、配給会社の変更ゆえの事情らしいのですが、それと同時に「プロコル・ハルム=青い影」という図式があまりにも鮮烈でしたから、以降に出したアルバム&シングルは、どうしてもその壁を破れませんでした。
そこで居直ったという事なんでしょうか、このシングル盤が我国で発売されたのは昭和46(1971)年だったと思うのですが、「青い影」を名曲名演にしていたクラシック趣味の夢よもう一度! そんな感じで、似たような路線の旧作をひっぱり出したのかもしれません。
実際、ジャケットには、「青い影」のプロコル・ハルムが久々に放つビッグ・ヒット!! なぁ~んて書いてありますから、いやはやなんとも……。
しかし、これが実に琴線に触れる仕上がりなんですねぇ~♪
ちなみに当時のプロコル・ハルムはゲイリー・ブルッカー(vo,p)、マシュー・フィッシャー(org)、ロピン・トロワー(g)、デヴィッド・ナイツ(b)、B.J.ウィルソン(ds,per) の5人に加え、専属作詞家のキース・リードやエンジニアのグリン・ジョンズ、そしてプロデューサーのデニー・コーデルが強固なスクラムを組んでいた黄金期でした。
そして完成された「月の光 / Skip Softly (My Moonbeames)」は、随所にクラシック曲のメロディを引用しつつも、ハードロックやロックジャズの味わいも濃厚な仕上がりになっています。
特に全体をリードするピアノのリフには思わずムフフな思惑が隠しようもなく、またハードなギターとウネリが満点のオルガンは、ストロングスタイルのドラムスとベースに支えられ、その魅力を存分に発揮していますよ♪♪~♪
まさにプロコル・ハルムの本領発揮という名演じゃないでしょうか。
それとジャケットデザインは前述したセカンドアルバムのアメリカ盤からの流用ですが、これもまた曲調と合っているように思います。
ということで、やっぱりプロコル・ハルムは初期が好きというサイケおやじです。
ご存じのように以降のグループは、3作目では何故かザ・バンド風味を滲ませていましたし、4作目からはマシュー・フィッシャーが脱退した所為もあって、ギターバンド的な方向性が強くなりました。
それはそれで好ましいところも確かにありますが、今でもプロコル・ハルムのイメージを決定づけているのは、「青い影」から引き継がれるクラシックとロックの融合でしょう。
なんとも重い命題を背負ったバンド……。そう、思うばかりです。
■早いもの勝 / 安西マリア (東芝)
昭和歌謡曲の雑食性は今更述べるまでもありませんが、特に昭和40年代後半の楽曲には、洋楽の流行を如何に和物へ反映させるかという、職業作家や現場スタッフの意気込みが強く感じられる作品が多く、それはサイケおやじが最も好むところです。
例えば本日のご紹介は、太陽の恋人と呼ばれて人気絶頂だった安西マリアが昭和49(1974)年初夏に大ヒットさせた4枚目のシングル曲ですが、とにかくブラスロックとニューソウル、さらにはエスニックな隠し味も素晴らしく効果的な名曲名唱♪♪~♪
それは千家和也による女の肉体と精神の発情をツッパリ風情で描いた歌詞との相性も抜群ですし、なによりも安西マリアの歌の表現力が、レコードデビューから約1年を経て、グッと豊かなものになった証明でもあります。
そしてイントロは当時、盛んに作られていた東映ピンキーバイオレンス作品のサントラ音源と共通するエグ味と緊張感がいっぱいのムードに溢れ、強くミックスされたパーカッションの存在感とワウワウ効きまくりのエレキギターが、たまりません♪♪~♪
このあたりは完全に曲メロをリードするアレンジの勝利でしょうねぇ~♪
作編曲を担当した鈴木邦彦にしても、会心の仕上がりだったと思いますが、ハードなAメロと湿っぽいサビのコントラストを彩るのが、蠢くベースと派手なブラス、さらに既に述べたとおりのパーカッションとワウワウギターです。
しかも間奏ではニューソウルがど真ん中のギターソロとマリンバ(?)を使ったと思しきガムラン&エスニックな味わいまでもが飛び出すという、実にエキセントリックな仕掛けが圧巻! もう、この瞬間の激ヤバな展開は唯一無二の素晴らしさと断言して後悔しません。
まさに昭和歌謡曲史に屹立する傑作だと思います。
ということで、この頃の安西マリアは何を聴いても最高♪♪~♪
そして次のシングル「恋の爆弾」では、ミニスカ&キワドイ衣装も強烈な印象となったR&Rリバイバルを演じてしまうのですが、個人的には彼女ならばソウル風味の楽曲が一番気に入っています。
最近は煮え切らない出来事が毎日のようにありますが、サイケおやじは、そんな時にこそ安西マリアを車の中で鳴らしつつ、特に「早いもの勝」を愛聴しているのでした。
■Land Ho! c/w You Make Me Real / The Doors (Elektra / 日本ビクター)
ドアーズはアルバム単位で聴くのが正しいのかもしれませんが、例によって経済的な事情からLPが買えなかった少年時代のサイケおやじは、シングル盤優先でも、それなりに楽しめたバンドでした。
そこで本日ご紹介は、ドアーズが官憲によって抑圧されていた1970年、まさに渾身の力作として発表したアルバム「モリソン・ホテル」から、我国独自のカップリングでカットされた1枚です。
ご存じのように、当時のドアーズは前年3月にあったとされる、ジム・モリソンのステージ上での開チン事件によって巡業が困難になっていた時期でした。
それは演劇的なアクションがウリだったジム・モリソンにすれば、その中のひとつの動きが自慰行為と受け取られたことからの誤認逮捕とする見方もあるようですが、それがマスコミによって伝えられる過程では、憶測と予断が大きく入りますからねぇ……。当然、我国でも洋楽ファンばかりか、一般の大人も知ることになったスキャンダルでした。
しかしドアーズの面々は1967年の公式デビュー以降、忽ちの大ブレイクで多忙を極め、1968年後半からは発表する楽曲のクオリティが落ちていた事を周囲から指摘されたのでしょう。この逆境をバネにしたというか、曲作りやレコーディングには充分な時間を確保出来る環境を得て、前述「モリソン・ホテル」のセッションに臨んだと言われています。
そして完成されたアルバムはA面に「Hard Rock Cafe」、B面には「Morrison Hotle」とサブタイトルまでが付けられたハード&へヴィな仕上がりとなって、些かの低迷期を見事に脱したのです。
ただし、それゆえに売れるシングル向きの曲が見当たらないのも確かです。
う~ん、きっとこのシングルを出すのにも、担当者は困ったんでしょうかねぇ~。
しかし以上のような話は、アルバムを優先的に聴いての感想だと思います。
リアルタイムのサイケおやじは、この「Land Ho!」が最初にラジオから流れた瞬間、ビリビリにシビレましたですねぇ~♪
イントロからウキウキさせられるギターのリフ、お祭りのようなオルガンに土人のリズムがジャストミートのロックなノリが、いきなり最高ですよ♪♪~♪ そして幾分軽いジム・モリソンの歌いまわしが、バンド全体のグルーヴと見事に一致していると思います。もちろん妙に人懐っこい曲メロの展開とハードなギターが、これ以上無いほどに1970年代ロック!
またB面の「You Make Me Real」が、これまた激しいビートの中で躍動するピアノと歪みが全開のギター、そして力んだボーカルは快いばかりです。
あぁ、これがロックだと思いますねぇ~~~♪
確かアメリカでは、こちらがA面扱いだったと記憶していますが、とにかくビシッとキマッた歌と演奏は強烈至極!
ですから、シングル盤を買ったばかりだったサイケおやじは結局、程無くしてLP「モリソン・ホテル」にお金を使わされてしまったのですが、全く後悔していません。
それほど当時のドアーズは、気合いが入った歌と演奏を繰り広げていたんですよ。
ということで、今日では様々なアーカイヴ音源を出まくっているドアーズではありますが、まずは残された公式レコーディングをきっちり楽しみ直すのも、悪くないと思います。
特にドアーズの場合はデビューアルバム「ハートに火をつけて」と次作「まぼろしの世界」ばかりが名盤扱いになっていますが、実質的に後期となってしまった「モリソン・ホテル」や「L.A.ウーマン」も侮れません。
と言うよりも、再びの上昇気流に乗ったドアーズの勢いが素晴らしいんです!
個人的には、それもこれも、このシングル盤を聴いたおかげで目覚めた幸せと感謝しています。
■涙のバースデイ・パーティ / Lesley Gore (Mercury / フィリップス)
オールデイズファンやヒット曲マニアならば、知らぬ人も無いはずのレスリー・ゴーアは、衣料品会社の社長令嬢として、十代前半からジャズを歌っていたところをマーキュリーレコードにスカウトされ、当時は同社の副社長だったクインシー・ジョーンズに預けられてのデビューだったことは、良く知られています。
しかし、ここで流石だったのがクインシー・ジョーンズのプロデュース!
既に時代はR&Rから引き継がれた白人ポップスの全盛期という1963年だったことから、あえてジャズ歌手として扱わなかったのは大正解でしょう。
このデビュー曲「涙のバースデイ・パーティ / It's My Party」は、クインシー・ジョーンズが用意した夥しいデモテープの中から、レスリー・ゴーア本人が真っ先に選んだというエビーソードがあるほど、胸キュンのメロディと歌詞がジャストミートの名曲だと思います。
こうして1963年6月にはチャートのトップに輝く大ヒットになり、リアルタイムで17歳の高校生だった彼女は一躍、アイドルとして人気絶頂! しかも歌が上手いんですよねぇ~♪
さて、しかしサイケおやじは、この「涙のバースデイ・パーティ」を別の観点から聴いていました。
それは曲メロが、実にジョン・レノンっぽい事!
ご存じのように、「涙のバースデイ・パーティ」は我国でもリアルタイムでヒットしたばかりか、所謂カパーポップスの人気曲として昭和40年代中頃まで歌われていましたから、ビートルズの人気が急上昇した時期にも、決して忘れられていなかったです。
そして同じ頃に洋楽ポップスとビートルズを聴き始めていたサイケおやじは、「涙のバースデイ・パーティ」とビートルズの楽曲に共通する味わいを、漠然とではありますが、感じるようになりました。
というか、実はビートルズが初期に演じていたカパー曲にしても、少年時代のサイケおやじはオリジナルとの区別も意識的には出来なかったわけですし、レノン&マッカートニーが書いたとされる名曲群が、本当はジョンとポールのどちらかがメインになって作られたという真相も、当時は明らかにされていませんでした。
今日ではリードを歌っている方が作者の曲という位置付けも、まあ、それなりに出来るようになりましたが、それにしても「涙のバースデイ・パーティ」は如何にもジョン・レノンの作風だと思い当たったのは1970年代も後半に入ってからです。
ここからは全くの個人的な妄想と自論なんですが、ビートルズがリバプールでの下積み時代には、アメリカ産のヒット曲を聴き、コピーしていた事は歴史的な事実です。それは黒人R&Bと白人ポップスが同じ土俵で扱われていた結果として、初期に残された音源から編まれたアルバムに記録されています。
ところがアメリカの現実は、黒人ミュージシャンのテレビ出演も極めて稀であり、エルビス・プレスリーは徴兵除隊後は歌う映画スタアになり、バディ・ホリーは天国へ……。そして芸能界はレコード産業が優先したアイドル時代だったのです。
つまりビートルズが好んでいたリトル・リチャードやチャック・ベリー等々の黒人歌手は一般白人社会では相手にされておらず、一方、職業作家の書いた楽曲を言われたとおりに歌う白人アイドルが売れていたんですねぇ。
レスリー・ゴーアも、当然ながら、その路線でブレイクしたひとりというわけです。
しかし海の彼方のリバプールのビートルズには、そんな事は知る由もなかったんじゃないでしょうか?
黒人R&Bと白人ポップスが一緒に流行っていると思い込んでいれば、そのふたつの要素をミックスさせたオリジナル曲を作ってしまうのも、ムペなるかな!?
結局、この「涙のバースデイ・パーティ」をジョン・レノンが歌っている様を想像するのも、決して難くないと思うのはサイケおやじだけでしょうか。
ちなみに「涙のバースデイ・パーティ」を書いたのは、H.Wiener、W.Gold、J.Gluck とクレジットされているとおり、その曲調はユダヤ人モードに基づくジャズスタンダード系のコード進行とロックビートに乗り易い歌詞の語呂が素晴らしいメロディに結実しています。
しかもクインシー・ジョーンズのプロデュースが、当時最先端のモータウンサウンドや所謂ノーザンピートの良いとこ取り♪♪~♪ 強いリズム的な興奮が失恋の痛手を歌う胸キュンヒットの要素を完全に満たしているのです。
う~ん、こうした典型的なアメリカンポップスは侮れない普遍性がありますねぇ~♪ 本当に何時、如何なる時に聞いても、ワクワクするトキメキが素敵♪♪~♪
そしてジョンやポールが、そんなヒット曲を聴きながら、ギターでコードを探したり、あるいはビートの組み立てを実践したりする情景は、なかなか微笑ましいです。まさに歴史はこうして作られていったのでしょう、
ということで、ビートルズっぽい味わいは、何もビートルズ以降の歌手やバンドにだけ求められるものでは無いというのが、本日の結論です。
洋楽の楽しみは尽きません。