■Slow Freight / Ray Bryant (Cadet)
レイ・ブライアントが幾枚も出した名盤&人気盤の中でも、もしかしたら一番じゃ~ないかと思われるのが本日掲載のLPです。
しかし、だからこその分かり易さが強い所為でしょうか、往年のジャズ喫茶では軽く扱われていた現実も確かにあり、このアルバムが「好き」とは言えない雰囲気、言ってしまったら「恥ずかしい」という取り越し苦労も、まあ、今となっては自意識過剰でありました。
だって、中身はきっちり充実していますし、決して場当たり的にやったセッションじゃ~無い事は、聴くほどに実感されるばかりです。
録音は1966年12月、メンバーはレイ・ブライアント(p)、リチャード・デイビス(b)、フレディ・ウェイツ(ds) という強力ピアノトリオにホーンアンサンブル担当としてアート・ファーマー(tp.flu)、スヌーキー・ヤング(tp,flu) という超一流の面々が参加していますので、まさにレイ・ブライアントが持ち味のブルース&ソウルに溢れ、小粋なフィーリングは保証付き!
A-1 Slow Freight
レイ・ブライアントが自作にして看板にもしているミディアムスローのブルースなんですが、親しみ易いホーンリフを従えたグルーヴィなビアノトリオの演奏に如何にも「ぶるうす」な語りが被せられているのが強い印象として刻みつけられます。
で、この語りを演じたのは、裏ジャケ解説文にはポール・セラーノと記載されていますが、この人は当時、シカゴ周辺で活動していたMJT(Modern Jazz Two) に参加する事もあったトランぺッターと同一人物なんでしょうか? ちなみにMJTはボブ・クランショウ(b) とウォルター・パーキンス(ds) のユニットで、フロント陣は流動的ながら、フランク・ストロジャー(as) やハロルド・メイバーン(p) 等々の人気者も参加したLPを数枚残していますので、機会がございましたら、お楽しみ下さいませ。
さて、しかしながら、この「語り」が入っているがゆえに演奏が進むにつれ、なかなか雰囲気が盛り上がる事が、逆に硬派なジャズファンやマニア層には顰蹙とでも申しましょうか、所謂シャリコマと決めつけられる一因だったのかもしれません。
実際、往年のジャズ喫茶の中には決してA面を鳴らさない、あるいはリクエストがあっても、A面はお断りという店さえあったんですから、いやはやなんとも……。
レイ・ブライアント本人はライブでの必須演目にしていたほどですから、リスナーのウケが悪かったはずもなく、だとすれば日本独自の文化であったジャズ喫茶の功罪さえも論議されてしまいそうな名演だと、サイケおやじは強く思うばかりです。
A-2 Amen
ドナルド・バードが名盤「フェゴ(Blue Note)」に入れた自作自演のゴスペルファンキーな人気曲ですから、そのオリジナルの楽しさと熱気を増幅せんと奮闘するレイ・ブライアントは流石のグルーヴを発散させています。
それはブラスセクションを活かしたブレイクやフェイクっぽいフレーズの作り方、またアドリブソロのノリの良さこそが、レイ・ブライアントの人気の秘密と痛感されるばかりでしょうか。
楽しいです ♪
A-3 Satin Doll
説明不要、デューク・エリントンが書いた超有名スタンダード曲ですから、ジャズ者の耳に馴染んだメロディを快適なテンポでスイングさせていく上手さは流石の手練れと思います。
そして注目はバッキング、あるいはソロパートで驚愕のテクニックと音楽性を発揮しているリチャード・デイビスの物凄さで、特にベースソロはストロングスタイルの極みと申しましょうか、これを聴かずして、このアルバムの何をか語らんや!
B-1 If You Go Away B面ド頭はジャック・ブレルのシャンソンヒットで、アメリカでも多くの歌手がカバーバージョンを出しているんですが、ここでのブラスセクションを聞いて、思わず「
人形の家」!
と、叫びそうになる皆様が必ずやいらっしゃるでしょう。
しかし、レイ・ブライアントの憂いが滲むピアノタッチは曲想を大切にしていますし、施されたアレンジもドラムとベースの存在を確実に活かして秀逸ですよ。
すでに述べたとおり、このアルバムはジャズ喫茶ではB面が御用達という傾向があったようですが、いきなりこの演奏がスタートするとニンマリする以前に初めて聴いた時には呆気にとられるのも、全ては「人形の家」ゆえの事と思いますよ ♪♪~♪
B-2 Ah, The Apple Tree (When The World Was Young)
これも原曲はシャンソンかもしれませんが、アメリカのジャズシンガーが英語で歌ったバージョンが幾つもあるという、耳に馴染んだメロディをピアノトリオだけで神妙(?)に演じているのは気分転換的でしょうか。
B-3 放蕩息子の帰還 / The Return Of The Prodical Son
フレディ・ハバードやジョージ・ベンソンの演奏が殊更有名なソウルジャズの名曲ですから、レイ・ブライアントも周到にして期待に応える演奏を聴かせてくれます。
しかも前段として、真摯に地味な「Ah, The Apple Tree (When The World Was Young)」を聴いた後ですから、実はほとんど調子の良い哀愁のテーマメロディだけで進行していく変奏パターンが分かり易いのは言わずもがな、この曲そのものが大好きなサイケおやじなどは、何度でも聴きたくなる魔法に毒されたようなもんですよ。
ところが後半に登場するリチャード・デイビスのアルコ弾きのベースソロで現世に連れ戻されるという快感がニクイばかり♪♪~♪
ちなみに「放蕩息子の帰還 / The Return Of The Prodical Son」を作曲したハロルド・アウズリーはソウルジャズをテリトリーに活躍したサックス奏者で、しぶといリーダー盤も出しているので、いずれはご紹介させていただきます。
B-4 The Fox Stalker
オーラスは、まさにレイ・ブライアントが十八番のラテンビートを用いた自作曲で、ピアノトリオの魅力を満喫させてくれますよ♪
オシャレ系のフレーズを潜ませたアドリブの妙、そして自然体のスイング感は絶品と思います。
ということで、本来モダンジャスは楽しいもんなんですよ ♪ てなことを実感させてくれるアルバムだと思います。
しかし、冒頭に述べたとおり、若い頃のサイケおやじは、ど~してもそれを素直に言えず、このアルバム以外にも秘匿していたLPが多々ありました。
ところが今は、それが若気の至りというよりは、未熟なプライドであったと反省するばかり……。
逆に言えば、齢を重ねて羞恥心を失ったのだとも思いたい心境でございます。
それでも、レイ・ブライアントが残してくれた「Slow Freight」は、人気盤にして傑作という真実はひとつ!
不滅だと思うのでした。