3 防御に関わっては、従来より失点が多いのを問題にする論調が多い。これについては今回は特に、何よりもまず、こんな意見を出したい。
サッカーとは、失点を恐れすぎたら得点も減るゲームである。これは、南ア大会岡田ジャパンがパラグァイにPK戦で敗れ、8強を逃したあのゲームの最大の反省点にも上げられていたはずだ。また、「得点が失点より1点多ければ勝つゲーム」でもある。これはザックが選手相手に常に強調してきたことだ。ザックのようにリスクを冒して得点を目指させれば、敵カウンターなどによる失点も増えるだろう。得点との相関関係を観ないで失点を語るだけのやり方、論法は非科学的だと言いたい。マイナス思考ゆえにゴール前で縮こまりがちな日本選手には、こういうプラス思考の方がよほど合っているはずだ。ザックがプラス思考、リスク冒しを勧めてきたからこそ、岡崎が今大会でここまでの自信を語れるようなチームになったという点を、けっして忘れてはいけないと思う。
「僕らは、苦しい時でも何とかしてしまうチームなんで」
こういうチームであれば、負けない間は失点を論ずるのをしばらく止めようではないか。その方が、ザックと選手とを励ますことにもなるだろう。
こういう観点からは、それぞれの失点をその局面だけで見るのが主要な側面ではないと主張したい。今回に関しては「2ほどの一大改革が出来たのだから、その反面3は起こるさ」と語ったら、乱暴だろうか。失点が多くても、得点がその2.5倍もあって、無敗を続けてきたならば、そういう失点にさほどの大問題はないとしておこう。しかも、新しいセンターバックなど、若い選手を多数使って、準備期間も少なかった大会でもある。
まー、事ほど左様に、守備だけ、攻撃だけを語ったら誤った総括になるというのがサッカーであると、ザックはいつも強調する。ザックが最も重視する発想法「バランス」というのは、そういう考え方のことらしい。「あー言えばコー言う」がサッカー批評では全てに成り立つのだが、この「あー」と「コー」を一体のものとして考えねばならぬということなのだ。
4 ナンバーのトルシェ総括は短いけれど要を得て、賢い文章とも思い、秀逸だと観た。
『日本は親善試合でアルゼンチンを破った。リスクを冒し、決断して、攻撃的でアグレッシブなサッカーを実践させたのだった』
『厳格なシステムでプレーするのではなく、選手が自由に自分を表現することで攻撃志向を維持し続けた。私の印象では、ブラジルのようなチームだった』
『日本が見せたのは、目の前の試合を勝ちきるための、相手をほんの少し上回る強さと、それを可能にした選手の適応能力と戦術的な知性の高さだった』
ここに言う「適応能力と戦術的な知性」が多分、ザックがよく言う「日本の選手たちは頭が良い」ということなのだろう。
オシムの戦評で特徴的なことを、抜粋、転載したい。
まず、サウジ戦の大量点について
『(本田が欠場して)誰もが同時にプレーに参加したからよかったと、本田にもきちっと説明すべきだ』
日本の評論家たちが良く語る「サウジのモチベーションが低かった(から5点も取れた)」ついても、こういう批判をする。
『(サウジ側に)モチベーションがないというのは私にはよくわからない。(中略)彼らだって勝って大会を終えたかったし、監督もそう思っていたはずだ』
この通りだと思う。選手だって、明日のレギュラーはもちろん、代表が保証された者などいるわけがないのであって、あーいう連敗となれば必死になるというのが普通だろう。特に、相手が日本ならば、名誉挽回のチャンスではないか。そんな絶好機に「未来へ向かって自分を目立たせるために、チームを壊す」ようにする者もないだろう。そういう「行為」、選手はまた、未来には切られる要素を増やしたのだ。ドイツ大会日本がばらばらになったことによって以降、何人かの選手が切られているのを忘れてはいけないと思う。このよく言われるモチべーション論は、ゲームを観る観点を狂わせる「業界の変な常識」と言えるのではないか。
韓国戦については、本田の大きさをこう語っている。
『さまざまなポジションで起用でき、他の選手よりも屈強だから、どこに置いても危険な存在だ。戦いを恐れず、自分から仕掛けるから相手はファールを犯す。優れたシュート力もある。あとはやるべきときに、やるべきことができるかどうか。シュートは必要なときに打てばいいのであって、いつでもどこでもというものではない』
同じく韓国戦で、長谷部の重さなどに関わっては
『(後半以降は韓国ペースになったが、その理由は)長谷部の運動量が落ちたのが大きかったが、それでも選手交代などで状況をよくコントロールしていた。それ以上に、選手たちが見せた精神力は驚異的だった』
オーストラリア戦は、オシムから観れば勝つべくして勝った戦いとなる。単純素朴な戦法しかできない敵に、複雑・高等な日本、ということらしい。
『日本はオーストラリアに何もさせなかった。彼らがしたことといえば、組織力で守ったのと、ロングボールで得点機を作ったことだ』
4人の中心選手に対するこういう評もまた、面白い。
『(本田と香川の共存、調和は)プレーの質が違いすぎる。私には疑問だ。中盤では長谷部も良かった。彼はキャプテンの仕事を全うした。遠藤は、まだこれからだ。彼がもっと走り、アグレッシブなプレーをすれば、今からでももの凄い選手になれる。それをぜひ本人に伝えてくれ』
(この表題で続く)
サッカーとは、失点を恐れすぎたら得点も減るゲームである。これは、南ア大会岡田ジャパンがパラグァイにPK戦で敗れ、8強を逃したあのゲームの最大の反省点にも上げられていたはずだ。また、「得点が失点より1点多ければ勝つゲーム」でもある。これはザックが選手相手に常に強調してきたことだ。ザックのようにリスクを冒して得点を目指させれば、敵カウンターなどによる失点も増えるだろう。得点との相関関係を観ないで失点を語るだけのやり方、論法は非科学的だと言いたい。マイナス思考ゆえにゴール前で縮こまりがちな日本選手には、こういうプラス思考の方がよほど合っているはずだ。ザックがプラス思考、リスク冒しを勧めてきたからこそ、岡崎が今大会でここまでの自信を語れるようなチームになったという点を、けっして忘れてはいけないと思う。
「僕らは、苦しい時でも何とかしてしまうチームなんで」
こういうチームであれば、負けない間は失点を論ずるのをしばらく止めようではないか。その方が、ザックと選手とを励ますことにもなるだろう。
こういう観点からは、それぞれの失点をその局面だけで見るのが主要な側面ではないと主張したい。今回に関しては「2ほどの一大改革が出来たのだから、その反面3は起こるさ」と語ったら、乱暴だろうか。失点が多くても、得点がその2.5倍もあって、無敗を続けてきたならば、そういう失点にさほどの大問題はないとしておこう。しかも、新しいセンターバックなど、若い選手を多数使って、準備期間も少なかった大会でもある。
まー、事ほど左様に、守備だけ、攻撃だけを語ったら誤った総括になるというのがサッカーであると、ザックはいつも強調する。ザックが最も重視する発想法「バランス」というのは、そういう考え方のことらしい。「あー言えばコー言う」がサッカー批評では全てに成り立つのだが、この「あー」と「コー」を一体のものとして考えねばならぬということなのだ。
4 ナンバーのトルシェ総括は短いけれど要を得て、賢い文章とも思い、秀逸だと観た。
『日本は親善試合でアルゼンチンを破った。リスクを冒し、決断して、攻撃的でアグレッシブなサッカーを実践させたのだった』
『厳格なシステムでプレーするのではなく、選手が自由に自分を表現することで攻撃志向を維持し続けた。私の印象では、ブラジルのようなチームだった』
『日本が見せたのは、目の前の試合を勝ちきるための、相手をほんの少し上回る強さと、それを可能にした選手の適応能力と戦術的な知性の高さだった』
ここに言う「適応能力と戦術的な知性」が多分、ザックがよく言う「日本の選手たちは頭が良い」ということなのだろう。
オシムの戦評で特徴的なことを、抜粋、転載したい。
まず、サウジ戦の大量点について
『(本田が欠場して)誰もが同時にプレーに参加したからよかったと、本田にもきちっと説明すべきだ』
日本の評論家たちが良く語る「サウジのモチベーションが低かった(から5点も取れた)」ついても、こういう批判をする。
『(サウジ側に)モチベーションがないというのは私にはよくわからない。(中略)彼らだって勝って大会を終えたかったし、監督もそう思っていたはずだ』
この通りだと思う。選手だって、明日のレギュラーはもちろん、代表が保証された者などいるわけがないのであって、あーいう連敗となれば必死になるというのが普通だろう。特に、相手が日本ならば、名誉挽回のチャンスではないか。そんな絶好機に「未来へ向かって自分を目立たせるために、チームを壊す」ようにする者もないだろう。そういう「行為」、選手はまた、未来には切られる要素を増やしたのだ。ドイツ大会日本がばらばらになったことによって以降、何人かの選手が切られているのを忘れてはいけないと思う。このよく言われるモチべーション論は、ゲームを観る観点を狂わせる「業界の変な常識」と言えるのではないか。
韓国戦については、本田の大きさをこう語っている。
『さまざまなポジションで起用でき、他の選手よりも屈強だから、どこに置いても危険な存在だ。戦いを恐れず、自分から仕掛けるから相手はファールを犯す。優れたシュート力もある。あとはやるべきときに、やるべきことができるかどうか。シュートは必要なときに打てばいいのであって、いつでもどこでもというものではない』
同じく韓国戦で、長谷部の重さなどに関わっては
『(後半以降は韓国ペースになったが、その理由は)長谷部の運動量が落ちたのが大きかったが、それでも選手交代などで状況をよくコントロールしていた。それ以上に、選手たちが見せた精神力は驚異的だった』
オーストラリア戦は、オシムから観れば勝つべくして勝った戦いとなる。単純素朴な戦法しかできない敵に、複雑・高等な日本、ということらしい。
『日本はオーストラリアに何もさせなかった。彼らがしたことといえば、組織力で守ったのと、ロングボールで得点機を作ったことだ』
4人の中心選手に対するこういう評もまた、面白い。
『(本田と香川の共存、調和は)プレーの質が違いすぎる。私には疑問だ。中盤では長谷部も良かった。彼はキャプテンの仕事を全うした。遠藤は、まだこれからだ。彼がもっと走り、アグレッシブなプレーをすれば、今からでももの凄い選手になれる。それをぜひ本人に伝えてくれ』
(この表題で続く)