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随筆紹介 「いなくなる」  文科系

2011年02月25日 01時31分39秒 | 文芸作品
 今回は、確か今年60になるかという女性、Y・Sさんの作品。亡くなった二人の同人男性のことを偲んでいます。それも、非常な感謝の念を込めて。文中の「三谷さん」は、去年11月になくなられた方です。お連れ合いが数年前に亡くなってからすっかり元気をなくされ、癌と分かっていながら痛み止めのモルヒネが必要になるまで医者にかからず、「消極的自殺」を公言されていた方でした。歩けなくなってホスピスに入る直前に同人のみんなにお別れの電話などが来ました。現役時代は病院勤務と聞きましたが、「医師不信をもともなった確信犯」とも名乗られていたかと覚えています。


【 このごろ山本文緒の短編小説『みんな いなくなってしまう』をよく思い出す。彼女は私より幾分か若い世代だったように思う。社会をちょっと斜めに見た、何かしらの喪失感がついてまわるような作品。でありながら笑える作風である。ずぼらな生き方の中に明るさと、どこか凛とした強さを感じられて、私は好きだ。
 過ぎ去ってしまえば喪失はひとつのきっかけにすぎない。と作中でも言っている。

 私の周りでも大切な人がいなくなっていく。同人誌のお仲間というより師であった三谷さんもそのおひとりであった。ここ数年は、時折、思い出したように電話を下さっていた。いろんなお話をした。どこまでが本音? というような語り口でユーモアを交え、いつも饒舌であった。私との共通の趣味のことでは競馬から始まり、剣道のことをよく話した。
とても楽しかった。ご自分の子どもさんのことも、よく話された。これは、私の息子の病気のことを気遣ってくださってのようにも思う。そしてお連れ合いのことも話された。三谷さん独自の夫婦論は私には新鮮と驚きで楽しかった。
 だが行き着くところはいつも決まって文学論だった。私のような雑文しか書けない、文学を語るなどとは恐れ多いような者にまで、まじめにわかりやすく、熱く話してくださる。うれしかった。
 私は小さいころより、思春期はむろんのこと、大人になってからでもなかなか自分を好きになれなかった。当然自信喪失の日々であった。家庭環境の影響も大きかったと思う。成長過程でダメ押しされることが多かったせいか、自己否定する生き方が身についてしまっていた。小、中学生のころも心ない教師の悪態に傷ついたこともある。私は存在している意味があるのだろうか。いなくなりたい。そんな繰り返しだった気がする。
 人生後半、それが変ってきた。教師という嫌いだった職業に対しての見方も変った。学校という枠にはめられなくて、広い社会で好きなことを自由に学ぶという面白さに出会った。当然そこで出会う先生の資質も違う。尊敬できるし、何より楽しい。自分の思いや考え、それらが表現できる場があるすばらしさ。そう表現することで自分を見つめ直すこともできる。それによっていかに自分が解放されて自由になれたことか。
 同人誌の師であった、井上先生、三谷さんに心から感謝している。もう、お話できないのがなんとも寂しい。

 今日、自転車に乗って買い物の帰り道、信号待ちで何気なく空を仰いだ。青く澄んだ寒空に白い雲がゆっくりと流れていく。ふと、三谷さん、奥様に逢えたかな、と感じた。】

  

コメント
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