九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

随筆紹介 「スーパーの講義おじさん」   文科系

2016年12月02日 10時29分00秒 | 文芸作品
 スーパーの講義おじさん  H・Sさんの作品です


 胡桃パンを食べたくなってショッピングセンターに行った。パン売り場で、何種類もあるパンに見とれていた私の側に、カートを押しながらおじさんが近づいて来た。おじさんの籠の中には、刻み野菜二袋、ヨーグルト一パックと、六個入り胡桃パン二袋を棚からとり、籠の中に入れた。それで、パン売り場から立ち去るのかと見ていたら、棚の前から動かない。近づいて来たおばさん達の前に、籠の中からわざわざ取り出した胡桃パンを示し、
「私は、元女子大の教授で、栄養学の専門家です。食べ物の事なら何でも聞いて下さい。胡桃パンはいいですよ。女性に特にお勧めしたい食品なのですよ。お肌つるつる。シミを作らない優れものをぜひ食べてくださいね」と、おばさん達相手に自説をご披露し始めた。
「私の朝食は、このパンにヨーグルト、野菜を食べれば完璧です。この袋の刻み野菜をいつも愛用しています。一人分の袋のなかに六種類の野菜が入っています。食べた後、袋を捨てるだけですから、ゴミも出ません。私のやり方を実行して下されば、お肌にシミなど作らなくてすみますよ」と、大演説。

 棚から胡桃パン一袋をとって私は籠に入れた。もともと、このパンを買う予定で売り場にいた私なのだが、おばさん達から見れば、おじさんの講義を聞いて買っているようにも思える。これって、集まってきたおばさん達を誘導している「サクラ」の役割を担っているわけだ。いやだな。なのに、おばさん達が、争うように胡桃パンを籠の中に入れる買い物競争が始まってしまった。
「さっそく私の理論に共感して、胡桃パンを買って下さった奥様。ありがとうございます。ほら売り切れましたよ。胡桃パン」と、おじさんは得意げに言った。

 直径5センチ厚さ3センチの大きさのこのパンに入っている胡桃は、小指の先ほどの大きさ6粒ぐらいだ。これでお肌つるつる、シミを作らないとは大げさだが、それよりも、私の気持ちにひっかかったのは、袋入りの刻み野菜の方だった。おじさんは多分独り暮らしなのだろう。早速、野菜売り場に引き返し、冷蔵棚を見回した。あるある。刻み野菜は、二列の棚いっぱいに並べられていた。一袋を手に取った。キャベツ、キュウリ、水菜、玉葱、人参、ピーマン等を刻んで混ぜ合わせ、二百グラムを専用のポリ袋に詰めたものだ。一袋一八〇円。これを二袋摂取すれば一日の野菜の必要量は賄えると説明がついている。消費期限三日。手軽だから売れ筋なんだろう。元女子大の先生が持ち上げた野菜袋には三〇%OFFの値段表示がついていた。売れ残り防止のため値下げした。そういうことだ。もし、独り暮らしになったとしても、私は、最小単位で売られる野菜を、自分の目で見て選び調理する習慣を捨てたくない。私には刻み野菜は必要のないものだ。

 暫く日がたったある日。ショッピングセンターを訪れた。パン売り場で元女子大教授のおじさんが、おばさん達に胡桃パンを勧めていた。胡桃パンが売れたとしてもこのおじさんが儲かるわけではないのによくやるなあと眺めていた。
「これは、優れものですよ」と勧められても、どこが優れているのか、どんな栄養素がお肌をつるつるにするのか、誰も尋ねる人はいない。勧めるから買っている、買わないとそこを離れづらいからとか、いろんな思いを込めて、おばさん達の胡桃パンの争奪合戦が今日も繰り返されていた。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「100年に1度の危機」とは何だったのか(7)  文科系

2016年12月02日 08時20分59秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 第3章 金融グローバリゼーションの改革

 第2節 各国などの対応や議論

「金融危機国への外貨融通制度」が各地域で国家連合的に作られた。世界大金融の各国通貨空売り搾取から、中小国家を守る互助会のような側面も持ったものだ。
 アジア通貨危機から学んだASEANプラス日中韓が、日中等の支出でより大きな資金枠を持つことになった例がある。岩波新書「金融権力」(本山美彦京都大学名誉教授著)は、南米7カ国が形成したバンコ・デル・スル(南の銀行)に注目している。
 こういう独自の外貨融資制度が国際通貨基金(IMF)に対抗する側面を持つとすれば、世界銀行に対抗する動きも起こった。最近アジア開発銀行に対抗して創られたアジア・インフラ開発銀行がそれだ。
 前節にも見たように、『独自のBRICS格付け機関を設けることを検討する』とBRICS諸国が最近発表したが、これも同じ一連の趣旨のものと言える。
 IMFや世銀が金融グローバリズム寄りになり過ぎているという非難が中小国家に多いが、以上はそれらを取り込んでいく取り組みと言いうる。南米とアフリカの代表、および大国インドが入っていることが注目だろう。

 世界的不況で日米欧それぞれに内向きの動きが大きくなっているだけに、BRICS諸国などの反ワシントンコンセンサス方向と実体経済重視方向との動きが、その賛否は別問題として、注目される。
 金融中心主義を排して実体経済中心へと回帰せよとの声が強くなっている。まず、「グリーンニューディール」政策などの新実業開発を強調する人々は、そこに新たに雇用を求める。雇用問題・格差の解消一般をなによりも強調する人々は、金融規制、実業開拓の方向と言えよう。なお、「グリーンニューディール」とはこういうものだ。
『用語の起源は、イギリスを中心とする有識者グループが2008年7月に公表した報告書「グリーン・ニューディール」である。ここでは、気候・金融・エネルギー危機に対応するため、再生可能・省エネルギー技術への投資促進、「グリーン雇用」の創出、国内・国際金融システムの再構築等が提唱されている。
 同年10月には、国連環境計画(UNDP)が「グリーン経済イニシアティブ」を発表し、これを受けて(中略)オバマ大統領は、今後10年間で1500億ドルの再生可能エネルギーへの戦略的投資、500万人のグリーン雇用創出などを政権公約として打ち出した。(中略)』(東洋経済「現代世界経済をとらえる Ver5」、2010年発行)

 グリーンニューディール政策には雇用対策も含まれているわけだが、雇用対策自身を現世界最大の経済課題と語る人の中には、こんな主張もある。
『私は非自発的雇用の解決には労働時間の大幅な短縮が必要だと考えている。具体的には、週40時間、1日8時間の現行法定労働時間数を、週20時間、1日5時間に短縮するように労働基準法をあらためるべきだと考えている。企業による労働力の買い叩きを抑止するためには、年間実質1~2%の経済成長を目指すよりも、人為的に労働需要の逼迫を創り出すほうが有効だからだ。経済学者は、そんなことをしたら企業が倒産すると大合唱するかも知れない』(高橋伸彰立命館大学教授著「ケインズはこう言った」、NHK出版新書2012年8月刊)
 8時間労働制とは、歴史的には既に19世紀の遺物とも言えて、20世紀の大経済学者ケインズが現状を見たら8時間労働制が続きさらに時間外労働までふえているとことに驚嘆するはずだ。これだけ豊かになった世界がこれを短縮できない訳がないと。ただ、これを実現するのは、金融グローバリズムの抵抗を排してのこと。国連などがイニシアティブを取って世界一斉実施を目指す方向になろうが、イギリス産業革命後などの10数時間労働時代が世界的に8時間制度になったことを考えれば、空想という事でもあるまい。近年使われる言葉では労働時間短縮はワークシェアとも言えるのである。
 同じ時間短縮、ワークシェアを語るもう1例を挙げる。
『こうした格差拡大の処方箋としては、まず生活保護受給者は働く場所がないわけですから、労働時間の規制を強化して、ワークシェアリングの方向に舵を切らなければなりません。
 2012年の年間総労働時間は、一般労働者(フルタイム労働者)では、2030時間となっており、これはOECD加盟国の中でも上位に入る長時間労働です。サービス残業を含めれば、実際はもっと働いています。ここにメスを入れて、過剰労働、超過勤務をなくすように規制を強化すれば、単純にその減少分だけでも相当数の雇用が確保されるはずです。(中略)
 私自身は、非正規という雇用形態に否定的です。なぜなら、二一世紀の資本と労働の力関係は圧倒的に前者が優位であって、こうした状況をそのままにして働く人の多様なニーズに応えるというのは幻想といわざるを得ないからです。』(『資本主義の終焉と歴史の危機』、水野和夫・元三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト著。2014年刊)。


(次回その8で終了です。全体の目次と引用文献一覧は、第一回目にあります。)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする