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随筆  ある「音楽家」のこと   文科系

2016年12月27日 03時41分12秒 | 文芸作品
 ある音楽家の話をしよう。有名音大出のそこらのプロよりも遙かに「偉い」と僕が勝手に決め込んでいるある友人のお話である。

 まず彼の音楽経歴はこんな程度の、完全なアマチュアである。旭が丘高校、筑波大学の合唱部、ただしその中では一番上手くて、常にソリストを務めてきた人。退職前後にシャンソンかカンツォーネだかの教室に通ってから一念発起、プロ歌手を目指す。その結果として数百人を集められるようになったリサイタルをもう何回も開いている。この事以上に、こんな程度の経歴の退職後の老人が、なぜリサイタルに数百人を集められるようになったか、それがいかに凄いことで、社会的意義も大きいかと、そのことを語りたい。

 初め家の近所で「歌う会」を始めた。アドリブ演奏が得意な1人の音大出の女性ピアニストとともに。そこに集まってきたのは、60~80台の歌うこと大好きな女性たちと、同年代の男性もちらほら。お連れあいさんとともに参加している男性が多いようだ。最初のグループは、40人程。やがて、区内のある団体から声がかかり、その団体会員相手に同じことを始めた。そこはどんどん大きくなって150人ほどになった。ちょっと小さい、歌の教室も持っている。

 2時間程の会はこんな風に進められていく。3冊ばかりの手作り歌集を全員が持っており、「次はこれ、次はここ」という感じで、往年の名歌を皆で歌っていく。歌のジャンルは、こんなものだ。この年代の人々の学校音楽教科書に載っていたような内外の名歌、当時のポピュラーソング、美空ひばりもあるがいわゆる演歌的な曲は少なくて、さだまさしや布施明などという感じの歌が多い。こうしてまー、この年代で学校合唱団員だった人がカラオケに出かけたら歌う可能性が高いような曲が集めてあると思って頂けばよい。全体の雰囲気は、途中で茶菓も出ることだし、ピアノ伴奏付きの歌声喫茶を思い出して頂けばよい。とにかく、全員参加型の歌う会なのである。

 さて、こういう会を僕は現代日本社会においてとても大きな意味がある大事なものだと直感する。それぞれ月に二度集まり、全員参加型で、彼の助言や歌解説とピアノ伴奏とに乗せられるようにして、大声で腹一杯歌い合う。娯楽と言う以上に、これは、立派な文化活動である。単なる文化の受容者ではなく、参加者自らの文化活動だと言うのが大事な点だと思う。だからこそ1人1回ワンコインの参加費まで出してこんなに多くの方々が参加して来るということなのだと思う。


 最後に、彼自身の技量などについても少々。
 テレビに出ているプロ歌手で言えば、布施明かさだまさし並みに上手い。ということは、単に音大声楽を出ただけの人よりも上手いという事だと僕は解している。まー高校や全国区大学の合唱団で最も上手い人というのを侮ってはいけないと言うことなのだとも。因みに西欧3大テナーと言われたパバロッティ、ドミンゴ、カレーラスらも、正規の声楽大学が生み出した存在ではないと記憶している。幼い頃から、歌が好きで、好きな歌を選んで歌い込んで、どんどん上手くなった人。カレーラスなどは10歳にしてすでに神童と呼ばれていたようだし。
 彼が歌を指導し、皆はこれを受けつつ1回500円出して楽しみ、その人々がリサイタルにも来てくれるから彼は余計に鍛錬を重ねる気にもなる。そんなふうにして新たに気付き、学んだことを、またどんどん歌う会にも出していく。リサイタルの赤字分は、日頃のワンコインが補ってくれるという背景も存在するわけだ。
 僕と同年齢の彼が、退職後に努力して切り開いてきた、一つの立派な老後だと思う。
コメント (3)
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