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随筆紹介 「初笑い」  文科系

2017年01月25日 23時10分27秒 | 文芸作品
 初笑い   H・Sさんの作品です

一月二日夕方七時過ぎ、年賀状を出そうとポストの前に立った。年賀郵便物の投入口から突然軽快な音楽が鳴り出した。携帯電話の発信音だ。ええー……。ポストの中に携帯電話、何てことだ? 誰かがうっかり年賀状と一緒に投げ込んでしまったのだろう。着信音は、行方不明になった携帯電話を探すため、投げ込んだ当人が呼び出したのだろう。一分ほどで音は止まった。まさか、ポストのなかにあるとは思っていないだろう。その在処に速く気づいて欲しいものだ。私も、この人と同じように、うっかりによる失敗を繰り返しながら一日を送っているのが現状だ。

 こんな時間に年賀状を出しに来たのは、昼間外出時、ポストに入れるため手に持っていた年賀状を下駄箱の中に置き忘れ、帰宅したとき出し忘れたから。集配時間は明日十時三十分だが、今出しておかないとまた忘れる。ハンドバッグに葉書の束を入れポストに向かうために家を出た。家の前で、外出先から帰ってきたお向かいの苗子さんに出会った。苗子さんと私は、お喋り友達。いろんなことに挑戦活動をするので苗子さんは情報通の人だ。
「今年もよろしく、お喋りしようね」、挨拶を交わし、数分立ち話をした。「それじゃあ」と、苗子さんとさよならをして、私はポストに向かった。
年賀状を出し終えた後、携帯電話の着信音に気を取られた私は、ポストの前にしばらく佇んでいた。携帯電話がポストの中にありますよと伝えたくても誰のものかわからないので途方に暮れた。今日一日の私の予定は終了、帰るとするかと自宅の方に足を向けた。

 こちらに向かって急ぎ足で来る女の人がいる。暗がりだからはっきりしないが、苗子さんのようだ。やっぱり、苗子さんだった。
「携帯、ポストに入れちゃったみたい。息子の携帯で探知してるの」、別の携帯電話を見せた。「さっき、着信音が聞こえたよ」と、私。「ああ、やっぱり、ちょっと付き合ってくれない」、苗子さんが私に要望。またポストに戻って来た。苗子さんが発信した。ポストの中から着信音が響いた。携帯電話の在処を苗子さんは確信したが、どうしたら返してもらえるのか? 郵便局は祝日で休み。明日の集配時間前にここに来て張り込み、集配のおじさんから携帯電話を受け取るしか方法はないようだ。
「御神籤は大凶。地下鉄では足踏み外す。朝出し忘れた年賀状を帰りに出しておこうとして、携帯をポストに放り込んでしまう。正月早々いいことなし。先が思いやられる」と、苗子さんがこぼした。「貴女は、うっかり間違いをやっても気づくのが早い。私だったらそうはいかないよ」、返す私。お互いの顔を見た。今日一日の行動が似通っている。なんだかおかしくなって、どちらからともなく笑いが噴出してきた。これが私達の初笑いなのかとお互いに認識。余計おかしくなって大笑いしたが、自分のうっかりの集積がネタになるって、ちょっと寂しい気持ちも混じっていた。 

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内田樹の研究室より   らくせき

2017年01月25日 10時20分56秒 | Weblog
なぜトランプ政権のスタッフは嘘をつくのか?

Why Trump's staff is lying?
Bloomberg View 23 Jan 2017
by Taylor Cowen

というタイトルの記事が眼に止まったので、訳したみた。なかなか面白い。

発足したばかりのトランプ政権のもっとも際立った特徴の一つは嘘の政治的利用である。
先週話題になったのは、ドナルド・トランプの報道担当官ショーン・スパイサーが
「トランプは就任演説でアメリカ史上最多の聴衆を集めた」という明らかな虚偽を申し立てたことであった。
この事件をてがかりに、リーダーが自分の部下に嘘を言わせるとき、彼は何をしようとしているのかについて考えてみたい。

誰の目にも明らかなことは、この指導者が大衆をミスリードしようとしており、
彼の部下たちにも同じことをさせようとしているということである。
多くの市民は事後にファクト・チェックなどしないので、大衆をミスリードすることは別に難しいことではない。
というのは、表面的な説明であって、裏にはもっと深い事情がひそんでいる。

自分の部下に虚偽を言わせることによって、指導者は自分の部下たちの自立のための足場を
-それは彼らと大衆との関係の足場でもあるし、あるいはメディアや他の政権メンバーとの関係の足場でもある
-切り崩すことができる。
足場を失った人々はリーダーへの依存を強め、命令機構に対して単身では抵抗できなくなる。
嘘の連鎖を助長するというのは、指導者が自分の部下を信用しておらず、
また将来的にも信用するつもりがない場合に用いる古典的な戦術である。

嘘をつかせるもう一つの理由は経済学者が「忠誠心テスト」と呼ぶものである。
もしあなたがある人があなたに対して真に忠誠心を抱いているかどうかを知りたいと思ったら、
彼らに非常識なこと、愚劣なことを命じるといい。
彼らがそれに抵抗したら、それは彼らがあなたに心服していないということであるし、
いずれ支配者たちの派閥内部に疑惑を生み出す予兆でもある。
トランプが家族を重用するのはそのせいである。

この「忠誠心テスト」は、まだ部下の本性がわかっていない体制発足の初期において、
新しい雇用者に対してよく行われる。
トランプ大統領は別に複雑怪奇な策略を弄しているわけではない。
単にこれまでのビジネスとメディアでのキャリアを通じて有用と知った戦術をここでも繰り返しているに過ぎない。
トランプの支持者たちはこれまでの政権もさんざん嘘をついてきたと指摘しているが、これはその通りである。

嘘の種類がちょっと違うだけで、その通りである。
ただし、「嘘とは言えないが、本当でもない」ことというのはいろいろな形態をとるものである。
これには上層の形態と下層の形態の二つがある。

上層のは、大使や外交官が用いるものである。
大使たちはあとあと面倒を引き起こすのが嫌なので、反論される可能性のある、明白な嘘をつくことはしない。
しかし、もし大使が言った言葉をそのまま鵜呑みにしたら、それはあまりに無邪気である。
大使はふつう複数の聴衆に向かって同時に話す。彼がほんとうは何を言おうとしているのかを知るためには、
その話を複数の文脈に即して聴き分ける必要がある。
言葉を愚直に文字通りに解釈したりすると、言葉の意味をまったく取り違えることになる。
ほとんどの場合、大使たちは一目で知れるような真実は口にしないものだ。
これらの外交官たちの語る言葉は厳密には嘘ではない。
しかし、はっきりとした、生の真実とは間接的な関係しか持っていない。
大使たちや外交官たちがそのような言葉づかいをするのは、彼らが長期にわたって、
さまざまな相手とのデリケートな連携関係を維持できるように最大限の可動域を保とうとするからである。
トランプ政権がこのタイプの「嘘」(と言ってよいなら)を活用することも理屈の上ではありえない話ではない。
だが、この外交官的な嘘はトランプのスタイルではない。
それに、彼の支持者たちの多くは(そう考える理由がないわけではないが)、
彼を重大な真実を喜んで告げる人物だと見なしている。
トランプの敵対者たちはそのことを見落としてはならない。外交官的な嘘と大衆をミスディレクトする
多様な方法の間の社会学的な差異を見分けないならば、彼らはトランプの訴求力を過小評価し続けることになるだろうし、
またその独善性ゆえに彼ら自身が大衆からどれほど不信の目で見られているかをも過小評価することになるだろう。

トランプの専門は「下層の形態」である。もっと破廉恥な嘘、つまり明らかに「Xでない」場合に「Xだ」と言う
タイプの嘘である。
だが、これは実は権力の誇示なのである。メインストリームのメディアや政治的対抗勢力を断固として
無視するという意思表示なのである。
彼の嘘は単なる嘘以上のものとして理解されることを求めている。
一つには、多くのアメリカ人、とりわけトランプ支持者たちは、エスタブリッシュメントの口から出る
「リファインされた」嘘よりも、トランプのがさつな嘘の方をより快適に感じるということがある。

もう一つ理由がある。それは周縁にいる部外者にとっては、今さらトランプ連合に参加するためのハードルは高く、
政治的対抗者たちにとってトランプ陣営との結びつきなどは考えられもしない。
ということは、トランプ政権はあからさまな嘘をつくことを通じて、支持者たちに向かって、
他の陣営と通じる橋を焼き落とせという、忠誠心を試すシグナルを送っているのである。
この下層の嘘もまた短期的な戦略である。これらの嘘の多くはその場の使い捨てのものであり、
何が真実であるかがますますわかりにくくなっているという環境の下では、
そもそも何一つ長期にわたる信頼性など求められていないのである。
だからと言って、ひとたび私たちがトランプのさまざまな非行を責めることに飽き飽きして、
それを止めてしまったら、それこそ彼の思うつぼだということをわきまえておいた方がいい。

要するに、トランプ政権は自ら指名した閣僚たちも、彼の支持者たちもどちらも信用していないのである。
そして、この信頼の欠如がトランプ自身に向けられるような相互不信の状況を作り出しつつある。
これは何かを始めるというよりは、何かを終わらせるための戦略である。
だとすると、トランプ政権の最初の100日は破局に向かう日々だということになるだろう。


コメント (2)
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