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随筆紹介  お喋り家電と、ご老体    文科系

2017年06月26日 11時24分03秒 | 文芸作品
 随筆「お喋り家電と、ご老体」 H・Sさんの作品です


 最新の電気炊飯器を買った。「ご飯が炊きあがりました。ほぐしてください」と喋る。そばにいた夫が「はい、はい、わかりました」と、炊飯器の命令に従い、いそいそとご飯をほぐしだした。その姿を見ながら、最新家電のお喋りに日頃は台所の事に疎い夫が即反応したことに大いに驚き、その威力を知らされた。
 そういえば、このお喋り機能に従い、毎日夫が動かされている機械が、家の中に存在していたことに、はたと気づいた。それは湯沸かし器で沸かすお風呂だ。風呂掃除と風呂焚きは夫がやっている。それ故か機械のお喋りに、私は鈍感になっていたようだ。

 風呂掃除の後風呂桶の栓を確実に押し込んで湯沸器の運転ボタンを押せば、「お湯張りをします」と、機械が喋り自動でお湯が沸く。「あと、5分ほどでお風呂に入れます」と言う機械のお喋りに案内された夫が風呂に入るために衣服を脱ぎ始める。実に素直に行動している。「お風呂が沸きました」と、知らされるころには風呂の前に夫は到着。蓋を取るという塩梅だ。
 二月のある日、「お湯張りをします」と、機械が喋った。それからあと機械は一言も喋らなかったが、沸いているはずの時間だからと、夫は衣服を脱ぎ、すっぽんぽんで風呂桶の前に立ち風呂の蓋を取った。「あれー」、風呂桶は空っぽのままだった。夫が風呂の栓をするのを忘れ、湯沸かし器の自動運転ボタンを押したようだ。
 湯沸器は「風呂桶の栓が外れていますのでお湯張りが出来ません」とは喋ってくれなかったが、危険を感じた機械が勝手に運転を中止、空焚きを防ぐ構造になっているらしく、大ごとにはならなかった。
 それにしても真冬のすっぽんぽんはよほど体にきつかったのか、それ以後夫は、風呂釜を洗い終えると、栓を差し込んで蓋を数センチ開けておくようになり、湯沸器の運転ボタンを押す前に風呂桶の栓が差し込んであるかどうかを確認するようになった。私も炊飯器にお米の仕掛け忘れをするようになってきた。

 どんなに便利な機械が登場しても、仕事をしてもらうためには、人間の方が完璧な準備をしないといけないようだ。そこでご老体は考えた。こちらから家電に対して声かけをしよう。炊飯器なら「米、水、OK、炊飯準備完了。美味しいご飯をお願いします」とご挨拶。湯沸器なら「風呂桶の掃除完了。風呂栓の差し込みもOK」という具合に。ご老体である自分に対してきちんとやったよと確信が持てることが大事なので、自分に言い聞かせる。こうすれば、少なくとも現今の様な抜け落ちの数は減るのではないかと。

 人間なら多少の融通は利くものだが、機械はそれが出来ない代物だから、致し方がないと、思うのである。
コメント (1)
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