【社説①】:サケ・マス交渉 漁業権益守る努力必要
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:サケ・マス交渉 漁業権益守る努力必要
日本が200カイリ内で行うサケ・マス流し網漁に関するロシアとの政府間交渉が妥結した。漁獲量上限は前年同様2050トンという。
漁獲実績に応じロシア側に支払う協力費は2億~3億13万円となった。不漁が続き、日本側の要求で下限額は6千万円下がった。
サケ・マスは産卵した川のある国に資源の利益があり、日本の水域でもソ連時代の1985年から両国で操業条件を決めていた。
ロシアのウクライナ侵攻では日本も経済制裁を科す。国際法違反の侵略戦争を続けるロシアとの交渉自体に批判の声もあるだろう。
だが漁業権益は守る必要がある。協力費の利用対象もロシアの水産研究などに限定するという。
今後は北方領土周辺の漁業交渉が続く。政府は漁業者の権利と安全を守る努力を続けてほしい。
水産庁によると25日に正式署名し、来月初旬から操業が始まる見通しだ。交渉長期化で遅れたが、盛漁期には間に合いそうだ。
この漁で取れるシロザケはトキシラズと呼ばれ、脂がのった高級魚として全国的に人気がある。
今年は根室市などの19隻が出漁準備中だ。好漁を期待したい。
昨年は7月までの漁期で漁獲は31隻で652トンだった。近年は地球温暖化の影響からか不漁傾向で協力費負担が重くなっていた。
6月には北方領土・貝殻島周辺コンブ漁を控え、近く民間ベースの交渉が予想される。秋以降も北方四島周辺水域での安全操業や、双方の200カイリ内での操業条件を決める地先沖合漁業が続く。
今回の決着が道を開いたことになり、その点は評価したい。
気がかりなのはロシア側の出方だ。水産庁は今回「純粋に漁業分野だけに関する協議を行えた」と言うが、ウクライナ情勢次第で対応を変える恐れは否定できない。
2014年のロシアのクリミア併合でも日本はG7に追随し制裁を実施したが、16年からロシア200カイリ内で日本漁船のサケ・マス流し網漁が禁止された。資源保護が名目だが報復との見方もある。
今回は日本を「非友好国」と名指ししており、一連の交渉が妥結してもロシアによる過剰な取り締まりや拿捕(だほ)の懸念は拭えない。
国は漁業者の安全を守るため、周辺に目を光らせつつ、連絡ルートは確保してほしい。
経済制裁の中で漁業交渉をなぜ例外とするのか、国民に説明し理解を得ることも大切だ。各国に「抜け道」と映らぬよう可能な限り交渉経緯の透明化も求めたい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月24日 05:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。