【卓上四季】:世界遺産の価値
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:世界遺産の価値
「知床」の世界自然遺産登録が決まった2005年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で、最後通告を突きつけられた遺産があった。世界最大の中世ゴシック様式の建築で知られるドイツのケルン大聖堂だ▼ライン河畔に立つ2基の鐘楼が象徴的な大聖堂は1996年に遺産に登録されたが、開発で景観が損なわれたため、ユネスコの諮問機関が改善を勧告。登録抹消の危機にあった。景観保全のため緩衝地帯を設けるという約束をほごにされたユネスコ側の警告は当然だろう▼大聖堂周辺の再開発計画は、遺産登録による観光客増を当て込んだ高層ホテル建築などが柱だった。市当局が計画を撤回し、抹消は回避されたが、経済的利益を求めて遺産本来の価値を失うようでは本末転倒というほかない▼ユネスコの諮問機関が一昨日北海道・北東北の縄文遺跡群の世界文化遺産登録を妥当とする勧告を出した。7月の世界遺産委員会で正式に決まれば、知床に続く道内2例目の世界遺産となる▼世界遺産登録が飽和状態となる中、人類史に残る普遍性や独自性の点では厳しい目も向けられた。登録はゴールではない。その価値を守り、高める努力が一層求められる▼すでに2件の世界遺産が登録を抹消されている。人類共通の宝を前に目先の経済効果ばかりを追い求めるようなことがあれば、「ケルン大聖堂」の二の舞いとなろう。2021・5・28
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2021年05月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。