【社説②】:ドイツ原発停止 電力巡る難題を解決できるか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ドイツ原発停止 電力巡る難題を解決できるか
ドイツで稼働していた3基の原子力発電所が運転を停止し、「脱原発」が完了した。
原子力発電は、電力の安定供給と地球温暖化防止の両方に役立つ。ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機の中で、ドイツは脱原発に伴う課題を解決できるのか。
ショルツ政権は当初、昨年末に全面停止する予定だったが、暖房用電力の 逼迫 を懸念し、稼働を延長していた。冬が終わり、再延長は必要ないと判断したという。
全原発の停止は、メルケル前政権が2011年に決めた。東京電力福島第一原発事故を受け、原発事故のリスクを重視する立場から決断したもので、これ以降、電力供給に占める原発の割合は約18%から段階的に減っていた。
問題は、ドイツが脱原発を、ロシア産天然ガスの輸入拡大と一体となって進めてきたことだ。
ロシアは、ウクライナ侵略に対する欧州の経済制裁に反発し、天然ガス輸出を大幅に減らした。ドイツでも電気代が高騰している。脱原発を決めた時点では、想定していなかった事態だろう。
ショルツ政権は、ガスや石炭の火力発電の割合を減らし、風力や太陽光による再生可能エネルギーの比率を、現在の51%から30年に80%まで引き上げる計画だ。
将来的には再生エネで全ての電源を賄うというが、再生エネが天候に左右される点や、蓄電技術の開発など、多くの課題が残されている。計画通りに転換が進むかどうかは未知数だ。
ドイツで今春行われた複数の世論調査では、原発の運転継続を求める声が3分の2を占めた。多くの人々が電力供給に不安を抱いていることがうかがえる。
ロシアのガスに依存するエネルギー戦略が破綻した後も、脱原発を貫徹したことが妥当かどうかは意見が分かれるところだろう。
エネルギー調達での「脱ロシア」は、欧州共通の問題だ。ドイツ以外の国では逆に原発を、気候変動対策に役立ち、かつ安定供給が見込める電源として再評価し、安全性を高めたうえで活用しようという動きが強まっている。
フィンランドでは4月中旬、欧州最大級の原発が本格稼働した。フランスやポーランドでも原発の新設計画が進められている。脱原発のドイツは少数派だ。
欧州各国は送電網でつながり、電力不足の際は融通し合う仕組みがあることにも留意する必要がある。島国の日本で、ドイツの脱原発はモデルにはなり得ない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年04月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。