【社説②】:水素エネルギー 世界に広がる技術の開発競争
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:水素エネルギー 世界に広がる技術の開発競争
燃焼させても二酸化炭素(CO2)を出さない水素エネルギーの活用は脱炭素への「切り札」と期待されている。官民が連携し、関連技術の開発を急がねばならない。
政府は、水素の利用拡大に向けた「水素基本戦略」を5月末にも改定する方針だ。政府が示した改定案では、水素の供給量を2040年に現在の6倍となる年1200万トン程度に増やすとした。
従来の目標は、30年に300万トン、50年に2000万トンだったが、新たに40年の数字を掲げて普及の加速を図ることにした。
改定案は、水素の輸送船やコンビナートなど、供給網の構築に今後15年間で官民合わせて計15兆円を投資する計画も打ち出した。コストを下げるため、国による補助制度の創設も検討するという。
国が水素利用の目標値や支援策を示すことで、民間企業の投資を促す狙いは理解できる。
17年策定の現行の戦略は、世界で初めて水素に関する国の方針を明示した。日本の水素技術は世界で高水準にあるとされてきた。
だが、現状では供給されている水素は石油精製などに使われる程度で、エネルギーとしての利用はあまり進んでいない。
海外では水素への関心が一気に高まっている。欧州は、ロシアのウクライナ侵略でエネルギー安全保障への危機感が強まり、大量の水素を製造する戦略をまとめた。投資計画は数兆円規模に上る。
米国は、水素の供給網の整備に巨額の政府資金を拠出する。中国も水素産業の育成に注力し始めた。先行していた日本が、後れを取るわけにはいかない。
まずは、火力発電での使用が望まれる。発電会社が、液化天然ガス(LNG)に水素を混ぜて燃やす技術の開発を進めている。早期に商用化してもらいたい。
CO2の排出量が多い鉄鋼業界では、鉄鉱石と水素を反応させる新たな製鉄技術による実証試験が行われている。業界を挙げての取り組みが求められる。
水素で走る燃料電池車の普及も含め、政府は用途拡大のために多様な支援策を講じてほしい。
水素は水を電気分解して取り出せるため、資源のない日本にとっては貴重なエネルギーとなるが、電気分解には電力が必要だ。脱炭素の加速には、その電力を化石燃料から再生可能エネルギーに切り替えることが重要になる。
日本は欧米より再生エネのコストが高い。CO2を出さない原子力発電も活用すべきだろう。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年04月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。