【社説②】:鳥山明さん追悼 国境を超えて愛された
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:鳥山明さん追悼 国境を超えて愛された
フランスのマクロン大統領をはじめ、世界中から寄せられた追悼の言葉が、その存在の大きさをあらためて感じさせる。「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」で知られる漫画家の鳥山明(とりやまあきら)さんが、1日に亡くなった。68歳、まだまだこれからも活躍してほしかった表現者の、突然の他界を悼む。
愛知県出身の鳥山さんは1980年、ギャグ漫画「Dr.スランプ」の連載を「週刊少年ジャンプ」で始め、大ヒットした。
それまでの日本の漫画は「劇画調」が主流の一つだったが、それとは画然としたタッチやポップな描線、洒脱(しゃだつ)なキャラクター造形、優れたデザイン感覚が実に斬新だった。たちまち時代を代表する漫画家になった。
その後に手がけた「ドラゴンボール」は、子どもから大人にまで熱烈に支持された。掲載した「週刊少年ジャンプ」が、実に600万部以上もの発行を記録する原動力にもなった。
さらに作品はアニメ化されて、80以上の国や地域で放送。「クールジャパン」とされる日本発のさまざまなジャンルの創作を象徴する名作アニメとなった。まさしく「ソフトパワー」=文化の影響力の好例といえよう。
一方、漫画以外に多彩なデザインも発表した。その一つでキャラクター創作を担当したゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズは、空前のヒット作になった。こうした「社会現象」ともいえる足跡を残したことは忘れがたい。
その活躍ぶりとは裏腹に、自身は人前に出るのをあまり好まず、顔写真の公開も望まなかった。自らを描く時は、ロボットのような自画像にするのが常だった。
この人に送られたあまたの告別の辞で目を引いたのは、中国外務省の毛寧(もうねい)副報道局長が「深い哀悼の意」を表したことだ。
普段は日本に厳しい姿勢になりがちな中国の報道官までもお悔やみを述べたのには、国境や立場の違いを超えて愛され得るポップカルチャーの真価を見た思いだ。
先に亡くなった指揮者の小澤征爾(おざわせいじ)さんが「世界のオザワ」と呼ばれたように「世界のトリヤマ」と呼びたいほどの才能だった。
人気キャラクターの「アラレちゃん」が口にする独特の言葉で、かつて大流行した「アラレ語」を借りて、お別れを告げたい。
鳥山さん、バイちゃ!
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年03月12日 07:56:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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