2012年『エリザベート』‐強さを出そうと頑張っているどこか弱い、ルドルフと自分は何か近いものを持っていると思う‐大野拓朗さん
(2012年『オモシィ・マグ』創刊号より)
「-ルドルフ役に決まった日のブログを拝見して、喜びにあふれる様子が、ひしひしと伝わってきました。
本当にうれしかったです!『ロミオとジュリエット』のティボルトをやっている間に「ルドルフ、似合うんじゃない?」と言っていただく機会が増えて、そのうちにだんだん「僕がやるのかもしれない」「僕がやらないとダメだ」と思うようになって。今までの人生はなんとなく目の前にあるものをやってきたけれど、ルドルフは「これを逃したら、もうない」っていう気持ちまで昂っていったんです。目標に向かって、真剣に取り組んで、周りの人に支えていただいて・・・。今まで必死にやってたと思ったのはそうじゃなかったんだと思うくらい、必死でした。だから、ルドルフのオーディションが終わった後は自分が持っているものをすべて出せて、悔いがなかったんですね。マネージャーさんから「ルドルフに決まったよ」と言われたときは、大声で叫びましたもん。人前であんなに我を忘れて叫んだのは生まれて初めて。
-そして、ついにルドルフとして舞台で演じることになりました。舞台で意識したことは?
『ロミジュリ』で小池先生に厳しく鍛えていただいて、強くしていただいた部分が大きかったんです。今回はヘナチョコ元基じゃダメだと思うし、「こいつ、ちょっと変わったんじゃない?」と小池先生に思われるようにしたいと意識してました。『ロミジュリ』もルドルフも、自分にとっては自信につながった。何より「ダメかも」と思って逃げそうになったときも周りが僕を支えてくれたから。いつでも僕のことを見てくれている人がいることが自信になったんです。だから今は、どんな逆境が来ても怖くないと思ってます。
-ルドルフ役について、稽古が始まる前の時点で何か小池先生からお話がありましたか?
髪型とか見た目の話はしましたが、役の本質の話はしなかったんですよ。だから、稽古の最初に僕が作ってきたものを小池先生が見て「『ロミジュリ』のとき言ったことをちゃんとわかってるのか?」と試されていたのかもしれないですね。
-ルドルフをどう演じたいですか?
ルドルフって弱いとか儚い、切ないと見られがちじゃないですか。でも、歴史の本などを読むと、そうじゃない男らしい一面を持っていたんじゃないかと思ったんです。そう意識して『エリザベート』の台本を読むと、「弱さ」「儚さ」だけを前面に出すのはちょっと違うアプローチをした方がいいんじゃないかと思いました。ルドルフは皇太子として国を、ハプスブルクを守りたいという高い志を持っていた人。最初から失うかもしれないと思っていたわけではないと思うんです。彼の強さがいろいろなものに浸食されて、あの結末へとつながってしまう。その道筋が見えたらいいなと思いますね。
-ルドルフ役は出番も集中した、短い時間ですしね。
そうなんです。自分の気持ちが追いつかないまま曲だけが進んでいったらとても残念なことになってしまう。ハプスブルクを守っていくという気持ちと曲が重なって、一生を(出番の)20分で生きていけたらと思いますね。
-トリプルキャストは意識しますか?
『ロミジュリ』ではダブルキャストだったんですか、最初は意識してたんですけど、だんだん役に没頭して意識する暇がなくなってしまったんですね。今回もトリプルキャストを気にして「他の人とはここを変えよう」と思って作るより、ルドルフと向き合って自分と向き合っていた方が結果して三者三様のルドルフができるんじゃないかなと思います。
-ルドルフ役は若手俳優の登竜門といわれていますが。
歴代の先輩方が歩んできた道を自分も通って、そこで体感したことを自分に叩きこんで、きっと自分の人生の中でも忘れられない期間になると思うんですよね。自分が自分にもっと厳しくして、成長していくための登竜門であり関所なのかなと思ってますね。
-『エリザベート』という作品で魅力に思うところは?
客席の目の前にステージあるのに、手が届きうで届かない世界がある。手が出せない、触れられない、崇高な世界が出現するところが魅力かなと思いますね。」
-平方さんもその世界を形作る一員になったわけですね。
そう、あの世界に入ったときにどう感じるのかなって思ってました。稽古場は結構ざっくりしたセットで練習していたので、劇場であの美術セットの中に入って衣装を身につけたらどんな感情が湧き出るのかって。そのときに湧き出た感情を大切にしたいですね。宣伝写真を撮るときにルドルフの衣装は着たけれど、そのときは、まだ衣装を着る責任に着られてる感じがして、本番までには衣装と一体となってルドルフになれるようにと思ってましたし。そして、この世界観に飲み込まれないで、最後まで楽しんで演じられるようにしたいですね。
-最後にメッセージを。
今回は各役ダブルキャスト、トリプルキャストでなかなか同じキャステングの日がないんですよね。どの日を見るかによっていろんな感じ方をしてもらえると思うので、ぜひ何度も足をお運びいただければ平方ルドルフはうれしいなと思います。