アンダンテのだんだんと日記

ごたごたした生活の中から、ひとつずつ「いいこと」を探して、だんだんと優雅な生活を目指す日記

大ホール、空っぽの舞台の上で

2015年12月21日 | バイオリン
オペラシティコンサートホールは、広さもあるけれど高さがあって、教会のような厳粛な雰囲気のある大空間です。

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その舞台の上に、何にも乗っていないというのが新鮮でした。

オケのコンサートなら所狭しと椅子や譜面台、
ピアノのソロコンサートに行ったって、ピアノの一台は乗っているわけで…

それが、無伴奏バイオリンだけのコンサートだったら、確かに何もいらないんですね。

楽譜も乗らないような小さなスタンドだけ置いてあって、なんだろうと思ったら、ハンカチを乗せとく用でした。

千住真理子さんはアニバーサリーイヤーごとに、無伴奏イザイ全曲演奏会、無伴奏バッハ全曲演奏会を行うのだそうだ。誰かの音と力を合わせることができず、休む暇もまったくない、全曲暗譜で弾ききるコンサートは、弾くほうはもちろんものすごい緊張とストレスがかかっているだろうけど、聞くほうも単に楽しい~きれい~とかではなく、心して聞かなければいけないような気持ちになる。

「別に誰に頼まれた訳でもないのに、やらなければやらなくてもすむことであるのに、なぜ私はこんなことをすると決めたのだろう、と考える時がある。
分からないが、ここに志を置いてしまった。私の人生において、私は、自分が弾けなくなる寸前までこれをやる、と自分に約束してしまった。」(「ヴァイオリニストは音になる」千住真理子、時事通信社)

バッハの無伴奏バイオリン曲は、ソナタ三曲、パルティータ三曲。これを、昨日は1→2→3ではなく、1→3→2と演奏していた。もちろん、シャコンヌを最後に持ってくるためだろう。

大きな空間に、バイオリンひとつ、マイクもなしに、隅々のお客さんの心にきちんと届くように響いていて、バイオリンってこういうものだっけ?? と不思議に思うほどだった。

ストラディバリウスは、名器の中でも、特に遠くまでよく響く音が出せる楽器だと聞いたことがあるけど、じゃあたとえば同じ千住真理子さんの演奏で、300万くらいのいちおうちゃんとしたバイオリンを弾いてもらったら、この会場でどんなふうに聞こえるんだろうか。と興味本位で考えたりして。


一流のバイオリニストの中であえて優劣というのはまったく私にはわからないのだが、千住さんの演奏は、いつもYouTubeのお気に入りに入っていてよく聞いているヒラリー・ハーンのパルティータとはかなり印象の異なる演奏だと思う。

ヒラリー・ハーンの演奏は、クリアで完璧で、その鮮やかさはケチのつけようがなく、聞いていてとても気持ちがよい。

千住真理子さんの演奏は、聞いているともっと切なくて、苦しさとか、人生とか、いろんなものが混ざって耳ではなくもっと深いところに届くような感じがする。

曲自体の構造とか、なにか全体像がわかりやすいのはヒラリー・ハーンのほうだと思う。

一方、一音一音の音色そのものに、何かいっぱい詰まっているのは千住さんのほうだと思う。

昨日の曲目、6曲の中で、1曲(パルティータ第三番)のうちの、さらにごく短い部分(ブーレ、ジーグ)を私は先日、「無伴奏の会」で弾いたのだけれど(ぶっちゃけ同じ曲には聞こえないと思うが)、6曲全部のどこを探しても、そうやって「嘘でも弾いてみる」ことのできる部分はほかに存在しない。

「一生の憧れ」が、同じくパルティータ第三番の中のプレリュードといったところだけれど、全曲演奏を聞くと、そのパルティータ第三番が、プレリュードからジーグまで合わせても、快速で通過していく比較的軽い部分であることがわかる。

そして、ずっと気を張り詰めっぱなしの演奏会において、やや集中力が低下するのがその、一番易しい部分だったようで、ブーレではちょっとアレ? と思うところがあり、ジーグでは流れを乱す大ミスがあった。

けれど、15分休憩ののち、ソナタ第二番にさしかかるとこれがもう張り詰めた空気の中にドラマチックに展開する音楽で、ものすごい集中力。最後のシャコンヌまで迫力でつっぱしって万雷の拍手だった。

アンコールはなし。

確かに、何を付け加えても蛇足か? というような完璧な空間でした。

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コメント (2)
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