硝子製だから雛は孵らないよと父は言ったが、その偽卵はとても綺麗で、きっと見た事もないような雛が孵ると信じて毎日眺めていた。やがてある日の深夜、偽卵は淡い光を放ちながら割れ、中から出てきた見たこともない程に美し鳥は,翼を広げるとすぐ何処かに飛び去ってしまった。翌朝、偽卵が割れていたことで父に疑われたが、私は昨晩観たものも含めて何も言わなかった。
硝子製だから雛は孵らないよと父は言ったが、その偽卵はとても綺麗で、きっと見た事もないような雛が孵ると信じて毎日眺めていた。やがてある日の深夜、偽卵は淡い光を放ちながら割れ、中から出てきた見たこともない程に美し鳥は,翼を広げるとすぐ何処かに飛び去ってしまった。翌朝、偽卵が割れていたことで父に疑われたが、私は昨晩観たものも含めて何も言わなかった。
美しい花を若い女性の姿になぞらえた古い銅版画を見た娘が、このひと見た事あるよと私に言った。その辺にある子どもの絵本とは縁遠い絵柄をどこで見たのかと疑問に思って尋ねると、娘が自宅の庭で見たのは銅版画そのものではなく擬人化された花の女性が花弁のドレスを翻し、風と舞い踊っている姿だそうだ。
たかあきは『黒曜石』と『純度の高い夢結晶』を材料に『雨粒の妖精球』を錬成しました。用途は極秘事項です。
そろそろお前にも高純度結晶の錬成を教えてやろうと師匠は言い、高価な鉱石を惜しげもなく媒体に使った錬成手順を披露してくれた。ただしこれは下手に使うと習慣性が発生するから気をつけろと手渡してくれた妖精球の紡ぐあの二人の幻に案の定溺れかけた僕は、それでも何とか師匠の手助けで現実に戻って来る事が出来た。
そろそろお前にも高純度結晶の錬成を教えてやろうと師匠は言い、高価な鉱石を惜しげもなく媒体に使った錬成手順を披露してくれた。ただしこれは下手に使うと習慣性が発生するから気をつけろと手渡してくれた妖精球の紡ぐあの二人の幻に案の定溺れかけた僕は、それでも何とか師匠の手助けで現実に戻って来る事が出来た。
たかあきは『賢者の石』と『虹の破片』を材料に『天空の自動演奏楽器』を錬成しました。用途は戦闘用です。
師匠はたまに憂さ晴らしだと言って自作の楽器を演奏するが、その演奏は教会や音楽サロンに流れる曲とは似ても似つかぬ攻撃的なものだ。更に歌詞は異教の神を崇めるものだったり悪魔を賛美するものだったりと、一昔前なら確実に教会の異端審問に掛けられていたであろう危なっかしい内容なのだが、師匠の変人ぶりがあまたに知れ渡っているせいか問題になったことはない。そして、最初は騒音にしか聞こえないその演奏が聞き慣れると、例えば虹を砕いて飛散する光の破片の只中に立っているかのような魅力的なものに感じるのも、また事実なのだ。
師匠はたまに憂さ晴らしだと言って自作の楽器を演奏するが、その演奏は教会や音楽サロンに流れる曲とは似ても似つかぬ攻撃的なものだ。更に歌詞は異教の神を崇めるものだったり悪魔を賛美するものだったりと、一昔前なら確実に教会の異端審問に掛けられていたであろう危なっかしい内容なのだが、師匠の変人ぶりがあまたに知れ渡っているせいか問題になったことはない。そして、最初は騒音にしか聞こえないその演奏が聞き慣れると、例えば虹を砕いて飛散する光の破片の只中に立っているかのような魅力的なものに感じるのも、また事実なのだ。
たかあきは『チョーク』と『呪文を織り込んだレース編み』を材料に『悪魔の犬餅』を錬成しました。用途は極秘事項です。
いきなり現れた師匠に、オードリーに変なものを食わすな、もし枯れたらどうすると叱られた僕は、師匠に言われるまま菓子作りに戻った。だからその後、師匠と根切り屋の間にどのような話し合いが持たれたのかは知らないのだが、結局、根切り屋は植物採集販売業者として正式に師匠と取引をすることになったそうだ。
いきなり現れた師匠に、オードリーに変なものを食わすな、もし枯れたらどうすると叱られた僕は、師匠に言われるまま菓子作りに戻った。だからその後、師匠と根切り屋の間にどのような話し合いが持たれたのかは知らないのだが、結局、根切り屋は植物採集販売業者として正式に師匠と取引をすることになったそうだ。
親友だった神父様が僕に遺した七枚のカードには、僕たちだけに意味が通じる地図が記されていた。例えばフレンチバゲットが美味しい村のパン屋、翼を広げた天使を思わせる教会の大木、活字のように整然と花たちが並ぶ小学校の花壇。そんな道筋を辿った先で見つけたのは、いつの間にか僕の部屋に置かれていた神父様の祈祷書。でも、神父様が神父様であることを自ら辞めてしまった理由は今でもずっと謎のままだ。
昔、年老いた真珠採りが長年自分の生活を支えてくれた貝たちの恩に報いたいが、どうすれば良いだろうと司祭に尋ねると、真珠を生み出す貝がどれほど美しいかを知らしめればいいと答えが返ってきた。
そんなお話はどうだい?と洋行帰りの父が私に差し出してきたのは、真珠貝に緻密な星辰を刻んだ丸いお守りだった。
たかあきは『紫水晶』と『黒蒲公英』を材料に『果てしない発光桜』を錬成しました。用途は食用です。
怒りの収まらない絡繰り犬に追い回されている根切り屋が助けてくれと煩いので、僕は仕方なく絡繰り犬を宥める為、再び製菓作業に入ることにした。新しい材料が必要だったので師匠の温室に入ってマンネンザクラの輝く花弁を摘んでいると、いつの間にか温室に紛れ込んできていた根切り屋がこの花は何だ、アンタの師匠は何者だ、本当に人間なのかと失礼な事を言ってきたので、とりあえず食肉植物をけしかけてやった。
怒りの収まらない絡繰り犬に追い回されている根切り屋が助けてくれと煩いので、僕は仕方なく絡繰り犬を宥める為、再び製菓作業に入ることにした。新しい材料が必要だったので師匠の温室に入ってマンネンザクラの輝く花弁を摘んでいると、いつの間にか温室に紛れ込んできていた根切り屋がこの花は何だ、アンタの師匠は何者だ、本当に人間なのかと失礼な事を言ってきたので、とりあえず食肉植物をけしかけてやった。
たかあきは『瑠璃』と『絞りたて金山羊ミルク』を材料に『絡繰り仕掛けの犬餅』を錬成しました。用途は不明です。
一体何処から入ってきたんですかと尋ねる製菓中の僕に、根切り屋は必要とあれば何処からでもと答えてきた。とりあえず大詰めの作業工程では一切の無駄な動きが許されないので、仕方なく存在を無視して製菓作業を完了させるが、僕が焼窯から取り出した菓子を素早くつまみ食いした根切り屋は、普段なら不審者であろうとお客様大歓迎の態度を崩さないが、今回は待望のおやつを奪われて怒り心頭に達したらしい食い意地の張った絡繰り犬に容赦なく追い回されることになった。
一体何処から入ってきたんですかと尋ねる製菓中の僕に、根切り屋は必要とあれば何処からでもと答えてきた。とりあえず大詰めの作業工程では一切の無駄な動きが許されないので、仕方なく存在を無視して製菓作業を完了させるが、僕が焼窯から取り出した菓子を素早くつまみ食いした根切り屋は、普段なら不審者であろうとお客様大歓迎の態度を崩さないが、今回は待望のおやつを奪われて怒り心頭に達したらしい食い意地の張った絡繰り犬に容赦なく追い回されることになった。
自称芸術家の伯父は、たまに僕たち兄妹を変な遊びに付き合わせることがあって、その時は小さな頭蓋骨を見せながら庭で見つけた小人の骨だと言った。流石に僕は信じなかったが本気にした妹が可哀そうだからお葬式をしてあげようと言い出し、骨は立派な小箱に入れられ、摘んできた花と妹が歌う弔いの歌と共に庭の隅に埋められた。もう僕たちはあの家で暮らしてはいないが、今も骨はあの場所に埋まっているのだろうか。